説明

残留応力測定装置および残留応力測定方法

【課題】樹脂成形品の残留応力を正確かつ速やかに測定できる装置および方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形品の光弾性画像を表す三原色の色成分データを取得する色成分データが取得される(S1,S2)。光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルが求められる(S3)。また、光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の色のエネルギーを表す周波数ベクトルが求められる(ステップS4)。そして、振幅ベクトルと周波数ベクトルとを合成して、光弾性画像を構成する各画素の光エネルギーベクトルが求められる(ステップS5)。光エネルギーベクトルの大きさが、樹脂成形品の当該画素の部位における残留応力を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光弾性効果を利用した残留応力測定装置および残留応力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光弾性効果とは、応力が生じている弾性体が複屈折を生じる現象をいう。このような光弾性効果が生じる物体は、光弾性体と呼ばれる。光弾性体に外力を加えると、その光弾性体に生じる歪みの大きさおよび方向に応じて、複屈折の大きさおよび方向が変化する。光弾性に応力が残留していると、その残留応力に応じた複屈折が生じる。
特許文献1は、構造物に貼り付けた光弾性ゲージの光弾性効果を観測する方法を開示している。具体的には、偏光板をそれぞれ装着した電子カメラおよび光源が準備される。光源からの光で光弾性ゲージが照明され、光弾性ゲージからの反射画像が電子カメラによって撮像される。さらに、撮像された画像中における光弾性ゲージの色座標が算出される。一方、応力と色座標との対応表が予め作成される。この対応表を参照することにより、算出された色座標に対応する応力が求められる。こうして、構造物に生じている応力が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−079927号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
特許文献1の先行技術は、色座標から応力等を算出する構成である。そのため、光弾性画像中の明るさのエネルギーが考慮されていない。したがって、残留応力を正確に測定することができない。
また、特許文献1の先行技術では、応力と色座標との対応表を予め作成しておかなければならないから、測定手順が複雑である。それに応じて、応力測定に時間がかかる。
【0005】
この発明は、樹脂成形品の残留応力を正確にかつ速やかに測定できる装置および方法を提供する。
請求項1記載の発明は、樹脂成形品の残留応力を測定するための装置であって、樹脂成形品の光弾性画像を表す三原色の色成分データを取得する色成分データ取得手段と、前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルを求める振幅ベクトル演算手段と、前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の色のエネルギーを表す周波数ベクトルを求める周波数ベクトル演算手段と、前記振幅ベクトルと前記周波数ベクトルとを合成して、前記光弾性画像を構成する各画素の光エネルギーベクトルを求める合成手段とを含む、残留応力測定装置を提供する。
【0006】
この構成によれば、樹脂成形品の光弾性画像を構成する各画素の三原色の色成分データから、振幅ベクトルと周波数ベクトルとが演算される。振幅ベクトルは、各画素の明るさのエネルギーを表し、周波数ベクトルは各画素の色のエネルギーを表す。電磁波である光のエネルギーは、振幅および周波数に比例する。そこで、この発明では、各画素のエネルギーが、振幅成分に対応した明るさのエネルギーと、周波数成分に対応した色のエネルギーとに分解される。振幅ベクトルと周波数ベクトルとを合成して得られる光エネルギーベクトルは、分解された明るさおよび色の各エネルギーを合成したエネルギーに対応する。こうして、明るさおよび色の両方を考慮して各画素のエネルギーが求められるので、求められたエネルギーは、樹脂成形品において各画素に対応した部位に蓄えられたエネルギー、すなわち、残留応力に相当する。
【0007】
このようにして、樹脂成形品の残留応力を正確に測定できる。しかも、色座標と応力との対応表を予め作成する必要もないから、樹脂成形品の残留応力を、少ない手順で、速やかに測定することができる。
