説明

水処理薬剤の注入方法

【課題】本発明は、経済的、簡便で、かつ冷却水の濃縮倍率に変動がある場合でも精度良く、濃度不足を起こすことなく、実質的な水処理薬剤の濃度を維持することができる開放循環冷却水系に注入される水処理薬剤の注入方法を提供することを課題とする。
【解決手段】冷却水2aの電気伝導率7aを測定し、測定した電気伝導率7aが予め設定した電気伝導率より高い場合に、ブローライン9に設置した自動ブロー弁9bを開放し、冷却水2aをブローし、補給水4aが供給され、前記補給水4aによって冷却水2aの電気伝導率7aが予め設定した値よりも低くなったときに、前記自動ブロー弁9bを閉止し冷却水2aの濃縮倍率を一定に保つ開放循環冷却水系1において、流出したブロー水量をブローライン9に設置した流量計11で計量し、計量したブロー水量に比例する量の水処理薬剤5aを冷却水2aに注入することを特徴とする水処理薬剤の注入方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調用、各種工業用等の開放循環冷却水系に注入する水処理薬剤の注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
開放型冷却水系では、水を循環利用している為蒸発による水の濃縮が生じ、構成機器である軟鋼や銅の腐食、水の濃縮によるスケールの発生、微生物の増殖によるスライム障害等が発生し易い。こうした障害を防止して、設備機器の安全かつ効率的な運転を確保する為、冷却水に水処理薬剤が注入される。
【0003】
水処理薬剤は、冷却水中に所定濃度を維持することで効果を発揮し、濃度が少ない場合は効果が不十分となり各種の障害が発生する。一方、濃度が高すぎる場合は水処理薬剤の費用がかさみ不経済となるとともに、弊害をもたらすこともある。
【0004】
従って水処理薬剤を使用する場合は、使用目的に対応して最も効果的かつ経済的な薬剤濃度を維持することが重要である。
【0005】
従来から冷却水中の薬剤濃度を所定濃度に維持する方法として、特許文献1にあるように、パルス発信式流量計で補給水の補給量を測定し、補給水に対して一定量の水処理薬剤を比例的に注入する方法が一般的に採用されてきた。
【特許文献1】特開平07−119916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の従来の方法には以下のような問題点があった。第1に、従来の方法では、冷却水中の薬剤濃度が(補給水の補給量に対する注入量)×(冷却水の濃縮倍率)で決定される為、濃縮倍率が一定でないと薬剤濃度を所定濃度に維持することができない。
【0007】
それ故、開放循環冷却水系が何らかの理由で濃縮倍率が低下した場合、冷却水中の薬剤濃度が低くなってしまう。例1として、水の有効利用の為、半導体洗浄に用いた純水の回収水や備蓄した雨水を補給水として利用するような事業所では、補給時の水事情によりランダムに、水道水を補給水としたり上記回収水や雨水を補給水としている。こういった系で水道水が流入すると、冷却水の濃縮倍率が低下し薬剤濃度を所定濃度以上に維持することができなくなる。
【0008】
例2として、ブロー弁が何らかの故障の為必要以上にブローが増えると、濃縮倍率が低下し薬剤濃度を所定濃度以上に維持することができなくなる。例3として、開放循環冷却水系を間欠的に稼働させた場合、システム停止時に冷却塔内の水位が上昇して冷却水がオーバーフローすることがあり、再起動後に水位が下がると濃縮倍率が設定値以下であるにもかかわらずボールタップが作動して補給水が供給されるので、このような状態が発生しても濃縮倍率が低下し薬剤濃度を所定濃度以上に維持することができなくなる。
【0009】
前述の通り、水処理薬剤は冷却水中に所定濃度を維持することで効果を発揮するものであり、濃度が低くなると効果が不十分となり各種障害発生の原因となる。
【0010】
第2に、補給水配管中にパルス発信式流量計等の流量計を冷却塔近傍の限られたスペースに取り付ける必要があるので、設置工事に手間がかかり簡便かつ信頼性の高い方法とは言えない。設置工事の手間を省く方法として、パルス発信式流量計の代わりに、超音波式流量計を補給水配管に設置する方法もあるが、超音波式流量計は高価であり、経済的な方法とは言えない。また、超音波式流量計を補給水配管に設置したとしても、上記第1の問題点が解決する訳ではない。
【0011】
