歯車仕上げ装置
【課題】適度で安定した大きさの加工負荷を連続して被加工歯車に加えることにより、歯の歯面の仕上げ処理に要する時間を短縮することができ、しかも、仕上げ処理による歯形の変形を抑制することができる歯車仕上げ装置を提供する。
【解決手段】被加工歯車50は、駆動用モータ20によって回転駆動される駆動側ラップ歯車21と、ブレーキ用モータ33に駆動トルクを伝達するブレーキ側ラップ歯車34と、回転自在に支持される案内歯車とにより心なし状態で保持される。駆動用モータ20は、予め設定された第1回転数で運転され、ブレーキ用モータ33は、第1回転数よりも低い第2回転数を目標指令回転数として運転される。ブレーキ用モータ33は、駆動用モータ20から両ラップ歯車21,34及び被加工歯車50を介して加わる駆動トルクに対して逆方向のブレーキトルクを連続的に発生する。
【解決手段】被加工歯車50は、駆動用モータ20によって回転駆動される駆動側ラップ歯車21と、ブレーキ用モータ33に駆動トルクを伝達するブレーキ側ラップ歯車34と、回転自在に支持される案内歯車とにより心なし状態で保持される。駆動用モータ20は、予め設定された第1回転数で運転され、ブレーキ用モータ33は、第1回転数よりも低い第2回転数を目標指令回転数として運転される。ブレーキ用モータ33は、駆動用モータ20から両ラップ歯車21,34及び被加工歯車50を介して加わる駆動トルクに対して逆方向のブレーキトルクを連続的に発生する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯車形状の工具を用いて被加工歯車の歯面を仕上げ処理する歯車ラップ装置、歯車ホーニング装置及び歯車シェービング装置などの歯車仕上げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の歯車仕上げ装置としては、例えば特許文献1に開示される歯車ラップ装置がある。この歯車ラップ装置は、駆動用モータによって回転駆動される駆動軸に被加工歯車を支持し、この被加工歯車に対し、従動軸に支持されたラップ歯車を噛み合わせている。そして、被加工歯車を回転させ、被加工歯車の歯面とラップ歯車の歯面とを摺り合わせることによって、被加工歯車の歯面をラップ仕上げしてその面粗度を上げるようになっている。この構成において、従動軸には、メカブレーキによるブレーキトルクが常時付与されている。従って、被加工歯車には、そのブレーキトルクに対応した大きさの加工負荷が加えられ、この加工負荷によってラップ仕上げの効率が高められている。
【特許文献1】特開2000−343328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、被加工歯車の歯面を精度良く仕上げるためには、被加工歯車に対して適度な大きさの加工負荷を連続して加えることが必要である。すなわち、加工負荷が大きすぎると、歯面が均一にラップされず、歯形精度が低下する。一方、加工負荷の大きさが小さすぎると、ラップ仕上げに要する時間が長くなる。しかしながら、上記ラップ装置においては、メカブレーキのブレーキトルクによって加工負荷を生成しているため、適度な大きさの加工負荷を連続して被加工歯車に加えることができなかった。すなわち、メカブレーキは、機械的なブレーキ力を回転体に加えて摩擦を発生させることよってブレーキトルクを生成するため、所望の大きさのブレーキトルクを連続して生成するためには、摩擦力を安定させる必要がある。ところが、回転体に対して連続してブレーキ力を加えると、摩擦発熱により摩擦部分の摩擦係数が変動してしまう。しかも、この摩擦係数の変動に応じてブレーキ力を調節することは、一般のメカブレーキにおいては困難である。このため、適度な大きさのブレーキトルクを連続して発生させることは困難であり、適度な大きさの加工負荷を被加工歯車に対して連続して加えることができなかった。
【0004】
この発明の目的とするところは、適度で安定した大きさの加工負荷を連続して被加工歯車に加えることにより、歯の歯面の仕上げ処理に要する時間を短縮することができ、しかも、仕上げ処理による歯形の変形を抑制することができる歯車仕上げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、仕上げ用歯車と被加工歯車とを噛み合わせ、そのいずれか一方に駆動用モータから駆動トルクを作用させるとともに他方に対してブレーキトルクを作用させることより、そのブレーキトルクの大きさに対応する加工負荷を両歯車間に付与するように構成した歯車仕上げ装置であって、前記ブレーキトルクを、電磁気力により非接触で生成するブレーキトルク生成手段を備えたことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明に加えて、前記ブレーキトルクの大きさを検出する検出手段と、そのブレーキトルクの大きさに基づいて前記ブレーキトルク生成手段を制御する制御手段とを備え、同制御手段は、同ブレーキトルクの大きさを設定値に維持させることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明に加えて、前記ブレーキトルク生成手段は、前記駆動用モータから前記被加工歯車に作用される被加工歯車の回転数と、ブレーキ用モータから同被加工歯車に作用される被加工歯車の回転数との間に差を持たせることによってブレーキトルクを発生させることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明に加えて、前記駆動用モータの駆動トルクを前記被加工歯車に伝達する第1の仕上げ用歯車と、同被加工歯車から駆動トルクが伝達される第2の仕上げ用歯車とにより前記仕上げ用歯車を構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明に加えて、前記第1の仕上げ用歯車及び前記第2の仕上げ用歯車の少なくともいずれか一方の歯数と、前記被加工歯車の歯数とを、その一方が他方によって割り切れないように設定したことを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項4または請求項5に記載の発明において、回転自在に支持されるとともに前記被加工歯車に噛み合わされる案内歯車を備え、前記第1の仕上げ用歯車、第2の仕上げ用歯車、及び、前記案内歯車により、被加工歯車を心なし状態で回転駆動するように構成したことを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記仕上げ用歯車により被加工歯車をラップ仕上げすることを特徴とする。
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、ブレーキトルク生成手段が電磁気力により非接触で生成するブレーキトルクは、適度な大きさで安定したものとなる。このブレーキトルクにより、適度な大きさの加工負荷が仕上げ用歯車及び非加工歯車に連続して加えられる。このため、歯の歯面の仕上げ処理に要する時間が短縮されるとともに、仕上げ処理による歯形の変形が抑制される。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、ブレーキトルクの大きさが設定値に精度良く維持されるため、被加工歯車の歯形の変形が有効に抑制されるとともに、歯面の仕上げ処理に要する時間が有効に短縮される。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、駆動用モータ及びブレーキ用モータの少なくとも一方の回転数を変化させることにより、ブレーキトルクの大きさを制御によって変更することができるため、被加工歯車の仕上げ処理中に加工負荷の大きさを変更することができる。従って、例えば、被加工歯車の各歯に対する仕上げ処理の程度を各歯の幅すじ方向において意図的に変化させたり、あるいは、均一化させたりすることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、第1の仕上げ用歯車と、第2の仕上げ用歯車とにより、被加工歯車の各歯の両歯面が同時に仕上げ処理される。従って、1つの被加工歯車に対する仕上げ処理を、歯車仕上げ装置に対して被加工歯車を装着し直すことなく行うことができるため、仕上げ処理に要する時間が短縮される。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、被加工歯車の各歯の仕上げ処理に作用する第1の仕上げ用歯車及び第2の仕上げ用歯車の少なくともいずれか一方の各歯が順次入れ替わる。このため、被加工歯車の各歯間における仕上げ処理の程度のばらつきが抑制される。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、歯車仕上げ装置に対する被加工歯車の取り付け及び取り外しが容易となる。このため、1つの被加工歯車の仕上げ処理に要する時間が短縮される。
【0017】
請求項7に記載の発明によれば、歯車の歯面のラップ仕上げを行う歯車仕上げ装置において、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の作用が発揮される。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、適度で安定した大きさの加工負荷を連続して被加工歯車に加えることにより、歯の歯面の仕上げ処理に要する時間を短縮することができ、しかも、仕上げ処理による歯形の変形を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1実施形態)
次に、この発明を、外歯車用の歯車ラップ装置に具体化した第1実施形態について図1〜図8を用いて説明する。この歯車ラップ装置は、外歯車よりなる被加工歯車を心なし状態で支持する構成を備えている。
【0020】
図1、図2及び図3に示すように、歯車仕上げ装置としての歯車ラップ装置10の基台11上には、駆動側ラップ歯車支持部12の駆動側移動台15が、第1スライド機構13を介して図1に矢印cで示す左右方向において移動可能に支持されている。そして、駆動側ラップ歯車支持部12は、駆動側移動ハンドル14によって矢印c方向に移動されるとともに任意の位置に位置決めされる。駆動側移動台15には、駆動側支持軸16が回動可能に支持されるとともに、その端部には、第2スライド機構17を介して駆動側フレーム18が支持されている。駆動側支持軸16は、手動操作によってON/OFFされるサーボモータにより回動されるとともに任意の回動位置に位置決めされる。前記駆動側フレーム18は、第2スライド機構17を介して駆動側支持軸16の中心軸に対する径方向において移動可能であるとともに、サーボモータよりなる駆動側シフトモータ19により同方向において往復移動される。
【0021】
前記駆動側フレーム18には、駆動用モータ20が固定支持されるとともに、駆動側ラップ歯車21を支持するための支持軸22が設けられている。駆動用モータ20の出力軸は、図示しない伝達経路を介して支持軸22に連結される。駆動側ラップ歯車21の中心軸線は、前記駆動側支持軸16の回動により、水平方向から例えば上向きに最大45°まで、及び、水平方向から下向きに最大−45°までの任意の傾斜角度に配置される。駆動用モータ20には、例えばサーボモータが用いられる。また、駆動側ラップ歯車21には、例えばモノマーキャスト(MC)ポリアミド系合成樹脂製のものが用いられる。
【0022】
図1、図4及び図5に示すように、前記基台11上には、ブレーキ側ラップ歯車支持部25のブレーキ側移動台28が、第3スライド機構26を介して図1に矢印cで示す左右方向において移動可能に支持されている。そして、ブレーキ側ラップ歯車支持部25は、ブレーキ側移動ハンドル27によって矢印c方向に移動されるとともに任意の位置に位置決めされる。ブレーキ側移動台28には、前記駆動側支持軸16と中心軸線を共有するブレーキ側支持軸29が回動可能に支持されるとともに、その端部には、第4スライド機構30を介してブレーキ側フレーム31が支持されている。ブレーキ側支持軸29は、手動操作によってON/OFFされるサーボモータにより回動されるとともに任意の回動位置に位置決めされる。前記ブレーキ側フレーム31は、第4スライド機構30を介してブレーキ側支持軸29の中心軸線に対する径方向において移動可能であるとともに、サーボモータよりなるブレーキ側シフトモータ32により同方向において往復移動される。