請求項2記載の発明は、前記振幅ベクトル演算手段が、前記光弾性画像を構成する各画素の三原色の色成分データを表す画素点を、三原色の色成分データを直交する3つの座標軸にそれぞれとった色空間に配置し、原点から前記画素点までの画素ベクトルの前記色空間における無彩色軸への正射影を振幅ベクトルとして求めるように構成されている、請求項1に記載の残留応力測定装置である。
【0008】
三原色の色成分データが等しいとき、三原色が等しい比で混合されるので、無彩色となる。したがって、無彩色軸は、色空間において、原点と三原色の色成分データがいずれも最大値の座標点とを通る直線によって定義される。画素ベクトルは色空間において任意の方向をとりうるけれども、画素の振幅のエネルギーに寄与するのは、その無彩色成分である。そこで、画素ベクトルの無彩色成分が、画素ベクトルを無彩色軸へ正射影することによって求められる。その正射影ベクトルが、振幅ベクトルとされる。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記周波数ベクトル演算手段が、前記光弾性画像を構成する各画素の三原色の色成分データに三原色の周波数に応じた係数をそれぞれ乗じて補正した補正色成分データを求めるデータ補正手段と、前記補正色成分データを表す画素点を、前記補正色成分データを直交する3つの座標軸にとった拡張色空間に配置し、前記拡張色空間における無彩色軸上に始点を有し、当該無彩色軸に直交して、前記画素点を終点とする周波数ベクトルを求めるベクトル演算手段とを含む、請求項1または2に記載の残留応力測定装置である。
【0010】
周波数のエネルギーは、周波数に比例する。光の周波数は、色によって異なるので、三原色の色成分データを等しく評価しても、周波数のエネルギーを正確に求めることはできない。そこで、この発明では、三原色の色成分データに三原色の周波数に応じた係数(好ましくは周波数に比例する係数)をそれぞれ乗じた補正色成分データが求められる。そして、その補正色成分データを3つの座標軸にとった拡張色空間が導入される。この拡張色空間における無彩色軸は、当該拡張色空間において、原点と補正色成分データがいずれも最大値の座標点とを通る直線によって定義される。この拡張色空間では、色のエネルギーは、無彩色軸に対する画素ベクトルの偏倚によって表される。より具体的には、画素ベクトルの無彩色軸に直交する成分(彩色成分)が、画素の周波数のエネルギー(色のエネルギー)に寄与する。そこで、拡張色空間内で、画素ベクトルの終点から無彩色軸に垂線を下して、周波数ベクトルが求められる。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記光弾性画像の一部または全部の領域に含まれる画素に関して求められた光エネルギーベクトルの大きさの総和を求める領域値演算手段をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の残留応力測定装置である。
この構成によれば、光弾性画像の一部または全部の領域の光エネルギーの総和が領域値として求められる。この領域値は、対応する領域に蓄積されているエネルギーの総和に相当する。すなわち、残留応力の総和に相当する。こうして、当該領域全体の残留応力を求めることができる。
【0012】
請求項5記載の発明は、樹脂成形品の残留応力を測定するための方法であって、樹脂成形品の光弾性画像を表す三原色の色成分色データを取得する色成分データ取得ステップと、前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルを求める振幅ベクトル演算ステップと、前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の色のエネルギーを表す周波数ベクトルを求める周波数ベクトル演算ステップと、前記振幅ベクトルと前記周波数ベクトルとを合成して、前記光弾性画像を構成する各画素の光エネルギーベクトルを求める合成ステップとを含む、残留応力測定方法である。
【0013】
この方法により、明るさ(振幅)および色(周波数)の両方を考慮して各画素のエネルギーが求められるので、求められたエネルギーは、樹脂成形品において各画素に対応した部位に蓄えられたエネルギー、すなわち、残留応力に相当する。これにより、樹脂成形品の残留応力を正確に測定できる。しかも、色座標と応力との対応表を予め作成する必要もないから、樹脂成形品の残留応力を、少ない手順で、速やかに測定することができる。
【0014】