そこで、本発明は、従来技術の有する上記問題点を解決し、経済的、簡便で、かつ冷却水の濃縮倍率に変動がある場合でも精度良く、濃度不足を起こすことなく、実質的な水処理薬剤の濃度を維持することができる開放循環冷却水系に注入される水処理薬剤の注入方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためのものである。即ち、請求項1に係る本発明は、冷却水2aの電気伝導率7aを測定し、予め設定した電気伝導率と比較し、測定した電気伝導率7aが予め設定した電気伝導率より高い場合に、ブローライン9に設置した自動ブロー弁9bを開放し、冷却水2aをブローし、冷却塔2内の水位が下がることによりボールタップ4eが作動して補給水4aが供給され、前記補給水4aによって冷却水2aの電気伝導率7aが予め設定した値よりも低くなったときに、前記自動ブロー弁9bを閉止することで冷却水2aの濃縮倍率を一定に保つようにした開放循環冷却水系1において、
流出したブロー水9a量をブローライン9に設置した流量計11で計量し、計量したブロー水量に比例する量の水処理薬剤5aを冷却水2aに注入することを特徴とする水処理薬剤の注入方法を提供するものである。
【0013】
請求項2に係る本発明は、冷却水2aの電気伝導率7aを測定し、予め設定した電気伝導率と比較し、測定した電気伝導率7aが予め設定した電気伝導率より高い場合に、ブローライン9に設置した自動ブロー弁9bを開放し、冷却水2aをブローし、冷却塔2内の水位が下がることによりボールタップ4eが作動して補給水4aが供給され、前記補給水4aによって冷却水2aの電気伝導率7aが予め設定した値よりも低くなったときに、前記自動ブロー弁9bを閉止することで冷却水2aの濃縮倍率を一定に保つようにした開放循環冷却水系1aにおいて、
ブローライン9に流量計11を設置するとともに、オーバーフローライン10bをブローライン9の前記流量計11の上流側に接続し、ブロー水9a量とともにオーバーフロー水10a量を前記流量計11で計量し、計量したブロー水量とオーバーフロー水量の総和に比例する量の水処理薬剤5aを冷却水2aに注入することを特徴とする水処理薬剤の注入方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ブロー水量を基に、系外に排出された水処理薬剤の量に相当する水処理薬剤、即ち計量したブロー水量に比例する量の水処理薬剤を注入することにより、冷却水の濃縮変動を考慮することなく、簡易に冷却水への水処理薬剤注入量が決定され、簡便かつ信頼性高く水処理薬剤を所定濃度に維持することができる。
【0015】
加えて、オーバーフロー水量も測定することにより、さらに精度良く冷却水中の水処理薬剤の濃度を所定濃度に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
簡易に冷却水への水処理薬剤の注入量が決定され、簡便かつ信頼性高く水処理薬剤の濃度を所定濃度に維持する目的を、冷却水2aの電気伝導率7aを測定し、予め設定した電気伝導率と比較し、測定した電気伝導率7aが予め設定した電気伝導率より高い場合に、ブローライン9に設置した自動ブロー弁9bを開放し、冷却水2aをブローし、冷却塔2内の水位が下がることによりボールタップ4eが作動して補給水4aが供給され、前記補給水4aによって冷却水2aの電気伝導率7aが予め設定した値よりも低くなったときに、前記自動ブロー弁9bを閉止することで冷却水2aの濃縮倍率を一定に保つようにした開放循環冷却水系1において、流出したブロー水9a量をブローライン9に設置した流量計11で計量し、計量したブロー水量に比例する量の水処理薬剤5aを冷却水2aに注入することを特徴とする水処理薬剤の注入方法の構成とすることで実現した。
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明である水処理薬剤の注入方法について詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明である水処理薬剤の注入方法が適用される第1の開放循環冷却水系(一例)の概略図である。
【0019】
