説明

水処理用担体の調達支援システム

【課題】 活性の高い担体を容易に調達するための水処理用担体の調達支援システムを提供する。
【解決手段】 微生物を固定化した担体を使用している既設処理場での既設担体情報20A,20B,20C,……を複数の既設処理場A,B,C,……について格納した格納部14と、前記担体を新規に必要とする新規処理場での新規担体情報22を入力可能な入力部と、この入力部に入力された前記新規担体情報22と前記格納部に格納された既設担体情報20A,20B,20C,……とを対照し、新規担体の必要量を賄うために前記各既設処理場A,B,C,……が供出する担体割り当て量を算出する演算部16と、この演算部16の算出結果を出力する出力部18とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水処理用担体の調達支援システムに係り、特に、微生物を固定化した担体を用いる処理場を新設又は増強する際に好適な水処理用担体の調達支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
閉鎖系水域における富栄養化の問題に対処するために、流入廃水中の窒素を除去することが強く望まれている。窒素は主にアンモニア性窒素の形態で下水や各種産業廃水に含まれる。廃水中のアンモニア性窒素を除去する方法としては、生物学的な方法が一般に採用されている。この方法は硝化細菌を用いてアンモニア性窒素を亜硝酸や硝酸に酸化し、次に脱窒細菌を用いて亜硝酸や硝酸を窒素ガスに変換して除去する。又は嫌気性アンモニア酸化細菌によってアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素を同時に窒素ガスに変換して除去する方法も行われている。
【0003】
硝化細菌や嫌気性アンモニア酸化細菌は増殖速度が遅いため、安定した窒素除去を行うためには、反応槽では窒素負荷が0.2〜0.4kg-窒素/m/日の範囲の低負荷運転を行う必要があり、反応槽の大型化を招く。この対策として、硝化細菌や嫌気性アンモニア酸化細菌を固定化した担体を反応槽に投入して細菌を高濃度に保持する方法が普及しつつある。この方法によれば反応槽を小型化した高速処理が可能となる。なお、担体としてはプラスチック等の表面にこれらの微生物を付着させたもの、高分子ゲル中に微生物を固定化させたもの、グラニュール状の自己造粒体などがある。
【0004】
微生物の付着固定の方法として固定床を用いることができる。固定化材料としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニールなどのプラスチック素材や活性炭などが挙げられるが特に限定されない。担体の形状としては繊維状、菊花状、ハニカム状に整形したものなどがある。固定床の空隙率が80%以上にすることが好ましい。また、流動性のある付着担体としても用いることができる。素材としては、ポリビニールアルコールやアルギン酸、ポリエチレングリコールのゲルや、セルソース、ポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニールなどのプラスチックなどが挙げられるが特に限定されない。担体の形状としては球形や円筒形、立方体、スポンジ状、ハニカム状に整形したものを用いることが好ましい。
【0005】
硝化細菌や嫌気性アンモニア酸化細菌ばかりでなく、有機物分解細菌、環境ホルモン分解細菌などを高濃度に保持して高速処理するために、これらの微生物を固定化した担体が実用規模で使用され、又は研究開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
ところで、この種の担体を用いた処理場では、その新設計画が具体化し除去すべき有害成分が明確になると、目的有害成分の除去に最も適した微生物が選定される。そして、当該微生物を固定化するための担体又は微生物を包括固定化した担体が処理場の建設工程に合わせて予め担体製造工場で製造される。処理場が竣工すると反応槽に当該微生物と担体とを投入して、必要に応じて担体に微生物を付着させた後に運転に入る。また、当該微生物を高分子ゲルに包括固定化した後に運転に入ることもある。このように、運転を開始する際には当該微生物を固定化した担体を予め短期間に、かつ多量に用意する必要がある。
【特許文献1】特許第3389811号公報
