説明

水変色性シート及びその製造方法

【課題】幼児用お絵かきシートなどに用いられる、乾燥状態では不透明であるが、含水すると透明に変化する変色層を具備する水変色性シートにおいて、含水変色顔料として安価な炭酸カルシウムを主成分として用いた場合でも、吸液状態と乾燥状態の色差ΔEが十分に大きい水変色性シートを提供すること。
【解決手段】含水変色顔料がバインダーで分散状態に固着された変色層と、前記変色層を支持する支持体とを少なくとも具備する水変色性シートにおいて、前記含水変色顔料として炭酸カルシウムとベーマイトとを含み、前記炭酸カルシウムの配合割合が、含水変色顔料全量に対して50重量%以上95重量%以下とする。さらに前記ベーマイトの配合割合を含水変色顔料全量に対して5重量%以上50重量%未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥状態では不透明であるが含水状態では透明に変化する含水変色顔料を用いた水変色性シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乾燥状態では不透明であるが、含水すると透明に変化する化合物(含水変色顔料)を利用して、かかる含水変色顔料を含む変色層を具備する水変色性シートを用いたお絵かきシートやお絵かきボードといった玩具が提供されている。この玩具は、前記水変色性シートと、例えばペン先などに水などの液体を充填させた筆記具形態の塗布具とからなり、前記水変色性シートの表面を前記塗布具で筆記や描画すると、前記水変色性シート表面の含水部分が、乾燥するまでの間、その色調に変化が生じることで、筆記やお絵描きなどを楽しめるものである。
【0003】
かかる水変色性シートの含水変色顔料を含む変色層としては、例えば特許文献1では、低屈折率顔料、なかでも湿式法で製造された微粒子状珪酸(湿式法微粒子状珪酸)をバインダー樹脂に分散状態に固着させた多孔質層が開示されている。しかし、湿式法微粒子状珪酸は、材料として高価であるため、コスト高の要因となっていた。一方、安価な含水変色顔料としては、以前より炭酸カルシウムが知られていた(例えば特許文献2)。
【0004】
しかしながら、炭酸カルシウムは含水変色顔料ではあるが、吸液状態と乾燥状態の色差ΔEがあまり大きくないため、実際の製品としては、炭酸カルシウムは用いられてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−104661号公報
【0006】
【特許文献2】実開昭49−130913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、含水変色顔料として安価な炭酸カルシウムを主成分として用いた場合でも、吸液状態と乾燥状態の色差ΔEが十分に大きい水変色性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に関し、本発明者らは、水を含ませると色の濃淡が変化する変色層に用いる顔料(含水変色顔料)として炭酸カルシウムの他に、所定量のベーマイトを配合することにより、吸液状態と乾燥状態の色差ΔEが向上することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明の水変色性シートでは、含水変色顔料がバインダーで分散状態に固着された変色層と、前記変色層を支持する支持体とを少なくとも具備する水変色性シートにおいて、前記含水変色顔料として炭酸カルシウムとベーマイトとを含み、前記炭酸カルシウムの配合割合が、含水変色顔料全量に対して50重量%以上95重量%以下であることを最も主要な特徴とする。
【0010】
さらに前記ベーマイトの配合割合が、含水変色顔料全量に対して5重量%以上50重量%未満であること、また前記変色層に、さらに変色層全成分に対して0.5重量%以上20重量%以下の尿素を含むことが好ましい。
【0011】
かかる水変色性シートの製造方法としては、バインダーである樹脂エマルションを含む変色層形成インキを支持体上に印刷する工程を具備し、該工程で使用する前記変色層形成インキの全固形分量を35重量%以上60重量%未満とすることが好ましい。
【0012】
更には、前記工程で使用される前記変色層形成インキにポリウレタン系の粘性改質剤を配合することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水変色性シートによれば、前記変色層の含水変色顔料として炭酸カルシウムを主成分とし、さらにベーマイトを副次的成分として用いることで、含水変色顔料が炭酸カルシウム単独の場合と比較して、変色層の吸液状態と乾燥状態の色差ΔEが大きくなることが分かった。
【0014】