【0023】
前記ブレーキ側フレーム31には、ブレーキトルク生成手段としてのブレーキ用モータ33が固定支持されるとともに、ブレーキ側ラップ歯車34を支持するための支持軸23が設けられている。ブレーキ用モータ33の出力軸は、図示しない伝達経路を介して支持軸23に連結される。ブレーキ側ラップ歯車34の中心軸線は、前記ブレーキ側支持軸29の回動により、水平方向から上向きに最大45°まで、及び、水平方向から下向きに最大−45°までの任意の傾斜角度に配置される。そして、ブレーキ側ラップ歯車34の中心軸線の傾斜角度は、前記駆動側ラップ歯車21の同傾斜角度に対し、水平方向を挟んで上下逆向きに、かつ、同じ大きさに設定される。また、この実施形態において、ブレーキ側ラップ歯車34の歯数は、駆動側ラップ歯車21の歯数と同じに設定されている。
【0024】
この駆動トルク伝達経路上には、ブレーキ用モータ33の出力軸に加わるトルクを検出するための検出手段としてのトルク検出器35が配設されている。ブレーキ用モータ33には、例えば前記駆動用モータ20と同様なサーボモータが用いられる。また、ブレーキ側ラップ歯車34には、例えば駆動側ラップ歯車21と同様にMCポリアミド系合成樹脂製のものが用いられる。この実施形態においては、第1の仕上げ用歯車としての駆動側ラップ歯車21と、第2の仕上げ用歯車としてのブレーキ側ラップ歯車34とが仕上げ用歯車を構成する。
【0025】
図3及び図5に示すように、前記基台11上には、被加工歯車案内機構40が昇降機構41を介して配設されている。被加工歯車案内機構40は、昇降ハンドル42によって昇降機構41が操作されることにより昇降されるとともに任意の位置に位置決めされる。被加工歯車案内機構40の歯車支持台43には、案内歯車44が水平軸線上において回転自在に支持されている。この案内歯車44の回転中心軸線は、前記駆動側支持軸16及びブレーキ側支持軸29の中心軸線に対する垂直面上に位置している。案内歯車44には、前記両ラップ歯車21,34と同様にMCポリアミド系合成樹脂製のものが用いられる。
【0026】
図1及び図6に示すように、前記基台11上には、外歯車からなる被加工歯車50を回転可能に保持する被加工歯車保持部51が支持台52を介して配設されている。図6に示すように、被加工歯車保持部51の基台53上には、往復移動される移動部材55が配置されている。移動部材55は、自動制御される送りモータ54によって水平方向に往復移動される。移動部材55には、前記水平方向に延びる支持軸56が固定され、この支持軸56の端部には、下向きに開いた支持部材57が固定支持されている。支持部材57における手前側の板片には、円形の固定側保持板58が固定されている。また、支持部材57における奥側の板片には、送りねじを備えるとともに手動操作される位置調節機構59が設けられ、この位置調節機構59により、固定側保持板58に対面する円形の可動側保持板60が前記水平方向において位置調節可能に支持されている。固定側保持板58と可動側保持板60との間には、被加工歯車50が起立した状態で保持される。
【0027】
図1〜図5に示すように、前記基台11上には、前記駆動側ラップ歯車21と被加工歯車50との間、及び、ブレーキ側ラップ歯車34と被加工歯車50との間にラップ液を供給するラップ液供給装置61が、支柱62を介して配設されている。
【0028】
図7に示すように、前記駆動側シフトモータ19、駆動用モータ20、ブレーキ側シフトモータ32、ブレーキ用モータ33、トルク検出器35及び送りモータ54は、制御手段としての制御部63に対して電気的に接続されている。前記駆動用モータ20及びブレーキ用モータ33は、制御部63により、予め設定されたラップ仕上げ時間ずつ回転制御される。すなわち、駆動用モータ20は、被加工歯車50、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34のサイズ、被加工歯車50及び両ラップ歯車21,34の種類、ラップ剤の粒度、被加工歯車50における歯面の仕上げ表面粗さ等の条件に基づいて予め設定されている所定の第1回転数を目標指令回転数として制御部63により回転制御される。ブレーキ用モータ33は、第1回転数よりも低い値に設定された所定の第2回転数を目標指令回転数として制御部63により回転制御される。また、ブレーキ用モータ33の目標指令回転数は、制御部63がトルク検出器35から入力するブレーキトルクの検出値に基づいて第2回転数から可変制御される。そして、この可変制御により、ブレーキトルクの検出値が予め設定されているトルク目標値に維持される。前記駆動側シフトモータ19、ブレーキ側シフトモータ32及び送りモータ54は、1つの被加工歯車50に対するラップ仕上げ時間の間に、制御部63によって所定時間毎に回転方向が切り替えられる。
【0029】
次に、前記のように構成された歯車ラップ装置の動作について説明する。
この実施形態の歯車ラップ装置10によって歯面のラップ仕上げを行うことができる被加工歯車50(外歯車)の種類は、平歯車、又は、ハスバ歯車である。平歯車をラップ仕上げする場合には、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34として、ねじれ方向が同一で、かつ、適度な大きさのねじれ角(例えば30°)を有するハスバ歯車が用いられる。これは、両ラップ歯車21,34と被加工歯車とに歯すじ方向のすべり運動を与え、被加工歯車50の歯面全体が均一にラップ仕上げされるようにするためである。この場合、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34は、図2〜図5に示すように、それぞれが被加工歯車50に噛み合うように、互いに逆方向に傾斜した状態で支持される。
【0030】
駆動側ラップ歯車21の中心軸線の傾斜角は、駆動側ラップ歯車支持部12の駆動側支持軸16の回動位置を調節することにより設定される。ブレーキ側ラップ歯車34の中心軸線の傾斜角は、ブレーキ側ラップ歯車支持部25のブレーキ側支持軸29の回動位置を調節することにより設定される。なお、ハスバ歯車をラップ仕上げする場合、そのねじれ角が例えば30°であるときには、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34として平歯車を用いる。また、ラップ仕上げするハスバ歯車のねじれ角が例えば10°であるときには、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34として、ねじれ方向が被加工歯車のねじれ方向とは逆方向であり、かつ、ねじれ角の大きさが例えば20°であるハスバ歯車を用いる。なお、前記駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34の歯数と、被加工歯車50の歯数とは、その一方が他方によって割り切れないように設定される。すなわち、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34の歯数は、例えば50とされ、被加工歯車50の歯数は、例えば51とされる。これは、記駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34と、被加工歯車50との間で同じ歯同士が噛み合わないようにするためである。
【0031】
被加工歯車50を歯車ラップ装置10にセットするには、まず被加工歯車50を駆動側ラップ歯車21に噛み合わせた状態で駆動用モータ20が低速運転される。すると、被加工歯車50は、駆動側ラップ歯車21の回動に伴ってブレーキ側ラップ歯車34側へ移動する。この結果、被加工歯車50は、被加工歯車保持部51の固定側保持板58と可動側保持板60との間に入り込む。なお、両保持板58,60と被加工歯車50との間には、被加工歯車50を回転自在な状態で保持するための隙間(例えば、0.2mm)が設けられている。すると、被加工歯車50は、図6に示すように、固定側保持板58と可動側保持板60との間において回転可能な状態で保持されるとともに、図8に示すように、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44にそれぞれ噛み合った状態となる。この結果、被加工歯車50は、心なし状態で回転可能に保持される。なお、案内歯車44の位置(高さ)は、被加工歯車50の直径に応じて被加工歯車案内機構40の昇降機構41を手動操作することにより設定される。また、駆動側ラップ歯車21と被加工歯車50との間隔は、被加工歯車50の半径に応じて駆動側ラップ歯車支持部12の第1スライド機構13を手動操作することにより設定され、ブレーキ側ラップ歯車34と被加工歯車50との間隔は、ブレーキ側ラップ歯車支持部25の第3スライド機構26を手動操作することにより設定される。
【0032】
この状態において、制御部63により、駆動用モータ20が第1回転数(例えば2000rpm)を目標指令回転数として運転制御されるとともに、ブレーキ用モータ33が、第1回転数よりも低い第2回転数(例えば1960rpm)を目標指令回転数として運転制御される。すると、図8に示すように、駆動用モータ20によって駆動側ラップ歯車21が回転駆動されるとともに、この駆動側ラップ歯車21により被加工歯車50が回転駆動され、さらに、被加工歯車50によりブレーキ側ラップ歯車34が回転駆動される。このとき、ブレーキ側ラップ歯車34は、駆動側ラップ歯車21と同じ歯数であることから、駆動側ラップ歯車21と同じ回転数で回される状態となる。一方、駆動用モータ20の目標指令回転数である第1回転数よりも低い第2回転数を目標指令回転数として運転されるブレーキ用モータ33は、駆動用モータ20から伝達される駆動トルクに対するブレーキトルクを発生させる。すなわち、ブレーキ用モータ33は、駆動用モータ20から入力される駆動トルクに対し、電磁気力によってその回転数の増大を阻止しようとする。従って、ブレーキ用モータ33は、電磁気力により非接触で自身の回転子の回転にブレーキをかけた状態となり、駆動用モータ20によって回転される方向と逆方向のブレーキトルクを発生する。そして、このブレーキトルクにより、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34と、被加工歯車50との間に加工負荷が加えられる。この加工負荷の大きさは、ブレーキトルクの大きさに対応する。
【0033】
一方、駆動側ラップ歯車21と被加工歯車50との噛み合い部、及び、被加工歯車50とブレーキ側ラップ歯車34との噛み合い部には、ラップ液供給装置61からラップ液が供給される。この結果、駆動側ラップ歯車21によって被加工歯車50における各歯の一方の歯面がラップ仕上げされるとともに、ブレーキ側ラップ歯車34によって被加工歯車50における各歯の他方の歯面がラップ仕上げされる。このとき、ブレーキ用モータ33が生成する加工負荷により、被加工歯車50の各歯の両歯面に対するラップ仕上げの効率が高まる。
【0034】
ブレーキ用モータ33によりブレーキ側ラップ歯車34に加えられるブレーキトルクは、トルク検出器35により検出される。そして、このブレーキトルクが設定値に維持されるように、制御部63によりブレーキ用モータ33の目標指令回転数が第2回転数から可変制御される。このため、両ラップ歯車21,34及び被加工歯車50には、適度な大きさの加工負荷が連続して加えられる。
【0035】
