水処理システム及び水処理方法
【課題】水処理システムのエネルギー効率を高め、安定した温度制御を行う。
【解決手段】水処理システムは、複数の装置1,2,3,4と、互いに隣接する複数の装置同士を接続する複数の配管区間11,12と、少なくとも1つの配管区間11を吸熱配管区間として吸熱配管区間から吸熱し、吸熱配管区間11から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の配管区間12を排熱配管区間として、排熱配管区間に排熱するヒートポンプ21と、を有している。
【解決手段】水処理システムは、複数の装置1,2,3,4と、互いに隣接する複数の装置同士を接続する複数の配管区間11,12と、少なくとも1つの配管区間11を吸熱配管区間として吸熱配管区間から吸熱し、吸熱配管区間11から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の配管区間12を排熱配管区間として、排熱配管区間に排熱するヒートポンプ21と、を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システム及び水処理方法に関し、特にエネルギー消費の少ない水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
純水製造システム等の水処理システムは、水処理のための様々な装置が配管で結ばれて構成されている。これらの装置の例として、イオン交換装置、逆浸透膜(RO膜)装置、ろ過装置などがある。各装置は性能(不純物の除去特性等)を最大限に発揮させるために、最適な水温の範囲を有している。一方、ユースポイント(使用点)では、例えば25℃、60℃、80℃等の様々な温度が要求されることがある。また、循環運転を行う部位では、循環運転に伴うポンプからの入熱などによって循環水の温度が上昇しやすくなる。このように、水処理システムでは、装置の温度要求、システム要求、システム構成などの様々な要因のために、システム内の様々な個所で温度調整を行う必要がある。
【0003】
特許文献1には超純水の製造装置が開示されている。原水槽から供給された原水は脱気槽やRO膜装置で処理され、後工程に送られる。RO膜装置における逆浸透膜の標準設計温度は25℃であるため、RO膜装置の入口点における処理水の温度をこの温度に調整するため、原水槽と脱気槽の間にいくつかの熱交換器が設置されている。
【0004】
特許文献2には、熱交換のために、ヒートポンプを水処理システムに用いた例が開示されている。ヒートポンプは、エネルギー効率の高い熱交換システムとして知られている。ヒートポンプは外部熱源から熱を奪い、奪った熱を加熱対象部位に供給し、あるいは冷却対象部位から熱を奪い、奪った熱を外部に放出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−183800号公報
【特許文献2】特開2002−16036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、水処理システム内を流通する被処理水等の温度調整を行う場合、冷却塔やボイラなどの設備を設けることが一般的であった。しかし、このようなシステム構成は、エネルギーの利用効率、ひいては二酸化炭素排出量等の環境負荷の面で以下の問題があった。
【0007】
すなわち、加熱及び冷却のためのエネルギーは、加熱や冷却の対象部位で個々に投入されている。例えば、加熱のためにボイラを使用する場合には、ボイラに投入された熱エネルギーによって、加熱対象部位よりも高温の温水や蒸気が製造され、温水や蒸気の持つ熱が加熱対象部位に加えられる。冷却のために冷却塔を使用する場合には、冷却対象部位よりも低温の冷却水が製造され、冷却対象部位から熱が奪われる。温度調整に必要な全エネルギーは加熱及び冷却の各対象部位で必要となるエネルギーの総和となる。
【0008】
水処理システムにおいて、冷却対象部位から奪われた熱を、加熱対象部位に加えられる熱として利用することは一般に困難である。勿論、このようなプロセスを熱交換器によって実現できる場合もあるが、そのためには冷却対象部位が高温側、加熱対象部位が低温側となっている必要があり、しかも高温側と低温側とで相当の温度差がないと効率的な熱移動はできない。水処理システムの場合、多くの部位は常温に近い温度に制御されており、大きな温度差はなく、また冷却対象部位が高温側、加熱対象部位が低温側という関係が必ずしも成立しているわけではないため、熱交換器を効率的に使用できる部位は限られている。
【0009】
ヒートポンプは、熱交換器と異なり、低温の熱源から高温の熱源に熱を移動することができる。しかし、ヒートポンプは、外部の温度条件によって性能が大きく変動する。例えば、低温度の空気から吸熱する場合には吸熱効率が大きく低下する。このように、ヒートポンプは外部温度によって影響を受けやすく、水処理システム内の水温を安定的に制御することは困難であった。ヒートポンプに過剰な容量を持たせれば外部温度条件の変動による影響を緩和することはできるが、コストに多大の影響が生じる
本発明はこのような課題に鑑みてなされ、エネルギー効率が高く、しかも安定した温度制御が可能な水処理システム及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水処理システムは、複数の装置と、互いに隣接する複数の装置同士を接続する複数の配管区間と、少なくとも1つの配管区間を吸熱配管区間としてこの吸熱配管区間から吸熱し、この吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の配管区間を排熱配管区間として、この排熱配管区間に排熱するヒートポンプと、を有している。
【0011】
ヒートポンプは吸熱対象部位で熱を奪い、その熱を排熱対象部位まで移動させることができる。従って、水処理システム内に吸熱(冷却)が必要な部位(吸熱配管区間)と排熱(加熱)が必要な部位(排熱配管区間)とがある場合に、ヒートポンプを用いて、吸熱配管区間から排熱配管区間への熱移動を行うことが可能となる。冷却のために棄てた熱を別の部位の加熱に利用することができるため、エネルギー効率が著しく高められる。
【0012】
また、吸熱配管区間と排熱配管区間は各々が温度調整部位であると同時に、安定した熱源でもある。すなわち、前述のように吸熱または排熱の一方を外部熱源を用いて行う場合、ヒートポンプ性能は外部熱源の温度変動による影響を受けやすかった。外部の空気を熱源として利用する場合、外気温が低いと吸熱しにくくなりヒートポンプ性能が低下する。地下水や海水を熱源として用いる場合も空気ほどの温度変動は生じないが、同様の問題が生じる。これに対して本発明の場合、水温が制御された水処理システム内の配管区間を熱源(吸熱配管区間または排熱配管区間)として用いているため、熱源の温度変動がほとんど生じない。このため、ヒートポンプ性能が外気温や海水温度などの外部環境に左右されにくく、良好なヒートポンプ性能を安定して維持することが可能となる。なお、空気を熱源としたヒートポンプの場合、外気温が0℃付近まで下がると霜取りが必要となり、地下水や海水を熱源としたヒートポンプの場合、排水の処理や腐食対策が必要となる。本発明はこのような問題も発生しない。
【0013】
本発明の他の実施態様によれば、複数の装置と、互いに隣接する複数の装置同士を接続する複数の配管区間と、を有する水処理システムを用いた水処理方法が提供される。この方法は、ヒートポンプによって、少なくとも1つの配管区間を吸熱配管区間として吸熱配管区間から吸熱し、吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の配管区間を排熱配管区間として排熱配管区間に排熱することを含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、エネルギー効率が高く、しかも安定した温度制御が可能な水処理システム及び水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の水処理システムの、基本的な実施形態を示す概念図である。
【図2】本発明の水処理システムの、中間ループを設けた実施形態を示す概念図である。
【図3】本発明の水処理システムの、複数の排熱配管区間が設けられた実施形態を示す概念図である。
【図4】本発明の水処理システムの、複数の吸熱及び排熱配管区間が設けられた実施形態を示す概念図である。
【図5】本発明の水処理システムの、補助加熱手段が設けられた実施形態を示す概念図である。
【図6】本発明の水処理システムの、第2のヒートポンプが設けられた実施形態を示す概念図である。
【図7】本発明の水処理システムの、熱電子式ヒートポンプを用いた実施形態を示す概念図である。
【図8】水処理システムの構成の一例を示す概略図である。
【図9】水処理システムの構成の他の例を示す概略図である。
【図10】水処理システムの熱水殺菌時のライン構成を示す概略図である。
【図11】実施例及び参考例の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜7を参照して、本発明の水処理システムに係るいくつかの実施形態について説明する。これらの図は水処理システムを構成する様々な装置のうち、各実施形態に関連する部分だけを抽出して示すものである。実際の水処理システムの例は後述する。
【0017】