請求項6記載の発明は、前記振幅ベクトル演算ステップが、前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データを表す画素点を、三原色の色データを直交する3つの座標軸にそれぞれとった色空間に配置し、原点から画素点までの画素ベクトルの前記色空間における無彩色軸への正射影を振幅ベクトルとして求めるステップを含む、請求項5に記載の残留応力測定方法である。この方法により、画素ベクトルから、振幅のエネルギーに寄与する無彩色成分を、振幅ベクトルとして抽出できる。
【0015】
請求項7記載の発明は、前記周波数ベクトル演算ステップが、前記光弾性画像を構成する各画素の三原色の色成分データに三原色の周波数に応じた係数をそれぞれ乗じて補正した補正色成分データを求めるデータ補正ステップと、前記補正色成分データを表す画素点を、前記補正色成分データを直交する3つの座標軸にとった拡張色空間に配置し、前記拡張色空間における無彩色軸上に始点を有し、当該無彩色軸に直交して、前記画素点を終点とする周波数ベクトルを求めるベクトル演算ステップとを含む、請求項5または6に記載の残留応力測定方法である。この方法により、画素ベクトルから、周波数のエネルギーに寄与する彩色成分を、周波数ベクトルとして抽出できる。
【0016】
請求項8記載の発明は、前記光弾性画像の一部または全部の領域に含まれる画素に関して求められた光エネルギーベクトルの大きさの総和を求める領域値演算ステップをさらに含む、請求項5〜7のいずれか一項に記載の残留応力測定方法である。この方法により、画像の一部または全部の領域全体の残留応力を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、樹脂成形品の光弾性画像を撮影するために用いられる撮影システムの構成を示す概念図である。
【図2】図2Aおよび図2Bは、光弾性画像の撮影原理を説明するための図である。
【図3】図3は、光弾性画像の一例を示す写真である。
【図4】図4は、光弾性画像の解析を行うための解析システムの電気的構造を示すブロック図である。
【図5】図5は、光弾性画像解析処理の内容を説明するためのフローチャートである。
【図6】図6Aおよび図6Bは、各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルを求めるための処理(図5のステップS3)を説明するための図である。
【図7】図7Aおよび図7Bは、色のエネルギーに対応する周波数ベクトルを求めるための処理(図5のステップS4)を説明するための図である。
【図8】振幅ベクトルと周波数ベクトルとの合成処理(図5のステップS5)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、樹脂成形品の光弾性画像を撮影するために用いられる撮影システムの構成を示す概念図である。撮影システムは、光源1と、偏光子2と、検光子3と、カメラ4とを含む。光源1とカメラ4とを結ぶ直線によって光軸10が定義される。偏光子2および検光子3は、光源1およびカメラ4の間に配置されている。測定対象の樹脂成形品5は、偏光子2と検光子3との間の光軸10上に配置される。樹脂成形品5は、可視光を透過させる光透過性を有する樹脂材料からなる。樹脂成形品5は、無色透明の樹脂材料からなっていることが好ましい。
【0019】
光源1は、偏光していない光、すなわち無偏光(ランダム偏光)の可視光を発生する。偏光子2は、偏光板(フィルタ)で構成されており、光源1から発生された無偏光の光のうち、予め定める第1方向6に沿った直線偏光成分のみを透過させるように構成されている。測定対象の樹脂成形品5には、偏光子2を通過した直線偏光が照射されることになる。第1方向6は、光軸10に直交する方向である。すなわち、偏光子2を構成する偏光板は、光軸10に直交するように配置されている。検光子3は、偏光板(フィルタ)で構成されており、光軸10および前記第1方向6に直交する第2方向7に沿う直線偏光成分のみを透過させるように構成されている。
【0020】
カメラ4は、光源1に対して検光子3の背後に配置されている。カメラ4は、カラーカメラである。すなわち、カメラ4は、カラーCCD等のカラー撮像素子を含み、撮像素子の受光面に結像した像を複数の画素に分解し、画素ごとに、三原色の色成分信号を出力するように構成されている。より具体的には、カメラ4は、撮影された画像を構成する複数の画素のそれぞれに対して、赤色、緑色および青色の色成分データからなる三原色画像データを出力する。各色成分データは、たとえば、0〜255の範囲内の値(階調値)を有している。
【0021】