加えて本発明の水変色性シートによれば、耐摩耗性などの他の性能を維持したまま効果的なコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔構成の概要〕
本発明の水変色性シートは、支持体の上に、炭酸カルシウムを主成分とし、ベーマイトを副次的成分として含む含水変色顔料をバインダー樹脂に分散状態で固着させた変色層を設けることにより構成される。前記支持体の背面に、水不浸透体を設けてもよい。また水含有時の変化を鮮明にするため、前記変色層あるいは前記支持体を着色することもできるし、前記変色層と前記支持体との間に着色剤を含む着色材層を設けてもよい。
【0016】
〔含水変色顔料〕
本発明にいう含水変色顔料とは、乾燥状態と含水状態で色調が変化する顔料である。一般的には乾燥状態では隠蔽性の白色であり、含水状態で透明化するという変化が生じる。かかる含水変色顔料の例としては、珪酸、珪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ベーマイトなどを挙げることができる。本発明では、前記含水変色顔料として特に炭酸カルシウムとベーマイトとを必須成分として用いる。
【0017】
〔炭酸カルシウム〕
本発明では、前記変色層に分散固着させる含水変色顔料に、安価な材料である炭酸カルシウムを主成分として使用して水変色性シートのコストダウンを図る。すなわち炭酸カルシウムの含有割合を含水変色顔料全量に対して50重量%以上95重量%以下、好ましくは55重量%以上90重量%以下で用いる。炭酸カルシウムの配合が50重量%未満であるとコストメリットが得られない。
【0018】
〔ベーマイト〕
本発明では、前記変色層に分散固着させる含水変色顔料として、前記炭酸カルシウムを主成分とするとともに、副次的成分としてベーマイトを用いる。副次的成分、すなわち、ベーマイトを含水変色顔料全量に対して50重量%未満で配合することで、吸液状態と乾燥状態の色差ΔEが十分に大きい水変色性シートとすることができる。かかる効果を効果的に発揮しうるベーマイトの好ましい配合量の下限は5重量%である。一方、ベーマイトが50重量%を超えて配合されると、水変色性シートの経時的な表面摩耗が進みやすくなり、筆記・描画の際に表面が傷つきやすくなるため好ましくない。更に好ましい含有割合は10重量%以上45重量%未満である。
【0019】
本発明で用いるベーマイトとは、ボーキサイト中に含まれる天然鉱物の一種で、ベーム石とも呼ばれる。組成式(構造式)は、Al・HO或いはγ−AlOOHで表される。この点、Al・3HO或いはAl(OH)で表される水酸化アルミニウムとは組成が相違する。
【0020】
本発明で用いるベーマイトの比表面積は、特に制限されないが、BET値で0.5〜100m/gであることが好ましい。BET値がこの範囲よりも大きくても小さくても乾燥状態と含水状態との色差(ΔE)が小さくなる傾向にあり、好ましくない。またベーマイトの嵩密度も、特に制限されないが、0.1〜0.5g/cmであることが好ましい。
【0021】
本発明の水変色性シートで用いるベーマイトとしては、市販されている、大明工業社製のベーマイト粉体シリーズや、河合石灰工業製のセラシュールシリーズなどにより入手可能である。
【0022】
〔その他の含水変色顔料〕
本発明の水変色性シートでは、上記炭酸カルシウムの配合割合の範囲内、好ましくはそれに加えて前記ベーマイトの好適配合割合の範囲内で、炭酸カルシウム及びベーマイト以外の含水変色顔料を配合することもできる。具体的な含水変色顔料としては、上述の珪酸、珪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。
【0023】
〔着色成分〕
本発明の水変色性シートは、下地となる支持体に着色したり、変色層と下記支持体の間に着色剤層を設けたり、或いは変色層自身を着色したりするなどの方法で着色を行ってもよい。着色には、有色顔料・有色染料(白色以外の色を持つ顔料や染料)といった着色成分を用いることができる。有色の着色成分としては、公知の染料、顔料など各種のものが制限なく用いることができる。具体的には青色である製品名「POLYMO NAVY BLUE NT-231 ECO」(紀和化学工業株式会社製)、緑色である製品名「Ryudye-w Green F2G」(大日本インキ化学工業(株)製)、蛍光色である製品名「Lumikol」シリーズ(日本蛍光化学(株)製)などを挙げることができる。変色層に着色剤を配合させる様態において、着色剤として有色顔料を用いる際には、前記含水変色顔料とともに、下記バインダーを用いて分散状態で固着させることができる。一方、着色剤として有色染料を用いる場合には、下記バインダーの樹脂成分を予め染色させて用いることもできる。
【0024】
