説明

水性害虫忌避組成物

【課題】エステル基を有する害虫忌避成分を安定に含有した水性害虫忌避組成物を提供すること。
【解決手段】エステル基を有する害虫忌避成分と、
ビタミンE誘導体、ビタミンC誘導体、エチレンジアミン四酢酸塩、茶抽出物及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選ばれる1種又は2種以上とを含有することを特徴とする水性害虫忌避組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル基を有する害虫忌避成分を安定に含有した水性害虫忌避組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫忌避組成物には害虫忌避成分として種々のものが用いられており、その一つとしてエステル基を有する化合物、例えば3−(N−ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルは、人体用の害虫忌避成分の1つとして知られている。該成分は、例えば特許文献1にあるように、蚊などの吸血性害虫に対して強力な忌避作用を発揮する。しかしながら、エステル基を有する害虫忌避成分は加水分解されやすく長期間貯蔵することで忌避作用が失われるという問題がある。
一方、人体用の害虫忌避組成物にあっては、その性質上、刺激が少ない方が好ましいことから、製剤化に際しては水性溶媒が用いられており、該成分を配合した場合には、分解により忌避作用が低下することが懸念されている。
そのため水性溶媒を用いても3−(N−ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルの分解を抑えるための技術が検討されており、例えば、特許文献2では、界面活性剤を含有させることで該成分の分解割合を減少させること、特許文献3では、水性溶媒を含む調合物のpHを3より大きい範囲とすることで安定性を向上すること、等が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭53−8773号公報(1−6頁)
【特許文献2】特開平11−349409号公報(1−18頁)
【特許文献3】特表2001−503417号公報(1−16頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが依然として水性溶媒を用いた時のエステル基を有する害虫忌避成分の安定化は十分であるとは言えず、より優れた安定化に関する技術の提供が望まれている。
したがって本発明は、エステル基を有する害虫忌避成分を安定に含有した水性害虫忌避組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水性溶媒を用いた時に、エステル基を有する害虫忌避成分(以下、「成分A」とも言う)と、特定の成分とを併用することで成分Aの分解を抑えて安定化できることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は以下の(1)によって達成されるものである。
(1)エステル基を有する害虫忌避成分と、
ビタミンE誘導体、ビタミンC誘導体、エチレンジアミン四酢酸塩、茶抽出物及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選ばれる1種又は2種以上とを含有することを特徴とする水性害虫忌避組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によって、害虫忌避組成物に水性溶媒を用いた時にエステル基を有する害虫忌避成分の分解を抑えて、長期間にわたり安定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の水性害虫忌避組成物において、成分Aは害虫忌避作用の有効成分として用いられるものであり、害虫忌避成分として知られているものの中で、エステル基を有するものであれば制限されないが、下記式(A)にて示される、窒素原子に2個の置換基を有する3−アミノプロピオン酸エステルが好ましい。
【0008】
【化1】