図2Aおよび図2Bは、光弾性画像の撮影原理を説明するための図である。図2Aに示すように、偏光子2および検光子3の間に測定対象等の物体を配置していないとき、光源1から発生した光は、偏光子2および検光子3によって遮断される。したがって、カメラ4は光源1からの光を検出しない。すなわち、偏光子2および検光子3は、それぞれ第1方向6および第2方向7に平行な偏光成分のみを透過させ、その他の偏光成分を吸収する。そして、第1方向6および第2方向7が直交しているので、偏光子2および検光子3の組み合わせによって、全ての偏光成分が吸収される。そのため、カメラ4は、光源1からの光を検出することができない。
【0022】
一方、図2Bに示すように、偏光子2と検光子3との間に、第1方向6および第2方向7のいずれとも平行でなく、かつ光軸10に直交する第3方向8に透過偏光方向を設定した偏光板9(フィルタ)を配置する。すると、偏光子2を通った直線偏光の一部が偏光板9を透過し、さらに偏光板9を透過した第3方向8の偏光の一部が検光子3を透過する。したがって、カメラ4は、その透過した光を検出することになる。
【0023】
光透過性を有する樹脂成形品は、光弾性体の一種である。そのため、光透過性を有する樹脂成形品5を偏光子2および検光子3の間に配置すると、樹脂成形品5は、図2Bにおける偏光板9と同様な働きを有する。すなわち、カメラ4は、光源1からの光の一部を検出する。光弾性体である樹脂成形品5は、残留応力の大きさおよび方向に応じた複屈折を示す。樹脂成形品5の全体に渡って残留応力が均一でなければ、各部位の複屈折は当該部位の残留応力に従う。つまり、複屈折の分布が顕れる。そのため、検光子3を透過してカメラ4によって検出される光(屈折した偏光)には、残留応力の大きさおよび方向に応じた位相差が生じる。この位相差に対応する干渉縞がカメラ4によって撮影される光弾性画像中に現れる。
【0024】
図3に光弾性画像の一例を示す。透明な樹脂成形品の画像のなかに干渉縞が現れているのが分かる。残留応力の大きな部分(歪みの大きな部分)ほど、明るく、かつ白色に近い光が観測される。残留応力のない部分では、偏光子2および検光子3によって光が遮断されるので、黒色の画像となる。
図4は、光弾性画像の解析を行うための解析システムの電気的構造を示すブロック図である。
【0025】
カメラ4は、撮影された光弾性画像を表す画像データ(三原色の色成分データ)を、メディア(記録媒体)15に保存するように構成されていてもよい。メディア15は、メモリカード、磁気ディスクその他の可搬性記録媒体であってもよい。
光弾性画像を解析するための解析システムは、たとえばパーソナルコンピュータその他の処理装置16(コンピュータ)によって構成することができる。処理装置16は、CPU17、ROM18、RAM19、ハードディスクドライブ(HDD)20およびメディアスロット21を備えている。これらの構成部品は、処理装置16の内部のバスライン25に接続されている。
【0026】
ハードディスクドライブ20は、いわゆる補助記憶装置であり、プログラムおよびデータを記憶する記憶領域を有している。むろん、ハードディスクドライブ20の代わりに、メモリディスク(SSD:Solid State Drive)に代表される固体メモリを用いてもよい。
RAM19は、CPU17のワークエリアを提供する。ROM18は、CPU17を動作させるための動作プログラムを記憶している。CPU17は、ROM18に格納された動作プログラムに従って動作し、必要に応じてハードディスクドライブ20に記憶されているアプリケーションプログラムを実行して、必要な処理を行う。
【0027】
メディアスロット21は、メディア15を装填することができるように構成されている。メディアスロット21は、メディア15に格納されているデータを読み出すことができるように構成されたリーダユニットである。
ハードディスクドライブ20には、この実施形態では、光弾性画像解析プログラム22が格納されている。光弾性画像解析プログラム22は、光弾性画像を構成する各画素の三原色の色成分データを用いて樹脂成形品5に生じている残留応力を演算するための解析処理を処理装置16に実行させるためのプログラムである。
【0028】
図5は、光弾性画像解析プログラム22に従って処理装置16が動作するときの処理内容を説明するためのフローチャートである。CPU17は、メディア15から光弾性画像を表す三原色画像データを読み込み(ステップS1)、三原色(赤(R)、緑(G)および青(B))の各色成分データに分解する(ステップS2)。
