説明

歯科矯正要素を製造する方法

本発明は、セラミック本体を有する矯正要素を製造する方法に関する。本体は、要素を歯に取り付けるための基礎表面を備える。方法をさらに発展させて、本体が強い接着力で歯に取り付けられ、かつ顎矯正治療が完了した後歯から容易に取り外せるようにするために、本発明は、レーザービームを基礎表面上の衝突エリアにおいて案内し、衝突エリアにおいて基礎表面をレーザービームによって局部的に表面的に加熱して、クラック形成によって極微粒子を基礎表面から離脱させることを提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック本体を持つ歯科矯正要素を製造する方法に関する。セラミック本体は、矯正要素を歯に固定するための基礎表面を有する。
【背景技術】
【0002】
歯科矯正要素は、例えば、不完全な歯並びを修正する矯正治療の過程で使用でき、例えばブラケット、または頬側または舌側チューブの形で構成できる。不完全な歯並びを修正する際、矯正要素を歯に締結する。本体は、受容部例えば溝または円筒形の開口を持つことができ、弾性アーチワイヤが受容部の中へ導入される。その後、方向付けの力をアーチワイヤによって歯に与えて、顎上での歯の位置を変えることができる。歯に矯正要素を固定する際、接着剤が使用され、接着剤の助けにより、矯正要素を一時的に歯のエナメル質に締結できる。一方で、これによって、適切な安定した締結が得られて、所望の方向付けの力を歯に加えることができる。他方で、治療終了後、歯のエナメル質をできる限り傷つけることなく矯正要素を歯から取り外せるようにしなければならない。
【0003】
矯正要素と接着剤との間及び接着剤と歯との間の接合は、化学的接合によってまたは付着によって得ることができ、機械的相互ロックによって得ることもできる。金属性本体を持つ矯正要素の場合、基礎表面に多数の刻み目及び(または)隆起を有する保持構造を与えると有利であることが証明されている。これによって、相互に接着するパーツの表面積が増大し、それによって接着結合が改良される。保持構造は、例えば、独国公開特許第3519215(A1)号に記載されるように網状の構成を持つことができる。
【0004】
金属性本体及び概して溶融する可能性のある材料から作られる本体の場合、欧州特許第081877(B1)号から、レーザービームによって基礎表面を溶融して、多数の刻み目及び不規則な隆起を生成することが知られている。これによってアンダーカットを形成し、それによって、接着剤が矯正要素と相互ロックできるようにする。このタイプの本体は、弾性でかつ(または)塑性変形可能である。
【0005】
セラミック本体、特に焼結セラミック本体は、実用上は、弾性または塑性変形性を持たない。むしろ、非常に高い脆さ及び非常に高い溶融温度を有する。従って、この種の本体は、レーザービームによって表面を溶融できない。溶融時には、本体を破壊する実際的危険が存在する。それでもセラミック本体と歯のエナメル質との間の接合を改良するために、米国特許第5197873号において、多数の非常に小さい粒子を本体の基礎表面上で焼結することが提案される。その結果、接着剤と協働する主体の表面積は増大し、さらに、接着剤と本体との間の機械的接合を強化するアンダーカットが与えられる。米国特許第5110290号は、セラミック本体にプラスチック材のネットを貼り付けることを提案する。これも、表面積の増大を可能にし、従って、接着剤と本体との間のより強い接続力を可能にする。しかし、プラスチック材のネットの貼付けと同様、小さい粒子の焼結は、セラミック本体の材料が本来持つ非常に優れた生体適合性を損なう、という欠点を有する。
【0006】
また、接着剤と酸化アルミニウムから製造された本体との間の接合を、シラン層を塗布することによって改良することが提案された。シラン層は、接着剤と本体との間に強力な化学的接続をもたらす。しかし、矯正治療の終了時に矯正要素が歯から取り外されるとき歯のエナメル質を傷つける危険がある。さらに、シラン層は、耐久性が限られており、接着強度の値が非常に変動する。さらに、シラン層の塗布にはかなりのコストが伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、矯正要素を製造する上記のタイプの方法を提供することであり、製造された要素の本体は、一方で高い接着力で歯に締結でき、他方で矯正治療の終了時に容易に歯から分離できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、導入部において言及したタイプの方法において本発明に従って達成される。この方法において、レーザービームは、衝突エリアにおいて基礎表面に沿って案内され、基礎表面は、衝突エリアにおいてレーザービームによって局部的に表面的に加熱されて、極微粒子は、クラック形成によって基礎表面から離脱する。