【特許文献2】特許第3514360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、微生物を固定化した担体を限られた期間内に多量に確保することは困難であり、運転の開始が遅れることがあった。特に嫌気性アンモニア酸化細菌は増殖速度が極めて遅く、必要量の確保が重要な課題であった。
本発明の目的は、上記従来後術の問題点を改善し、活性の高い担体を容易に調達するための水処理用担体の調達支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る水処理用担体の調達支援システムは、微生物を固定化した担体を使用している既設処理場での既設担体情報を複数の既設処理場について格納した格納部と、前記担体を新規に必要とする新規処理場での新規担体情報を入力可能な入力部と、この入力部に入力された前記新規担体情報と前記格納部に格納された既設担体情報とを対照し、新規担体の必要量を賄うために前記各既設処理場が供出する担体割り当て量を算出する演算部と、この演算部の算出結果を出力する出力部とを具備したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る水処理用担体の調達支援システムは、前記演算部では前記新規処理場との距離が近い既設処理場を優先的に担体の供出先として選択することを特徴とする。
前記既設担体情報はインターネットを介して前記データベースに格納させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規処理場で必要とする新規担体の必要量を賄うために、同様の担体を使用している既設処理場に当該担体の供出を割り当てることができる。この担体割り当てを実行すれば、新規処理場では活性の高い担体を必要な時期に随意に調達可能となる。このため、新規処理場での運転の立ち上げを早めることが可能になる。
【0011】
供出先である既設処理場を新規処理場との距離が近い順序で選択すると、担体の運搬コストを低減できる。また、近距離の既設処理場から供出された担体は新規処理場の気候環境が類似しているので、新規処理場で使用した場合にも適応性が比較的優れている。
さらに、前記既設担体情報をインターネットを介して格納部に格納すれば、微生物固定化担体を使用している多数,多様の既設処理場の既設担体情報を全国的なレベルで有機的に結合することができる。このため、新規処理場が必要とする新規担体の調達を迅速,かつ最適に支援することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明に係る水処理用担体の調達支援システムの実施形態を示すブロック図である。調達支援システム10は入力部12と格納部14と演算部16と出力部18とによって構成される。入力部12には複数の既設処理場A,B,C,……で使用している微生物固定化担体に関する既設担体情報20A,20B,20C,……がそれぞれ入力部12を介して入力され、これらの既設担体情報20A,20B,20C,……は格納部14に格納される。既設担体情報には図2に示したような各既設処理場に関する一般情報(処理場名,処理場の所在地,処理水量,被処理水の種類,除去目的物とその濃度,平均水温,反応槽の有効容量など)及び当該既設処理場で使用している担体情報(タイプ・比表面積,固定化微生物,反応槽に対する担体の充填率,充填量,負荷,活性,1回当たりの担体抜き出し率,1回当たりの担体抜き出し量,新担体の馴養日数,担体供出能力など)が含まれる。なお、担体の充填量とは、当該既設処理場で現に使用されている担体の量であり、通常は充填量=(反応槽の有効容量)×(反応槽に対する担体の充填率)で計算される。
【0013】
また、入力部12には担体を新規に必要とする新規処理場での新規担体情報22が入力される。この新規担体情報22も前記既設担体情報20A,20B,20C,……と同様に図2に示したような一般情報(処理場名,処理場の所在地,処理水量,被処理水の種類,除去目的物,平均水温,反応槽の有効容量など)及び当該新規処理場で使用する予定の担体情報(タイプ・比表面積,固定化微生物,反応槽に対する担体の充填率,充填量,負荷など)が含まれる。なお、新規担体情報22には上記以外に新規担体の必要量と必要時期も併せて入力される。新規担体の必要量とは当該新規処理場で使用する予定の担体充填量の内、既設処理場から新規に調達する予定の担体量を意味している。新規処理場が既設である場合には、当該処理場で現に使用している担体以外に別の既設処理場から新規に補充したい担体量を意味しており、担体充填量に対して新規担体必要量は100%以下の適宜な比率となる。
