説明

歯科用インプラントフィクスチャー

【課題】細菌が歯科用インプラントフィクスチャーの深部に侵入して細菌感染を起こすことで誘発される骨結合の破壊を防止する歯科用インプラントフィクスチャーを提供する。
【解決手段】口腔内側から雌ねじ部が螺設されており、その側周が口腔内側と反対側の端部に向かってテーパーする截頭円錐状本体に外径Dが等しくなるように埋入雄ねじ部1aが螺設されており、埋入雄ねじ部1aの口腔内側にカラー部1cが設けられており、カラー部1cと埋入雄ねじ部1aとの境界部から口腔内側と反対側に向かって埋入雄ねじ部1aの長さLの1/5から1/3の長さだけ延在し、その境界部の埋入雄ねじ部1aの外径Dと同一の外径から始まりその外径が截頭円錐状本体より小さなテーパーの截頭円錐状面上にあり且つ口腔内側と反対側においてねじ山が漸次低くなり消滅する1条以上の封鎖用雄ねじ部1bを埋入雄ねじ部1aと共に多条ねじ状に螺設させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠如歯部に歯科用補綴物を製作して失われた口腔機能を回復するための歯科用インプラント治療を行うに際し、欠如歯部の顎骨内に形成された埋入孔内に埋入される歯科用インプラントフィクスチャーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科補綴治療の一つとして、欠如歯部の顎骨内に生体親和性に優れたチタン又はチタン合金製の歯科用インプラントフィクスチャーを埋入し骨との直接的な結合(オッセオインテグレーション)を介して天然歯根の代用とする歯科用インプラント治療が普及し、単独歯に対してはクラウンとして、複数歯に対してはブリッジ又はオーバーデンチャーとして用いられ、失った歯の代替として長期間に亘って機能を果たすことが確認されている。
【0003】
この歯科用インプラント治療において、歯科用インプラントフィクスチャーとしては、外周に雄ねじ部を螺設することによって口腔内側に設けられているカラー部に続いて顎骨内に埋入した際の骨との良好な接合状態を確保し、欠如歯部の顎骨内に形成した埋入孔内に埋入される部分である口腔内側端面から口腔内側と反対側に1〜4mmを除くカラー部表面及び雄ねじ部の表面に粗面処理を施すことによって歯科用インプラントフィクスチャーの骨結合の強度を向上させると共に、口腔内側端面から口腔内側と反対側に1〜4mmに位置するカラー部の表面に非粗面処理部を設けることによって細菌が侵入した場合でも生息空間となる時期を遅らせるものがある(特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、カラー部の口腔内側端面から口腔内側と反対側に僅か1〜4mmの非粗面処理部を設けるだけでは、細菌が侵入した場合でも生息空間となる時期を遅らせることができるものの、カラー部と歯肉縁との間の隙間から侵入した細菌が歯科用インプラントフィクスチャーの深部へと侵入して細菌感染が起こることを完全に防止することができず、その結果骨結合が破壊されて歯科用インプラントフィクスチャーを抜去しなければならなくなる事態が生じる危険性があるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−321392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、口腔内に常在する細菌が歯科用インプラントフィクスチャーの深部に侵入して細菌感染を起こすことによって誘発される骨結合の破壊を防止する歯科用インプラントフィクスチャーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、骨結合の破壊はカラー部と歯肉縁との間の隙間から侵入した細菌が歯科用インプラントフィクスチャーの深部に侵入して細菌感染を起こすことによって誘発されることに着目して、口腔内側から中心軸に沿って雌ねじ部が螺設されており、その側周が口腔内側と反対側の端部に向かって直径が小さくなるテーパー状の截頭円錐状本体に外径が等しくなるように螺設されている埋入雄ねじ部と、その埋入雄ねじ部の口腔内側に設けられているカラー部とから成る歯科用インプラントフィクスチャーを、前記カラー部と前記埋入雄ねじ部との境界部から口腔内側と反対側の