説明

気流場データ生成装置、気流場データ生成方法、及び気流場データ生成プログラム

【課題】計算機のスペックにかかわらず、詳細な気流場データを生成できる気流場データ生成装置、気流場データ生成方法、及び気流場データ生成プログラムを得ることを目的とする。
【解決手段】気流場データは、特定領域A3内の複数の評価地点における拡散物質の拡散状況を予測するために用いるデータであり、評価地点が細かく設定された気流場データを用いることによって、拡散物質の拡散状況をより詳細に予測することができる。拡散状況予測装置は、特定領域A3を複数の領域に分割した分割領域50毎に気流場データを生成し、生成された複数の分割領域50毎の気流場データを結合し、より広い領域の特定領域A3を設定し、該特定領域A3に対応する気流場データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気流場データ生成装置、気流場データ生成方法、及び気流場データ生成プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から原子力発電、化学工場、及びその他設備の事故、或いは事件によって放出されるガス又は粉塵等の拡散物質の拡散範囲及び拡散濃度等を示す拡散状況を予測する拡散予測手法がある。
【0003】
この拡散予測手法として、特許文献1には、拡散物質を大気中に排出する拡散源が存在する対象地点における、風向と大気安定度が異なる複数の気流場データからなる気流場データベースを予め求めておき、対象日時の気象データを基に風向と大気安定度を求め、対象日時の気象データの風向と大気安定度に類似した風向と大気安定度となっている気流場データを、気流場データベースから読み出し、読み出した気流場データを、拡散物質の拡散状況を演算する拡散方程式に代入することにより拡散物質の拡散場データを求める技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4209354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、計算領域(拡散物質の拡散状況を予測する対象領域)を格子状に分割して、各格子点の風速及び温度等の変数について、変数の微分方程式を時間積分する数値流体解析(CFD:Computational Fluid Dynamics)により気流場データを生成する。なお、詳細な気流場データを生成するためには、より広い計算領域に対して距離間隔の短い格子点を設定する必要がある。そして、詳細な気流場データを用いることで、拡散物質の拡散状況をより詳細に予測することができる。
【0006】
しかし、詳細な気流場データを生成するためには、気流場データを生成する計算機のスペック(RAM(Random Access Memory)の容量(所謂、メモリ容量)等)が高くなければならない。すなわち、気流場データを生成する際の計算領域は、気流場データを生成する計算機のスペックに依存し、その結果、拡散物質の拡散状況の予測精度が、計算機のスペックに左右されるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、計算機のスペックにかかわらず、詳細な気流場データを生成できる気流場データ生成装置、気流場データ生成方法、及び気流場データ生成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の気流場データ生成装置は以下の手段を採用する。
【0009】
すなわち、本発明の気流場データ生成装置は、注目領域内の複数の評価地点における拡散物質の拡散状況を予測するために用いる気流場データを生成する気流場データ生成装置であって、前記注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に前記気流場データを生成する生成手段と、前記生成手段によって生成された複数の分割領域毎の前記気流場データを結合させる結合手段と、を備える。
【0010】
本発明によれば、生成手段によって、注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に気流場データが生成され、結合手段によって、生成手段で生成された複数の分割領域毎の気流場データが結合される。
【0011】
気流場データとは、注目領域内の複数の評価地点における拡散物質の拡散状況を予測するために用いるデータであり、評価地点が細かく設定された気流場データを用いることによって、拡散物質の拡散状況をより詳細に予測することができる。しかし、評価地点が細かく設定された気流場データを生成する対象となる注目領域をより広く設定すると、気流場データを生成するためにより大きなメモリ領域を有する計算機が必要となる。
【0012】
そのため、本発明は、注目領域に対応する気流場データを一度の処理で生成するのではなく、注目領域を分割した分割領域毎に気流場データを生成し、その後結合させるので、大きなメモリ領域を有する計算機でなくても、より広い領域の注目領域に対応した評価地点が細かく設定された気流場データを生成できる。
