説明

水性樹脂組成物及び塗膜防水材用下塗りコーティング材

【課題】 水性で1液タイプでありながら、上塗材との密着性と耐水後の密着性、下地浸透性が良好な下塗り用水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 エポキシ基含有不飽和単量体、水酸基含有不飽和単量体、カルボニル基含有不飽和単量体及びその他単量体からなる単量体混合物を共重合によって得られた水分散体よりなる樹脂組成物が下塗りコーティング材として有用であり、エポキシ基含有不飽和単量体、水酸基含有不飽和単量体、カルボニル基含有不飽和単量体、ポリエチレングリコール基含有不飽和単量体及びその他単量体からなる単量体混合物を共重合によって得られた水溶性樹脂をブレンドすることにより、下地に対する浸透性、下地の密着性を向上させることができる。また、水性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を―10℃〜50℃の範囲に調整することにより、塗膜の強度が増し、密着性の向上させることができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水性樹脂塗料組成物に関する、詳しくは塗膜防水材用下塗りコーティング材に関する、
【背景技術】
【0002】
ビルディングの屋上、廊下、ベランダ、屋外駐車場などのコンクリート構造物に防水性能を付与するために、トリレンジイソシアネート末端プレポリマーを主剤とし、これと、芳香族アミン、可塑剤、充填剤などを配合した硬化剤とを施工現場で混合して塗工する2液型常温硬化性ウレタン塗膜防水材が広く使用されている。これらコンクリートやモルタル下地に防水施工を行う場合には、この下地と防水材層との接着性を高め、かつ防水材層のふくれ現象を防止するために下地基材に対しあらかじめプライマー処理を行うことが必須とされている。
【0003】
プライマーとして、溶剤系と水系があり、溶剤系としては、ポリオキシプロピレンポリエーテルポリオールとトリレンジイソシアネートとの反応により得られるイソシアネート末端プレポリマーにキシレン、トルエン、もしくは酢酸エチルなどの溶剤を加えて希釈した溶液からなる1液溶剤型ウレタン系プライマー、又は、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂溶液からなる主剤と脂肪酸ポリアミン溶液からなる硬化剤とからなる2液溶剤型エポキシ系プライマーが用いられているが、溶剤を使用しているため、環境問題、臭気、安全性の問題がある。
【0004】
水系としては、ウレタン樹脂系エマルジョン型水性プライマーとして、ポリオールを主成分とするエマルジョンからなる主剤とクルードMDI、カルボジイミド変成体などの液状MDIからなる硬化剤とからなる2液水性ウレタン系プライマー、又は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエマルジョンからなる主剤、脂肪酸ポリアミンのエマルジョンからなる硬化剤からなる2液水性エポキシ系プライマーがあげられる。しかし、主剤と硬化剤の2液であるため、現場での作業性が悪く、可使時間が短い問題があり、1液化の検討が進められている。
【0005】
エポキシ基含有単量体とカルボキシル基含有単量体及びその塩から選ばれる単量体とアミド基含有単量体とヒドロキシル基及びハロゲン原子含有単量体を必須構成単量体とした水性シーラー組成物が提案されているが、エポキシ基とカルボキシル基を含有しており、エポキシ基とカルボキシル基の反応性が高いため、重合中及び貯蔵中に粒子内で架橋が進み、粒子が硬くなり、成膜性が低下して、耐水性が不足しやすい問題がある。(特開平11−199825)
親水性溶剤中でカチオン系モノマーを含有した単量体を重合した水溶性樹脂液を使用する下塗り材組成物が提案されているが、水溶性樹脂液であり、下地に対する浸透性が優れるが、樹脂全体が水溶性であるため、耐水性、耐温水性に問題がある。(特開平9−324138)
【特許文献1】特開平11−199825
【特許文献2】特開平9−324138
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水性で1液タイプでありながら、上塗材との密着性と耐水後の密着性、下地浸透性が良好な下塗り用水性樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
(a)分子中にエポキシ基を含有し重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体、
(b)分子中に水酸基を含有し重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体、
(c)分子中にカルボニル基を含有し重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体、
(d)その他単量体
からなる単量体混合物を共重合によって得られた水分散体(A)を含有してなる水性樹脂組成物(請求項1)
(a)分子中にエポキシ基を含有し重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体、
(b)分子中に水酸基を含有し重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体、
