説明

水の蒸気圧低下剤

【課題】安全で、封水と混合しやすく寒冷地でも使用可能な蒸気圧低下剤を提供する。
【解決手段】尿素と、界面活性剤と、精製グリセロールと、水又はアルカリ還元水と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気圧低下剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗面台、流し台等の排水管は、下水側から悪臭が室内に入ったり、害虫等の生物が室内に入るのを防止するために、水を溜めるための排水トラップが設けられている。しかし、家を不在にしたり、マンションの借り手がいない等の理由により、長期間洗面台、流し台等を使用しない場合、封水が蒸発して(渇水して)下水側から悪臭が室内に入ったり、害虫等の生物が室内に入る虞がある。そこで、封水の蒸発を防ぐために、封水に油を投入して水面を被覆していた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、上記油は水より比重が軽く、投入した際に、封水の中を排水口側から下水側へ移動しづらいという欠点があった。さらに、寒冷地では排水トラップ内の水が凍ってしまう問題もあり、従来、エチレングリコールが寒冷地用として使用される場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「トラップキーパー・EC−101」ホームページアドレスhttp://www.lifestyle-service.net/torapkeep/torapkeep.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記油を投入した際に、封水の中を排水口側から下水側へ移動しづらい。また、上記エチレングリコールは致死量が設定されている毒劇物であって、自然界に流出すると危険性が高い。また、セントラルヒーティング用冷媒(水)として、寒冷地では水が凍結するという問題があった。
そこで、本発明は、安全で、封水と混合しやすく寒冷地でも使用可能な蒸気圧低下剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、尿素と、界面活性剤と、精製グリセロールと、水又はアルカリ還元水と、を有するものである。
また、尿素を5〜20重量%、界面活性剤を0.1〜5重量%、精製グリセロールを10〜80重量%、残りを主として水又はアルカリ還元水としたものである。
また、上記精製グリセロールは、エタノールと油脂と水と炭化物を有する廃グリセロールを蒸留精製したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、排水トラップへ投入した際に、封水の全体と簡単に混合する。さらに、蒸発しにくく、長期間にわたって封水作用を確実になす。特に、寒冷地に於ては、蒸気圧が十分に低下して、凍結することがなく、安全性も高い。また、セントラルヒーティング用の冷媒(水)として、蒸気圧が低下することによって凍結を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る蒸気圧低下剤の使用状態の簡略説明図である。
【図2】本発明に係る蒸気圧低下剤の使用状態の簡略説明図である。
【図3】水100%の蒸発性の実験結果を示すグラフ図である。
【図4】本発明実施例(品)の蒸気圧低下剤50ccと水50ccとを混合したものの蒸発性の実験結果を示すグラフ図である。
【図5】本発明実施例(品)の蒸気圧低下剤30ccと水50ccとを混合したものの蒸発性の実験結果を示すグラフ図である。
【図6】本発明に係る蒸気圧低下剤の別の使用状態の簡略説明図である。
【図7】本発明実施例(品)の蒸気圧低下剤30ccと水170ccとを混合したものの蒸発性の実験結果を示すグラフ図である。
【図8】本発明実施例(品)の蒸気圧低下剤30ccと水320ccとを混合したものの蒸発性の実験結果を示すグラフ図である。
【図9】本発明実施例(品)の蒸気圧低下剤25ccと水75ccとを混合したものの凝固性の実験結果を示すグラフ図である。
