説明

水性無機コート剤及びその水溶液

【課題】基材表面を高度に親水化させることにより基材表面に付着する油系汚染物,無機系粉塵等の汚染物質を水で簡単に除去することができると共に,静電気の帯電防止効果を生み出し埃などを寄せ付けない特徴をも有し,従来の光触媒,ポリシラザン系ガラスコート剤などの使用制限があるものに対し塗布基材の有機,無機を問わず,簡単に誰でも施工でき,低価格,施工場所を選ばないなど使用条件の制限が殆どなく本来の目的である防汚性能を確保することの出来る水性無機コート剤及びその水溶液を提供すること。
【解決手段】アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸ナトリウム化合物とリン酸カリウム混合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,有機基材,無機基材の表面に塗布することにより薄膜の超親水性透明無機被膜を形成する水性無機コート剤に関し,防汚性にすぐれた水性無機コート剤及びその水溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機基材や無機基材といった塗布対象に塗布して,基材の汚れを防止あるいは少なくすることを目的としたコート剤が知られている。このようなコート剤のうち親水性コート剤は,空気中の水分を吸収して常時濡れた面を作ることができるので,それを拭き取ることで塗布面を簡単に清浄することができ,防汚性が高いことが知られている。このような親水性コート剤の代表的な公知例としては,チタニアを光触媒とした化合物が良く知られている(例えば,東陶機器株式会社,特許文献1,特許文献2,特許文献3)。
【特許文献1】特許第2923902号公報
【特許文献2】特許第2865065号公報
【特許文献3】特許第2756474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし,光触媒物質を使用した場合,紫外線を必要とすること,又有機基材の上に塗布するには有機基材自体が分解される為,光触媒反応により有機物基材が犯されないように種々のプライマー処理を必要とすること,特に透明なガラス面への塗布には,透明性の確保が困難(二酸化チタン量を多くすると濁りが出る,少なくして透明性を上げると効果が薄れる)なこと,基材への密着強度が弱いことなど用途が限定されるという問題がある。
又,その他のコート剤としては,自動車塗装面の例として,ボディーはワックス,ポリシラザン系ガラスコート剤,フッ素系コート剤などがあり,これらを塗布して光沢の維持をはかったり,有機塗膜の保護用としたものが一般的に知られている。しかし,ワックス等の有機系物質は,酸化問題,有機系汚染を更に増幅させるため,定期的にワックスを除去して再度塗布する必要がある。又降雨によりワックスの油が流れ出し,自動車車体に黒い筋が発生し,この汚れが除去しにくい難点がある。
【0004】
またポリシラザン系ガラスコート剤は,経過と共に硬化するので有機系の自動車塗膜との熱膨張係数の違いや薄膜の為,表面クラック,剥離,割れが予想され,一度傷が起きれば,傷部に進入した汚染物の除去や傷の修正が困難である。又これらポリシラザン系ガラスコート剤は,空気中の水分と接触すると反応して硬化(加水分解)するので,保管面,施工面で技術を要し,一般的でなく高価である。これらは使用範囲,施工技術面において多くの制約があり又,溶剤やバインダーの一部に有機物を使用しており,決して環境に優しいとは言えず,且つ作業環境性に優れているとは言いがたい。
特に透明性,平滑性を要するガラスなどに塗布する場合,不可能か,非常にスキルを必要とし,既設のガラス,自動車用フロントガラスなどへの施工は不可能と言える。
【0005】
又自動車のフロントガラス面には,主としてフッ素系の撥水剤がコートされているが,摩擦に弱い為,ワイパーの稼動により簡単に除去され,コート面に傷がつき,かえって汚れ(油膜など)の付着原因となっている。
前述のごとく,従来のコート剤では,使用範囲,使用条件,施工場所,施工時間,スキル等がかなり制限されるという問題点があり,ユーザーにとってはコスト高として跳ね返り,使用範囲が限定されると言う難点がある。
【0006】
又,基材としてのステンレスは錆びにくい,美観がよい,塗装の必要がなくトータルコストが安価等多くの利点を持っており,非常に多岐の分野に亘り使用されている。ステンレスは意匠性と傷の目立ちをカバーする目的でヘアーライン,バイブレーション,ブラスト加工などステンレス表面に模様を施して使用されていることが多い。この場合,傷の目立ち易さは押さえられ一定の効果はあるものの,ステンレス表面に多くの凹凸を作ることによって付着汚れが取れにくいという問題が新たに発生する。このため,有機系クリアー樹脂をコーティングしてカバーしているが,ステンレス自体が持っている光沢の風合いが損なわれると共に,樹脂コートの為,同類の有機汚れは付着しやすく落ちにくいなどの欠点がある。
【0007】
従って,本発明の目的は,
(1)光触媒材料であるチタニアなどを使用せず超親水性による防汚効果を発現すると共に紫外線も必要とせず,有機基材にも塗布する事ができ,
(2)基材表面への悪影響,製造工程,施工工程での環境負荷の低減,人体への安全性も確保されており,
(3)基材表面を高度に親水化させることにより基材表面に付着する油系汚染物,無機系粉塵等の汚染物質を水で簡単に除去することができると共に,静電気の帯電防止効果を生み出し埃などを寄せ付けない特徴をも有し,