【0013】
以上のことから、本発明は、計算機のスペックにかかわらず、詳細な気流場データを生成できる。
【0014】
また、本発明は、前記注目領域が、該注目領域よりも広い領域であると共に、該注目領域よりも前記評価地点が粗く設定されている拡大領域内に設定されてもよい。
【0015】
本発明によれば、注目領域が拡大領域内に設定されているので、拡散物質の拡散状況をより詳細に予測する必要性のある領域に対応した詳細な気流場データを、計算機のスペックにかかわらず生成できる。
【0016】
また、本発明は、前記注目領域が、前記拡大領域内に複数設定されてもよい。
【0017】
本発明によれば、注目領域が拡大領域内に複数設定されているので、距離の離れた注目領域に対する拡散物質の拡散状況を同時に詳細に予測することができる。
【0018】
また、本発明は、隣り合う前記分割領域の前記気流場データを、連続性を持つように補正する補正手段を、さらに備えてもよい。
【0019】
本発明によれば、補正手段によって、隣り合う分割領域の気流場データが連続性を持つように補正されるので、結合された気流場データの精度をより高くすることができる。
【0020】
また、本発明は、前記生成手段が、隣り合う前記分割領域の一部の領域が互いに重なり合うように複数の前記気流場データを生成し、前記補正手段が、前記生成手段によって生成された複数の前記気流場データの互いに重なり合う前記一部の領域を平均化してもよい。
【0021】
本発明によれば、生成手段によって、隣り合う分割領域の一部の領域が互いに重なり合うように複数の気流場データが生成される。そして、補正手段によって、生成手段で生成された複数の気流場データの互いに重なり合う一部の領域が平均化されることで、隣り合う分割領域の気流場データが連続性を持つように補正される。
【0022】
これによって、本発明は、簡易に、結合された気流場データの精度をより高くすることができる。
【0023】
一方、上記課題を解決するために、本発明の気流場データ生成方法は以下の手段を採用する。
【0024】
すなわち、本発明の気流場データ生成方法は、注目領域内の複数の評価地点における拡散物質の拡散状況を予測するために用いる気流場データを生成する気流場データ生成方法であって、前記注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に前記気流場データを生成する第1工程と、前記第1工程によって生成された複数の分割領域毎の前記気流場データを結合させる第2工程と、を含む。
【0025】
本発明によれば、注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に気流場データが生成され、生成された複数の分割領域毎の気流場データが結合されるので、本発明は、計算機のスペックにかかわらず、詳細な気流場データを生成できる。
【0026】
一方、上記課題を解決するために、本発明の気流場データ生成プログラムは以下の手段を採用する。
【0027】
すなわち、本発明の気流場データ生成プログラムは、注目領域内の複数の評価地点における拡散物質の拡散状況を予測するために用いる気流場データを生成する気流場データ生成プログラムであって、コンピュータを、前記注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に前記気流場データを生成する生成手段と、前記生成手段によって生成された複数の分割領域毎の前記気流場データを結合させる結合手段と、して機能させる。
【0028】
本発明によれば、注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に気流場データが生成され、生成された複数の分割領域毎の気流場データが結合されるので、本発明は、計算機のスペックにかかわらず、詳細な気流場データを生成できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、計算機のスペックにかかわらず、詳細な気流場データを生成できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態に係る拡散状況予測装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る補助記憶装置に記憶されているデータの一例を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る注目領域における評価地点の設定例を示す模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る気流場データの説明に要する模式図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る分割された特定領域を示す模式図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る気流場データ生成プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態に係る特定領域を複数設定した場合における拡散物質の拡散状況を模式図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る気流場データ生成プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】本発明の第2実施形態に係る分割された特定領域を示す模式図である。