【図10】本発明実施例(品)の蒸気圧低下剤50ccと水50ccとを混合したものの凝固性の実験結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1と図2に於て、S字型の排水トラップTを有する排水管2の上方開口部3から、本発明に係る蒸気圧低下剤5を投入すると、S字型排水トラップT内の封水Wと混合する。
図1に示すように、この排水トラップTの開口側から投入すれば、自然に封水W全体と混合されて図2に示すように混合封水液10となる。
本発明に係る蒸気圧低下剤5は、尿素と、界面活性剤と、精製グリセロールと、水又はアルカリ還元水と、を含み、具体的には、尿素を5〜20重量%、界面活性剤を0.1〜5重量%、精製グリセロールを10〜80重量%、残りを主として水又はアルカリ還元水とした成分から成る。
【0010】
精製グリセロールは、エタノールと油脂と炭化物を有する廃グリセロールを蒸留精製(生成)したものが望ましい。
廃グリセロールは、例えば、食用廃油をエステル化してバイオディーゼルフューエルを精製する際の副産物(黒色の不要物)であり、現在、特別産業廃棄物として処理に困っているものである。つまり、不要な廃棄物を再利用(リサイクル)でき、廃棄物の削減、及び、有効利用に貢献できる。
【0011】
そして、精製グリセロールを10〜80重量%とするが、好ましくは、50〜75重量%とする。下限値未満であると、(蒸気圧が十分低下せず)図2に示す混合封水液10から水分の蒸発が速く、かつ、凍結しやすくなって、寒冷地での実用に耐えられなくなる。上限値を越せば、引火(燃焼)の危険性が生ずる。また、上限値を越すと粘度が大きくなってしまって、排水トラップTの下部へ沈澱して溜まる場合もある。また、精製グリセロールによって、凝固点を低く、沸点を高くしている。
【0012】
尿素は5〜20重量%とするが、好ましくは、10〜15重量%とする。下限値未満では、(蒸気圧が十分低下せず)混合封水液10からの水分の蒸発が速く、かつ、凍結しやすくなり、寒冷地での実用に耐えられなくなる。上限値を越せば、精製グリセロールと尿素とが反応して凝固物が生ずる。つまり、廃グリセロールには油脂分が含まれており蒸留精製をしても完全除去が困難なため、精製グリセロールに含まれる微量の油脂分と尿素とが反応して凝固し、白濁色となる。
また、尿素及び精製グリセロールにより凝固点を低く(凍りにくく)でき、凍結防止剤としての効果を得ている。
【0013】
界面活性剤は0.1〜5重量%とするが、好ましくは、0.1重量%以上5重量%未満であり、より好ましくは、2〜4重量%である。界面活性剤によって、表面張力を低下させている。(水に比べて)表面張力を低くさせることで、排水管内周壁に付着している汚れやゴミによる毛細管現象が発生しにくくなり、混合封水液10の吸い上げが抑制され、蒸発量を抑制できる。数値範囲を越えると、蒸気圧低下剤5を投入する際に発泡して混合が不十分となる虞があり、下限値未満であると、毛細管現象を抑制する効果が得られにくい虞がある。
界面活性剤は、例えば、アルカリ性洗剤(「スマートウォッシュ」株式会社スマート製)とするのが好ましい。
【0014】
また、水又はアルカリ還元水の割合(重量%)が大きくなると蒸気圧が上昇し、凝固点(氷点)も上昇する。本来、精製グリセロールの凝固点は約−120℃であるが、これに水又は電解アルカリイオン水が加わるため、凝固点が上昇することとなり、凝固点を、−40℃〜−25℃とする。好ましくは−40℃〜−35℃、より好ましくは−40℃〜−38℃とする。
【0015】
また、残りを主として水(純水又は水道水)とした場合は、アルカリ還元水に比べて、製造や設備等のコストが低く、蒸気圧低下剤5を安価に製造できるといった利点がある。
アルカリ還元水とした場合は、水の場合に比べて、排水管2の劣化(酸化)を抑制できる。
なお、「残りを主として水(又はアルカリ還元水)とした」の「主」とは、精製グリセロールと、尿素と、界面活性剤と、を除いた残り液体を100重量%とすると、その95〜100重量%が、水(又はアルカリ還元水)であることを意味する。例えば、上記残りの液体が、全て水(又はアルカリ還元水)の場合や、水(又はアルカリ還元水)以外に色素、香料、除菌剤等が夫々0.1〜5重量%含まれている場合、を意味する。