(4)従来の光触媒,ポリシラザン系ガラスコート剤などの使用制限があるものに対し塗布基材の有機,無機を問わず,簡単に誰でも施工でき(ノンスキル),
(5)低価格,施工場所を選ばないなど使用条件の制限が殆どなく本来の目的である防汚性能を確保している,
水性無機コート剤及びその水溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は,以下の態様からなっている。
1.アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸ナトリウム化合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤。
2.アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸カリウム化合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤。
3.アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸ナトリウム化合物とリン酸カリウム混合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤。
4.上記1〜3の水性無機コート剤にアルカリ金属珪酸塩化合物を添加してなる水性無機コート剤。
5.上記1〜4の水性無機コート剤に水を添加してなる水性無機コート剤水溶液。
6.アルカリ性コロイダルシリカが,シリカ粒子径3〜100nm範囲の単一粒子径,あるいは粒子径の異なるシリカの混合物を水に分散させ二酸化ナトリウムで安定化させてなるコロイダルシリカである水性無機コート剤あるいはその水溶液。
【発明の効果】
【0009】
本発明は,上記したように構成されているので,例えば,自動車,外壁,ガラス窓などの降雨による自浄効果,簡単な水洗による汚染物質の除去,或いは,有機塗装面への光沢の付与,紫外線による有機高分子被膜の劣化保護などで,又ガラス,鏡等の防曇効果,ガラスの透過性の向上,自動車フロントガラス面等の油膜付着の防止,鉄道車両窓ガラス等に付着する指紋,整髪料等の水拭きによる除去,ガラス面への鱗状痕の付着低減,その他あらゆる分野のガラス,鏡などに適用できる。
【0010】
また金属系ではステンレス,チタン材料,アルミニウム,銅等のあらゆる金属表面或いはメッキ表面への高度な親水化付与により極めて簡単に汚れを拭き取り除去できる。表面の平滑な石材,陶磁器についても金属と同様の効果が得られ,これら無機系基材は常温による塗布処理,或いは用途目的により焼成処理を施す事ができる。
【0011】
特に,ステンレスの汚れ問題は風合いを変化させず簡単に汚れが除去できこれまでの問題を一挙に解決できる水性で耐久性のある完全無機質のコート剤を提供するものである。又アルカリ金属珪酸塩化合物をステンレス,石材,その他無機基材からなる建築資材外壁材,ホーローなどの表面に防汚対策として使用する場合の密着性付与に供する下地剤(プライマー)あるいは親水化剤(オーバーコート)として使用できる。
【0012】
また有機系塗装表面,プラスチック表面,TV,コンピューター等のスクリーンへの塗布により光沢を付与すると共に,汚れの簡単な除去,帯電防止による機器の汚染防止,気化熱によるこれら電気機器の冷却が期待できる。
特に,事務機器,携帯電話,メガネレンズ,デコラ製机,カウンター,人工大理石,ラッカー仕上げ或いは有機塗装仕上げの家具等の汚れ防止や,簡易清掃を可能にする。
【0013】
照明器具への塗布により反射効率の向上による照度の改善,自動車ヘッドライト内部の反射板の熱による変色劣化の対策などシリカの屈折率及び耐高温耐熱性能を十二分に提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0015】
本発明の代表的実施形態は,第1に,アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸ナトリウム化合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤である。また,第2に,アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸カリウム化合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤である。第3に,アルカリ性コロイダルシリカ,リン酸ナトリウム化合物とリン酸カリウム混合物,ホウ酸を含んでなる水性無機コート剤である。さらに,第4に,上記1〜3の水性無機コート剤にアルカリ金属珪酸塩化合物を添加してなる水性無機コート剤である。また第5に,上記1〜4の水性無機コート剤に水を添加してなる水性無機コート剤水溶液である。さらに第6に,アルカリ性コロイダルシリカが,シリカ粒子径3〜100nm範囲の単一粒子径,あるいは粒子径の異なるシリカの混合物を水に分散させ二酸化ナトリウムで安定化させてなるコロイダルシリカである水性無機コート剤あるいはその水溶液である。
上記第1から第5の実施形態において用いられる各組成は,次のとおりである。
【0016】
各実施形態においてリン酸ナトリウム化合物とは,リン酸2水素ナトリウム無水(NaH2PO4)を含むリン酸2水素ナトリウム結晶(NaH2PO4・2H2O),リン酸水素2ナトリウム結晶(Na2HPO4・12H2O),リン酸3ナトリウム無水(Na3PO4),リン酸3ナトリウム結晶(Na3PO4・12H2O),ピロリン酸4ナトリウム結晶(Na4P2O7),ピロリン酸4ナトリウム結晶(Na4P2O7・10H2O),ピロリン酸2水素ナトリウム(Na2H2P2O7),トリポリリン酸ナトリウム(Na5P3O10),テトラポリリン酸ナトリウム(Na6P4O13),ヘキサメンタリン酸ナトリウム((NaPO3)n),酸性ヘキサメタリン酸ナトリウム([NaxHy(PO3)x+y]n)等の複合物或いは単体物を言う。
