説明

気道確保用マスク

【課題】簡単な構造により、簡易に患者の気道を確保して酸素の供給を安全且つ確実に行えるようにする。
【解決手段】気道確保用マスク1に、吸排気用ホース4の接続口5を有し、患者50の鼻孔52、口53及びその周囲を気密的に覆うドーム型マスク本体2を設ける。このマスク本体2にブレード10を回動可能に支持し、その先端10aを患者50の喉頭蓋54近傍に挿入し、基端10b側を押し下げることにより、舌根55及び喉頭蓋54を持ち上げて喉頭を展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気道の確保が困難な患者に酸素を供給するための気道確保用マスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、吸排気用ホースの接続口を有し、患者の鼻孔、口及びその周囲を気密的に覆うドーム型マスク本体を備えた人工呼吸用マスクは知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、マスク本体を、顔面の凹凸面に対して追従した状態で当接する伸縮可撓性材料からなるベース部材と、鼻の近傍を外部から透視できる材料で構成された膨出した中央部材とで構成している。このマスク本体の接続口に吸排気用ホースを接続し、呼吸困難、心肺停止等によって補助呼吸が必要な場合、手術麻酔導入時などにバッグマスク換気等で酸素を送り込む補助換気が行われている。この補助換気により、一時的にでも患者の肺に酸素を送り込むことで、患者が危険な状態になるのを避け、応援を呼んだり、麻酔が覚めるのを待ったり、他の気道確保の手段を模索したりすることができる。
【0004】
しかし、昏睡状態や、全身麻酔等により患者が意識を失っている場合、気道が確保できていないと、上記人工呼吸用マスクにバッグマスク換気等により強制的に酸素を送り込んでも、気道には酸素が送り込まれず、食道に酸素が送り込まれて胃が膨らみ、嘔吐等により肺炎を誘発する場合がある。また、気道に酸素が送り込まれないと、低酸素状態により患者が危険にさらされる。
【0005】
気管が閉塞する理由には、例えば、舌根が落ちて気道を塞ぐ、喉頭蓋が落ちて気道を塞ぐ、肥満者等で首回りの脂肪等の重みにより気道を塞ぐ等が考えられる。
【0006】
この気管閉塞時には、喉頭鏡の先端を患者の舌根と喉頭蓋の咽頭面との間の喉頭蓋谷に挿入し、舌根及び喉頭蓋を持ち上げて喉頭を展開し、声門を目視にて確認し、気管内チューブを挿管して患者の肺に酸素を送り込む方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−21447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、気管挿管による人工呼吸では、適切に挿管を行うのが困難であるという問題がある。患者の気管内にチューブを挿管するには、高度な技術を必要とする。つまり、喉頭を目視できないときに無理にチューブを押し込むと、誤って食道に挿管してしまう場合がある。また、チューブを奥に挿入しすぎると、先端が片方の気管支に挿入され、片側の肺のみの換気になってしまうことがある。
【0009】
また、気管切開を行えば、確実に気道は確保できるが、患者の身体に与える影響が大きく、簡単には行えない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な構造により、簡易に患者の気道を確保して酸素の供給を安全且つ確実に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、この発明では、患者の鼻孔、口及びその周囲を気密的に覆うドーム型マスク本体に気道確保機能を設けた。
【0012】
具体的には、第1の発明の気道確保用マスクは、
吸排気用ホースの接続口を有し、患者の鼻孔、口及びその周囲を気密的に覆うドーム型マスク本体と、
上記マスク本体に回動可能に支持され、先端が上記患者の喉頭蓋近傍に挿入され、基端側が押し下げられることにより、上記先端で上記患者の舌根及び喉頭蓋を持ち上げて喉頭を展開するブレードと、
を備えている。
【0013】
上記の構成によると、ブレードの先端を患者の口から患者の喉頭蓋近傍に挿入し、マスク本体を患者の顔面に押し当てて患者の鼻孔、口及びその周囲を気密的に覆った状態で、ブレードの基端側を押し下げる。すると、ブレードの先端が上方へ回動され、舌根及び喉頭蓋が持ち上げられる。このため、喉頭が展開され、気道が確実に確保される。この状態で、バッグマスク換気等をすることにより、気道確保困難な場合であっても、患者の気道に確実に酸素が送り込まれる。
【0014】
第2の発明では、第1の発明において、
上記ブレード先端は、湾曲し、上記患者の舌根と喉頭蓋の咽頭面との間の喉頭蓋谷に挿入される構成とする。