図1には、互いに隣接する第1及び第2の装置1,2と、これらを接続する第1の配管11と、が示されている。これらの装置1,2及び配管11には第1の装置1から第2の装置2に向けて、図中右向きに流体(被処理水)が流通している。同様に、図1には、互いに隣接する第3及び第4の装置3,4と、これらを接続する第2の配管12と、が示されている。これらの装置3,4及び配管12にも、第3の装置3から第4の装置4に向けて、図中右向きに流体(被処理水)が流通している。第1〜第4の装置1〜4はどのようなものであっても構わない。
【0018】
本実施形態では第1の配管11から吸熱し(符号QC1で示す。)、第2の配管12に排熱される(同じく、符号QH1で示す。)。このような状況は、例えば第1の装置1の出口点水温が第2の装置2の入口点における要求水温よりも高く、被処理水を冷却することが必要であり、かつ第3の装置3の出口点水温が第4の装置4の入口点における要求水温よりも低く、被処理水を加熱することが必要である場合に生じる。一例として、前述のようにRO膜装置は逆浸透膜の標準設計温度が25℃であるが、入口点における水温がこれより高い場合、RO膜装置に入る前に被処理水を冷却する必要がある。なお、本明細書では排熱の際のロスは無視しており、吸熱がそのまま100%排熱されると仮定しているが、実際には吸熱量と排熱量は一致していないことに留意されたい。
【0019】
この目的のため、水処理システムには第1の配管11(吸熱配管区間)から吸熱し、第2の配管12(排熱配管区間)に排熱するヒートポンプ21が設けられている。ヒートポンプ21は本実施形態では蒸気圧縮式を用いている。具体的には、ヒートポンプ21は、アンモニア、二炭化炭素などの冷媒を蒸発させる蒸発器22と、冷媒を圧縮するコンプレッサ23と、冷媒を凝縮させる凝縮器24と、冷媒を膨張させる膨張弁25、とを備え、これらの要素22〜25がこの順で閉ループ26上に配置されている。従って、冷媒は、閉ループ26内を循環しながら、蒸発、圧縮、凝縮、膨張の熱サイクルを受けることになる。蒸発器22に隣接して第1の配管11が位置しており、冷媒が蒸発した際の気化熱によって、第1の配管11を流れる流体から熱が奪われる(なお、各図において、波線は熱交換が行わる部位であることを示す。)。蒸発した冷媒はコンプレッサ23で圧縮され、高温高圧の気体となる。冷媒は次に凝縮器24に送られ、周囲に熱を放出して凝縮する。凝縮器24に隣接して第2の配管12が位置しており、凝縮の際に放出された凝縮熱が第2の配管12を流れる流体に与えられる。凝縮した冷媒は膨張弁25を通って減圧冷却される。このようにしてヒートポンプ21の1サイクルの運転の間に、吸熱配管区間11からの吸熱と、排熱配管区間12への排熱が行われる。
【0020】
ヒートポンプ21を用いることによって、第1の配管11から奪われた熱の少なくとも一部を第2の配管12に与えることができる。このため、奪われた熱を棄てる必要がなく、第2の配管12に供給する熱を別の装置(ボイラ等)で発生させる必要もない。しかも、ヒートポンプ21は一般に成績係数(加熱または冷却の能力をQ、このQを得るために消費した電力Lとしたときに、Q/Lで定義される。)が3〜5の付近にあり、必要な電気エネルギーが、発生させる熱エネルギーと比べてはるかに小さい。このように、本実施形態の水処理システムでは吸熱配管区間11から奪った熱を排熱配管区間12に移動させるため、熱エネルギーの無駄が生じにくく、しかも、この熱移動に効率の高いヒートポンプ21を用いているために、少ないエネルギー消費が実現される。
【0021】
また、冷却及び加熱のためにボイラや冷却塔を別途設置する場合、これらの装置は一般に、温度調整が必要な部位から離れたところに設けられる。燃料貯蔵施設など多数の付帯設備が必要なボイラでは、特にこの傾向が強い。このため、冷水や温水、蒸気等を配管で移送する際の熱伝達ロスが大きく、追加の加熱冷却装置を設けるなど、エネルギー効率及びコスト面で不利となりやすい。ボイラや冷却塔は一般に必要エネルギーが大きく、環境負荷が大きいという問題もある。ヒートポンプ21を吸熱配管区間11と排熱配管区間12の中間付近に設置することで、熱伝達ロスを最小限に抑えることができる。
【0022】
さらに、ヒートポンプ21は冷媒の蒸発時の気化熱と凝縮時の凝縮熱を利用しているため、吸熱側及び排熱側の温度とは無関係に熱移動を行うことができる。つまり、吸熱側の水温と排熱側の水温がほとんど同じ場合や、排熱側の水温が吸熱側の水温より高い場合でも熱移動が可能である。上述の通り、水処理システムでは、例えば発電システムなどと異なり、システム内で極端な温度差が生じることはあまりなく、一般的な熱交換器を有効利用することは困難であった。このため、冷却には冷水等を、加熱には蒸気等を個別に供給する方式が一般的であったが、本発明では、ヒートポンプ21を用いているため、吸熱配管区間11と排熱配管区間12の温度に拘わらず、これらの間で必要な熱量の移動が可能となっている。
【0023】
ヒートポンプの利用形態としては、空気や外部の水を熱源として用いる形態も考えられる。空気を熱源として用いる場合、空気から吸熱し、空気から奪った熱を排熱配管区間12で排熱すれば、排熱配管区間12の加熱が可能である。しかし、ヒートポンプは空気が低温になると吸熱効率が下がり、ヒートポンプ能力(成績係数)が低下する。このため、低い空気温度での運転を想定した場合、ヒートポンプの容量を増やしておくことが必要となる。従って、空気温度が高い場合には、性能を抑えて運転する必要が生じる。同様のことはヒートポンプで冷却を行う場合にもあてはまる。この場合は、外気温が高いと排熱効率が落ち、ヒートポンプ能力(成績係数)が低下する。従って、同様にヒートポンプの容量を増やしておくことが必要となる。さらに、外気温度が0℃付近である場合、熱を奪われた空気は0℃以下まで冷却されるため、空気との熱交換部位に凍結が生じる可能性がある。このため、定期的に運転を停止して霜取りをしたり、別途霜取りのための設備を設けておくなどの対処が必要となり、コスト面や運用面で不利となる。
【0024】
外部水(海水、地下水、下水等)を熱源として用いる場合も同様の問題が生じる。外部水の場合は空気ほど温度の変動は大きくなく、特に地下水は比較的温度が安定しているが、それでも温度変動の影響は受ける。外部水を用いる場合、大量の排水が発生するため、その処理のために多大の設備やコストが必要となる可能性もある。下水として排出する場合、その料金も必要となる。大量の外部水を必要とする場合、立地面での制約も生じる。さらに海水を用いる場合はスケール対策や塩害、腐食対策が必要となる。
【0025】
さらに、このように吸熱または排熱の一方を外部熱源を用いて行うヒートポンプの利用形態は、広い意味では従来のボイラや冷却塔となんら変わらない。ヒートポンプ自体の効率が高いために、ボイラや冷却塔と比べれば電気代などの運転コストは抑えられるが、逆に年間負荷変動への対応のため、ピーク負荷に合わせた過大な容量を持たせるなどの問題もあり、水処理システムへの適用は現実的とはいえない。
【0026】
これに対して本発明では、熱の移動は熱源の温度が安定した水処理システムの内部で行われるため、外部環境の影響を受けにくい。ただし後述するように、実際には必要吸熱量と必要排熱量とがバランスすることはほとんどないため、熱量の過不足を調整するために外部熱源を利用している。しかし、外部熱源の利用は最小限度にとどめ、できる限りシステムの内部で熱移動を行っているため、従来と比べ経済的で安定した温度制御が可能となっている。
【0027】
図2にも、図1と同様のシステムが示されている。本実施形態では、第1の配管11とヒートポンプ21との間に、第1の配管11からの吸熱をヒートポンプ21に伝達する第1の中間ループ15を有している。同様に、第2の配管12とヒートポンプ21との間に、ヒートポンプ21からの吸熱を第2の配管12に伝達する第2の中間ループ16を有している。このように中間ループ15,16を設けることで、ヒートポンプ21の設置場所の制約が緩和される場合がある。すなわち、ヒートポンプ21が第1の配管11や第2の配管12から離れている場合、これらの配管11,12をヒートポンプ21まで引きまわす必要が生じる。水処理システムでは一般に、膜装置やイオン交換装置など圧力損失の大きい装置が多数設置されているため、圧力損失を抑えることが重要である。図2の例では、第1及び第2の配管11,12はそれぞれ、第1の装置1と第2の装置2、第3の装置3と第4の装置4を最短距離で結び、第1及び第2の配管11,12とヒートポンプ21の間は圧力損失の小さい中間ループ15,16で接続すればよいので、水処理システムの圧力損失を抑えることが可能である。この利点は、ヒートポンプ21が第1の配管11や第2の配管12から離れている場合に、特に大きい。図示は省略するが、第1の中間ループ15と第2の中間ループ16はいずれか一方だけを設けてもよいし、必要に応じて各中間ループ15,16を二重、三重のループとして構成することも可能である。中間ループに用いる媒体に特に制約はなく、腐食性の強い流体やスケールの発生しやすい流体を使う必要性は生じない。中間ループ15,16にCO2を充填すれば、水を充填する場合よりも効率的に熱を運搬できる。
【0028】