【0009】
本発明は、また、基礎表面が相互に斜めを向く多数の破面を持つ粗面構造を有する場合、本体の基礎表面と接着剤との間の相互作用を相当に増大し、それによって、接着力を改良できると言う着想を含む。多様な方向を向く極微破面は、大幅な表面積増大をもたらす。破面は、衝突エリアにおいて基礎表面にレーザービームを局部的に衝突させることによって生成され、基礎表面は表面的に加熱される。その結果、基礎表面は溶融することなく、表面に近い領域において本体の脆い材料にクラックが誘発される。熱応力は、本体の表面に近い領域に生じるので、破面が生じて、極微粒子が減法的に除去される。その結果、相互に斜めを向く多数の極微破面が形成されて、本体の表面積を実質的に増大し、治療対称の歯に対する本体の接着強度の改良に導く。表面に近い領域は、0.2mm未満の深さ、好ましくは0.1mm未満の深さに延在する。
【0010】
相互に斜めを向く極微破面は、レーザービームによって基礎表面を局部的に表面加熱することによって容易に与えることができ、矯正要素と歯との間の高い接着力を可能にすることが明らかになっている。矯正要素は、矯正治療終了時に大きな支障なく歯から取り外せる。矯正要素を取り外す際、歯のエナメル質を損傷する危険は小さい。
【0011】
レーザービームによる表面クラック形成によって生成された破面は、最大範囲50μm、特に20μm未満であることが好ましい。従って、セラミック本体の基礎表面は、相互に斜めを向く多数の比較的小さい破面を有する。いずれの場合も、相互に異なる角度で傾斜する破面が小さければ小さいほど、セラミック本体と接着剤との間の相互作用のために利用できる全体的表面積は大きい。
【0012】
レーザービームによる表面加熱によって生成された破面は、少なくとも部分的にフラットであることが好ましい。
【0013】
基礎表面に沿ってレーザービームを案内することによって、基礎表面のエリアは溶融温度未満の温度に加熱される。その結果、熱応力が誘発され、それによってクラック形成が生じて、極微粒子は基礎表面から離脱する。従って、基礎表面は、相互に斜めを向く多数の破面を示し、従って、大きな表面積を有し、大きな接着強度が得られる。破面は、また、アンダーカットを形成することができ、基礎表面と接着剤の相互ロックを可能にする。
【0014】
レーザーに誘発されて極微粒子が離脱し、それによって基礎表面に破面構造が形成されることによって、シラン処理の基礎表面の場合よりかなり小さい変動の接着強度値が、主体と接着剤の接合に得られる。許容できないほど高い接着強度値を回避でき、これによって、矯正治療終了時に歯から矯正要素を取り外す際に歯のエナメル質を損傷する危険が減少する。
【0015】
衝突エリア(この中において、局部的に基礎表面を表面的に加熱して、クラック形成によって相互に斜めを向く多数の極微破面を生成するために、レーザービームが基礎表面に沿って案内される)は、基礎表面全体に延在できる。しかし、衝突エリアを基礎表面の部分的エリアにのみ延在させることもできる。レーザーの衝突によってこの部分的エリアに粗面構造が形成され、衝突エリア外部の基礎表面はそのまま粗面化されることなく残る。
【0016】
衝突エリアの範囲が基礎表面の部分的エリアのみに延在することによって、衝突エリア外の基礎表面に、歯のタイプに対する矯正要素の割り当てに関するマーキングを与えることができる。マーキングは、歯科矯正医が、特定の歯のタイプに矯正要素を割り当てる際の助けとなる。例えば、FDIの制度すなわち国際歯科連盟の識別制度に従った数値略字の形式で歯の指定マーキングとして使用できる。マーキングは、レーザー衝突によって生成された粗面構造外部の方が良く見える。
【0017】
例えば、衝突エリアのエッジはマーキングを形成できる。このような構成においては、衝突エリアは、実質的に、マーキングのネガである。言い換えると、衝突エリア外部の基礎表面のエリアは、追加の処理ステップの必要なく、すでに、マーキングを形成する。
【0018】
または、マーキングが衝突エリア外部の基礎表面のエリアを部分的に被覆することが可能である。このような構成においては、マーキングは、衝突エリア外部の基礎表面のエリアに配置される。
