説明

水中ロボット

【課題】
液体が流れる管路内を移動し、管路の異常を検知するための水中ロボットにおいて、水中ロボットの対地速度の正確な計測が可能な水中ロボットを提供する。
【解決手段】
水中ロボット1が、発光素子3、受光素子4及び演算装置で構成した光ドップラセンサ2を有しており、発光素子3が一定間隔で点滅してパルス波を出力し、受光素子4が管路30の内壁を反射したパルス波を受光し、発光素子3で発光したパルス波の点滅間隔と、受光素子4で受光したパルス波の点滅間隔から、演算装置が水中ロボット1の管路30の内壁に対する移動速度を算出するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の流れる管路(水道管の配管等及び暗渠等)の内部を移動し、この管路に生じた亀裂等の異常を検知するための管路内点検用水中ロボットに関するものである。特に、地中に埋設した水道管等の埋設管を検査するための水中ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、既存の建造物を有効に活用し、長寿命化を図る体系的な手法であるストックマネジメントが、盛んにうたわれるようになっている。例えば、水道管、工業用水路、農業用水路等の埋設管又は暗渠等を、定期的に点検し、修理等を行い、長期に渡り維持管理することが求められている。特に、水道管等の埋設管は、劣化に伴い亀裂等が発生し、漏水等の問題を引き起こすことがあるため、定期的な点検が必要である。
【0003】
この水道管等の点検を行う際、特に流量の大きい水道管である場合は、断水による影響が大きい。そのため、断水せずに水道管の点検が可能な、水中ロボットによる点検作業が行われている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
図5に、水中ロボットを利用した水道管の点検作業の概略を示す。水中ロボット1Xは、複合ケーブル21を介してモニタ20に接続している。このモニタ20は、水中ロボット用のコントローラ22と、電源23を有している。この水中ロボット1Xは、前方に前方カメラを、側方に側方カメラを有している。なお、30は管路、31は地表面、32は投入口を示している。
【0005】
次に、この水中ロボット1Xを使用した管路30の点検作業について説明する。まず、オペレータが、水中ロボット1Xを投入口32から管路30(例えば水道管)内に投入する。この水中ロボット1Xは、管路30内の内壁の状態を側面カメラ(ビデオカメラ)で録画しながら、下流方向(図5右方)に移動していく。オペレータは、一定区間の点検が終了したら、水中ロボット1Xを回収し、他の投入口に移動する。
【0006】
以上を繰り返して、管路30の内壁の画像を収集する。その後、この画像を確認し、亀裂等の異常が発生している場所を特定する。この異常が発生している場所を掘り返し、水道管等の管路30の交換作業を行う。上記の構成により、管路30を流れる液体の流れを止めることなく、管路30の点検作業を行うことができる。
【0007】
しかしながら、上記の構成は、水道管等の管路30で異常が発生している場所を特定する際、この位置を特定する精度が低いという問題を有している。具体的には、側面カメラ(ビデオカメラ)で撮影した亀裂等と、ビデオのタイムカウンター又は別途記録をしておいた複合ケーブル21の送り量等から、水中ロボット1Xの位置即ち亀裂等の位置を大雑把に把握し、その周辺の管路を掘り起こす。この亀裂等の位置を特定する精度が低いため、地表面31を掘り起こす区間が広くなり、交通規制等が必要となる。更に、掘り起こす作業に多大なコストがかかるという問題が発生する。
【0008】
他方で、海底等を探査する水中ロボットでは、この水中ロボットの対地速度を測定するために、ドップラ式超音波速度計が使用されている(例えば特許文献2参照)。このドップラ式超音波速度計は、超音波を発信する発信機と、受信する受信機を有している。この速度計は、発信機から発信した超音波の周波数と、海底を反射して受信機に到達した超音波の周波数を比較し、水中ロボットの対地速度を測定する。このドップラ式超音波速度計
を、前述の水道管点検用の水中ロボット1Xに搭載し、水中ロボット1Xの対地速度を測定し、水中ロボット1Xの位置を特定する精度を向上することが考えられる。
【0009】
しかしながら、ドップラ式超音波速度計を搭載した水中ロボットは、いくつかの問題点を有している。第1に、ドップラ式超音波速度計では、管路内点検用の水中ロボットの位置を検出する精度が低いという問題を有している。これは、閉塞領域である管路内や、流体の流れる領域の狭い暗渠内では、超音波のマルチパス(残響音)が多くなり、ドップラ式超音波速度計による対地速度の検出精度が著しく低下するためである。