また、駆動用モータ20及びブレーキ用モータ33の運転に伴って、制御部63により、駆動側シフトモータ19及びブレーキ側シフトモータ32の回転方向が所定時間毎に切り替えられる。この両ラップ歯車21,34の回転方向の切り替えにより、被加工歯車50に対する駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34の歯すじ方向における噛み合い位置が変更され、両ラップ歯車21,34の歯面全体によって被加工歯車50がラップ仕上げされる。
【0036】
さらに、制御部63により送りモータ54の回転方向が所定時間毎に切り替えられ、被加工歯車50がその中心軸線方向に往復動作する。この被加工歯車50の往復動作により、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34に対する被加工歯車50の歯すじ方向における噛み合い位置が変更され、被加工歯車50の歯面全体が両ラップ歯車21,34によってラップ仕上げされる。従って、被加工歯車50の歯面は、適度な大きさの加工負荷により効率良くラップ仕上げされ、その面粗度が短時間で向上する。
【0037】
ラップ仕上げの終了後に被加工歯車50を歯車ラップ装置10から取り外すには、被加工歯車50を駆動側ラップ歯車21に噛み合わせた状態を保持しながら駆動用モータ20を停止状態から低速運転させる。すると、被加工歯車50は、駆動側ラップ歯車21の回動に伴ってブレーキ側ラップ歯車34との噛み合い状態から離脱するとともに、被加工歯車保持部51の両保持板58,60の間から外側へ移動する。この結果、被加工歯車50は、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44と噛み合わない状態となり取り出すことが可能となる。
【0038】
以上詳述したこの実施形態は、以下の効果を有する。
(1) 加工負荷を得るためのブレーキトルクを、ブレーキ用モータ33の電磁気力により非接触で生成するようにした。このため、ブレーキ用モータ33により適度な大きさのブレーキトルクが安定して生成され、このブレーキトルクにより、適度な大きさの加工負荷が連続して両ラップ歯車21,34及び被加工歯車50に付与される。従って、被加工歯車50の歯面のラップ仕上げに伴う歯形の変形を抑制するとともに、ラップ仕上げに要する時間を短縮することができる。
【0039】
(2) ブレーキトルクの大きさをトルク検出器35により検出し、この検出値に基づいてブレーキ用モータ33の目標指令回転数を制御することにより、ブレーキトルクの大きさを設定値に維持するようにした。従って、ブレーキトルクの大きさが設定値に精度良く維持されるため、被加工歯車50の歯形の変形を有効に抑制するともに、歯面のラップ仕上げに要する時間を有効に短縮することができる。
【0040】
(3) 駆動用モータ20から入力された駆動トルクを被加工歯車50に伝達する駆動側ラップ歯車21と、被加工歯車50から駆動トルクが伝達されるブレーキ側ラップ歯車34とを被加工歯車50に噛み合わせ、両ラップ歯車21,34によって被加工歯車50をラップ仕上げするようにした。このため、被加工歯車50の各歯の両歯面が同時にラップ仕上げされる。従って、1つの被加工歯車50に対するラップ仕上げを、歯車ラップ装置10に対して被加工歯車50を装着し直すことなく行うことができるため、ラップ仕上げに要する時間を短縮することができる。
【0041】
(4) 駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34の歯数と、被加工歯車50の歯数とを、その一方が他方によって割り切れないように設定した。従って、被加工歯車50の各歯のラップ仕上げに作用する両ラップ歯車21,34の歯が順次入れ替わるため、被加工歯車50の各歯間におけるラップ仕上げの程度のばらつきが抑制される。
【0042】
(5) 駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44により、外歯車からなる被加工歯車50を心なし状態で保持するように構成した。このため、歯車ラップ装置10に対する被加工歯車50の取り付け及び取り外しを容易に行うことができ、1つの被加工歯車50のラップ仕上げに要する時間を短縮することができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、この発明を、内歯車用の歯車ラップ装置に具体化した第2実施形態について図9〜図15を用いて説明する。なお、この第2実施形態においては、前記第1実施形態における被加工歯車案内機構40に代えて別の構成の被加工歯車案内機構71を設け、また、被加工歯車保持部51に代えて別の構成の被加工歯車保持機構77を設けている。このため、被加工歯車案内機構71及び被加工歯車保持機構77以外の第1実施形態と共通の構成については、符号を同じにしてその説明を省略する。
【0044】
図9及び図10に示すように、歯車仕上げ装置としての歯車ラップ装置70は、前記駆動側ラップ歯車支持部12(図示せず)とブレーキ側ラップ歯車支持部25との間に、案内歯車44を支持した被加工歯車案内機構71を備えている。被加工歯車案内機構71は、前記基台11の底板11a上に設置された昇降機構72を備え、この昇降機構72によって昇降される支持板73上には、前記案内歯車44を支持した支持軸74が一対の支持部75a,75bを介して支持されている。昇降機構72は、図示しない昇降ハンドルによって操作され、案内歯車44の高さを設定する。
【0045】
被加工歯車案内機構71の正面側には、内歯車からなる被加工歯車76を回転可能に保持する被加工歯車保持機構77が設けられている。図11,12に示すように、被加工歯車保持機構77において前記底板11a上に設置された副基台78には一対のレール79が配設され、この両レール79上には、前記案内歯車44の中心軸線方向に沿って移動可能な被加工歯車保持台80が支持されている。図9,10に示すように、被加工歯車保持台80は、送りモータ81を備えた送り機構82によって同中心軸線方向に送られる。被加工歯車保持台80は、送り機構82の作動により、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34によるラップ仕上げが行われる加工位置(図9に図示)と、被加工歯車保持台80に対する被加工歯車76の取り付け及び取り外しを行うための準備位置(図10に図示)とに切り替えられる。さらに、被加工歯車保持台80は、送り機構82の作動により、加工位置を基準とする所定の移動範囲内において往復移動される。
【0046】
図9〜12に示すように、被加工歯車保持台80は、前記レール79上に支持された移動部材83を備え、この移動部材83上には、案内歯車44の中心軸線に対して直交する水平方向に沿って移動可能な一対の被加工歯車保持部材84a,84bが支持されている。一対の被加工歯車保持部材84a,84bは、移動部材83との間に設けられるとともに正ねじ軸及び逆ねじ軸を備えるとともに手動操作される位置調節機構85により、互いに接近又は離間するように移動される。
【0047】
図10,11,13,14に示すように、各被加工歯車保持部材84a,84bの支持壁86a,86bにおいて、前記被加工歯車案内機構71側の側面には、被加工歯車76の両側面の一方に当接される4つの固定側保持ローラ87が支持部材88を介して支持されている。
【0048】
また、図10〜14に示すように、被加工歯車保持部材84a,84bの支持壁86a,86bにおいて、前記被加工歯車案内機構71側とは反対側の側面には、被加工歯車76の外周面に当接する複数の周面保持ローラ89が支持板90を介して支持されている。各周面保持ローラ89は、支持板90の回動により、被加工歯車76の外径の大きさに応じて位置調節可能となっている。
【0049】
また、図11,12,13,14に示すように、被加工歯車保持部材84a,84bの支持壁86a,86bにおいて、周面保持ローラ89が設けられた側面には、被加工歯車76の両端面の他方に当接される4つの可動側保持ローラ91がガイド付きシリンダ92を介して支持されている。可動側保持ローラ91は、ガイド付きシリンダ92の作動により、被加工歯車76の端面に当接可能な保持位置(図12,14に示す状態)と、同端面に当接不能な退避位置(図11,13に示す状態)とに切り替えられる。
【0050】
図15に示すように、前記被加工歯車保持機構77の送りモータ81は、前記駆動側シフトモータ19、駆動用モータ20、ブレーキ側シフトモータ32、ブレーキ用モータ33及びトルク検出器35とともに制御部63に対して電気的に接続されている。送りモータ81は、駆動側シフトモータ19及び駆動用モータ20とともに、1つの被加工歯車76に対する所定のラップ仕上げ時間の間に、制御部63によって所定時間毎に回転方向が切り替えられる。
【0051】
次に、前記のように構成された歯車ラップ装置の動作について説明する。
この実施形態の歯車ラップ装置70は、被加工歯車76として、平歯、又は、ハスバを有する内歯車の歯面のラップ仕上げを行うことができる。平歯を有する内歯車をラップ仕上げする場合には、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34として、ねじれ方向が同一で、かつ、適度な大きさのねじれ角を有するハスバ外歯車を用いる。この場合、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34は、第1実施形態と同様に、それぞれが被加工歯車76に噛み合うように、互いに逆方向に傾斜した状態で支持される。
【0052】
被加工歯車保持機構77への被加工歯車76の取り付けは、図9に示すように、被加工歯車保持台80を準備位置に配置するとともに、図11,13に示すように、可動側保持ローラ91を退避位置に切り替えた状態で行われる。
【0053】
被加工歯車保持機構77へ被加工歯車76を取り付けるには、まず被加工歯車76を、両被加工歯車保持部材84a,84b間に配置し、被加工歯車76の両端面の一方を各固定側保持ローラ87に当接させるとともに、被加工歯車76の外周面を各周面保持ローラ89に当接させる。次に、この状態において両ガイド付きシリンダ92を作動させ、可動側保持ローラ91を退避位置から保持位置に切り替える。すると、各可動側保持ローラ91は、被加工歯車76の両端面の他方に当接する。この結果、図12,14に示すように、被加工歯車76は、その外周面に当接する複数の周面保持ローラ89と、その両側面に当接する複数の固定側保持ローラ87及び可動側保持ローラ91によって回転可能な状態で保持される。そして、被加工歯車76、図16に示すように、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44にそれぞれ噛み合った状態となる。この結果、被加工歯車76は、被加工歯車保持機構77によって心なし状態で回転可能に保持される。なお、案内歯車44の高さは、被加工歯車76の直径に応じて昇降機構72を手動操作することにより設定される。また、周面保持ローラ89の位置は、被加工歯車76の直径に応じて各支持板90の位置を調節することにより設定される。
【0054】
次に、被加工歯車保持機構77の送りモータ81を作動させ、被加工歯車保持台80を準備位置から加工位置に移動させる。すると、被加工歯車76に、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44がそれぞれ噛み合う。このとき、固定側保持ローラ87、周面保持ローラ89及び可動側保持ローラ91により回動可能に支持されている被加工歯車76には、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44が容易に噛み合う。
【0055】
この状態において、駆動用モータ20、ブレーキ用モータ33、駆動側シフトモータ19、ブレーキ側シフトモータ32及び送りモータ81を制御部63によって運転制御させると、駆動側ラップ歯車21によって被加工歯車76が回転駆動されるとともに、被加工歯車76を介してブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44が回転駆動される。このとき、ブレーキ用モータ33のブレーキトルクに基づく加工負荷が、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び被加工歯車76に付与される。このため、この加工負荷により、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34による被加工歯車76の歯の両面に対するラップ仕上げが行われる。