開放循環冷却水系1は、冷却水2aを溜める水槽2bに冷却水2aを空冷するファン2cを取り付けた冷却塔2と、前記冷却塔2に連結し、前記冷却水2a(循環水3a)を循環ポンプ3bの駆動により冷凍機等の熱交換器3cに循環供給させ、前記冷却塔2に戻す循環ライン3と、前記冷却塔2に連結し、前記冷却水2aが減少したときに前記水槽2bの水位を保つために補給水4aを注入する補給ライン4と、冷却水2aの電気伝導率7aを測定する電気伝導率計7と、前記循環ライン3に接続し、電気伝導率計7の測定値によって自動ブロー弁9bの開閉を制御し、冷却水2aの一部をブロー水9aとして強制ブローするブローライン9と、薬注装置5、薬注制御装置6、前記ブローライン9に設置されブロー水9a量を測定する流量計11によって構成される水処理薬剤の注入装置8からなる。
【0020】
本開放循環冷却水系1は、冷却塔2の冷却水2aに、冷却水2aの電気伝導率7aを測定する電気伝導率計7が設置され、冷却水2aを所定の濃縮倍率になるよう自動制御される。
【0021】
具体的には、開放循環冷却水系1は、冷却水2aの電気伝導率7aを測定し、予め設定した電気伝導率と比較し、測定した電気伝導率7aが予め設定した電気伝導率より高い場合に、ブローライン9に設置した自動ブロー弁9bを開放し、冷却水2aをブロー水9aとしてブローし、冷却塔2内の水位が下がることによりボールタップ4eが作動して補給水4aが供給され、前記補給水4aによって冷却水2aの電気伝導率7aが予め設定した値よりも低くなったときに、前記自動ブロー弁9bを閉止することで冷却水2aの濃縮倍率を一定に保つように制御される。なお、自動ブロー弁9bの開閉は、通常、冷却水の電気伝導率7aの測定値を基に自動ブローシグナル6bを出力する自動ブロー制御装置によって制御されるが、図1に示したように、薬注制御装置6に自動ブロー制御装置の機能を持たせても構わない。
【0022】
補給ライン4は、冷却塔2内部に挿通する補給配管4bに、水槽2bの水面の高さに連動するボールタップ4eが連結し、冷却水2aの水位が低下したとき補給水4aを適宜補給するラインである。
【0023】
なお、一般に、冷却塔2の水槽2bの水位が一定以上にならないように、過剰の冷却水2aをオーバーフロー水10aとして排出するオーバーフローライン10が冷却塔2の水槽2bに備えられている。
【0024】
本発明は、上述のような開放循環冷却水系1において、水処理薬剤の注入装置8によって、流出したブロー水量をブローライン9に設置した流量計11で計量し、計量したブロー水9a量に比例する量の水処理薬剤5aを冷却水2aに注入する。
【0025】
水処理薬剤の注入装置8は、薬注装置5と薬注制御装置6とブロー水9a量を測定する流量計11からなる。
【0026】
薬注装置5は、水処理薬剤5aを貯留するタンク5bと、前記タンク5bから水槽2b内に連絡する薬注ライン5dと、水処理薬剤5aを前記薬注ライン5dを通り水槽2bに注入するための薬注ポンプ5cとからなる。
【0027】
薬注ポンプ5cは、流体を移送することができるポンプであれば、特に限定されない。なお、薬注ポンプ5cは薬注制御装置6から送られた薬注ポンプ運転シグナル6aに基づき駆動し、必要な量の水処理薬剤5aを冷却水2aに注入する。
【0028】
薬注制御装置6は、ブロー水9aの排出量を測定する流量計11から送られてくるブロー水9a量である排出量情報11aを受け、ブロー水9aに含まれる水処理薬剤と等量の水処理薬剤5a、即ち計量したブロー水量に比例する量の水処理薬剤5aを注入するよう薬注ポンプ5cに薬注ポンプ運転シグナル6aを送り、薬注ポンプ5cの駆動を制御する。その結果、開放循環冷却水系1の水処理薬剤濃度が所定の濃度に維持、管理されることとなる。
【0029】
流量計11は、図1では自動ブロー弁9bの下流側に設置されているが、自動ブロー弁9bの上流側に設置されてもよい。なお、自動ブロー弁9bの下流側に流量計11を設置する場合は、図1に示すように、ブローライン9の排出水の排出末端部は、流量計11に空気がかまないよう立ち上げる。
【0030】
このように、ブロー水9a量を測定し、それに比例する量の水処理薬剤を注入することで、補給水量を測定し、それに比例する水処理薬剤を注入する従来の方法の問題点を解消する。即ち、ブロー水量を基に、系外に排出された水処理薬剤の量に相当する水処理薬剤を注入することにより、冷却水の濃縮倍率の変動を考慮することなく、簡易に冷却水への水処理薬剤注入量が決定され、簡便かつ信頼性高く水処理薬剤を所定濃度に維持することができる。さらに、ブローライン9には、比較的スペースに余裕があり、設置工事も容易である。
【実施例2】
【0031】
