気管切開チューブ用のカム作用脱離機構
気管切開チューブを患者の気管内に配置したときに、気管切開チューブからローディングカテーテルを優しく脱離させるための脱離機構が提供される。ローディングカテーテル及び気管切開チューブを互いに結合させて一体化させた後、気管切開チューブのフランジが患者の喉部の皮膚に当接するまで瘻孔を通過させる。ローディングカテーテルは、その後、ローディングカテーテルのハンドルを回転または回動させることによって取り外される。ローディングカテーテル及び気管切開チューブは、それらを互いに対して回転させたときに両部品の結合を優しく解除するカム作用機構を有している。この「カム作用」脱離機構は、外傷を形成したりそれにより回復期間が長引いたりする恐れのある過度の圧力または力を気管または喉部に加えることなく、ローディングカテーテルを取り外すことを可能にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管切開チューブ用のカム作用脱離機構に関する。
【背景技術】
【0002】
気管切開チューブを使用した挿管法は、気管へのアクセスを可能にするために、患者の首(頸部)に小さな横切開部を形成し、前記切開部を拡張し、拡張された前記切開部に前記チューブを挿入することにより行われる。気管切開チューブの成功的な留置を達成するために様々なシステムが開発されてきており、そのようなものとしては、例えばクック・メディカル社(Cook Medical Inc.)製のブルーライノ(Blue Rhino)(登録商標)拡張器を用いたシステムがある(特許文献1も参照されたい)。このクック社のシステムは、初期の拡張は、ブルーライノ拡張器を使用して行われる。拡張後、ブルーライノ拡張器を取り出し、第2の拡張器である「ローディング拡張器」を気管切開チューブの内側にぴったりと嵌合させる。その後、気管切開チューブ内にガイドカテーテルを挿入する。そして、ガイドカテーテル、第2の拡張器及び気管切開チューブを一体として、気管壁を通して気管内へ前進させる。気管切開チューブが適切な挿管深さに達したら、気管切開チューブを通じて第2の拡張器、ガイドカテーテル及びガイドワイヤを抜去する。そして、気管切開チューブ内に内側カニューレを挿入した後、気管切開チューブをベンチレータに接続する。
【0003】
このクック社のシステムは、ローディング拡張器は気管切開チューブに確実に結合されているのではなく、チューブの前進に対する気管瘻孔の摩擦及び抵抗によって気管切開チューブとローディング拡張器との強固な結合が維持されている。チューブを挿入する医療従事者は、チューブが完全に挿入される前に、ローディングカテーテルを抜去する必要がある。また、所望に応じて、チューブからローディングカテーテルを抜去し、部分的に挿入されたチューブを留置することも可能である。
【0004】
チューブを患者の頸部に配置するときに、チューブをより良く制御するために、ローディングカテーテルと気管切開チューブとを確実に結合することができるシステムが望ましい。また、そのような結合システムは、容易にかつスムーズに結合を解除することができなければならない。さもなければ、過度の力が必要となり、気管切開チューブの遠位端が気管瘻孔や気管壁の柔らかい組織に強い力で接触して傷つける危険性が増加する。
【0005】
気管切開チューブを配置するときに、従来技術よりもより良く制御することができるデバイスが求められている。また、ローディング拡張器(またはカテーテル)と気管切開チューブとの間の確実な結合を提供することができ、かつ前記部品間の結合を容易にかつスムーズに解除可能なデバイスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,637,435号明細書
【特許文献2】米国特許出願第12/147,817号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
気管切開チューブと他のデバイス(拡張器ローディングカテーテルなど)のための新規の脱離機構が提供される。この脱離機構は、気管切開チューブを患者の気管内に配置したときに、気管切開チューブからローディングカテーテルを優しく脱離させる。気管瘻孔を拡張した後、ローディングカテーテルを気管切開チューブ内に挿入する。ローディングカテーテルは気管切開チューブに結合させることが望ましい。ローディングカテーテル及び気管切開チューブを互いに結合させて一体とし、気管切開チューブのフランジが患者の喉部の皮膚に当接するまで瘻孔を通過させる。ローディングカテーテルは、その後、ローディングカテーテルのハンドルを回転または回動させることによって取り外される。ローディングカテーテル及び気管切開チューブは、それらを互いに対して回転させたときに両部品の結合を優しく解除するカム作用機構を有している。この「カム作用」脱離機構は、外傷を形成しれたりそれにより回復期間が長引いたりする恐れのある過度の圧力または力を気管または喉部に加えることなく、ローディングカテーテルを取り外すことを可能にする。気管切開チューブからのローディングカテーテルの分離は、喉部及び気管を傷つけるのを避けるために、できるだけ優しく行うことが重要である。
【0008】
気管切開チューブを所定の位置に配置した後は、適宜、特定の処置のために、気管切開チューブに他の補助的器具がローディングカテーテルと同様の方法で接続され得る。本発明のカム作用機構は、気管切開チューブからそれに取り付けた部品をゆっくりと分離させるために、カム作用面を用いる。前記2つの部品を互いに対して回転させることにより前記2つの部品の元々は互いに係合していた面を互いに対して移動させて係合状態を解除し、それにより前記2つの部品を互いに直線的に離間させることは「カム作用」として知られている。より簡単に言うと、カムは、回転運動を直線運動に変換するデバイスである。前記2つの部品を互いに対して回転させたとき、前記カム作用形状は協同的に作用して、前記両部品を互いに直線的に分離させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来技術のブルーライノ(R)拡張器を示す図である。
【図2】先細状の拡張器を示す図である。
【図3】拡張器ローディングカテーテル50を示す図である。
【図4】患者の喉部に取り付けるためのフランジを備えた気管切開チューブ26を示す図であり、カニューレを取り外した状態が示されている。
【図5】気管切開チューブ26にローディングカテーテル50を挿入した状態を示す図である。
【図6】気管切開チューブ26、ローディングカテーテル50及び拡張器先端部12を一体として気管に挿入した状態を示す図である。
【図7】気管切開チューブを気管内に残したままで、ローディングカテーテル50、拡張器先端部12、ガイドカテーテル14及びJワイヤ16を気管切開チューブ26を通して引き出す様子を示す図である。
【図8】気管カフを膨張させ、気管切開チューブを気管内の最終的な位置に留置した状態を示す図である。
【図9】両部品の分離をガイドするためにピンを使用するカム作用機構を示す図である。
【図10】両部品の分離をガイドするためにスロットを使用するカム作用機構を示す図である。
【図11】気管切開チューブと共に使用される交換式(例えば使い捨て式)のカニューレを示す図でる。
【図12】気管切開チューブに交換式のカニューレを挿入して取り付けた状態を示す図である。
【図13】気管切開チューブに挿入される近位端にカム作用突条部を有するオブチュレータを示す図である。
【図14】気管切開チューブ26の近位端を示す図であり、ベンチレータ接続部72の内部が示されている。
【図15A】オブチュレータ及び気管切開チューブにそれぞれ設けられた、互いに相補的な正弦波状の係合形状を有するカム同士の相互作用を示す図である(フランジは図示しない)。
【図15B】オブチュレータ及び気管切開チューブにそれぞれ設けられた、互いに相補的な正弦波状の係合形状を有するカム同士の相互作用を示す図である(フランジは図示しない)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
気管切開術は、患者が気管を通じて直接的に呼吸することを可能にする救命手技である。気管切開術はまた、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症を予防または抑制することができると多くの人に考えられている。しかし残念ながら、この救命手技は、比較的時間がかかり、現在の技術では多数のステップ及び器具を必要としており、そして、この救命手技を成功裏に完了させるためには前記器具を無菌状態に維持しかつ適切に機能させなればならない。この気管切開手技は、患者の気管に瘻孔を形成し、形成された瘻孔を拡張し、その後、チューブを挿管することを要する。
【0011】
上述したように、気管切開チューブを所定の位置に配置した後で、適宜、特定の処置のために、気管切開チューブに他の補助的器具がローディングカテーテルと同様の方法で結合され得る。本明細書中で用いられる「補助的器具」なる用語は、気管切開チューブと共に使用されるあらゆる付属的または補助的な部品を含むことを意味する。例示的な補助的器具としては、ローディングカテーテル、カニューレ、オブチュレータ(obturator)、及び他の人工呼吸器用の補助的器具が挙げられる。
【0012】
瘻孔の最初の形成は、通常は「穿孔拡張器」、または患者の気管の皮膚または組織を貫通して気管に通じる小孔を形成する他の鋭利な器具で行う。その後、この最初の穿孔を穿孔器を使用して拡張する。
【0013】
アメリカン・ヘリテイジ・ステッドマン医学辞典2001年版(American Heritage Stedman's Medical dictionary 2001)によれば、拡張器とは、身体の管、腔、血管または開口部を拡張するための器具または物体である。図1は、ブルーライノ(Blue Rhino)(登録商標)拡張器と呼ばれる、クック・メディカル社(Cook Medical Inc.)製の従来の拡張器を示す図である(特許文献1も参照されたい)。特許文献1には、略直線状のシャフトと短い遠位先端部分とが湾曲したテーパ部分で互いに連結されたワンピース型の拡張器が記載されている。
