説明

殺処分畜の運搬用シート

【課題】蹄疫のまん延を防止するため、速やかに殺処分畜を運搬用車両に重機を用いて積み卸しできる用具を提供する。
【解決手段】殺処分畜の体長よりも長い横幅を有すると共に、上下の対辺を閉じ合わせたとき前記横幅に沿って横たえた殺処分畜の全身をくるむことができる縦幅を有し、且つ、くるんだ状態で前記殺処分畜を吊持可能な強度を有するシート材1と、このシート材1の上下対称位置それぞれに設けられ、前記吊持時に重機の吊持用フックを連通して掛止可能な一対のフック掛け2とを備える。シート材1に、上下の対辺の閉じ合わせを保持する開き止め3を設ける。また、シート材1には予め消毒剤を付着させておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、家畜伝染病の患畜であることなどを理由に、殺処分された家畜の死体(本発明において「殺処分畜」という。)を埋却地等に運ぶ際、重機を用いて殺処分畜を運搬用車両に積み込めるようにした殺処分畜の運搬用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
家畜が牛疫、口蹄疫又はアフリカ豚コレラなど、法定の家畜伝染病に罹患した場合、家畜伝染病予防法に基づき、所有者による患畜の殺処分が義務づけられている。殺処分の対象は、患畜である疑いがある、または患畜となるおそれがある家畜にも及ぶ。つまり、前記法定の家畜伝染病の患畜が確認された場合は、この患畜が殺処分の対象となることはもちろん、この患畜と同じ農場で飼養されている他の家畜や、前記患畜の飼養管理者が管理する他の農場の家畜も疑似患畜として殺処分の対象となる。さらに、同法は、殺処分畜を焼却または埋却することも義務づけている。
【0003】
特許文献1は、動物の死体の処理袋として、消臭効果および防腐効果のある内装と、防水加工された外装とを有し、ファスナーで開封可能とすると共に、四隅に手掛け用の穴を設けた構成を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−203576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
法定の家畜伝染病の一つである口蹄疫は、本願出願時において有効な治療方法がなく、たとえワクチン接種などの防疫処置をとったとしても、最終的には患畜・疑似患畜の全頭を殺処分して清浄化するしか手立てがないとされている。そして、口蹄疫は、たった数個のウイルスで牛1頭を罹患させるといわれるほど、極めて強い感染力を有するため、その患畜を確認した場合、いかに迅速に対応するかが、本病のまん延を防止するうえで重要である。
【0006】
特に豚は、過密な飼育環境にあって感染が拡大しやすく、牛よりも口蹄疫ウイルスの増殖が早いともいわれているため、極めて迅速に対応する必要がある。例えば、豚を含む数種の偶蹄類を飼養する農場で口蹄疫発生が確認された場合は、豚を優先的に殺処分することが国の指針で定められている。そして、患畜等の殺処分後、二次感染(飛び火)を確実に防止するために、殺処分畜を速やかに埋却地等に運搬して、直ちに埋却等することが重要である。実際、平成22年に宮崎県で発生した口蹄疫問題では、埋却地の確保等で対応が遅れ、最初の発生確認から僅か2ヶ月で、疑似患畜を含む延べ27万頭余りが処分対象となった。
【0007】
通常、殺処分畜の運搬にはトラック等の運搬用車両が用いられるが、従来は、車両への積み込みを人間が数人がかりで行うこともあり、母豚でおよそ200kg、肉豚でも100kg前後ある豚の死体を人力で積み卸しするのは非常に過酷な作業であった。しかも、現場地域は人や車両の出入りが厳しく制限されるため、限られた人員および機材で効率的に殺処分畜の積み込み作業を行えることが望まれていた。
【0008】
これに対して、特許文献1に開示された動物の死体処理袋は、犬や猫などのペットを対象にしており、豚などの家畜を重機で吊り上げる構造や強度を有しない。
【0009】
本発明は上述した課題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、殺処分畜を重機によって運搬用車両に積み卸しできる用具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明の運搬用シートは、殺処分畜の体長よりも長い横幅を有すると共に、上下の対辺を閉じ合わせたとき前記横幅に沿って横たえた殺処分畜の全身をくるむことができる縦幅を有した四角形状からなり、且つ、くるんだ状態で前記殺処分畜を吊持可能な強度を有するシート材と、このシート材の前記対辺の対応する位置それぞれに設けられ、前記吊持時に重機のフックを連通して掛止可能な一対のフック掛けとを備える。
