説明

歯車変速機

【課題】 潤滑用補器の位置を適当に定めることにより、低速回転時にも、潤滑の必要な軸受に対して十分な量のオイルを供給できるようにする。
【解決手段】 歯車シャフト30と、軸受32A、32Bと、それらを内部に収容するハウジング21とを備えた歯車変速機において、ハウジング21内に、オイル溜まりPから掻き上げられたオイルを受けると共に、受けたオイルを、オイル溜まりPに直接浸らない高さに位置する軸受32A、32Bに対して導く潤滑用補器50、60を設ける。これら潤滑用補器50、60を、歯車38、39の噛み合い部の側方で、且つ噛み合い部より低い位置に配置する。オイル溜まりPのレベルPLは少なくとも一方の歯車39の下端が浸る高さに設定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歯車変速機(減速機、増速機)、特にエスカレータ、エレベータ、あるいはスキー場のリフト装置のような大型の駆動用モータ等と連結して用いるのに好適な歯車変速機に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の用途に用いる減速機として、例えば図6に示すものが知られている。
【0003】この減速機は、ハウジング2の中に水平方向に組み込まれた複数の歯車シャフト4a〜4dを備えている。ハウジング2は、横割り、即ち上下に分割された構造とされ、その合わせ面に半円形状の凹部がそれぞれ形成されている。そして、上下の凹部によって形成される円形の孔の部分に、各歯車シャフト4a〜4dが組み込まれている。なお、符号6a〜6dは、各歯車シャフト4a〜4dを回転自在に支持する軸受、符号8a、8dは、ハウジング2から外部に歯車シャフト4a、4dが突き出す部分に設けられたオイルシールである。
【0004】ハウジング2を横割り、即ち上下に分割するようにしたのは、このようにすることにより、軸受6a〜6d、オイルシール8a、8dを含めて、歯車シャフト4a〜4dの組み付けが容易になるためである。このため、必然的に各歯車シャフト4a〜4dは、それぞれの軸心の高さ(鉛直方向の位置)Hが同一とされている。
【0005】ところで、このような構造の減速機にあっては、一般に最もシャフト径の大きな歯車シャフト(図示の例では4a)に対応して設けられたオイルシール8aの最下位置に合わせて、ハウジング2内のオイル溜まりPの油面レベルPLが設定されている。
【0006】即ち、一番シャフト径の大きな歯車シャフト4aの軸受6aはオイル溜まりPに浸るが、そのオイルシール8aはオイル溜まりPに浸らないような高さに、オイル溜まりのレベルPLが設定されている。オイルシール8aが浸らないようにオイルのレベルPLを設定するのは、(1)オイルシールにオイルが浸っているとオイルシールが劣化しやすい(2)オイルシールが劣化した場合でもオイル漏れを防止する(3)減速機自体が大型であることから封入するオイルの量自体をできるだけ節約すること等を考慮したためである。
【0007】しかし、このように一番シャフト径の大きな歯車シャフト4aのオイルシール8aの高さを基準にしてオイルのレベルPLを設定した場合、それより小さなシャフト径の歯車シャフト、例えば4c、4dについては、各軸心の高さHが同一であることから、当然その軸受6c、6dがオイルに浸らないというような状態が発生する。
【0008】このため、これらの軸受6c、6dについては、その潤滑のために、例えば歯車10からのオイルの飛沫を樋形状をなした潤滑用補器9によって受け、この潤滑用補器9によって必要な軸受部分にオイルを導くというような構成をとっている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところが、潤滑用補器9の位置が、歯車10で掻き揚げたオイルの飛沫を受けるために高い位置にあると、低速回転で運転された場合にはオイルの飛沫が高く飛ばなくなるので、潤滑用補器9に十分な量のオイルが導入されづらくなり、その結果、オイル溜まりPに浸っていない軸受4c、4dへのオイルの供給が不足する可能性がある。