【0015】
上記の構成によると、ブレードの先端を患者の口から患者の舌根と喉頭蓋の咽頭面との間の喉頭蓋谷近傍に挿入し、マスク本体を患者の顔面に押し当てて患者の鼻孔、口及びその周囲を気密的に覆った状態で、ブレードの基端側を押し下げる。すると、ブレードの先端が上方へ回動され、喉頭蓋谷を押し上げるので、喉頭蓋を傷つけることなく舌根及び喉頭蓋が持ち上げられる。このため、安全に喉頭が展開され、気道が確実に確保される。この状態で、バッグマスク換気等で酸素を送り込むことにより、気道確保困難な場合であっても、患者の気道に確実に酸素が送り込まれる。
【0016】
第3の発明では、第1の発明において、
上記ブレード先端は、直線状に延び、上記患者の喉頭蓋の喉頭面まで挿入される構成とする。
【0017】
上記の構成によると、ブレードの先端を患者の口から患者の喉頭蓋の喉頭面まで挿入し、マスク本体を患者の顔面に押し当てて患者の鼻孔、口及びその周囲を気密的に覆った状態で、ブレードの基端側を押し下げる。すると、ブレードの先端が上方へ回動され、喉頭蓋が直接押さえ付けられて上方に持ち上げられ、それに伴って舌根も持ち上げられる。このため、喉頭が展開され、気道が確実に確保される。この状態で、バッグマスク換気等で酸素を送り込むことにより、気道確保困難な場合であっても、患者の気道に確実に酸素が送り込まれる。
【0018】
第4の発明では、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、
上記ブレードの基端は、上記マスク本体に形成した開口から該マスク本体外部に突出している。
【0019】
上記の構成によると、マスク本体に形成した開口から突出するブレードの基端を直接押し下げることで、ブレードの先端が確実に舌根及び喉頭蓋を持ち上げ、喉頭が展開される。このとき、患者の顎を押さえながら親指でブレードの基端を押し下げることで、マスク本体を患者の顔面に密着させる方向に力が働いてマスク本体の密閉度が確保される。また、ブレードの基端を直接操作するので、操作が容易で操作ミスが少なく、また、部品点数が減って製造が容易となり製造コストも低減される。
【0020】
第5の発明では、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、
上記ブレードの基端は、上記マスク本体内部に収容され、
先端が、上記マスク本体に形成した開口から該マスク本体外部に突出する回動レバーを有し、
上記回動レバーは、上記マスク本体に回動可能に支持され、該回動レバーを回動させることにより、該回動レバーの基端が上記ブレードの基端を押し下げて該ブレードを回動させるように構成されている。
【0021】
上記の構成によると、回動レバーを回動させることで、ブレードが間接的に回動される。回動レバーを介してブレードを回動操作するようにしたことにより、ブレード基端がマスク本体から突出しないので、回動レバーの構成を変更することで、マスク本体の開口の位置や大きさを変更することができる。
【0022】
第6の発明では、第5の発明において、
上記回動レバーの基端には、接続用の長孔が形成され、該長孔に上記ブレードの基端がスライド移動可能に接続されている。
【0023】
上記の構成によると、回動レバーとブレードとが連結されているので、壊れにくく、また、回動レバーを回動させれば、それに連動してブレードが確実に回動される。
【0024】
第7の発明では、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、
上記ブレードの基端は、上記マスク本体内部に収容され、
先端が、上記マスク本体に形成した開口から該マスク本体外部に突出する押し下げボタンを有し、
上記押し下げボタンは、上記マスク本体に押し下げ可能に設けられ、該押し下げボタンを押し下げることにより、該押し下げボタンの基端が上記ブレードの基端を押圧して該ブレードを回動させるように構成されている。
【0025】
上記の構成によると、押し下げボタンを押し下げることで、ブレードの基端が下方に回動され、先端側が押し上げられて気道が確保される。押し下げボタンは上下運動しか行わないので、マスク本体に設ける開口を小さくすることができ、気密性を確保しやすい。
【0026】
第8の発明では、第4乃至第7のいずれか1つの発明において、
上記マスク本体に設けた開口と、上記ブレードの基端、回動レバーの先端及び押し下げボタンの先端のいずれか1つとは、袋状の密閉部材で覆われている。
【0027】
上記の構成によると、ブレードを操作するためにマスク本体に設けた開口を袋状の密閉部材でブレードの基端、回動レバーの先端又は押し下げボタンの先端と共に覆っているので、ブレードの操作性を悪化させることなく、マスク本体の気密性が確保され、酸素の漏れを防いで効率よく患者に酸素が供給される。