【図10】本発明の他の実施の形態に係る係る分割された特定領域を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の一実施形態に係る気流場データ生成装置、気流場データ生成方法、及び気流場データ生成方法について、図面を参照して説明する。
【0032】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る拡散状況予測装置10(気流場データ生成装置)の概略構成を示すブロック図である。本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10は、原子力発電所、化学工場等が設置されている地点、又は主要都市の中心地点等の注目地点を含む所定の領域である注目領域の気体状況を予測し、予測した気体状況を用いて放出地点から放出された、ガス又は粉塵等の拡散物質の拡散状況を予測するシステムである。
【0033】
拡散状況予測装置10は、いわゆるコンピュータシステムであり、拡散状況予測装置10全体の動作を司るCPU(Central Processing Unit)12、CPU12による各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM等の主記憶装置14、各種プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM(Read Only Memory)及びHDD(Hard Disk Drive)等の補助記憶装置(記憶手段)16、キーボード及びマウス等の入力装置20、ディスプレイ及びプリンタ等の出力装置20、並びに外部の装置と通信を行う通信装置22等を備えて構成されている。
【0034】
上記補助記憶装置16には、各大気条件と各大気条件下における注目領域の気流場データとが対応付けられて記憶されている。大気条件は、例えば、風向と大気安定度との組み合わせによって決定されるものであり、本第1実施形態では、図2に示すように、風向を16方位、大気安定度を6段階AからFに設定している。
【0035】
気流場データは、注目地点を含む注目領域、及び注目領域よりも広い領域である拡大領域における3次元の気流場データであり、注目領域及び拡大領域内の建造物及び地形等を考慮し、数値流体解析(CFD)を用いてCPU12によって計算される。ここで、注目領域は、図3に示すように、例えば、1辺が所定長さ(図3では、10kmの場合を示している。)の矩形状に設定されており、この注目領域内には気流場の評価地点が所定の距離間隔(図3では、10mの場合を示している。)で格子状に設定されている。なお、拡大領域は、注目領域よりも評価地点が粗く設定されている。
【0036】
拡散状況予測装置10は、これらの各評価地点における風向、風速、乱流エネルギー、湿度、及び温度等の各種気象要素を求める。具体的には、上記16方位の風向と6段階の大気安定度とにより決定される全ての組みあわせ、つまり、96(=16×6)通りの各気象条件下において、注目領域内に設定された各評価地点における気流場を流体力学モデル(CFDモデル)を用いて計算し、計算結果である気流場データと該気流場データを得た気象条件とを対応付けて補助記憶装置16に記憶する。
【0037】
通信装置22は、ネットワーク上に設置されている気象データベース24に接続可能な機能を有している。気象データベース24には、過去の気象データ及び将来の予測気象データが蓄積されている。気象データの一例としては、GPV(Grid Point Value)データ及びAMEDAS等が挙げられる。
【0038】
そして、CPU12は、注目領域の大気条件に応じて補助記憶装置16に記憶されている気流場データを抽出し、抽出した気流場データを用いて拡散計算を行うことにより、放出地点から放出された拡散物質の拡散状況を所定時間間隔毎(例えば、10分間隔毎)に予測する。なお、拡散状況予測装置10は、抽出した気流場データを用いた拡散物質の拡散状況の予測結果を出力装置20に出力(ディスプレイへの表示及びプリンタによる記録媒体(紙媒体等)への記録等)させる。
【0039】
ここで、気流場データの抽出方法について説明する。
【0040】
