説明

水中植物の植付方法及び水中植物体

【課題】流木、石、木炭などの対象物に、水中植物を挿し込んで植え付けるだけの簡単な方法で移植できる技術の提供を目的とする。
【解決手段】流木や木炭などの対象物凹部を穿設し、これにゲル状のシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料を流し込む。そして、茎の途中を切断し、残った水中植物の茎の部分を前記樹脂材料に挿し込んで当該樹脂材料の表面から僅かに茎の一部が露出するように植え付ける。
しかる後は、これを水中に2日程度浸漬し、シリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料に含まれるなどの水中生物にとって有害な弱毒性物質を溶出させる。最後に、水を入れ替えるか又は新しい水槽へ移植した水中植物を流木ごと移し、茎と葉の境界部分からの発根を待てばよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水草や苔類などの水中植物をシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料を用いて流木、樹木、板、石、炭などの任意の対象物に対して簡単に植え付けることのできる植え付け方法及びこの方法により水中植物を植え付けた主に鑑賞を目的とする製品に関するものである。
なお、本発明において、「シリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料」とは、接着剤としての機能又は充填材としての機能のいずれか一方を有する樹脂材料であってもよく、または両方の機能を兼ね備える樹脂材料であってもよく、これらの材料の全体を総称する意味で使用するものとする。
【背景技術】
【0002】
従来において、水草や苔類などの水中植物を流木、樹木、板、石などの任意の対象物に対して植え付ける場合は、先ず、水中植物の茎の部分を任意の大きさに切断したり、株分けし、その茎の部分や発芽しない部分に糸や紐、輪ゴムなどでぐるぐる巻きにして対象物へ固定していた。そして、固定用の糸や紐、輪ゴムなどを付けたまま製品として出荷していた。これは、水中植物を育成槽などの水中に浸漬し、水中植物の再生力による発根を促し、根が成長して流木、板、石などの任意の対象物に巻き付いて離れない状態になるのを待っていたのでは、三ヶ月程かかるからであり、半製品を大量にストックしなければならなくなるからである。
【0003】
また従来の先行技術として、特許文献1及び特許文献2に記載されたものが公知である。この特許文献1の技術は、水草が堆積して腐葉土となったピートモスを塊状に形成して基体を形成し、この基体上に水草の茎の部分を切断した有茎草又は根生草をナイロン製の黒い撚り糸からなる細紐体の固定具でぐるぐる巻きにして網状に縛って固定するようにしている。そして、これに光を当て、朝夕散水して水分を供給し、育成するようにしている。これにより、特許文献1の技術では、水草は季節に応じて三週間〜七週間で出荷に適する程度に成長するようになる。
【0004】
一方、特許文献2に記載された技術は、脚体と基盤シートと押えシートとで草体移植具を構成している。脚体として生分解性材料によって形成した筒状材を採用し、対向する一対の脚体間に生分解性の基盤シートを掛け渡している。これらの部材からなる草体移植具は、脚体の両端を水底に打ち込んで、水草や海草の群落近くに設置して利用される。そして、基盤シート上に草体を付着させ、押えシートで押えて草体の成長を待つようにしている。やがて草体の地下茎が基盤シート上に伸びていき、成長するようになる。このように、特許文献2の技術は、草体移植具を、群落の少ない場所に設置して草体を移植することで、自然環境の改善を図るようにするものである。また脚体や基盤シートに生分解性材料を用いるようにすることで、これらの材料が環境に影響を及ぼさないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−113567号公報
【特許文献2】特開2008−148575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の最も一般的な水中植物の植付技術においては、水中植物を流木、板、石などの対象物へ固定する手段として、最も原始的な方法である糸や紐、輪ゴムなどでぐるぐる巻きにする手法を採用している。そのため、発根して更に根が成長し、商品として出荷に適するようになるまでの長期間、糸や紐、輪ゴムなどが外部に露呈した状態となり、見栄えが悪く、商品価値が低下するという問題があった。また糸や紐、輪ゴムなどを対象物に巻き回して結束する作業が必要であり、葉を傷めないように慎重に行わなければならず、かなり面倒な作業であった。しかも、根が成長した後は、これらの糸や紐、輪ゴムなどを取り外さなければならず、面倒な作業を二度にわたって行わなければならないという問題があった。更に、糸や紐、輪ゴムなどが巻き回されている間に、商品として出荷すると、その商品の購入者は発根した根が十分に成長して糸や紐、輪ゴムなどを取り外すまで、糸や紐、輪ゴムなどを見続けることになり、その為商品価値は極めて低くなるという欠点があった。