【0010】本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであって、低速回転時にも、潤滑の必要な軸受に対して十分な量のオイルを供給できるようにした変速機を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、互いに歯車を噛み合わせた状態で水平に配設された一対の歯車シャフトと、各歯車シャフトを回転自在に支持する軸受と、これら歯車シャフトおよび軸受を内部に収容すると共に内底部に潤滑用のオイル溜まりが設けられたハウジングとを備えた歯車変速機において、前記ハウジング内の、前記オイル溜まりのレベルを、少なくとも一方の前記歯車の下端が浸る高さに設定すると共に、前記歯車の噛み合い部の側方で且つ該噛み合い部より低い位置に、前記オイル溜まりから前記歯車の回転によって掻き上げられたオイルを受け、受けたオイルをオイル溜まりに直接浸らない高さに位置する軸受に対して導く潤滑用補器を設けたことにより、上記課題を解決したものである。
【0012】この発明では、歯車が噛み合うにつれ、オイル溜まりの通過により歯面に付着していたオイルが、側方に押し出される現象に着目した。即ち、歯車の噛み合い部の側方に潤滑用補器を配置するようにしたため、押し出されたオイルはこの潤滑用補器に受けられ、潤滑の必要な軸受に導かれる。従って、歯車が低速で回転しているときでも、軸受に対して十分な量のオイルを供給することができる。
【0013】請求項2の発明は、請求項1において、前記歯車の噛み合い部の両側方にそれぞれ、歯車の両側に位置する軸受に対してオイルを導く潤滑用補器を設けたことことにより、上記課題を解決したものである。
【0014】請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記潤滑用補器が、複数の軸受に対して、受けたオイルを導くように設けられていることにより、上記課題を解決したものである。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0016】図1は歯車変速機の要部鉛直断面図、図2は図1のII−II線に沿う断面図、図3は同歯車変速機の要部水平断面図、図4はハウジングの構成図、図5は図4R>4のV−V線に沿う断面図である。
【0017】図4、図5に示すように、割型で構成されたハウジング21は、水平に貫通形成された複数の軸孔22を有している。各軸孔22には軸受(図4、図5には図示略)が嵌合され、横並びに水平に配列された各歯車シャフト(図4、図5には図示略)の両端がそれぞれ軸受に回転自在に支持されている。
【0018】なお、図1は図5のI−I線に沿う鉛直断面図、図3は図5のIII −III 線に沿う水平断面図に相当している。以下、これらの図を用いて説明する。
【0019】各図に示すように、歯車シャフト30は、軸孔22に嵌合された軸受32A、32Bによって両端が回転自在に支持されており、一端がハウジング21の外部に突出している。軸孔22の外面は軸受カバー33、34で塞がれ、歯車シャフト30の一端は、一方の軸受カバー34の貫通孔34aより、ハウジング21の外部に突出している。そして、その突出部分30aと、軸受カバー34の貫通孔34aの内周面との間に、スリーブ35を介してオイルシール36が配設されている。
【0020】歯車シャフト30の軸受32A、32Bの間には、小径の歯車(図示例ではハス歯歯車)38が設けられている。この歯車38は、一方の軸受32A寄りの位置(図中左側)に片寄せて配設され、隣接する歯車シャフト(図示略)の大径の歯車39と、噛み合い部40にて噛み合っている。両歯車シャフト30(一方は図示略)は、同じ高さに軸心が位置しているので、歯車38、39の噛み合い部40も歯車シャフト30の軸心H1と同じ高さにある。
【0021】又、ハウジング21の内底部には、オイル溜まりPが設けられている。このオイル溜まりPの油面レベルPLは、前述した理由により、大径の歯車39の下端位置より高く、且つ軸受32A、32Bの下端位置よりも低く設定されている。従って、図示の軸受32A、32Bのローラ32Rは、オイル溜まりP中には浸されていない。
【0022】そこで、これら軸受32A、32Bにオイルを供給すべく、潤滑用補器50、60がハウジング21内に取付けられている。各潤滑用補器50、60は歯車38、39の両側方に配設され、一端が、歯車38、39の噛み合い部40より側方に押し出されるオイルを受けられる位置まで延ばされている。
【0023】図中左側の潤滑用補器50は、フランジ部分51をボルト53で締め付けることにより、ハウジング21の内壁面21aに取り付けられている。この潤滑用補器50は、軸受32Aの下端位置より下側に取付けられており、フランジ部分51より上に延びた傾斜板部52とハウジング内壁面21aとの間に、断面V型の樋状空間55を形成している。この樋状空間55は、ちょうど軸受32Aの下端のローラ32Rの位置に対応している。この樋状空間55は、オイルの受皿としての空間であり、図1に示すように、歯車38、39の噛み合い部40の側方まで延びている。