まず、拡散物質が放出される放出地点が設定され、オペレータにより演算開始時刻などの演算に必要となる初期条件として入力された予測開始時刻から予測終了時刻までの評価期間において、所定時間間隔(例えば、10分刻み)で、注目領域及び拡大領域に設定された複数の評価地点における気象要素が、気象モデルを用いて求められる。
【0041】
具体的には、拡散状況予測装置10は、通信装置22を介して気象データベース24に接続し、上記評価期間における気象データ、例えば、全国規模の気象観測データであるGPVデータをダウンロードする。続いて、このGPVデータに基づいて初期条件および境界条件を決定し、ネスティング手法を用いて拡大領域から注目領域というように、順次、高解像度の気象要素を求める。
【0042】
この処理は、まず、GPVデータを用いて、時間内挿補間演算及び空間内挿補間演算を実行することにより、拡大領域の境界条件を求めるとともに、上記所定時間間隔毎の初期条件を求める。ここで、境界条件及び初期条件の演算手法の詳細については、例えば、現在良く知られている手法を採用することが可能であり、例えば、特開2002−202383号公報に従来技術として開示されている手法を採用することが可能である。
【0043】
このようにして、GPVデータに対応する大きさの拡大領域における初期条件及び境界条件が決定されると、これら条件を用いて、大気現象を解析する偏微分方程式であるRAMSコードで示されている風速場解析の基本方程式を差分解演算し、この変数を差分解(つまり、上記所定時間間隔毎の各評価地点における気象要素)として出力する。
【0044】
そして、拡散状況予測装置10は、拡大領域における各評価地点の気象要素を決定すると、拡大領域内における気象要素から注目領域の大気条件を決定し、該大気条件に対応する気流場データを補助記憶装置16から抽出する。例えば、拡散状況予測装置10は、注目領域に該当する一の評価地点の気象要素、例えば、風速、風向、日射量を選択し、選択した風速と日射量とから大気安定度を求める。そして、上記風向と大気安定度との組み合わせによって定まる大気条件に対応する気流場データを補助記憶装置16から抽出する。
【0045】
次に、従来から行われている気流場データの生成について説明する。
【0046】
まず、図4に示すように、気流場データを生成する対象となる注目領域を特定領域A3として設定する。そして、この特定領域A3を含むとともに、その面積が段階的に拡大される複数の拡大領域A2(A2>A3であり、以下、「中領域」という。)、拡大領域A1(A1>A2であり、以下、「大領域」という。)を設定する。例えば、大領域A1は40km四方に、中領域A2は、10km四方に、特定領域A3は3km四方に設定される。なお、この例における特定領域A3において、必要とする被害評価範囲が2km四方の場合、拡散物質の放出地点として設定可能な範囲が1km四方となる。
【0047】
これら特定領域A3、中領域A2、及び大領域A1には、それぞれ気流要素を評価するための評価地点が設定されている。例えば、大領域A1には、東西方向及び南北方向に1kmの距離間隔(40×40メッシュ)で、格子状に評価地点が設定されている。同様に、中領域A2には、東西方向及び南北方向に0.25kmの距離間隔(40×40メッシュ)で、格子状に評価地点が設定され、特定領域A3には、東西方向及び南北方向に10mの距離間隔(300×300メッシュ)で、格子状に評価地点が設定されている。
【0048】
そして、上記大領域A1、中領域A2、及び特定領域A3において、気流要素を予測する場合には、まず、最も広い領域である大領域A1に設定された各評価地点における気流要素を気象観測データに基づいて演算する。ここで、例えば、気象観測データとして気象GPVデータを用いる場合について、具体的に説明する。
【0049】
まず、初期条件としてGPVデータを空間内挿補間したデータを用い、境界条件としてGPVデータを空間・時間内挿補間したデータを用いる。そして、これらデータを用いて気象に関する偏微分方程式を解くことにより、大領域A1における各評価地点の気流要素を演算する。
【0050】
続いて、中領域A2における評価地点の気象要素を以下の処理手順により演算する。まず、初期条件としては、中領域A2における評価地点のうち、大領域A1に設定した評価地点と同じ位置にあるものは、大領域A1の演算において既に求められているので、そのデータをそのまま流用し、その他の評価地点においては、流用したデータを内挿補間したデータを用いる。次に、境界条件としては、中領域A2の境界上の評価地点のうち、大領域A1に設定した評価地点と同じ位置にあるものは、大領域A1のデータを流用し、その他の境界上の評価地点では、流用したデータを内挿補間したデータを用いる。そして、これら初期条件、境界条件を用いて、気象に関する偏微分方程式を解いて各評価地点の気流要素を演算する。
【0051】
同様に、特定領域A3における評価地点における初期条件、境界条件を、上述した中領域A2と同様の手順により求め、求めた初期条件、境界条件を用いて、気象に関する偏微分方程式を解くことにより、各評価地点の気流要素を演算する。