さらに、CPU17は、分解された色成分データを用いて、各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルを求める(ステップS3)。また、CPU17は、分解された各画素の色成分データに基づき、各画素の色のエネルギーを表す周波数ベクトルを求める(ステップS4)。
【0029】
次に、CPU17は、求められた振幅ベクトルおよび周波数ベクトルを合成して、光弾性画像を構成する各画素の光エネルギーベクトルを求める(ステップS5)。そして、CPU17は、各画素のエネルギー値を出力する(ステップS6)。出力された各画素のエネルギー値は、たとえばハードディスクドライブ20内の記憶領域に格納される。
さらに、CPU17は、必要に応じて、光弾性画像の全領域または一部の領域について、当該領域に含まれる画素のエネルギー値の総和を求め、領域値として出力する(ステップS7)。出力された領域値は、たとえばハードディスクドライブ20の記憶領域に格納される。
【0030】
図6Aおよび図6Bは、各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルを求めるための処理(図5のステップS3)を説明するための図である。
光は電磁波の一種であるから、そのエネルギーは、振幅のエネルギーと、周波数のエネルギーとに分解することができる。そのうち、振幅のエネルギーが明るさのエネルギーに対応する。
【0031】
三原色の三つの色成分データを直交する三つの座標軸R,G,Bにとった色空間(三次元空間。立方空間)を導入する。R軸は赤色成分データに対応し、G軸は緑色成分データに対応し、B軸は青色成分データに対応している。この色空間において、各画素の三原色画像データは、その色成分データを座標値とする画素点35を占めることができる。
或る画素の三原色の色成分データが互いに等しいとき、すなわち、赤色成分データ、緑色成分データおよび青色成分データの比が1:1:1のとき、当該画素は無彩色画素(白、黒または灰色の画素)となる。無彩色画素に対応する画素点を色空間に配置すると、無彩色軸30が得られる。無彩色軸30は、色空間における三原色の色成分データR,G,Bを用いて、直線の式R=G=Bで表される。換言すれば、無彩色軸30は、色空間において、原点(0,0,0)と、三原色の色成分データがいずれも最大値(たとえば、255)の座標点(255,255,255)とを通る直線によって定義される。
【0032】
任意の画素の三原色画像データは、三原色の色成分データ(R,G,B)に応じた画素点35を終点とし、原点(0,0,0)を始点とする画素ベクトルPによって表すことができる。画素ベクトルPは、色空間において任意の方向をとり得る。しかし、画素の振幅のエネルギー(明るさのエネルギー)に寄与するのは、画素ベクトルPの無彩色成分である。
【0033】
画素ベクトルPの無彩色成分は、画素ベクトルPの無彩色軸30への正射影によって求めることができる。すなわち、画素ベクトルPを無彩色軸30に正射影して得られるベクトルが、振幅ベクトルAである。
さらに詳細に説明すると、無彩色軸30に対して画素ベクトルPの成す角をθとする。このとき、画素ベクトルPの無彩色軸30への正射影は、画素ベクトルPの大きさ(R+G+B1/2を用いて、(R+G+B1/2×cosθで与えられる。これは、結局、画素ベクトルPと無彩色軸30に平行な単位ベクトルe(1/31/2,1/31/2,1/31/2)との内積(スカラー積)にほかならない。よって、振幅ベクトルAの大きさは、画素ベクトルPの成分(R,G,B)を用いて、(1/31/2)・(R+G+B)で与えることができる。したがって、無彩色軸30に沿う単位ベクトルeを用いると、振幅ベクトルAは、(1/31/2)・|R+G+B|・eと表すことができる。
【0034】
図6Bには、色空間をB軸方向から見下してRG平面が描かれている。赤色成分データが最大値255である赤色単色画素の画素ベクトルP(255,0,0)を無彩色軸30に正射影すると、振幅ベクトルAが得られる。同様に、緑色成分データが最大値255である緑色単色画素ベクトルP(0,255,0)を無彩色軸30に正射影すると、振幅ベクトルAが得られる。振幅ベクトルAおよび振幅ベクトルAは、無彩色軸30上で一致し、いずれも大きさ(1/31/2)・255を有する。つまり、赤色成分データが最大値255である赤色単色画素と緑色成分データが最大値255である緑色単色画素とは、振幅のエネルギー(明るさのエネルギー)が等しい。
【0035】
図7Aおよび図7Bは、色のエネルギーに対応する周波数ベクトルを求めるための処理(図5のステップS4)を説明するための図である。