【0056】
また、1つの被加工歯車76に対する所定のラップ仕上げ中に送りモータ81の回転方向が所定時間毎に切り替えられ、被加工歯車保持台80が加工位置を基準とする移動範囲内を往復移動される。この被加工歯車76の往復移動により、被加工歯車76の各歯の歯面全体が両ラップ歯車21,34によってラップ仕上げされる。
【0057】
被加工歯車76に対するラップ仕上げが終了した後、被加工歯車76を被加工歯車保持機構77から取り外すには、送りモータ81を作動させて被加工歯車保持台80を加工位置から準備位置まで移動させる。次に、各ガイド付きシリンダ92を作動させ、各可動側保持ローラ91を保持位置から退避位置に退避させる。この結果、被加工歯車76は、被加工歯車保持機構77から取り出し可能となる。
【0058】
以上詳述したこの実施形態は、前記第1実施形態における(1)〜(4)に記載の各効果に加えて、以下の効果を有する。
(6) 駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44に加えて、複数の周面保持ローラ89、固定側保持ローラ87及び可動側保持ローラ91によって、内歯車からなる被加工歯車76を心なし状態で保持するように構成した。このため、歯車ラップ装置10に対する被加工歯車76の取り付け及び取り外しを容易に行うことができ、1つの被加工歯車76のラップ仕上げに要する時間を短縮することができる。
【0059】
(その他の実施形態)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 第1又は第2実施形態において、前記駆動側ラップ歯車21の歯数と、ブレーキ側ラップ歯車34の歯数とを互いに異ならせる。この場合であっても、駆動用モータ20による被加工歯車50の回転数よりもブレーキ用モータ33による被加工歯車50の回転数が小さければ、ブレーキ用モータ33によりブレーキトルクが生成される。
【0060】
・ 第1又は第2実施形態において、前記駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34のいずれか一方の歯数と、被加工歯車50,76の歯数とを、その一方が他方によって割り切れないように設定する。一方、両ラップ歯車21,34の他方の歯数と、被加工歯車50,76の歯数とを、その一方が他方によって割り切れるように設定する。この場合、被加工歯車50の各歯のラップ処理に作用する駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34のいずれか一方の各歯が順次入れ替わる。従って、被加工歯車50の各歯間において、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34のいずれか一方によってラップ処理される歯面におけるラップ処理の程度のばらつきが抑制される。
【0061】
・ 被加工歯車50,76のラップ仕上げ中において、例えば被加工歯車50,76の中心軸線方向における往復移動の半ストロークに対応する周期で、ブレーキ用モータ33を第2回転数からより低い回転数に一時的に変化させる。すなわち、被加工歯車50,76の各歯の歯面に対する加工負荷の大きさを、各歯の歯すじ方向において変化させる。この場合には、被加工歯車50,76の各歯の歯面において、その歯すじ方向における両側部のラップ仕上げの程度を、その中央部におけるラップ仕上げの程度よりも高くすることができる。従って、被加工歯車50,76の歯の歯形が悪いときに各歯の歯形を歯すじ方向において均一化させたり、あるいは、各歯の歯形を歯すじ方向において意図的に変化させたりすることができる。
【0062】
・ 第1又は第2実施形態において、駆動用モータ20からブレーキ用モータ33に伝達されるトルクの大きさを、ブレーキ用モータ33が発生するトルクの大きさよりも大きく設定する。さらに、駆動用モータ20から伝達されるトルクによってブレーキ用モータ33の回転子が回転される方向とは逆方向にブレーキ用モータ33を回転駆動するための駆動信号をブレーキ用モータ33に入力する。そして、この状態において、ブレーキ用モータ33により発生されるブレーキトルクを加工負荷とする。
【0063】
・ 第1又は第2実施形態において、前記ブレーキトルク生成手段として、ブレーキ用モータ33に代えてヒステリシスブレーキを用いる。このヒステリシスブレーキにおいては、励磁コイルによって磁束が供給される内側及び外側のヨークの間に、回転リングが非接触状態で挟まれている。そして、ブレーキ力は、両ヨークを流れる磁束が回転リングを貫くときに両ヨークと回転リングとの間に発生する磁気摩擦によって生成される。この場合においても、ヒステリシスブレーキにより適度な大きさのブレーキトルクが安定した状態で生成され、このブレーキトルクに対応した加工負荷が両ラップ歯車21,34及び被加工歯車50(76)に連続して付与される。
【0064】
・ 第1実施形態において、被加工歯車50の上方から同被加工歯車50に噛み合う第2の案内歯車を設け、両ラップ歯車21,34、案内歯車44及び第2の案内歯車によって、被加工歯車50を心なし状態で保持する構成とする。この第2の案内歯車は、例えば被加工歯車保持部51の支持部材57に対し上下位置が調節可能に支持される。そして、歯車ラップ装置10に対する被加工歯車50の取り付け又は取り外し時には、第2の案内歯車を被加工歯車50から退避させることができるようにする。この場合には、ラップ仕上げに伴う被加工歯車50の径方向における無駄な動きを有効に抑制し、歯形の変形を有効に抑制することができる。
【0065】
・ 第1実施形態の被加工歯車保持部51において、固定側保持板58及び可動側保持板60をそれぞれ回転可能に支持部材57に支持させるとともに、両保持板58,60により被加工歯車保持部51を挟持する構成とする。このような構成では、被加工歯車50の軸方向及び径方向における無駄な動きが抑制され、被加工歯車50の各歯面が精度良くラップ仕上げされる。
【0066】
・ 第1実施形態において、心なし構成ではなく、被加工歯車50を支持軸に対し相対回転不能に支持させるとともに、ブレーキ側ラップ歯車34を設けない構成とする。この場合には、被加工歯車50の支持軸に対してブレーキ用モータ33を作動連結することにより、ブレーキトルクを被加工歯車50に直接付与する。
【0067】
また、被加工歯車50を支持軸に対して相対回転不能に支持させるとともにブレーキ側ラップ歯車34を設けない構成とした歯車ラップ装置10において、駆動用モータ20を被加工歯車50の支持軸に作動連結するとともに、ブレーキ用モータ33を駆動側ラップ歯車21に作動連結した構成とする。この場合には、ブレーキ用モータ33から駆動側ラップ歯車21にブレーキトルクが直接付与される。
【0068】
・ 第1の実施形態において、案内歯車44に代えて、被加工歯車50の外周面に当接する斜面を有する案内部材を設けた構成とする。この場合には、被加工歯車50がハスバ歯車であるときに、両ラップ歯車21,34及び案内部材によって被加工歯車50が心なし状態で回転駆動される。
【0069】
・ この発明を、仕上げ用歯車としてのシェービングカッターにより、被加工歯車50の歯を仕上げ切削する歯車仕上げ装置としての歯車シェービング装置に具体化する。
・ この発明を、仕上げ用歯車としてのホーニング砥石により、被加工歯車50の歯面を仕上げ研削する歯車仕上げ装置としての歯車ホーニング装置に具体化する。
【0070】
以下、上記各実施形態から把握される技術的思想を記載する。
・ 請求項4または請求項5に記載の歯車仕上げ装置において、前記被加工歯車の外周面に当接する案内部材を備え、前記第1の仕上げ用歯車、第2の仕上げ用歯車、及び、前記案内部材により、被加工歯車を心なし状態で回転駆動するように構成したことを特徴とする歯車仕上げ装置。このような構成によれば、歯車仕上げ装置に対する被加工歯車の取り付け及び取り外しが容易となる。このため、1つの被加工歯車の仕上げ処理に要する時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1実施形態の歯車ラップ装置を示す正面図。
【図2】同じく右側面図。
【図3】図1におけるa−a断面図。
【図4】歯車ラップ装置を示す左側面図。
【図5】図1におけるb−b断面図。
【図6】被加工歯車保持機構を示す側面図。
【図7】電気的構成を示すブロック図。
【図8】被加工歯車、駆動側ラップ歯車、ブレーキ側ラップ歯車及び案内歯車の噛み合い状態を示す模式図。
【図9】第2実施形態の歯車ラップ装置の要部を示す縦断面図。
【図10】同じく要部を示す縦断面図。
【図11】図10におけるe−e線断面図。
【図12】図9におけるd−d線断面図。
【図13】図11におけるf−f線断面図。
【図14】図12におけるg−g線断面図。
【図15】電気的構成を示すブロック図。
【図16】被加工歯車、駆動側ラップ歯車、ブレーキ側ラップ歯車及び案内歯車の噛み合い状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0072】
10…歯車仕上げ装置としての歯車ラップ装置、20…駆動用モータ、21…仕上げ用歯車及び第1の仕上げ用歯車としての駆動側ラップ歯車、33…ブレーキトルク生成手段としてのブレーキ用モータ、34…仕上げ用歯車及び第2の仕上げ用歯車としてのブレーキ側ラップ歯車、35…検出手段としてのトルク検出器、44…案内歯車、50…被加工歯車、63…制御手段としての制御部、70…歯車仕上げ装置としての歯車ラップ装置、76…被加工歯車。
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯車形状の工具を用いて被加工歯車の歯面を仕上げ処理する歯車ラップ装置、歯車ホーニング装置及び歯車シェービング装置などの歯車仕上げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の歯車仕上げ装置としては、例えば特許文献1に開示される歯車ラップ装置がある。この歯車ラップ装置は、駆動用モータによって回転駆動される駆動軸に被加工歯車を支持し、この被加工歯車に対し、従動軸に支持されたラップ歯車を噛み合わせている。そして、被加工歯車を回転させ、被加工歯車の歯面とラップ歯車の歯面とを摺り合わせることによって、被加工歯車の歯面をラップ仕上げしてその面粗度を上げるようになっている。この構成において、従動軸には、メカブレーキによるブレーキトルクが常時付与されている。従って、被加工歯車には、そのブレーキトルクに対応した大きさの加工負荷が加えられ、この加工負荷によってラップ仕上げの効率が高められている。
【特許文献1】特開2000−343328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、被加工歯車の歯面を精度良く仕上げるためには、被加工歯車に対して適度な大きさの加工負荷を連続して加えることが必要である。すなわち、加工負荷が大きすぎると、歯面が均一にラップされず、歯形精度が低下する。一方、加工負荷の大きさが小さすぎると、ラップ仕上げに要する時間が長くなる。しかしながら、上記ラップ装置においては、メカブレーキのブレーキトルクによって加工負荷を生成しているため、適度な大きさの加工負荷を連続して被加工歯車に加えることができなかった。すなわち、メカブレーキは、機械的なブレーキ力を回転体に加えて摩擦を発生させることよってブレーキトルクを生成するため、所望の大きさのブレーキトルクを連続して生成するためには、摩擦力を安定させる必要がある。ところが、回転体に対して連続してブレーキ力を加えると、摩擦発熱により摩擦部分の摩擦係数が変動してしまう。しかも、この摩擦係数の変動に応じてブレーキ力を調節することは、一般のメカブレーキにおいては困難である。このため、適度な大きさのブレーキトルクを連続して発生させることは困難であり、適度な大きさの加工負荷を被加工歯車に対して連続して加えることができなかった。