【0052】
このように、特定領域A3は、該特定領域A3よりも広い領域であると共に、該特定領域A3よりも評価地点が粗く設定されている大領域A1及び中領域A2内に設定されている。このため、大領域A1の全領域に詳細な評価地点を設定して演算する場合に比べて、処理時間を短くすることが可能となる。なお、このような計算領域を徐々に絞り込む処理方法を多重格子法という。
【0053】
ここで、拡散状況予測装置10は、評価地点が細かく設定された気流場データを用いることによって、拡散物質の拡散状況をより詳細に予測することができる。しかし、評価地点が細かく設定された気流場データを生成する対象となる注目領域をより広く設定すると、気流場データを生成するためにより大きなメモリ領域を有する計算機(拡散状況予測装置10)が必要となる。
【0054】
そこで、本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10は、特定領域A3を図5の例に示すように複数の領域に分割し、分割した分割領域50A〜50B毎に気流場データを生成する(以下、「気流場データ生成処理」という。)。なお、以下の説明において、各分割領域を区別する場合は、符号の末尾にA〜Bの何れかを付し、各分割領域を区別しない場合は、A〜Bを省略する。
【0055】
図6は、気流場データ生成処理を行う場合に、CPU12によって実行される気流場データ生成プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、該気流場データ生成プログラムは補助記憶装置16の所定領域に予め記憶されている。
【0056】
まず、ステップ100では、特定領域A3(図5の例では、6km四方)を分割する。なお、例えば、特定領域A3の分割数(縦方向の分割数及び横方向の分割数)が、入力装置20を介してオペレータによって入力されることで、各分割領域50の範囲が決定される。図5の例では、縦方向の分割数として2が入力され、横方向の分割数として2が入力されることによって、特定領域A3が、4つに分割される。
【0057】
また、各分割領域50は、各々拡散物質を放出させる放出地点として設定可能な放出可能領域52(図4及び図5の特定領域A3内の一点鎖線で囲まれた領域)の一部を含む。
【0058】
次のステップ102では、上述した多重格子法によって、各分割領域50毎に気流場データを生成する。
【0059】
次のステップ104では、ステップ102で生成された複数の分割領域50毎の気流場データを結合させ、一つのファイル、すなわち特定領域A3に対応する気流場データとする。
【0060】
次のステップ106では、ステップ104で結合された気流場データを特定領域A3に対応する気流場データとして、該気流場データを得た気象条件とを対応付けて補助記憶装置16に記憶させ、本プログラムを終了する。
【0061】
図7は、特定領域A3を複数設定した場合における拡散物質の拡散状況を示す。図7し示される特定領域A3−2,A3−3は、各々、例えば人口が密集している領域又は重要施設が設けられている注目領域等である。
【0062】
図7(A)に示すように、拡散状況予測装置10は、複数の特定領域A3−1,A3−2,A3−3に対応する気流場データを生成し、特定領域A3−1にのみ拡散物質の放出地点を設け、該気流場データを用いて拡散計算を行うことによって該放出地点から放出された拡散物質の拡散状況を予測してもよい。
【0063】
また、図7(B)に示すように、拡散状況予測装置10は、複数の特定領域A3−1,A3−2,A3−3に対応する気流場データを生成し、特定領域A3−1,A3−2,A3−3に各々に拡散物質の放出地点を設け、該気流場データを用いて拡散計算を行うことによって各放出地点から放出された拡散物質の拡散状況を予測してもよい。
【0064】
以上説明したように、本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10は、注目領域を複数の領域に分割した分割領域50毎に気流場データを生成し、生成した複数の分割領域50毎の気流場データを結合する。このように、注目領域に対応する気流場データを一度の処理で生成するのではなく、注目領域を分割した分割領域毎に気流場データを生成し、その後結合させるので、本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10は、計算機のスペック(具体的には、主記憶装置14に含まれるRAMの容量)にかかわらず、詳細な気流場データを生成できる。
【0065】
具体的には、例えば、注目領域を3km四方までしか設定できなかった計算機において、本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10では、それ以上の領域を注目領域に設定できる(図5の例では、6km四方)。
【0066】
