説明

水処理用平膜上の欠点補修方法および欠点補修装置

【課題】水処理用途の中でも下水処理用浸漬型膜のように汚泥、汚れ物質などに膜が絶えず接する過酷な運転状況下でも、補修部分が崩れない強固な欠点補修方法と欠点補修装置を提供すること。
【解決手段】平面状基材の表面に有機高分子を主成分とする物質を塗布して製造した平膜の表面に発生した欠点に対して、該欠点部を圧着して、欠点孔を圧縮により密閉する水処理用平膜上の欠点補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に水処理用途に適用する平膜上に発生する欠点の補修装置および補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理用途に用いられる平膜は、一般に平面状基材の表面に有機高分子を主成分とする物質を塗布して塗布面を形成させて製造する方法がとられ、塗布面上においては塗布原液に添加される開孔剤等の作用により微細な孔を開孔させており、その孔径や孔密度に応じて様々なろ過機能を発揮することができる。
【0003】
膜の製造時には均一な膜を製造するための条件を設定するが、欠点の発生を完全に撲滅することは困難な場合が多い。平膜の欠点を解析するとさまざまな形態に分類されるが、その形態や発生頻度を解析すると解決すべき欠点は塗布面上に形成される塗布不良を主な原因とする孔状欠点であることがわかった。塗布面に形成する孔状欠点では、本来平膜上に構築する微細な孔径よりもはるかに大径の孔が塗布面上部から基材まで貫通しているので、ろか性能を悪化させる問題がある。基材側に孔が開いた場合にも欠点発生など不具合が生じるが、基材不良を原因とする欠点解決法は基材製造技術分野であるので対象がことなるので本発明の欠点補修の対象からは削除する。本発明での孔状欠点は塗布面上のみに発生した大きさが2cm以下の孔欠点に限定する。
【0004】
欠点が存在すると欠点を含む部位膜を検査除外する、あるいは欠点の補修対策が取られているが、欠点膜を検査除外する場合には欠点が不規則に分散する場合には膜全体を廃棄する場合もある。一般に孔状欠点は使用する膜面積に対して極めて小さな面積を占める場合が多く、廃棄するよりは欠点部を補修して膜を再生するようにしたい。
【0005】
欠点補修方法の公知例としては、接着剤を欠点部に塗布して欠点部を埋め込む方法がある(特許文献1−2)。接着剤を直接欠点孔に埋め込む場合やスプレー方式で欠点部に塗布する方法が知られている(特許文献3)。また、平膜を水処理時に使用する場合には平膜を支持板に固定して使用する場合が多く、平膜の周囲を接着剤などで支持板に固定して使用するが、欠点が存在する部分も、膜周囲ではないが、接着剤等で支持板に固定する方法が知られている(特許文献4)。
【0006】
特許文献1から特許文献4のどの場合も接着剤により欠点を封止する方法であり、手軽な補修方法として実用面で多用される方法である。しかし、特許文献1から特許文献4のいずれの補修方法でも、ろ過運転中に補修部分の接着剤がはがれ落ちる場合が多く、耐久性に課題を残す。
【0007】
その他の欠点補修方法には膜欠点部分に接着剤ではなく、テープやシール状物質を張り付ける方法が知られているが、同じくろ過運転条件によっては張り付けたテープやシール状物質がはがれてしまう場合が多く、欠点補修方法として利用できる場合が限定される。
【0008】
例えば水処理用途での浸漬型平膜のように平膜を原水中に沈降させて使用する場合、膜面が直に原水中の不純物に接触するので、補修部分は苛酷な環境にさらされる。土砂接触などの過酷な環境下においても補修部分が崩れない強固な補修方法が求められている。
【特許文献1】特開昭50−017377号公報
【特許文献2】特開昭62−227409号公報
【特許文献3】特開昭63−084606号公報
【特許文献4】特開平11−300384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、例えば、水処理用途の中でも下水処理用浸漬型膜のように汚泥、汚れ物質などに膜が絶えず接する過酷な運転状況下でも、補修部分が崩れない強固な欠点補修方法と欠点補修装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成する本発明の水処理用平膜上の欠点補修方法は、以下の(1)の構成からなる。