【0011】
シート材は殺処分畜の全身をくるむ寸法・形状を有すればよく、具体的な寸法や形状は適用しようとする殺処分畜の大きさ等で決する。また、このシート材による殺処分畜の包被態様は、シート材の中央に殺処分畜を載置し、上下の対辺が閉じ合わさるようにシート材を二つ折りすることによって、当該殺処分畜をロール状に包み込む簡易なものである。このため、殺処分畜を完全に密封するものではないが、殺処分畜の包被作業、つまり、殺処分畜の運搬用車両への積み卸し準備を極めて迅速に行うことができる。また、シート材は殺処分畜をくるんだまま吊持したとき、破けや裂けが生じない強度を有すればよく、殺処分畜が伝染性疾病であったときはウイルスの放散を防止するために不浸透性であることが好ましいが、具体的な素材や編成方法、さらに積層であるか否か等を限定するものではない。
【0012】
一方、フック掛けは、シート材の閉じ合わさる対辺それぞれに設けられ、殺処分畜をくるんだ後、当該一対のフック掛けにまとめてクレーン車や滑車等のフックを引っ掛けることで、殺処分畜をシート材で包被したまま吊持することができる。フック掛けは、最も簡単にはシート材の対辺中央に鳩目を1つずつ設けて構成することができるが、そうすると左右のバランスがとりづらくなり、吊持時に傾くと殺処分畜がシート材から抜け落ちるおそれがある。このため、フック掛けは、対辺の中心から等距離に基部を一対備えることが好ましい。各フック掛けが、基部を二つ有することで、その中心線上が吊持の支点となり、殺処分畜を安定して吊持することができるようになる。なお、基部は、フック掛けが掛け帯の場合、当該掛け帯の両端のシート材に対する固着部を示す。また、基部は、それぞれが鳩目や吊環などの円環金具であってもよく、この場合は、前記円環金具に掛け帯の両端を取付けることになる。
【0013】
家畜伝染病予防法では家畜として牛や豚の他、馬、山羊、綿羊、犬、鶏が規定されており、本発明シートはこれら何れの殺処分畜にも適用できるが、特に口蹄疫で深刻な被害をもたらす豚の殺処分畜に適用することが好ましい。この場合、シート材やフック掛けは、数十kgから、ときには200kgを超える豚の殺処分畜を吊持したときに破断しない必要がある。これを解決するために、シート材を複数枚積層した構成とすることも可能であるが、本発明の運搬用シートは、殺処分畜と一緒に廃棄することを想定しているため、より簡易でありながら、当該強度を確保するために、対辺間に補強帯を設けるという手段を用いる。補強帯は本数が多いほど強度向上に寄与するが、フック掛け間に設けることで、吊持時のシート材強度を確実に補強することができる。
【0014】
また、シート材を閉じ合わせる対辺は、吊持時、フックに向かう引張力によってほぼ閉じ合わさった状態を維持するが、より確実に閉じ合わせを保持するには、シート材に開き止めを設けることが好ましい。この開き止めの具体例としては、線上に並んだ務歯が噛み合う線ファスナー(スライドファスナー)、フック状起毛とループ状起毛等が係合する面ファスナー、ボタンとボタンホールの組み合わせ、ホック、バックル、緊縛バンド、結び紐などがある。ただし、素早く閉止でき、一度閉じれば、開く必要がないことから、はめ殺しのバックルを開き止めとして使用することが好ましい。なお、開き止めを上下の対辺に沿って複数設けることも有効である。
【0015】
さらに、本発明の運搬用シートを家畜伝染病予防法に基づいて殺処分された家畜に用いるときは、シート材にその伝染病に対応した消毒あるいは殺菌効果を有する薬剤を予め付着させておくことが好ましい。たとえば、法定の家畜伝染病である口蹄疫であれば、消毒剤として4%炭酸ナトリウム液(別名:4%炭酸ソーダ液)が典型的であり、そのほか、ヨウ素系消毒薬、塩素系消毒薬、アルデヒド系消毒薬、複合消毒薬、NaOH添加消毒薬などであるが、これらに限定するものではない。また、付着の方法も、含浸、塗布、噴霧などが該当するが、簡単に薬効を失わないものであれば、特に付着方法も限定されない。さらに、付着の時期も限定されず、使用直前に当該薬剤を新たに、あるいは再度付着させることも本発明に含むものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の運搬用シートによれば、殺処分畜をくるんだ状態で重機により吊り上げることができるため、殺処分畜の移動や運搬用車両への積み卸し作業を省力且つ迅速に行え、口蹄疫など家畜伝染病のまん延を極めて有効に防止し得る。また、本発明シートは、手作業にならざるを得ない殺処分畜の包被作業も、極めて簡単且つ迅速に行うことができるため、死体処理のさらなる時間短縮に寄与する。そればかりか、本発明シートは適当な大きさのシート材にフック掛けを設けるという簡単な構成であるから、製品コストも低く、そのまま殺処分畜と一緒に廃棄する使い捨て用シートとして好適である。また、保管に場所もとらないため、容易に相当枚数を備蓄しておくこともできる。