【0014】
演算部16では入力部12に入力された新規担体情報22と格納部14に格納された既設担体情報20A,20B,20C,……とを対照し、新規担体の必要量を賄うために前記各既設処理場が供出する担体割り当て量を算出する。図3は演算部16での処理手順を示すフローチャートである。演算部16では、まず新規担体情報22の中から、担体に関する基本項目として被処理水の種類,除去目的物,担体のタイプ・形状寸法,固定化微生物を抜き出す。そして、これらの項目について既設担体情報20A,20B,20C,……と対照する(S100)。上記基本項目のすべてが一致している既設処理場を一次選択する。すなわち、上記基本項目の内、一つでも一致しない既設処理場の担体は新規処理場が必要としている担体として不適当なので、担体の供出先から除外する。
【0015】
通常、上記一次選択によって基本項目のすべてが一致している複数の既設処理場がピックアップされる(S110)。次いで、演算部16ではピックアップした各既設処理場の所在地と新規処理場の所在地と所蔵した地図データベースに基づいて、各既設処理場と新規処理場との距離をそれぞれ算出し、当該距離が短い順(近距離順)に既設処理場をソーティングする(S120)。なお、距離は直線距離が便利であるが、担体を輸送するための道路距離で算定してもよい。
【0016】
次いで、前記距離が最も短い既設処理場について、当該既設処理場が供出可能な担体割り当て量を算出する(S130)。次に、前記距離が2番目に短い既設処理場についても担体割り当て量を算出し、1番目と2番目の担体割り当て量を加算する(S140)。以下、同様に新規処理場との距離が短い順に担体割り当て量の算出と加算を行い、加算値が新規処理場での新規担体の必要量を満足するまで繰り返す(S150)。加算値が担体必要量を満足すると計算を打ち切り、各既設処理場が供出する担体割り当て表を作成する(S160)。演算部16で作成した担体割り当て表は出力部18から出力することができる。
担体割り当て量の算出は当該既設処理場における担体供出能力に基づいて行われる。既設処理場における担体供出能力は通常、当該既設処理場の反応槽内で使用されている担体の充填量に密接に関係している。
【0017】
図4は既設処理場における担体の状況を示した説明図である。反応槽30内には微生物を固定化した担体32が所定の充填率で充填されている。反応槽30の一側から流入した被処理水34は反応槽30内で所定時間、担体32と接触する。その結果、被処理水34中の除去目的成分である有害物質が担体32に固定化された微生物の生物学的な作用によって除去される。有害物質の除去によって浄化した処理水36は反応槽30の他側から排出される。被処理水34がアンモニア含有廃水であり、除去目的成分が窒素成分である場合、担体32として例えば嫌気性アンモニア酸化細菌を固定化したものが用いられる。また、担体32として硝化細菌や脱窒細菌を固定化したものが用いられる場合もある。そして、これらの各種の微生物が被処理水34中の除去目的成分を除去するとともに、除去目的成分を栄養源として担体内又は担体表面で増殖する。その結果、担体32の活性が継続的に高く維持される。
【0018】
反応槽30に対する担体32の充填率は一般に10〜25%とされる。例えば反応槽30の有効容量が100mであり、担体32の充填率が20%であると、当該既設処理場における担体32の充填量は100m×20%=20mである。この種の既設処理場では反応槽30の有効容量や担体32の充填量が安全サイドに設計されており、処理能力に余裕がある。したがって、反応槽30内の活性が高い担体32の一部を適量に抜き出しても有害物質の除去性能に左程の悪影響を与えない。抜き出した活性の高い担体32は新規に担体を必要とする新規処理場向けの担体として利用することができる。なお、抜き出した担体32は湿潤状態を保ちつつ、5℃程度の温度環境に置けば、1年程度は活性を高く維持したままで保存できる。
【0019】