(c)分子中にカルボニル基を含有し重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体、
(d)その他単量体
からなる単量体混合物を共重合によって得られた水分散体(A)
(a)分子中にエポキシ基を含有し重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体、
(b)分子中に水酸基を含有し重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体、
(c)分子中にカルボニル基を含有し重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体、
(e)分子中にポリエチレングリコール基を含有し重合可能なニ重結合を有するポリエチレングリコール基含有不飽和単量体、
(d)その他単量体からなる単量体混合物を共重合によって得られた水溶性樹脂(B)を含有してなる水性樹脂組成物(請求項2)
(a)成分0.1〜20重量部、(b)成分0.1〜20重量部(c)成分0.1〜20重量部(d)成分40〜99.7重量部からなる単量体混合物を共重合によって得られた水分散体(A)
(a)成分0.1〜20重量部、(b)成分0.1〜20重量部(c)成分0.1〜20重量部(e)成分20〜60重量部(d)成分0〜77.7重量部からなる単量体混合物を共重合によって得られた水溶性樹脂(B)を含有してなる水性樹脂組成物(請求項3)
水分散体(A)のガラス転移温度が−10℃〜50℃である請求項1〜3記載の水性樹脂組成物(請求項4)
水分散体(A)が反応性乳化剤を用いて乳化重合することにより得られる共重合体水分散液である請求項1〜4の組成物(請求項5)
請求項1〜5いずれかに記載の組成物を主成分とする塗膜防水材用下塗りコーティング材(請求項6)
塗膜防水材がウレタン塗膜防水材であることを特徴とする請求項1〜6の組成物(請求項7)
【発明の効果】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、研究を重ねた結果、分子中にエポキシ基を含有し重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体と、分子中に水酸基を含有し重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体と、分子中にカルボニル基を含有し重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体及びその他単量体からなる単量体混合物を共重合によって得られた水分散体(A)を含有することで特徴である。
【0009】
更に、分子中にエポキシ基を含有し重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体と、分子中に水酸基を含有し重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体と、分子中にカルボニル基を含有し重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体と、分子中にポリエチレングリコール基を含有し重合可能なニ重結合を有するポリエチレングリコール基含有不飽和単量体及びその他単量体からなる単量体混合物を共重合によって得られた水溶性樹脂(B)を含む水性樹脂組成物を使用することで、1液でありながら、エポキシ基と水酸基とカルボニル基を共に含むことにより上塗材との密着性の向上に寄与し、更に、ポリエチレングリコール基を導入した水溶性樹脂をブレンドすることで、下地に対する密着性を向上させることができる。
【0010】
水分散体(A)のガラス転移温度(Tg)を−10℃〜50℃の範囲に調整することにより、塗膜の強度が増し、更に密着性の向上させることにより、効果が発現し、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明をさらに詳しく説明する。
本発明における水分散体(A)の重合方法としては懸濁重合、塊状重合、乳化重合等のいずれかの方法によって重合されたものであってよく、好ましくは、乳化重合がよく、一般に用いられる重合方法が使用できる。
【0012】
(a)は分子中にエポキシ基を含有し、重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体であり、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アリルグリシジルエーテル、グリシジルビニルエーテル、3,4,−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらから選択される1種以上を用いることができる。(a)成分は、0.1〜20重量部、あるいは、0.5〜15重量部、特には0.7〜12重量部が好ましい。
【0013】
