説明

水分散体組成物

【課題】粘度を抑えつつ、高い固形分濃度(好ましくは30質量%以上)に調整された水分散体組成物を提供する。
【解決手段】アクリル酸由来の構成単位を10質量%以上含み、メルトフローレート(MFR)が100〜1500g/10分であるエチレン・アクリル酸系共重合体と、アクリル酸由来の構成単位を10質量%以上含み、180℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下であるエチレン・アクリル酸系共重合体ワックスとを含んでおり、前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスの合計の含有量を100質量部としたときに、前記エチレン・アクリル酸系共重合体が50〜95質量部であり、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスが5〜50質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン・アクリル酸系の共重合体が分散された水分散体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品包装、産業用包装など各種包装分野における密封手段としては、生産性、経済性に優れる点から、ヒートシールが広く利用されているが、ヒートシールの利用に広く用いられている熱可塑性重合体等の多くは低温ヒートシール性を有しないため、別途ヒートシール層を設けることによってシール性が付与されていることが多い。
【0003】
このヒートシール層には、安価で低温でのヒートシール性に優れたポリエチレンが多用されている。
【0004】
また、近年の環境問題の高まりから、包装材料の薄膜化・減容化が求められ、ヒートシール層の薄膜化も求められる状況にある。ヒートシール層は一般に、押出しコーティングや共押出しなどの溶融加工による方法では薄膜化が困難であるのに対し、重合体の水分散体を塗布してヒートシール層を形成する態様では、薄膜化が可能になる。例えば、酸含量の多いエチレン・アクリル酸共重合体やエチレン・メタクリル酸共重合体は、アルカリにより水に分散可能であり、その水分散体は造膜性に優れており、得られる塗膜は低温ヒートシール性に優れる。例えば、アンモニアでエチレン・アクリル酸共重合体中の酸性基を中和することによって水分散させることが可能であり、基材上に塗布後、乾燥させてアンモニアを除去すれば、耐水性及び低温ヒートシール性に優れた塗膜が得られる。
【0005】
上記に関連して、特定酸含量のエチレン・メタクリル酸共重合体を使用し、アンモニアをカルボン酸基に対して過剰に用いて中和して得た水性分散体組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。ここでは、アンモニアの使用量(中和の程度)が少ないと安定な水分散液が得られないとされている。
【0006】
また、数平均分子量Mn=10000〜20000のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を含有する紙製容器用コーティング剤に関する開示がある(例えば、特許文献2参照)。このコーティング剤は、低分子成分を除去し、あるいは合成条件を制御する等して低分子成分を少なく調整したものである。
さらに、分子量分布の狭いエチレン/α,β−不飽和カルボン酸共重合体樹脂をアンモニアを加えて60%中和することで水系分散媒中に分散された水性分散液が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
一方、金属材料にポリオレフィン系の水分散体を塗布することにより、防錆性能を高めようとする試みは、古くから行われている。
【特許文献1】特開2000−248141号公報
【特許文献2】特開2003−336191号公報
【特許文献3】特開2002−322212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水分散体としては、成膜した際の厚膜化や強度アップ、乾燥しやすさの向上の点では、分散液中の樹脂成分の固形分量は高いことが望ましいが、高い固形分量で分散性を安定化させるのは難しい。また、樹脂成分の中和度を高めることにより、分散性を高めることは可能であるが、中和度をあまり高めると粘度上昇を招来し、その後の塗布性などの取り扱い性や用途に制約となるおそれがある。
【0009】
また、金属材料に防錆性能を与えるには、金属材料との間の密着性が良好でないと、材料端部あるいは金属材料の曲げなどによる変形個所に錆が発生しやすい。そのため、金属材料に対する防錆機能を高め得る水性分散体に対する要求もある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、粘度を抑えつつ、高い固形分濃度(好ましくは30質量%以上)に調整された水分散体組成物を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、エチレン・アクリル酸系の共重合体として高分子量共重合体に低分子量共重合体を併用することにより、広い中和度の範囲で水に分散することができ、得られる分散体の粘度も小さくすることができるので、固形分濃度の高い領域(例えば30質量%以上)でも粘度上昇が低く抑えられるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0012】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。即ち、本発明は、