1回当たりの担体32の抜き出し量は上記充填量に対して通常3〜5%とする。担体32の抜き出し量が過大であると、反応槽30内の担体量が不足し、有害物質の除去性能に悪影響を及ぼす。したがって、処理能力の余裕が大きい場合には担体32の抜き出し量を充填量に対して5%程度、処理能力の余裕が比較的小さい場合には充填量に対して3%程度とする。担体32の充填量が20mの場合で、1回当たりの担体32の抜き出し率を4%とすると、1回当たりの担体32の抜き出し量は0.8mと計算される。
【0020】
図4において担体32を反応槽30から抜き出すと、反応槽30内の担体量がその分、減少する。したがって、抜き出した担体量に見合う量の新担体32Aを反応槽30に補充する。この新担体32Aは例えば担体製造工場で製造されたままの担体であり、微生物が固定化されていないか又は固定化されていても微生物数が著しく少なく、活性が低い担体である。この活性が低い新担体32Aは反応槽30内で在来の担体32と混合され、被処理水と接触する。この被処理水との接触過程で新担体32Aには次第に微生物が付着,増殖し、新担体32Aは馴養される。30〜60日程度の馴養日数を経ることによって新担体32Aの活性が次第に高まり、在来の担体32と同レベルの活性を持つに至り有害物質の除去性能を存分に発揮する。
【0021】
したがって、新担体32Aの活性が在来の担体32と同レベルに達した時点では新担体32Aと在来の担体32との区別が実質的になくなり、次の担体32の抜き出し操作が可能となる。以下、同様の手順で(担体32の抜き出し)→(新担体32Aの補充)→(新担体32Aの馴養)を繰り返すことによって、活性の高い担体32の抜き出しを実施することができる。上記新担体32Aの馴養日数が40日であれば、40日に1回の頻度で担体32の抜き出しが可能になる。前記した1回当たりの担体32の抜き出し量が0.8mの例では、1日に換算して0.8m÷40日=0.02m/日で担体32の抜き出しが可能になる。この担体32の抜き出し可能量がとりもなおさず当該既設処理場における担体供出能力である。
【0022】
図2に示したように既設担体情報20A,20B,20C,……には、それぞれの既設処理場の実情に応じた担体供出能力を示す情報が含まれる。したがって、演算部16では各既設処理場の担体供出能力と新規担体情報22に含まれた新規担体の必要量と必要時期に基づいて、各既設処理場が供出する担体割り当て量を算出することができる。
【0023】
図5は演算部16での担体割り当て量の計算過程を例示した説明図であり、図5の上段表は新規担体情報22から抽出した主要情報を示し、下段表は各既設処理場での担体割り当て量の計算過程を示している。上段表から新規処理場では反応槽の有効容量が200m、充填率が15%であるから担体の充填量が30mであることが判る。この担体の充填量の100%を各既設処理場から調達する場合には、新規担体の必要量も30mである。担体の必要時期は新規処理場の建設工事が竣工して試運転が開始される時期である。供出操作可能日数の180日は現時点から担体の必要時期までの日数から、各既設処理場において実際に担体の供出操作が開始できるまでの最短準備日数を差し引いた日数である。
【0024】
図5の下段表には既設処理場X〜Xが新規処理場との距離が近い順番に並んでおり、各既設処理場の担体供出能力が格納部14に格納された既設担体情報20A,20B,20C,……から導き出される。したがって、演算部16では、まず新規処理場との距離が最も近い既設処理場Xの担体供出能力0.02m/日に前記供出操作可能日数180日を乗算して、既設処理場Xの担体割り当て量3.6mを算出する。既設処理場Xについても同様に担体割り当て量7.2mを算出する。そして、下段表の右欄に示したように既設処理場XとXの供出加算値10.8mが算出される。既設処理場Xでは運転上の事情があり、供出操作可能日数を150日に短縮して担体割り当て量を算出する。以下、同様に既設処理場X,Xについても担体割り当て量と供出加算値を算出する。その結果、既設処理場Xでの担体割り当てによって、新規処理場での新規担体の必要量30mを満足する31.5mの調達が可能になったので、計算を打ち切る。
【0025】
次に、図3のステップS160で示したように、各既設処理場が新規処理場向けに供出する担体割り当て表を作成する。この担体割り当て表には図5とほぼ同様の内容が記載される。ただし、図5に示した例では既設処理場Xまでの供出加算値が必要量を1.5m上回っているので、既設処理場Xの担体割り当て量を算出値5.4mから1.5mを差し引いた3.9mとして担体割り当て表を作成する。又は、上回った1.5mを余裕量とみなして既設処理場Xの担体割り当て量を算出値とおりに5.4mとして担体割り当て表を作成してもよい。