(b)分子中に水酸基を含有し、重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体であり、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシエチルビニルエ−テル、N―メチロ−ル(メタ)アクリルアミド、東亜合成化学工業(株)製のアロニクス5700、4−ヒドロキシスチレン、日本触媒化学工業(株)製のHE―10、HE−20、HP―1およびHP―20(以上、いずれも末端に水酸基を有するアクリル酸エステルオリゴマ−)、N−メチロ−ル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類、水酸基含有化合物とε―カプロラクトンとの反応により得られるε−カプロラクトン変性ヒドロキシアルキルビニル系共重合体化合物Placcel FA―1、 Placcel FA―4、 Placcel FM―1、 Placcel FM―4(以上ダイセル化学工業(株)製)、TONE M−201(UCC社製)、ポリカ−ボネ−ト含有ビニル系化合物(具体例としては、HEAC―1(ダイセル化学工業(株)製)などの水酸基を有するモノエチレン性不飽和モノマーを共重合モノマーとした1分子中に2以上の水酸基を有するアクリルポリオール等が挙げられる。中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらから選択される1種以上を用いることができる。(b)成分は、0.1〜20重量部、あるいは、0.5〜15重量部、特には0.7〜12重量部が好ましい。
【0014】
(c)分子中にカルボニル基を含有し、重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体であり、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシルプロピルアクリレートーアセチルアセタート等が挙げられる。中でも、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミドが好ましい。これらから選択される1種以上を用いることができる。ただし、カルボン酸及びエステル類の持つカルボニル基を含有するエチレン性不飽和単量体を除外する。(c)成分は、0.1〜20重量部、あるいは、0.5〜15重量部、特には0.7〜12重量部が好ましい。
【0015】
(d)重合可能な二重結合を有するその他単量体としては、公知のラジカル重合可能な単量体を用いることができる。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−ノニルアクリレート、i−ノニルアクリレート、n−デシルアクリレート、n−ドデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等の単官能アクリレート及びそれらのメタアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート等の2官能アクリレート及びそれらのメタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等の多官能アクリレート及びそれらのメタアクリレート、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン、クロルスチレン等の芳香族ビニル単量体等が挙げられる。
【0016】
これらから選択される1種以上を用いることができる。(d)成分は、40〜99.7重量部、あるいは、55〜98.5重量部、特には75〜95重量部が好ましい。 水分散体(A)としては、(a)、(b)、(c)、(d)成分は併せて100重量部である。又、後述する(e)成分を含むことも可能であり、用いる場合は0.1重量部〜10重量部、更には0.3重量部〜5重量部が好ましく、(d)成分の使用量に含めて用いることができる。
【0017】
水分散体のガラス転移温度は−10〜50℃であることが好ましく、更には、0℃〜45℃が好ましい。−10℃より低くなると、塗膜が脆弱になり、耐水後の密着性の低下する傾向にある。50℃より高くなると、粒子を成膜するために必要な成膜助剤量が多量に必要になり、成膜助剤が耐水性、密着性を阻害する傾向がある。
ガラス転移温度は次の式により決定する。
【0018】
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
Tg:水分散体のガラス転移温度(絶対温度表示)
Tgi:単量体i成分の単独重合体のガラス転移温度(絶対温度表示)
Wi:水分散体中のi成分の重量分率、又、各モノマーのTgは次に示す値を用いた。
メチルメタクリレート 105℃
2−エチルヘキシルメタクリレート −85℃
グリシジルメタクリレート 38℃
ヒドロキシエチルメタクリレート 55℃
ジアセトンアクリルアミド 77℃
アクリル酸 87℃
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学社製品NKエステルM−90G) −67℃
本発明の水分散体(A)は乳化剤により重合体が水性媒体中に分散されている分散体であり、重合法は乳化重合による方法が好ましい。 その際に用いる乳化剤としては、乳化重合に用いることが出来る一般の乳化剤を用いることが可能であるが、反応性乳化剤を用いると耐水性が向上するので好ましい。
【0019】
反応性乳化剤としては、1分子中に重合性二重結合を有するものがあげられ、具体例としては、RMA−506、MA−30、MA−50、MS−60、MA−100、MA150、MAG−130MA、RMA−564,RMA−568、RMA−506,RMA−1120,RMA−1804、RMA−2310,RMA−2327(以上、日本乳化剤(株)製)、アクアロンRN−20、RN−30、RN−50、アクアロンHS−10、HS−20、HS−1025、アクアロンBC−10、BC1025、BC−0515、KH−05,KH−10(以上、第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40、SE−10N、ER−10,ER−20,ER−30(以上、旭電化工業(株)製)、ラテムルS−180,S−180A,PD−104、PD−420、PD−430(以上花王(株)製)等が例示される。