【0007】
また前記特許文献1の技術にあっては、水草や苔類などの水中植物を固定する対象物がピートモスであるという点を除いては、基本的に前記従来の一般的な植え付け技術と同じ問題点があった。すなわち、塊状のピートモス基体上に茎の部分を切断した有茎草又は根生草をナイロン製の黒い撚り糸からなる細紐体の固定具でぐるぐる巻きにして網状に縛って固定しており、細紐体を巻き回す面倒な作業が必須であり、根が成長するまで待たずに商品を出荷するという問題があった。
しかも、この特許文献1の植え付け技術では、ピートモス基体がボール状などの塊であるため、商品形状がこれらの形状に限定され、流木に水草が自生したような自然な状態の環境を意図的に構築できないという問題があった。
【0008】
また特許文献2の技術にあっては、草体移植具を、水草や海草の群落の少ない場所に設置して群落を再生しようとするものであり、草体移植具はシート状のかなりの広範なものであって、水槽などへ設置して観賞用にするなどの家庭的なものではなかった。また基盤シートにデンプン糊などの固着剤で草体を仮固着し、更にネット状の押えシートで草体が剥離しないようにする必要があり、前記従来技術と同様の面倒な固定作業が必要であった。
【0009】
本発明は従来の前記課題に鑑みてこれを改良除去したものであって、流木、石、木炭などの対象物に、有害物質を溶出させたシリコンなどの接着及び充填樹脂を介して水中植物を挿し込んで植え付けるだけの簡単な方法で発根及び生育させることのできる技術を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
而して、前記課題を解決するために本発明が採用した請求項1の手段は、流木、石、木炭などの任意の対象物にシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料を所要厚み分だけ塗布又は流し込み、茎の途中を切断して根元側の部分を切除し、残った水中植物の茎の部分を前記シリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料に挿し込んで当該樹脂材料の表面から僅かに茎の一部が露出するように植え付け、これを水中に数日間浸漬して前記樹脂材料に含まれるメチルエチルケトオキシム(MEKO)などの水中生物にとって有害な弱毒性物質を溶出させ、その後、水を入れ替えるなどの新しい水中でシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料の表面と水中植物の葉の付け根部分との間の茎から発根させるようにしたことを特徴とする水中植物の植付方法である。
【0011】
本発明が採用した請求項2の手段は、流木、石、木炭などの任意の対象物にシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料を所要厚み分だけ塗布又は流し込み、茎の途中を切断して根元側の部分を切除し、残った水中植物の茎の部分を前記シリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料に挿し込んで当該樹脂材料の表面から僅かに茎の一部が露出するように植え付け、前記樹脂材料の表面と水中植物の葉の付け根部分との間の茎から発根させたことを特徴とする水中植物体である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明にあっては、水中植物を移植する対象物が流木や木炭などであれば、流木や木炭などにドリルなどで直径5mm、深さ1cm〜2cm程度の凹部を穿設し、これにゲル状のシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料を流し込む。対象物が孔加工の難しい石などであれば、その表面に所要厚みだけ、シリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料を盛り付けて塗布すればよい。そして、茎の途中を切断して根元側の部分を切除し、残った水中植物の茎の部分を前記樹脂材料に挿し込んで当該樹脂材料の表面から僅かに茎の一部が露出するように植え付ければよい。茎を切断するのは、植物の再生作用を促すためである。