電磁波のエネルギーは周波数に比例して大きくなる。したがって、赤色成分のみを含む光(波長625nm〜740nm。たとえば700nm)と、緑色成分のみを含む光(波長500nm〜565nm。たとえば546.1nm)と、青色成分のみを含む光(波長450nm〜485nm。たとえば435.8nm)とは、たとえ振幅が等しくても、異なるエネルギーを持つ。それらの各単色成分のエネルギーの比は、それらの周波数の比に等しく、1:1.282:1.606(=700:1/546.1:1/435.8)である。そこで、赤色成分、緑色成分および青色成分の座標軸R,G,Bを周波数の比に応じて補正した拡張色空間を導入する。
【0036】
具体的には、三原色の色成分データに三原色の周波数の比に応じた係数を乗じて、補正色成分データを求める。補正色成分データ(R’,G’,B’)は、補正前の色成分データ(R,G,B)を用いて、(R’,G’,B’)=(R,1.282G,1.606B)により与えられる。この補正色成分データを三つの座標軸R’,G’,B’にとって定義した三次元直交座標空間が拡張色空間(直方空間)である。この拡張色空間における無彩色軸40は、原点(0,0,0)と補正色成分データ(R’,G’,B’)がいずれも最大値(255,1.282×255,1.606×255)の座標点とを通る直線によって定義される。
【0037】
拡張色空間において、各画素の補正色成分データを座標値とする画素点45を配置すると、当該画素点45を終点とし、原点(0,0,0)を始点とする補正画素ベクトルP’を定義することができる。この補正画素ベクトルP’の無彩色軸40からの偏倚が、色のエネルギーに相当する。より具体的には、補正画素ベクトルP’の無彩色軸40に直交する成分ベクトルが、画素の周波数のエネルギーを表す周波数ベクトルfである。
【0038】
さらに詳細に説明すると、無彩色軸40に対して補正画素ベクトルP’の成す角をθ’とする。このとき、周波数ベクトルfの大きさは、補正画素ベクトルP’の大きさ(R’+G’+B’1/2を用いて、(R’+G’+B’1/2×sinθ’で与えられる。sinθ’=(1−cos2θ’)1/2であり、cosθ’は、補正画素ベクトルP’と、無彩色軸40に平行な単位ベクトルe’との内積(スカラー積)から求めることができる。すなわち、単位ベクトルe’=(12+1.1282+1.6062)-1/2・(1,1.282,1.606)であるから、cosθ’=P’・e’/|P’||e’|=(R’+1.282G’+1.606B’)/{(R’+G’+B’1/2・(12+1.1282+1.60621/2}である。したがって、補正色成分データからcosθ’を求めることができ、これを用いて、周波数ベクトルfの大きさを求めることができる。
【0039】
図7Bには、拡張色空間をB’軸方向から見下してR’G’平面が描かれている。補正赤色成分データが最大値255である赤色単色画素の補正画素ベクトルP’(255,0,0)の終点から無彩色軸40に垂線を下すと、周波数ベクトルfが得られる。同様に、補正緑色成分データが最大値255×1.282である緑色単色画素の補正画素ベクトルP’(0,1.282×255,0)の終点から無彩色軸40に垂線を下すと、周波数ベクトルfが得られる。周波数ベクトルfおよび周波数ベクトルfは、異なる大きさを有する。つまり、赤色成分データが最大値255である赤色単色画素と緑色成分データが最大値255である緑色単色画素とは、振幅のエネルギー(明るさのエネルギー)は等しいけれども、周波数のエネルギー(色のエネルギー)は異なる。
【0040】
より具体的には、赤色単色光(波長625nm〜740nm。たとえば700nm)の画素データ(255,0,0)について周波数ベクトルの大きさを求めると、255となる。また、緑色単色光(波長500nm〜565nm。たとえば546.1nm)の画素データ(0,255,0)について周波数ベクトルの大きさを求めると、327となる。同様にして、青色単色光(波長450nm〜485nm。たとえば435.8nm)の画素データ(0,0,255)について周波数ベクトルの大きさを求めると、327となる。さらに、赤色と緑色とが同比率で合わさってできる黄色(単色光での波長570nm〜580nm)の画素データ(255,255,0)について周波数ベクトルの大きさを求めると、291となる。これらの値の大小関係は、各色の光の周波数の順序と同じ順序(波長の順序と逆の順序)となっている。よって、周波数ベクトルfが色のエネルギー(すなわち周波数のエネルギー)を適切に表していることがわかる。
【0041】