【0014】
別のタイプの穿孔器が特許文献2に開示されている。このタイプの拡張器の一実施形態では、拡張器10は、内側部分18を有する本体部20及び遠位先端部12(図2)を含む。拡張器10は、少なくとも2つの部分または部品を有しており、遠位先端部12を本体部20に脱離可能に取り付けることができるように構成されている。図3に示すように、本体部20は、拡張手技のための挿管深さすなわち挿管停止位置の目印としての役割を果たす、本体部20の直径が約42フレンチである位置を示すマーク線22若しくは稜線部を有している。
【0015】
気管切開チューブの挿入に備えて、さらなる別の拡張器を利用して瘻孔のサイズを大きくすることができる。例えば、直径が段階的に大きくなる一連の拡張器を順々に使用して瘻孔のサイズを段階的に大きくすることができる。この手技は、いくらか時間がかかるが、成功的に完了することができる。
【0016】
瘻孔が十分に拡張されたら、大抵の場合はローディングカテーテルを使用して、気管切開チューブを気管に挿入する。ローディングカテーテルは、気管に挿入するときに気管切開チューブが曲がったり折れたりしないように気管切開チューブを支持するために使用される。また、ローディングカテーテルは一般的に、医療従事者が気管切開チューブを所定の位置に導くのに使用するための把持部(ハンドル)を提供する。
【0017】
図3は、ローディングカテーテル50の一例を示す。この実施形態では、ローディングカテーテル50は、その近位端に、中間部56に対して自由に回転可能なハンドル52を有しており、その遠位端に先端部54を有している。ハンドル52は、360度回転可能である必要はなく、後述するように、ローディングカテーテル50を気管切開チューブ26に結合させるために用いられる結合機構の結合を解除するのに十分なだけ回転することができればよい。また、ローディングカテーテルのハンドル52は、その遠位端に設けられたカム作用機構、この場合は環状突条部66を有している。カム作用機構の突条部(ridge)66は、気管切開チューブ26からローディングカテーテル50を取り外すのに使用される(詳細については後述する)。
【0018】
図3の実施形態では、ハンドル52の左右両側にタブ62が設けられている。タブ62は、ハンドル62及び気管切開チューブ26を互いに結合させるために、気管切開チューブ26に設けられた対応するスロット64に対して脱離可能に係合する大きさに形成されている。気管切開チューブに穿孔器または他の補助的器具を脱離可能に取り付けることができる他の手段を用いてもよいことに留意されたい。ハンドル52、カム作用突条部66及びタブ62は1つの一体的な部品なので、ハンドル52はカム作用突条部66またはタブ62に対して自由に回転させることはできない。中間部56(ハンドル52と先端部54との間)は管状であり、ローディングカテーテルを気管切開チューブ26へ挿入するときや気管切開チューブ26から取り出すときに曲げることができるように柔軟性を有している。中間部54のための適切な材料は、ポリウレタンや一部のポリオレフンなどの軟性プラスチックである。先端部54及びハンドル52のための適切な材料は、ナイロンや一部のポリオレフィンなどの硬性プラスチックである。本デバイスは、生体適合性を有するべきであり、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DEHP)を含まないことが望ましく、動物由来産物を含まないことが好ましい。ポリ塩化ビニルもまた、前記部品を作製するのに用いることができる。
【0019】
図3の実施形態のローディングカテーテルは、特許文献2に記載されているように、拡張された瘻孔に留置することができる拡張器の先端部に取り付けることができるように設計されている。取り外すことができる先端部を有する拡張器は、本明細書中では単に一実施形態の例として示したに過ぎず、上述したように、本発明のカム作用機構は様々な拡張器や他の補助的器具と共に用いることができることに留意されたい。取り外し可能な先端部を有する拡張器と共に使用する場合、図3に示すローディングカテーテル先端部54はその遠位端に、拡張器先端部12(図2)の近位端28を取り付けるための結合機構を有している。使用可能な遠位端結合機構の一種は、カテーテル遠位端すなわちカテーテル先端部54またはその近傍に設けられたロッキングアーム(locking arm)もしくはスナップデタント(snap detent)58である。ローディングカテーテル50を拡張器先端部12に結合させるための結合機構は脱離可能にすることもできるが、後ほど詳述するように、チューブ26を通じて拡張器先端部12を引き出すときに拡張器先端部12がローディングカテーテル50から外れないことを確実にするためにローディングカテーテル50及び拡張器先端部12が互いに強固に結合されていることが望ましいため、前記結合機構は脱離不能であることがより好ましい。
【0020】
気管切開チューブの一実施形態が図4に示されている。気管切開チューブ26を患者の喉部に取り付けるためのフランジ70が、気管切開チューブ26の近位端に設けられている。フランジ70は、ベンチレーター接続部72が設けられているチューブ26の近位端の近傍においてチューブ26の左右両側に延出している。フランジ70は、柔軟性を有し、かつ非刺激性であることが望ましく、チューブ26を固定するために患者の喉部に縫合することができる。フランジ70のサイズは、患者の身体サイズ及びニーズに応じて様々であり得る。ベンチレーター接続部72は、カム作用機構、この場合は突条部78(図4において破線で示されている。詳細については後述する)を有している。また、チューブ26はその左右両側に、ローディングカテーテル50に設けられたタブ62と係合する大きさに形成されたスロット64を有している。なお、上述したように、気管切開チューブとローディングカテーテルまたは他の補助的器具とを互いに脱離可能に結合させることができる他の手段を用いてもよい。チューブ26はまた、チューブ近位端からチューブ遠位端31まで延在する中空シャフト74を有している。患者の気管を塞ぐためにバルーンカフ30を膨張させることができるように、膨張ライン76がチューブ近位端からバルーンカフ30まで延びている。気管切開チューブ26は、カム作用機構を用いたときにスロット64とタブ62との係合を解除することができるように、十分な柔軟性を有するプラスチック材料から作製することが望ましい。適切な材料としては、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロックコポリマー、SBSジブロックエラストマー、SBSトリブロックエラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート及びそれらの混合物が挙げられる。特に好適なポリマーはポリウレタンである。
【0021】
この実施形態を用いるためには、ローディングカテーテル50は気管切開チューブ26内に滑入される(図5)。ローディングカテーテルハンドル52は、例えば、図3及び図4に示すようなハンドル52の左右両側に設けられたタブ62と、気管切開チューブ26の近位端に設けられたスロット64とからなる係合機構によって、気管切開チューブ26の近位端に脱離可能に結合される。それと同時に、互いに相補的なカム作用機構突条部66、78が互いに係合される。タブ62及びスロット64が互いに係合すると、ローディングカテーテル50及び気管切開チューブ26は互いに結合して単一ユニットとなる。カム作用機構66、78が互いに係合すると、ハンドル52は突条部同士の係合と、タブ及びスロットの係合とによって所定の位置に保持されるので、自由に回転することができなくなる。ローディングカテーテル50が結合された気管切開チューブ26は、瘻孔に挿入される。
【0022】
上述したような、脱離可能な先端部12を有する拡張器の場合、ローディングカテーテル50をガイドワイヤに沿わせて前進させ、拡張器先端部12の近位端と結合させる。拡張器先端部12、ハンドル52を有するローディングカテーテル50及び気管切開チューブ26は一体として、チューブ26に設けられたフランジ70が患者の喉部と当接する位置にくるまで気管24内に挿入される(図6)。チューブ26が気管24内の所定の位置に配置されたら、拡張器先端部12が取り付けられたローディングカテーテル50、ガイディングカテーテル14及びJワイヤ16は気管チューブ26を通じて引き出され(図7)、チューブ26のみが気管24内に残される(図8)。
【0023】
拡張器が脱離可能な先端部を有しておらず、気管切開チューブの挿入前に瘻孔から完全に取り出される場合、ローディングカテーテルは、瘻孔への挿入をスムーズにするための、気管切開チューブ32の遠位先端部を越えて延在するよりはっきりとしたまたはより丸みを帯びた遠位端54を有し得る。本明細書中で説明するカム作用機構は、どのようなタイプの拡張が行われた後でも、ローディングカテーテル及び気管切開チューブに用いるのに適している。
【0024】
ローディングカテーテル50及びそれに取り付けられた部品の気管切開チューブからの抜去は、気管切開チューブ26に脱離可能に結合されているハンドル52を気管切開チューブ26の近位端から取り外した後、ハンドル52をチューブ26から引き出すことにより実現される。ローディングカテーテル50は、気管切開チューブ26からスムーズにかつ優しく取り外されるが、両者の分離が所望されるまでは両者は強固に結合されていることが重要である。両者を突然にまたは無理やりに分離させると、患者の喉部の組織や気管切開チューブの周囲の気管を傷つける恐れがある。