端部に向かって埋入雄ねじ部の長さの1/5から1/3の長さだけ延在しており、その境界部の前記埋入雄ねじ部の外径と同一の外径から始まってその外径が前記截頭円錐状本体のテーパーより小さなテーパーの截頭円錐状面上にあり且つ口腔内側と反対側においてねじ山の高さが漸次低くなって消滅する1条以上の封鎖用雄ねじ部を前記埋入雄ねじ部と共に多条ねじ状に螺設した構成にすれば、カラー部と歯肉縁との間の隙間からの細菌の侵入が埋入雄ねじ部だけではなく封鎖用雄ねじ部においても抑止されるので、細菌が歯科用インプラントフィクスチャーの深部へと侵入して細菌感染を起こすことなく、骨結合が破壊されて歯科用インプラントフィクスチャーを抜去しなければならない事態を招くことがないことを究明して本発明を完成したのである。
【0008】
即ち本発明は、口腔内側から中心軸に沿って雌ねじ部が螺設されており、その側周が口腔内側と反対側の端部に向かって直径が小さくなるテーパー状の截頭円錐状本体に外径が等しくなるように螺設されている埋入雄ねじ部と、埋入雄ねじ部の口腔内側に設けられているカラー部とから成る歯科用インプラントフィクスチャーにおいて、前記カラー部と前記埋入雄ねじ部との境界部から口腔内側と反対側の端部に向かって埋入雄ねじ部の長さの1/5から1/3の長さだけ延在する、該境界部の前記埋入雄ねじ部の外径と同一の外径から始まってその外径が前記截頭円錐状本体のテーパーより小さなテーパーの截頭円錐状面上にあり且つ口腔内側と反対側においてねじ山の高さが漸次低くなって消滅する1条以上の封鎖用雄ねじ部が、前記埋入雄ねじ部と共に多条ねじ状に螺設されていることを特徴とする歯科用インプラントフィクスチャーである。
【0009】
そして、このような歯科用インプラントフィクスチャーとしては、埋入雄ねじ部及び封鎖用雄ねじ部の表面とカラー部の側面とが粗面処理されていると骨との接触面積を大きくすることができて好ましく、また埋入雄ねじ部の下端から口腔内側に向けてセルフタップ機能を有する切り刃部が設けられていると埋入と同時に顎骨に雌ねじの形成を行うことができるので埋入が正確となり且つ作業の簡素化にもなるので好ましく、更に埋入雄ねじ部が角ねじ状であると埋入後の固定性が向上して好ましいのである。
【0010】
また、雌ねじ部の口腔内側が口腔内側に行くに従って拡径された截頭円錐形の凹部を有していると歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に固定されるアバットメントとの嵌合を確実且つ強固にすることができて好ましく、更に雌ねじ部の口腔内側が凹部と雌ねじ部との間に回転防止部分を有していると歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に固定されるアバットメントを回転しない状態で確実に位置固定させることができて好ましいのである。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明に係る歯科用インプラントフィクスチャーは、口腔内側から中心軸に沿って雌ねじ部が螺設されており、その側周が口腔内側と反対側の端部に向かって直径が小さくなるテーパー状の截頭円錐状本体に外径が等しくなるように螺設されている埋入雄ねじ部と、その埋入雄ねじ部の口腔内側に設けられているカラー部とから成る歯科用インプラントフィクスチャーに、前記カラー部と前記埋入雄ねじ部との境界部から口腔内側と反対側の端部に向かって埋入雄ねじ部の長さの1/5から1/3の長さだけ延在しており、その境界部の埋入雄ねじ部の外径と同一の外径から始まってその外径が前記截頭円錐状本体のテーパーより小さなテーパーの截頭円錐状面上にあり且つ口腔内側と反対側においてねじ山の高さが漸次低くなって消滅する1条以上の封鎖用雄ねじ部が前記埋入雄ねじ部と共に多条ねじ状に螺設されているので、カラー部と歯肉縁との間の隙間から侵入した細菌が埋入雄ねじ部及び封鎖用雄ねじ部で抑止されることにより歯科用インプラントフィクスチャーの深部へと侵入して細菌感染を起こすことなく、骨結合が破壊されて歯科用インプラントフィクスチャーを抜去しなければならない事態を招くことがないのである。
【0012】