【0028】
第9の発明では、第7の発明において、
上記押し下げボタンの外周にはOリングが取り付けられ、該Oリングが、上記マスク本体の開口の内面に摺接するように構成されている。
【0029】
上記の構成によると、極めて簡単な構成でマスク本体の開口が密閉されるので、酸素の漏れを防いで効率よく患者に酸素が供給される。
【0030】
第10の発明では、第1乃至第9のいずれか1つの発明において、
異なるサイズの複数のブレードをさらに備え、
上記複数のブレードは、それぞれ上記マスク本体に対して交換可能に構成されている。
【0031】
すなわち、喉頭展開のためにブレード先端で押さえる最適な位置は、患者によって異なるが、上記の構成によると、ブレードが交換可能であるため、患者に合わせて気道確保用マスク全体を取り替える必要がなくなり、保管スペースやコストが低減される。
【0032】
第11の発明では、第1乃至第9のいずれか1つの発明において、
上記ブレードは、長さ調整可能に構成されている。
【0033】
上記の構成によると、ブレードを交換せずに長さ調整することができるので、部品の管理が容易となり、使い勝手もよい。
【0034】
第12の発明では、第1乃至第11のいずれか1つの発明において、
上記ブレードには、喉頭内を照らす照明装置が装着されている。
【0035】
上記の構成によると、照明装置で照らしながら確実に喉頭展開が行える。例えば、光ファイバをブレードに沿わせる方法がある。
【0036】
第13の発明では、第1乃至第12のいずれか1つの発明において、
上記ブレードは、樹脂成形品で形成されている。
【0037】
上記の構成によると、ブレードの形状を容易に設計できると共に、軽量で取り扱いがしやすい。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、マスク本体にブレードを回動可能に支持し、その先端を患者の喉頭蓋近傍に挿入し、基端側を押し下げることにより、先端で舌根及び喉頭蓋を持ち上げて喉頭を展開するようにしたことにより、簡単な構造により、簡易に患者の気道を確保して酸素の供給を安全且つ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態にかかる気道確保用マスクを示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる気道確保用マスクを示す平面図である。
【図3】気道確保用マスクを用いて気道確保を行う様子を示す側方断面図である。
【図4】実施形態の変形例1にかかる図1相当図である。
【図5】実施形態の変形例1にかかる図2相当図である。
【図6】実施形態の変形例2にかかる図1相当図である。
【図7】実施形態の変形例2にかかる図2相当図である。
【図8】実施形態の変形例3にかかる図3相当図である。
【図9】その他の実施形態にかかる位置変更可能な回動軸及びその周辺を示す平面図である。
【図10】その他の実施形態にかかる照明装置を有するブレードを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0041】
図1〜図3は本発明の実施形態の気道確保用マスク1を示し、この気道確保用マスク1は、例えば無色透明な樹脂成形品よりなるドーム型のマスク本体2を備えている。このマスク本体2は、患者50の顔面51に合わせて変形して密閉度を高めるために可撓性を有し、その下端には外形が卵形のフランジ2aが設けられている。このフランジ2aの下面には、内部に空気を充填することでクッションの役割を果たす環状のクッション部3が貼り付けられている。なお、図示しないが、フランジ2aに、クッション部3内に空気を充填するための弁を設けてもよい。マスク本体2の上部中央には、図示しない酸素供給装置に連結された吸排気用ホース4が接続されるパイプ状の接続口5が突設されている。例えば、酸素供給装置は、図示しないバッグを含み、このバッグを握ると酸素が気道確保用マスク1に供給されるように構成されている。接続口5は、上下方向にマスク本体2を貫通しているが、左右いずれかに向くように、横向きにマスク本体2に設けられていてもよい。図3に示すように、気道確保用マスク1は、クッション部3を患者50の顔面51に押し当てて、鼻孔52、口53及びその周囲を気密的に覆うように構成されている。
【0042】
そして、マスク本体2には、ブレード10が回動可能に支持されている。ブレード10は、例えば、樹脂成形品よりなり、その先端10aは、湾曲している。気道確保用マスク1を患者50に装着するときに、先端10aが口53から挿入されるが、その長さは喉頭蓋54近傍すなわち、患者50の舌根55と喉頭蓋54の咽頭面54aとの間の喉頭蓋谷56に挿入されるようになっている。ブレード10の基端10bは、マスク本体2に形成した開口2bから、マスク本体2外部に突出している。開口2bの形と大きさは、基端10bの幅、厚さ及び移動範囲で決められる。本実施形態では、例えば、略矩形状となっている。なお、ブレード10を樹脂成形品で形成することにより、ブレード10の形状を容易に設計できると共に、軽量で取り扱いがしやすくなっている。