(1)平面状基材の表面に有機高分子を主成分とする物質を塗布して製造した平膜の表面に発生した欠点に対して、該欠点部を圧着して、欠点孔を圧縮により密閉することを特徴とする水処理用平膜上の欠点補修方法。
【0011】
また、かかる本発明の水処理用平膜上の欠点補修方法において、具体的に好ましくは、以下の(2)の方法である。
(2)圧着を、熱圧着により行なうことを特徴とする上記(1)記載の水処理用平膜上の欠点補修方法。
【0012】
また、上述した目的を達成する本発明の水処理用平膜上の欠点の補修装置は、以下の(3)の構成からなる。
(3)水処理用平膜上の欠点を補修する装置において、欠点部を含む平膜を上下から挟み込んで圧着するように構成したことを特徴とする水処理用平膜上の欠点の補修装置。
【0013】
また、かかる本発明の水処理用平膜上の欠点の補修装置において、具体的により好ましくは、以下の(4)または(5)の構成からなる。
(4)圧着を熱圧着により行なうものであり、熱圧着時の加熱を前記水処理用平膜の有機高分子物質塗布面側の圧着部分にのみ行うように構成され、基材側を圧着する面は加熱しない構成であることを特徴とする上記(3)記載の水処理用平膜上の欠点の補修装置。
【0014】
(5)熱圧着時の加熱部分の加熱温度が、前記水処理用平膜に塗布されている有機高分子物質を構成する主要物質の融点から上下50℃の範囲内であることを特徴とする上記(3)または(4)記載の水処理用平膜上の欠点の補修装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の補修方法を用いることにより、欠点を有しない平膜と同等な高い阻止率を示す膜に補修再生することができる。
【0016】
また、公知の補修方法では補修が傷む過酷な運転条件下においても、本発明の補修方法は強固であり安定に平膜を使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の水処理用平膜上の欠点補修方法は、たとえば図1に示す欠点補修装置を用いて実施することができる。
【0018】
図1に示す欠点補修装置は、a部とb部が圧着面であり、平膜1の上下から挟み込む構造となっており、a部には加熱装置が具備されており一定温度範囲に加熱設定できる構造になっている。また、広い平膜上の欠点部をピンポイントで圧着できるようにするために、a部とb部は平膜上の塗布面を自由に移動できる構造となっている。図1の(a)は概略モデル側面図、(b)は概略モデル平面図である。
【0019】
圧着時にはa部とb部が一定圧力で平膜を上下からプレスして、欠点部がプレスにより押し潰されながら欠点孔を塞ぐ形状となり、孔欠点を消失することができる。
【0020】
ここで、a部を加熱して塗布面側を熱圧着方式とすると補修部位をより強固に塞ぐことができる。
【0021】
熱圧着効果は、1)塗布面を加熱することにより柔らかくしてプレスをしやすくする、2)塗布面の主要構成物質を加熱により一部溶融してプレスした形態で平膜塗布面を固化固定することで欠点孔の再開孔を防止する、2点である。2)に関しては、適用する膜の主要構成物質の物性にも依存するので、必ずしも全ての平膜に適用できる効果ではないが、平膜構成成分である基材と塗布面物質の物性に応じて加熱温度を調整することにより、基材には熱履歴を与えないで塗布面表面の欠点部のみをうまく補修することができる。
【0022】
本発明により行われる補修の実際を図1に示す欠点補修装置を用いて、ポリエステルを素材とした基材表面にポリフッ化ビニリデンを塗布した平膜を例にして説明する。
【0023】
該平膜における孔欠点は、一般に、ポリフッ化ビニリデン塗布面表面に1〜4mm大の孔欠点が開孔し、孔は基材側まで貫通しているものである。ここで、図1に示す欠点補修装置のa部とb部を欠点が存在する平膜の上下から挟み込み、できる限り圧着面の中央部に欠点部位が位置するようにセットし、a部とb部を近づけて膜を挟み込み圧力を付与して欠点部を押しつぶす。ここで、a部をあらかじめ190℃に加熱しておき、1〜2kg/cmの圧力で1〜3秒間の時間で圧着すると、補修前には塗布表面で確認された孔欠点が補修後には孔状欠点の痕跡が見られなくなった。
【0024】