【0017】
さらに、シート材のフック掛け間に補強帯を設けたものにあっては、シート材を複数枚重ね張りするよりも、簡単かつ低コストで、高強度のシートを得ることができる。
【0018】
また、シート材に開き止めを設けたものは、殺処分畜をくるんだ状態を確実に保持でき、殺処分畜がシートから落下することを防ぎ、また伝染性疾病にかかった殺処分畜からウイルス等が飛散するのを防止できる他、作業者が殺処分畜を直視することも避けることもできる。さらにまた、シート材に予め消毒剤や殺菌剤を付着したものにあっては、防疫効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を示す運搬用シートの展開図
【図2】同シートの使用方法を示す説明図
【図3】フック掛けの別実施例を示す部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る運搬用シートの展開図であり、図中、1はシート材、2はフック掛け、3は開き止めである。
【0021】
シート材1は、適用しようとする殺処分畜の体長よりやや大きめの横幅を有し、上下の対辺1a・1bを閉じ合わせることで、シート上に左右に横たえた殺処分畜の全身をロール状にくるむことができる縦幅を有する。例えば、殺処分畜が肉豚であれば、2〜3m角に裁断した長方形または正方形のシート材を使用する。シート材1の素材は、殺処分畜を吊持したとき破断しない強度を有すればよく、ブルーシートと呼ばれるポリエチレンなどの合成樹脂製シートが手軽であるが、米や麦、その籾殻を収容する穀類用フレキシブルコンテナと同じ素材のものも使用することができる。また、この運搬用シートを、口蹄疫など伝染性疾病にかかった患畜等の殺処分畜の運搬に使用する場合、シート材1にはそのウイルスに対応した消毒あるいは殺菌効果を有する薬剤を予め付着させておくことが好ましい。この場合、薬効を担保することができるのであれば、付着の方法や時期は特に限定しない。
【0022】
これに対してフック掛け2は、シート材1の上下対辺1a・1bに対称に一対設けられ、これまた殺処分畜を吊持可能な強度を有する。この実施形態の場合、フック掛け2は、シート材1の対辺の中心から等距離に掛け帯2aの両端2b・2cを縫合その他の方法によって固着してなる。なお、このフック掛け2においては、シート材1に固着された掛け帯2aの両端2b・2cそれぞれが本発明でいう基部に相当する。
【0023】
そして、本実施形態では、シート材1の補強のために、上下のフック掛け2・2間に補強帯1c・1cを縫合その他の方法によって一体的に設けている。つまり、殺処分畜を吊持したときに最も荷重のかかるフック掛け2・2の両端(基部)間に補強帯1c・1cを設けることで、シート材1の耐荷重を高めている。ただし、補強帯1c・1cの数はこれよりも多くてもよく、また、シート材1が当初より所定の耐荷重を有するものであれば、補強帯1cを省略することも可能である。
【0024】
一方、開き止め3は、シート材1で殺処分畜をくるんだ後、上下対辺1a・1bの閉じ合わせを保持するもので、この実施形態では、雄部材3aと雌部材3bとの組み合わせからなるバックルを適用している。したがって、雄部材3aを雌部材3bに嵌合することによって、上下対辺1a・1bを素早く閉じ合わせることができ、その後、シート材1が不用意に展開することを防止することができる。なお、このようなバックルについては、雄雌の嵌合を解除できるものもあるが、本発明の場合、シート材1を閉じれば、その後、開く必要はなく、むしろ、不用意に開かないほうが、ウイルスのまん延防止という観点から好ましいため、雄部材3aと雌部材3bがはめ殺しによって嵌合するバックルを採用することがより好ましいものである。また、他の開き止めとしては、スライドファスナー、面ファスナー、ボタン、ホック、緊縛バンド、結び紐などが考えられるが、閉じやすく、閉じた状態を強固に保持するという条件に基づけば、ワンタッチで閉じることができる本実施形態のバックルを開き止めとして採用することが好ましい。