【0019】
マーキングは、粗面構造外部の基礎表面を物理的、化学的または機械的な加法的及び(または)減法的処理によって生成できる。
【0020】
特に、マーキングがレーザービームによって生成されると有利である。このために、少なくとも粗面構造が配置される衝突エリア外部の基礎表面の一部でレーザービームを連続的に動かすと有利である。
【0021】
マーキングを生成するために有利に使用されるレーザービームは、衝突エリア内の極微破面を生成するために使用されるレーザービームより小さいエネルギー密度を持つことが好ましい。
【0022】
レーザービームは、衝突エリアにおいて基礎表面に沿って段階的に案内されることが好ましい。この場合、衝突エリアにおける基礎表面の照射は、順次的に行われ、各々の場合に、基礎表面の暴露ゾーンにレーザー照射が当てられる。個々の暴露ゾーンは重なり合うことができる。本体は、暴露ゾーンにおいてレーザー照射を吸収する。これによって、熱応力を受けるエリアを局部的に限定できる。熱応力は、本体の脆い材料において、クラック及び極微粒子の離脱を引き起こす。
【0023】
衝突エリアにおいて基礎表面がレーザービームによって点において加熱されると有利である。個々の暴露ゾーン(本体がレーザー照射を吸収する場所)は、この場合、非常に小さい範囲例えば1mm未満特に0.5mm未満、好ましくは最大0.1mmの範囲である。暴露ゾーンは非常に小さく実質的に点状なので、レーザー照射による本体への深い損傷を容易に回避できる。
【0024】
好ましい実施形態において、集束レーザービームは、衝突エリアにおいて点状にまたは線状に、基礎表面に沿って案内される。その結果、基礎表面上に粗面構造が得られる。粗面構造は点状または線状であり、基礎表面の部分的エリアに延在する。従って、基礎表面は粗面エリアと非粗面エリアを持つ。粗面エリアと非粗面エリアの比率は、得られる接着力に影響を与えるので、所望の接着力を制御する可能性を与え、一方で矯正治療時に歯に指向性の力を確実にかつ再現可能に与えることができ、他方で、治療が終了したとき、歯のエナメル質を損傷する大きな危険なく、歯から矯正要素を取り外すことができる。
【0025】
矯正要素は、例えば、ブラケットまたは頬側または舌側チューブの形をとることができる。
【0026】
特に、レーザービームは、完全にまたは部分的に相互に重なり合う暴露ゾーンを持つ衝突エリアにおいて点状にまたは線状に基礎表面に沿って繰り返し案内されると有利である。レーザービームがすでにレーザーが衝突した暴露ゾーンにどの程度の頻度向けられるかによって、粗面構造の深さ及び横幅に影響を与えることができる。基礎表面の同一暴露ゾーン上で繰り返しレーザービームを通過させることによって、深い構造を得ることができる。言い換えると、極微粒子がすでに離脱しているエリアにおいて、本体が深い損傷を受けることなく、さらなる粒子を離脱できる。衝突エリアにおいて、基礎表面は、レーザー照射によって本体の溶融温度より低い温度まで点においてかつ表面的にのみ加熱されるので、極微粒子は基礎表面から表面的にのみ離れる。
【0027】
本発明に係る方法の有利な実施形態において、衝突エリアにおいて使用されるレーザービームの焦点直径は、最大0.5mm、特に最大0.1mmである。例えば、焦点直径を0.02mm〜0.09mmとすることができる。
【0028】
衝突エリアにおいて使用されるレーザービームは最大20Wのエネルギーを持つことが好ましい。特に、5W〜15Wの範囲のエネルギーが有利であることが証明されている。例えば、レーザービームは10Wのエネルギーを持つことができる。レーザービームが強力すぎると、本体を深く損傷する可能性がある。このような深い損傷を回避するために、レーザービームのエネルギーを制限することが有利である。ただし、深い構造を得るには、既述のように、暴露ゾーンを完全にまたは部分的に相互に重ね合わせて、レーザービームを基礎表面に沿って繰り返し案内できる。
【0029】
本発明の方法の有利な実施形態において、暴露ゾーンにおけるレーザービームの暴露時間は、最大0.5秒、特に最大0.1秒である。レーザービームの暴露時間は、暴露ゾーンの深さに影響を与える。本体への深い損傷を回避するために、暴露時間を制限することが有利である。
【0030】
有利な実施形態において、レーザービームはパルス状である。
【0031】
レーザービームのパルス幅は、最大0.1μs、特に最大50nsであると有利である。
【0032】