【0025】
以下、前記2つの部品(気管切開チューブ26とローディングカテーテル50)を互いに分離させるためのカム作用機構について詳細に説明する。
【0026】
図3を再び参照すると、ローディングカテーテル50が、ハンドル52の外周面に設けられかつタブ62の近傍に位置するカム作用環状突条部66を有しているのを見ることができる。図3に示すように、突条部66は、ハンドル52の外周面を一周する間に2つの極大点と2つの極小点を持つ典型的な正弦波形状を有している。なお、極大点及び極小点の数は2つよりも多くしてもあるいは少なくしてもよい。図4に示すように、気管切開チューブ26のベンチレータ接続部72の内周面に、ローディングカテーテル50の突条部の形状に対して相補的な係合形状を有するカム作用突条部78が設けられている。前記2つの部品(気管切開チューブ26とローディングカテーテル50)が互いに結合されたとき、図5において破線で示すように、ローディングカテーテルの突条部66及び気管切開チューブの突条部78は互いに係合される。
【0027】
図では例示を目的として正弦波状の形状が示されているが、任意の適切なカム形状を用いてもよいことに留意されたい。例えば、のこぎり歯状の形状やジグザグ状の形状を用いてもよい。さらに、突条部の係合面の形状は、軸線に対して互いに対称的である必要はない。さらなる例として、突条部の係合面の形状が、軸方向の一方に向かって立ち上がる正弦波状の部分と、他方に向かって急激に落下する部分とを含む形状であり、ラチェット機構と同様の方法で、ハンドルが一方向にのみ回転できるようにすることもできる。突条部66が、回転動作に応じて前記2つの部品を互いに直線的(軸方向)に分離させるためのカム作用機構として機能する限りは、突条部66の正確な形状は重要でない。
【0028】
カム作用機構の別の実施形態には、一方の突条部がピン、ノブ、タブまたは他の突起81に置き換えられ、回転動作に応じて前記2つの部品を互いに直線的に分離させるために、突起81が他方の突条部83に沿って移動する(ride on)ことができるように構成されたアセンブリが含まれる(図9)。さらなる別の実施形態では、一方の突条部が突条部と同じ形状のスロットまたは溝85に置き換えられており、他方の突条部が前記溝に係合するピン、ノブ、タブまたは他の突起81に置き換えられている(図10)。前記突起は、前記2つの部品を互いに直線的に分離させるためのカム作用機構の作動中に、前記溝内で移動する。前記2つの部品が完全に分離することができるように、前記溝内の所定の位置、望ましくは他方の部品に最も近い位置に、前記突起が前記溝から出るための出口87を設ける必要がある。もっと簡単に言えば、カム作用機構は、例えば、突起及び溝(図10)、突起及び突条部(図9)、または互いに相補的な一対の突条部などの2つの部分からなるアセンブリをなしており、気管切開チューブが前記2つの部分のうちの一方を有しており、補助的器具が前記2つの部分のうちの他方を有している。
【0029】
突条部66を用いるカム作用機構の実施形態では、突条部66は、それに隣接するハンドル遠位部分68よりも約1mm高いことが望ましい。なお、所望に応じて、それよりも高いまたは低い高さであってもよい。カム作用環状突条部66の係合面形状における頂部から谷部までの距離は、1〜8mm、より望ましくは2〜6mm、さらに望ましくは約3mmであり得る。正弦波形状を用いる場合、正弦波の振幅を大きくすると、部品同士の分離をより素早く行うことができるが、部品同士を分離させるためにはより大きな力が必要となる。
【0030】
図11は、気管切開チューブ26に装着される使い捨て式カニューレ80を示す。カニューレ80は、気管切開チューブ26の近位端からチューブ26内に挿入して装着される(カニューレ80をチューブ26に装着した状態を図12に示す)。この内側カニューレ80は、気管切開チューブ26にローディングカテーテル50を取り付けるときと同様の方法で、すなわちカニューレに設けられたタブ62とチューブ26に設けられたスロット64とを互いに係合させることによって、カニューレ端部82だけがチューブ26の近位端から露出するようにして気管切開チューブ26に取り付けることができる。同様に、使い捨て式カニューレ80は、ローディングカテーテル50の突条部66と実質的に同一のカム突条部66を有しており、カム作用突条部66は、カニューレ80とチューブ26との係合を解除するのに用いられる。このような使い捨て式カニューレ80は、細菌の増殖を最小限に抑えるために、定期的に交換される。カニューレ80は、ポリオレフィン、ポリウレタン、ナイロンなどのプラスチック材料から作製され、柔軟で曲げやすいことが望ましい。カニューレ80は、抗細菌及び/または抗ウイルスコーティング、あるいは、有害生物の増殖を減少させることができる他の活性物質で処理され得る。カニューレの遠位端の端面は、気管切開チューブの遠位端31の端面と同一平面をなすようにしてもよいし、チューブ遠位端31からごく短い長さで突出するようにしてもよい。
【0031】
このカム作用機構システムは、ローディングカテーテルや使い捨て式カニューレ以外にも、気管切開チューブに結合させることが所望される任意の他の補助的器具にも用いることができる。例えば、図13に示すように、気管切開チューブを気管内に配置するのに用いられるオブチュレータ90を、上述したカム作用機構の任意の適切な実施形態を用いて作製することができる。このようなオブチュレータ90は、患者内に所定の期間留置した気管切開チューブ26を交換するために使用され得る。瘻孔の新たな形成や拡張は不要であるので、気管切開チューブ26の交換手技用のオブチュレータ90は一般的に丸みを帯びた先端部91を有している。この先端部91は、オブチュレータ90を気管切開チューブに挿入したときに気管切開チューブの端部からわずかに突出する。オブチュレータ90は、その他の点では、ローディングカテーテル50と非常に類似しており、ハンドル52、突条部66及びタブ62を有している。手技中は、オブチュレータ90を使用して古い気管切開チューブを患者から取り出し、新しい、通常はより小さい気管切開チューブを別のオブチュレータ90を使用して挿入する。オブチュレータ90は、本明細書中に説明したカム脱離機構を用いて、気管切開チューブ26から取り外すことができる。
【0032】
上述したように、例示的な気管切開チューブ26のベンチレーター接続部72の内周面は、ローディングカテーテル50、カニューレ80またはオブチュレータ90などの補助的器具の突条部の形状に対して相補的な係合形状に形成されたカム突条部78を有している。図14は、ベンチレーター接続部72の近位端を示す図である。気管切開チューブの突条部78は、それに隣接するチューブ内周面よりも約1mm高いことが望ましい。なお、所望に応じて、それよりも高いまたは低い高さであってもよい。カム作用環状突条部78の係合面形状における頂部から谷部までの距離は、1〜8mmであり得る。図14に示す突条部78は、ベンチレーター接続部72の内周面を一周する間に2つの極大点と2つの極小点を持つ典型的な正弦波形状を有している。なお、極大点及び極小点の数は2つよりも多くしてもあるいは少なくしてもよい。チューブ26、ローディングカテーテル50及びカニューレ80の直径は、それらの部品が互いに結合されている間に、対応するカム作用突条部が互いに係合した状態を保つような大きさに形成されている。
【0033】
互いに対応する部品が、図3、4、9、10及び11に示すようなスロット64及びタブ62、84からなる結合機構を用いて互いに結合されたとき、ローディングカテーテル50またはカニューレ80に設けられたカム作用突条部66は、それに対応するすなわちそれに対して相補的な、気管切開チューブ26の内周面に設けられたカム作用突条部78と互いに係合する。この係合機構は図15Aに示されている。図15Aでは、ローディングカテーテルのハンドル52が右側に見える。ローディングカテーテル50またはカニューレ80を気管切開チューブ26から取り外したい場合、取り外したい部品(カテーテル50またはカニューレ80)の近位端(例えば、ハンドル52)を回転させる。取り外したい部品を回転させると、カム作用突条部同士の係合は解除され、その結果、図15Bに示すように、互いに係合されていた前記2つの部品はゆっくりとかつ優しく互いに離間される。前記2つの部品の前記回転及び離間により、タブ62、84とスロット64との係合は優しく解除される。前記2つの部品を互いに分離させるとき、タブをスロットから脱離させるため(タブとスロットとの係合を解除するため)に前記2つの部品は若干曲げられる。そのため、分離時に壊れたり他の損傷が生じたりすることがないように、各部品は十分な柔軟性を有していなければならない。タブとスロットとの係合が解除された後、取り外したい部品は、気管切開チューブ26から完全に引き出される。
【0034】
上述した回転または回動動作によって、この系に存在し得る静止摩擦に打ち勝って、タブ62及びスロット64からなる結合機構によるローディングカテーテルハンドル52とチューブ26との結合が解除され、ローディングカテーテルハンドル52が気管切開チューブ26の近位端から外れる。この回転または回動動作は、チューブ26のみを気管内の所定の位置に残して、気管切開チューブ26の内側ルーメンを通じて全てのローディング部品をユーザが引き出すことを可能にする。明らかなことであるが、拡張器先端部12の最大直径は、気管切開チューブ26を通過することができるように、気管切開チューブ26の直径よりも若干小さくある必要がある。使い捨て式カニューレ80の取り出しも同様の方法で、すなわち、カニューレ80の近位端82を気管切開チューブ26に対して回転させてタブ84をスロット64から脱離させた後、チューブ26からカニューレ80を引き出すことにより行う。オブチュレータ90の取り出しも同様の方法で行う。