【0043】
ブレード10は、その長手方向中間部の基端10b寄りに左右に伸びる回動軸11を備えている。回動軸11は、ブレード10と同じ樹脂材料で一体に成形しても、金属材料でインモールド成形してもよい。この回動軸11がマスク本体2の内面から内方へ膨出するボス部12に回転可能に挿入されている。このことで、ブレード10は、この回動軸11を中心に上下方向に回動するようになっている。回動軸11から見て先端10a側が基端10b側よりも長いので、ブレード10は、自重により下方に下がっている。また、このボス部12に回動軸11を脱着可能に構成してもよい。脱着可能として異なるサイズの複数のブレード10を用意しておけば、患者50に合わせてブレード10を自由に取り替えることができるようになる。
【0044】
そして、ブレード10の基端10b側が押し下げられることにより、先端10aで舌根55及び喉頭蓋54を持ち上げて喉頭を展開するようになっている。
【0045】
マスク本体2に設けた開口2bと、ブレード10の基端10bとは、袋状の密閉部材13で覆われている。この密閉部材13は、例えば蛇腹状の可撓性部材よりなり、マスク本体2とブレード10の基端10bとに接着しておけば、ブレード10の動きに合わせて伸縮するので、確実に密閉可能である。一方、密閉部材13と基端10bとを接着せず、弾性を有する材料で密着させるがスライド自在としておけば、ブレード10の交換や長さ調整が可能となる。
【0046】
−気道確保用マスクの作動−
次に、本実施形態にかかる気道確保用マスク1の作動について説明する。
【0047】
まず、患者50が、呼吸困難、心肺停止等で自発的に有効な呼吸が行えない場合や、胸腹部切開手術時に麻酔をすると共に、筋弛緩剤の投与により自発的に呼吸が行えない場合などには、患者50の肺58に酸素を送り込んで患者50が低酸素状態になるのを防ぐ必要がある。
【0048】
まず、図3に示すように、患者50を横たえ、例えばタオル59を折り畳んだ枕の上に頭を載せる。そして、顎を持ち上げて気道57の確保を図る。
【0049】
患者50が意識を失っていると、顎を持ち上げても、舌根55が落ちて気道57を塞いだり、喉頭蓋54が落ちて気道57を塞いだり、肥満者等で首回りの脂肪等の重みにより気道57を塞いだりする。
【0050】
このように気道57が閉塞した場合には、従来のマスクを患者50の顔面51に押し当てて酸素を送り込むだけでは気道57に酸素がうまく送り込まれず、場合によっては、食道60に酸素が送り込まれて胃61が膨らみ、嘔吐等により肺炎を誘発する場合がある。
【0051】
そこで、本実施形態の気道確保用マスク1を使用する。まず、ブレード10の先端10aを患者50の口53から挿入する。
【0052】
そして、マスク本体2を患者50の鼻孔52、口53及びその周囲を気密的に覆う。すると、先端10aが患者50の喉頭蓋54の咽頭面54aの辺りに挿入される。
【0053】
次いで、患者50の顎を押さえながら親指の側面や先でブレード10の基端10bを押し下げる。すると、マスク本体2を患者50の顔面51に密着させる方向に力が働いてマスク本体2の密閉度が確保される。ブレード10の基端10bを直接操作するので、操作が容易で操作ミスが少なく、また、気道確保用マスク1の部品点数が減って製造が容易となり製造コストも低減される。
【0054】
そして、ブレード10の先端10aが上方へ回動され、喉頭蓋谷56を押し上げ、舌根55及び喉頭蓋54が持ち上げられる。このため、喉頭が展開され、気道57が確実に確保される。このように気道57を確実に確保した状態でバッグを握るなどにより、酸素を肺58に送り込むことで、低酸素状態が回避される。この間に患者50の意識が戻る等により、自らの意志で呼吸ができるようになったり、気管挿管や気管切開などの別の手段を模索したりすることができる。
【0055】
本実施形態では、予め、ブレード10の長さは、患者50に合わせて選択しておく。用意した気道確保用マスク1のブレード10の長さが適切でなければ、長さの違う別のブレード10をボス部12に嵌め込むことで交換することもできる。このように、患者50によって喉頭展開のためにブレード10先端で押さえる最適な位置が異なるが、ブレード10を交換可能とすれば、患者50に合わせて気道確保用マスク1全体を取り替える必要がなくなり、保管スペースやコストが低減される。
【0056】