【0026】
担体割り当て表は出力部18から出力することができる。したがって、この担体割り当て表を参照すれば、新規処理場で必要とする新規担体の供出先として既設処理場X〜Xが明らかとなる。また、各既設処理場X〜Xが供出する担体割り当て量がそれぞれの担体供出能力に応じて算出,表示されているので、無理のない調達計画を立案することができる。供出先である既設処理場X〜Xが新規処理場との距離が近い順序で選ばれているので、担体の運搬コストを低減できる。また、近距離の既設処理場から供出された担体は新規処理場の気候環境が類似しているので、新規処理場で使用した場合にも適応性が比較的優れている。
【0027】
図5に示した例では各既設処理場の担体供出能力に基づいて担体割り当て量を算出した。しかしながら、各既設処理場に関する既設担体情報に担体供出能力が含まれておらず、1回当たりの担体抜き出し率と新担体の馴養日数が判明している場合にも、各既設処理場の担体割り当て量を算出することができる。図6はこの場合の計算例を示している。図6の上段表は図5に示した例と同一である。図6の下段表には既設処理場Xの担体割り当て量の算定経過が示されている。反応槽の有効容量(200m)と反応槽に対する担体の充填率(10%)から担体の充填量(20m)が算定される。この担体の充填量(20m)に1回当たりの担体抜き出し率(4%)を乗算して、1回当たりの担体抜き出し量(0.8m)が算定される。また、担体抜き出し直後に補充した新担体の馴養日数が判明していると、上段表の供出操作可能日数(max180日)を新担体の馴養日数(40日/回)で除算することにより、供出操作可能回数(5回)が算定される。したがって、供出操作可能日数の期間中に既設処理場Xで供出できる担体量は、1回当たりの担体抜き出し量(0.8m)と供出操作可能回数(5回)を乗算することにより、4.0mと計算され、この値が既設処理場Xに対する割り当て量とされる。既設処理場X以下についても同様の手順で割り当て量を算出することができる。
【0028】
前記実施形態では既設担体情報20A,20B,20C,……に担体供出能力又は担体抜き出し率や新担体の馴養日数が含まれる場合について説明した。しかしながら、本発明では演算部16に各既設処理場の担体供出能力又は担体抜き出し率や新担体の馴養日数を算出する機能を持たせることもできる。担体供出能力の算出方法は前記したように、まず当該既設処理場で使用されている担体の充填量に1回当たりの担体抜き出し率(通常3〜5%)を乗算し、1回当たりの担体抜き出し量を求める。次に抜き出した担体に替えて補充した新担体が十分に活性を高めるまでの馴養日数(通常30〜60日)を求める。そして、担体供出能力は1回当たりの担体抜き出し量を馴養日数で除算することによって算出される。したがって、当該既設処理場で使用されている担体の充填量が既知であれば、上記1回当たりの担体抜き出し率と馴養日数を特定することによって当該既設処理場の担体供出能力を算出することができる。
【0029】
1回当たりの担体抜き出し率は当該既設処理場における運転余裕度に大きく依存する。設計水量に対して平均実測水量が少ないとその分、運転余裕度が大きい。また、被処理水中の除去目的物の設計濃度に対して実測濃度が低いとその分、運転余裕度が大きい。運転余裕度が大きい場合には担体の抜き出しによるダメージが相対的に小さくなるので、1回当たりの担体抜き出し率を大きくすることができる。したがって、既設担体情報20A,20B,20C,……に設計水量と平均実測水量,除去目的物の設計濃度と実測濃度に関する情報が含まれている場合には、これらの情報に基づいて演算部16では1回当たりの担体抜き出し率を算出することができる。
【0030】