<1> アクリル酸由来の構成単位を10質量%以上含み、メルトフローレート(MFR)が100〜1500g/10分であるエチレン・アクリル酸系共重合体と、アクリル酸由来の構成単位を10質量%以上含み、180℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下であるエチレン・アクリル酸系共重合体ワックスとを含み、前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスの合計の含有量を100質量部としたときに、前記エチレン・アクリル酸系共重合体が50〜95質量部であり、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスが5〜50質量部である水分散体組成物である。
【0013】
<2> 前記<1>に記載の本発明の水分散体組成物は、前記エチレン・アクリル酸系共重合体の180℃での溶融粘度は、10,000mPa・s以上であるのが好ましい態様である。
【0014】
<3> 前記<1>又は前記<2>に記載の本発明の水分散体組成物は、前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス中のカルボキシル基の少なくとも一部が、アンモニアによる中和で分散されてなる態様が好ましい。
【0015】
<4> 前記<3>に記載の本発明の水分散体組成物は、前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス中のカルボキシル基の前記アンモニアによる中和度(=アンモニアのモル数/共重合体及びワックス中のカルボキシル基の総モル数)が、50モル%以下であることが好ましい態様である。
【0016】
<5> 前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の本発明の水分散体組成物は、固形分濃度が30質量%以上である場合が好ましい態様である。
【0017】
<6> 前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の本発明の水分散体組成物は、前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスの合計の含有量を100質量部としたとき、前記エチレン・アクリル酸系共重合体の含有量が65〜85質量部であり、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスの含有量が15〜35質量部である場合が好ましい態様である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、粘度を抑えつつ、高い固形分濃度(好ましくは30質量%以上)に調整された水分散体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の水分散体組成物について詳細に説明する。
(1)エチレン・アクリル酸系共重合体
本発明の水分散体組成物は、エチレンに由来する構成単位とアクリル酸に由来する構成単位10質量%以上とを少なくとも含み、メルトフローレート(MFR)が100〜1500g/10分であるエチレン・アクリル酸系共重合体(以下、「本発明におけるEAA共重合体」ともいう。)の少なくとも1種を含有する。
【0020】
このエチレン・アクリル酸系共重合体は、エチレン由来の構成単位とアクリル酸由来の構成単位とで構成される2元共重合体のほか、これらの構成単位に加えて他の単量体に由来の構成単位を有する3元以上の共重合体に構成されてもよい。
他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などを例示することができる。
これら他の単量体は、例えば20質量%以下の割合で含有することが可能であり、高固形分濃度での分散安定性の点で、好ましくは10質量%以下である。
【0021】
本発明におけるEAA共重合体は、アクリル酸由来の構成単位の割合(アクリル酸の共重合比率)を共重合体全質量に対して10質量%以上とする。割合が10質量%以上とは積極的に含有することを示し、アクリル酸の共重合比率が10質量%未満であると、安定した水分散体が得られない。アクリル酸の共重合比率としては、10〜30質量%の範囲が好ましく、より好ましくは15〜25質量%の範囲である。
【0022】
本発明におけるEAA共重合体は、メルトフローレート(MFR)が100〜1500g/10分の範囲である。前記MFRの範囲は、EAA共重合体として、これと併用するエチレン・アクリル酸系共重合体ワックス(EAAワックス)よりも分子サイズの大きい樹脂であることを示すものであり、エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスと併用する上でEAA共重合体の範囲を特定する。換言すると、本発明におけるEAA共重合体のMFRが1500g/10分を超える場合には、得られる塗膜の機械的強度が低下して実用上に使用に耐えることができない。