【0020】
乳化重合に際しては、これらの1種又は2種以上を混合してもよい。又、必要に応じて反応性のない乳化剤を併用することも可能である。反応性のない乳化剤としては、通常の乳化重合に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、イオン性、非イオン性の界面活性剤、などがあげられる。
【0021】
アニオン性界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウムのような脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムのような高級アルコールの硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソオクチルベンゼンスルホン酸塩等のアルキルアリルスルホン酸塩、ホルマリン縮合ナフタレンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等がある。カチオン性界面活性剤としては、イミダゾリンラウレート、アンモニウムハイドロオキサイド、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウム、クロライド等が代表例としてあげられる。
【0022】
前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が代表例としてあげられる。
【0023】
これらの乳化剤は、単独または2種類以上組み合わせ使用することができる。反応性乳化剤の使用量は、単量体の合計量100重量部に対して、0.1〜10重量部が、更には、0.15〜8重量部が好ましい。10重量部を超える量で重合して得られるエマルジョンは塗膜の耐水性が悪くなる傾向があり好ましくない。又、0.1重量部未満では重合安定性が悪く、得られるエマルジョンが不安定になり凝集体を生じる傾向がある。このようなことから、乳化剤量としては、前記した範囲内で目的に応じた使用量にすることが好ましい。
【0024】
重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、アゾビスアミジノプロパン塩酸塩等のアゾ系化合物、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジブチルパーオキサンド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、クミルパーオキシネオデカノエート、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物が例示される。
【0025】
更に必要に応じて、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L−アスコルビン酸、糖類、アミン類などの還元剤と、銅イオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン等遷移金属イオン、または、それら遷移金属イオンとエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムナトリウム塩等のキレート化剤とのキレート化合物を併用したレドックス開始剤も使用することができる。
【0026】
前記重合開始剤の使用量は、重合単量体100重量部に対して0.01〜10重量部あるいは、0.015〜8重量部が好ましく、0.01重量部未満では重合の進行が遅くなる傾向があり、また10重量部を超える場合、分子量低下や、塗膜形成時も耐水性等の低下する傾向があり好ましくない。
【0027】
本発明における乳化重合温度や時間は適宜調整すれば良く、例えば重合温度は、30℃〜95℃、反応時間は、2〜20時間が実用上好ましい。
水溶性樹脂(B)の重合方法としては、溶液重合が好ましいが、一般に用いられる重合方法が使用できる。有機溶剤中で溶液重合し、得られた水溶性樹脂を水性媒体好ましくは水に溶解(場合によりその一部が分散状態となっている場合も含まれる)させることによって水溶性樹脂(B)が得られる。
【0028】
水溶性樹脂(B)に重合に用いることができる単量体としては、前記した(a)〜(d)を用いることができる。水溶性樹脂(B)には更に(e)成分を用いるものである。
【0029】
(e)分子中にポリエチレングリコール基を含有し、重合可能な二重結合を有するポリエチレングリコール基含有不飽和単量体であり、例えば、「NKエステルM−90G、M230G、AM−90G、9G、14G」以上新中村化学(株)社製品、「NFバイソマーS−10W,S−20W、MPEG350MA、PEM6E」以上第一工業製薬(株)社製品などが挙げられる。これらから選択される1種以上を用いることができる。(e)成分は、20〜70重量部、あるいは、30〜65重量部、特には35〜60重量部が好ましい。
【0030】