なお、アルカリ還元水は、電解アルカリイオン水や電解アルカリ還元水とも呼ばれるものである。
【0016】
また、蒸気圧低下剤5のpH値を9.0〜10.0としている。より好ましくは9.5〜10.0とする。アルカリ性とすることで、雑菌の繁殖を抑える効果が発揮される。なお、浄化槽の微生物への環境を考慮し、pH値をpH調整剤等で調整するも良い。
また、比重は1.00〜1.10としている、好ましくは、1.01〜1.09であり、より好ましくは、1.07〜1.09としている。つまり、水に比べて、比重を僅かに重く(大きく)することで、封水Wの上部に上澄み液のように大きく偏るのを防止し、下水側寄りの封水Wともよく混ざるようにしている。
また、大気圧での沸点を120℃〜130℃とする。より好ましくは、125℃〜130℃とする。また、引火点及び発火点は無く安全性が高い。
【実施例】
【0017】
次の表1の蒸気圧低下剤を作成した。
【表1】

【0018】
上記表1の実施例(実施品)のもの(以下、本剤と呼ぶ場合もある)を50ccと(予め排水トラップTにある封水Wの代わりとして)水50ccとを混合して100ccの混合封水液10(本剤の濃度を50%とした混合封水液10の場合)について実験した結果を図4のグラフ図に示す。横軸は日を、縦軸は容量を示す。図3はこれと比較のために、水100%のものを100ccの封水Wとした場合(本剤の濃度を0%とした場合)を示す。いずれも室温27℃である。
図3に示すように、単なる水のみでは、12.5〜13日で蒸発して無くなる。これに対し、図4に示した実施例(実験例)では、540日掛っても58ccが残り、10ヶ月に1度、約40〜50cc程度の水を補充すれば良いことが分かる。
【0019】
また、図5は、図1及び図2に示したようなS字型排水トラップTに、本剤30ccと水50ccとを混合して80ccの混合封水液10とした場合(本剤の濃度を38%とした場合)のものを充填した実験結果である。横軸は日を、縦軸は容量を示す。図5に示したように、540日掛かっても40ccが残り、排水トラップTに、10ヶ月に1度、約40〜50cc程度の水を補充すれば良いことが分かる。
【0020】
また、図6に示すように、流し台や排水口に設けられる釣鐘型の排水トラップT´に、使用した実験結果を、図7と図8に示す。
図7は、最大充填量が200ccの釣鐘型排水トラップT´に対して、本剤30ccと水170ccとを混合して200ccの混合封水液10とし(本剤の濃度を15%とし)、それを充填した実験結果である。
図8は、最大充填量が350ccの釣鐘型排水トラップT´に対して、本剤30ccと水320ccとを混合して350ccの混合封水液10とし(本剤の濃度を8.5%とし)、それを充填した実験結果である。
【0021】
図7で明らかなように、300日〜330日(約10ヶ月)で約75ccが残り、10ヶ月に1度、約125cc程度の水を補充すれば良いことが分かる。
また、図8で明らかなように、300日〜330日(約10ヶ月)で約150ccが残り、10ヶ月に1度、約200cc程度の水を補充すれば良いことが分かる。
【0022】
このように、蒸発を抑制する作用についても、本発明が優れた作用効果を示す。なお、季節や排水トラップT,T´の形状や大きさによって、多少、蒸発性に差を生ずる。
また、実際に使用する際(蒸気圧低下方法)としては、排水トラップT,T´の(封水)最大充填量の混合封水液10を100%とすると、蒸気圧低下剤5の濃度が5〜90%になるように、好ましくは8%〜70%となるように、図1に示すように(予め溜まっている)封水Wに投入するのが望ましい。下限値未満であると、蒸発する量が多く、投入後10ヶ月になる前に、排水トラップT,T´が防臭や防虫効果を発揮する(封水)最小充填量未満となる虞がある。また、上限値を越えると、蒸発低下効果は十分に得られるが、濃度を上記数値範囲内の最大値とした場合と大きな差が得られないため、蒸気圧低下剤5が無駄になってしまうからである。
【0023】
次に、本剤の凍結性(凍りやすさ)について実験した結果を図9及び図10に示す。