なお、MFRは、JIS K7210−1999に準拠し、190℃、荷重2160gにて測定される値である。以下、同様である。
【0023】
本発明におけるEAA共重合体は、180℃での溶融粘度が10,000mPa・s以上であることが好ましい。溶融粘度が10,000mPa・s以上であるものは、後述のエチレン・アクリル酸系共重合体ワックス(本発明におけるEAAワックス)より分子サイズが大きい。本発明におけるEAAワックスと併用するEAA共重合体の溶融粘度が10,000mPa・s以上であると、得られる塗膜の機械的強度を実用上の利用に耐える範囲にすることができる。
【0024】
本発明におけるエチレン・アクリル酸系共重合体は、高温、高圧下のラジカル共重合により得ることができる。
【0025】
(2)エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス
本発明の水分散体組成物は、アクリル酸由来の構成単位を10質量%以上含み、180℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下であるエチレン・アクリル酸系共重合体ワックス(以下、「本発明におけるEAAワックス」ともいう。)の少なくとも1種を含有する。
【0026】
このエチレン・アクリル酸系共重合体ワックスは、エチレン由来の構成単位とアクリル酸由来の構成単位とで構成される2元共重合体のワックスのほか、これらの構成単位にさらに他の単量体由来の構成単位を加えて3元以上とした共重合体のワックスに構成されてもよい。
他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などを例示することができる。
これら他の単量体は、例えば20質量%以下の割合で含有することが可能であり、高固形分濃度での分散安定性の点で、好ましくは10質量%以下である。
【0027】
本発明におけるEAAワックスは、アクリル酸由来の構成単位の割合(アクリル酸の共重合比率)を共重合体全質量に対して10質量%以上とする。割合が10質量%以上とは積極的に含有することを示し、アクリル酸の共重合比率が10質量%未満であると、安定した水分散体が得られにくいし、得られた水分散体の塗布性も悪くなる傾向がある。アクリル酸の共重合比率としては、10〜25質量%の範囲が好ましく、より好ましくは12〜20質量%の範囲である。
【0028】
本発明におけるEAAワックスは、180℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下である。すなわち、そのメルトフローレート(MFR)が一般に測定できない程度の低分子量のEAAワックスを用いる。これは、EAAワックスとして、これと併用するエチレン・アクリル酸系共重合体に比して分子サイズの小さい樹脂を併用することを示し、前記EAA共重合体と併用する上でEAA共重合体ワックスの範囲を特定する。
このようなEAAワックスを、これより溶融粘度の高い前記本発明におけるEEA共重合体と併用することにより、広い中和度の範囲で水に分散することができ、得られる分散体の粘度も小さくすることができるので、固形分濃度の高い領域(例えば30質量%以上)でも粘度上昇を低く抑えることができる。
【0029】
本発明の水分散体組成物は、前記本発明におけるEAA共重合体及び前記本発明におけるEAAワックス中のカルボキシル基の一部又は全部をアルカリ剤で中和し、共重合体を水に分散させることにより分散液とすることができる。
【0030】
中和に用いる前記アルカリ剤としては、アルカリ金属化合物、アンモニア、アルキルアミンなどを使用できる。
前記アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどを例示することができる。
前記アルキルアミンとしては、炭素数1〜5の低級脂肪族アミンが好ましい。低級脂肪族アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノn−プロピルアミン、ジn−プロピルアミン、トリn−プロピルアミン、モノイソブチルアミン、ジイソブチルアミン、トリイソブチルアミン、モノn−ブチルアミン、ジn−ブチルアミン、トリn−ブチルアミンなどを例示することができる。これらの中では、特にモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。
【0031】
これらの中でも、成膜後の膜中に金属等の不純物質が残存せず、臭気がしないことから、前記本発明におけるEAA共重合体及び前記本発明におけるEAAワックス中のカルボキシル基の一部又は全部を、アンモニアで中和して分散させた水分散体とするのが好ましい。
【0032】
前記本発明におけるEAA共重合体及び前記本発明におけるEAAワックス中のカルボキシル基をアンモニアで中和する場合、アンモニアによる中和度は、粘度上昇を抑える点で、50モル%以下であるのが好ましい。本発明においては、中和度、すなわち本発明におけるEAA共重合体及びEAAワックスに対するアンモニア量を低く抑えて粘度上昇を抑制しつつも、分散の安定性をも高めることができる。
