説明

歯科矯正用器具作製治具及び歯科矯正用器具作製方法

【課題】ブラケットの位置決め作業を容易かつ正確に行うことのできる技術を提供する。
【解決手段】歯科矯正用器具作製治具10は、患者の歯型に倣って形成されたオリジナル歯型模型に基づいて、目標とする理想的な歯並びに配列し直した状態に作製されたセットアップ歯型模型11に、アイディアルアーチワイヤやその素材である歯科矯正用ワイヤ20の一部を保持するためのワイヤ保持手段として、複数のワイヤ係止具12,13が設けられている。ワイヤ係止具12,13はいずれも、歯型模型11の歯列部11aの舌側部分に配置され、二つのワイヤ係止具12は奥歯近傍の歯頸部11bに取り付けられ、二つのワイヤ係止具13は前歯寄りの歯頸部11bに取り付けられている。ワイヤ係止具12の頭部12aの係止溝12dにはワイヤの端部が嵌入・離脱可能であり、ワイヤ係止具13の頭部12aの係止溝13dにはワイヤの一部が嵌入・離脱可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯列を矯正するために患者の口腔内に装着される歯科矯正用器具を作製する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
患者の歯列を矯正する歯科治療技術の一つとして、アイディアルアーチワイヤやブラケットなどの歯科矯正用器具を歯の裏側に装着して治療を行う舌側矯正が知られている。この舌側矯正において使用される歯科矯正用器具は、個々の患者の歯型に対応した適切な形態にする必要がある。このため、従来の歯科矯正用器具の作製工程においては、患者の口腔内の歯型に倣って形成されたオリジナル歯型模型に基づいて、目標とする理想的な歯並びに配列し直したセットアップ歯型模型を作製し、このセットアップ歯型模型を使用して、アイディアルアーチワイヤの作製及びブラケットの位置決めなどが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載されているように、従来の歯科矯正用器具の作製工程においては、セットアップ歯型模型の歯の舌側面に合わせて、歯科矯正用のワイヤ材を屈曲させてアイディアルアーチワイヤを作製し、このアイディアルアーチワイヤに、各歯に対応するブラケットを取り付けるという手法がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−99161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1などに記載されているように、セットアップ歯型模型に対するブラケットの位置決めは、セットアップ歯型模型の歯列に沿うようにアイディアルアーチワイヤを支えながら行われているため、正確な位置決めを行うのは容易ではなく、位置決め作業には多大な時間と労力を要しており、作業者の肉体的負担も大である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、セットアップ歯型模型に対するブラケットなどの歯科矯正用器具の位置決め作業を容易かつ正確に行うことができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の歯科矯正用器具作製治具は、患者の歯型に基づいて作製されたセットアップ歯型模型に、歯科矯正用ワイヤの少なくとも一部を保持するためのワイヤ保持手段を設けたことを特徴とする。このような構成とすれば、歯科矯正用ワイヤをセットアップ歯型模型のワイヤ保持手段に保持しながら作業を行うことが可能となるので、セットアップ歯型模型に対するブラケットなどの歯科矯正用器具の位置決め作業を容易かつ正確に行うことができる。
【0008】
ここで、前記ワイヤ保持手段として、前記歯科矯正用ワイヤが着脱可能な係止部を有する係止具を前記歯型模型の一部に取り付けることが望ましい。このような構成とすれば、ワイヤ保持手段である係止具の係止部に対し、必要に応じて、歯科矯正用ワイヤを着脱しながら作業を行うことが可能となるので、作業性向上に有効である。
【0009】
この場合、前記係止部として、前記歯科矯正用ワイヤが嵌入・離脱可能な係止溝を設けることが望ましい。このような構成とすれば、歯科矯正用ワイヤを係止溝に嵌入させることにより、確実に保持することができ、歯科矯正用ワイヤの着脱性を失うこともない。
【0010】