【0004】
この発明の目的とするところは、適度で安定した大きさの加工負荷を連続して被加工歯車に加えることにより、歯の歯面の仕上げ処理に要する時間を短縮することができ、しかも、仕上げ処理による歯形の変形を抑制することができる歯車仕上げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、仕上げ用歯車と被加工歯車とを噛み合わせ、そのいずれか一方に駆動用モータから駆動トルクを作用させるとともに他方に対してブレーキトルクを作用させることより、そのブレーキトルクの大きさに対応する加工負荷を両歯車間に付与するように構成した歯車仕上げ装置であって、前記ブレーキトルクを、電磁気力により非接触で生成するブレーキトルク生成手段を備えたことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明に加えて、前記ブレーキトルクの大きさを検出する検出手段と、そのブレーキトルクの大きさに基づいて前記ブレーキトルク生成手段を制御する制御手段とを備え、同制御手段は、同ブレーキトルクの大きさを設定値に維持させることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明に加えて、前記ブレーキトルク生成手段は、前記駆動用モータから前記被加工歯車に作用される被加工歯車の回転数と、ブレーキ用モータから同被加工歯車に作用される被加工歯車の回転数との間に差を持たせることによってブレーキトルクを発生させることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明に加えて、前記駆動用モータの駆動トルクを前記被加工歯車に伝達する第1の仕上げ用歯車と、同被加工歯車から駆動トルクが伝達される第2の仕上げ用歯車とにより前記仕上げ用歯車を構成したことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明に加えて、前記第1の仕上げ用歯車及び前記第2の仕上げ用歯車の少なくともいずれか一方の歯数と、前記被加工歯車の歯数とを、その一方が他方によって割り切れないように設定したことを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項4または請求項5に記載の発明において、回転自在に支持されるとともに前記被加工歯車に噛み合わされる案内歯車を備え、前記第1の仕上げ用歯車、第2の仕上げ用歯車、及び、前記案内歯車により、被加工歯車を心なし状態で回転駆動するように構成したことを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記仕上げ用歯車により被加工歯車をラップ仕上げすることを特徴とする。
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、ブレーキトルク生成手段が電磁気力により非接触で生成するブレーキトルクは、適度な大きさで安定したものとなる。このブレーキトルクにより、適度な大きさの加工負荷が仕上げ用歯車及び非加工歯車に連続して加えられる。このため、歯の歯面の仕上げ処理に要する時間が短縮されるとともに、仕上げ処理による歯形の変形が抑制される。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、ブレーキトルクの大きさが設定値に精度良く維持されるため、被加工歯車の歯形の変形が有効に抑制されるとともに、歯面の仕上げ処理に要する時間が有効に短縮される。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、駆動用モータ及びブレーキ用モータの少なくとも一方の回転数を変化させることにより、ブレーキトルクの大きさを制御によって変更することができるため、被加工歯車の仕上げ処理中に加工負荷の大きさを変更することができる。従って、例えば、被加工歯車の各歯に対する仕上げ処理の程度を各歯の幅すじ方向において意図的に変化させたり、あるいは、均一化させたりすることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、第1の仕上げ用歯車と、第2の仕上げ用歯車とにより、被加工歯車の各歯の両歯面が同時に仕上げ処理される。従って、1つの被加工歯車に対する仕上げ処理を、歯車仕上げ装置に対して被加工歯車を装着し直すことなく行うことができるため、仕上げ処理に要する時間が短縮される。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、被加工歯車の各歯の仕上げ処理に作用する第1の仕上げ用歯車及び第2の仕上げ用歯車の少なくともいずれか一方の各歯が順次入れ替わる。このため、被加工歯車の各歯間における仕上げ処理の程度のばらつきが抑制される。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、歯車仕上げ装置に対する被加工歯車の取り付け及び取り外しが容易となる。このため、1つの被加工歯車の仕上げ処理に要する時間が短縮される。
【0017】
請求項7に記載の発明によれば、歯車の歯面のラップ仕上げを行う歯車仕上げ装置において、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の作用が発揮される。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、適度で安定した大きさの加工負荷を連続して被加工歯車に加えることにより、歯の歯面の仕上げ処理に要する時間を短縮することができ、しかも、仕上げ処理による歯形の変形を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1実施形態)
次に、この発明を、外歯車用の歯車ラップ装置に具体化した第1実施形態について図1〜図8を用いて説明する。この歯車ラップ装置は、外歯車よりなる被加工歯車を心なし状態で支持する構成を備えている。
【0020】
図1、図2及び図3に示すように、歯車仕上げ装置としての歯車ラップ装置10の基台11上には、駆動側ラップ歯車支持部12の駆動側移動台15が、第1スライド機構13を介して図1に矢印cで示す左右方向において移動可能に支持されている。そして、駆動側ラップ歯車支持部12は、駆動側移動ハンドル14によって矢印c方向に移動されるとともに任意の位置に位置決めされる。駆動側移動台15には、駆動側支持軸16が回動可能に支持されるとともに、その端部には、第2スライド機構17を介して駆動側フレーム18が支持されている。駆動側支持軸16は、手動操作によってON/OFFされるサーボモータにより回動されるとともに任意の回動位置に位置決めされる。前記駆動側フレーム18は、第2スライド機構17を介して駆動側支持軸16の中心軸に対する径方向において移動可能であるとともに、サーボモータよりなる駆動側シフトモータ19により同方向において往復移動される。
【0021】
前記駆動側フレーム18には、駆動用モータ20が固定支持されるとともに、駆動側ラップ歯車21を支持するための支持軸22が設けられている。駆動用モータ20の出力軸は、図示しない伝達経路を介して支持軸22に連結される。駆動側ラップ歯車21の中心軸線は、前記駆動側支持軸16の回動により、水平方向から例えば上向きに最大45°まで、及び、水平方向から下向きに最大−45°までの任意の傾斜角度に配置される。駆動用モータ20には、例えばサーボモータが用いられる。また、駆動側ラップ歯車21には、例えばモノマーキャスト(MC)ポリアミド系合成樹脂製のものが用いられる。
【0022】
図1、図4及び図5に示すように、前記基台11上には、ブレーキ側ラップ歯車支持部25のブレーキ側移動台28が、第3スライド機構26を介して図1に矢印cで示す左右方向において移動可能に支持されている。そして、ブレーキ側ラップ歯車支持部25は、ブレーキ側移動ハンドル27によって矢印c方向に移動されるとともに任意の位置に位置決めされる。ブレーキ側移動台28には、前記駆動側支持軸16と中心軸線を共有するブレーキ側支持軸29が回動可能に支持されるとともに、その端部には、第4スライド機構30を介してブレーキ側フレーム31が支持されている。ブレーキ側支持軸29は、手動操作によってON/OFFされるサーボモータにより回動されるとともに任意の回動位置に位置決めされる。前記ブレーキ側フレーム31は、第4スライド機構30を介してブレーキ側支持軸29の中心軸線に対する径方向において移動可能であるとともに、サーボモータよりなるブレーキ側シフトモータ32により同方向において往復移動される。
【0023】
前記ブレーキ側フレーム31には、ブレーキトルク生成手段としてのブレーキ用モータ33が固定支持されるとともに、ブレーキ側ラップ歯車34を支持するための支持軸23が設けられている。ブレーキ用モータ33の出力軸は、図示しない伝達経路を介して支持軸23に連結される。ブレーキ側ラップ歯車34の中心軸線は、前記ブレーキ側支持軸29の回動により、水平方向から上向きに最大45°まで、及び、水平方向から下向きに最大−45°までの任意の傾斜角度に配置される。そして、ブレーキ側ラップ歯車34の中心軸線の傾斜角度は、前記駆動側ラップ歯車21の同傾斜角度に対し、水平方向を挟んで上下逆向きに、かつ、同じ大きさに設定される。また、この実施形態において、ブレーキ側ラップ歯車34の歯数は、駆動側ラップ歯車21の歯数と同じに設定されている。
【0024】
この駆動トルク伝達経路上には、ブレーキ用モータ33の出力軸に加わるトルクを検出するための検出手段としてのトルク検出器35が配設されている。ブレーキ用モータ33には、例えば前記駆動用モータ20と同様なサーボモータが用いられる。また、ブレーキ側ラップ歯車34には、例えば駆動側ラップ歯車21と同様にMCポリアミド系合成樹脂製のものが用いられる。この実施形態においては、第1の仕上げ用歯車としての駆動側ラップ歯車21と、第2の仕上げ用歯車としてのブレーキ側ラップ歯車34とが仕上げ用歯車を構成する。
【0025】
図3及び図5に示すように、前記基台11上には、被加工歯車案内機構40が昇降機構41を介して配設されている。被加工歯車案内機構40は、昇降ハンドル42によって昇降機構41が操作されることにより昇降されるとともに任意の位置に位置決めされる。被加工歯車案内機構40の歯車支持台43には、案内歯車44が水平軸線上において回転自在に支持されている。この案内歯車44の回転中心軸線は、前記駆動側支持軸16及びブレーキ側支持軸29の中心軸線に対する垂直面上に位置している。案内歯車44には、前記両ラップ歯車21,34と同様にMCポリアミド系合成樹脂製のものが用いられる。
【0026】
図1及び図6に示すように、前記基台11上には、外歯車からなる被加工歯車50を回転可能に保持する被加工歯車保持部51が支持台52を介して配設されている。図6に示すように、被加工歯車保持部51の基台53上には、往復移動される移動部材55が配置されている。移動部材55は、自動制御される送りモータ54によって水平方向に往復移動される。移動部材55には、前記水平方向に延びる支持軸56が固定され、この支持軸56の端部には、下向きに開いた支持部材57が固定支持されている。支持部材57における手前側の板片には、円形の固定側保持板58が固定されている。また、支持部材57における奥側の板片には、送りねじを備えるとともに手動操作される位置調節機構59が設けられ、この位置調節機構59により、固定側保持板58に対面する円形の可動側保持板60が前記水平方向において位置調節可能に支持されている。固定側保持板58と可動側保持板60との間には、被加工歯車50が起立した状態で保持される。
【0027】