【0033】
アンモニアによる中和度は、好ましくは30〜50%であり、更に好ましくは30〜40%である。
【0034】
本発明の水分散体組成物中の、前記本発明におけるEAA共重合体と前記本発明におけるEAAワックスとの間の含有比率は、両者を合計した全質量に対するEAAワックスの含有量が5〜50質量%、好ましくは15〜35質量%、より好ましくは20〜35質量%の範囲になるように調整されている態様が好ましい。EAAワックスの比率は、5質量%以上であると粘度上昇が抑えられ、分散体としたときの安定性も保持でき、50質量%以下であると成膜した膜の機械的強度を保つことができる。逆に50質量%を超えると、低分子のEAAワックスが多くなりすぎて膜の機械的強度が低下する。また、20質量%以上であると実用上最も取り扱いやすい粘度に調整することができる。更には35質量%以下であると水分散体にした際に分散できない組成物の割合が減少し、より均一性に優れた水分散体が得られる。
このとき、前記本発明におけるEAA共重合体の含有比率は、前記EAA共重合体と前記EAAワックスとの両者を合計した全質量に対して、50〜95質量%、好ましくは65〜85質量%、より好ましくは65〜80質量%の範囲になるように調整される。
【0035】
本発明の水分散体組成物中の、前記本発明におけるEAA共重合体及びEAAワックスの合計濃度(固形分[質量])は、30質量%以上であるのが好ましい。一般に30質量%以上の固形分濃度で粘度上昇を抑えて安定した分散を行なうのは難しいが、本発明においては、粘度及び分散性を悪化させずに固形分を高めることができる。この固形分濃度が30質量%以上になると、成膜時に所望範囲に厚膜化でき、成膜後の乾燥負荷(乾燥時間、乾燥温度など)を低減することが可能になる。本発明では、更に高い固形分濃度にすることができ、具体的には35質量%以上、更には40質量%以上にすることが可能である。
【0036】
また、上記の固形分濃度において、本発明の水分散体組成物の粘度(25℃)は、塗布性、取扱い性などの点で、5〜2000mPa・sの範囲が好ましく、より好ましくは20〜1000Pa・sである。
粘度は、ブルックフィールド粘度計(Brookfield社製)を用い、本発明の水分散体組成物を25℃に調整して測定される。
【0037】
本発明の水分散体組成物は、次の方法により高い固形分量で安定に製造することができる。すなわち、
アクリル酸の共重合比率が10質量%以上でメルトフローレートが100〜1500g/10分であるエチレン・アクリル酸系共重合体と、アクリル酸の共重合比率が10質量%以上で180℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下であるエチレン・アクリル酸系共重合体ワックスと、所望のアルカリ剤(好ましくはアンモニア)とを使用し、90℃以上、好ましくは130〜160℃の温度で、剪断力を与えながら水中で反応させることによって得られる。例えば、水と、固形分濃度が好ましくは30〜50質量%となる量に相当する上記の本発明におけるEAA共重合体及びEAAワックスと、該EAA共重合体及びEAAワックス中のカルボキシル基を基準にして前記固形分濃度を得るために必要な量(好ましくはカルボキシル基の総モル数の30〜50モル%)のアンモニアとを、剪断力をかけることが可能な反応装置、例えば撹拌機付きのオートクレーブ中に入れ、これを所定温度で剪断力を与えながら反応させることによって得ることができる。反応時間は、反応温度やその他反応条件によっても異なるが、10〜120分程度である。
【0038】
本発明の水分散体組成物には、任意の各種添加剤を配合することができる。
このような添加剤の例としては、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのような多価アルコール、水溶性エポキシ化合物、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、nプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート等のエステル類、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、染料、抗菌剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防錆剤、接着剤、架橋剤、筆記性改良剤、無機充填剤、発泡剤などを挙げることができる。
【0039】
本発明の水分散体組成物は、一例として防錆塗料或いは防錆塗料の原料として利用できる。また、本発明の水分散体組成物は、これを基材に塗布して乾燥させることによって得られるヒートシール性の積層体の作製用途に利用することができる。
【0040】
本発明の水分散体組成物を前記基材の上に塗布等した後に乾燥して得た塗膜の厚みとしては、通常は1〜20μmであり、好ましくは1〜10μm以下であり、より好ましくは1〜5μmである。厚みが前記範囲内であると、例えば包装材料における減容化が可能であり、また、低温ヒートシール性を得ることができる。更に、防錆膜を形成することができる。
基材上に設けられた膜には、耐水性、耐久性等を高める目的で、電子線照射による架橋処理を施すことができる。
【0041】