図3,4は、複数の部位から吸熱し、あるいは排熱するようにされた水処理システムの実施形態を示している。図3を参照すると、水処理システムは、流体が流通するようにされた、互いに隣接する第5及び第6の装置5,6並びにこれらを接続する第3の配管13と、第1及び第3の配管1,3から吸熱するようにされた第1の中間ループ15と、を有している。図4を参照すると、水処理システムは上記構成に加え、流体が流通するようにされた、互いに隣接する第7及び第8の装置7,8並びにこれらを接続する第4の配管14と、第2及び第4の配管12,14に排熱するようにされた第2の中間ループ16と、を有している。
【0029】
これらの実施形態に示すように、吸熱側、排熱側とも、熱の授受を行う配管区間は1箇所に限定されず、複数個所であってもよい。つまり、吸熱配管区間と排熱配管区間は単数対単数、単数対複数、複数対単数、複数対複数のいずれの組み合わせも可能である。複数の配管区間が中間ループを介して1台のヒートポンプ21に接続されているため、ヒートポンプの台数を削減することが可能となる。勿論、個々の吸熱及び排熱配管区間の位置関係や移動熱量などを勘案して、水処理システムに複数の中間ループと複数のヒートポンプを設けることもできる。
【0030】
一般にヒートポンプ21のコンプレッサ能力は、吸熱配管区間での吸熱量(冷却)に対応した必要コンプレッサ能力CCと排熱配管区間での排熱量(加熱)に対応した必要コンプレッサ能力CHとが一致することはなく、いずれかに合わせて決定される。具体的には、以下の4パターンが考えられる。
(パターン1)CH>CCであり、コンプレッサ能力を排熱(加熱)側に合わせてCHとした場合。この場合は、吸熱配管区間での吸熱(冷却)が過剰となるため、吸熱配管区間を加熱する。もしくは吸熱配管区間での吸熱(冷却)が過剰とならないように、熱の一部を吸熱配管区間から奪い、残りを系外から奪う(例えば周囲の空気から熱を奪い、周囲の空気を冷却する。)。これは換言すれば、系外へ過剰分の冷却エネルギーを放出するということでもある。
(パターン2)CH>CCであり、コンプレッサ能力を吸熱(冷却)側に合わせてCCとした場合。この場合は、排熱配管区間での排熱(加熱)が不足するため、排熱配管区間を追加で加熱する。
(パターン3)CH<CCであり、コンプレッサ能力を排熱(加熱)側に合わせてCHとした場合。この場合は、吸熱配管区間での吸熱(冷却)が不足するため、吸熱配管区間から追加で除熱する。
(パターン4)CH<CCであり、コンプレッサ能力を吸熱(冷却)側に合わせてCCとした場合。この場合は、排熱配管区間での排熱(加熱)が過剰となるため、排熱配管区間から除熱する。もしくは排熱配管区間での排熱(加熱)が過剰とならないように、熱の一部を排熱配管区間に排出し、残りを系外へ排出する(例えば周囲の空気に熱を与え、周囲の空気を加熱する。)。これは換言すれば、系外へ過剰分の加熱エネルギーを放出するということでもある。
【0031】
このように、どのパターンを選択しても、吸熱配管区間または排熱配管区間のいずれかを除熱または加熱、あるいは水処理システムの系外と熱を授受する必要が生じる。ここでは、これらのパターンのうち、排熱配管区間での排熱(加熱)が不足するパターン2の例と、吸熱配管区間での吸熱(冷却)が過剰となるパターン1の例を、図5,6を参照して説明する。
【0032】
図5の実施形態では、ヒートポンプ21からの第2の配管12への排熱(加熱)の不足分を補うために第2の配管12を加熱する第2のヒートポンプ27が設けられている。第2のヒートポンプ27はヒートポンプ21と基本的な構成は同じであるが、排熱量に応じコンプレッサ能力は適宜設定される。本実施形態では、第2のヒートポンプ27はヒータとして用いられる。ヒートポンプ21は第1の配管11から熱量QC1を奪い、熱量QH1を第2の配管12に放出する。ここで、熱量QC1はコンプレッサ能力CCと吸熱時の成績係数COPCの積であり、熱量QH1は、熱量QC1にコンプレッサの圧縮仕事Wを加えた値である。すなわち、QC1=CC×COPC、QH1=QC1+Wであり、排熱時の成績係数COPH=QH1/W=QC1/W+1=COPC+1の関係にある。つまり原理的に、熱量QH1は熱量QC1よりもコンプレッサの圧縮仕事Wの分だけ大きくなっており、COPHはCOPCよりも1だけ大きくなっている。第2のヒートポンプ27は第2の配管12に加えられるべき熱量QH1と熱量QC1との差分の熱量Q2を第2の配管12に与える。ヒートポンプ27の吸熱側は水処理システムと接続されていないため、熱量Q2は大気中から奪われる(大気が冷却される)。
【0033】
図6の実施形態では、ヒートポンプ21による第1の配管11からの過剰吸熱を補償するために、ヒートポンプ21は水熱交換部21aと空気熱交換部21bとを備えている。ヒートポンプ21は水熱交換部21aで、第1の配管11(内部の流通水)から熱量QC1を奪い、熱量QH1を第2の配管12に放出する。第2の配管12に与えられる熱量QH1は所望の熱量に一致している。空気熱交換部21bは、熱量QC1と第1の配管11から奪われるべき吸熱量との差分の熱量Q2を周囲の空気から奪い、第1の配管11に供給する。換言すれば、ヒートポンプ21は、第1の配管11と大気から熱を奪っていることになる。本実施形態は、第2のヒートポンプ27が不要であるため、コストの観点からは図5の実施形態よりも有利となることが多い。
【0034】
ヒートポンプ21は蒸気圧縮式に加えて、熱電子式を用いることもできる。図7は熱電子式ヒートポンプ21’を用いた実施形態を示している。同図は図1に示す蒸気圧縮式ヒートポンプ21を熱電子式ヒートポンプ21’に置き換えた点を除き、図1と同様であるので、ヒートポンプ21’以外の説明については上述の説明を参照されたい。熱電子式ヒートポンプ21’は、いわゆる熱電素子(ペルチェ素子)の原理を用いたヒートポンプである。基板34,35上に設けられたp型半導体29とn型半導体30とが電極33を介して直列に接続されており、pn接合部に電流を流すと、電流の向きに沿ってn型からp型となる接合部分31では吸熱現象が、p型からn型になる接合部分32では放熱現象が発生する。n型からp型になる接合部分31は第1の配管11側に、p型からn型になる接合部分32は第2の配管12側となるようにp型半導体29とn型半導体30が配置されている。図7では、3つのp型半導体29及び3つのn型半導体30が示されているが、さらに多数のp型及びn型半導体を交互に配置することもできる。熱電子式ヒートポンプ21’は構造がシンプルであり、また機械的な作動部分がないため、静音性に優れている。熱電子式ヒートポンプ21’は特に小型のヒートポンプとして利用することが望ましい。
【0035】
さらに、図示は省略するが、化学式、吸着式または吸収式のヒートポンプを用いることも可能である。例えば、化学式ヒートポンプは塩化カルシウム、酸化カルシウムなどの水和物が充填された反応室と、連通管を介して反応室と接続された凝縮室と、を備えている。第1の配管11は反応室に隣接して位置し、第2の配管12は凝縮室に隣接して位置している。反応室に充填された塩化カルシウム等の水和物は第1の配管11から吸熱し、それによって水和物の水分子が水蒸気となって水和物から離脱し、凝縮室に移行する。凝縮室に移行した水蒸気は凝縮して液化し、隣接して位置する第2の配管12に排熱する。
【0036】
次に、以上述べたヒートポンプ21が適用される水処理の具体例について説明する。本発明が適用される水処理システムは、超純水製造装置、排水処理装置、排水回収装置などの様々な装置(ユニット)から構成することができる。ただし、これらの装置の構成は純水の要求水質、原水や排水の水質等によって様々であり、以下に示す例はあくまで一例であることに留意されたい。
【0037】
図8(a)は、水処理システムのうち、超純水製造装置の概略構成の一例を示している。原水の温度は設置場所や季節によっても異なるが、ここでは15℃であると仮定する。純水を製造するには、原水を除濁膜108に通して懸濁物などを除去し、さらに活性炭塔109を通した後、加熱ポイント101で加熱してRO膜装置110に送る。加熱するのはRO膜装置110に用いられる逆浸透膜の標準設計温度が25℃であるためであり、原水の温度によってはこの加熱工程は不要である。RO膜装置110を出た原水はイオン交換装置111でイオン成分を除去され、一次純水タンク112に貯蔵される。イオン交換装置111に用いられる樹脂の再生のため、イオン交換装置111には薬品供給ラインが設けられており、アルカリ薬液を加熱ポイント127で加熱してイオン交換装置111に供給し、アルカリ薬液の廃液を冷却ポイント128で冷却した後、中和槽113において酸廃液と中和させる。廃液は、中和された後も必要に応じて中和槽内113で冷却される。
【0038】
一次純水タンク112に貯蔵された純水は紫外線酸化装置114、カートリッジポリッシャー装置(混床イオン交換樹脂が充填された非再生型イオン交換ユニット)115及び限外ろ過膜(UF膜)装置116を通って、各ユースポイント117において使用される。使用されなかった純水は循環ループ118を通って一次純水タンク112に回収され、さらに循環運転を続ける。この際、図示しないポンプからの入熱などによって循環中の純水の温度が上昇するため、ユースポイント117での温度要求に応じて純水を冷却する。本例では紫外線酸化装置114の入口側に冷却ポイント119が設けられている。一方、使用目的によっては60〜80℃程度の高温超純水が必要とされる場合もある。本例では、純水タンク112から高温超純水供給ライン120が分岐しており、加熱ポイント121で昇温された後、紫外線酸化装置122、カートリッジポリッシャー装置123及び限外ろ過膜装置124を通って、ユースポイント125まで送られる。使用されなかった高温超純水は一次純水タンク112に戻る前に冷却ポイント126で冷却される。