水溶性樹脂(B)としては、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)成分を併せて100重量部である。水溶性樹脂(B)には(e)成分が必須であるが(e)成分の量は(d)成分で調整でき、その場合(d)成分は0〜79.7重量部、あるいは10〜68.5重量部、特には29〜62.9重量部が好ましい。ブレンド後の水性樹脂組成物のTgが−10℃〜50℃になるように調整することが好ましい。
【0031】
使用する有機溶剤は、特に限定されないが、環境問題等よりトルエン、キシレン等は溶剤回収の必要があり好ましくない。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、nーブチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルリコールモノメチルエーテル、ジエチレングルリコールモノエチルエーテル、ジエチレングルリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルリコールジメチルエーテル、ジエチレングルリコールジエチルエーテル、ジエチレングルリコールジブチルエーテル、ジエチレングルリコールモノメチルエーテルカルビトール、ジエチレングルリコールモノエチルエーテルカルビトール、ジエチレングルリコールモノブチルエーテルカルビトール等の多価アルコール及びその誘導体が挙げられる。
【0032】
中でも、水と適切な比率で混合した際に、溶液が引火点を持たず、塗膜形成時に成膜性を向上させるものがよく、ジエチレングルリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルリコールモノブチルエーテルカルビトールが好ましい。これらから選択される1種以上を用いることができる。
【0033】
溶液重合は公知の方法に従って行えばよく、有機溶剤中に、上記単量体混合物と重合開始剤を連続追加する方法、単量体混合物に重合開始剤を溶解して連続追加する方法、重合開始剤を分割追加する方法等から、選択できる。
【0034】
溶液重合に使用する重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、アゾビスアミジノプロパン塩酸塩等のアゾ系化合物、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジブチルパーオキサンド、ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、クミルパーオキシネオデカノエート、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物が例示される。
【0035】
連鎖移動剤を使用することもでき、使用する連鎖移動剤についても、特に限定はなく、公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、メルカプタン類、ハロゲン化アルキル等を挙げることができる。連鎖移動剤の使用量は、単量体重量に対して、0.03〜5重量部程度が適当である。
本発明における溶液重合温度や時間は滴宣調調整すれば良く、例えば重合温度は30℃〜95℃、反応時間は2〜20時間が実用上好ましい。
【0036】
本発明の下塗り用コーティング材は、上塗り用途以外に用いるものであり、基材に直接塗布する場合、又はその他塗膜の上に塗布し、更に塗膜を設ける場合、下地と上塗り塗膜との密着性を向上させるためのコーティング材として用いるものである。塗膜防水材用プライマー、下塗り塗料、中塗り塗料に使用できる。更には、塗膜防水材用水性1液プライマー組成物に有用である。
【0037】
本発明の水性樹脂組成物は通常のエマルジョン塗料組成物と同様に必要に応じて、酸化チタン等の顔料、炭カル等の充填材、或いは消泡剤、水溶性高分子、防腐剤、pH調整剤、成膜助剤、可塑剤、難燃剤等を添加することもできる。
【実施例】
【0038】
(合成例1)エマルジョン−1
攪拌機、還流冷却器、滴下ロートを付けたセパラブルフラスコに、純水78重量部、ロンガリット0.4重量部、硫酸第1鉄0.013重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.013重量部、アクアロンHS−10を0.22重量部、アクアロンRN−20を0.22重量部を加え、攪拌しながら、窒素気流中で60℃に調節する。別の容器にメチルメタクリレート59重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート20重量部、グリシジルメタクリレート5重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10重量部、ジアセトンアクリルアミド5重量部、乳化剤として、アクアロンHS−10を2.03重量部、アクアロンRN−20を2.03重量部、クメンハイドロパーオキサイドを0.8重量部、純水を44.2重量部を混合し、攪拌して、乳化液を作成した。セパラブルフラスコ内を3時間にわたり内温を60℃に維持し、上記混合物を滴下ロートからセパラブルフラスコ内に一定速度で連続追加した。追加終了後2時間60℃を維持し反応を終え、純水27.7重量部を加え、固形分40重量%のエマルジョン−1を得た。
【0039】
(合成例2〜6)エマルジョン−2〜6
合成例1に示した装置と同様の重合装置に表1に記載した原料を使用し、合成例1と同様に重合を行い、エマルジョン−2〜6を得た。