図8は、振幅ベクトルと周波数ベクトルとの合成処理(図5のステップS5)を説明するための図である。振幅ベクトルAと周波数ベクトルfとのベクトルの和を求めること、すなわち、ベクトルの合成によって、光のエネルギーを表す光エネルギーベクトルEが求められる。振幅のエネルギーと周波数のエネルギーとは互いに独立していて、影響を及ぼし合わないので、振幅ベクトルAと周波数ベクトルfとは直交している。そこで、光エネルギーベクトルEの大きさ|E|は、|E|={|P|+|f|1/2によって求められる。これが、当該画素における光のエネルギーに相当する。この光のエネルギーは、結局、測定対象の樹脂成形品5における、当該画素の部位に残留する応力を表す。
【0042】
図5のステップS7における領域値を求める処理は、残留応力を求めたい領域内において光エネルギーベクトルEの大きさの総和を求める処理である。
このように、この実施形態によれば、樹脂成形品5の光弾性画像を表す三原色画像データに基づいて、樹脂成形品5の残留応力が測定される。具体的には、光弾性画像を構成する各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルAと、色のエネルギーを表す周波数ベクトルfとが求められる。換言すれば、各画素の光のエネルギーが振幅成分と周波数成分とに分解される。そして、求められた振幅ベクトルAおよび周波数ベクトルfをベクトル合成して光エネルギーベクトルEが求められる。つまり、三原色画像データから分解された振幅ベクトルAおよび周波数ベクトルfが再合成されて、光エネルギーベクトルEに統合される。この光エネルギーベクトルEの大きさが、樹脂成形品5において各画素に対応する部位の残留応力を表す指標となる。
【0043】
このようにして、この実施形態によれば、明るさおよび色の両方を考慮して各画素の光エネルギーが求められる。したがって、求められた光エネルギーは、樹脂成形品5において各画素に対応した部位に蓄えられたエネルギー、すなわち、残留応力に正確に相当している。よって、樹脂成形品5の残留応力を正確に測定することができる。しかも、色座標と応力との対応表等を予め作成する必要もないので、樹脂成形品5の残留応力を、少ない手順で速やかに測定することができる。
【0044】
残留応力の測定結果は、たとえば、樹脂成形品を作製するための金型の設計に際して参照すべき参照情報として用いることができる。たとえば、樹脂成形品5全体の残留応力を最小化するように金型を設計するための参照情報とすることができる。
樹脂成形品における残留応力は、樹脂成形品における残留応力は、樹脂成形品全般の品質に影響する。たとえば、残留応力により成形品の変形などが発生してしまうと製造不良となる。また、残留応力の蓄積により成形品の強度が低下することとなる。以上のことから、樹脂成形品における残留応力は、製造における良品率の低下を招いたり、樹脂部品を用いる製品の価値を減少させたりする恐れがある。そこで、樹脂成形品の残留応力を最小化するように金型設計を行うことができれば、均一な組成の樹脂成形品を作製できるから、樹脂成形品の変形や強度低下を軽減することができる。これにより、優れた良品率を達成できるから、樹脂部品を用いる製品の低コスト化に寄与することができる。
【0045】
樹脂製品に用いられる樹脂が不透明樹脂である場合には、同様の組成を有する透明樹脂を用いて同一形状の樹脂成形品を作製し、これを測定対象の樹脂成形品5として用いればよい。これにより、不透明な樹脂成形品に関しても、残留応力の測定を間接的に行うことができる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、カメラ4が生成した三原色画像データがメディア15を媒介して処理装置16に渡されている。しかし、カメラ4と処理装置16をケーブル接続し、メディア15の介在なしに、カメラ4から処理装置16へと三原色画像データを受け渡してもよい。また、処理装置16は、有線または無線の通信ラインを介して、三原色画像データを取得するように構成されていてもよい。
【0046】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
以下に、特許請求の範囲における用語と前記実施形態における用語との対応を列記する。
色成分データ取得手段:処理装置16、ステップS1,S2
振幅ベクトル演算手段:処理装置16、ステップS3
周波数ベクトル演算手段:処理装置16、ステップS4
合成手段:処理装置16、ステップS5
領域値演算手段:処理装置16、ステップS7
【符号の説明】
【0047】
1 光源
2 偏光子
3 検光子
4 カメラ
5 樹脂成形品
10 光軸
15 メディア
16 処理装置
20 ハードディスクドライブ
21 メディアスロット
22 光弾性画像解析プログラム
25 バスライン
30 無彩色軸
35 画素点
40 無彩色軸