しかる後は、これを水中に2日程度浸漬し、樹脂材料に含まれるメチルエチルケトオキシム(MEKO)などの水中生物にとって有害な弱毒性物質を溶出させている。最後に、水を入れ替えるか又は新しい水槽へ移植した水中植物を流木ごと移し、発根を待てばよい。おおよそ一週間程度で発根が始まるようになる。
【0013】
このように、請求項1の発明にあっては、シリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料へ切断した水中植物を挿し込むだけで発根ができるように移植することができ、その作業は極めて簡単である。またシリコンン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料の弱毒性物質を溶出させた後は、直ぐに商品として出荷することも可能であり、出荷するまでの日数も極めて短期間となり、生産性においても優れている。
【0014】
請求項2の発明にあっては、前記請求項1の方法発明により製造した水中植物体であり、糸や紐、輪ゴムなどの水中植物を対象物へ縛って固着する固定具が不要であるため、極めて見栄えがよく、商品価値の高いものとなる。また鑑賞用の水中植物を観賞用に適した流木などへ外部へ露呈する固定具無しで移植したものであって、全く自然な状態で流木から水中植物が自生したように見せることができる。更には、流木を重ねて配置したり、三次元的なディスプレイが行え、鑑賞用及び装飾用としての商品価値も高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る水中植物体を示す正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る水中植物体の製造工程示すものであり、同図の図(A)は流木に凹部を穿設してシリコン樹脂を流し込んだ状態を示す縦断面図、図(B)はシリコン樹脂に茎を挿し込んだ状態を示す縦断面図、図(C)は茎と葉の付け根から発根した状態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の別の実施の形態に係るものであり、苔類の水中植物を流木へ移植した場合の水中植物体を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて説明すると次の通りである。図1は流木1に有茎体の水草2を移植した水中植物体3を示す正面図である。この実施の形態では、河川などで大量に漂着している流木を拾い集め、家庭用の水槽などへ入れて鑑賞するに適した大きさのものを使用するようにしている。長い場合は、適宜の寸法に切断して用いればよい。また山や公園などの森林地帯の倒木の一部を利用するようにしてもよく、木の枝を利用するようにしてもよい。
【0017】
水中植物体3の製造方法は、図2の図(A)〜図(C)に示す通りである。先ず、同図の図(A)に示すように、流木1の水草2を移植したい箇所に直径5mm程度で、深さが1cm〜2cm程度の凹部4を穿設する。そして、当該凹部4にゲル状のシリコン樹脂5を流し込んでおく。一方、茎6の途中を切断して根本がわの茎を廃棄した水草2を準備する。続いて、同図の図(B)に示すように、水草2に残った茎6の略全体が凹部4内のシリコン樹脂5に埋まるように茎6の部分を差し込み、茎6のほんの一部のみがシリコン樹脂5の表面から外部へ露呈するようにする。同様にして、流木の複数箇所に水草2を植え付ける。これにより、シリコン樹脂5の接着作用によりシリコン樹脂が流木1の凹部2の内面へ強固に付着し、また水草2はその埋め込まれた茎6の部分が強固にシリコン樹脂5に付着して容易に逸脱しないようになる。
【0018】
しかる後は、水草2と流木1の全体を水中へ浸漬し、2日程度放置する。これにより、シリコン樹脂の製造時に添加されたメチルエチルケトオキシム(MEKO)などの水中生物にとって有害な弱毒性物質が自然的に水中へ溶出するようになる。そのため、水草2と流木1の全体を観賞用の魚介類などの生物がいる水槽へ投入したとしても、シリコン樹脂から弱毒性の有害成分が溶出して魚や貝類などの生物に悪影響を与えるということがない。
【0019】
このようにして、シリコン樹脂に含まれる弱毒性物質を溶出させた後は、水を入れ替えるか水草2と流木1の全体を新しい水槽へ移し替えればよい。それから一週間ほど経過すると、シリコン樹脂5の表面から外部へ露呈する茎6と葉7の付け根の境界部分から発根が始まるようになる。発根した根8は、三か月もすれば流木1に巻き付くようになり、安定する。水草2は、葉7から水中の養分を取り込んで成長する。一方、シリコン樹脂に埋め込まれた水草2の茎6の部分は活きたままの状態を維持し、シリコン樹脂5にしっかりと保持され、逸脱するなどのことはない。