【0039】
図8(b)〜(e)は様々な排水処理装置の例を示している。排水は水処理システム内で発生したものでもよく、水処理システム外で発生したものでもよい。また、処理された排水はそのまま水処理システム外に放出されてもよく、図8(a)に示す超純水製造装置で再利用されてもよい(図中の*印)。
【0040】
図8(b)は排水に嫌気性処理及び好気性処理を行うプロセスを示している。嫌気性処理と好気性処理は各々、嫌気性微生物と好気性微生物を用いた排水処理であるが、本例では嫌気性処理(メタン発酵)の最適温度が36〜38℃(中温発酵)、53〜55℃(高温発酵)と比較的高温であるため、予め加温する必要がある。一方、好気性処理の適正温度は30℃程度であるため、嫌気性処理が終わった排水を冷却する必要がある。図8(c)は好気性処理のみを行う例を示したものであり、好気性処理の最適温度である30℃程度まで、排水が加温される。
【0041】
図8(d)は排水をストリッピング処理するプロセスを示している。ストリッピング処理とは、遊離アンモニアに蒸気や空気を吹き込んで、遊離アンモニアを排水中から除去する処理である。この処理は排水が比較的高温で供給されることが望ましいため、ストリッピング装置の入口側に加熱ポイントが設けられている。
【0042】
以上説明した嫌気性処理、好気性処理及びストリッピング処理が終了した後は、排水の温度調整は不要である。しかし、他の加熱ポイントにおいて必要とされる熱量を得るために、上記処理を受けた排水から必要に応じて吸熱することができる。そこで、これらの装置の出口側に、吸熱が可能なポイントであるという意味で冷却ポイントが設けられている。また、これらのポイントを逆に、必要に応じてヒートポンプにて吸熱した熱の排出先として利用してもよい。
【0043】
図8(e)は、超純水が使用されたシステムから回収された排水の処理システムを示している。使用可能な排水としては、例えば半導体製造の際にウエハのリンスで用いた純水など、比較的清浄なものが挙げられる。排水は、過酸化水素が混合された後に紫外線酸化装置101に送られ、主に排水中のTOC(total organic carbon)成分が除去される。次に排水は、冷却ポイント102で冷却された後、活性炭塔103で有機物や臭気成分を除去され、イオン交換装置104に送られる。紫外線酸化装置101では、排水が数時間滞留し、温度がかなり上昇することがある。そこで、紫外線酸化装置101の出口側に冷却ポイント102が設けられている。
【0044】
図9は、以上説明した装置のうち、図8(a)で説明した超純水製造装置と図8(e)で説明した排水処理システムを一つの水処理システムとして構成した例を示している。個々の要素については上述の説明を参照されたい。
【0045】
図10は、水処理システムのメンテナンスの際に熱水殺菌を行う場合のプロセスを示している。ここでは、処理水を軟化(CaイオンやMgイオンの除去)し、活性炭処理して原水とし、その原水をRO膜装置、イオン交換装置(電気式脱イオン水製造装置(EDI))に通した後に、フィルタ処理と紫外線酸化を行うシステムの例を示している。図10(a)は活性炭とRO膜を熱水殺菌する場合の例であり、通常時にはラインから隔離されている熱水源をラインに接続し、熱水源から破線で示すルートで熱水を供給し、RO膜装置と活性炭塔とが熱水殺菌される。処理が終了すると、熱水は冷却されて排水される。図10(b)はEDI、フィルタ及び紫外線酸化装置を熱水殺菌する場合の例であり、通常時にはラインから隔離されている熱水源(加熱熱交)をラインに接続し、熱水源から破線で示すルートで熱水を供給し、EDIが熱水殺菌される。処理が終了すると、熱水は冷却されて排水される。
【0046】
図8〜10においては排熱配管区間と吸熱配管区間を太線で示しているが、以上説明したように、水処理システムにおいては通常運転時、メンテナンス時を問わず、様々な排熱配管区間及び吸熱配管区間が存在している。
【0047】
次に、以上説明した水処理システムを、実施例によってさらに詳細に説明する。図11は図1のA部を切り出して示した模式図である。図11(a)は従来技術に従い、排熱配管区間と吸熱配管区間を別々の装置(例えば熱交換器)で加熱冷却する場合を示している。以降の説明では、排熱配管区間を流れる流体の流量は100t/h(毎時トン)、加熱前の水温は288K、加熱後の温度は298Kとし、吸熱配管区間を流れる流体の流量は100t/h(毎時トン)、冷却前の水温は303K、冷却後の温度は298Kとする。水の比熱は4.2J/g・Kとする。
【0048】
以上の条件で必要エネルギーを求めると、排熱配管区間での必要エネルギーは約1.17×103kW、吸熱配管区間での必要エネルギーは約5.8×102kWであり、合計約1.8×103kWのエネルギーが必要となる。
【0049】
図11(b),(c)は、本発明に従い、ヒートポンプによって吸熱配管区間から吸熱し、排熱配管区間に排熱する場合を示しており、各々図5,6に対応している。図11(b)は、吸熱側の必要除熱量でヒートポンプ21(図中ではHP1と表記)のコンプレッサの容量を決定し、排熱側で不足する熱量を第2のヒートポンプ27(図中ではHP2と表記)で補う構成である。図11(c)は排熱側の必要熱量でコンプレッサ21の容量を決定し、吸熱側では一部の熱を大気から吸熱する構成である。ここでは、水温15℃〜25℃の範囲でのヒートポンプ21,27の成績係数は、加温で5、冷却で4とした。
【0050】
図11(b)の場合(実施例1)、吸熱側で必要な除熱量約5.8×102kWを得るための必要コンプレッサ能力は約1.46×102kWである。このコンプレッサ能力では、排熱側で約7.3×102kWの排熱量が得られる。排熱側における実際に必要な排熱量約1.17×103との差分(約4.4×102kW)は第2のヒートポンプ27で補われる。第2のヒートポンプの必要コンプレッサ能力は約0.88×102kWであり、合計約2.3×102kWの電気エネルギーが必要となる。これは図11(a)に示す比較例(従来例)の1/7である。
【0051】
同様に、図11(c)の場合(実施例2)、排熱側での必要な排熱量約1.17×103を得るための必要コンプレッサ能力は約2.3×102kWである。このコンプレッサ能力では、吸熱側は必要な除熱量約5.8×102kW以上に除熱されることになるが、余剰分は大気冷却に用いられる。よって、必要電気エネルギーは図11(b)の場合と同様、約2.3×102kWとなる。
【0052】
なお、参考例として、図11(a)の場合で、加熱及び冷却をヒートポンプを用いて行う場合、加熱側における必要な加熱量約1.17×103と冷却側で必要な除熱量約5.8×102kWは各々別のヒートポンプでまかなわれる。加熱側のヒートポンプの必要コンプレッサ能力は約2.3×102kW、冷却側のヒートポンプの必要コンプレッサ能力は約1.5×102kWであるから、合計約3.8×102kWの電気エネルギーが必要となる。従って、比較例よりは有利であるが、実施例と比べると60%以上消費エネルギーが多い結果となった。以上をまとめて表1に示す。
【0053】
【表1】
【符号の説明】
【0054】
1〜6 第1〜6の装置
11,13 第1,第3の配管(吸熱配管区間)
12,14 第2,第4の配管(排熱配管区間)
21,21’,21” ヒートポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システム及び水処理方法に関し、特にエネルギー消費の少ない水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
純水製造システム等の水処理システムは、水処理のための様々な装置が配管で結ばれて構成されている。これらの装置の例として、イオン交換装置、逆浸透膜(RO膜)装置、ろ過装置などがある。各装置は性能(不純物の除去特性等)を最大限に発揮させるために、最適な水温の範囲を有している。一方、ユースポイント(使用点)では、例えば25℃、60℃、80℃等の様々な温度が要求されることがある。また、循環運転を行う部位では、循環運転に伴うポンプからの入熱などによって循環水の温度が上昇しやすくなる。このように、水処理システムでは、装置の温度要求、システム要求、システム構成などの様々な要因のために、システム内の様々な個所で温度調整を行う必要がある。
【0003】
特許文献1には超純水の製造装置が開示されている。原水槽から供給された原水は脱気槽やRO膜装置で処理され、後工程に送られる。RO膜装置における逆浸透膜の標準設計温度は25℃であるため、RO膜装置の入口点における処理水の温度をこの温度に調整するため、原水槽と脱気槽の間にいくつかの熱交換器が設置されている。
【0004】
特許文献2には、熱交換のために、ヒートポンプを水処理システムに用いた例が開示されている。ヒートポンプは、エネルギー効率の高い熱交換システムとして知られている。ヒートポンプは外部熱源から熱を奪い、奪った熱を加熱対象部位に供給し、あるいは冷却対象部位から熱を奪い、奪った熱を外部に放出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−183800号公報
【特許文献2】特開2002−16036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、水処理システム内を流通する被処理水等の温度調整を行う場合、冷却塔やボイラなどの設備を設けることが一般的であった。しかし、このようなシステム構成は、エネルギーの利用効率、ひいては二酸化炭素排出量等の環境負荷の面で以下の問題があった。