また,リン酸カリウム化合物とは,リン酸2水素カリウム(KH2PO4),リン酸水素2カリウムK2HPO4),メタリン酸カリウム等の複合物或いは単体物を言う。
さらに水は,精製水,純水,水道水を問わない。
二酸化珪素とは,アルカリ性コロイダルシリカ或いは粉体シリカの水溶液化したものを問わない。
ホウ酸は,粉体或いは水溶液状を問わない。
アルカリ金属珪酸塩は,珪酸ナトリウム或いは珪酸カリウムで特にmol比や,固形分濃度を問わない。
アルカリ性コロイダルシリカは,負のイオンに帯電した無定形シリカ粒子(SiO2)を水中に分散させてコロイダル状をなしているものであり,シリカ粒子の表面にはSiOH基及びOHイオンが存在しており,アルカリイオンにより電気二重層が形成され,粒子間の反発により安定化させている。
【0017】
本発明では,リン酸ナトリウム化合物或いはリン酸カリウム化合物の吸湿,保水性のマトリックスにより,大気中の湿度がリン酸ナトリウム化合物或いはリン酸カリウム化合物に吸湿される。吸湿した水分はシリカの親水基(SiOHやOH)と結合し,被膜上に微量の水分を保水した状態を形成する。ここに降雨或いは水を強制的に加えると,形成された被膜は超親水性を発現する。なお,超親水性とは,接触角が15度から10度以下のものを呼ぶ。
【0018】
保水量は,リン酸ナトリウム化合物或いはリン酸カリウム化合物の投入量により調整される。この時,水の接触角度が15度以下の親水性を呈す。ホウ酸は,シリカと特に基材の結合の役目を果たすと共に本コート剤のpH調整の目的として使用される。光触媒は,紫外線とTiO2の反応により水酸基を形成し,バインダー内のSiO2の親水基に親水性効果を付与するメカニズムであるが,本発明は,紫外線が無くても大気中の湿度を物理的に吸湿し保水する素材リン酸ナトリウム化合物或いはリン酸カリウム化合物又はその混合物の吸湿効果発現材の組み合わせより親水性を付与させており,SiO2の基材と結合架橋剤としてヘテロ結合エネルギーの極めて高いホウ酸(H3BO3)を用いている。
【0019】
光触媒による親水性効果の発現には紫外線を必要とするが,大気中には必ず本発明品の効果を引き出す湿度がありなくなることがないので,本発明の効果が発現しないと言うことはあり得ない。又超薄膜形成が可能であるので,極めて透明で干渉縞が無く,耐摩擦性に優れた(超薄膜による)均一な被膜が簡単に施工可能にする。
【0020】
最も効果的な各材料の配合割合や固形分濃度の実施例の一部は後述する。実用例に於いては主にリン酸2水素ナトリウムを主体に使用しているが,リン酸カリウム化合物或いはその他リン酸ナトリウム化合物とリン酸カリウム化合物の複合物或いは単体物でも使用する事ができる。特に,非硬化性被膜形成にはリン酸ナトリウム化合物が有効で,硬化性被膜の形成にはリン酸カリウム化合物が使用できる。これらは使用条件,使用目的により任意に選択する事ができる。
【0021】
シリカ(SiO2)は当実施例においてアルカリ性コロイダルシリカの固形分40.5%,粒子径10〜20nm(日産化学社製スノーテックス40)を使用しているが固形分濃度に特に指定はなく,水性無機コート剤中の最終的な各使用材料の固形分濃度になるように配合すればよい。又,粒子径は3〜100nmの範囲で使用可能であり目的と用途に応じて粒子径を単一粒子径或いは粒子径の異なるシリカの混合物を選択することができる。シリカ粒子が微細であればあるほどその表面積は大きく,又結合力も増加する。これらは使用条件,使用目的に応じて任意に選択できる。
【0022】
実施例において使用している材料については,リン酸2水素ナトリウム(NaH2PO4)やリン酸水素2カリウムは無水の粉末状材料が水に溶解しやすい為使用しているが,リン酸水素ナトリウム系化合物やリン酸カリウム系化合物であれば特に問わない。
基材とSiO2の密着性向上とpH調整に精製ホウ酸(H3BO3)を使用しているが無水ホウ酸,ホウ酸水溶液であっても特に指定しない。水性無機コート剤中の最終固形分濃度になるように配合すればよい。
請求項の材料は全て水に溶解,或いは分散可能で且つ透明性の高い被膜を形成することが可能であると共に保存期間中にゲル化凝集する問題もクリアーしている。
【0023】
水性無機コート剤の材料組成物の固形分重量部は0.1〜25w%の範囲で有機基材,無機基材表面の塗布に使用できる。使用用途及び条件により夫々の固形分濃度を選定するが,例として無機基材のガラス,鏡,ステンレス鏡面仕上げ等表面が平滑で且つ屈折率或いは透明性の要求されるものは0.1〜5%の固形分濃度が好ましく,更には0.5〜3.5%の範囲がより好ましい。又有機塗装表面,有色プラスチック或いは樹脂製品,ラッカー塗装表面には0.1%〜10%の範囲が好ましく更には2〜6%の固形分濃度がより好ましい。
【0024】
珪酸ナトリウムはSiO2;NaO2 のモル比2.14の大阪硅曹株式会社の特1号珪酸ナトリウムを使用しているが特に他メーカーでもよく,またモル比は問わない。水性無機コート剤中の最終固形分濃度になるように配合すればよい。
【実施例】
【0025】
以下本発明にかかる水を含む水性無機コート剤の実施例について説明する。