図1〜図5に示すように、前記基台11上には、前記駆動側ラップ歯車21と被加工歯車50との間、及び、ブレーキ側ラップ歯車34と被加工歯車50との間にラップ液を供給するラップ液供給装置61が、支柱62を介して配設されている。
【0028】
図7に示すように、前記駆動側シフトモータ19、駆動用モータ20、ブレーキ側シフトモータ32、ブレーキ用モータ33、トルク検出器35及び送りモータ54は、制御手段としての制御部63に対して電気的に接続されている。前記駆動用モータ20及びブレーキ用モータ33は、制御部63により、予め設定されたラップ仕上げ時間ずつ回転制御される。すなわち、駆動用モータ20は、被加工歯車50、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34のサイズ、被加工歯車50及び両ラップ歯車21,34の種類、ラップ剤の粒度、被加工歯車50における歯面の仕上げ表面粗さ等の条件に基づいて予め設定されている所定の第1回転数を目標指令回転数として制御部63により回転制御される。ブレーキ用モータ33は、第1回転数よりも低い値に設定された所定の第2回転数を目標指令回転数として制御部63により回転制御される。また、ブレーキ用モータ33の目標指令回転数は、制御部63がトルク検出器35から入力するブレーキトルクの検出値に基づいて第2回転数から可変制御される。そして、この可変制御により、ブレーキトルクの検出値が予め設定されているトルク目標値に維持される。前記駆動側シフトモータ19、ブレーキ側シフトモータ32及び送りモータ54は、1つの被加工歯車50に対するラップ仕上げ時間の間に、制御部63によって所定時間毎に回転方向が切り替えられる。
【0029】
次に、前記のように構成された歯車ラップ装置の動作について説明する。
この実施形態の歯車ラップ装置10によって歯面のラップ仕上げを行うことができる被加工歯車50(外歯車)の種類は、平歯車、又は、ハスバ歯車である。平歯車をラップ仕上げする場合には、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34として、ねじれ方向が同一で、かつ、適度な大きさのねじれ角(例えば30°)を有するハスバ歯車が用いられる。これは、両ラップ歯車21,34と被加工歯車とに歯すじ方向のすべり運動を与え、被加工歯車50の歯面全体が均一にラップ仕上げされるようにするためである。この場合、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34は、図2〜図5に示すように、それぞれが被加工歯車50に噛み合うように、互いに逆方向に傾斜した状態で支持される。
【0030】
駆動側ラップ歯車21の中心軸線の傾斜角は、駆動側ラップ歯車支持部12の駆動側支持軸16の回動位置を調節することにより設定される。ブレーキ側ラップ歯車34の中心軸線の傾斜角は、ブレーキ側ラップ歯車支持部25のブレーキ側支持軸29の回動位置を調節することにより設定される。なお、ハスバ歯車をラップ仕上げする場合、そのねじれ角が例えば30°であるときには、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34として平歯車を用いる。また、ラップ仕上げするハスバ歯車のねじれ角が例えば10°であるときには、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34として、ねじれ方向が被加工歯車のねじれ方向とは逆方向であり、かつ、ねじれ角の大きさが例えば20°であるハスバ歯車を用いる。なお、前記駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34の歯数と、被加工歯車50の歯数とは、その一方が他方によって割り切れないように設定される。すなわち、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34の歯数は、例えば50とされ、被加工歯車50の歯数は、例えば51とされる。これは、記駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34と、被加工歯車50との間で同じ歯同士が噛み合わないようにするためである。
【0031】
被加工歯車50を歯車ラップ装置10にセットするには、まず被加工歯車50を駆動側ラップ歯車21に噛み合わせた状態で駆動用モータ20が低速運転される。すると、被加工歯車50は、駆動側ラップ歯車21の回動に伴ってブレーキ側ラップ歯車34側へ移動する。この結果、被加工歯車50は、被加工歯車保持部51の固定側保持板58と可動側保持板60との間に入り込む。なお、両保持板58,60と被加工歯車50との間には、被加工歯車50を回転自在な状態で保持するための隙間(例えば、0.2mm)が設けられている。すると、被加工歯車50は、図6に示すように、固定側保持板58と可動側保持板60との間において回転可能な状態で保持されるとともに、図8に示すように、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44にそれぞれ噛み合った状態となる。この結果、被加工歯車50は、心なし状態で回転可能に保持される。なお、案内歯車44の位置(高さ)は、被加工歯車50の直径に応じて被加工歯車案内機構40の昇降機構41を手動操作することにより設定される。また、駆動側ラップ歯車21と被加工歯車50との間隔は、被加工歯車50の半径に応じて駆動側ラップ歯車支持部12の第1スライド機構13を手動操作することにより設定され、ブレーキ側ラップ歯車34と被加工歯車50との間隔は、ブレーキ側ラップ歯車支持部25の第3スライド機構26を手動操作することにより設定される。
【0032】
この状態において、制御部63により、駆動用モータ20が第1回転数(例えば2000rpm)を目標指令回転数として運転制御されるとともに、ブレーキ用モータ33が、第1回転数よりも低い第2回転数(例えば1960rpm)を目標指令回転数として運転制御される。すると、図8に示すように、駆動用モータ20によって駆動側ラップ歯車21が回転駆動されるとともに、この駆動側ラップ歯車21により被加工歯車50が回転駆動され、さらに、被加工歯車50によりブレーキ側ラップ歯車34が回転駆動される。このとき、ブレーキ側ラップ歯車34は、駆動側ラップ歯車21と同じ歯数であることから、駆動側ラップ歯車21と同じ回転数で回される状態となる。一方、駆動用モータ20の目標指令回転数である第1回転数よりも低い第2回転数を目標指令回転数として運転されるブレーキ用モータ33は、駆動用モータ20から伝達される駆動トルクに対するブレーキトルクを発生させる。すなわち、ブレーキ用モータ33は、駆動用モータ20から入力される駆動トルクに対し、電磁気力によってその回転数の増大を阻止しようとする。従って、ブレーキ用モータ33は、電磁気力により非接触で自身の回転子の回転にブレーキをかけた状態となり、駆動用モータ20によって回転される方向と逆方向のブレーキトルクを発生する。そして、このブレーキトルクにより、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34と、被加工歯車50との間に加工負荷が加えられる。この加工負荷の大きさは、ブレーキトルクの大きさに対応する。
【0033】
一方、駆動側ラップ歯車21と被加工歯車50との噛み合い部、及び、被加工歯車50とブレーキ側ラップ歯車34との噛み合い部には、ラップ液供給装置61からラップ液が供給される。この結果、駆動側ラップ歯車21によって被加工歯車50における各歯の一方の歯面がラップ仕上げされるとともに、ブレーキ側ラップ歯車34によって被加工歯車50における各歯の他方の歯面がラップ仕上げされる。このとき、ブレーキ用モータ33が生成する加工負荷により、被加工歯車50の各歯の両歯面に対するラップ仕上げの効率が高まる。
【0034】
ブレーキ用モータ33によりブレーキ側ラップ歯車34に加えられるブレーキトルクは、トルク検出器35により検出される。そして、このブレーキトルクが設定値に維持されるように、制御部63によりブレーキ用モータ33の目標指令回転数が第2回転数から可変制御される。このため、両ラップ歯車21,34及び被加工歯車50には、適度な大きさの加工負荷が連続して加えられる。
【0035】
また、駆動用モータ20及びブレーキ用モータ33の運転に伴って、制御部63により、駆動側シフトモータ19及びブレーキ側シフトモータ32の回転方向が所定時間毎に切り替えられる。この両ラップ歯車21,34の回転方向の切り替えにより、被加工歯車50に対する駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34の歯すじ方向における噛み合い位置が変更され、両ラップ歯車21,34の歯面全体によって被加工歯車50がラップ仕上げされる。
【0036】
さらに、制御部63により送りモータ54の回転方向が所定時間毎に切り替えられ、被加工歯車50がその中心軸線方向に往復動作する。この被加工歯車50の往復動作により、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34に対する被加工歯車50の歯すじ方向における噛み合い位置が変更され、被加工歯車50の歯面全体が両ラップ歯車21,34によってラップ仕上げされる。従って、被加工歯車50の歯面は、適度な大きさの加工負荷により効率良くラップ仕上げされ、その面粗度が短時間で向上する。
【0037】
ラップ仕上げの終了後に被加工歯車50を歯車ラップ装置10から取り外すには、被加工歯車50を駆動側ラップ歯車21に噛み合わせた状態を保持しながら駆動用モータ20を停止状態から低速運転させる。すると、被加工歯車50は、駆動側ラップ歯車21の回動に伴ってブレーキ側ラップ歯車34との噛み合い状態から離脱するとともに、被加工歯車保持部51の両保持板58,60の間から外側へ移動する。この結果、被加工歯車50は、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44と噛み合わない状態となり取り出すことが可能となる。
【0038】
以上詳述したこの実施形態は、以下の効果を有する。
(1) 加工負荷を得るためのブレーキトルクを、ブレーキ用モータ33の電磁気力により非接触で生成するようにした。このため、ブレーキ用モータ33により適度な大きさのブレーキトルクが安定して生成され、このブレーキトルクにより、適度な大きさの加工負荷が連続して両ラップ歯車21,34及び被加工歯車50に付与される。従って、被加工歯車50の歯面のラップ仕上げに伴う歯形の変形を抑制するとともに、ラップ仕上げに要する時間を短縮することができる。
【0039】
(2) ブレーキトルクの大きさをトルク検出器35により検出し、この検出値に基づいてブレーキ用モータ33の目標指令回転数を制御することにより、ブレーキトルクの大きさを設定値に維持するようにした。従って、ブレーキトルクの大きさが設定値に精度良く維持されるため、被加工歯車50の歯形の変形を有効に抑制するともに、歯面のラップ仕上げに要する時間を有効に短縮することができる。
【0040】
(3) 駆動用モータ20から入力された駆動トルクを被加工歯車50に伝達する駆動側ラップ歯車21と、被加工歯車50から駆動トルクが伝達されるブレーキ側ラップ歯車34とを被加工歯車50に噛み合わせ、両ラップ歯車21,34によって被加工歯車50をラップ仕上げするようにした。このため、被加工歯車50の各歯の両歯面が同時にラップ仕上げされる。従って、1つの被加工歯車50に対するラップ仕上げを、歯車ラップ装置10に対して被加工歯車50を装着し直すことなく行うことができるため、ラップ仕上げに要する時間を短縮することができる。
【0041】
(4) 駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34の歯数と、被加工歯車50の歯数とを、その一方が他方によって割り切れないように設定した。従って、被加工歯車50の各歯のラップ仕上げに作用する両ラップ歯車21,34の歯が順次入れ替わるため、被加工歯車50の各歯間におけるラップ仕上げの程度のばらつきが抑制される。