【0007】
すなわち、加熱及び冷却のためのエネルギーは、加熱や冷却の対象部位で個々に投入されている。例えば、加熱のためにボイラを使用する場合には、ボイラに投入された熱エネルギーによって、加熱対象部位よりも高温の温水や蒸気が製造され、温水や蒸気の持つ熱が加熱対象部位に加えられる。冷却のために冷却塔を使用する場合には、冷却対象部位よりも低温の冷却水が製造され、冷却対象部位から熱が奪われる。温度調整に必要な全エネルギーは加熱及び冷却の各対象部位で必要となるエネルギーの総和となる。
【0008】
水処理システムにおいて、冷却対象部位から奪われた熱を、加熱対象部位に加えられる熱として利用することは一般に困難である。勿論、このようなプロセスを熱交換器によって実現できる場合もあるが、そのためには冷却対象部位が高温側、加熱対象部位が低温側となっている必要があり、しかも高温側と低温側とで相当の温度差がないと効率的な熱移動はできない。水処理システムの場合、多くの部位は常温に近い温度に制御されており、大きな温度差はなく、また冷却対象部位が高温側、加熱対象部位が低温側という関係が必ずしも成立しているわけではないため、熱交換器を効率的に使用できる部位は限られている。
【0009】
ヒートポンプは、熱交換器と異なり、低温の熱源から高温の熱源に熱を移動することができる。しかし、ヒートポンプは、外部の温度条件によって性能が大きく変動する。例えば、低温度の空気から吸熱する場合には吸熱効率が大きく低下する。このように、ヒートポンプは外部温度によって影響を受けやすく、水処理システム内の水温を安定的に制御することは困難であった。ヒートポンプに過剰な容量を持たせれば外部温度条件の変動による影響を緩和することはできるが、コストに多大の影響が生じる
本発明はこのような課題に鑑みてなされ、エネルギー効率が高く、しかも安定した温度制御が可能な水処理システム及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水処理システムは、複数の装置と、互いに隣接する複数の装置同士を接続する複数の配管区間と、少なくとも1つの配管区間を吸熱配管区間としてこの吸熱配管区間から吸熱し、この吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の配管区間を排熱配管区間として、この排熱配管区間に排熱するヒートポンプと、を有している。
【0011】
ヒートポンプは吸熱対象部位で熱を奪い、その熱を排熱対象部位まで移動させることができる。従って、水処理システム内に吸熱(冷却)が必要な部位(吸熱配管区間)と排熱(加熱)が必要な部位(排熱配管区間)とがある場合に、ヒートポンプを用いて、吸熱配管区間から排熱配管区間への熱移動を行うことが可能となる。冷却のために棄てた熱を別の部位の加熱に利用することができるため、エネルギー効率が著しく高められる。
【0012】
また、吸熱配管区間と排熱配管区間は各々が温度調整部位であると同時に、安定した熱源でもある。すなわち、前述のように吸熱または排熱の一方を外部熱源を用いて行う場合、ヒートポンプ性能は外部熱源の温度変動による影響を受けやすかった。外部の空気を熱源として利用する場合、外気温が低いと吸熱しにくくなりヒートポンプ性能が低下する。地下水や海水を熱源として用いる場合も空気ほどの温度変動は生じないが、同様の問題が生じる。これに対して本発明の場合、水温が制御された水処理システム内の配管区間を熱源(吸熱配管区間または排熱配管区間)として用いているため、熱源の温度変動がほとんど生じない。このため、ヒートポンプ性能が外気温や海水温度などの外部環境に左右されにくく、良好なヒートポンプ性能を安定して維持することが可能となる。なお、空気を熱源としたヒートポンプの場合、外気温が0℃付近まで下がると霜取りが必要となり、地下水や海水を熱源としたヒートポンプの場合、排水の処理や腐食対策が必要となる。本発明はこのような問題も発生しない。
【0013】
本発明の他の実施態様によれば、複数の装置と、互いに隣接する複数の装置同士を接続する複数の配管区間と、を有する水処理システムを用いた水処理方法が提供される。この方法は、ヒートポンプによって、少なくとも1つの配管区間を吸熱配管区間として吸熱配管区間から吸熱し、吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の配管区間を排熱配管区間として排熱配管区間に排熱することを含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、エネルギー効率が高く、しかも安定した温度制御が可能な水処理システム及び水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の水処理システムの、基本的な実施形態を示す概念図である。
【図2】本発明の水処理システムの、中間ループを設けた実施形態を示す概念図である。
【図3】本発明の水処理システムの、複数の排熱配管区間が設けられた実施形態を示す概念図である。
【図4】本発明の水処理システムの、複数の吸熱及び排熱配管区間が設けられた実施形態を示す概念図である。
【図5】本発明の水処理システムの、補助加熱手段が設けられた実施形態を示す概念図である。
【図6】本発明の水処理システムの、第2のヒートポンプが設けられた実施形態を示す概念図である。
【図7】本発明の水処理システムの、熱電子式ヒートポンプを用いた実施形態を示す概念図である。
【図8】水処理システムの構成の一例を示す概略図である。
【図9】水処理システムの構成の他の例を示す概略図である。
【図10】水処理システムの熱水殺菌時のライン構成を示す概略図である。
【図11】実施例及び参考例の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜7を参照して、本発明の水処理システムに係るいくつかの実施形態について説明する。これらの図は水処理システムを構成する様々な装置のうち、各実施形態に関連する部分だけを抽出して示すものである。実際の水処理システムの例は後述する。
【0017】
図1には、互いに隣接する第1及び第2の装置1,2と、これらを接続する第1の配管11と、が示されている。これらの装置1,2及び配管11には第1の装置1から第2の装置2に向けて、図中右向きに流体(被処理水)が流通している。同様に、図1には、互いに隣接する第3及び第4の装置3,4と、これらを接続する第2の配管12と、が示されている。これらの装置3,4及び配管12にも、第3の装置3から第4の装置4に向けて、図中右向きに流体(被処理水)が流通している。第1〜第4の装置1〜4はどのようなものであっても構わない。
【0018】
本実施形態では第1の配管11から吸熱し(符号QC1で示す。)、第2の配管12に排熱される(同じく、符号QH1で示す。)。このような状況は、例えば第1の装置1の出口点水温が第2の装置2の入口点における要求水温よりも高く、被処理水を冷却することが必要であり、かつ第3の装置3の出口点水温が第4の装置4の入口点における要求水温よりも低く、被処理水を加熱することが必要である場合に生じる。一例として、前述のようにRO膜装置は逆浸透膜の標準設計温度が25℃であるが、入口点における水温がこれより高い場合、RO膜装置に入る前に被処理水を冷却する必要がある。なお、本明細書では排熱の際のロスは無視しており、吸熱がそのまま100%排熱されると仮定しているが、実際には吸熱量と排熱量は一致していないことに留意されたい。
【0019】
この目的のため、水処理システムには第1の配管11(吸熱配管区間)から吸熱し、第2の配管12(排熱配管区間)に排熱するヒートポンプ21が設けられている。ヒートポンプ21は本実施形態では蒸気圧縮式を用いている。具体的には、ヒートポンプ21は、アンモニア、二炭化炭素などの冷媒を蒸発させる蒸発器22と、冷媒を圧縮するコンプレッサ23と、冷媒を凝縮させる凝縮器24と、冷媒を膨張させる膨張弁25、とを備え、これらの要素22〜25がこの順で閉ループ26上に配置されている。従って、冷媒は、閉ループ26内を循環しながら、蒸発、圧縮、凝縮、膨張の熱サイクルを受けることになる。蒸発器22に隣接して第1の配管11が位置しており、冷媒が蒸発した際の気化熱によって、第1の配管11を流れる流体から熱が奪われる(なお、各図において、波線は熱交換が行わる部位であることを示す。)。蒸発した冷媒はコンプレッサ23で圧縮され、高温高圧の気体となる。冷媒は次に凝縮器24に送られ、周囲に熱を放出して凝縮する。凝縮器24に隣接して第2の配管12が位置しており、凝縮の際に放出された凝縮熱が第2の配管12を流れる流体に与えられる。凝縮した冷媒は膨張弁25を通って減圧冷却される。このようにしてヒートポンプ21の1サイクルの運転の間に、吸熱配管区間11からの吸熱と、排熱配管区間12への排熱が行われる。
【0020】
ヒートポンプ21を用いることによって、第1の配管11から奪われた熱の少なくとも一部を第2の配管12に与えることができる。このため、奪われた熱を棄てる必要がなく、第2の配管12に供給する熱を別の装置(ボイラ等)で発生させる必要もない。しかも、ヒートポンプ21は一般に成績係数(加熱または冷却の能力をQ、このQを得るために消費した電力Lとしたときに、Q/Lで定義される。)が3〜5の付近にあり、必要な電気エネルギーが、発生させる熱エネルギーと比べてはるかに小さい。このように、本実施形態の水処理システムでは吸熱配管区間11から奪った熱を排熱配管区間12に移動させるため、熱エネルギーの無駄が生じにくく、しかも、この熱移動に効率の高いヒートポンプ21を用いているために、少ないエネルギー消費が実現される。