したがって、本実施形態にかかる気道確保用マスク1によると、マスク本体2にブレード10を回動可能に支持し、その先端10aを患者50の喉頭蓋谷56に挿入し、基端10b側を押し下げることにより、先端10aで舌根55及び喉頭蓋54を持ち上げて喉頭を展開するようにしたことにより、簡単な構造により、簡易に患者50の気道57を確保して補助換気を安全且つ確実に行うことができる。
【0057】
−実施形態の変形例1−
図4及び図5は本発明の実施形態の変形例1の気道確保用マスク101を示し、ブレード110の基端110bの押さえ方が異なる点で上記実施形態と異なる。なお、以下の各変形例では、図1〜図3と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0058】
本変形例のブレード110の基端110bは、上記実施形態のブレード10の基端10bよりも短く、マスク本体2の内部に収容されている。基端110bは、二又に分かれてその隙間に連結軸110cが結合されている。
【0059】
一方、本変形例の気道確保用マスク101は、マスク本体2に回動可能に支持された回動レバー102を有している。回動レバー102は、先端102aが、マスク本体2に形成した開口2bから、このマスク本体2の外部に突出している。回動レバー102の長手方向中間には、左右に伸びるレバー側回動軸103が突設され、このレバー側回動軸103が、マスク本体2に設けたレバー側ボス部112に回動可能に支持されている。回動レバー102の基端102bは、先細に形成されて長手方向に伸びる接続用の長孔102cが形成されている。この長孔102cにブレード110の連結軸110cがスライド移動可能に接続されている。
【0060】
そして、上記実施形態と同様に、マスク本体2に設けた開口2bと、回動レバー102とは袋状の密閉部材13で覆われている。
【0061】
次に、本変形例にかかる気道確保用マスク101の作動について上記実施形態と異なる点のみ説明する。
【0062】
ブレード110を患者50の口53に挿入後、図4のように回動レバー102を上方へ回動させると、レバー側回動軸103を中心に基端102bが下方へ回動される。
【0063】
すると、この基端102bの長孔102c内を連結軸110cが下方に移動しながら、ブレード110の基端110bが押し下げられる。
【0064】
その結果、ブレード110の先端110aが上回りに回動し、喉頭蓋谷56を押し上げ、舌根55及び喉頭蓋54が持ち上げられる。
【0065】
このように、回動レバー102を回動させることで、ブレード110が間接的に回動される。回動レバー102を介してブレード110を回動操作するようにしたことにより、ブレード110の基端110bがマスク本体2から突出しないので、マスク本体2の開口2bの位置や大きさの自由度が増している。このため、レバー側回動軸103や連結軸110cの位置を変えることで、開口2bの位置を変えることができ、また、回動レバー102の幅や厚さを変えることで、開口2bの大きさを変えることができる。
【0066】
そして、回動レバー102とブレード110とが連結軸110cで連結されているので、壊れにくく、また、回動レバー102を回動させれば、ブレード110が確実に回動される。
【0067】
なお、本変形例では、ブレード110の基端110bと、回動レバー102の基端102bとを連結しているが、必ずしも連結する必要はなく、回動レバー102の基端102bでブレード110の基端110bを押し下げるようにしてもよい。
【0068】
また、図示しないが、レバー側回動軸103を連結軸110cよりも上方に配置して、回動レバー102を押し下げたときに、レバー側回動軸103よりも先端102a側で基端102bを押し下げ、ブレード110の基端110bを押し下げることもできる。このようにすれば、上記実施形態と同様にマスク本体2を押さえ付ける方向と、回動レバー102を押さえ付ける方向とが一致し、マスク本体2を患者50に押し当てやすくなる。
【0069】
−実施形態の変形例2−
図6及び図7は本発明の実施形態の変形例2の気道確保用マスク201を使用を示し、ブレード210の基端210bの押さえ方が異なる点で上記実施形態と異なる。
【0070】
本変形例のブレード210の基端210bも、上記変形例1と同様にマスク本体2の内部に収容されている。本変形例の気道確保用マスク201は、上下方向にスライド移動する押し下げボタン202を有し、この押し下げボタン202では、例えば、先端202aは、指で押しやすいように円形となっている。開口2bは、円筒のボスに形成され、押し下げボタン202がこの開口2bに挿入されている。基端202bは抜け止めも兼ねて開口2bに挿入される中間部202cよりも太くなっている。先端202a又は基端202bを脱着可能とすることで、押し下げボタン202を開口2bに挿入することができ、そうすることで、先端202aが、開口2bからマスク本体2の外部に突出している。