45 画素点
P 画素ベクトル
P’ 補正画素ベクトル
A 振幅ベクトル
f 周波数ベクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品の残留応力を測定するための装置であって、
樹脂成形品の光弾性画像を表す三原色の色成分データを取得する色成分データ取得手段と、
前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルを求める振幅ベクトル演算手段と、
前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の色のエネルギーを表す周波数ベクトルを求める周波数ベクトル演算手段と、
前記振幅ベクトルと前記周波数ベクトルとを合成して、前記光弾性画像を構成する各画素の光エネルギーベクトルを求める合成手段とを含む、残留応力測定装置。
【請求項2】
前記振幅ベクトル演算手段が、前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データに対応した画素点を、三原色の色成分データを直交する3つの座標軸にそれぞれとった色空間に配置し、原点から前記画素点までの画素ベクトルの前記色空間における無彩色軸への正射影を振幅ベクトルとして求めるように構成されている、請求項1に記載の残留応力測定装置。
【請求項3】
前記周波数ベクトル演算手段が、
前記光弾性画像を構成する各画素の三原色の色成分データに三原色の周波数に応じた係数をそれぞれ乗じて補正した補正色成分データを求めるデータ補正手段と、
前記補正色成分データを表す画素点を、前記補正色成分データを直交する3つの座標軸にとった拡張色空間に配置し、前記拡張色空間における無彩色軸上に始点を有し、当該無彩色軸に直交して、前記画素点を終点とする周波数ベクトルを求めるベクトル演算手段とを含む、請求項1または2に記載の残留応力測定装置。
【請求項4】
前記光弾性画像の一部または全部の領域に含まれる画素に関して求められた光エネルギーベクトルの大きさの総和を求める領域値演算手段をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の残留応力測定装置。
【請求項5】
樹脂成形品の残留応力を測定するための方法であって、
樹脂成形品の光弾性画像を表す三原色の色成分色データを取得する色成分データ取得ステップと、
前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の明るさのエネルギーを表す振幅ベクトルを求める振幅ベクトル演算ステップと、
前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データから、各画素の色のエネルギーを表す周波数ベクトルを求める周波数ベクトル演算ステップと、
前記振幅ベクトルと前記周波数ベクトルとを合成して、前記光弾性画像を構成する各画素の光エネルギーベクトルを求める合成ステップとを含む、残留応力測定方法。
【請求項6】
前記振幅ベクトル演算ステップが、前記光弾性画像を構成する各画素の色成分データを表す画素点を、三原色の色データを直交する3つの座標軸にそれぞれとった色空間に配置し、原点から画素点までの画素ベクトルの前記色空間における無彩色軸への正射影を振幅ベクトルとして求めるステップを含む、請求項5に記載の残留応力測定方法。
【請求項7】
前記周波数ベクトル演算ステップが、
前記光弾性画像を構成する各画素の三原色の色成分データに三原色の周波数に応じた係数をそれぞれ乗じて補正した補正色成分データを求めるデータ補正ステップと、
前記補正色成分データを表す画素点を、前記補正色成分データを直交する3つの座標軸にとった拡張色空間に配置し、前記拡張色空間における無彩色軸上に始点を有し、当該無彩色軸に直交して、前記画素点を終点とする周波数ベクトルを求めるベクトル演算ステップとを含む、請求項5または6に記載の残留応力測定方法。
【請求項8】
前記光弾性画像の一部または全部の領域に含まれる画素に関して求められた光エネルギーベクトルの大きさの総和を求める領域値演算ステップをさらに含む、請求項5〜7のいずれか一項に記載の残留応力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−252839(P2011−252839A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128008(P2010−128008)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)