また、基材上に本発明の水分散体組成物を塗布した後に、80〜200℃程度の温度で加熱乾燥して水、アミン等の揮発性成分を蒸発させることによって、所望厚みの塗膜が形成された積層体を得ることができる。
【0042】
基材の上に本発明の水分散体組成物を塗布する場合、塗布は、公知の方法、例えば、ロール塗布、リバースロール塗布、ドクター塗布、刷毛塗り、スプレー塗布などのコーティング方式や、スクリーン印刷、グラビア印刷、彫刻ロール印刷、フレキソ印刷などの印刷方式を採用して行なえる。
【0043】
基材には、接着性等を改良する目的で、コロナ処理を施していてもよく、予めプライマー処理を施しておいてもよい。特に樹脂フィルムを基材とする場合は、プライマー処理を施すことが好ましい。
【0044】
本発明の水分散物組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で他の重合体分散物と任意割合で配合してもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、「エチレン含量」はエチレン由来の繰り返し構成単位の共重合比率を示し、「アクリル酸含量」はアクリル酸由来の繰り返し構成単位の共重合比率を示す。また、MFRは、JIS K7210−1999に準拠し、190℃、荷重2160gにて測定したメルフローレート値である。
【0046】
(実施例1)
300mlオートクレーブに、エチレン・アクリル酸共重合体A(エチレン含量:80質量%、アクリル酸含量:20質量%、溶融粘度(180℃)=51000mPa・s、MFR=300g/10分;以下、EEA共重合体Aと略記することがある。)84gと、ビーズ状のエチレン・アクリル酸ワックスB(エチレン含量:85質量%、アクリル酸含量:15質量%、酸価=120、溶融粘度(180℃)=200mPa・s;以下、EEAワックスBと略記することがある。)28gと、イオン交換水190gと、10質量%のアンモニア水溶液19gとを加え、温度150℃、攪拌速度800rpmで1時間攪拌した。このとき、アンモニア中和度は37モル%であった。その後、室温下で1〜3℃/分程度の降温速度で徐冷し、水分散体を得た。得られた水分散体の固形分濃度は35質量%であった。
続いて、得られた水分散体に対して下記の評価1を行なった。測定評価の結果は、下記表2に示す。
【0047】
−評価1−
[1]粘度
水分散体の25℃での粘度をブルックフィールド粘度計(Brookfield社製)を用いて測定した。
【0048】
[2]透明性
水分散体の色相を目視観察すると共に、UV分光光度計で546nmでの光線透過率を測定した。
【0049】
[3]粒径
水分散体をイオン交換水で5倍に希釈し、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−500〔(株)堀場製作所製〕を用いて、体積平均の粒子サイズ[nm]を測定した。
【0050】
[4]pH
水分散体を25℃に調整し、pHメータ〔(株)堀場製作所製〕を用いて25℃でのpHを測定した。
【0051】
[5]残渣
水分散体50gとイオン交換水150gをよく混合し、150メッシュの金網でろ過し、金網上に残った残渣を重量で測定した。
【0052】
次に、得られた水分散体を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)上にバーコーター(No.18)によって塗布し、厚み15μmの塗膜を形成した後、この塗膜を温度100℃で3分間、オーブンにて乾燥させ、積層フィルムを得た。
【0053】
−評価2−
[6]塗工性
PET上に塗布する際の塗工性を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
○:均一な塗工を有する
×:塗工性が不均一である若しくは塗工できない
【0054】
[7]塗膜状態
得られた積層フィルムの塗膜表面を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
○:均一な塗膜が生成している
×:塗膜が不均一である若しくは塗膜が形成していない
【0055】
[8]引張強度
得られた水分散体から水分を除去後、0.5mm厚のJIS2号試験片(JIS K7113)に準拠した試験片を成形し、この試験片を用いて引張試験機により引張速度200mm/minにて、引張強度[MPa]を測定した。
【0056】
[9]引張伸び
得られた水分散体から水分を除去後、0.5mm厚のJIS2号試験片(JIS K7113)に準拠した試験片を成形し、この試験片を用いて引張試験機により引張伸び[%]を測定した。
【0057】
(実施例2)
実施例1において、エチレン・アクリル酸共重合体A78gと、ビーズ状のエチレン・アクリル酸ワックスB34gと、イオン交換水190gと、10質量%のアンモニア水溶液18gとを加えると共に、アンモニア中和度を35モル%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水分散体及び積層フィルムを得ると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0058】
(実施例3)