【0071】
このようにして、押し下げボタン202は、マスク本体2に対して上下にスライド移動可能となり、この押し下げボタン202を押し下げることにより、押し下げボタン202の基端202bがブレード210の基端210bを押圧してブレード210を上方へ回動させるように構成されている。
【0072】
上記実施形態と同様に、ブレード210を操作するためにマスク本体2に設けた開口2bを袋状の密閉部材13で押し下げボタン202と共に覆えば、ブレード210の操作性を悪化させることなく、マスク本体2の気密性が確保されるが、本変形例では、中間部202cの外周にOリング203が嵌め込まれている。このOリング203が開口2b内面を摺動することで、マスク本体2内部と外部とが密閉されている。
【0073】
本変形例においても、押し下げボタン202を押し下げることで、ブレード210の基端210bが下方に回動され、このことで、先端側210aが上方へ押し上げられ、気道57が確保される。押し下げボタン202は上下運動しか行わないので、マスク本体2に設ける開口2bを小さくすることができ、気密性を確保しやすい。
【0074】
−実施形態の変形例3−
図8は本発明の実施形態の変形例4の気道確保用マスク301で気道確保をする様子を示し、ブレード310の先端310aの形状が異なる点で上記実施形態と異なる。
【0075】
本変形例のブレード310の先端310aは、上記実施形態とは異なって直線状に延びている。先端310aの長さは、ブレード310が挿入されたときに、患者50の喉頭蓋54の喉頭面54bに達するように設定されている。
【0076】
ブレード310の先端310aを患者50の口53から患者50の喉頭蓋の喉頭面54bまで挿入し、マスク本体2を患者50の顔面51に押し当てて患者50の鼻孔52、口53及びその周囲を気密的に覆った状態で、ブレード310の基端310b側を親指の側面や先で押し下げる。
【0077】
すると、ブレード310の先端310aが上方へ回動され、喉頭蓋54が直接押さえ付けられて上方に持ち上げられ、それに伴って舌根55も持ち上げられる。
【0078】
このため、喉頭が展開され、気道57が確実に確保される。この状態で、バッグを握るなどにより酸素を送り込むことにより、気道確保困難な場合であっても、患者50の気道57に確実に酸素が送り込まれる。
【0079】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0080】
すなわち、上記実施形態では、回動軸11がブレード10に固定されているので、ブレード10の長さは調整できないが、ブレード10を長さ調整可能に構成してもよい。例えば、図9に示すように、回動軸11の左右中間部11aを可撓性のある部材とし、この左右中間部11a内にブレード10を長手方向にスライドさせることで、回動軸11から先端10aまでの長さを調節することができる。このことで、多くの患者に使用可能となる。したがって、ブレード10を交換せずに長さ調整することができるので、部品の管理が容易となり、使い勝手もよくなる。なお、長さ調整の方法はこれに限定されず、例えば、外形の異なる筒状の部材を重ね合わせて伸縮式としてもよい。
【0081】
また、図10に示すように、ブレード410を中空にし、その内部に喉頭内を照らす照明装置を装着してもよい。例えば、公知の喉頭鏡と同様に光ファイバ401をブレード410の先端開口402まで沿わせる方法がある。光ファイバ401の先端から光を発生させることで、さらに容易且つ安全に喉頭展開を行うことができる。
【0082】
さらに、上記実施形態では、酸素が供給されたバッグを握ることで、気道確保用マスク1に酸素を強制的に供給しているが、この方法に限定されず、手動ではなく自動的に酸素を供給させるようにしてもよい。
【0083】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように、本発明は、気道確保が困難な患者に対して酸素の供給を行うマスクについて有用である。
【符号の説明】
【0085】
1 気道確保用マスク
2 マスク本体
2b 開口
4 吸排気用ホース
5 接続口
10 ブレード
10a 先端
10b 基端
11 回動軸
13 密閉部材
50 患者
51 顔面
52 鼻孔
53 口
54 喉頭蓋
54a 咽頭面
55 舌根
56 喉頭蓋谷
57 気道
101 気道確保用マスク
102 回動レバー
102a 先端
102b 基端
102c 長孔
110 ブレード
110a 先端
110b 基端
201 気道確保用マスク
202 押し下げボタン
202b 基端
202c 中間部
203 Oリング
210 ブレード
210a 先端側
210b 基端
301 気道確保用マスク
310 ブレード
310a 先端
310b 基端
401 光ファイバ(照明装置)