【0025】
次に、図2は、本シートの使用方法を示したもので、まず、展開したシート材1の中央付近に殺処分畜Dを横幅に沿って横たえる(図2(a))。なお、家畜を薬殺する場合は、シート上で行うことが好ましい。死後に排出される、よだれ、体液、排泄物等をシートで受けることができ、こうした排出物によって現場が汚染するのを防止することができると共に、家畜が生きているときに歩いてシートに移動させることができるため、相当重量の殺処分畜Dをシート材1に載せる手間も省けるからである。そして、殺処分畜Dをシート上に載置したならば、シート材1の上下対辺1a・1bを開き止め3によって閉じ合わせる(図2(b))。この作業によって、殺処分畜Dの全身はシート材1によってロール状にくるまれる。このとき、前記排泄物等も一緒にシート材1に包むことができる。そして、クレーン車Cなど揚重機械のフックFに一対のフック掛け2・2をまとめて引っ掛けることで(図2(c))、殺処分畜Dをシート材1でくるんだままトラックTなどの運搬用車両に積み込むことができる(図2(d))。なお、説明の便宜上、図面では殺処分畜Dをくるんだときのシート材1の包被態様をほぼ完全な円筒状としているが、実際は、シート材1が殺処分畜Dに密着し、左右の余剰部分も円形ではなく若干すぼまった態様となる。
【0026】
図3は、フック掛けの他の実施例を示したもので、シート材1の上下対辺1a・1bそれぞれに、対辺中心から等距離位置に円環金具20・21を一対設け、この円環金具を基部として、両端にカラビナやフックなどの結合金具22・23を有するロープ24(掛け帯)を掛け渡し、このロープ24に重機のフックFを引っ掛けるようにしている。このとき使用するロープ24は1本であり、両端の結合金具22・23それぞれを、シート材1の上下対辺1a・1bを閉じ合わせたときに重なり合う円環金具20・20および21・21それぞれに結合させる。この構成例では、上下対辺1a・1bが吊持時にロープ24にかかる引張力によって自然と閉じ合わさるため、開き止めを省略することが可能となる。
【0027】
このように本発明の運搬用シートによれば、殺処分畜Dを素早くくるみ、重機によって運搬用車両等に積み卸しできるため、殺処分畜の処理を省力且つ迅速に行うことができる。また、完全な密封ではないものの、殺処分畜Dの全身を包被するため、殺処分畜Dに残存するウイルスや体液の放散を抑止し、二次感染を有効に防止する。
【0028】
なお、本発明の運搬用シートは、口蹄疫に代表される家畜伝染病の患畜や疑似患畜の死体運搬用として、伝染性の高さや飼養数の多さから、豚の死体に好適に利用できるが、羊や山羊などにも適用でき、シート材の大きさ・強度を高めることで、牛や馬にも適用することができる。
【0029】
1 シート材
2 フック掛け
3 開き止め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1組の対辺を閉じ合わせて殺処分畜の全身をくるむ寸法の四角形状を有し、且つ、くるんだ状態で前記殺処分畜を吊持可能な強度を有するシート材と、このシート材の前記対辺それぞれに設けた一対のフック掛けとを備えることを特徴とした殺処分畜の運搬用シート。
【請求項2】
シート材に、対辺の閉じ合わせを保持する開き止めを設けた請求項1記載の殺処分畜の運搬用シート。
【請求項3】
フック掛けは、対辺の中心から等距離に基部を一対設けてなる請求項1または2記載の殺処分畜の運搬用シート。
【請求項4】
シート材は、対辺間に補強帯を設けてなる請求項1、2または3記載の殺処分畜の運搬用シート。
【請求項5】
補強帯を、少なくともフック掛け間に設けた請求項4記載の殺処分畜の運搬用シート。
【請求項6】
シート材は、予め消毒剤あるいは殺菌剤を付着してなる請求項1から5のうち何れか一項記載の殺処分畜の運搬用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−17131(P2012−17131A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156575(P2010−156575)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000217251)田中産業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】