〔バインダー〕
本発明で用いられるバインダーとしては、前記含水変色顔料、或いはそれとともに着色成分としての有色顔料を、分散状態で固着させうる樹脂エマルションを好適に用いることができる。具体的には、ウレタン系樹脂、ナイロン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、アクリルポリオール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合樹脂、ブタジエン樹脂、クロロプレン樹脂、メラミン樹脂、及び前記各樹脂エマルション、カゼイン、澱粉、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、尿素樹脂、フェノール樹脂などのエマルションが挙げられる。なかでもアクリル系樹脂或いはアクリル−酢酸ビニル系樹脂エマルションが好ましい。さらに前記樹脂エマルションに硬化剤を加えることもできる。
【0025】
バインダーに用いられる樹脂エマルションの好適な濃度としては、分散させる被分散粒子、すなわち含水変色顔料や有色顔料の性状にも左右されるが、樹脂エマルション固形分濃度で2.3重量%以上36重量%以下とすることが好ましく、さらには4.6重量%以上27重量%以下とすることがより好ましい。樹脂エマルション固形分濃度が2.3重量%未満であると、被分散粒子が沈降し、また定着性の劣化が生じる。一方、樹脂エマルション固形分濃度が36重量%を超えると、変色層の隠蔽力が劣り、また水を変色層に塗布してからの変色スピードが遅くなる。
【0026】
〔尿素〕
前記変色層には、尿素を含有させることが好ましい。変色層に尿素を含有させることで、変色層の保湿性が向上し、これにより、筆記または描画の際に、水を塗布した変色層の変色スピードが速くなる。尿素の含有量は特に制限されるものではないが、変色層全構成成分に対して0.5〜20重量%が好ましく、1〜10重量%が更に好ましい。含有割合が0.5重量%未満であると変色スピードを速める効果がほとんど現れない。一方、含有割合が20重量%を超えると尿素を変色層中に均一に分散させることが困難になる。
【0027】
〔積層方法〕
前記支持体に、変色層を、或いは着色剤層とさらにその上に変色層とを形成させる手段としては、例えば、シルク印刷などスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷、転写等の印刷手段、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装等の公知の手段を適宜用いることができる。
【0028】
〔作製用インキ〕
含水変色顔料をバインダー樹脂に分散状態で固着し、好ましくは更に尿素を含有する変色層を、上記印刷の方法によって作製するためには、含水変色顔料及びバインダー樹脂、更には必要に応じて尿素、着色成分、含水変色顔料の変色層定着性を向上させるためのポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを含む作製用インキ、すなわち変色層形成インキを調整する。作製用インキには、良好な印刷を実現するため、前記成分の他に、湿潤剤、消泡剤、増粘剤、粘性改質剤などを加えることが好ましい。また必要に応じて界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、保水剤、可塑剤、分散剤などを加えることもできる。
【0029】
〔粘性改質剤〕
粘性改質剤としては、ポリウレタン系粘性改質剤が好ましい。ポリウレタン系粘性改質剤としては、具体的には、(株)ADEKA社製の商品名「アデカノールUH」シリーズ、ローム・アンド・ハース社製の商品名「PRIMAL」シリーズの「RM−2020NPR」「RM−5000」「RM−6000」「RM−7」「RM−5」、アクゾノーベル社製の商品名「BERMODOL
PUR」シリーズなどを挙げることができる。なかでも「アデカノールUH」シリーズが最適である。
【0030】
粘性改質剤の含有量は特に制限されるものではないが、作製用インキ全量に対して0.5〜30重量%(固形分濃度として0.2〜10重量%)が好ましく、1〜20重量%(固形分濃度として0.3〜7重量%)が更に好ましい。粘性改質剤の固形分濃度が0.2重量%未満であると粘性改質剤による曳糸性付与効果がほとんど現れない。一方、固形分濃度が10重量%を超えると作製用インキの流動性がなくなり、印刷が困難になる。
【0031】
〔固形成分割合〕