【0035】
本発明のカム作用機構を用いることにより、ローディングカテーテルまたはカニューレを気管切開チューブから比較的優しく取り外すことが可能となるので、瘻孔部位に加わる応力を減少させることができる。その結果、瘻孔部位等を傷つけることや、それにより回復時間が増加することを減らすことができる。
【0036】
気管切開チューブ26は、その下側(遠位)部分の外周面上にバルーンカフ30を備えている。バルーンカフ30は、ベンチレータを使用して気管切開チューブを介して人工呼吸を行うために気管内の通常の空気の流れを遮断する役割を果たす。バルーンカフは、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート(PETP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)またはポリオレフィンなどの、柔軟で曲げやすいポリマーから作製することが望ましい。バルーンカフは非常に薄くあるべきであり、約25マイクロメートルまたはそれ以下の厚さ、例えば20マイクロメートル、15マイクロメートル、10マイクロメートル、さらには5マイクロメートル程度の厚さであるべきである。また、バルーンカフは、約30mmH2Oまたはそれ以下の圧力、例えば25mmH2O、20mmH2O、15mmH2Oまたはそれ以下の圧力で作動する低圧カフであることが望ましい。そのようなカフは米国特許第6,802,317号に記載されている。この米国特許文献には、患者の気管を可能な限り密閉的に塞ぐためのカフが記載されており、前記カフは、患者の声門の下方の気管を塞ぐためのカフバルーンと、空気チューブとを有している。カフバルーンは、空気チューブに接続されており、完全膨張状態のときは気管の直径よりも大きいサイズに膨張する。また、カフバルーンは、柔軟で曲げやすい壁厚が0.01mmまたはそれ以下の箔材から作製されており、患者の気管内でカフバルーンを膨張させたときに少なくとも1つの垂れ状のひだ部(draped fold)が形成されるように構成されている。前記少なくとも1つの垂れ状のひだ部は、その端部にループ(loop)を有しており、ループの直径は、分泌物がループを通過して自由に流れるのを妨げることができるような小径に形成されている。そのようなカフの別の例は、米国特許第6,526,977号に記載されている。この米国特許文献には、患者の気管を可能な限り密閉的に塞ぐための拡張器が記載されている。前記カフは、患者の声門の下方の気管を塞ぐためのカフバルーンと、空気チューブとを有している。カフバルーンは、空気チューブに接続されており、完全膨張状態のときは気管の直径よりも大きいサイズに膨張する。また、カフバルーンは、柔軟で曲げやすい箔材から作製されており、患者の気管内でカフバルーンを完全に膨張させたときに少なくとも1つの垂れ状のひだ部が形成されるように構成されている。前記少なくとも1つの垂れ状のひだ部は、分泌物が肺に吸い込まれて分泌物吸引に関連する感染症が発症することを防止すべく、バルーンを横切る分泌物の自由流れをひだ部によって生じる毛細管力によって捕えることができるような毛細管サイズを有している。
【0037】
この拡張器取り出しデバイスの様々な部品の例示的なサイズは次の通りである。
【0038】
フランジ70から気管切開チューブ26の遠位端31までの距離は、曲線距離で70mmないし100mm、望ましくは約75mmないし95mm、より望ましくは80mmないし90mmである。気管切開チューブにおけるフランジと遠位端とがなす角度は、85度ないし120度、望ましくは95度ないし115度、より望ましくは100度ないし110度である。フランジ70は、幅が6cmないし12cmで高さが1cmないし6cm、より具体的には幅が7cmないし10cmで高さが2cmないし5cm、さらに具体的には幅が8cmないし9cmで高さが2cmないし4cmであることが望ましい。
【0039】
一実施形態では、ローディングカテーテル50は、曲線長さが約8cmないし13cm、より具体的には約11cmであり、かつ気管切開チューブの遠位先端部から20mm程度突出して終端するかまたは前記遠位先端部内に終端する管状の中間部を有することが望ましい。ハンドル52の長さは、2cmないし7cm、具体的には約5cmであり得る。ローディングカテーテルの遠位端部すなわち先端部54の内径は、3mmないし10mm、具体的には約6mmであり得る。いずれの場合でも、ローディングカテーテルの中間部56及び先端部54並びに拡張器先端部12のサイズは、気管切開チューブ26を通過可能な大きさでなければならない。
【0040】
当業者に理解されるように、本発明の変更形態及び変形形態は当業者の能力の範囲内にあると考えられる。本発明者は、そのような変更形態及び変形形態が本発明の範囲に含まれることを意図している。また、本発明の範囲は、本明細書に開示されている特定の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではなく、先述の開示を踏まえて添付の請求項にのみ従うものであると理解されたい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管切開チューブ用のカム作用脱離機構に関する。
【背景技術】
【0002】
気管切開チューブを使用した挿管法は、気管へのアクセスを可能にするために、患者の首(頸部)に小さな横切開部を形成し、前記切開部を拡張し、拡張された前記切開部に前記チューブを挿入することにより行われる。気管切開チューブの成功的な留置を達成するために様々なシステムが開発されてきており、そのようなものとしては、例えばクック・メディカル社(Cook Medical Inc.)製のブルーライノ(Blue Rhino)(登録商標)拡張器を用いたシステムがある(特許文献1も参照されたい)。このクック社のシステムは、初期の拡張は、ブルーライノ拡張器を使用して行われる。拡張後、ブルーライノ拡張器を取り出し、第2の拡張器である「ローディング拡張器」を気管切開チューブの内側にぴったりと嵌合させる。その後、気管切開チューブ内にガイドカテーテルを挿入する。そして、ガイドカテーテル、第2の拡張器及び気管切開チューブを一体として、気管壁を通して気管内へ前進させる。気管切開チューブが適切な挿管深さに達したら、気管切開チューブを通じて第2の拡張器、ガイドカテーテル及びガイドワイヤを抜去する。そして、気管切開チューブ内に内側カニューレを挿入した後、気管切開チューブをベンチレータに接続する。
【0003】
このクック社のシステムは、ローディング拡張器は気管切開チューブに確実に結合されているのではなく、チューブの前進に対する気管瘻孔の摩擦及び抵抗によって気管切開チューブとローディング拡張器との強固な結合が維持されている。チューブを挿入する医療従事者は、チューブが完全に挿入される前に、ローディングカテーテルを抜去する必要がある。また、所望に応じて、チューブからローディングカテーテルを抜去し、部分的に挿入されたチューブを留置することも可能である。
【0004】
チューブを患者の頸部に配置するときに、チューブをより良く制御するために、ローディングカテーテルと気管切開チューブとを確実に結合することができるシステムが望ましい。また、そのような結合システムは、容易にかつスムーズに結合を解除することができなければならない。さもなければ、過度の力が必要となり、気管切開チューブの遠位端が気管瘻孔や気管壁の柔らかい組織に強い力で接触して傷つける危険性が増加する。
【0005】
気管切開チューブを配置するときに、従来技術よりもより良く制御することができるデバイスが求められている。また、ローディング拡張器(またはカテーテル)と気管切開チューブとの間の確実な結合を提供することができ、かつ前記部品間の結合を容易にかつスムーズに解除可能なデバイスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,637,435号明細書
【特許文献2】米国特許出願第12/147,817号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
気管切開チューブと他のデバイス(拡張器ローディングカテーテルなど)のための新規の脱離機構が提供される。この脱離機構は、気管切開チューブを患者の気管内に配置したときに、気管切開チューブからローディングカテーテルを優しく脱離させる。気管瘻孔を拡張した後、ローディングカテーテルを気管切開チューブ内に挿入する。ローディングカテーテルは気管切開チューブに結合させることが望ましい。ローディングカテーテル及び気管切開チューブを互いに結合させて一体とし、気管切開チューブのフランジが患者の喉部の皮膚に当接するまで瘻孔を通過させる。ローディングカテーテルは、その後、ローディングカテーテルのハンドルを回転または回動させることによって取り外される。ローディングカテーテル及び気管切開チューブは、それらを互いに対して回転させたときに両部品の結合を優しく解除するカム作用機構を有している。この「カム作用」脱離機構は、外傷を形成しれたりそれにより回復期間が長引いたりする恐れのある過度の圧力または力を気管または喉部に加えることなく、ローディングカテーテルを取り外すことを可能にする。気管切開チューブからのローディングカテーテルの分離は、喉部及び気管を傷つけるのを避けるために、できるだけ優しく行うことが重要である。
【0008】
気管切開チューブを所定の位置に配置した後は、適宜、特定の処置のために、気管切開チューブに他の補助的器具がローディングカテーテルと同様の方法で接続され得る。本発明のカム作用機構は、気管切開チューブからそれに取り付けた部品をゆっくりと分離させるために、カム作用面を用いる。前記2つの部品を互いに対して回転させることにより前記2つの部品の元々は互いに係合していた面を互いに対して移動させて係合状態を解除し、それにより前記2つの部品を互いに直線的に離間させることは「カム作用」として知られている。より簡単に言うと、カムは、回転運動を直線運動に変換するデバイスである。前記2つの部品を互いに対して回転させたとき、前記カム作用形状は協同的に作用して、前記両部品を互いに直線的に分離させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来技術のブルーライノ(R)拡張器を示す図である。