図2は、本発明である水処理薬剤の注入方法が適用される第2の開放循環冷却水系(一例)の概略図である。
【0032】
開放循環冷却水系1aは、実施例1の開放循環冷却水系1のオーバーフローライン10bを、ブローライン9に設置された流量計11の上流側に接続したものである。なお、オーバーフロー水を流出させる為に、オーバーフローライン10bのブローライン9への接続位置は、自動ブロー弁9bの下流側であることが必須である。流量計11の設置位置はオーバーフローライン10b接続位置の下流側なので、必然的に自動ブロー弁9bの下流側となる。従って、図2に示すように、ブローライン9の排出水の排出末端部は、流量計11に空気がかまないよう立ち上げる。また、オーバーフローライン10bには、ブロー水9aがオーバーフローライン10bを逆流しないよう逆止弁12を設けてある。
【0033】
上記構成により、開放循環冷却水系1aにおける水処理薬剤の注入装置8は、ブロー水9a量とともにオーバーフロー水10a量も流量計11で測定し、ブロー水量及びオーバーフロー水量の総和である排出水量に比例する量の水処理薬剤5aを冷却水2aに注入するように、薬注制御装置6が薬注ポンプ5cの駆動を制御する。
【0034】
このような位置に流量計11を配置することで、冷却塔2からの全排出水量が正確に把握でき、冷却水2a中の水処理薬剤の濃度を所定濃度に維持するのに必要な補充すべき水処理薬剤を正確に注入できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明である水処理薬剤の注入方法が適用される第1の開放循環冷却水系(一例)の概略図である。
【図2】本発明である水処理薬剤の注入方法が適用される第2の開放循環冷却水系(一例)の概略図である。
【符号の説明】
【0036】
1 開放循環冷却水系
1a 開放循環冷却水系
2 冷却塔
2a 冷却水
2b 水槽
2c ファン
3 循環ライン
3a 循環水
3b 循環ポンプ
3c 熱交換器
4 補給ライン
4a 補給水
4b 補給配管
4e ボールタップ
5 薬注装置
5a 水処理薬剤
5b タンク
5c 薬注ポンプ
5d 薬注ライン
6 薬注制御装置
6a 薬注ポンプ運転シグナル
6b 自動ブローシグナル
7 電気伝導率計
7a 電気伝導率
8 水処理薬剤の注入装置
9 ブローライン
9a ブロー水
9b 自動ブロー弁
10 オーバーフローライン
10a オーバーフロー水
10b オーバーフローライン
11 流量計
11a 排出量情報
12 逆止弁



【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水の電気伝導率を測定し、予め設定した電気伝導率と比較し、測定した電気伝導率が予め設定した電気伝導率より高い場合に、ブローラインに設置した自動ブロー弁を開放し、冷却水をブローし、冷却塔内の水位が下がることによりボールタップが作動して補給水が供給され、前記補給水によって冷却水の電気伝導率が予め設定した値よりも低くなったときに、前記自動ブロー弁を閉止することで冷却水の濃縮倍率を一定に保つようにした開放循環冷却水系において、流出したブロー水量をブローラインに設置した流量計で計量し、計量したブロー水量に比例する量の水処理薬剤を冷却水に注入することを特徴とする水処理薬剤の注入方法。
【請求項2】
冷却水の電気伝導率を測定し、予め設定した電気伝導率と比較し、測定した電気伝導率が予め設定した電気伝導率より高い場合に、ブローラインに設置した自動ブロー弁を開放し、冷却水をブローし、冷却塔内の水位が下がることによりボールタップが作動して補給水が供給され、前記補給水によって冷却水の電気伝導率が予め設定した値よりも低くなったときに、前記自動ブロー弁を閉止することで冷却水の濃縮倍率を一定に保つようにした開放循環冷却水系において、ブローラインに流量計を設置するとともに、オーバーフローラインをブローラインの前記流量計の上流側に接続し、ブロー水量とともにオーバーフロー水量を前記流量計で計量し、計量したブロー水量とオーバーフロー水量の総和に比例する量の水処理薬剤を冷却水に注入することを特徴とする水処理薬剤の注入方法。

【図1】
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【図2】
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