【0024】図中右側の潤滑用補器60も、フランジ部分62をボルト63で締め付けることにより、ハウジング21の内壁面21bに取付けられている。この潤滑用補器60は、広い面積の水平な受板部61を有している。この受板部61の周縁は、前壁61aと両側壁61b、61bとで3方が囲まれ、これら3方の壁とハウジング内壁面21bとにより、受板61上に、オイルの受皿としての空間65を確保している。この空間65の位置は、軸受32Bの下端のローラ32Rの位置に対応している。なお、側壁61bは、前壁61aよりも高い。
【0025】そして、受板部61の前端が、歯車38、39の噛み合い部40の側方まで延び、受板部61上に、歯車38、39の噛み合い部40から押し出されたオイルが乗るようになっている。
【0026】次に作用を説明する。
【0027】歯車39の回転に伴い、歯車39の歯面に、オイル溜まりPのオイルが付着する。そして、歯面に付着していたオイルが、歯車38、39が噛み合うにつれ、噛み合い部40から側方に押し出される。歯車38、39の噛み合い部40の側方には、潤滑用補器50、60があるから、押し出されたオイルは、各潤滑用補器50、60に受けられ、オイル溜まりPに浸っていない軸受32A、32Bに対し供給される。噛み合い部40からのオイルの押し出しは、歯車38、39が低速で回転しているときでも、高速で回転しているときでも必ず行われるので、回転速度によらず、常に十分な量のオイルが、軸受32A、32Bに対して供給され、潤滑性能が向上する。
【0028】なお、両方の軸受32A、32Bを、必ずしも同じ形式の潤滑用補器50、60で潤滑しなくてもよい。
【0029】又、例えば隣接する軸受にも潤滑用オイルを導く必要がある場合には、隣の軸受をカバーできる寸法に潤滑用補器を構成すれば、複数の軸受に対して、受けたオイルを導くことができ、潤滑用補器の個数を削減することができる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の発明によれば、潤滑用補器を歯車の噛み合い部の側方で噛み合い部より低い位置に設けたので、低速回転時にも、オイル溜まりに浸っていない軸受に対して十分な量のオイルを供給することができる。従って、オイル溜まりのレベルを低い位置に保ちながら、潤滑の必要な軸受の潤滑性能の向上を図ることができる。
【0031】請求項2の発明によれば、歯車シャフトの両端の軸受に対して、潤滑用補器により十分な量のオイルを供給することができる。
【0032】請求項3の発明によれば、例えば隣合う複数の軸受に対して、一つの潤滑用補器により十分な量のオイルを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態として示す変速機の要部鉛直断面図
【図2】図1のII−II線に沿う断面図
【図3】同要部水平断面図
【図4】同変速機のハウジングの側面図
【図5】図4のV−V線に沿う断面図
【図6】従来の減速機を示す概略鉛直断面図
【符号の説明】
21…ハウジング
30…歯車シャフト
32A,32B…軸受
38,39…歯車
40…噛み合い部
50,60…潤滑用補器
P…オイル溜まり
PL…オイル溜まりのレベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】互いに歯車を噛み合わせた状態で水平に配設された歯車シャフトと、各歯車シャフトを回転自在に支持する軸受と、これら歯車シャフトおよび軸受を内部に収容すると共に内底部に潤滑用のオイル溜まりが設けられたハウジングとを備えた歯車変速機において、前記ハウジング内の、前記オイル溜まりのレベルを、少なくとも一方の前記歯車の下端が浸る高さに設定すると共に、前記歯車の噛み合い部の側方で且つ該噛み合い部より低い位置に、前記オイル溜まりから前記歯車の回転によって掻き上げられたオイルを受け、受けたオイルをオイル溜まりに直接浸らない高さに位置する軸受に対して導く潤滑用補器を設けたことを、特徴とする歯車変速機。
【請求項2】請求項1において、前記歯車の噛み合い部の両側方にそれぞれ、歯車の両側に位置する軸受に対してオイルを導く潤滑用補器を設けたことを特徴とする歯車変速機。
【請求項3】請求項1又は2において、前記潤滑用補器が、複数の軸受に対して、受けたオイルを導くように設けられていることを特徴とする歯車変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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