【図2】先細状の拡張器を示す図である。
【図3】拡張器ローディングカテーテル50を示す図である。
【図4】患者の喉部に取り付けるためのフランジを備えた気管切開チューブ26を示す図であり、カニューレを取り外した状態が示されている。
【図5】気管切開チューブ26にローディングカテーテル50を挿入した状態を示す図である。
【図6】気管切開チューブ26、ローディングカテーテル50及び拡張器先端部12を一体として気管に挿入した状態を示す図である。
【図7】気管切開チューブを気管内に残したままで、ローディングカテーテル50、拡張器先端部12、ガイドカテーテル14及びJワイヤ16を気管切開チューブ26を通して引き出す様子を示す図である。
【図8】気管カフを膨張させ、気管切開チューブを気管内の最終的な位置に留置した状態を示す図である。
【図9】両部品の分離をガイドするためにピンを使用するカム作用機構を示す図である。
【図10】両部品の分離をガイドするためにスロットを使用するカム作用機構を示す図である。
【図11】気管切開チューブと共に使用される交換式(例えば使い捨て式)のカニューレを示す図でる。
【図12】気管切開チューブに交換式のカニューレを挿入して取り付けた状態を示す図である。
【図13】気管切開チューブに挿入される近位端にカム作用突条部を有するオブチュレータを示す図である。
【図14】気管切開チューブ26の近位端を示す図であり、ベンチレータ接続部72の内部が示されている。
【図15A】オブチュレータ及び気管切開チューブにそれぞれ設けられた、互いに相補的な正弦波状の係合形状を有するカム同士の相互作用を示す図である(フランジは図示しない)。
【図15B】オブチュレータ及び気管切開チューブにそれぞれ設けられた、互いに相補的な正弦波状の係合形状を有するカム同士の相互作用を示す図である(フランジは図示しない)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
気管切開術は、患者が気管を通じて直接的に呼吸することを可能にする救命手技である。気管切開術はまた、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発症を予防または抑制することができると多くの人に考えられている。しかし残念ながら、この救命手技は、比較的時間がかかり、現在の技術では多数のステップ及び器具を必要としており、そして、この救命手技を成功裏に完了させるためには前記器具を無菌状態に維持しかつ適切に機能させなればならない。この気管切開手技は、患者の気管に瘻孔を形成し、形成された瘻孔を拡張し、その後、チューブを挿管することを要する。
【0011】
上述したように、気管切開チューブを所定の位置に配置した後で、適宜、特定の処置のために、気管切開チューブに他の補助的器具がローディングカテーテルと同様の方法で結合され得る。本明細書中で用いられる「補助的器具」なる用語は、気管切開チューブと共に使用されるあらゆる付属的または補助的な部品を含むことを意味する。例示的な補助的器具としては、ローディングカテーテル、カニューレ、オブチュレータ(obturator)、及び他の人工呼吸器用の補助的器具が挙げられる。
【0012】
瘻孔の最初の形成は、通常は「穿孔拡張器」、または患者の気管の皮膚または組織を貫通して気管に通じる小孔を形成する他の鋭利な器具で行う。その後、この最初の穿孔を穿孔器を使用して拡張する。
【0013】
アメリカン・ヘリテイジ・ステッドマン医学辞典2001年版(American Heritage Stedman's Medical dictionary 2001)によれば、拡張器とは、身体の管、腔、血管または開口部を拡張するための器具または物体である。図1は、ブルーライノ(Blue Rhino)(登録商標)拡張器と呼ばれる、クック・メディカル社(Cook Medical Inc.)製の従来の拡張器を示す図である(特許文献1も参照されたい)。特許文献1には、略直線状のシャフトと短い遠位先端部分とが湾曲したテーパ部分で互いに連結されたワンピース型の拡張器が記載されている。
【0014】
別のタイプの穿孔器が特許文献2に開示されている。このタイプの拡張器の一実施形態では、拡張器10は、内側部分18を有する本体部20及び遠位先端部12(図2)を含む。拡張器10は、少なくとも2つの部分または部品を有しており、遠位先端部12を本体部20に脱離可能に取り付けることができるように構成されている。図3に示すように、本体部20は、拡張手技のための挿管深さすなわち挿管停止位置の目印としての役割を果たす、本体部20の直径が約42フレンチである位置を示すマーク線22若しくは稜線部を有している。
【0015】
気管切開チューブの挿入に備えて、さらなる別の拡張器を利用して瘻孔のサイズを大きくすることができる。例えば、直径が段階的に大きくなる一連の拡張器を順々に使用して瘻孔のサイズを段階的に大きくすることができる。この手技は、いくらか時間がかかるが、成功的に完了することができる。
【0016】
瘻孔が十分に拡張されたら、大抵の場合はローディングカテーテルを使用して、気管切開チューブを気管に挿入する。ローディングカテーテルは、気管に挿入するときに気管切開チューブが曲がったり折れたりしないように気管切開チューブを支持するために使用される。また、ローディングカテーテルは一般的に、医療従事者が気管切開チューブを所定の位置に導くのに使用するための把持部(ハンドル)を提供する。
【0017】
図3は、ローディングカテーテル50の一例を示す。この実施形態では、ローディングカテーテル50は、その近位端に、中間部56に対して自由に回転可能なハンドル52を有しており、その遠位端に先端部54を有している。ハンドル52は、360度回転可能である必要はなく、後述するように、ローディングカテーテル50を気管切開チューブ26に結合させるために用いられる結合機構の結合を解除するのに十分なだけ回転することができればよい。また、ローディングカテーテルのハンドル52は、その遠位端に設けられたカム作用機構、この場合は環状突条部66を有している。カム作用機構の突条部(ridge)66は、気管切開チューブ26からローディングカテーテル50を取り外すのに使用される(詳細については後述する)。
【0018】
図3の実施形態では、ハンドル52の左右両側にタブ62が設けられている。タブ62は、ハンドル62及び気管切開チューブ26を互いに結合させるために、気管切開チューブ26に設けられた対応するスロット64に対して脱離可能に係合する大きさに形成されている。気管切開チューブに穿孔器または他の補助的器具を脱離可能に取り付けることができる他の手段を用いてもよいことに留意されたい。ハンドル52、カム作用突条部66及びタブ62は1つの一体的な部品なので、ハンドル52はカム作用突条部66またはタブ62に対して自由に回転させることはできない。中間部56(ハンドル52と先端部54との間)は管状であり、ローディングカテーテルを気管切開チューブ26へ挿入するときや気管切開チューブ26から取り出すときに曲げることができるように柔軟性を有している。中間部54のための適切な材料は、ポリウレタンや一部のポリオレフンなどの軟性プラスチックである。先端部54及びハンドル52のための適切な材料は、ナイロンや一部のポリオレフィンなどの硬性プラスチックである。本デバイスは、生体適合性を有するべきであり、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DEHP)を含まないことが望ましく、動物由来産物を含まないことが好ましい。ポリ塩化ビニルもまた、前記部品を作製するのに用いることができる。
【0019】
図3の実施形態のローディングカテーテルは、特許文献2に記載されているように、拡張された瘻孔に留置することができる拡張器の先端部に取り付けることができるように設計されている。取り外すことができる先端部を有する拡張器は、本明細書中では単に一実施形態の例として示したに過ぎず、上述したように、本発明のカム作用機構は様々な拡張器や他の補助的器具と共に用いることができることに留意されたい。取り外し可能な先端部を有する拡張器と共に使用する場合、図3に示すローディングカテーテル先端部54はその遠位端に、拡張器先端部12(図2)の近位端28を取り付けるための結合機構を有している。使用可能な遠位端結合機構の一種は、カテーテル遠位端すなわちカテーテル先端部54またはその近傍に設けられたロッキングアーム(locking arm)もしくはスナップデタント(snap detent)58である。ローディングカテーテル50を拡張器先端部12に結合させるための結合機構は脱離可能にすることもできるが、後ほど詳述するように、チューブ26を通じて拡張器先端部12を引き出すときに拡張器先端部12がローディングカテーテル50から外れないことを確実にするためにローディングカテーテル50及び拡張器先端部12が互いに強固に結合されていることが望ましいため、前記結合機構は脱離不能であることがより好ましい。
【0020】