表1は,実施例1〜4における組成及びその重量を示すものであり,表2及び3は,水を含む水性無機コート剤(水性無機コート剤水溶液)全体に占める各組成の重量比を示す表である。

【表1】

【表2】

【0026】
上記実施例に使用した材料の詳細は,次の通りである。
二酸化珪素;40.5%固形分濃度のコロイダルシリカ……日産化学社製 スノーテックス40
リン酸2水素ナトリウム粉末(無水)……太平化学産業社製 含有量98%以上
精製ホウ酸,粉末…………………………太洋化学工業社製
珪酸ナトリウム;特1珪酸ナトリウム47.1%固形分………大阪硅曹社製 mol比2.14
を使用し,表2,3の固形分濃度(W%)を計算した。
請求項に記載した前記水性無機コート剤水溶液中の水を除く固形分の全水性無機コート剤水溶液に対する重量比が,0.1%〜25%の範囲内の配合であれば使用可能であり上記実施例はその一部の代表例である。
また,上記固形分の全水性無機コート剤水溶液に対する重量比は,さらに望ましくはで0.3%〜8%の範囲であった。これまでの実験結果では,重量比0.1〜0.2の間では,塗布のやり方で塗り漏れが発生する場合があり,9〜25%の間では被膜厚にバラつきが発生し,余剰な被膜を除去する作業が必要となり不経済である。然し0.3〜8%濃度では塗り漏れなくまた,バラツキが少なく塗布できることが判明したものである。
【0027】
実施例1は特に有機基材に適しており,NaH2PO4の量が多くH3BO3, SiO2(40.5w%)の配合割合が少ない。実施例3,4はNaH2PO4量が少なくSiO2(40.5w%)・H3BO3はNaH2PO4と同等或いは多く配合する事で無機基材に適している。
又実施例2はNaH2PO4量とSiO2(40.5w%)も多く有機,無機基材の両用に使用可能であり,H3BO3量はNaH2PO4と同等としている。これにより,所謂有機,無機基材のマルチ使用可能である。
実施例3は,特に透明性を必要とし且つ平滑性に富んでいるような基材への塗布にすぐれており,例えば,ガラス,鏡などの無機基材への密着に優れている。
実施例4は,ガラス,ステンレス等の無機基材に塗布して,常温により徐々に硬化或いは加熱により強制的に硬化させ,より強度な密着性を可能にしたもので,これらの条件下で使用するものに適している。
上記より判明することは,固形分重量がNaH2PO4>H3BO3であり,NaH2PO4>SiO2(40.5w%固形分24g)である時は,より有機基材への密着性に適し,NaH2PO4≒H3BO3≒<SiO2(40.5w%)の場合は,無機基材により適しているということである。又これらの配合割合によりpH値が変化することが理解されると共に,有機基材,或いは無機基材により適したコート剤が,任意の割合により又は被塗布基材の種類や表面の平滑度,凹凸度或いは使用する条件により選択できるということを示している。
pH値はできるだけ中性(pH7)に近いのが理想であるが,酸性雨による影響を勘案するとpH5程度が酸性雨と同等で反応せず,又pHが上がっていくほど硬化させる事ができるため,使用目的と条件によりpH値が5〜9の範囲で選定することが望ましい。しかし,通常一般条件下に於いては,中性に近づける事がより望ましいので,pH値は,6〜8の範囲が一般的には選定される。
【0028】
有機基材の場合においては,有機基材上への密着をより強化する必要があるので,粘性のあるNaH2PO4の配合割合を上げることにより対応可能である。一方無機基材は,それ自体の表面に水酸基を保有しており,SiO2量を多くすること,およびNaH2PO4はSiO2の親水性の持続保持への呼び水的配合量で十分機能を発揮する。
すなわち,無機基材は,そのものに親水基を持っており,水性無機コート剤中のSiO2量を多くしても,NaH2PO4については,呼び水的な少量で十分に親水する。要するに,無機基材等コート剤は,SiO2をNaH2PO4より多くし,有機基材用では,NaH2PO4量をSiO2量より多くする。
【0029】
(実施例1の製造方法)
本発明にかかる水性無機コート剤の製造方法の一例について説明する。
表1に示した材料使用量に従って,添加剤としてリン酸2水素ナトリウム粉末(無水)(太平化学産業社製)36グラムと精製ホウ酸(太洋化学工業社製)4グラムをステンレス製加熱容器に入れ,約100グラムの水を入れて加熱攪拌し,無色透明になるまで加熱溶解した後,重量計量を行い,蒸発した水分を補填し添加剤化合物を作成した。総量水分2800グラムより添加剤溶解に供した水量100グラムを差し引いた2700グラムの調整希釈水にアルカリ性コロイダルシリカ,日産化学社製スノーテックス40(pH9〜10.5,SiO2固形分40.5%,NaO2固形分0.5%)を60グラム入れ,常温でよく攪拌した。ここに加熱溶解した添加剤化合物を投入しよく攪拌してpH6.〜6.5の水性無機コート剤を作成した。
【0030】
ゲル化反応を避ける為,水で約2倍程度に希釈したアルカリ性コロイダルシリカを加熱攪拌しながら徐々に投入し,乳白色透明液になるまで加熱攪拌した後,調整希釈水を投入して作成することも可能である。しかし加熱温度と時間により,作成後の保存期間中に徐々にゲル化が始まり,乳白色の高粘度液化し,使用に問題はないが商品の安定性に欠けるためコロイダルシリカは常温混合するのが好ましい。
リン酸2水素(H2PO4)の固形分重量比が高いほど粘着性があり,特に有機塗装面への密着性が優れているが,SiO2固形分が極度に少なくなると防汚性能が低下することより水性無機コート剤材料配合可能範囲内で目的に応じた配合を行う必要がある。