【0042】
(5) 駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44により、外歯車からなる被加工歯車50を心なし状態で保持するように構成した。このため、歯車ラップ装置10に対する被加工歯車50の取り付け及び取り外しを容易に行うことができ、1つの被加工歯車50のラップ仕上げに要する時間を短縮することができる。
【0043】
(第2実施形態)
次に、この発明を、内歯車用の歯車ラップ装置に具体化した第2実施形態について図9〜図15を用いて説明する。なお、この第2実施形態においては、前記第1実施形態における被加工歯車案内機構40に代えて別の構成の被加工歯車案内機構71を設け、また、被加工歯車保持部51に代えて別の構成の被加工歯車保持機構77を設けている。このため、被加工歯車案内機構71及び被加工歯車保持機構77以外の第1実施形態と共通の構成については、符号を同じにしてその説明を省略する。
【0044】
図9及び図10に示すように、歯車仕上げ装置としての歯車ラップ装置70は、前記駆動側ラップ歯車支持部12(図示せず)とブレーキ側ラップ歯車支持部25との間に、案内歯車44を支持した被加工歯車案内機構71を備えている。被加工歯車案内機構71は、前記基台11の底板11a上に設置された昇降機構72を備え、この昇降機構72によって昇降される支持板73上には、前記案内歯車44を支持した支持軸74が一対の支持部75a,75bを介して支持されている。昇降機構72は、図示しない昇降ハンドルによって操作され、案内歯車44の高さを設定する。
【0045】
被加工歯車案内機構71の正面側には、内歯車からなる被加工歯車76を回転可能に保持する被加工歯車保持機構77が設けられている。図11,12に示すように、被加工歯車保持機構77において前記底板11a上に設置された副基台78には一対のレール79が配設され、この両レール79上には、前記案内歯車44の中心軸線方向に沿って移動可能な被加工歯車保持台80が支持されている。図9,10に示すように、被加工歯車保持台80は、送りモータ81を備えた送り機構82によって同中心軸線方向に送られる。被加工歯車保持台80は、送り機構82の作動により、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34によるラップ仕上げが行われる加工位置(図9に図示)と、被加工歯車保持台80に対する被加工歯車76の取り付け及び取り外しを行うための準備位置(図10に図示)とに切り替えられる。さらに、被加工歯車保持台80は、送り機構82の作動により、加工位置を基準とする所定の移動範囲内において往復移動される。
【0046】
図9〜12に示すように、被加工歯車保持台80は、前記レール79上に支持された移動部材83を備え、この移動部材83上には、案内歯車44の中心軸線に対して直交する水平方向に沿って移動可能な一対の被加工歯車保持部材84a,84bが支持されている。一対の被加工歯車保持部材84a,84bは、移動部材83との間に設けられるとともに正ねじ軸及び逆ねじ軸を備えるとともに手動操作される位置調節機構85により、互いに接近又は離間するように移動される。
【0047】
図10,11,13,14に示すように、各被加工歯車保持部材84a,84bの支持壁86a,86bにおいて、前記被加工歯車案内機構71側の側面には、被加工歯車76の両側面の一方に当接される4つの固定側保持ローラ87が支持部材88を介して支持されている。
【0048】
また、図10〜14に示すように、被加工歯車保持部材84a,84bの支持壁86a,86bにおいて、前記被加工歯車案内機構71側とは反対側の側面には、被加工歯車76の外周面に当接する複数の周面保持ローラ89が支持板90を介して支持されている。各周面保持ローラ89は、支持板90の回動により、被加工歯車76の外径の大きさに応じて位置調節可能となっている。
【0049】
また、図11,12,13,14に示すように、被加工歯車保持部材84a,84bの支持壁86a,86bにおいて、周面保持ローラ89が設けられた側面には、被加工歯車76の両端面の他方に当接される4つの可動側保持ローラ91がガイド付きシリンダ92を介して支持されている。可動側保持ローラ91は、ガイド付きシリンダ92の作動により、被加工歯車76の端面に当接可能な保持位置(図12,14に示す状態)と、同端面に当接不能な退避位置(図11,13に示す状態)とに切り替えられる。
【0050】
図15に示すように、前記被加工歯車保持機構77の送りモータ81は、前記駆動側シフトモータ19、駆動用モータ20、ブレーキ側シフトモータ32、ブレーキ用モータ33及びトルク検出器35とともに制御部63に対して電気的に接続されている。送りモータ81は、駆動側シフトモータ19及び駆動用モータ20とともに、1つの被加工歯車76に対する所定のラップ仕上げ時間の間に、制御部63によって所定時間毎に回転方向が切り替えられる。
【0051】
次に、前記のように構成された歯車ラップ装置の動作について説明する。
この実施形態の歯車ラップ装置70は、被加工歯車76として、平歯、又は、ハスバを有する内歯車の歯面のラップ仕上げを行うことができる。平歯を有する内歯車をラップ仕上げする場合には、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34として、ねじれ方向が同一で、かつ、適度な大きさのねじれ角を有するハスバ外歯車を用いる。この場合、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34は、第1実施形態と同様に、それぞれが被加工歯車76に噛み合うように、互いに逆方向に傾斜した状態で支持される。
【0052】
被加工歯車保持機構77への被加工歯車76の取り付けは、図9に示すように、被加工歯車保持台80を準備位置に配置するとともに、図11,13に示すように、可動側保持ローラ91を退避位置に切り替えた状態で行われる。
【0053】
被加工歯車保持機構77へ被加工歯車76を取り付けるには、まず被加工歯車76を、両被加工歯車保持部材84a,84b間に配置し、被加工歯車76の両端面の一方を各固定側保持ローラ87に当接させるとともに、被加工歯車76の外周面を各周面保持ローラ89に当接させる。次に、この状態において両ガイド付きシリンダ92を作動させ、可動側保持ローラ91を退避位置から保持位置に切り替える。すると、各可動側保持ローラ91は、被加工歯車76の両端面の他方に当接する。この結果、図12,14に示すように、被加工歯車76は、その外周面に当接する複数の周面保持ローラ89と、その両側面に当接する複数の固定側保持ローラ87及び可動側保持ローラ91によって回転可能な状態で保持される。そして、被加工歯車76、図16に示すように、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44にそれぞれ噛み合った状態となる。この結果、被加工歯車76は、被加工歯車保持機構77によって心なし状態で回転可能に保持される。なお、案内歯車44の高さは、被加工歯車76の直径に応じて昇降機構72を手動操作することにより設定される。また、周面保持ローラ89の位置は、被加工歯車76の直径に応じて各支持板90の位置を調節することにより設定される。
【0054】
次に、被加工歯車保持機構77の送りモータ81を作動させ、被加工歯車保持台80を準備位置から加工位置に移動させる。すると、被加工歯車76に、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44がそれぞれ噛み合う。このとき、固定側保持ローラ87、周面保持ローラ89及び可動側保持ローラ91により回動可能に支持されている被加工歯車76には、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44が容易に噛み合う。
【0055】
この状態において、駆動用モータ20、ブレーキ用モータ33、駆動側シフトモータ19、ブレーキ側シフトモータ32及び送りモータ81を制御部63によって運転制御させると、駆動側ラップ歯車21によって被加工歯車76が回転駆動されるとともに、被加工歯車76を介してブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44が回転駆動される。このとき、ブレーキ用モータ33のブレーキトルクに基づく加工負荷が、駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び被加工歯車76に付与される。このため、この加工負荷により、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34による被加工歯車76の歯の両面に対するラップ仕上げが行われる。
【0056】
また、1つの被加工歯車76に対する所定のラップ仕上げ中に送りモータ81の回転方向が所定時間毎に切り替えられ、被加工歯車保持台80が加工位置を基準とする移動範囲内を往復移動される。この被加工歯車76の往復移動により、被加工歯車76の各歯の歯面全体が両ラップ歯車21,34によってラップ仕上げされる。
【0057】
被加工歯車76に対するラップ仕上げが終了した後、被加工歯車76を被加工歯車保持機構77から取り外すには、送りモータ81を作動させて被加工歯車保持台80を加工位置から準備位置まで移動させる。次に、各ガイド付きシリンダ92を作動させ、各可動側保持ローラ91を保持位置から退避位置に退避させる。この結果、被加工歯車76は、被加工歯車保持機構77から取り出し可能となる。
【0058】
以上詳述したこの実施形態は、前記第1実施形態における(1)〜(4)に記載の各効果に加えて、以下の効果を有する。
(6) 駆動側ラップ歯車21、ブレーキ側ラップ歯車34及び案内歯車44に加えて、複数の周面保持ローラ89、固定側保持ローラ87及び可動側保持ローラ91によって、内歯車からなる被加工歯車76を心なし状態で保持するように構成した。このため、歯車ラップ装置10に対する被加工歯車76の取り付け及び取り外しを容易に行うことができ、1つの被加工歯車76のラップ仕上げに要する時間を短縮することができる。
【0059】
(その他の実施形態)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 第1又は第2実施形態において、前記駆動側ラップ歯車21の歯数と、ブレーキ側ラップ歯車34の歯数とを互いに異ならせる。この場合であっても、駆動用モータ20による被加工歯車50の回転数よりもブレーキ用モータ33による被加工歯車50の回転数が小さければ、ブレーキ用モータ33によりブレーキトルクが生成される。
【0060】
・ 第1又は第2実施形態において、前記駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34のいずれか一方の歯数と、被加工歯車50,76の歯数とを、その一方が他方によって割り切れないように設定する。一方、両ラップ歯車21,34の他方の歯数と、被加工歯車50,76の歯数とを、その一方が他方によって割り切れるように設定する。この場合、被加工歯車50の各歯のラップ処理に作用する駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34のいずれか一方の各歯が順次入れ替わる。従って、被加工歯車50の各歯間において、駆動側ラップ歯車21及びブレーキ側ラップ歯車34のいずれか一方によってラップ処理される歯面におけるラップ処理の程度のばらつきが抑制される。
【0061】