【0010】
第2に、水中ロボットの小型化が困難となるため、この水中ロボットでは、一定以上の直径を有する管路や暗渠以外では、点検作業ができないという問題を有している。これは、ドップラ式超音波速度計を小型に製造することができないためである。なお、速度計は、発信機及び受信機をセラミック等で作成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−91169号公報
【特許文献2】特許3949932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、液体が流れる管路(暗渠を含む)内を移動し、管路等の異常を検知するための水中ロボットにおいて、水中ロボットの対地速度の正確な計測が可能な水中ロボットを提供することである。また、計測した対地速度に基づき、管路内の水中ロボットの位置を精密に記録し、管路で亀裂等の移動が発生している場所を正確に特定することができる水中ロボットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明に係る水中ロボットは、液体が流れる管路内を移動し、前記管路の異常を検知するための水中ロボットにおいて、前記水中ロボットが、発光素子、受光素子及び演算装置で構成した光ドップラセンサを有しており、前記発光素子が一定間隔で点滅してパルス波を出力し、前記受光素子が前記管路の内壁を反射した前記パルス波を受光し、前記発光素子で発光したパルス波の点滅間隔と、前記受光素子で受光したパルス波の点滅間隔から、前記演算装置が前記水中ロボットの前記管路の内壁に対する移動速度を算出するように構成したことを特徴とする。
【0014】
この構成により、水中ロボットの対地速度を正確に計測することができる。また、計測した対地速度に基づき、管路内の水中ロボットの位置を精密に記録し、管路で亀裂等の移動が発生している場所を正確に特定することができる。そのため、水道管等の管路の点検作業、及びその交換作業を低コストで実施することができる。
【0015】
上記の水中ロボットにおいて、前記水中ロボットが、複数の前記光ドップラセンサを有していることを特徴とする。この構成により、複数の光ドップラセンサで水中ロボットの速度を測定することができるため、測定精度を向上することができる。
【0016】
上記の水中ロボットにおいて、前記水中ロボットが、少なくとも前記水中ロボットの進行方向に対して前方及び後方に前記パルス波を出力するように、前記光ドップラセンサを配置したことを特徴とする。この構成により、管路の長手方向における水中ロボットの移動速度を、高い精度で測定することができる。
【0017】
上記の水中ロボットにおいて、前記水中ロボットが、前記水中ロボットの進行方向に対して側方に前記パルス波を出力するように、前記光ドップラセンサを配置したことを特徴とする。この構成により、水中ロボットが管路内で上下左右方向(管路の軸方向から外れた方向)に移動した場合であっても、この移動を正確に検知することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る水中ロボットによれば、液体が流れる管路内を移動し、管路の異常を検知するための水中ロボットにおいて、水中ロボットの対地速度の正確な計測が可能な水中ロボットを提供することができる。また、計測した対地速度に基づき、管路内の水中ロボットの位置を精密に記録し、管路で亀裂等の移動が発生している場所を正確に特定することができる水中ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る実施の形態の水中ロボットを示した概略図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の水中ロボットの光ドップラセンサの配置を示した概略図である。
【図3】水中ロボットが発光及び受光するパルス波のパターンを示した概略図である。
【図4】本発明に係る異なる実施の形態の光ドップラセンサの配置を示した概略図である。
【図5】従来の水中ロボットの点検作業の様子を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態の水中ロボットについて、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態の水中ロボット1の概略図を示す。水中ロボット1は、発光素子と受光素子と演算装置で構成した光ドップラセンサ2を有している。また、水中ロボット1は、前方の画像を取得する前方カメラ11と、管路30(暗渠を含む)の内壁の画像を取得する側方カメラ12及びその照明13と、姿勢制御のための複数のスラスタ14を有している。ここで、Pは、水中ロボット1の前方(図1右方)に対して照射及び反射する光パルス波の経路を示している。同様にPは水中ロボット1の側方、Pは後方に対して照射及び反射する光パルス波の経路を示している。なお、水中ロボット1は、例えば直径が0.5〜10.0cm程度、全長が4〜80cm程度である。また、水中ロボット1の対地速度は、例えば0.5〜10.0m/sec程度である。