ここに,表1は夫々の材料の投入量である。表2はその材料内に含まれる純固形分重量を示している。()内は純固形分の総量を100%とした時の夫々のw%を示している。
例)実施例1の場合;NaH2PO4とH3BO3は粉末の固形分100%材料を使用している。SiO2は40.5w%固形分濃度のコロイダルシリカを使用している為,表2にはその固形分重量24.3gと表示している。これらの固形分の合計は64.3gであり,これを100%とした場合夫々の固形分重量比を表2の()内に表記している。
表3はNaH2PO4をNaとH2PO4に分解表示しコロイダルシリカ中のNaO2を分解したNaの合計を表示している。従って,表2の固形分総量と表3の総量はコロイダルシリカ中のNaO2分のみ増量されている。(表2は表3を導き出す為の中間的計算書である)表3は,化合物を単体に分解した時の夫々の重量を計算したものであり,これらは酸性,アルカリ性を呈し,この配合割合によりpH値の調整を図ることの目安としている。
【表3】

【0031】
(実施例1の効能)
その1;自家用車の車体に付着した油汚れを中性洗剤で洗浄後,水で洗剤を洗い落とし乾燥させた後,自動車ボディーにランダムに霧吹きにて塗布し,その上からほぼ同量の水を霧吹きで塗布した。硬く絞った濡れ布で良く摺り込むように万遍無く塗布し,乾いた布で磨いた。非常に光沢があり,降雨時に汚れ自体が付着しにくく,又汚れても降雨で流出するか,残留してもウォータースポット状にならず,水を霧吹きでスプレーし布で簡単に拭き取り除去できた。特に大きな降雨時には洗車したようになり,汚染物質が自動車の塗装表面で目立たず,汚れによる斑点がでていない。継続期間は8ヶ月を経過しても尚効果は持続しており更に継続中である。
【0032】
その2;パナソニック製NTTドコモの携帯電話の本体,液晶画面に1〜2滴滴下し乾いた布で満遍なく塗布した。指紋,皮脂の汚れが付着しても乾いた布,ティッシュペーパーや布で軽く拭取るだけで簡単に除去できた。既に1年間実施使用しているが全く効果は落ちないことが確認された。
【0033】
その3;シャープ製コピー機,リソグラフ社輪転機のプラスチック製筐体,三洋製コンピューターモニターの筐体等に布に含浸させて塗布した。既に8ヶ月経過しているが,帯電防止効果によりプラスチック筐体部に黒ずみの汚れは全く見られない。特に輪転機には時々印刷インクが付着するが,ティッシュペーパーや布に水を含ませ拭き取ると,凹凸部に入ったインク汚れも簡単に除去できる。尚,常に摩擦される部位は磨かれて光沢が増している。
【0034】
その4;トヨタハイエースの車体を中性洗剤で洗浄し,表面の油分除去した後,本発明のコート剤を霧吹きでランダムにスプレーし,その上からほぼ同量の水をスプレー塗布した後,硬く絞った濡れ布で満遍なく摺り込む要領で塗布した。特に長期に使用している自動車の塗装面はR基が劣化して表面が荒れているため非常に付着しやすく,劣化していた光沢が少し回復し,さらに降雨時はかなり親水性を呈する。これまでドアーミラー下部に黒い垂れ筋が発生していたのが,塗布後全く発生しなくなった。又晴天時に堆積する有機,無機系汚染物も降雨で自浄効果が顕著である。既に8ヶ月経過しているが効果は継続している。
【0035】
その5;薬剤を布に染み込ませてデコラ板カウンター,机,ホーム炬燵天板に満遍なく塗布した後,硬く絞った濡れ布で上から良く拭き最後に乾いた布で乾拭きした。コーティング面は非常に光沢があり滑らかな手触り感が得られる。
指紋,コーヒー,インク,焼肉の飛沫油など一切洗剤を使用せず濡れた布で簡単に拭き取り除去できる。
デコラ板カウンター,机は事務所で,ホームコタツ天板は家庭で通常の使用状況下で8ヶ月経過しているが,防汚効果,表面光沢度等当初より変化はない。
【0036】
(実施例2)
以下の実施例2〜4のコート剤の製造方法は,実施例1と同様であるので,ここでは説明を省略する。
実施例2にかかるコート剤の使用目的としては,鉄道車両など塗布面積が多く且つ短時間でコーティングすることを必要とする場合を想定し,有機基材,無機基材(ガラスなど)の両方ともに対して一挙に塗布可能なコート剤を提供することを目的に開発した。有機基材への密着性をベースとし,且つ基材にナトリウムのようなアルカリイオンを多く含有する基材(ガラス)に対するコート剤のアルカリ度(pH値)を配慮し,中性域としたもので且つ,有機基材,無機基材に対し効果を発現する必要があり,且つ鉄道車両用材料としての使用に供する必須条件である,難燃性,極難燃性或いは不燃性の性能を有する必要があり,これをクリアーする材料配合として作成した。
【0037】
(実施例2の効能)
(社)日本鉄道車両機械技術協会で鉄道車両材料燃焼試験を行った。新幹線外壁塗装板に布に薬剤を染み込ませて2回重ね塗りした。結果,不燃性の認定(車材燃試18−734K)を受けた。被膜は極めて薄いが有機塗料上に塗布することで不燃性が得られる効果が確認された。鉄道車両の有機塗装面に塗布することで極めて高い防災性をも発揮することが判明した。
傷防護用保護シートの付いたステンレスの保護シートを除去し,ステンレス面に付着した保護シートの糊を特別の除去薬剤を使用せず,当該薬剤を浸した布でステンレス表面を擦りながら塗布することで糊を除去することが出来ることが確認された。またこうして糊を除去したステンレス表面に本発明にかかるコート剤を塗布することで,薄膜の超親水性被膜を形成する事ができた。このような薄膜の超親水性被膜によって,ヘアーライン,バイブレーションステンレスの表面の汚れ,例えば指紋などは濡れた布で簡単に除去でき,その効果は長期間維持できることが確認された。