固体レーザー、特にネオジムイッテルビウムバナジウム酸塩レーザーまたはネオジムYAGレーザーを用いて、衝突エリアにおいて基礎表面を照射することが好ましい。
【0033】
本発明に係る方法の有利な実施形態において、衝突エリアに使用されるレーザー照射の波長は、800nm〜1400nmの範囲、特に1000nm〜1200nmの範囲である。従って、短波長赤外線放射を使用することが好ましい。この赤外線は本体のセラミック材料によって吸収されるので、加熱ゾーンが生じて、このゾーンにおいて、誘発されたクラック形成によって極微粒子は分離する。
【0034】
本発明に係る方法の有利な実施形態において、本体は衝突エリアのレーザー衝突後に加熱される。遡及的加熱によって、残留機械的応力を減少できる。従って、本体の遡及的熱処理は、誘発された応力を除去することになる。
【0035】
本体を、セラミック粉末材からプレスした生成形品とするかまたはセラミック射出成形によって製造した射出成形生成形品とするか、または上述のように製造した予備焼結白体とすることができる。衝突エリアにおいてその基礎表面にレーザービームが衝突し、その後、生成形品または白体は焼結されるかまたは熱間静水圧加圧される。従って、本体が生成形品または予備焼結白体である場合、矯正要素の製造時に本体の基礎表面に多数の破面を持つ粗面構造が得られる。レーザー照射後に、本体は焼結または熱間静水圧加圧される。歯科部品を製造するこの種のプレス方法は、独国特許第102005045698(A1)号から当業者には既知である。
【0036】
または、衝突エリアのレーザー照射時に、本体がセラミック粉末材から緻密焼結した成形体であることが可能である。本発明に係るこのような製造方法の構成において、本体がすでに焼結されている場合、本体の基礎表面には、衝突エリアにおいてのみレーザービームが衝突する。緻密焼結された本体の基礎表面は、その後、レーザー照射によって大幅に表面積を増大する。これは、上述のように接着強度の改良に導く。
【0037】
本体は、酸化物セラミック特に酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムから製造されることが好ましい。
【0038】
本発明の好ましい実施形態に関する以下の説明によって、添付図面に関連して本発明をより良く説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ブラケットの形の矯正要素の斜視図である。
【図2】粗面構造を持つ図1のブラケットの基礎表面の拡大表面を示す。
【図3】より拡大した図2の粗面構造の詳細図である。
【図4】図3の拡大図である。
【0040】
図1は、ブラケット10の形の矯正要素を略図的に示す。ブラケットは従来のように本体12を有し、本体は、その裏面に基礎表面14を形成し、その前面に第一の対のウィング16と第二の対のウィング18とを有する。第二の対のウィングは図には完全には示さない。2対のウィング16、18は、各々、咬合側ウィングと歯肉側ウィングとを有し、相互に間隔を置いて配置される。ウィングは、近心−遠心方向に走ってブラケット10の近心側から遠心側まで延びる溝20を形成する。溝20は、従来のように、アーチワイヤを受け入れるために使用される。アーチワイヤについては知られているので、図には示さない。
【0041】
基礎表面14は、網状の粗面構図を持つ衝突エリア22と、衝突エリア22によって取り囲まれる残余エリア26とを有する。残余エリアには、ブラケット10が割り当てられる歯のタイプの数値略語の形式のマーキング28が配置される。図示する実施形態において、ブラケット10は、基礎表面12の残余エリア26において、マーキングとして数字列“11”を有する。マーキング28は、残余エリア26の残りエリアとは、また衝突エリア22とは視覚的に異なる。マーキング22は、特に基礎表面14の残り部分より明るい。
【0042】
ブラケット10は、その基礎表面14によって歯に接着できる。ブラケット10と歯との間の接着をできる限り安定させるために、基礎表面14は、粗面構造22を有する。図示する実施形態においては粗面構造は網状の構成である。特に図3及び4の粗面構造の拡大図から明らかになるように、粗面構造は、相互に斜めを向く多数のフラットな破面30を備え、基礎表面14の表面積を大幅に増大することによって、歯に対するブラケットの接着強度を改良する。
【0043】
破面30の最大範囲は50μm未満である。図示するブラケット10において、破面30の最大範囲は20μm未満である。