前記作製用インキには、その成分である含水変色顔料をはじめ、バインダーや粘性改質剤などに、固形成分が含まれている。固形成分とは、水その他の溶媒成分を完全に除去した後に残留する成分である。本発明では作製用インキ中に含まれる固形成分の合計が、作製用インキ全量に対して35重量%以上であることが好ましい。固形成分の合計が35重量%未満であると作製用インキに適度な曳糸性を付与することが困難になり、塗面(変色層表面)に印刷ムラが生じやすくなるからである。さらに作製用インキ中に含まれる固形成分の合計が作製用インキ全量に対して60重量%未満であることがより好ましい。固形成分の合計が60重量%を超えると印刷用メッシュに版詰まりが生じやすくなり、不良率が増加するからである。かかる固形成分としては、水変色顔料や樹脂エマルション中の固形分、変色層を着色するケースにおいて着色剤として顔料を用いる場合の該顔料を挙げることができる。
【0032】
〔変色層〕
本発明における変色層を形成するための塗布量は、これを塗布する支持体の材質などにも左右され、特に限定されるものではない。ただし、該変色層に有色の着色成分を配合する様態とするか、該変色層に有色の着色成分は配合せず、別に着色剤層を設ける或いは支持体自体を着色する様態とするかによって好適な塗布量は変化する。まず変色層に有色の着色成分を配合しない様態では、塗布量を5〜50g/m2とすることが好ましい。塗布量が50g/m2を超えると含水状態でも下層の着色剤層または着色した支持体の色が見えにくくなり、また水を塗布した際の変化が分かりにくくなるため好ましくない。さらに好適な塗布量は10〜20g/m2である。
【0033】
また、本発明の水変色性シートで、変色層に有色の着色成分を配合する様態では、該着色層の厚みを厚くするほど、含水させたときの色差(ΔE)は大きくなる。着色剤を配合した変色層を形成するための塗布量は特に制限されないが、濃淡の変化を明確にするには、5g/m2以上であることが好ましく、より好ましくは20g/m2以上である。塗布量が5g/m2未満であると、色調の濃淡の差が小さくなるだけでなく、表面から下地の支持体が透ける場合がある。一方、塗布量が多すぎると、シルク印刷などの簡便な方法による変色層の形成が困難となるので、200g/m2以下、より好ましくは100g/m2以下である。最も好ましい塗布量は30〜50g/m2である。
【0034】
〔支持体〕
本発明の水変色性シート支持体としては、印刷などの方法によってその表面に変色層などを積層させることのできるものであれば特に制限されないが、ポリエステルなどの織布、編物、不織布、シルク等の布帛の他、耐水性処理を施した紙素材などが好適に使用できる。なかでも、ポリエステルは、含水変色顔料として用いる炭酸カルシウムとの相性が良く、変色層を強く保持することが分かったので好ましい。また有色(白色以外)に着色した支持体を用いることもできる。
【0035】
〔水不浸透体〕
前記水変色性シートには、前記支持体の背面(変色層側の反対面)に、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等の軟質化プラスチックなど、水が浸透せず、かつ可撓性を有する材料による水不浸透体を適宜貼り付け、或いは積層させてもよい。水不浸透体はシート状でもよいし、発泡体など適度な厚みを有するものであってもよい。かかる水不浸透体を設けることにより、床などに本発明の水変色性シートを敷いて使用した場合でも、床が筆記による水で汚れることがない。
【実施例】
【0036】
〔色差評価〕
下記各実施例、比較例で得られた各塗布量の水変色性シートについては、表面乾燥状態と含水状態との色差(ΔE)により、色調変化の評価を行った。色差の測定にはJIS Z8729に規定される、CIE1978(L)表色系を用いた。なおLは、色の明るさ(明度)を示し、クロマティクネス指数aは、彩度を示す。色差測定装置としては顕微色差計「CR−241」(コニカミノルタセンシング(株)製)を用いた。測定手順は次のとおりである。
1.顕微鏡のファインダー視度を調節する。
2.測定径を1.8mmに設定する。
3.表色モードLabにして、白色校正板で校正する。
4.汚れのない位置を確認して乾いた状態の水変色性シート表面の(L)を測定する。これを(L)とする。
5.水を含んだペンで線幅約2.0mmの線を筆記(水を塗布)し、表面が乾かないうち(5秒以内)に水変色性シート表面の(L)を測定する。これを(L)とする。
6.得られた測定値から下記式〔数1〕により、色差ΔEを求める。
【0037】
【数1】

【0038】
〔耐摩耗性評価〕
後述の実施例、比較例で得られる水変色性シートの表面について、水を充填した塗布具を角度65°、荷重50g、7cm/secの条件で同じ個所に500回筆記を繰り返した。なお塗布具のペン先は、ナイロン製直径4.5mmの砲弾削りであり、塗布具サイズは99×15mm(1辺15mm三角)である。筆記具には、筆記を繰り返す間、ペン先が水で十分充填された状態を維持できるだけの量の水を補充した。筆記終了後、筆記を行った後の表面の状態において削れた表面の面積割合を算出し、次のとおり評価した。