ヘアーラインステンレスに本剤を塗布し,8ヶ月間屋外暴露したが,降雨時には超親水性を示し付着した埃などは水で簡単に拭取り除去ができ,その性能効果はその後も持続している。又,変色,退色などは見られない。
【0038】
実施例1と同様にデコラ板カウンター,机,アクリル透明板,FRP板,浴室側壁の樹脂部,液晶コンピュータースクリーン,樹脂製携帯電話本体,ポリカーカーボネート透明板,ラッカー仕上げ家具,食卓表面に布に薬剤を染みこませ,2回重ね塗りで塗布し乾いた柔らかい布で乾拭きした,磨けば磨くほど光沢が得られた。防汚性は実施例1と同様の効果が得られた。
【0039】
15cm×15cmのフロートガラス表面に霧吹きでランダムに塗布し,ほぼ同量の水を上から吹き付け固く絞った濡れ布でガラス表面を満遍なく擦り込む要領で塗布した試料を5枚作成し,屋外暴露した。8ヶ月間屋外暴露したが,降雨時には超親水性を示し付着した埃などは水で簡単に拭取り除去ができ,その性能効果はその後も持続している。又,ガラスには,曇りや変色など一切観察できない。
【0040】
当該コート剤は有機基材,無機基材のマルチタイプで無機基材をベースにしている為,固形分濃度が高く設定されている。したがってガラスに塗布すると付着固形分量が多く,布などでの塗布による塗り斑が発生する可能性がある。これを防ぐ為に薬剤をスプレーした上に水をスプレーし希釈して塗布することで塗り斑などを未然に防いだ。ただし,塗り斑が起こっても,濡れた布で拭き取れば簡単に透明性が得られ透明性を得る事が確認された。
【0041】
浴室内鏡の防曇効果について
浴室内部に蒸気を発生させると鏡表面に水蒸気が付着する。この時鏡表面が油等で汚染されている部位は曇り度合いが強調され,汚れのない部位は全体的に同一の水分粒子が付着する。このような汚れの遍在を防止できるかについて調べた。
まず汚れの付着している部位をアルカリ洗剤或いは,中性洗剤若しくはガラスに傷のつかない細かなコンパウンドのようなものでよく拭くことで汚れを落とす。次に,鏡表面の水分を拭き取り実施例2のコート剤を霧吹きでランダムにスプレーし,その上よりほぼ同量の水をスプレーして,固く絞った布で満遍なく拭き掃除の容量で擦り込むように塗布する。或いは,少し湿った布を絞りそれにコート剤を染み込ませて同様に擦り込むように塗布しても良い。布の塗り斑がないかチェックし塗り斑があれば濡れた布で拭き取り修正する。入浴時にまず,鏡に水を掛け鏡全体を濡らすと鏡面は超親水性の水膜で覆われ,水蒸気による曇りは入浴中発生しない。入浴中に使用するシャンプー,リンス,石鹸等が鏡面に付着するので,水でそれらを洗い流し,スポンジのようなもので特に鏡下部に残留しがちなシャンプー,リンス,石鹸をよく流し去る。このようにメンテナンスしておけば,鏡の防曇効果は3ヶ月以上にわたり効果を持続した。特にシャンプー,リンス,石鹸などの鏡上部の汚れは水で洗い流すだけでは親水効果で水面に浮き下部へ流れてゆくが,鏡下部では水分が先に流失し,水分上に浮いていた油分が被膜となって鏡の下部表面に残留し,曇りの原因となる。しかし本コート剤を塗っておけば,強制的にこれら油分被膜を除去することで防曇効果は長期的に得られる。本発明のコート剤は摩擦に強くスポンジなどで擦っても短期間で除去されることはない。
【0042】
(実施例3)
実施例3にかかるコート剤は,特に透明性を要求されるガラス,或いは塗り斑などが目立ちやすい鏡などに簡単に塗布でき,且つ一般ユーザーが拭き掃除の感覚で塗布でき且つ十二分な効果を発現できるレベルのコート剤として開発された。特に基材にナトリウムのようなアルカリイオンを多く含有するガラス基材はガラス自体より発生するアルカリアタックを緩和できるようpH値を弱酸性〜中性域とし,アルカリ固形分重量部比率をSiO2の10%以下に抑え,ガラスの透明性の確保,反射率を5%以内(約2〜3%)にすると共に,逆に2〜3%の前方視認性の向上を確保した。特に自動車フロントガラスは夜間の前方視認性を向上させることによる事故の防止,油膜の付着の防止或いは,付着した油膜が水(ウォッシャー液)で簡単に除去できることが必要であり,このような用途に適合できるコート剤を目指した。
【0043】
又超親水性によって大量の降雨時の自浄効果をも目的としている。本コート剤による超薄膜(0.5μ以下)の被膜は,摩擦係数が低い為,ワイパーなどの摩擦に簡単に被膜は除去されない特徴を有することが確認された。
その他,一般家庭,ビル,陳列ケースなどあらゆる分野で使用されているガラス,鏡,又,鏡面加工されたステンレス,ヘアーライン,バイブレーションなど表面加工されたステンレス,石材など無機基材への密着性を特に重視したコート剤が得られた。有機基材への塗布も可能ではあるが実施例1,2には及ばないことも確認された。
【0044】
(実施例3の効能)
事務所内ドアー,食器棚のガラス部に霧吹きでランダムにスプレーし,ほぼ同量の水を上からスプレーし,少し湿った布で満遍なく擦り込むように塗布し,乾いた布でよく磨いた。ガラス面は表裏共に塗布することで透明度が増し,指紋,油汚れなど濡れた布で拭き取りするか,重度の汚染の場合でも水をスプレーし布で拭き取るだけで汚れが除去できた。特に室内での使用の場合は殆どメンテナンスを必要とせず,汚れた時のみ濡れた布で拭き取るだけで効果を持続する。テスト期間は現在まで1年経過しているが当初と全く効果の低減は見られない。
【0045】