【0021】
また、冷却及び加熱のためにボイラや冷却塔を別途設置する場合、これらの装置は一般に、温度調整が必要な部位から離れたところに設けられる。燃料貯蔵施設など多数の付帯設備が必要なボイラでは、特にこの傾向が強い。このため、冷水や温水、蒸気等を配管で移送する際の熱伝達ロスが大きく、追加の加熱冷却装置を設けるなど、エネルギー効率及びコスト面で不利となりやすい。ボイラや冷却塔は一般に必要エネルギーが大きく、環境負荷が大きいという問題もある。ヒートポンプ21を吸熱配管区間11と排熱配管区間12の中間付近に設置することで、熱伝達ロスを最小限に抑えることができる。
【0022】
さらに、ヒートポンプ21は冷媒の蒸発時の気化熱と凝縮時の凝縮熱を利用しているため、吸熱側及び排熱側の温度とは無関係に熱移動を行うことができる。つまり、吸熱側の水温と排熱側の水温がほとんど同じ場合や、排熱側の水温が吸熱側の水温より高い場合でも熱移動が可能である。上述の通り、水処理システムでは、例えば発電システムなどと異なり、システム内で極端な温度差が生じることはあまりなく、一般的な熱交換器を有効利用することは困難であった。このため、冷却には冷水等を、加熱には蒸気等を個別に供給する方式が一般的であったが、本発明では、ヒートポンプ21を用いているため、吸熱配管区間11と排熱配管区間12の温度に拘わらず、これらの間で必要な熱量の移動が可能となっている。
【0023】
ヒートポンプの利用形態としては、空気や外部の水を熱源として用いる形態も考えられる。空気を熱源として用いる場合、空気から吸熱し、空気から奪った熱を排熱配管区間12で排熱すれば、排熱配管区間12の加熱が可能である。しかし、ヒートポンプは空気が低温になると吸熱効率が下がり、ヒートポンプ能力(成績係数)が低下する。このため、低い空気温度での運転を想定した場合、ヒートポンプの容量を増やしておくことが必要となる。従って、空気温度が高い場合には、性能を抑えて運転する必要が生じる。同様のことはヒートポンプで冷却を行う場合にもあてはまる。この場合は、外気温が高いと排熱効率が落ち、ヒートポンプ能力(成績係数)が低下する。従って、同様にヒートポンプの容量を増やしておくことが必要となる。さらに、外気温度が0℃付近である場合、熱を奪われた空気は0℃以下まで冷却されるため、空気との熱交換部位に凍結が生じる可能性がある。このため、定期的に運転を停止して霜取りをしたり、別途霜取りのための設備を設けておくなどの対処が必要となり、コスト面や運用面で不利となる。
【0024】
外部水(海水、地下水、下水等)を熱源として用いる場合も同様の問題が生じる。外部水の場合は空気ほど温度の変動は大きくなく、特に地下水は比較的温度が安定しているが、それでも温度変動の影響は受ける。外部水を用いる場合、大量の排水が発生するため、その処理のために多大の設備やコストが必要となる可能性もある。下水として排出する場合、その料金も必要となる。大量の外部水を必要とする場合、立地面での制約も生じる。さらに海水を用いる場合はスケール対策や塩害、腐食対策が必要となる。
【0025】
さらに、このように吸熱または排熱の一方を外部熱源を用いて行うヒートポンプの利用形態は、広い意味では従来のボイラや冷却塔となんら変わらない。ヒートポンプ自体の効率が高いために、ボイラや冷却塔と比べれば電気代などの運転コストは抑えられるが、逆に年間負荷変動への対応のため、ピーク負荷に合わせた過大な容量を持たせるなどの問題もあり、水処理システムへの適用は現実的とはいえない。
【0026】
これに対して本発明では、熱の移動は熱源の温度が安定した水処理システムの内部で行われるため、外部環境の影響を受けにくい。ただし後述するように、実際には必要吸熱量と必要排熱量とがバランスすることはほとんどないため、熱量の過不足を調整するために外部熱源を利用している。しかし、外部熱源の利用は最小限度にとどめ、できる限りシステムの内部で熱移動を行っているため、従来と比べ経済的で安定した温度制御が可能となっている。
【0027】
図2にも、図1と同様のシステムが示されている。本実施形態では、第1の配管11とヒートポンプ21との間に、第1の配管11からの吸熱をヒートポンプ21に伝達する第1の中間ループ15を有している。同様に、第2の配管12とヒートポンプ21との間に、ヒートポンプ21からの吸熱を第2の配管12に伝達する第2の中間ループ16を有している。このように中間ループ15,16を設けることで、ヒートポンプ21の設置場所の制約が緩和される場合がある。すなわち、ヒートポンプ21が第1の配管11や第2の配管12から離れている場合、これらの配管11,12をヒートポンプ21まで引きまわす必要が生じる。水処理システムでは一般に、膜装置やイオン交換装置など圧力損失の大きい装置が多数設置されているため、圧力損失を抑えることが重要である。図2の例では、第1及び第2の配管11,12はそれぞれ、第1の装置1と第2の装置2、第3の装置3と第4の装置4を最短距離で結び、第1及び第2の配管11,12とヒートポンプ21の間は圧力損失の小さい中間ループ15,16で接続すればよいので、水処理システムの圧力損失を抑えることが可能である。この利点は、ヒートポンプ21が第1の配管11や第2の配管12から離れている場合に、特に大きい。図示は省略するが、第1の中間ループ15と第2の中間ループ16はいずれか一方だけを設けてもよいし、必要に応じて各中間ループ15,16を二重、三重のループとして構成することも可能である。中間ループに用いる媒体に特に制約はなく、腐食性の強い流体やスケールの発生しやすい流体を使う必要性は生じない。中間ループ15,16にCO2を充填すれば、水を充填する場合よりも効率的に熱を運搬できる。
【0028】
図3,4は、複数の部位から吸熱し、あるいは排熱するようにされた水処理システムの実施形態を示している。図3を参照すると、水処理システムは、流体が流通するようにされた、互いに隣接する第5及び第6の装置5,6並びにこれらを接続する第3の配管13と、第1及び第3の配管1,3から吸熱するようにされた第1の中間ループ15と、を有している。図4を参照すると、水処理システムは上記構成に加え、流体が流通するようにされた、互いに隣接する第7及び第8の装置7,8並びにこれらを接続する第4の配管14と、第2及び第4の配管12,14に排熱するようにされた第2の中間ループ16と、を有している。
【0029】
これらの実施形態に示すように、吸熱側、排熱側とも、熱の授受を行う配管区間は1箇所に限定されず、複数個所であってもよい。つまり、吸熱配管区間と排熱配管区間は単数対単数、単数対複数、複数対単数、複数対複数のいずれの組み合わせも可能である。複数の配管区間が中間ループを介して1台のヒートポンプ21に接続されているため、ヒートポンプの台数を削減することが可能となる。勿論、個々の吸熱及び排熱配管区間の位置関係や移動熱量などを勘案して、水処理システムに複数の中間ループと複数のヒートポンプを設けることもできる。
【0030】
一般にヒートポンプ21のコンプレッサ能力は、吸熱配管区間での吸熱量(冷却)に対応した必要コンプレッサ能力CCと排熱配管区間での排熱量(加熱)に対応した必要コンプレッサ能力CHとが一致することはなく、いずれかに合わせて決定される。具体的には、以下の4パターンが考えられる。
(パターン1)CH>CCであり、コンプレッサ能力を排熱(加熱)側に合わせてCHとした場合。この場合は、吸熱配管区間での吸熱(冷却)が過剰となるため、吸熱配管区間を加熱する。もしくは吸熱配管区間での吸熱(冷却)が過剰とならないように、熱の一部を吸熱配管区間から奪い、残りを系外から奪う(例えば周囲の空気から熱を奪い、周囲の空気を冷却する。)。これは換言すれば、系外へ過剰分の冷却エネルギーを放出するということでもある。
(パターン2)CH>CCであり、コンプレッサ能力を吸熱(冷却)側に合わせてCCとした場合。この場合は、排熱配管区間での排熱(加熱)が不足するため、排熱配管区間を追加で加熱する。
(パターン3)CH<CCであり、コンプレッサ能力を排熱(加熱)側に合わせてCHとした場合。この場合は、吸熱配管区間での吸熱(冷却)が不足するため、吸熱配管区間から追加で除熱する。
(パターン4)CH<CCであり、コンプレッサ能力を吸熱(冷却)側に合わせてCCとした場合。この場合は、排熱配管区間での排熱(加熱)が過剰となるため、排熱配管区間から除熱する。もしくは排熱配管区間での排熱(加熱)が過剰とならないように、熱の一部を排熱配管区間に排出し、残りを系外へ排出する(例えば周囲の空気に熱を与え、周囲の空気を加熱する。)。これは換言すれば、系外へ過剰分の加熱エネルギーを放出するということでもある。
【0031】
このように、どのパターンを選択しても、吸熱配管区間または排熱配管区間のいずれかを除熱または加熱、あるいは水処理システムの系外と熱を授受する必要が生じる。ここでは、これらのパターンのうち、排熱配管区間での排熱(加熱)が不足するパターン2の例と、吸熱配管区間での吸熱(冷却)が過剰となるパターン1の例を、図5,6を参照して説明する。
【0032】