図7は担体抜き出し率の算出例を例示した説明図である。設計水量が100で平均実測水量が80の時、当該既設処理場の水量余裕度は100/80=1.25である。また、設計濃度が100で実測濃度が70の時、当該既設処理場の濃度余裕度は100/70=1.43である。当該既設処理場の運転余裕度は水量余裕度と濃度余裕度の乗算値であり、1.25×1.43=1.78と計算される。演算部16では例えば図7の下方に示したような運転余裕度と抜き出し率の関係図を記憶しており、この関係図から担体抜き出し率を算出する。関係図は運転余裕度が1.2未満の場合には担体の抜き出しを行わず、運転余裕度が1.2〜2.0では運転余裕度に比例して抜き出し率を最大値の5%まであげ、2.0以上でも抜き出し率を最大値5%に維持するように規定している。したがって、上記算出例の運転余裕度が1.78の場合には、この関係図から抜き出し率3.6%が求められる。
【0031】
一方、馴養日数は担体のタイプ・比表面積,固定化微生物の種類,被処理水の水温,担体の負荷に依存する。担体のタイプが微生物付着型の場合には馴養日数は長くなり、微生物包括固定型の場合には短い。また、担体の比表面積が小さい場合には馴養日数は長くなり、大きい場合には短くなる。また、担体に固定化させる微生物には増殖力に差があり、有機成分分解細菌や脱窒細菌は増殖力が強いので馴養日数は短くて済む。一方、硝化細菌や嫌気性アンモニア酸化細菌は増殖力が弱く馴養日数が長くなる。また、被処理水の水温が低いと微生物の活性が低下し馴養日数が長くなる。また、担体単位体積当たりの負荷が大きい運転条件では微生物に対する栄養分が多いことを意味しており、微生物の増殖が活発になるので馴養日数は短くて済む。したがって、既設担体情報20A,20B,20C,……に担体のタイプ・比表面積,固定化微生物の種類,被処理水の水温,担体の負荷に関する情報が含まれている場合には、これらの情報に基づいて演算部16では妥当な馴養日数を特定することができる。
【0032】
図8は馴養日数の算出例を例示した説明図である。図8の上段表は上記した各項目の馴養日数に及ぼす係数を示しており、これらの係数J1〜J5を乗算することによって馴養日数に関する総合係数Jが求められる。したがって、当該既設処理場に使用している担体が包括固定型(J1=0.7),比表面積が1900m/m(J2=1.0),固定化微生物が硝化細菌(J3=1.0),抜き出しを行う時節の被処理水の平均水温が8℃(J4=1.2),担体負荷が設定値未満(J2=1.0)の場合には、当該既設処理場の馴養日数に関する総合係数Jは0.84と計算される。
【0033】
演算部16では例えば図8の下方に示したような総合係数Jと馴養日数の関係図を記憶しており、この関係図から馴養日数を算出する。例えば総合係数Jが上記算出例の0.84の場合には、この関係図から馴養日数34日が求められる。したがって、当該既設処理場での担体の充填量が50mである場合、担体供出能力は充填量(50m)×1回当り抜き出し率(3.6%)÷馴養日数(34日)=0.053m/日と算定される。
【0034】
上述のように、担体供出能力、1回当り抜き出し率、馴養日数を演算部16で算出可能にすると、個々の既設処理場の既設担体情報にはこれらの情報を含める必要がないので、情報収集の手間をその分、省ける。なお、当該既設処理場の所在地が明確であれば理科年表等に基づいて当該所在地の各月の水温が推定可能であるから、既設担体情報では被処理水の水温情報を省略することも可能である。また、担体供出能力を演算部16で算出した場合には、1回当り抜き出し率や馴養日数が明確になる。したがって、出力部18で出力する担体割り当て表には図9に示したように割り当て量以外に、1回当りの担体抜き出し率,1回当たりの担体抜き出し量,馴養日数,抜き出し予定月日を表示することができる。これらの項目は各既設処理場で実際に担体の抜き出し操作を実施する場合の運転指針として役立つ。なお、図7や図8に示した関係図や図8に示した係数は、運転実績を重ねることによって適正となるように修正を加えて行けば、より一層精度のよい担体供出能力又は1回当たりの担体抜き出し率と新担体の馴養日数の算定が可能になる。
【0035】
本調達システム10に格納する既設担体情報の数が多数,多種になると、そのメンテナンスも次第に煩雑になる。特に既設担体情報の内、実測処理水量や除去目的物の実測濃度などは時々刻々に変化するので、これらの変化情報を多数の既設処理場について漏れなく本調達システム10に格納するためには多大な手間を要する。したがって、本調達システム10を多数の既設処理場にそれぞれ配置した入力端末とインターネット又は専用回線で接続し、これらの回線を介して前記変化情報がリアルタイムで本調達システム10の格納部14に格納されるようにすることが好ましい。このような構成を採用すれば、微生物固定化担体を使用している多数,多様の既設処理場の既設担体情報を全国的なレベルで有機的に結合することができる。このため、新規処理場が必要とする新規担体の調達を迅速,かつ最適に支援することができる。