【0009】
ここで、Rは炭素数1〜6の分岐した又は直鎖のアルキル基であり、Rは水素、メチル基またはエチル基であり、Rは炭素数1〜8の分岐したもしくは直鎖のアルキル基又はアルコキシ基であり、Rは炭素数1〜6の分岐した又は直鎖のアルキル基である。
成分Aとして最も好ましくは、3−(N−ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチル(商品名IR3535、メルク社)である。これは、上記式(A)において、Rがn−ブチル基、Rが水素、Rがメチル基、Rがエチル基である場合に相当する。
成分Aは、本発明の水性害虫忌避組成物において、組成物全量中に1〜50重量%、好ましくは10〜30重量%配合することができる。
【0010】
ビタミンE誘導体、ビタミンC誘導体、エチレンジアミン四酢酸塩、茶抽出物及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選ばれる1種又は2種以上(以下、「成分B」とも言う)は、水性溶媒を用いた時に成分Aに対して安定化作用をもたらす安定化剤として作用するもので、該組成物全量中に0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜1重量%配合することができる。
成分BのうちビタミンE誘導体としては、例えば、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、トコフェロールジメチルグリシン、トコフェリルジメチルグリシン、トコレチノエート、トコトリエノール、d−α―トコフェロール、β―トコフェロール、γ―トコフェロール等が挙げられる。
成分BのうちビタミンC誘導体としては、例えば、エリソルビン酸ナトリウム、アスコルビルリン酸ナトリウム、リン酸L−アスコルビルマグネシウム、L−アスコルビン酸硫酸エステル二ナトリウム、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル等が挙げられる。
成分Bのうちエチレンジアミン四酢酸塩としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二カリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム−カリウム、エチレンジアミン四酢酸トリエタノールアミン、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム等が挙げられる。
成分Bのうち茶抽出物とは、ポリフェノール、カテキン、エピガロカテキンガレート、タンニン等の茶由来成分、茶の葉、茎等の溶媒抽出成分等を挙げることができる。また、これらの成分を含有した商品を用いてもよく、例えば、エピガロカテキンガレートを90%以上配合した商品名テアビゴ(DSMニュートリション ジャパン社製)等を用いることができる。
【0011】
本発明の水性害虫忌避組成物は、水と有機溶媒とを混合した水性溶媒を用いて調製される。有機溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、グリセリン等のアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルキレングリコール;ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル等の1種又は2種以上が挙げられる。
水と有機溶媒とのバランスは、成分A、Bの含有量等を勘案して設定すればよく、水:有機溶媒が95:5〜10:90とするのがよい。
【0012】
さらに界面活性剤を併用したり、場合によっては有機溶媒にかえて界面活性剤を用いてもよい。界面活性剤としては、例えば、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、トリポリオキシエチレンアルキルエーテル、デカグリセリンモノオレート、ジオレイン酸プロピレングリコール、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリルアルコール、ポリビニルピロリドン、ラノリン脂肪酸等が挙げられる。
【0013】
本発明の水性害虫忌避組成物は、成分Bの含有量を調整したり、クエン酸、リン酸水素ナトリウム、フタル酸水素カリウム、水酸化ナトリウム等の緩衝剤を用いて、該組成物全体のpHを約5〜7の範囲とすることで成分Aをより安定化することができる。
【0014】
本発明の水性害虫忌避組成物は、各成分が均一となるように混合することで簡単に調製することができる。また調製された該忌避組成物は、ポリプロピレン、ポリエチレンを素材とした容器に収納すると成分Aの安定化によい影響をあたえる。
【0015】
この他、本発明の水性害虫忌避組成物には、必要に応じて、公知の各種成分を配合してもよい。
例えば、P−メンタン−3,8−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ブチル−3,4−ジヒドロ−2,2−ジメチル−4−オキソ−2H−ピラン−6−カルボキシレート、n−ヘキシルトリエチレングリコールモノエーテル、メチル−6−n−ペンチル−シクロヘキセン−1−カルボキシレート、ジメチルフタレート、ユーカリプトール、α−ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、テルペノール、カルボン、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、ナフタレン、桂皮、樟脳、レモングラス、クローバ、タチジャコウソウ、ジェラニウム、ベルガモント、月桂樹、松、アカモモ、ベニーロイアル、インドセダン、天然ピレトリン、ピレトリン、アレスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、プラレトリン、エトフェンプロックス、エンペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物等の害虫忌避成分;
疎水性シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイソウ土、高純度シリカ、無水ケイ酸等のケイ酸化合物、タルク、炭酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、酸性白土、ホワイトカーボン、パーライト等の無機粉体、オクテニルコハク酸トウモロコシデンプンエステルアルミニム等のアルケニルコハク酸デンプンの金属塩、シルクパウダー等の天然パウダー、ナイロン、ポリプロピレン等の樹脂等の粉体;
メントール、ハッカオイル、ミントオイル等の香料成分;
フェノール、パラオキシ安息香酸エステル、サリチル酸及びその塩、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、フェノキシエタノール等の殺菌・防腐成分;
ソルビット、グリセリン、プロピレングリコール等の保湿成分;
パラアミノ安息香酸エステル、シノキサート、オキシベンゼン等の紫外線吸収・遮断成分;
クロルヒドロキシアルミニウム、アルミニウム・ジルコニウムクロルヒドレート等の制汗・消臭成分;
各種法定色素、ベニバナ等の色素成分、等が挙げられる。
【0016】
さらにミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル等の高級脂肪酸エステル;アロエ、モモ、トウキ、冬虫夏草、トマト、ニンジン、ブクリョウ、アカブドウ、アシタバ、アルテア、アルニカ、カイソウ、キュウリ、紅茶、ゴボウ、シイタケ、ジオウ、タイソウ、甜茶、プハーン、ヘチマ、ボタン、ユリ、リンゴ、レイシ等の植物抽出物;シリコーン等を配合することにより、害虫忌避効果の持続と、さらに使用感を向上することができる。
【0017】
本発明の水性害虫忌避組成物は、例えば、ポンプ剤、ローション剤、ウェットティッシュ剤、ロールオン剤、塗布剤、エアゾール剤、クリーム剤、ジェル剤等の各種製剤とすることができる。その際には、無機、有機の各種固体担体、液体担体、不織布等の布帛、寒天、ジェランガム等のゲル、液化石油ガス、ジメチルエーテル、代替フロン、圧縮ガス等の噴射剤、スチレン、アクリル等の高分子化合物、さらにアクチュエーター、塗布具、ポンプ装置、エアゾール装置、超音波霧化装置、ピエゾ噴霧器、ファン型装置、各種容器等を組合せて所期の形態とすればよい。
【実施例】
【0018】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
試験例1
表1記載の試験検体を調製し、ポリプロピレン又は高密度ポリエチレン容器に40ml入れ、蓋をして5℃、40℃及び50℃条件下に置いた。そして試験開始1ヶ月後、2ヶ月後に試験検体中の成分A(3−(N−ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチル)の存在量をガスクロマトグラフで分析し、初期値(検体調製の直後)に対する割合を求めた。試験は2回繰り返して行い、その平均を結果として評価した。
【0020】
【表1】

【0021】
試験の結果は表2に記載した。エリソルビン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、酢酸トコフェロール、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、茶抽出物は、5℃、40℃及び50℃条件下で成分Aに対して優れた安定化効果が認められた。その他のものは安定化効果が見られなかった。
またエリソルビン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、茶抽出物、ブチルヒドロキシアニソールについては、試験検体が微黄色又は褐色に着色する傾向が見られた。
【0022】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル基を有する害虫忌避成分と、
ビタミンE誘導体、ビタミンC誘導体、エチレンジアミン四酢酸塩、茶抽出物及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選ばれる1種又は2種以上とを含有することを特徴とする水性害虫忌避組成物。

【公開番号】特開2012−77091(P2012−77091A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−2587(P2012−2587)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【分割の表示】特願2006−184648(P2006−184648)の分割
【原出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】