一方、本発明の歯科矯正用器具作製方法は、患者の歯型に基づいて作製されたセットアップ歯型模型に設けられたワイヤ保持手段に、歯科矯正用ワイヤの少なくとも一部を保持した状態で、患者の歯と歯科矯正用ワイヤとの間に介在させる歯科矯正用器具のポジショニングを行うことを特徴とする。このような構成とすれば、セットアップ歯型模型に対するブラケットなどの歯科矯正用器具の位置決め作業を容易かつ正確に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、セットアップ歯型模型に対するブラケットなどの歯科矯正用器具の位置決め作業を容易かつ正確に行うことができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態である歯科矯正用器具作製治具を示す斜視図である。
【図2】図1に示す歯科矯正用器具作製治具を構成する係止具の斜視図である。
【図3】図1に示す歯科矯正用器具作製治具を構成する係止具の斜視図である。
【図4】図1に示す歯科矯正用器具作製治具の使用状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1〜図4を参照しながら、本発明の実施形態である歯科矯正用器具作製治具10について説明する。図1に示すように、歯科矯正用器具作製治具10は、患者の歯型に倣って形成されたオリジナル歯型模型(図示せず)に基づいて、目標とする理想的な歯並びに配列し直した状態に作製されたセットアップ歯型模型11に、アイディアルアーチワイヤ21(図4参照)の素材である歯科矯正用ワイヤ20の一部を保持するためのワイヤ保持手段として、複数のワイヤ係止具12,13が設けられている。複数のワイヤ係止具12,13はいずれも、歯型模型11の歯列部11aの舌側部分に配置され、二つのワイヤ係止具12は奥歯近傍の歯頸部11bに取り付けられ、二つのワイヤ係止具13は前歯寄りの歯頸部11bに取り付けられている。
【0014】
図2,図3に示すように、ワイヤ係止具12,13はそれぞれ、短円柱状の頭部12a,13aと、頭部12a,13aより外径が小さい円柱状の軸部12b,13bと、軸部12b,13bの外径と略同じ外径を有する複数の球状部12c,13cと、を備えている。頭部12a,13aと軸部12b,13bとはそれぞれ同軸をなすように一体的に形成され、複数の球状部12c,13cはそれぞれ軸部12b,13bの下端寄りの外周に180度間隔で一体的に形成されている。
【0015】
ワイヤ係止具12の頭部12aの上面側には、その半径方向に開口した係止溝12dが設けられ、ワイヤ係止具13の頭部13aの上面側には、その直径方向に開口した係止溝13dが設けられている。ワイヤ係止具12の係止溝12dは、軸部12bの軸心12eの位置で閉塞された状態に形成され、ワイヤ係止具13の係止溝13dは、軸部13bの軸心13eと交差する方向に連続した状態に形成されている。
【0016】
図1に示すように、ワイヤ係止具12,13はそれぞれの軸部12b,13b及び球状部12c,13cを歯型模型11の歯頸部11b中に埋設した状態で固定されている。ワイヤ係止具12,13の軸部12b,13bの外周にそれぞれ一体的に形成されている球状部12c,13cは、外力が加わったときにワイヤ係止具12,13が傾いたり、回転したり、歯頸部11bから離脱したりするのを防止するアンカ機能を有する。
【0017】
図1、図4に示すように、ワイヤ係止具12の頭部12aの係止溝12dには歯科矯正用ワイヤ20(若しくはアイディアルアーチワイヤ21)の端部が嵌入・離脱可能であり、ワイヤ係止具13の頭部13aの係止溝13dにはアイディアルアーチワイヤ21(若しくはアイディアルアーチワイヤ21)の一部(端部以外の部分)が嵌入・離脱可能である。
【0018】
次に、図4を参照し、歯科矯正用器具作製治具10の使い方について説明する。図4に示すように、歯科矯正用器具作製治具10を構成する歯型模型11の歯列部11の舌側に配置された複数のワイヤ係止具12,13の頭部12a,13aの係止溝12d,13d内に、歯科矯正ワイヤ20を屈曲させて作製したアイディアルアーチワイヤ21の一部を嵌入させることによって固定する。この場合、アイディアルアーチワイヤ21の両端部はそれぞれ二つのワイヤ係止具12の係止溝12d内に嵌入され、アイディアルアーチワイヤ21の屈曲部分に近い二つの箇所がそれぞれ二つのワイヤ係止具13の係止溝13d内に嵌入される。