図5の実施形態では、ヒートポンプ21からの第2の配管12への排熱(加熱)の不足分を補うために第2の配管12を加熱する第2のヒートポンプ27が設けられている。第2のヒートポンプ27はヒートポンプ21と基本的な構成は同じであるが、排熱量に応じコンプレッサ能力は適宜設定される。本実施形態では、第2のヒートポンプ27はヒータとして用いられる。ヒートポンプ21は第1の配管11から熱量QC1を奪い、熱量QH1を第2の配管12に放出する。ここで、熱量QC1はコンプレッサ能力CCと吸熱時の成績係数COPCの積であり、熱量QH1は、熱量QC1にコンプレッサの圧縮仕事Wを加えた値である。すなわち、QC1=CC×COPC、QH1=QC1+Wであり、排熱時の成績係数COPH=QH1/W=QC1/W+1=COPC+1の関係にある。つまり原理的に、熱量QH1は熱量QC1よりもコンプレッサの圧縮仕事Wの分だけ大きくなっており、COPHはCOPCよりも1だけ大きくなっている。第2のヒートポンプ27は第2の配管12に加えられるべき熱量QH1と熱量QC1との差分の熱量Q2を第2の配管12に与える。ヒートポンプ27の吸熱側は水処理システムと接続されていないため、熱量Q2は大気中から奪われる(大気が冷却される)。
【0033】
図6の実施形態では、ヒートポンプ21による第1の配管11からの過剰吸熱を補償するために、ヒートポンプ21は水熱交換部21aと空気熱交換部21bとを備えている。ヒートポンプ21は水熱交換部21aで、第1の配管11(内部の流通水)から熱量QC1を奪い、熱量QH1を第2の配管12に放出する。第2の配管12に与えられる熱量QH1は所望の熱量に一致している。空気熱交換部21bは、熱量QC1と第1の配管11から奪われるべき吸熱量との差分の熱量Q2を周囲の空気から奪い、第1の配管11に供給する。換言すれば、ヒートポンプ21は、第1の配管11と大気から熱を奪っていることになる。本実施形態は、第2のヒートポンプ27が不要であるため、コストの観点からは図5の実施形態よりも有利となることが多い。
【0034】
ヒートポンプ21は蒸気圧縮式に加えて、熱電子式を用いることもできる。図7は熱電子式ヒートポンプ21’を用いた実施形態を示している。同図は図1に示す蒸気圧縮式ヒートポンプ21を熱電子式ヒートポンプ21’に置き換えた点を除き、図1と同様であるので、ヒートポンプ21’以外の説明については上述の説明を参照されたい。熱電子式ヒートポンプ21’は、いわゆる熱電素子(ペルチェ素子)の原理を用いたヒートポンプである。基板34,35上に設けられたp型半導体29とn型半導体30とが電極33を介して直列に接続されており、pn接合部に電流を流すと、電流の向きに沿ってn型からp型となる接合部分31では吸熱現象が、p型からn型になる接合部分32では放熱現象が発生する。n型からp型になる接合部分31は第1の配管11側に、p型からn型になる接合部分32は第2の配管12側となるようにp型半導体29とn型半導体30が配置されている。図7では、3つのp型半導体29及び3つのn型半導体30が示されているが、さらに多数のp型及びn型半導体を交互に配置することもできる。熱電子式ヒートポンプ21’は構造がシンプルであり、また機械的な作動部分がないため、静音性に優れている。熱電子式ヒートポンプ21’は特に小型のヒートポンプとして利用することが望ましい。
【0035】
さらに、図示は省略するが、化学式、吸着式または吸収式のヒートポンプを用いることも可能である。例えば、化学式ヒートポンプは塩化カルシウム、酸化カルシウムなどの水和物が充填された反応室と、連通管を介して反応室と接続された凝縮室と、を備えている。第1の配管11は反応室に隣接して位置し、第2の配管12は凝縮室に隣接して位置している。反応室に充填された塩化カルシウム等の水和物は第1の配管11から吸熱し、それによって水和物の水分子が水蒸気となって水和物から離脱し、凝縮室に移行する。凝縮室に移行した水蒸気は凝縮して液化し、隣接して位置する第2の配管12に排熱する。
【0036】
次に、以上述べたヒートポンプ21が適用される水処理の具体例について説明する。本発明が適用される水処理システムは、超純水製造装置、排水処理装置、排水回収装置などの様々な装置(ユニット)から構成することができる。ただし、これらの装置の構成は純水の要求水質、原水や排水の水質等によって様々であり、以下に示す例はあくまで一例であることに留意されたい。
【0037】
図8(a)は、水処理システムのうち、超純水製造装置の概略構成の一例を示している。原水の温度は設置場所や季節によっても異なるが、ここでは15℃であると仮定する。純水を製造するには、原水を除濁膜108に通して懸濁物などを除去し、さらに活性炭塔109を通した後、加熱ポイント101で加熱してRO膜装置110に送る。加熱するのはRO膜装置110に用いられる逆浸透膜の標準設計温度が25℃であるためであり、原水の温度によってはこの加熱工程は不要である。RO膜装置110を出た原水はイオン交換装置111でイオン成分を除去され、一次純水タンク112に貯蔵される。イオン交換装置111に用いられる樹脂の再生のため、イオン交換装置111には薬品供給ラインが設けられており、アルカリ薬液を加熱ポイント127で加熱してイオン交換装置111に供給し、アルカリ薬液の廃液を冷却ポイント128で冷却した後、中和槽113において酸廃液と中和させる。廃液は、中和された後も必要に応じて中和槽内113で冷却される。
【0038】
一次純水タンク112に貯蔵された純水は紫外線酸化装置114、カートリッジポリッシャー装置(混床イオン交換樹脂が充填された非再生型イオン交換ユニット)115及び限外ろ過膜(UF膜)装置116を通って、各ユースポイント117において使用される。使用されなかった純水は循環ループ118を通って一次純水タンク112に回収され、さらに循環運転を続ける。この際、図示しないポンプからの入熱などによって循環中の純水の温度が上昇するため、ユースポイント117での温度要求に応じて純水を冷却する。本例では紫外線酸化装置114の入口側に冷却ポイント119が設けられている。一方、使用目的によっては60〜80℃程度の高温超純水が必要とされる場合もある。本例では、純水タンク112から高温超純水供給ライン120が分岐しており、加熱ポイント121で昇温された後、紫外線酸化装置122、カートリッジポリッシャー装置123及び限外ろ過膜装置124を通って、ユースポイント125まで送られる。使用されなかった高温超純水は一次純水タンク112に戻る前に冷却ポイント126で冷却される。
【0039】
図8(b)〜(e)は様々な排水処理装置の例を示している。排水は水処理システム内で発生したものでもよく、水処理システム外で発生したものでもよい。また、処理された排水はそのまま水処理システム外に放出されてもよく、図8(a)に示す超純水製造装置で再利用されてもよい(図中の*印)。
【0040】
図8(b)は排水に嫌気性処理及び好気性処理を行うプロセスを示している。嫌気性処理と好気性処理は各々、嫌気性微生物と好気性微生物を用いた排水処理であるが、本例では嫌気性処理(メタン発酵)の最適温度が36〜38℃(中温発酵)、53〜55℃(高温発酵)と比較的高温であるため、予め加温する必要がある。一方、好気性処理の適正温度は30℃程度であるため、嫌気性処理が終わった排水を冷却する必要がある。図8(c)は好気性処理のみを行う例を示したものであり、好気性処理の最適温度である30℃程度まで、排水が加温される。
【0041】
図8(d)は排水をストリッピング処理するプロセスを示している。ストリッピング処理とは、遊離アンモニアに蒸気や空気を吹き込んで、遊離アンモニアを排水中から除去する処理である。この処理は排水が比較的高温で供給されることが望ましいため、ストリッピング装置の入口側に加熱ポイントが設けられている。
【0042】
以上説明した嫌気性処理、好気性処理及びストリッピング処理が終了した後は、排水の温度調整は不要である。しかし、他の加熱ポイントにおいて必要とされる熱量を得るために、上記処理を受けた排水から必要に応じて吸熱することができる。そこで、これらの装置の出口側に、吸熱が可能なポイントであるという意味で冷却ポイントが設けられている。また、これらのポイントを逆に、必要に応じてヒートポンプにて吸熱した熱の排出先として利用してもよい。
【0043】
図8(e)は、超純水が使用されたシステムから回収された排水の処理システムを示している。使用可能な排水としては、例えば半導体製造の際にウエハのリンスで用いた純水など、比較的清浄なものが挙げられる。排水は、過酸化水素が混合された後に紫外線酸化装置101に送られ、主に排水中のTOC(total organic carbon)成分が除去される。次に排水は、冷却ポイント102で冷却された後、活性炭塔103で有機物や臭気成分を除去され、イオン交換装置104に送られる。紫外線酸化装置101では、排水が数時間滞留し、温度がかなり上昇することがある。そこで、紫外線酸化装置101の出口側に冷却ポイント102が設けられている。
【0044】
図9は、以上説明した装置のうち、図8(a)で説明した超純水製造装置と図8(e)で説明した排水処理システムを一つの水処理システムとして構成した例を示している。個々の要素については上述の説明を参照されたい。
【0045】