自動車フロントガラスを初めリアー,サイドのガラスの表裏,ドアーミラー,バックミラーに霧吹きでランダムにスプレーし,ほぼ同量の水を上からスプレーして硬く絞った濡れ布で塗布した。小さなドアーミラー,バックミラーは濡れた布を固く絞った後に本コート剤を染み込ませ,軽く塗布した。塗り斑がないか確認し,斑部は濡れた布で拭取り乾いた布で表面を軽く磨いた。塗り漏れを確認する為に,水をガラス面に掛け水が弾いていないかをチェックし,弾いている部位は薬剤を布に染み込ませて擦り,汚れを除去しながらコーティングし,再度水をかけて親水性を確認した。
6ヶ月間,降雨テストを行う為毎日2回ワイパーを使用し,降雨時は約2時間程度ワイパー使用をしてコート剤の被膜消耗テストを行った。又降雨時に外部に駐車し汚れの自浄効果を確認した結果,ワイパー稼動部位は少量の降雨時には超親水は出ないものの大量の降雨時は超親水性を呈し,油膜は全く付着しておらず,干渉縞も全く見られない。又堆積する埃や他の汚れを洗浄する場合でも,水をスプレー塗布し,乾いた布で拭き取るだけで即乾燥し,透明度の高い元の塗布時の状態になった。ウォッシャー液を使用せずワイパーを稼動させてもワイパーのゴムとガラス面で発生する引っかかりが全く発生しない。これは大気中の微量の水分をガラス表面に吸着させている為に汚れがなくガラス面の摩擦抵抗が低いためと考えられる。
【0046】
トヨタコロナマークIIのボディー,ガラスに塗布し,屋外駐車場において8ヶ月放置し,水で簡単に汚れが除去できるか実験した。暴露後8ヶ月経過した後においても,自動車の大きな汚れは確認できなかった。これは降雨時の度に,自浄効果で堆積汚染物が浄化されているためと思われる。
【0047】
また洗浄効果については,霧吹きに水を入れ自動車に吹き付け乾いた布で汚れを拭き取ったところ,汚れは簡単に除去できた。更に乾いた布で磨くと艶が増した。実験結果では洗浄に要した水の量は約150cc程度で省資源効果が顕著であり且つ,洗浄に要する労力も通常の洗浄に比べ1/3以下であった。尚,当初コーティングした被膜は全く取れておらず当初の防汚性を維持していることが確認できた。
【0048】
実施例2と同様に実施例3の薬剤を15cm×15cmのフロートガラス表面に霧吹きでランダムに塗布し,ほぼ同量の水を上から吹き付け固く絞った濡れ布でガラス表面を満遍なく擦り込む要領で塗布した試料を5枚作成し屋外暴露した。8ヶ月間屋外暴露したが,降雨時には超親水性を示し付着した埃などは水で簡単に拭取り除去ができ,その性能効果はその後も持続している。又,ガラスに曇りや変色など一切観察できない。
【0049】
台所の壁面タイル表面にガラスと同様な方法で塗布しテストした。台所の壁面タイルには,特に天ぷら油,調理用油が飛び散,通常は中性洗剤で油分を除去して水拭き後,乾拭きして清掃しなければ油汚れは除去できない,本発明品を塗布すると絞った濡れ布で拭取るだけで,簡単に油分が除去でき清掃できることが確認された。又洗面台などに使用されている陶器部に同様に塗布すると,石鹸,洗剤の残留物,水垢などの剤残留物が付着しにくく,付着しても簡単に水で除去でき,常に光沢をキープし平滑面を維持できることが分かった。
【0050】
(実施例4)
実施例4にかかるコート剤は,ガラス,金属,陶磁器,ホーロー,石材等無機基材で焼付を可能にするため,或いは本商品をプライマーとして無機基材へのアルカリ金属珪酸塩化合物を焼付固着する目的で発明したものである。しかし常温による使用も可能であり実施例1,2,3との違いとして常温で使用しても徐々に硬化促進するものである。汚れ除去の程度は実施例1,2,3と同等レベルであるが,親水性度はやや落ちるため,降雨による自浄効果は実施例1,2,3ほどではない。
【0051】
特に,実施例4の単体使用で焼付け試験をガラスにて200℃〜900℃の間で,100℃ごとに焼き付けを実施した。いずれの場合においても焼成後のガラス面に黄変,表面平滑面,汚染除去性に問題は無く,特に汚染除去性は600℃で15分のコート剤が最も高い効果を発現した。
尚,通常ガラスへのコーティング剤の焼付は350℃×12〜15分程度で行う連続炉が中心の為,同様の条件で焼成した結果,ガラスに対しコーティング剤の性能の条件である1)アルカリ成分を固形分重量比の10%以下に抑えること。2)ガラス表面が平滑であること。3)ガラスの元来の持つ透明度を維持できること。4)反射率が5度以内であること。5)コーティングされた被膜に強度があること(JISR3221耐久性試験A類により被膜の剥離,変色)。6)耐酸性,耐アルカリ性があること。7)親水性があることを評価した。
【0052】
評価結果;
塗布方法;布研磨仕上げ
焼成条件;350℃×10分(炉内温度400℃)
1)実施例4(表3)の材料配合による,アルカリ成分の固形分比率5. 98%
2)ガラス表面が平滑であること;表面は平滑である。
3)ガラス透明度;2.3%透明度向上
4)反射率が5%以内である;2.5%
5)被膜強度;JISR3221耐久性試験A類
高硬度の為,傷がつきにくく,ヘーズ値が極めて低いことが確認された。表4を参照されたい。
【表4】

6)耐酸,耐アルカリ性
耐酸性,耐アルカリ性については,表5のように変化がなかった。
【表5】

7)親水性;処理後の水との接触角
表6のように,水に対する親和性の高さが確認された。また,この親水性は水洗いを経ても変化がないことが確認された。なお,表6における数値は,水との接触角度を示す。
【表6】

【0053】
なお,ステンレス(SUS−304)に同様に塗布して焼成する場合は,焼成温度を200℃〜max250℃の範囲で設定し,焼成時間を20分以上1時間以内とする必要がある。設定温度を範囲内以上で行うとステンレスの非塗布部が酸化し変色する恐れがある。
また陶磁器,或いはホーロー等はその基材自体の耐熱温度範囲においての焼成が可能であり,変色,退色は発現しない。