【0040】
【表1】

【0041】
(合成例7)水溶性樹脂−1
攪拌機、還流冷却器、滴下ロートを付けたセパラブルフラスコに、ジエチレングルリコールモノブチルエーテルカルビトール100重量部を加え、攪拌しながら、窒素気流中で75℃に調節する。別の容器にメチルメタクリレート29重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート1重量部、グリシジルメタクリレート5重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10重量部、ジアセトンアクリルアミド5重量部、NKエステルM−90G50重量部を加え、重合開始剤として、2.2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4重量部を混合し、攪拌して、混合物を作成した。セパラブルフラスコ内を3時間にわたり内温を75℃に維持し、上記混合物を滴下ロートからセパラブルフラスコ内に一定速度で連続追加した。追加終了後2時間75℃を維持し反応を終え、純水50重量部を加え、固形分40重量%の水溶性樹脂−1を得た。
【0042】
(合成例8〜11)
合成例7に示した装置と同様の重合装置に表2に記載した原料を使用し、合成例7と同様に重合を行い、水溶性樹脂−2〜5を得た。
【0043】
(合成例−12)
合成例7に示した装置と同様の重合装置に表2に記載した原料を使用し、合成例7と同様に重合を行い、合成例7と同様に純水50重量部を加え水溶性樹脂−6を得たが、水に対する溶解度が低いため、分離し良好な水溶性樹脂が得られなかった。
【0044】
【表2】

【0045】
(実施例1)
合成例1で得られたエマルジョン−1を使用し、100重量部に対して、純水90重量部、テキサノール10重量部を添加し、固形分20%に調整し、配合物1を得た。この配合物1を使用し、試験片1,2を作成し、2液型ウレタン系塗膜防水サンシラールC(三井化学産資(株)社製)を使用した初期密着性、耐水密着性、温水密着性及び、下地密着性を評価した。結果は表3に示す。ウレタン塗膜防水材を使用した初期密着性、耐水密着性、温水密着性は良好であった。
【0046】
(実施例2〜5)
使用エマルジョン及び、テキサノール、純水を表1に示すように変更し、配合物2〜5を作成し、実施例1と同様にして試験片1、2を作成し、評価実施した。結果は表3に示す。ウレタン塗膜防水材を使用した初期密着性、耐水密着性、温水密着性は良好であった。
【0047】
(実施例6)
合成例1で得られたエマルジョン−1と合成例7で得られた水溶性樹脂−1を使用し、エマルジョン−1を80重量部、水溶性樹脂−1を20重量部に対して、純水90重量部、テキサノール10重量部を添加し、固形分20%に調整し、配合物6を得た。この配合物6を使用し、実施例1と同様にして、試験片1,2を作成し、評価実施した。結果は表3に示す。ウレタン塗膜防水材を使用した初期密着性、耐水密着性、温水密着性は良好であった。水溶性樹脂をブレンドすることにより、下地密着性は良好な結果であった。
【0048】
(実施例7)
合成例2で得られたエマルジョン−2と合成例8で得られた水溶性樹脂−2を使用し、エマルジョン−2を80重量部、水溶性樹脂−2を20重量部に対して、純水90重量部、テキサノール10重量部を添加し、固形分20%に調整し、配合物7を得た。この配合物7を使用し、実施例1と同様にして、試験片1,2を作成し、評価実施した。結果は表3に示す。ウレタン塗膜防水材を使用した初期密着性、耐水密着性、温水密着性は良好であった。水溶性樹脂をブレンドすることにより、下地密着性は良好な結果であった。
【0049】
(実施例8)
合成例3で得られたエマルジョン−3と合成例9で得られた水溶性樹脂−3を使用し、エマルジョン−3を90重量部、水溶性樹脂−3を10重量部に対して、純水85重量部、テキサノール15重量部を添加し、固形分20%に調整し、配合物8を得た。この配合物8を使用し、実施例1と同様にして、試験片1,2を作成し、評価実施した。結果は表3に示す。ウレタン塗膜防水材を使用した初期密着性、耐水密着性、温水密着性は良好であった。水溶性樹脂をブレンドすることにより、下地密着性は良好な結果であった。
【0050】
(実施例9)
合成例1で得られたエマルジョン−1と合成例10で得られた水溶性樹脂−4を使用し、エマルジョン−1を80重量部、水溶性樹脂−4を20重量部に対して、純水90重量部、テキサノール10重量部を添加し、固形分20%に調整し、配合物9を得た。この配合物9を使用し、実施例1と同様にして、試験片1,2を作成し、評価実施した。結果は表3に示す。ウレタン塗膜防水材を使用した初期密着性、耐水密着性、温水密着性は良好であった。水溶性樹脂をブレンドすることにより、下地密着性は良好な結果であった。
【0051】
(比較例1)
合成例6で得られたエマルジョン−6を使用し、100重量部に対して、純水95重量部、テキサノール5重量部を添加し、固形分20%に調整し、配合物10を得た。この配合物10を使用し、試験片1,2を作成し、2液型ウレタン系塗膜防水材サンシラールC(三井化学産資(株)社製)を使用した初期密着性、耐水密着性、温水密着性及び、下地密着性を評価した。結果は表3に示す。カルボニル基が含まれないため、密着性の低下が認められた。
【0052】
(比較例2)