また、拡散状況の評価範囲を例えば2kmとしている場合において、注目領域を3km四方までしか設定できなかった計算機では、放出可能領域52の範囲は、注目領域の中央1km四方となる。しかし、本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10では、注目領域を6km四方まで設定できるので、放出可能領域52を注目領域の中央4km四方に設定できる。このように、本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10は、放出可能領域52も広く設定できる。
【0067】
また、本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10は、注目領域が、該注目領域よりも広い領域であると共に、該注目領域よりも評価地点が粗く設定されている拡大領域内に設定されているので、拡散物質の拡散状況をより詳細に予測する必要性の高い領域に対応する、詳細な気流場データを、計算機のスペックにかかわらず生成できる。
【0068】
さらに、本第1実施形態に係る拡散状況予測装置10は、注目領域が、拡大領域内に複数設定されているので、距離の離れた注目領域に対する拡散物質の拡散状況を同時により詳細に予測することができる。
【0069】
〔第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
【0070】
なお、本第2実施形態に係る拡散状況予測装置10の構成は、図1に示される第1実施形態に係る拡散状況予測装置10の構成と同様であるので説明を省略する。
【0071】
次に、本第2実施形態に係る気流場データ生成処理を説明する。なお、本第2実施形態に係る気流場データ生成処理は、特定領域A3の隣り合う分割領域50の気流場データが連続性を持つように補正する。
【0072】
図8は、本第2実施形態に係る気流場データ生成処理を行う場合に、CPU12によって実行される気流場データ生成プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、該気流場データ生成プログラムは補助記憶装置16の所定領域に予め記憶されている。なお、図8における図5と同一の処理については図6と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0073】
まず、ステップ100’では、特定領域A3の分割数(縦方向の分割数及び横方向の分割数)が、入力装置20を介してオペレータによって入力されることで、各分割領域50の範囲が決定される。なお、本第2実施形態に係る気流場データ生成処理では、図9の例に示すように、隣り合う分割領域50の一部の領域が互いに重なり合うように各分割領域50が設定される。図9の例において、斜線で囲まれた領域が、隣り合う分割領域50のうち、互いに重なり合う領域であり、重なり合う領域は、例えば、各辺の長さの所定割合(一例として10%)に設定されている。
【0074】
次のステップ102’では、ステップ100’で分割された、隣り合う分割領域50の一部の領域が互いに重なり合う複数の分割領域50毎に気流場データを生成する。
【0075】
次のステップ103では、ステップ102’で生成された複数の気流場データにおいて、隣り合う分割領域50の気流場データが連続性を持つように補正する。より具体的には、互いに重なり合う一部の領域の気流場データを平均化することで隣り合う分割領域50の気流場データが連続性を持つように補正する。
【0076】
以上説明したように、本第2実施形態に係る拡散状況予測装置10は、隣り合う分割領域50の一部の領域が互いに重なり合うように複数の気流場データを生成し、生成した複数の気流場データの互いに重なり合う一部の領域を平均化することで、隣り合う分割領域50の気流場データが連続性を持つように補正する。
【0077】
これによって、本第2実施形態に係る拡散状況予測装置10は、簡易に、結合された気流場データの精度をより高くすることができる。
【0078】
以上、本発明を、上記各実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記各実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0079】
例えば、上記各実施形態では、特定領域A3を4分割して各分割領域50毎に気流場データを生成する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、図10(A)に示すように特定領域A3を4分割して各分割領域50毎に気流場データを生成してもよいし、図10(B)に示すように特定領域A3を多角形とし、複数の分割領域50に分割し、各分割領域50毎に気流場データを生成する形態としてもよい。
【0080】