【0044】
図示する実施形態において、本体12を含むブラケット全体10は、セラミック酸化物例えば酸化アルミニウムから製造される。ブラケット10を製造する際、セラミック酸化物は、粉末材の形で提供され、その後、プレスまたは射出成形されて、生成形品を形成する。生成形品を予備焼結して、白体を形成できる。衝突エリア22において、集束レーザービーム特に固体レーザー好ましくはネオジムイッテルビウムバナジウム酸塩レーザーのビームは、生成形品または白体の基礎表面14に沿って段階的に案内される。基礎表面14は、衝突エリア22においてレーザービームによって点においてセラミック酸化物の溶融温度未満の温度まで表面的に加熱される。局部加熱なので、熱応力が誘発されて、クラック形成を引き起こし、それによって、極微粒子が基礎表面14から離脱する。レーザービームはパルス状であり、短波長赤外光領域の波長を有する。特に、レーザービームは、1064nmの波長を持つことができる。パルス化レーザービームのパルス幅は40ns未満であり、レーザービームのエネルギーは最大10Wである。レーザービームの焦点直径は0.1mm未満であり、40〜80μmの範囲であることが好ましい。極微粒子が離脱した後、基礎表面14は、衝突エリア22において、相互に斜めを向き基礎表面14を粗面化する破面30を示す。
【0045】
衝突エリア22において、粗面構造22を得るために、レーザービームは基礎表面14に沿って点状にまたは線状に繰り返し案内される。暴露ゾーンは完全にまたは部分的に相互に重なり合う。例えば、レーザービームは同じ暴露ゾーン上を5回または10回案内される。その結果、すでに極微粒子が離脱している表面エリアから再び極微粒子が離脱する。その結果、アンダーカットも形成される。表面積増大の範囲及びアンダーカットの数は、レーザービームのパワー、それぞれの暴露時間及びレーザー衝突回数によって決まる。粗面構造22の深さ及びその横幅は、特に、レーザー衝突の回数によって容易に制御できる。
【0046】
衝突エリア22において段階的に基礎表面14に沿って案内されるレーザー照射によって基礎表面14から極微粒子が離脱することによって、ブラケット10とブラケット10を歯に固定するために使用される接着剤との間に非常に優れた接着が得られる。接着強度の変動は、従来の基礎表面14のシラン処理に比べて著しく減少する。矯正治療終了時にブラケット10を歯から取り外すとき予損傷を受けた歯のエナメル質を破壊する危険が、シラン処理に比べて小さい。
【0047】
既述のように、図示する実施形態において、衝突エリア22は基礎表面14の部分的エリアにしか延在しない。しかし、残余エリア26においても、基礎表面14をレーザービームで処理して、マーキング28を生成できる。特に、粗面構造22を生成するために使用されるレーザービームを、マーキング28の生成にも使用できる。ただし、マーキング28を生成するレーザービームの焦点はぼかされるので、粗面構造22を生成する際よりエネルギー密度は小さい。さらに、マーキング30を生成するレーザービームは、基礎表面14の上を連続的に動かされる。
【0048】
基礎表面14のレーザー衝突が行われたら、生成形品または白体としての本体14を焼結または熱間静水圧加圧できる。
【0049】
または、本体12を、レーザー照射を基礎表面14に当てる前に、すでにセラミック粉末材から緻密焼結した成形体とすることができる。言い換えると、基礎表面14にレーザー照射して、粗面構造22を得てかつマーキング28を生成する前に、本体12をまず焼結または熱間静水圧加圧できる。しかし、開放多孔性焼成または生成形本体にレーザービームを使用することは、その後の熱処理によって言い換えると焼結または熱間静水圧加圧によって、レーザー照射によって誘発された熱応力を補正できるという利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック本体を持つ矯正要素を製造する方法であって、前記本体が、前記要素を歯に固定するための基礎表面を有し、レーザービームが衝突エリアにおいて前記基礎表面に沿って案内され、前記基礎表面が前記衝突エリアにおいて前記レーザービームによって局部的に表面的に加熱されて、極微粒子がクラック進展によって前記基礎表面から離脱することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記衝突エリアが前記基礎表面の部分的エリアにのみ延在することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