気管切開チューブの一実施形態が図4に示されている。気管切開チューブ26を患者の喉部に取り付けるためのフランジ70が、気管切開チューブ26の近位端に設けられている。フランジ70は、ベンチレーター接続部72が設けられているチューブ26の近位端の近傍においてチューブ26の左右両側に延出している。フランジ70は、柔軟性を有し、かつ非刺激性であることが望ましく、チューブ26を固定するために患者の喉部に縫合することができる。フランジ70のサイズは、患者の身体サイズ及びニーズに応じて様々であり得る。ベンチレーター接続部72は、カム作用機構、この場合は突条部78(図4において破線で示されている。詳細については後述する)を有している。また、チューブ26はその左右両側に、ローディングカテーテル50に設けられたタブ62と係合する大きさに形成されたスロット64を有している。なお、上述したように、気管切開チューブとローディングカテーテルまたは他の補助的器具とを互いに脱離可能に結合させることができる他の手段を用いてもよい。チューブ26はまた、チューブ近位端からチューブ遠位端31まで延在する中空シャフト74を有している。患者の気管を塞ぐためにバルーンカフ30を膨張させることができるように、膨張ライン76がチューブ近位端からバルーンカフ30まで延びている。気管切開チューブ26は、カム作用機構を用いたときにスロット64とタブ62との係合を解除することができるように、十分な柔軟性を有するプラスチック材料から作製することが望ましい。適切な材料としては、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンブロックコポリマー、SBSジブロックエラストマー、SBSトリブロックエラストマー、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート及びそれらの混合物が挙げられる。特に好適なポリマーはポリウレタンである。
【0021】
この実施形態を用いるためには、ローディングカテーテル50は気管切開チューブ26内に滑入される(図5)。ローディングカテーテルハンドル52は、例えば、図3及び図4に示すようなハンドル52の左右両側に設けられたタブ62と、気管切開チューブ26の近位端に設けられたスロット64とからなる係合機構によって、気管切開チューブ26の近位端に脱離可能に結合される。それと同時に、互いに相補的なカム作用機構突条部66、78が互いに係合される。タブ62及びスロット64が互いに係合すると、ローディングカテーテル50及び気管切開チューブ26は互いに結合して単一ユニットとなる。カム作用機構66、78が互いに係合すると、ハンドル52は突条部同士の係合と、タブ及びスロットの係合とによって所定の位置に保持されるので、自由に回転することができなくなる。ローディングカテーテル50が結合された気管切開チューブ26は、瘻孔に挿入される。
【0022】
上述したような、脱離可能な先端部12を有する拡張器の場合、ローディングカテーテル50をガイドワイヤに沿わせて前進させ、拡張器先端部12の近位端と結合させる。拡張器先端部12、ハンドル52を有するローディングカテーテル50及び気管切開チューブ26は一体として、チューブ26に設けられたフランジ70が患者の喉部と当接する位置にくるまで気管24内に挿入される(図6)。チューブ26が気管24内の所定の位置に配置されたら、拡張器先端部12が取り付けられたローディングカテーテル50、ガイディングカテーテル14及びJワイヤ16は気管チューブ26を通じて引き出され(図7)、チューブ26のみが気管24内に残される(図8)。
【0023】
拡張器が脱離可能な先端部を有しておらず、気管切開チューブの挿入前に瘻孔から完全に取り出される場合、ローディングカテーテルは、瘻孔への挿入をスムーズにするための、気管切開チューブ32の遠位先端部を越えて延在するよりはっきりとしたまたはより丸みを帯びた遠位端54を有し得る。本明細書中で説明するカム作用機構は、どのようなタイプの拡張が行われた後でも、ローディングカテーテル及び気管切開チューブに用いるのに適している。
【0024】
ローディングカテーテル50及びそれに取り付けられた部品の気管切開チューブからの抜去は、気管切開チューブ26に脱離可能に結合されているハンドル52を気管切開チューブ26の近位端から取り外した後、ハンドル52をチューブ26から引き出すことにより実現される。ローディングカテーテル50は、気管切開チューブ26からスムーズにかつ優しく取り外されるが、両者の分離が所望されるまでは両者は強固に結合されていることが重要である。両者を突然にまたは無理やりに分離させると、患者の喉部の組織や気管切開チューブの周囲の気管を傷つける恐れがある。
【0025】
以下、前記2つの部品(気管切開チューブ26とローディングカテーテル50)を互いに分離させるためのカム作用機構について詳細に説明する。
【0026】
図3を再び参照すると、ローディングカテーテル50が、ハンドル52の外周面に設けられかつタブ62の近傍に位置するカム作用環状突条部66を有しているのを見ることができる。図3に示すように、突条部66は、ハンドル52の外周面を一周する間に2つの極大点と2つの極小点を持つ典型的な正弦波形状を有している。なお、極大点及び極小点の数は2つよりも多くしてもあるいは少なくしてもよい。図4に示すように、気管切開チューブ26のベンチレータ接続部72の内周面に、ローディングカテーテル50の突条部の形状に対して相補的な係合形状を有するカム作用突条部78が設けられている。前記2つの部品(気管切開チューブ26とローディングカテーテル50)が互いに結合されたとき、図5において破線で示すように、ローディングカテーテルの突条部66及び気管切開チューブの突条部78は互いに係合される。
【0027】
図では例示を目的として正弦波状の形状が示されているが、任意の適切なカム形状を用いてもよいことに留意されたい。例えば、のこぎり歯状の形状やジグザグ状の形状を用いてもよい。さらに、突条部の係合面の形状は、軸線に対して互いに対称的である必要はない。さらなる例として、突条部の係合面の形状が、軸方向の一方に向かって立ち上がる正弦波状の部分と、他方に向かって急激に落下する部分とを含む形状であり、ラチェット機構と同様の方法で、ハンドルが一方向にのみ回転できるようにすることもできる。突条部66が、回転動作に応じて前記2つの部品を互いに直線的(軸方向)に分離させるためのカム作用機構として機能する限りは、突条部66の正確な形状は重要でない。
【0028】
カム作用機構の別の実施形態には、一方の突条部がピン、ノブ、タブまたは他の突起81に置き換えられ、回転動作に応じて前記2つの部品を互いに直線的に分離させるために、突起81が他方の突条部83に沿って移動する(ride on)ことができるように構成されたアセンブリが含まれる(図9)。さらなる別の実施形態では、一方の突条部が突条部と同じ形状のスロットまたは溝85に置き換えられており、他方の突条部が前記溝に係合するピン、ノブ、タブまたは他の突起81に置き換えられている(図10)。前記突起は、前記2つの部品を互いに直線的に分離させるためのカム作用機構の作動中に、前記溝内で移動する。前記2つの部品が完全に分離することができるように、前記溝内の所定の位置、望ましくは他方の部品に最も近い位置に、前記突起が前記溝から出るための出口87を設ける必要がある。もっと簡単に言えば、カム作用機構は、例えば、突起及び溝(図10)、突起及び突条部(図9)、または互いに相補的な一対の突条部などの2つの部分からなるアセンブリをなしており、気管切開チューブが前記2つの部分のうちの一方を有しており、補助的器具が前記2つの部分のうちの他方を有している。
【0029】
突条部66を用いるカム作用機構の実施形態では、突条部66は、それに隣接するハンドル遠位部分68よりも約1mm高いことが望ましい。なお、所望に応じて、それよりも高いまたは低い高さであってもよい。カム作用環状突条部66の係合面形状における頂部から谷部までの距離は、1〜8mm、より望ましくは2〜6mm、さらに望ましくは約3mmであり得る。正弦波形状を用いる場合、正弦波の振幅を大きくすると、部品同士の分離をより素早く行うことができるが、部品同士を分離させるためにはより大きな力が必要となる。
【0030】
図11は、気管切開チューブ26に装着される使い捨て式カニューレ80を示す。カニューレ80は、気管切開チューブ26の近位端からチューブ26内に挿入して装着される(カニューレ80をチューブ26に装着した状態を図12に示す)。この内側カニューレ80は、気管切開チューブ26にローディングカテーテル50を取り付けるときと同様の方法で、すなわちカニューレに設けられたタブ62とチューブ26に設けられたスロット64とを互いに係合させることによって、カニューレ端部82だけがチューブ26の近位端から露出するようにして気管切開チューブ26に取り付けることができる。同様に、使い捨て式カニューレ80は、ローディングカテーテル50の突条部66と実質的に同一のカム突条部66を有しており、カム作用突条部66は、カニューレ80とチューブ26との係合を解除するのに用いられる。このような使い捨て式カニューレ80は、細菌の増殖を最小限に抑えるために、定期的に交換される。カニューレ80は、ポリオレフィン、ポリウレタン、ナイロンなどのプラスチック材料から作製され、柔軟で曲げやすいことが望ましい。カニューレ80は、抗細菌及び/または抗ウイルスコーティング、あるいは、有害生物の増殖を減少させることができる他の活性物質で処理され得る。カニューレの遠位端の端面は、気管切開チューブの遠位端31の端面と同一平面をなすようにしてもよいし、チューブ遠位端31からごく短い長さで突出するようにしてもよい。
【0031】