そして、このような歯科用インプラントフィクスチャーにおいて、埋入雄ねじ部及び封鎖用雄ねじ部の表面とカラー部の側面とが粗面処理されていると骨との接触面積が大きくなり骨結合を強化することができて好ましく、また埋入雄ねじ部の下端から口腔内側に向けてセルフタップ機能を有する切り刃部が設けられていると埋入と同時に顎骨に雌ねじの形成を行うので埋入が正確となり且つ作業の簡素化にもなるので好ましく、更に埋入雄ねじ部が角ねじ状であると埋入後の固定性が向上して好ましいのである。
【0013】
また、雌ねじ部の口腔内側が口腔内側に行くに従って拡径された截頭円錐形の凹部を有していると歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に固定されるアバットメントとの嵌合を確実且つ強固にすることができて好ましく、更には雌ねじ部の口腔内側が凹部と雌ねじ部との間に回転防止部分を有していると歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に固定されるアバットメントを回転しない状態で確実に位置固定させることができて精度の高い歯科用補綴物の作製が可能となることができて好ましいのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る歯科用インプラントフィクスチャーの一実施例を示す正面図である。
【図2】図1に示した本発明に係る歯科用インプラントフィクスチャーの縦断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面中、1は本発明に係る歯科用インプラントフィクスチャーであり、生体親和性と強度とを備えると共に骨との結合を良好にするべく従来の歯科用インプラントフィクスチャーと同様にチタン又はチタン合金から作製されている。
【0016】
この歯科用インプラントフィクスチャー1は、アバットメント(図示せず)と連結固定するスクリュー(図示せず)を螺着するために口腔内側から中心軸に沿って雌ねじ部1dが螺設されており、欠如歯部の顎骨内に形成された埋入孔への埋入を容易にするためにその側周には口腔内側と反対側の端部に向かって直径が小さくなるテーパー状の截頭円錐状本体に外径Dが等しくなるように埋入雄ねじ部1aが螺設されており、その埋入雄ねじ部1aの口腔内側には歯肉縁と当接するカラー部1cが設けられている。
【0017】
そして、カラー部1cと埋入雄ねじ部1aとの境界部から口腔内側と反対側の端部に向かって埋入雄ねじ部1aの長さLの1/5から1/3の長さだけ延在しており、その境界部の埋入雄ねじ部1aの外径Dと同一の外径から始まってその外径が歯科用インプラントフィクスチャー1の截頭円錐状本体のテーパーより小さなテーパーの截頭円錐状面上にあり且つ口腔内側と反対側においてねじ山の高さが漸次低くなって消滅する1条以上の封鎖用雄ねじ部1bが埋入雄ねじ部1aと共に多条ねじ状に螺設されている。かかる構成にすれば、埋入雄ねじ部1aのねじ溝部に設けられている1条以上の封鎖用雄ねじ部1bは欠如歯部の顎骨内に形成された埋入孔へ埋入された際にその全体が骨と接触した状態となるので、この部分において骨と歯科用インプラントフィクスチャー1との隙間が殆ど生じないと共に口腔内側から歯科用インプラントフィクスチャー1の深部に到る経路が著しく長くなるから、細菌が歯科用インプラントフィクスチャー1の深部へと侵入することは抑止されるのである。即ち、従来の歯科用インプラントフィクスチャー1では細菌の奥部への侵入をその側周に設けられた雄ねじ部のみで抑止していたのに対して、本発明に係る歯科用インプラントフィクスチャー1では埋入雄ねじ部1aと欠如歯部の顎骨内に形成された埋入孔へ埋入された際にその全体が骨と接触した状態となる封鎖用雄ねじ部1bとで細菌の奥部への侵入を防止しているので、細菌が歯科用インプラントフィクスチャー1の奥部に侵入して細菌感染を起こし骨を破壊することによって歯科用インプラントフィクスチャー1を除去しなければならなくなる事態は避けられるのである。また、封鎖用雄ねじ部1bがその口腔内側と反対側においてねじ山の高さが漸次低くなって消滅する構成であるので、歯科用インプラントフィクスチャー1の埋入作業時において大きな抵抗が生じてしまうこともないのである。更に、封鎖用雄ねじ部1bの長さが埋入雄ねじ部1aの長さLの1/5未満の長さであると細菌の歯科用インプラントフィクスチャー1の奥部への侵入を十分に防止できず、また1/3より大きい長さであると歯科用インプラントフィクスチャー1の埋入作業において大きな抵抗が生じて不具合が生じてしまうおそれがあるので、封鎖用雄ねじ部1bの長さは埋入雄ねじ部1aの長さLの1/5から1/3の範囲内の長さである必要があるのである。