本発明の補修装置の好ましい態様を説明すると、図1のa部とb部は直径1〜3cmの円形、あるいは1〜3cm長の四角形状が好ましく、補修対象となる欠点径に対して3〜10倍の大きさが好ましく、10倍以上大きな補修面では無欠点正常膜部分も補修により潰してしまうので好ましくない。圧着面a部の加熱温度は、塗布面の素材物性にもよるが、70℃〜400℃が好ましく、より好ましくは100℃〜280℃である。圧着時の圧力は基材を傷めないように制御する必要があり、0.2〜50kg/cmの圧力が好ましい。圧着時間は0.5秒〜30秒の範囲が好ましい範囲である。平膜基材と塗布面物質の物性からa部の加熱温度、圧着圧力と圧着時間を設定するが、実際には孔欠点をいくらか補修テストして加熱温度、圧着圧力および圧着時間を設定することが好ましい。塗布部分の物質が、ポリスルホンの場合には圧着面a部の加熱温度は140〜250℃が好ましく、ポリフッ化ビニリデンの場合には、圧着面a部の加熱温度は160〜250℃が好ましい。
【0025】
本発明の補修方法により補修した部分の微粒子阻止能力を0.09マイクロメートル大のポリスチレンラテックスを分散させた原液を用いて測定した。補修部分を含む膜部の阻止率は、99%以上の阻止率であり、欠点のない正常膜とほぼ同等な阻止率まで回復することがわかった。また、バブルポイント測定法により補修部位を含む膜と欠点のない正常膜を各々比較すると補修部は正常膜部とほぼ同等なバブルポイント測定値を示しており、補修前と比較して欠点孔は強固に塞がれたことが示された。
【0026】
欠点補修部位の強度は、砂を含有する水中で膜を攪拌させる後述の実施例4記載の試験法により比較して高い外力耐久性を示し、従来知られている補修法によって補修した膜と比較して外力耐久性が向上していることがわかった。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1
200ミクロンメートル厚のポリエステルを成分とする平膜基材の表面に対して、ポリフッ化ビニリデンが溶解した溶液を塗布して100ミクロンメートル厚のポリフッ化ビニリデン層を形成させた平膜を目視で観察すると、塗布表面に長径3mm、短径1.5mmの孔欠点が散在していることが確認された。
【0028】
ここで該孔欠点に対して、図1にモデルを示した欠点補修機を用いて補修した。補修装置の条件は、a部を200℃に加熱し、圧着は1kg/cmの圧力で2秒間熱圧着する条件で実施した。熱圧着後は、圧着面から欠点補修機のa面を10cm離し、30秒間圧着面が他物質に触れないようにした。補修面では塗布面が押し込まれた構造となり、塗布厚は圧着前の100ミクロンメートルから圧着後には30ミクロンメートルまで押し込まれていた。孔欠点は、補修前には目視でもはっきり確認できたが補修後には確認できず、均一な膜表面となっていた。
実施例2
90ミクロンメートル厚のポリエステル基材の表面にポリスルホンが溶解した溶液を塗布して50ミクロンメートル厚のポリスルホン層を形成させた平膜を観察すると、塗布表面には直径0.1mmの孔欠点が確認された。この孔欠点を図1にモデルを示した欠点補修機を用いて補修した。補修時の条件は、a部を150℃に加熱し、3kg/cmの圧力で3秒間熱圧着する条件で実施した。熱圧着後は、圧着面から欠点補修機のa面を10cm離して1分間圧着面が他物質に触れないようにした。補修前には孔欠点が20倍顕微鏡ではっきり確認できたが、補修後には20倍顕微鏡では孔を確認できず、欠点孔が補修により消失していることがわかった。
実施例3
補修前後の膜のバブルポイントの測定は、図2にて記載し説明する方法を用いた。平膜を図2のA部に設置できるように円形に切り取り、切り取った膜をA部にセットした。装置の膜上面部(B部)には純水を満たしておき、膜の裏面部(C部)から空気をはじめは1kPaの圧力から付与し、15秒間で5kPa上昇する割合に徐々に空気圧を上昇させてゆき、膜表面部(B部)から膜面を通して発生した気泡を確認した時点で空気圧の上昇を停止し、その時点での空気圧を圧力計から読みとった。
【0029】
実施例1記載の膜の欠点補修前と欠点補修後、および実施例1記載の膜の欠点を有しない膜を比較対照として、合計3種類の膜でバブルポイントを測定した結果を表1に記載した。
【0030】
欠点膜では孔部分を通して弱い空気圧でも膜裏面から膜表面に空気を通してしまうが、欠点孔をふさいだ補修膜ではバブルポイントは正常膜付近まで向上していることがわかる。
【0031】
【表1】

【0032】
比較例1
実施例1と同一の平膜および孔欠点に対して、2液混合型エポキシ接着剤(セメダイン(株)製品)を欠点孔および孔から1cm部位に埋め込み塗布し、塗布後1時間静置すると接着剤塗布部分が固化した。2液混合型エポキシ接着剤の調製方法は、取り扱い説明書記載の方法に準じて2液を混合して調製した。