図9は、本剤25ccと水75ccを混合した(4倍希釈、濃度25%、液温25℃)の混合封水液10を、−22℃の室内(冷凍室)に放置した場合について実験した結果である。
図10は、本剤50ccと水50ccを混合した(2倍希釈、濃度50%、液温25℃)の混合封水液10を、−22℃の室内に放置した場合について実験した結果である。なお、横軸は時間(分)を、縦軸は温度(℃)を示す。
【0024】
図9及び図10から明らかなように、開始50分を越えたあたりから、温度の低下が緩やかになっていることがわかる。その後、図9の実施例(実験例)では、凝固する(−11.2℃)まで、160分かかった。図10の実施例(実験例)では、凝固する(−18.3℃)まで、260分かかった。
このように、本剤の濃度が濃い方が、凝固点が低く、また、凝固するまでの時間を長くするような(凍結までの時間を遅らせるような)凍結抑制作用が得られることから、本発明が優れた凍結抑制作用効果を有することは明らかである。
なお、季節や排水トラップT,T´の形状や大きさによって、多少、凍結性に差を生ずる。
【0025】
なお、本発明の蒸気圧低下剤5をトイレの便器内に投入使用しても良い。また、成分として、除菌剤を僅かに含有させておくも自由である。また、セントラルヒーティング用の冷媒(水)に使用するも良い。
【0026】
以上述べたように、本発明の蒸気圧低下剤は、尿素と、界面活性剤と、精製グリセロールと、水又はアルカリ還元水と、を有するので、自然界へ与える影響も少なく安全で、寒冷地に於て、凍結せず、安心して使用できる。さらに、蒸発しにくく長期間にわたって渇水せず、例えば、10ヶ月に1度の補給で十分である。さらに、トラップ等に投入すると、簡単かつ自然に、封水Wと混合する。また、セントラルヒーティングの冷媒(水)やその他の凍結防止用に本発明を広く利用でき、寒冷地での広い用途に適用できる。
【0027】
また、尿素を5〜20重量%、界面活性剤を0.1〜5重量%、精製グリセロールを10〜80重量%、残りを主として水又はアルカリ還元水としたので、自然界へ与える影響も少なく、十分に蒸気圧が低下し、寒冷地に於て、凍結せず、安心して使用できる。
さらに、蒸発しにくく長期間にわたって渇水せず、例えば、10ヶ月に1度の補給で十分である。さらに、排水トラップT,T´等に投入すると、簡単かつ自然に、封水Wと混合する。しかも、引火の危険性もなく、排水トラップT,T´の下部へ沈澱することもなく、凝固物も生じにくい。特に、−35℃程度にもなる寒冷地にも適用可能となる。
【0028】
また、精製グリセロールは、エタノールと油脂と水と炭化物を有する廃グリセロールを蒸留精製したものであるので、現在、多量の処理に困っている廃グリセロールを有効に再利用できる利点がある。
【符号の説明】
【0029】
2 排水管
5 蒸気圧低下剤
10 混合封水液
W 封水
T U字型の排水トラップ
T´ 釣鐘型の排水トラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素と、界面活性剤と、精製グリセロールと、水又はアルカリ還元水と、を有することを特徴とする蒸気圧低下剤。
【請求項2】
上記尿素を5〜20重量%、界面活性剤を0.1〜5重量%、上記精製グリセロールを10〜80重量%、残りを主として水又はアルカリ還元水とした請求項1記載の蒸気圧低下剤。
【請求項3】
上記精製グリセロールは、エタノールと油脂と水と炭化物を有する廃グリセロールを蒸留精製したものである請求項1又は2記載の蒸気圧低下剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−67990(P2013−67990A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206982(P2011−206982)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【特許番号】特許第5032695号(P5032695)
【特許公報発行日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(506210059)大伍貿易株式会社 (5)
【Fターム(参考)】