図10は、水処理システムのメンテナンスの際に熱水殺菌を行う場合のプロセスを示している。ここでは、処理水を軟化(CaイオンやMgイオンの除去)し、活性炭処理して原水とし、その原水をRO膜装置、イオン交換装置(電気式脱イオン水製造装置(EDI))に通した後に、フィルタ処理と紫外線酸化を行うシステムの例を示している。図10(a)は活性炭とRO膜を熱水殺菌する場合の例であり、通常時にはラインから隔離されている熱水源をラインに接続し、熱水源から破線で示すルートで熱水を供給し、RO膜装置と活性炭塔とが熱水殺菌される。処理が終了すると、熱水は冷却されて排水される。図10(b)はEDI、フィルタ及び紫外線酸化装置を熱水殺菌する場合の例であり、通常時にはラインから隔離されている熱水源(加熱熱交)をラインに接続し、熱水源から破線で示すルートで熱水を供給し、EDIが熱水殺菌される。処理が終了すると、熱水は冷却されて排水される。
【0046】
図8〜10においては排熱配管区間と吸熱配管区間を太線で示しているが、以上説明したように、水処理システムにおいては通常運転時、メンテナンス時を問わず、様々な排熱配管区間及び吸熱配管区間が存在している。
【0047】
次に、以上説明した水処理システムを、実施例によってさらに詳細に説明する。図11は図1のA部を切り出して示した模式図である。図11(a)は従来技術に従い、排熱配管区間と吸熱配管区間を別々の装置(例えば熱交換器)で加熱冷却する場合を示している。以降の説明では、排熱配管区間を流れる流体の流量は100t/h(毎時トン)、加熱前の水温は288K、加熱後の温度は298Kとし、吸熱配管区間を流れる流体の流量は100t/h(毎時トン)、冷却前の水温は303K、冷却後の温度は298Kとする。水の比熱は4.2J/g・Kとする。
【0048】
以上の条件で必要エネルギーを求めると、排熱配管区間での必要エネルギーは約1.17×103kW、吸熱配管区間での必要エネルギーは約5.8×102kWであり、合計約1.8×103kWのエネルギーが必要となる。
【0049】
図11(b),(c)は、本発明に従い、ヒートポンプによって吸熱配管区間から吸熱し、排熱配管区間に排熱する場合を示しており、各々図5,6に対応している。図11(b)は、吸熱側の必要除熱量でヒートポンプ21(図中ではHP1と表記)のコンプレッサの容量を決定し、排熱側で不足する熱量を第2のヒートポンプ27(図中ではHP2と表記)で補う構成である。図11(c)は排熱側の必要熱量でコンプレッサ21の容量を決定し、吸熱側では一部の熱を大気から吸熱する構成である。ここでは、水温15℃〜25℃の範囲でのヒートポンプ21,27の成績係数は、加温で5、冷却で4とした。
【0050】
図11(b)の場合(実施例1)、吸熱側で必要な除熱量約5.8×102kWを得るための必要コンプレッサ能力は約1.46×102kWである。このコンプレッサ能力では、排熱側で約7.3×102kWの排熱量が得られる。排熱側における実際に必要な排熱量約1.17×103との差分(約4.4×102kW)は第2のヒートポンプ27で補われる。第2のヒートポンプの必要コンプレッサ能力は約0.88×102kWであり、合計約2.3×102kWの電気エネルギーが必要となる。これは図11(a)に示す比較例(従来例)の1/7である。
【0051】
同様に、図11(c)の場合(実施例2)、排熱側での必要な排熱量約1.17×103を得るための必要コンプレッサ能力は約2.3×102kWである。このコンプレッサ能力では、吸熱側は必要な除熱量約5.8×102kW以上に除熱されることになるが、余剰分は大気冷却に用いられる。よって、必要電気エネルギーは図11(b)の場合と同様、約2.3×102kWとなる。
【0052】
なお、参考例として、図11(a)の場合で、加熱及び冷却をヒートポンプを用いて行う場合、加熱側における必要な加熱量約1.17×103と冷却側で必要な除熱量約5.8×102kWは各々別のヒートポンプでまかなわれる。加熱側のヒートポンプの必要コンプレッサ能力は約2.3×102kW、冷却側のヒートポンプの必要コンプレッサ能力は約1.5×102kWであるから、合計約3.8×102kWの電気エネルギーが必要となる。従って、比較例よりは有利であるが、実施例と比べると60%以上消費エネルギーが多い結果となった。以上をまとめて表1に示す。
【0053】
【表1】
【符号の説明】
【0054】
1〜6 第1〜6の装置
11,13 第1,第3の配管(吸熱配管区間)
12,14 第2,第4の配管(排熱配管区間)
21,21’,21” ヒートポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の装置と、
互いに隣接する前記複数の装置同士を接続する複数の配管区間と、
少なくとも1つの前記配管区間を吸熱配管区間として該吸熱配管区間から吸熱し、該吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の前記配管区間を排熱配管区間として、該排熱配管区間に排熱するヒートポンプと、
を有する、水処理システム。
【請求項2】
前記吸熱配管区間からの吸熱の不足もしくは過剰な吸熱、または前記排熱配管区間への排熱の不足もしくは過剰な排熱を補償するために、前記吸熱配管区間または排熱配管区間を加熱または除熱する手段、または水処理システムの系外と熱を授受する手段を有する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記手段は第2のヒートポンプである、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記吸熱配管区間は複数個所設けられ、該複数の吸熱配管区間と前記ヒートポンプとの間に、該複数の吸熱配管区間からの吸熱を前記ヒートポンプに伝達する第1の中間ループを有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記排熱配管区間は複数個所設けられ、該複数の排熱配管区間と前記ヒートポンプとの間に、前記ヒートポンプからの排熱を該複数の排熱配管区間に伝達する第2の中間ループを有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記ヒートポンプは蒸気圧縮式、吸収式、吸着式、熱電子式または化学式のいずれかである、請求項1から5のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項7】
複数の装置と、互いに隣接する前記複数の装置同士を接続する複数の配管区間と、を有する水処理システムを用いた水処理方法であって、
ヒートポンプによって、少なくとも1つの前記配管区間を吸熱配管区間として該吸熱配管区間から吸熱し、該吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の前記配管区間を排熱配管区間として該排熱配管区間に排熱することを含む、水処理方法。
【請求項1】
複数の装置と、
互いに隣接する前記複数の装置同士を接続する複数の配管区間と、
少なくとも1つの前記配管区間を吸熱配管区間として該吸熱配管区間から吸熱し、該吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の前記配管区間を排熱配管区間として、該排熱配管区間に排熱するヒートポンプと、
を有する、水処理システム。
【請求項2】
前記吸熱配管区間からの吸熱の不足もしくは過剰な吸熱、または前記排熱配管区間への排熱の不足もしくは過剰な排熱を補償するために、前記吸熱配管区間または排熱配管区間を加熱または除熱する手段、または水処理システムの系外と熱を授受する手段を有する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記手段は第2のヒートポンプである、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記吸熱配管区間は複数個所設けられ、該複数の吸熱配管区間と前記ヒートポンプとの間に、該複数の吸熱配管区間からの吸熱を前記ヒートポンプに伝達する第1の中間ループを有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記排熱配管区間は複数個所設けられ、該複数の排熱配管区間と前記ヒートポンプとの間に、前記ヒートポンプからの排熱を該複数の排熱配管区間に伝達する第2の中間ループを有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記ヒートポンプは蒸気圧縮式、吸収式、吸着式、熱電子式または化学式のいずれかである、請求項1から5のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項7】
複数の装置と、互いに隣接する前記複数の装置同士を接続する複数の配管区間と、を有する水処理システムを用いた水処理方法であって、
ヒートポンプによって、少なくとも1つの前記配管区間を吸熱配管区間として該吸熱配管区間から吸熱し、該吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の前記配管区間を排熱配管区間として該排熱配管区間に排熱することを含む、水処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−245413(P2011−245413A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120696(P2010−120696)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
[ Back to top ]