【0021】
図2Aに、光ドップラセンサ2の配置の1例を示す。図2Bに、光ドップラセンサ2の配置の平面図を示す。なお、図2の右方が、水中ロボット1の前方となるように示している。この光ドップラセンサ2は、発光素子3及び受光素子4を有しており、水中ロボット1の進行方向に対して前方、後方及び側方に、光パルスPを照射できるように配置している。この光パルスPは、発光素子3の明滅により実現している。ここで、発光素子3は、例えばLED、高輝度LED、レーザダイオード等を使用することができる。また、受光素子4は、フォトトランジスタ等を使用し、検波回路と周波数カウンタを組み込んで構成することができる。
【0022】
なお、光ドップラセンサ2を構成する演算装置(図示しない)は、水中ロボット1内、又はモニタ20等に設置することができる。また、光ドップラセンサ2は、透明な耐圧容器内に設置することが望ましい。この構成により、水中ロボット1は、高圧となる管路内であっても、点検作業を行うことができる。
【0023】
次に、水中ロボット1の管路30の点検作業について図1を参照して説明する。オペレ
ータにより管路30に投入された水中ロボット1は、光ドップラセンサ2で光パルス(P、P、P)の発光及び受光を開始する。この光ドップラセンサ2は、管路30に対する水中ロボット1の速度を計測することができる。同時に、水中ロボット1は、側面カメラ12で管路30の内壁の映像の取得を開始する。オペレータは、前方カメラ11の画像をモニタ20(図5参照)で見ながら、コントローラ22で水中ロボット1を操作し、水中ロボット1を管路30内で前進させる。以上により、管路30の内壁の画像、及び管路30における水中ロボット1の位置情報を取得し、蓄積していく。
【0024】
次に、光ドップラセンサ2による水中ロボット1の対地速度(管路30に対する速度)の測定方法を、図3を参照して説明する。図3Aに、光ドップラセンサ2の発光素子3から発光する光パルス波のパターンの1例を示す。例えば、水中ロボット1が管路30に対して停止している場合、光ドップラセンサ2の受光素子4は、図3Aに示す照射光パルス波と等しい波長λを有するパルス波を受光する。
【0025】
また、水中ロボット1が管路30に対して移動している場合、水中ロボット1の進行方向前方に図3Aに示すパターンの光パルスPを照射すると、受光素子4は、図3Bに例を示すようなパターンのパルス波を受光する。この図3Bに示すパルス波は、照射光パルス波の波長λに比べ、短い波長λを有している。これはドップラ効果によるものである。
【0026】
同様に、水中ロボット1の進行方向後方に光パルスPを照射すると、図3Cに例を示すようなパターンのパルス波を受光する。この図3Cに示すパルス波は、照射パルス波の波長λに比べ、長い波長λ2を有している。これもドップラ効果によるものである。
【0027】
他方で、水中ロボット1の進行方向側方に光パルスPを照射すると、水中ロボット1が管路30から離れる方向に移動している場合は、照射パルス波の波長λに比べ、長い波長を有するパルス波を受光する。同様に、水中ロボット1が管路30に接近する方向に移動している場合は、照射パルス波の波長λに比べ、短い波長を有するパルス波を受光する。
【0028】
具体的には、下記に示す音波のドップラ効果の式(数1)から、水中ロボット1の速度を求める式(数2)を導いて使用する。
【0029】
(数1)f=((V−v)/(V−v))×f
ここで、fを観測者に聞こえる周波数、fをもとの音源の周波数、Vを音速、vを観測者の動く速度、vを音源の動く速度とする。上記の式において、水中ロボット1は、発光素子3と受光素子4が相対的には移動しないため、音源の動く速度v=0となる。その上で、水中ロボット1の移動速度vを求める式(数2)は以下のようになる。
【0030】
(数2)v=−λ(f−f
以上のように、発光素子3で出力したパルス波の山と山の間隔、つまり発光から次の発光までの時間的な間隔と、受光素子4で感知した受光から次の受光までの時間的な間隔を比較することで、水中ロボット1の対地速度を計測することができる。なお、発光素子3が照射する照射光パルスの発光の間隔(周波数)は、例えば300〜1200Hz程度であり、従来のドップラ式超音波速度計で発信する超音波と同程度の周波数とすることが望ましい。この間隔は、水中ロボット1の移動速度(移動性能)に応じて、最適な値を選択することができる。