記衝突エリア外部の前記基礎表面が、前記矯正要素を歯のタイプに割り当てるためのマーキングを備えることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マーキングがレーザービームによって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザービームが前記衝突エリアにおいて前記基礎表面に沿って段階的に案内されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記基礎表面が前記衝突エリアにおいて前記レーザービームによって点において加熱されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
集束レーザービームが前記衝突エリアにおいて点状にまたは線状に前記基礎表面に沿って案内されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記衝突エリアにおいて、前記レーザービームが、点状にまたは線状に、暴露ゾーンを持つ前記基礎表面に沿って繰り返し案内されて、複数の前記暴露ゾーンが完全にまたは部分的に相互に重なり合うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記衝突エリアにおいて使用される前記レーザービームの焦点直径が最大0.5mm、特に最大0.1mmであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記衝突エリアにおいて使用される前記レーザービームが最大20W、特に5W〜15Wの範囲のエネルギーを有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記衝突エリアにおいて点状暴露ゾーンに使用される前記レーザービームの暴露時間が最大0.5秒、特に最大0.1秒であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記衝突エリアにおいて使用される前記レーザービームがパルス状であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記レーザービームのパルス幅が最大0.1μs、特に最大50nsであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記衝突エリアにおいて前記基礎表面を照射するために固体レーザー特にネオジムイッテルビウムバナジウム酸塩レーザーまたはネオジムYAGレーザーが使用されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記衝突エリアにおいて使用される前記レーザービームの波長が800nm〜1500nmの範囲、特に1000nm〜1200nmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記本体が、前記基礎表面の前記衝突エリアへのレーザー衝突後に加熱されることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記本体がセラミック粉末材からプレスまたは射出成形された生成形品または予備焼結白体であり、前記衝突エリアにおいて前記基礎表面に前記レーザービームが衝突し、その後前記生成形品または白体が焼結または熱間静水圧加圧されることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記本体がセラミック粉末材から緻密焼結された成形体であることを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−510610(P2013−510610A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538312(P2012−538312)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067144
【国際公開番号】WO2011/058020
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(512123813)デンタウルム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】