実施例4
実施例1と比較例1で補修した各各の補修部位の耐久性を評価した。1000mlビーカーに500mlの水、次いで、20gの砂とマグネット攪拌子を添加し、その後実施例1と比較例1の補修膜(補修部分を含む5cm角の大きさに膜を切断)を添加した。ビーカーをスターラー上に置き、スターラーを回転させるとビーカー内容物がマグネット攪拌子の回転にあわせて攪拌を開始し、砂が水中で巻き上がった状況下で補修膜が攪拌されるまで攪拌を調整した。そのまま2時間攪拌を継続後に攪拌を停止して膜を取り出して表面を観察すると、実施例1の補修膜では塗布表面が砂で擦過された跡は確認されたが、補修部分では孔欠点は確認されなかった。比較例1の膜では同じく塗布面が砂による擦過が確認され、同時に補修部分である接着剤盛りつけ部分が膜面から剥がれ落ちており、孔欠点が確認された。
【0033】
次に、目視観察後の実施例1と比較例1の砂攪拌履歴膜を実施例3と同一の方法によりバブルポイントを測定し、その結果を表2に記載した。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1の補修膜では、砂攪拌による表面こすれを原因とするバブルポイント低下を確認したが、補修部位からの気泡発生は確認されなかった。つまり、補修部位の損傷は確認されなかった。比較例1では、補修脱落部から気泡発生が低い空気圧の時点から確認された。つまり、補修部位はほぼ補修前のバブルポイントに戻っていた。
実施例6
平均粒径0.09ミクロンメートルのポリスチレンラテックス微粒子(公称孔径0.088ミクロンメートル、標準偏差0.0062ミクロンメートル)を20ppmになるように水に分散させた原液を調製した。図2のA部に膜をセットし、装置の膜上面部(B部)から評価圧力10kPaで原液を攪拌させながら通液させた。膜の裏面部(C部)にて膜を通過した液を採取し、UV(245nm)測定器にて採取液の吸光度を測定した。阻止率は下記式により算出した。
【0036】
阻止率(%)=(膜の裏面部(C部)にて膜を通過した液の吸光度)/(原液の吸光度)×100
無欠点正常膜と実施例1の補修膜の阻止率は99%以上であったが、実施例1の補修前の膜では65%の阻止率しかなかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一態様である欠点補修装置の概略モデル図であり、図1の(a)は概略モデル側面図、同(b)は概略モデル平面図である。
【図2】実施例で用いたバブルポイント測定と阻止率測定に使用した装置の概要モデル図である。
【符号の説明】
【0038】
1:水処理用平膜
a:加熱圧着面
b:非加熱圧着面
A:平膜
B:気泡確認部(バブルポイント)または原液添加部(阻止率)
C:空気送り部(バブルポイント)または透過液採取部(阻止率)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状基材の表面に有機高分子を主成分とする物質を塗布して製造した平膜の表面に発生した欠点に対して、該欠点部を圧着して、欠点孔を圧縮により密閉することを特徴とする水処理用平膜上の欠点補修方法。
【請求項2】
圧着を、熱圧着により行なうことを特徴とする請求項1記載の水処理用平膜上の欠点補修方法。
【請求項3】
水処理用平膜上の欠点を補修する装置において、欠点部を含む平膜を上下から挟み込んで圧着するように構成したことを特徴とする水処理用平膜上の欠点の補修装置。
【請求項4】
圧着を熱圧着により行なうものであり、熱圧着時の加熱を前記水処理用平膜の有機高分子物質塗布面側の圧着部分にのみ行うように構成され、基材側を圧着する面は加熱しない構成であることを特徴とする請求項3記載の水処理用平膜上の欠点の補修装置。
【請求項5】
熱圧着時の加熱部分の加熱温度が、前記水処理用平膜に塗布されている有機高分子物質を構成する主要物質の融点から上下50℃の範囲内であることを特徴とする請求項3または4記載の水処理用平膜上の欠点の補修装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−93548(P2008−93548A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277197(P2006−277197)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】