【0031】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、管路内で異常が発生している場所を高い精度で特定することができる。これは、水中ロボット1が光ドップラ
センサ2により、高い精度で対地速度及びその位置を計測することができるためである。従って、水道管等の埋設管の点検を行う場合には、亀裂等の異常が発生している場所を高い精度で把握することができ、水道管を掘り起こすための工事範囲を最小限に定めることができる。
【0032】
第2に、従来のドップラ式超音波速度計で発生していたマルチパス(残響音)の影響がないため、対地速度及び水中ロボット1の位置の計測精度を向上することができる。これは、超音波に代えて、液相中で減衰の多い光を使用するためである。
【0033】
第3に、水中ロボット1の小型化を実現することができる。これにより、直径の小さい管路の検査を行うことが可能となる。これは、ドップラ式超音波速度計に比べ、光ドップラセンサ2は、小型且つ軽量に構成することができるためである。なお、水中ロボット1は、少なくとも1つの光ドップラセンサ2を有していればよい。光ドップラセンサ2の設置個数を増やすと、水中ロボット1の対地速度の計測精度を向上することができる。
【0034】
図4に、光ドップラセンサ2の異なる配置例の平面図を示す。なお、図4の右方が、水中ロボット1の前方となる。この構成により、水中ロボット1の速度を更に正確に測定できるため、管路30内における水中ロボット1の移動軌跡を正確に把握し、記録することができる。特に、水中ロボット1の進行方向に対して前方及び後方に光パルスPを照射する光ドップラセンサ2、2は、水中ロボット1の進行方向の移動速度の測定精度を向上することができる。また、特に、水中ロボット1の側方に光パルスPを照射する光ドップラセンサ2は、水中ロボットの管路内における上下左右方向(管路の軸方向から外れた方向)の移動速度の測定精度を向上することができる。従って、管路30の内壁に発生した亀裂等の異常が発生している位置を正確に把握することができ、水道管等の交換作業を行う場合は、水道管を掘り起こすための工事範囲を最小限に設定することができる。
【0035】
なお、本発明のロボット1は、小型化が可能なため、原子力発電所や製造プラント等の取水管、配管等の他の直径の小さい管路又は暗渠にも使用することができる。また、鉄管等の地磁気が乱れた管路内であっても、水中ロボット1の位置を正確に記録することができる。更に、特許文献2に記載の大型の水中ロボットに、光ドップラセンサ2を搭載した構成により、従来マルチパス(残響音)が多く発生するような暗渠や水路等の管路であっても、大型の水中ロボットの位置を正確に把握しながら点検等を行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1 水中ロボット
2 光ドップラセンサ
3 発光素子
4 受光素子
P、P、P、P 光パルス
30 管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流れる管路内を移動し、前記管路の異常を検知するための水中ロボットにおいて、
前記水中ロボットが、発光素子、受光素子及び演算装置で構成した光ドップラセンサを有しており、
前記発光素子が一定間隔で点滅してパルス波を出力し、前記受光素子が前記管路の内壁を反射した前記パルス波を受光し、前記発光素子で発光したパルス波の点滅間隔と、前記受光素子で受光したパルス波の点滅間隔から、前記演算装置が前記水中ロボットの前記管路の内壁に対する移動速度を算出するように構成したことを特徴とする水中ロボット。
【請求項2】
前記水中ロボットが、複数の前記光ドップラセンサを有していることを特徴とする請求項1に記載の水中ロボット。
【請求項3】
前記水中ロボットが、少なくとも前記水中ロボットの進行方向に対して前方及び後方に前記パルス波を出力するように、前記光ドップラセンサを配置したことを特徴とする請求項2に記載の水中ロボット。
【請求項4】
前記水中ロボットが、前記水中ロボットの進行方向に対して側方に前記パルス波を出力するように、前記光ドップラセンサを配置したことを特徴とする請求項3に記載の水中ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132762(P2012−132762A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284419(P2010−284419)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)