【0036】
前記実施形態では図3で示したように、新規処理場との距離が近い順序で担体の割当先である既設処理場とその割り当て量を決めていく方法について説明した。しかしながら、担体の割当先である既設処理場の規模が小さい場合には、1回当りの抜き出し量が必然的に少量となり、この抜き出した少量の担体をその都度、新規処理場に輸送すると近距離であっても担体の輸送効率が低下する場合がある。したがって、担体の割当先である既設処理場の順序を決める場合には、距離が近い順序ではなく、(距離)/(1回当りの抜き出し量)で算出される輸送係数を求めるようにしてもよい。すなわち、この輸送係数が小さい順序で担体の割当先で決定すれば、輸送効率のよい担体の調達が可能になる。
【0037】
前記実施形態では既設処理場が1つの反応槽を具備しており、この反応槽に1種類の担体が充填されている場合を想定して説明した。しかしながら、本発明はこれに限らず、既設処理場が複数の反応槽を具備しており、各反応槽に別種の担体が充填されて場合にも適用できる。この場合にはそれぞれの反応槽毎に既設担体情報を作成することにより対応できる。
【0038】
前記実施形態では、既設処理場で回収した新規担体を新規処理場に輸送し、そのままの状態で利用する場合を前提として説明した。しかしながら、本発明はこのような用途に限定されない。例えば、回収した新規担体に付着している微生物を引き剥がし、この引き剥がした微生物を新規処理場の反応槽に投入する種汚泥として使用することもできる。さらに、新規担体から引き剥がした微生物を包括固定化し、この包括固定化担体を新規処理場の反応槽に投入してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る水処理用担体の調達支援システムの実施形態を示すブロック図である。
【図2】既設担体情報の内容を例示した説明図である。
【図3】演算部16での処理手順を示すフローチャートである。
【図4】既設処理場における担体の状況を示した説明図である。
【図5】担体割り当て量の計算過程を例示した説明図である。
【図6】担体割り当て量の別の計算過程を例示した説明図である。
【図7】担体抜き出し率の算出例を例示した説明図である。
【図8】馴養日数の算出例を例示した説明図である。
【図9】担体割り当て表を例示した説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10………調達支援システム、12………入力部、14………格納部、16………演算部、18………出力部、20A,20B,20C………既設担体情報、22………新規担体情報、30………反応槽、32………担体、32A………新担体、34………被処理水、36………処理水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を固定化した担体を使用している既設処理場での既設担体情報を複数の既設処理場について格納した格納部と、前記担体を新規に必要とする新規処理場での新規担体情報を入力可能な入力部と、この入力部に入力された前記新規担体情報と前記格納部に格納された既設担体情報とを対照し、新規担体の必要量を賄うために前記各既設処理場が供出する担体割り当て量を算出する演算部と、この演算部の算出結果を出力する出力部とを具備したことを特徴とする水処理用担体の調達支援システム。
【請求項2】
前記演算部では前記新規処理場との距離が近い既設処理場を優先的に担体の供出先として選択することを特徴とする請求項1に記載の水処理用担体の調達支援システム。
【請求項3】
前記既設担体情報がインターネットを介して前記格納部に格納されることを特徴とする請求項1に記載の水処理用担体の調達支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−305481(P2006−305481A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132254(P2005−132254)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】