なお、シリコン樹脂5にオーキシンの養分を配合し、水草2の成長を更に促進させるようにすることも可能である。オーキシンの濃度は、水草2の種類によって多少異なるが、20ppm程度であればよい。
【0020】
このようにこの実施の形態によれば、流木1に凹部4を設けてシリコン樹脂5を流し込み、これに切断した水草2の茎6の部分を挿し込むだけでよく、水草2の固着作業は極めて簡単である。また2日間程度水に浸漬してシリコン樹脂5の弱毒性物質を溶出させた後は、発根が生じなくても商品として出荷することが可能であり、商品製造の期間を大幅に短縮することができ、生産効率に優れているという特徴がある。
【0021】
図3は、水草2として苔類を採用した場合の実施の形態を示すものである。この水中植物体10は、流木1の表面に所要厚み分だけシリコン樹脂5を塗布して盛り付け、該シリコン樹脂5の膨隆部9に苔類の茎の部分を一部切断し、残った茎の部分を挿し込めばよい。他の基本的な移植に関する手段は、前記図1及び図2の実施の形態の場合と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0022】
ところで、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、適宜の変更が可能である。例えば、水草を移植する対象物は流木以外にも、石、合成樹脂のチップ、金属片などであってもよい。
また木炭に凹部を形成し、該凹部にシリコン樹脂を流し込んでこれに茎の一部を切断した水草の茎の部分を挿し込んで移植することも可能である。この場合は、木炭自体の浄化作用により、水槽内の水が浄化されるという効果もある。
更には、水槽の壁面に取り外し自在に密着することのできる吸盤の反対側へシリコン樹脂を介して水草を移植させ、任意の壁面の位置に水草を成長させることも可能である。
更にまた、樹脂材料としてシリコン樹脂の場合を説明したが、樹脂材料は接着剤としての機能又は充填材としての機能を有するものであってもよく、両方の機能を併せ持つ樹脂材料であってもよい。
【符号の説明】
【0023】
1…流木
2…水草
3…水中植物体
4…凹部
5…シリコン樹脂
6…茎
7…葉
8…成長した根
9…膨隆部
10…水中植物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流木、石、木炭などの任意の対象物にシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料を所要厚み分だけ塗布又は流し込み、茎の途中を切断して根元側の部分を切除し、残った水中植物の茎の部分を前記シリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料に挿し込んで当該樹脂材料の表面から僅かに茎の一部が露出するように植え付け、これを水中に数日間浸漬して前記樹脂材料に含まれるメチルエチルケトオキシム(MEKO)などの水中生物にとって有害な弱毒性物質を溶出させ、その後、水を入れ替えるなどの新しい水中でシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料の表面と水中植物の葉の付け根部分との間の茎から発根させるようにしたことを特徴とする水中植物の植付方法。
【請求項2】
流木、石、木炭などの任意の対象物にシリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料を所要厚み分だけ塗布又は流し込み、茎の途中を切断して根元側の部分を切除し、残った水中植物の茎の部分を前記シリコン樹脂等の接着機能又は充填機能を有する樹脂材料に挿し込んで当該樹脂材料の表面から僅かに茎の一部が露出するように植え付け、前記樹脂材料の表面と水中植物の葉の付け根部分との間の茎から発根させたことを特徴とする水中植物体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−87559(P2011−87559A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259326(P2009−259326)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(508230363)
【出願人】(509313566)
【Fターム(参考)】