合成例6で得られたエマルジョン−6と合成例11で得られた水溶性樹脂−5を使用し、エマルジョン−6を80重量部、水溶性樹脂−5を20重量部に対して、純水85重量部、テキサノール15重量部を添加し、固形分20%に調整し、配合物11を得た。この配合物11を使用し、試験片1,2を作成し、評価実施した。結果は表3に示す。カルボキシル基を含有しているため、エポキシ基との架橋が起きており、塗膜が脆くなり、耐水密着性、温水密着性の低下が認められた。又、貯蔵中にも架橋が促進され増粘が認められた。
【0053】
(試験片1の作成)
実施例で配合した配合物を使用し、フレキシブル板(150×70×3mm)に塗布量100g/m2を刷毛塗りした。常温で24時間乾燥後、2液型ウレタン系塗膜防水材サンシラールC(三井化学産資(株)社製)を1〜2mmの厚さに塗布し、常温で7日養生し、試験片1とした。
【0054】
(試験片2の作成)
実施例で配合した配合物を使用し、モルタル板(40×40×10mm)に塗布量100g/m2を刷毛塗りした。常温で24時間乾燥を行い、試験片2とした。
【0055】
(密着性試験)
(A)初期密着性、
試験片1を使用し、JIS A−6854に準じて180度ピール試験を行った。
(B)耐水密着性
試験片1を使用し、サイドシール、バックシールを行わずに、常温で純水に完全浸積させ、7日放置後、純水より取り出し、塗膜表面の水分を拭き取った。初期密着性試験と同様に評価し、耐水密着性評価とした。
(C)温水密着性
試験片1を使用し、サイドシール、バックシールを行わずに、50℃温水に完全浸積させ、7日放置後、温水より取り出し、塗膜表面の水分を拭き取った。初期密着性試験と同様に評価し、温水密着性評価とした。
【0056】
(ピール試験評価)
評価基準 ○:防水材凝集破壊したもの△:一部界面剥離したもの。×:プライマーと防水材の界面がすべて剥離したもの。
(D)下地密着性
試験片2を使用し、常温で24時間乾燥した後、布粘着テープNO.102N(ニチバン(株)社製品)を貼付け、表面を圧着したのち、布粘着テープを剥がし、基材と塗膜のはがれ状態を目視で評価した。◎:ハガレなし。○:一部ハガレが認められる。△:大部分にハガレが認められる。×:テープを貼ったところにハガレが認められるの4段階で評価を行った。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分子中にエポキシ基を含有し重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体、
(b)分子中に水酸基を含有し重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体、
(c)分子中にカルボニル基を含有し重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体、
(d)その他単量体
からなる単量体混合物を共重合によって得られた水分散体(A)を含有してなる水性樹脂組成物
【請求項2】
(a)分子中にエポキシ基を含有し重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体、
(b)分子中に水酸基を含有し重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体、
(c)分子中にカルボニル基を含有し重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体、
(d)その他単量体
からなる単量体混合物を共重合によって得られた水分散体(A)
(a)分子中にエポキシ基を含有し、重合可能な二重結合を有するエポキシ基含有不飽和単量体
(b)分子中に水酸基を含有し重合可能な二重結合を有する水酸基含有不飽和単量体、
(c)分子中にカルボニル基を含有し重合可能な二重結合を有するカルボニル基含有不飽和単量体、
(e)分子中にポリエチレングリコール基を含有し重合可能なニ重結合を有するポリエチレングリコール基含有不飽和単量体、
(d)その他単量体からなる単量体混合物を共重合によって得られた水溶性樹脂(B)を含有してなる水性樹脂組成物
【請求項3】
(a)成分0.1〜20重量部、(b)成分0.1〜20重量部(c)成分0.1〜20重量部(d)成分40〜99.7重量部からなる単量体混合物を共重合によって得られた水分散体(A)
(a)成分0.1〜20重量部、(b)成分0.1〜20重量部(c)成分0.1〜20重量部(e)成分20〜60重量部(d)成分0〜77.7重量部からなる単量体混合物を共重合によって得られた水溶性樹脂(B)を含有してなる水性樹脂組成物
【請求項4】
水分散体(A)のガラス転移温度が−10℃〜50℃である請求項1〜3記載の水性樹脂組成物
【請求項5】
水分散体(A)が反応性乳化剤を用いて乳化重合することにより得られる共重合体水分散液である請求項1〜4の組成物
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の組成物を主成分とする塗膜防水材用下塗りコーティング材
【請求項7】
塗膜防水材がウレタン塗膜防水材であることを特徴とする請求項1〜6の組成物

【公開番号】特開2006−282808(P2006−282808A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103352(P2005−103352)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】