【0018】
このような本発明に係る歯科用インプラントフィクスチャー1は、埋入雄ねじ部1a及び封鎖用雄ねじ部1bの表面とカラー部1cの側面とが粗面処理されていると骨との接触面積が大きくなり骨結合を強化することができて好ましく、また口腔内側と反対側の端部に切り刃部1eを設けてセルフタッピング式とすると、埋入と同時に顎骨に雌ねじの形成を行うことができるので埋入が正確となり且つタッピング工具によるねじ溝を形成する必要がないので術式が簡便となるので好ましく、更に埋入雄ねじ部1aが角ねじ状であると埋入後の固定性が向上して好ましいのである。
【0019】
また、雌ねじ部1dの口腔内側が口腔内側に行くに従って拡径された截頭円錐形の凹部1gを有していると歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側に固定されるアバットメントとの嵌合を確実且つ強固にすることができて好ましく、更には雌ねじ部1dの口腔内側が凹部1gと雌ねじ部1dとの間に回転防止部分1fを有していると歯科用インプラントフィクスチャー1の口腔内側に固定されるアバットメントを回転しない状態で確実に位置固定されることができて精度の高い歯科用補綴物の作製が可能となるので好ましいのである。
【符号の説明】
【0020】
1 本発明に係る歯科用インプラントフィクスチャー
1a 埋入雄ねじ部
1b 封鎖用雄ねじ部
1c カラー部
1d 雌ねじ部
1e 切り刃部
1f 回転防止部分
1g 截頭円錐形の凹部
D 埋入雄ねじ部の外径
L 埋入雄ねじ部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内側から中心軸に沿って雌ねじ部(1d)が螺設されており、その側周が口腔内側と反対側の端部に向かって直径が小さくなるテーパー状の截頭円錐状本体に外径(D)が等しくなるように螺設されている埋入雄ねじ部(1a)と、該埋入雄ねじ部(1a)の口腔内側に設けられているカラー部(1c)とから成る歯科用インプラントフィクスチャーにおいて、
前記カラー部(1c)と前記埋入雄ねじ部(1a)との境界部から口腔内側と反対側の端部に向かって埋入雄ねじ部(1a)の長さ(L)の1/5から1/3の長さだけ延在する、該境界部の前記埋入雄ねじ部(1a)の外径(D)と同一の外径から始まってその外径が前記截頭円錐状本体のテーパーより小さなテーパーの截頭円錐状面上にあり且つ口腔内側と反対側においてねじ山の高さが漸次低くなって消滅する1条以上の封鎖用雄ねじ部(1b)が、前記埋入雄ねじ部(1a)と共に多条ねじ状に螺設されていることを特徴とする歯科用インプラントフィクスチャー。
【請求項2】
埋入雄ねじ部(1a)及び封鎖用雄ねじ部(1b)の表面とカラー部(1c)の側面とが粗面処理されている請求項1に記載の歯科用インプラントフィクスチャー。
【請求項3】
埋入雄ねじ部(1a)の下端から口腔内側に向けてセルフタップ機能を有する切り刃部(1e)が設けられている請求項1又は2に記載の歯科用インプラントフィクスチャー。
【請求項4】
埋入雄ねじ部(1a)が角ねじ状である請求項1〜3に記載の歯科用インプラントフィクスチャー。
【請求項5】
雌ねじ部(1d)の口腔内側が、口腔内側に行くに従って拡径された截頭円錐形の凹部(1g)を有している請求項1〜4に記載の歯科用インプラントフィクスチャー。
【請求項6】
雌ねじ部(1d)の口腔内側が、凹部(1g)と雌ねじ部(1d)との間に回転防止部分(1f)を有している請求項5に記載の歯科用インプラントフィクスチャー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−188062(P2010−188062A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38166(P2009−38166)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】