・ 被加工歯車50,76のラップ仕上げ中において、例えば被加工歯車50,76の中心軸線方向における往復移動の半ストロークに対応する周期で、ブレーキ用モータ33を第2回転数からより低い回転数に一時的に変化させる。すなわち、被加工歯車50,76の各歯の歯面に対する加工負荷の大きさを、各歯の歯すじ方向において変化させる。この場合には、被加工歯車50,76の各歯の歯面において、その歯すじ方向における両側部のラップ仕上げの程度を、その中央部におけるラップ仕上げの程度よりも高くすることができる。従って、被加工歯車50,76の歯の歯形が悪いときに各歯の歯形を歯すじ方向において均一化させたり、あるいは、各歯の歯形を歯すじ方向において意図的に変化させたりすることができる。
【0062】
・ 第1又は第2実施形態において、駆動用モータ20からブレーキ用モータ33に伝達されるトルクの大きさを、ブレーキ用モータ33が発生するトルクの大きさよりも大きく設定する。さらに、駆動用モータ20から伝達されるトルクによってブレーキ用モータ33の回転子が回転される方向とは逆方向にブレーキ用モータ33を回転駆動するための駆動信号をブレーキ用モータ33に入力する。そして、この状態において、ブレーキ用モータ33により発生されるブレーキトルクを加工負荷とする。
【0063】
・ 第1又は第2実施形態において、前記ブレーキトルク生成手段として、ブレーキ用モータ33に代えてヒステリシスブレーキを用いる。このヒステリシスブレーキにおいては、励磁コイルによって磁束が供給される内側及び外側のヨークの間に、回転リングが非接触状態で挟まれている。そして、ブレーキ力は、両ヨークを流れる磁束が回転リングを貫くときに両ヨークと回転リングとの間に発生する磁気摩擦によって生成される。この場合においても、ヒステリシスブレーキにより適度な大きさのブレーキトルクが安定した状態で生成され、このブレーキトルクに対応した加工負荷が両ラップ歯車21,34及び被加工歯車50(76)に連続して付与される。
【0064】
・ 第1実施形態において、被加工歯車50の上方から同被加工歯車50に噛み合う第2の案内歯車を設け、両ラップ歯車21,34、案内歯車44及び第2の案内歯車によって、被加工歯車50を心なし状態で保持する構成とする。この第2の案内歯車は、例えば被加工歯車保持部51の支持部材57に対し上下位置が調節可能に支持される。そして、歯車ラップ装置10に対する被加工歯車50の取り付け又は取り外し時には、第2の案内歯車を被加工歯車50から退避させることができるようにする。この場合には、ラップ仕上げに伴う被加工歯車50の径方向における無駄な動きを有効に抑制し、歯形の変形を有効に抑制することができる。
【0065】
・ 第1実施形態の被加工歯車保持部51において、固定側保持板58及び可動側保持板60をそれぞれ回転可能に支持部材57に支持させるとともに、両保持板58,60により被加工歯車保持部51を挟持する構成とする。このような構成では、被加工歯車50の軸方向及び径方向における無駄な動きが抑制され、被加工歯車50の各歯面が精度良くラップ仕上げされる。
【0066】
・ 第1実施形態において、心なし構成ではなく、被加工歯車50を支持軸に対し相対回転不能に支持させるとともに、ブレーキ側ラップ歯車34を設けない構成とする。この場合には、被加工歯車50の支持軸に対してブレーキ用モータ33を作動連結することにより、ブレーキトルクを被加工歯車50に直接付与する。
【0067】
また、被加工歯車50を支持軸に対して相対回転不能に支持させるとともにブレーキ側ラップ歯車34を設けない構成とした歯車ラップ装置10において、駆動用モータ20を被加工歯車50の支持軸に作動連結するとともに、ブレーキ用モータ33を駆動側ラップ歯車21に作動連結した構成とする。この場合には、ブレーキ用モータ33から駆動側ラップ歯車21にブレーキトルクが直接付与される。
【0068】
・ 第1の実施形態において、案内歯車44に代えて、被加工歯車50の外周面に当接する斜面を有する案内部材を設けた構成とする。この場合には、被加工歯車50がハスバ歯車であるときに、両ラップ歯車21,34及び案内部材によって被加工歯車50が心なし状態で回転駆動される。
【0069】
・ この発明を、仕上げ用歯車としてのシェービングカッターにより、被加工歯車50の歯を仕上げ切削する歯車仕上げ装置としての歯車シェービング装置に具体化する。
・ この発明を、仕上げ用歯車としてのホーニング砥石により、被加工歯車50の歯面を仕上げ研削する歯車仕上げ装置としての歯車ホーニング装置に具体化する。
【0070】
以下、上記各実施形態から把握される技術的思想を記載する。
・ 請求項4または請求項5に記載の歯車仕上げ装置において、前記被加工歯車の外周面に当接する案内部材を備え、前記第1の仕上げ用歯車、第2の仕上げ用歯車、及び、前記案内部材により、被加工歯車を心なし状態で回転駆動するように構成したことを特徴とする歯車仕上げ装置。このような構成によれば、歯車仕上げ装置に対する被加工歯車の取り付け及び取り外しが容易となる。このため、1つの被加工歯車の仕上げ処理に要する時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1実施形態の歯車ラップ装置を示す正面図。
【図2】同じく右側面図。
【図3】図1におけるa−a断面図。
【図4】歯車ラップ装置を示す左側面図。
【図5】図1におけるb−b断面図。
【図6】被加工歯車保持機構を示す側面図。
【図7】電気的構成を示すブロック図。
【図8】被加工歯車、駆動側ラップ歯車、ブレーキ側ラップ歯車及び案内歯車の噛み合い状態を示す模式図。
【図9】第2実施形態の歯車ラップ装置の要部を示す縦断面図。
【図10】同じく要部を示す縦断面図。
【図11】図10におけるe−e線断面図。
【図12】図9におけるd−d線断面図。
【図13】図11におけるf−f線断面図。
【図14】図12におけるg−g線断面図。
【図15】電気的構成を示すブロック図。
【図16】被加工歯車、駆動側ラップ歯車、ブレーキ側ラップ歯車及び案内歯車の噛み合い状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0072】
10…歯車仕上げ装置としての歯車ラップ装置、20…駆動用モータ、21…仕上げ用歯車及び第1の仕上げ用歯車としての駆動側ラップ歯車、33…ブレーキトルク生成手段としてのブレーキ用モータ、34…仕上げ用歯車及び第2の仕上げ用歯車としてのブレーキ側ラップ歯車、35…検出手段としてのトルク検出器、44…案内歯車、50…被加工歯車、63…制御手段としての制御部、70…歯車仕上げ装置としての歯車ラップ装置、76…被加工歯車。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕上げ用歯車と被加工歯車とを噛み合わせ、そのいずれか一方に駆動用モータから駆動トルクを作用させるとともに他方に対してブレーキトルクを作用させることより、そのブレーキトルクの大きさに対応する加工負荷を両歯車間に付与するように構成した歯車仕上げ装置であって、
前記ブレーキトルクを、電磁気力により非接触で生成するブレーキトルク生成手段を備えたことを特徴とする歯車仕上げ装置。
【請求項2】
前記ブレーキトルクの大きさを検出する検出手段と、
そのブレーキトルクの大きさに基づいて前記ブレーキトルク生成手段を制御する制御手段とを備え、
同制御手段は、同ブレーキトルクの大きさを設定値に維持させることを特徴とする請求項1に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項3】
前記ブレーキトルク生成手段は、前記駆動用モータから前記被加工歯車に作用される被加工歯車の回転数と、ブレーキ用モータから同被加工歯車に作用される被加工歯車の回転数との間に差を持たせることによってブレーキトルクを発生させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項4】
前記駆動用モータの駆動トルクを前記被加工歯車に伝達する第1の仕上げ用歯車と、同被加工歯車から駆動トルクが伝達される第2の仕上げ用歯車とにより前記仕上げ用歯車を構成したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項5】
前記第1の仕上げ用歯車及び前記第2の仕上げ用歯車の少なくともいずれか一方の歯数と、前記被加工歯車の歯数とを、その一方が他方によって割り切れないように設定したことを特徴とする請求項4に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項6】
回転自在に支持されるとともに前記被加工歯車に噛み合わされる案内歯車を備え、前記第1の仕上げ用歯車、第2の仕上げ用歯車、及び、前記案内歯車により、被加工歯車を心なし状態で回転駆動するように構成したことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項7】
前記仕上げ用歯車により被加工歯車をラップ仕上げすることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項1】
仕上げ用歯車と被加工歯車とを噛み合わせ、そのいずれか一方に駆動用モータから駆動トルクを作用させるとともに他方に対してブレーキトルクを作用させることより、そのブレーキトルクの大きさに対応する加工負荷を両歯車間に付与するように構成した歯車仕上げ装置であって、
前記ブレーキトルクを、電磁気力により非接触で生成するブレーキトルク生成手段を備えたことを特徴とする歯車仕上げ装置。
【請求項2】
前記ブレーキトルクの大きさを検出する検出手段と、
そのブレーキトルクの大きさに基づいて前記ブレーキトルク生成手段を制御する制御手段とを備え、
同制御手段は、同ブレーキトルクの大きさを設定値に維持させることを特徴とする請求項1に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項3】
前記ブレーキトルク生成手段は、前記駆動用モータから前記被加工歯車に作用される被加工歯車の回転数と、ブレーキ用モータから同被加工歯車に作用される被加工歯車の回転数との間に差を持たせることによってブレーキトルクを発生させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項4】
前記駆動用モータの駆動トルクを前記被加工歯車に伝達する第1の仕上げ用歯車と、同被加工歯車から駆動トルクが伝達される第2の仕上げ用歯車とにより前記仕上げ用歯車を構成したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項5】
前記第1の仕上げ用歯車及び前記第2の仕上げ用歯車の少なくともいずれか一方の歯数と、前記被加工歯車の歯数とを、その一方が他方によって割り切れないように設定したことを特徴とする請求項4に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項6】
回転自在に支持されるとともに前記被加工歯車に噛み合わされる案内歯車を備え、前記第1の仕上げ用歯車、第2の仕上げ用歯車、及び、前記案内歯車により、被加工歯車を心なし状態で回転駆動するように構成したことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の歯車仕上げ装置。
【請求項7】
前記仕上げ用歯車により被加工歯車をラップ仕上げすることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の歯車仕上げ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−110427(P2008−110427A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294465(P2006−294465)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(391005466)株式会社カシフジ (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(391005466)株式会社カシフジ (6)
【Fターム(参考)】
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