このカム作用機構システムは、ローディングカテーテルや使い捨て式カニューレ以外にも、気管切開チューブに結合させることが所望される任意の他の補助的器具にも用いることができる。例えば、図13に示すように、気管切開チューブを気管内に配置するのに用いられるオブチュレータ90を、上述したカム作用機構の任意の適切な実施形態を用いて作製することができる。このようなオブチュレータ90は、患者内に所定の期間留置した気管切開チューブ26を交換するために使用され得る。瘻孔の新たな形成や拡張は不要であるので、気管切開チューブ26の交換手技用のオブチュレータ90は一般的に丸みを帯びた先端部91を有している。この先端部91は、オブチュレータ90を気管切開チューブに挿入したときに気管切開チューブの端部からわずかに突出する。オブチュレータ90は、その他の点では、ローディングカテーテル50と非常に類似しており、ハンドル52、突条部66及びタブ62を有している。手技中は、オブチュレータ90を使用して古い気管切開チューブを患者から取り出し、新しい、通常はより小さい気管切開チューブを別のオブチュレータ90を使用して挿入する。オブチュレータ90は、本明細書中に説明したカム脱離機構を用いて、気管切開チューブ26から取り外すことができる。
【0032】
上述したように、例示的な気管切開チューブ26のベンチレーター接続部72の内周面は、ローディングカテーテル50、カニューレ80またはオブチュレータ90などの補助的器具の突条部の形状に対して相補的な係合形状に形成されたカム突条部78を有している。図14は、ベンチレーター接続部72の近位端を示す図である。気管切開チューブの突条部78は、それに隣接するチューブ内周面よりも約1mm高いことが望ましい。なお、所望に応じて、それよりも高いまたは低い高さであってもよい。カム作用環状突条部78の係合面形状における頂部から谷部までの距離は、1〜8mmであり得る。図14に示す突条部78は、ベンチレーター接続部72の内周面を一周する間に2つの極大点と2つの極小点を持つ典型的な正弦波形状を有している。なお、極大点及び極小点の数は2つよりも多くしてもあるいは少なくしてもよい。チューブ26、ローディングカテーテル50及びカニューレ80の直径は、それらの部品が互いに結合されている間に、対応するカム作用突条部が互いに係合した状態を保つような大きさに形成されている。
【0033】
互いに対応する部品が、図3、4、9、10及び11に示すようなスロット64及びタブ62、84からなる結合機構を用いて互いに結合されたとき、ローディングカテーテル50またはカニューレ80に設けられたカム作用突条部66は、それに対応するすなわちそれに対して相補的な、気管切開チューブ26の内周面に設けられたカム作用突条部78と互いに係合する。この係合機構は図15Aに示されている。図15Aでは、ローディングカテーテルのハンドル52が右側に見える。ローディングカテーテル50またはカニューレ80を気管切開チューブ26から取り外したい場合、取り外したい部品(カテーテル50またはカニューレ80)の近位端(例えば、ハンドル52)を回転させる。取り外したい部品を回転させると、カム作用突条部同士の係合は解除され、その結果、図15Bに示すように、互いに係合されていた前記2つの部品はゆっくりとかつ優しく互いに離間される。前記2つの部品の前記回転及び離間により、タブ62、84とスロット64との係合は優しく解除される。前記2つの部品を互いに分離させるとき、タブをスロットから脱離させるため(タブとスロットとの係合を解除するため)に前記2つの部品は若干曲げられる。そのため、分離時に壊れたり他の損傷が生じたりすることがないように、各部品は十分な柔軟性を有していなければならない。タブとスロットとの係合が解除された後、取り外したい部品は、気管切開チューブ26から完全に引き出される。
【0034】
上述した回転または回動動作によって、この系に存在し得る静止摩擦に打ち勝って、タブ62及びスロット64からなる結合機構によるローディングカテーテルハンドル52とチューブ26との結合が解除され、ローディングカテーテルハンドル52が気管切開チューブ26の近位端から外れる。この回転または回動動作は、チューブ26のみを気管内の所定の位置に残して、気管切開チューブ26の内側ルーメンを通じて全てのローディング部品をユーザが引き出すことを可能にする。明らかなことであるが、拡張器先端部12の最大直径は、気管切開チューブ26を通過することができるように、気管切開チューブ26の直径よりも若干小さくある必要がある。使い捨て式カニューレ80の取り出しも同様の方法で、すなわち、カニューレ80の近位端82を気管切開チューブ26に対して回転させてタブ84をスロット64から脱離させた後、チューブ26からカニューレ80を引き出すことにより行う。オブチュレータ90の取り出しも同様の方法で行う。
【0035】
本発明のカム作用機構を用いることにより、ローディングカテーテルまたはカニューレを気管切開チューブから比較的優しく取り外すことが可能となるので、瘻孔部位に加わる応力を減少させることができる。その結果、瘻孔部位等を傷つけることや、それにより回復時間が増加することを減らすことができる。
【0036】
気管切開チューブ26は、その下側(遠位)部分の外周面上にバルーンカフ30を備えている。バルーンカフ30は、ベンチレータを使用して気管切開チューブを介して人工呼吸を行うために気管内の通常の空気の流れを遮断する役割を果たす。バルーンカフは、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタラート(PETP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)またはポリオレフィンなどの、柔軟で曲げやすいポリマーから作製することが望ましい。バルーンカフは非常に薄くあるべきであり、約25マイクロメートルまたはそれ以下の厚さ、例えば20マイクロメートル、15マイクロメートル、10マイクロメートル、さらには5マイクロメートル程度の厚さであるべきである。また、バルーンカフは、約30mmH2Oまたはそれ以下の圧力、例えば25mmH2O、20mmH2O、15mmH2Oまたはそれ以下の圧力で作動する低圧カフであることが望ましい。そのようなカフは米国特許第6,802,317号に記載されている。この米国特許文献には、患者の気管を可能な限り密閉的に塞ぐためのカフが記載されており、前記カフは、患者の声門の下方の気管を塞ぐためのカフバルーンと、空気チューブとを有している。カフバルーンは、空気チューブに接続されており、完全膨張状態のときは気管の直径よりも大きいサイズに膨張する。また、カフバルーンは、柔軟で曲げやすい壁厚が0.01mmまたはそれ以下の箔材から作製されており、患者の気管内でカフバルーンを膨張させたときに少なくとも1つの垂れ状のひだ部(draped fold)が形成されるように構成されている。前記少なくとも1つの垂れ状のひだ部は、その端部にループ(loop)を有しており、ループの直径は、分泌物がループを通過して自由に流れるのを妨げることができるような小径に形成されている。そのようなカフの別の例は、米国特許第6,526,977号に記載されている。この米国特許文献には、患者の気管を可能な限り密閉的に塞ぐための拡張器が記載されている。前記カフは、患者の声門の下方の気管を塞ぐためのカフバルーンと、空気チューブとを有している。カフバルーンは、空気チューブに接続されており、完全膨張状態のときは気管の直径よりも大きいサイズに膨張する。また、カフバルーンは、柔軟で曲げやすい箔材から作製されており、患者の気管内でカフバルーンを完全に膨張させたときに少なくとも1つの垂れ状のひだ部が形成されるように構成されている。前記少なくとも1つの垂れ状のひだ部は、分泌物が肺に吸い込まれて分泌物吸引に関連する感染症が発症することを防止すべく、バルーンを横切る分泌物の自由流れをひだ部によって生じる毛細管力によって捕えることができるような毛細管サイズを有している。
【0037】
この拡張器取り出しデバイスの様々な部品の例示的なサイズは次の通りである。
【0038】
フランジ70から気管切開チューブ26の遠位端31までの距離は、曲線距離で70mmないし100mm、望ましくは約75mmないし95mm、より望ましくは80mmないし90mmである。気管切開チューブにおけるフランジと遠位端とがなす角度は、85度ないし120度、望ましくは95度ないし115度、より望ましくは100度ないし110度である。フランジ70は、幅が6cmないし12cmで高さが1cmないし6cm、より具体的には幅が7cmないし10cmで高さが2cmないし5cm、さらに具体的には幅が8cmないし9cmで高さが2cmないし4cmであることが望ましい。
【0039】
一実施形態では、ローディングカテーテル50は、曲線長さが約8cmないし13cm、より具体的には約11cmであり、かつ気管切開チューブの遠位先端部から20mm程度突出して終端するかまたは前記遠位先端部内に終端する管状の中間部を有することが望ましい。ハンドル52の長さは、2cmないし7cm、具体的には約5cmであり得る。ローディングカテーテルの遠位端部すなわち先端部54の内径は、3mmないし10mm、具体的には約6mmであり得る。いずれの場合でも、ローディングカテーテルの中間部56及び先端部54並びに拡張器先端部12のサイズは、気管切開チューブ26を通過可能な大きさでなければならない。
【0040】
当業者に理解されるように、本発明の変更形態及び変形形態は当業者の能力の範囲内にあると考えられる。本発明者は、そのような変更形態及び変形形態が本発明の範囲に含まれることを意図している。また、本発明の範囲は、本明細書に開示されている特定の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではなく、先述の開示を踏まえて添付の請求項にのみ従うものであると理解されたい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管切開チューブに結合されている補助的器具を該チューブから取り外すためのシステムであって、
前記補助的器具及び前記気管切開チューブの互いに対する回転に応じて、前記補助的器具及び前記気管切開チューブを互いに直線的に分離させるように構成されたカム作用機構を含むことを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記カム作用機構が、突起及び溝と、突起及び突条部と、互いに相補的な一対の突条部とからなる群より選択される、2つの部分からなるアセンブリをなすことを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムであって、