【0054】
(実施例4の効能)
アルカリ金属珪酸塩化合物(Si2O/NaO2)との併用使用において,ホーロー表面の耐酸性向上のテストを行った。クエン酸をホーロー上に滴下すると,15分程度でホーロー表面が白濁化し耐酸性がないことが分かる。ホーロー表面に実施例4のコート剤を塗布し超親水性を与えた上にアルカリケイ金属酸塩化合物を塗布した(布塗布,スプレー塗布をテスト)後,220℃×20分焼成し,クエン酸を滴下したが,全くホーロー表面に変化はなかった。
【0055】
タイルに同様に塗布し,200℃〜900℃の間で夫々100℃単位ごとの温度帯で焼成し,油汚染の除去程度を試験した。焼成温度帯に関わらず油汚れは水で簡単に除去できたが,220℃×30分が最も効果的であった。
【0056】
磁器食器に同様に塗布して200℃〜900℃の間で夫々100℃単位ごとの温度帯で焼成し,油汚れ,メタルマークの付着度合い,ナイフ使用による傷などのテストを行った。焼成温度帯に関わらず試験条件の項目は全て問題なかったが,特に油汚れ除去は220℃×30分が最も効果的であった。
【0057】
以上の説明から,本発明の水性無機コート剤は,実施例1,2,3,4の単独の常温使用や,アルカリ金属珪酸塩化合物或いは変性化合物との併用使用,或いは実施例4の単独焼成使用やアルカリ金属珪酸塩との併用使用において,表7に示すように総合的評価として本発明の目的とする効果を満たしていることが理解される。尚,ここで言うアルカリ金属珪酸塩化合物或いは変性化合物とは,珪酸カリウムをベースとした完全無機水性で一切有機物質を含有しないアルカリ性の水性無機コーティング剤である。
【表7】

また,特に具体的な事例として,乗用車の車体に本発明にかかるコート剤を塗布した実験結果を表8に示すので参照されたい。
【表8】

【0058】
本発明にかかるコート剤の場合,特にリン酸ナトリウム化合物を使用すると非硬化性の被膜が形成され,被膜はやや柔軟性に富みしっとりとした触手感が得られることがわかった。
またリン酸カリウム化合物を使用すると,徐々に硬化が進行し耐指紋付着性,表面の平滑感が極めて向上する。又,強制加熱により硬化が促進することがわかった。
従って,使用用途,目的に対応しリン酸ナトリウム化合物とリン酸カリウム化合物の使い分けを行うことが望ましい。
【0059】
またpHをややアルカリ性(pH8程度)にすると硬化しやすくなるがそれ以上のpH値になると保存液状態で凝集することが確認された。すなわち,無機基材には中性から弱アルカリの本剤が適当と思われる。
逆に,pHが酸性に傾くと有機基材に載りやすく非硬化性に富むことが分かった。
さらに,シリカ粒子が微粒子になればなるほど溶液は透明化し,被膜の結合力が増加することが分かった。
また,粒子径の異なるシリカを混合することにより形成被膜の密度が向上することも確認された。
【0060】
本発明にかかるコート剤あるいはその水溶液は,以上述べた試験実績を踏まえ更には,空調機器のエバポレーター,コンデンシングユニットのアルミフィン材間に発生する結露による水滴のブリッジの解決に大きく寄与する(水滴のブリッジにより放熱効率が低下する)事が判明している。又,PETフィルム表面への塗布により硬度の向上を付与できる,航空機本体に塗布することで機体の摩擦係数を低減すると共に汚れ防止に寄与するなど経済的効果は極めて顕著であり極めて広範囲な産業分野において貢献できる。本記述分野以外にも他分野に亘る用途が開発可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機基材,無機基材の表面に塗布するための水性無機コート剤であって,少なくとも水を含むアルカリ性コロイダルシリカと,リン酸ナトリウム化合物或いはリン酸カリウム化合物の単体又は混合物と,ホウ酸とを含む水性無機コート剤。
【請求項2】
pH値がpH5〜pH9,望ましくはpH6〜pH8となるように組成の配合度が調整されてなる請求項1記載の水性無機コート剤。
【請求項3】
有機基材,無機基材の表面に塗布するための水性無機コート剤であって,少なくとも水を含むアルカリ性コロイダルシリカと,リン酸ナトリウム化合物或いはリン酸カリウム化合物の単体又は混合物と,ホウ酸とを含む水性無機コート剤をさらに水に溶解させた水性無機コート剤水溶液。
【請求項4】
前記水性無機コート剤水溶液中の水を除く固形分の全水性無機コート剤水溶液に対する重量比が,0.1%〜25%,望ましくは0.3%〜8%である請求項3記載の水性無機コート剤水溶液。
【請求項5】
水を含むアルカリ性コロイダルシリカが,シリカ粒子径3〜100nm範囲の単一粒子径,あるいは粒子径の異なるシリカの混合物を水に分散させ二酸化ナトリウムで安定化させてなるコロイダルシリカである請求項1あるいは2のいずれかに記載の水性無機コート剤。
【請求項6】
水を含むアルカリ性コロイダルシリカが,シリカ粒子径3〜100nm範囲の単一粒子径,あるいは粒子径の異なるシリカの混合物を水に分散させ二酸化ナトリウムで安定化させてなるコロイダルシリカである請求項3あるいは4のいずれかに記載の水性無機コート剤水溶液。

【公開番号】特開2009−1684(P2009−1684A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164269(P2007−164269)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(594136583)株式会社トレードサービス (5)
【Fターム(参考)】