410 ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸排気用ホースの接続口を有し、患者の鼻孔、口及びその周囲を気密的に覆うドーム型マスク本体と、
上記マスク本体に回動可能に支持され、先端が上記患者の喉頭蓋近傍に挿入され、基端側が押し下げられることにより、上記先端で上記患者の舌根及び喉頭蓋を持ち上げて喉頭を展開するブレードと、
を備えていることを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の気道確保用マスクにおいて、
上記ブレード先端は、湾曲し、上記患者の舌根と喉頭蓋の咽頭面との間の喉頭蓋谷に挿入される
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項3】
請求項1に記載の気道確保用マスクにおいて、
上記ブレード先端は、直線状に延び、上記患者の喉頭蓋の喉頭面まで挿入される
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の気道確保用マスクにおいて、
上記ブレードの基端は、上記マスク本体に形成した開口から該マスク本体外部に突出している
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の気道確保用マスクにおいて、
上記ブレードの基端は、上記マスク本体内部に収容され、
先端が、上記マスク本体に形成した開口から該マスク本体外部に突出する回動レバーを有し、
上記回動レバーは、上記マスク本体に回動可能に支持され、該回動レバーを回動させることにより、該回動レバーの基端が上記ブレードの基端を押し下げて該ブレードを回動させるように構成されている
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項6】
請求項5に記載の気道確保用マスクにおいて、
上記回動レバーの基端には、接続用の長孔が形成され、該長孔に上記ブレードの基端がスライド移動可能に接続されている
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の気道確保用マスクにおいて、
上記ブレードの基端は、上記マスク本体内部に収容され、
先端が、上記マスク本体に形成した開口から該マスク本体外部に突出する押し下げボタンを有し、
上記押し下げボタンは、上記マスク本体に押し下げ可能に設けられ、該押し下げボタンを押し下げることにより、該押し下げボタンの基端が上記ブレードの基端を押圧して該ブレードを回動させるように構成されている
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項8】
請求項4乃至7のいずれか1つに記載の気道確保用マスクにおいて、
上記マスク本体に設けた開口と、上記ブレードの基端、回動レバーの先端及び押し下げボタンの先端のいずれか1つとは、袋状の密閉部材で覆われている
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項9】
請求項7に記載の気道確保用マスクにおいて、
上記押し下げボタンの外周にはOリングが取り付けられ、該Oリングが、上記マスク本体の開口の内面に摺接するように構成されている
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の気道確保用マスクにおいて、
異なるサイズの複数のブレードをさらに備え、
上記複数のブレードは、それぞれ上記マスク本体に対して交換可能に構成されている
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の気道確保用マスクにおいて、
上記ブレードは、長さ調整可能に構成されている
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1つに記載の気道確保用マスクにおいて、
上記ブレードには、喉頭内を照らす照明装置が装着されている
ことを特徴とする気道確保用マスク。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1つに記載の気道確保用マスクにおいて、
上記ブレードは、樹脂成形品で形成されている
ことを特徴とする気道確保用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−5115(P2011−5115A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153288(P2009−153288)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(509184254)