○: X=0
△:0<X≦50
×:50<X
(X:削れた表面の面積割合(%))
【0039】
〔実施例1〜3、比較例1〜4〕
表1記載の配合量で、湿潤剤、防腐剤、消泡剤、粘性改質剤、尿素、増粘剤をディゾルバーで攪拌混合した後、3本ロールミルにかけたものと、表1記載の配合量の樹脂エマルションとを真空攪拌してベース液を調整した。このベース液に、ロールにかけた表1記載の配合割合で含水変色顔料(表中では「変色顔料」と表記)を加え攪拌し、作製用インキを調整した。この作製用インキを、青色(L=35.9,a=38.7,b=−67.9)のポリエステル製布帛を支持体として、塗布量15g/m2で120メッシュのスクリーン印刷法で塗布し、塗膜を室温で1日乾燥させ、実施例1〜3および比較例1〜5の水変色性シートを得た。
【0040】
得られた実施例1〜3、比較例1〜4の水変色性シートは、上記方法にて色差(ΔE)評価と耐摩耗性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1記載の成分の具体的な化合物名、商品名、製造メーカーは次のとおりである。
炭酸カルシウム:「軽微性炭酸カルシウム」(近江化学工業)
ベーマイト 「ベーマイトC06」(大明工業)
樹脂エマルション:アクリルエマルション「モビニールDM772」,固形分量46%(日本合成化学工業
湿潤剤:プロピレングリコール
防腐剤:ジチオ−2,2−ビス(ベンズメチルアミド)「テンシルP」(アーチケミカルジャパン)
消泡剤:破泡性ポリマー「BYK-012」(ビックケミージャパン)
増粘剤:ヒドロキシエチルセルロース
粘性改質剤:ウレタン変性粘性改質剤「アデカノールUH-420」,固形分量30%(ADEKA)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン「BYK-345」(ビックケミージャパン)
【0043】
全含水変色顔料に対する炭酸カルシウム配合割合がいずれも所定範囲にある実施例1〜3では、いずれの水変色性シートも耐摩耗性に優れるものであることが分かった。一方、比較例3のような炭酸カルシウム単独系であると、実施例1〜3の水変色性シートよりも変色層の吸液状態と乾燥状態の色差ΔEの面で劣ることが分かる。また比較例1,2,4のようにベーマイトの配合割合が、炭酸カルシウムの配合割合と同等以上になり、更にベーマイトの配合割合が高まるにつれ、色差ΔEの点では問題がないものの、耐摩耗性が劣っていくことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の水変色性シートは、ペン先などに水などの液体を吸液させることのできる筆記具形態の塗布具とともに、繰り返し使用できるお絵かきシートとして玩具などの用途で利用できる。かかる玩具は、筆記に用いる液体が水であるため、着色インキなどを用いたお絵かきシートなどと比較して使用後の汚れがほとんどなく、特に幼児用の玩具として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水変色顔料がバインダーで分散状態に固着された変色層と、前記変色層を支持する支持体とを少なくとも具備する水変色性シートにおいて、
前記含水変色顔料として炭酸カルシウムとベーマイトとを含み、
前記炭酸カルシウムの配合割合が、含水変色顔料全量に対して50重量%以上95重量%以下であることを特徴とする水変色性シート。
【請求項2】
前記ベーマイトの配合割合が、含水変色顔料全量に対して5重量%以上50重量%未満である請求項1記載の水変色性シート。
【請求項3】
前記変色層に、さらに変色層全成分に対して0.5重量%以上20重量%以下の尿素を含む、請求項1または2記載の水変色性シート。
【請求項4】
バインダーである樹脂エマルションを含む変色層形成インキを支持体上に印刷する工程を具備する、請求項1〜3いずれかの項記載の水変色性シートの製造方法において、
前記変色層形成インキの全固形分量が、35重量%以上60重量%未満である水変色性シートの製造方法。
【請求項5】
前記変色層形成インキにポリウレタン系の粘性改質剤を配合する請求項4記載の水変色性シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−24455(P2012−24455A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168083(P2010−168083)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】