前記カム作用機構が、互いに相補的な正弦波状の係合形状を有する一対の突条部であり、前記両突条部が約1mmの高さを有し、かつ前記正弦波形状が約1〜8mmの振幅を有することを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムであって、
前記両突条部の前記係合形状が、軸線に対して非対称的であることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムであって、
前記両突条部の前記係合形状が、軸方向の一方に向かって立ち上がる正弦波状の部分と他方に向かって急激に落下する部分とを含む形状であり、前記補助的器具が一方向にのみ回転できるようにしたことを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のシステムであって、
前記補助的器具が、ローディングカテーテル、カテーテル及びオブチュレータからなる群より選択されることを特徴とするシステム。
【請求項7】
気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記気管切開チューブ及び前記補助的器具を互いに対して回転させることにより、前記気管切開チューブ及び前記補助的器具を互いに分離させるカム作用機構を含むことを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項8】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記カム作用機構が、互いに相補的な正弦波状の係合形状を有する一対の突条部からなることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項9】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記カム作用機構が、正弦波状の係合形状を有する溝と、前記溝と係合する突起からなることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項10】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記カム作用機構が、正弦波状の係合形状を有する突条部と、前記突条部と係合する突起からなることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項11】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記チューブ及び前記補助的器具が、前記両部材に設けたタブ及びスロットの係合によって互いに結合されるように構成されていることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項12】
請求項11に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記カム作用機構によって、前記タブ及びスロットの係合を解除するようにしたことを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項13】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記補助的器具が使い捨て式内側カニューレであることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項14】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記補助的器具がローディングカテーテルまたはオブチュレータであることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項1】
気管切開チューブに結合されている補助的器具を該チューブから取り外すためのシステムであって、
前記補助的器具及び前記気管切開チューブの互いに対する回転に応じて、前記補助的器具及び前記気管切開チューブを互いに直線的に分離させるように構成されたカム作用機構を含むことを特徴とするシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって、
前記カム作用機構が、突起及び溝と、突起及び突条部と、互いに相補的な一対の突条部とからなる群より選択される、2つの部分からなるアセンブリをなすことを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムであって、
前記カム作用機構が、互いに相補的な正弦波状の係合形状を有する一対の突条部であり、前記両突条部が約1mmの高さを有し、かつ前記正弦波形状が約1〜8mmの振幅を有することを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のシステムであって、
前記両突条部の前記係合形状が、軸線に対して非対称的であることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムであって、
前記両突条部の前記係合形状が、軸方向の一方に向かって立ち上がる正弦波状の部分と他方に向かって急激に落下する部分とを含む形状であり、前記補助的器具が一方向にのみ回転できるようにしたことを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項1に記載のシステムであって、
前記補助的器具が、ローディングカテーテル、カテーテル及びオブチュレータからなる群より選択されることを特徴とするシステム。
【請求項7】
気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記気管切開チューブ及び前記補助的器具を互いに対して回転させることにより、前記気管切開チューブ及び前記補助的器具を互いに分離させるカム作用機構を含むことを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項8】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記カム作用機構が、互いに相補的な正弦波状の係合形状を有する一対の突条部からなることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項9】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記カム作用機構が、正弦波状の係合形状を有する溝と、前記溝と係合する突起からなることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項10】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記カム作用機構が、正弦波状の係合形状を有する突条部と、前記突条部と係合する突起からなることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項11】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記チューブ及び前記補助的器具が、前記両部材に設けたタブ及びスロットの係合によって互いに結合されるように構成されていることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項12】
請求項11に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記カム作用機構によって、前記タブ及びスロットの係合を解除するようにしたことを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項13】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記補助的器具が使い捨て式内側カニューレであることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【請求項14】
請求項7に記載の気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具であって、
前記補助的器具がローディングカテーテルまたはオブチュレータであることを特徴とする気管切開チューブ及びそれに結合される補助的器具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【公表番号】特表2013−508060(P2013−508060A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534797(P2012−534797)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054070
【国際公開番号】WO2011/048511
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054070
【国際公開番号】WO2011/048511
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(504460441)キンバリー クラーク ワールドワイド インコーポレイテッド (396)
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