実施例1において、エチレン・アクリル酸共重合体A68gと、ビーズ状のエチレン・アクリル酸ワックスB45gと、イオン交換水190gと、10質量%のアンモニア水溶液17gとを加えると共に、アンモニア中和度を35モル%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水分散液及び積層フィルムを得ると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0059】
(実施例4)
実施例1において、エチレン・アクリル酸共重合体A101gと、ビーズ状のエチレン・アクリル酸ワックスB11gと、イオン交換水190gと、10質量%のアンモニア水溶液19gとを加えると共に、アンモニア中和度を35モル%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水分散液及び積層フィルムを得ると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0060】
(比較例1)
実施例1において、エチレン・アクリル酸ワックスBを用いず、エチレン・アクリル酸共重合体Aの量を84gから112gに変更し、アンモニア中和度を35モル%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水分散液及び積層フィルムを得ると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0061】
(比較例2)
実施例1において、エチレン・アクリル酸共重合体A84gと、ビーズ状のエチレン・アクリル酸ワックスC(エチレン含量:91質量%、アクリル酸含量:9質量%、酸価=75、溶融粘度(180℃)=210mPa・s;EEAワックスC)28gと、イオン交換水190gと、10質量%のアンモニア水溶液16gとを加えると共に、アンモニア中和度を35モル%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水分散液及び積層フィルムを得ると共に、評価1〜2を行なった。評価結果は、下記表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
前記表2に示すように、実施例では、35%の固形分濃度に調整した場合に、アンモニア中和を高めずに、粘度を低く抑えることができ、分散性のよい水分散体を得ることができた。また、水分散体のPET基材上への塗布性もよく、得られた塗膜の状態も良好であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸由来の構成単位を10質量%以上含み、メルトフローレート(MFR)が100〜1500g/10分であるエチレン・アクリル酸系共重合体と、アクリル酸由来の構成単位を10質量%以上含み、180℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下であるエチレン・アクリル酸系共重合体ワックスとを含み、
前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスの合計の含有量を100質量部としたときに、前記エチレン・アクリル酸系共重合体が50〜95質量部であり、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスが5〜50質量部である水分散体組成物。
【請求項2】
前記エチレン・アクリル酸系共重合体の180℃での溶融粘度が10,000mPa・s以上であることを特徴とする請求項1に記載の水分散体組成物。
【請求項3】
前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス中のカルボキシル基の少なくとも一部が、アンモニアによる中和で分散されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水分散体組成物。
【請求項4】
前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックス中のカルボキシル基の前記アンモニアによる中和度が、50モル%以下であることを特徴とする請求項3に記載の水分散体組成物。
【請求項5】
固形分濃度が30質量%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水分散体組成物。
【請求項6】
前記エチレン・アクリル酸系共重合体及び前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスの合計の含有量を100質量部としたとき、前記エチレン・アクリル酸系共重合体が65〜85質量部であり、前記エチレン・アクリル酸系共重合体ワックスが15〜35質量部であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水分散体組成物。

【公開番号】特開2010−43186(P2010−43186A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208163(P2008−208163)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】