また、上記各実施形態では、拡大領域に含まれる注目領域を複数の分割領域に分割し、該分割毎に気流場データを生成する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、拡大領域を複数の分割領域に分割し、該分割毎に気流場データを生成する形態としてもよい。
【0081】
また、上記各実施形態では、複数の気流場データを結合させて一つのファイルとする場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、気流場データは、結合されることなく分割領域50毎に補助記憶装置16に記憶される形態としてもよい。この形態では、分割領域50毎の気流場データは、分割領域50の座標に対応する座標を有しているため、気流場データを用いて拡散計算を行う場合に、該座標に基づいて、分割領域50毎の気流場データが、特定領域A3に対応する気流場データとして結合される。
【0082】
また、上記各実施形態では、補助記憶装置16に気流場データ生成プログラムを記憶させていたが、本発明は、これに限定されるものではなく、気流場データ生成プログラムを、磁気ディスク、CD(Compact Disc)、及びDVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、メモIC(Integrated Circuit)カード、並びにメモリカード等の可搬型記憶媒体に記憶させ、該可搬型記憶媒体に記憶されている気流場データ生成プログラムを拡散状況予測装置10が読み取り、実行する形態としてもよい。
【0083】
さらに、上記各実施形態では、拡散状況予測装置10が、気流場データを生成する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、拡散状況予測装置10が気流場データを生成せずに、気流場データ生成装置となる他のコンピュータシステムが気流場データを生成し、生成された気流場データが、拡散状況予測装置10の補助記憶装置16に記憶される形態としてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10 拡散状況予測装置
12 CPU
14 主記憶装置
16 補助記憶装置
18 入力装置
20 出力装置
22 通信装置
24 気象データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注目領域内の複数の評価地点における拡散物質の拡散状況を予測するために用いる気流場データを生成する気流場データ生成装置であって、
前記注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に前記気流場データを生成する生成手段と、
前記生成手段によって生成された複数の分割領域毎の前記気流場データを結合させる結合手段と、
を備えた気流場データ生成装置。
【請求項2】
前記注目領域は、該注目領域よりも広い領域であると共に、該注目領域よりも前記評価地点が粗く設定されている拡大領域内に設定されている請求項1記載の気流場データ生成装置。
【請求項3】
前記注目領域は、前記拡大領域内に複数設定されている請求項2記載の気流場データ生成装置。
【請求項4】
隣り合う前記分割領域の前記気流場データを、連続性を持つように補正する補正手段を、
さらに備えた請求項1から請求項3の何れか1項記載の気流場データ生成装置。
【請求項5】
前記生成手段は、隣り合う前記分割領域の一部の領域が互いに重なり合うように複数の前記気流場データを生成し、
前記補正手段は、前記生成手段によって生成された複数の前記気流場データの互いに重なり合う前記一部の領域を平均化する請求項4記載の気流場データ生成装置。
【請求項6】
注目領域内の複数の評価地点における拡散物質の拡散状況を予測するために用いる気流場データを生成する気流場データ生成方法であって、
前記注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に前記気流場データを生成する第1工程と、
前記第1工程によって生成された複数の分割領域毎の前記気流場データを結合させる第2工程と、
を含む気流場データ生成方法。
【請求項7】
注目領域内の複数の評価地点における拡散物質の拡散状況を予測するために用いる気流場データを生成する気流場データ生成プログラムであって、
コンピュータを、
前記注目領域を複数の領域に分割した分割領域毎に前記気流場データを生成する生成手段と、
前記生成手段によって生成された複数の分割領域毎の前記気流場データを結合させる結合手段と、
して機能させるための気流場データ生成プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−8089(P2012−8089A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146391(P2010−146391)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)