【0019】
図4に示すようにセットすると、アイディアルアーチワイヤ21は歯型模型11に対し一定姿勢で保持されるため、この状態で、患者の歯とアイディアルアーチワイヤ21との間に介在させるブラケット(図示せず)のポジショニング(位置合わせ作業)を行うことができる。位置合わせ作業中、アイディアルアーチワイヤ21は簡単に動かないように保持されるため、セットアップ歯型模型11に対するブラケットの位置決め作業を容易かつ正確に行うことができ、作業者の肉体的負担も軽減することができる。
【0020】
アイディアルアーチワイヤ21は、歯型模型11のワイヤ係止具12,13の係止溝12d,13dに嵌入・離脱可能であるため、使用しないときは、アイディアルアーチワイヤ21を歯型模型11から取り外して収納しておくことができる。また、再度、ブラケットの位置合わせ作業が必要となったときなどは、アイディアルアーチワイヤ21をワイヤ係止具12,13の係止溝12d,13dに嵌入させることにより、歯型模型11に対する正確な位置にアイディアルアーチワイヤ21を再セットすることができ、この後に行われる再度のブラケットの位置合わせ作業も容易かつ正確に行うことができる。
【0021】
その他、図1に示す歯科矯正用器具作製治具10の優れている点は以下の通りである。
(1)カリエス処置後のSET−UPの差し替えや、トルクの変更もアイディアルアーチワイヤ21をセットした状態で行うことができるので、SET−UP模型を調整し易い。
(2)アイディアルアーチワイヤ21をセットした状態で咬合を確認することができる。
(3)アイディアルアーチワイヤ21の固定部分を全て歯頸部にもってきているため、歯牙を覆って形成されるレジンベースの面積を確保することができ、安定したコアを作製することができる。
(4)チューブブラケットにも対応できる。
(5)カスタムワイヤを準備し易く、ワイヤベンディングが見易い。
(6)作製されたアイディアルアーチワイヤ21は、フィニッシングワイヤとしても利用することが可能である。
(7)アイディアルアーチワイヤ21を左右後方部分に固定するため、アイディアルアーチワイヤ21の左右のズレが生じない。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の歯科矯正用器具作製治具及び歯科矯正用器具作製方法は、歯列を矯正するために患者の口腔内に装着される歯科矯正用器具を作る技術として、歯科矯正分野において、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0023】
10 歯科矯正用器具作製治具
11 セットアップ歯型模型
11a 歯列部
11b 歯頸部
12,13 ワイヤ係止具
12a,13a 頭部
12b,13b 軸部
12c,13c 球状部
12d,13d 係止溝
12e,13e 軸心
20 歯科矯正用ワイヤ
21 アイディアルアーチワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯型に基づいて作製されたセットアップ歯型模型に、歯科矯正用ワイヤの少なくとも一部を保持するためのワイヤ保持手段を設けたことを特徴とする歯科矯正用器具作製治具。
【請求項2】
前記ワイヤ保持手段として、前記歯科矯正用ワイヤが着脱可能な係止部を有するワイヤ係止具を前記セットアップ歯型模型の一部に取り付けた請求項1記載の歯科矯正用器具作製治具。
【請求項3】
前記係止部として、前記歯科矯正用ワイヤが嵌入・離脱可能な係止溝を設けた請求項2記載の歯科矯正用器具作製治具。
【請求項4】
患者の歯型に基づいて作製されたセットアップ歯型模型に設けられたワイヤ保持手段に、歯科矯正用ワイヤの少なくとも一部を保持した状態で、患者の歯と歯科矯正用ワイヤとの間に介在させる歯科矯正用器具の位置合わせを行うことを特徴とする歯科矯正用器具作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−210350(P2012−210350A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77865(P2011−77865)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(511082539)
【Fターム(参考)】