説明

水洗便器の防臭構造

【課題】十分に清掃した水洗便器から生じる臭気のための吸着剤などによる消臭装置や芳香装置を不要にでき、残留臭気源からの臭気を根本的に防止することができる。
【解決手段】トイレの床面2に設置される水洗便器3において、便器裏側凹部31と床面2によって形成される空間4内の防臭手段として、外周端部32で囲まれる便器裏側凹部31の内面31aに二酸化チタンを主体としたコート層である光触媒層(図示せず)を設けるるとともに、便器裏側凹部31で覆われる床面21上に、紫外線を照射するブラックライトまたは紫外線発光ダイオードなどの光源5を配設して、前記光触媒層に対して紫外線を照射するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器から発生する臭気を抑制する水洗便器の防臭装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水洗便器においては、汚物を洗浄水で流し落とすうえ、その汚物排出経路を水封するよう構成しているので、従来の非水洗便器に比較して格段の防臭効果が発揮されることは周知のことである。ところが、長期間使用されると僅かに臭気が感じられるようになることがあり、その原因として、便器の内壁の目立たない所で清掃しにくい個所、特に周縁リムのオーバハングした裏面に汚物残渣が固着し、それが臭気源となるとみなされていた。
【0003】
ところが、汚物残渣を十分に除去し、外見上、臭気源が見当たらないように処置をしても、気になる程度の臭気が感じられることが分かってきた。そのような臭気の発生を防止する有効な手段は考えられておらず、臭気を紛らわせる香料を発散させる芳香装置あるいは吸着剤などによる消臭装置などをトイレ内に配置することが行なわれてきた。(特許文献1を参照)しかし、芳香装置は人によってはかえって不愉快な感じを与えかねず、またそのような消臭装置は消臭効果が微弱で有効期間も短いという不具合もあって、到底、根本的な防臭方法とは言えなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平9−173248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、十分に清掃した水洗便器から生じる臭気のための吸着剤などによる消臭装置や芳香装置を不要にでき、残留臭気源からの臭気を根本的に防止することができる水洗便器の防臭構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件発明者は、以下に述べる現象を解明し、その知見に基づいて本発明を完成したのである。すなわち、図7において、床面11に設置された水洗便器1は、長期間の使用の過程において、外にこぼれた尿水が、水洗便器1の下端部12と床面11との間の僅かな隙間13から内部に浸透し、その分は内部に残留することになる。この内部の残留物は、外部から見える床面11や下端部12外面を清掃しても、液状または乾燥物として残留することになり、その残留物から臭気が発生し常に内部空間14に充満することになる。この臭気が外部へ漏出してくるので、十分に清掃した水洗便器からも僅かに臭気が感じられることが分かった。
【0007】
このようにして発生する臭気の問題は、床面に設置される水洗便器において、便器裏側凹部と床面によって形成される空間内に防臭手段を設けたことを特徴とする本発明の水洗便器の防臭構造によって、解決することができる。
【0008】
そして、本発明の前記防臭手段として、便器裏側凹部の内面に光触媒層を設けるるとともに、便器裏側凹部と床面によって形成される空間内に、前記光触媒層に対して紫外線を照射する光源を設けるようにしたものが好ましく、また、前記防臭手段として、便器が設置される床面に予め配設するシートに光触媒層を設けるとともに、便器裏側凹部と床面によって形成される空間内に、前記光触媒層に対して紫外線を照射する光源を設けるようにしたものが好ましい。
【0009】
さらに、便器裏側凹部の内面に光触媒層を設け、かつ、便器が設置される床面に予め配設するシートに光触媒層を設けるとともに、便器裏側凹部と床面によって形成される空間内に、前記光触媒層に対して紫外線を照射する光源を設ける形態に好ましく具体化される。また、以上説明した本発明では、前記光触媒層が二酸化チタンを主体としたコート層であり、前記光源が紫外線発光ダイオードである形態に好ましく具体化される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水洗便器の防臭構造は、このように、床面に設置される水洗便器において、便器裏側凹部の内面、または便器が設置される床面に予め配設するシート、またはその両方部位に、光触媒層を設け、これら光触媒層に対して紫外線を照射する光源を設けたので、便器裏面と床面によって形成される空間内に存在する臭気成分が、紫外線で励起された光触媒層の酸化還元作用によって分解され、トイレ室内に漏れ出ることが防止される。従って、外面を十分に清掃した場合でも発生する僅かな臭気をも防止することができるという優れた効果がある。よって本発明は、従来の問題点を解消した水洗便器の防臭構造として、工業的価値はきわめて大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の水洗便器の防臭構造に係る実施形態について、図1〜9を参照しながら説明する。
本発明の基本構造は、図1に示すように、トイレの床面2に設置される水洗便器3において、便器裏側凹部31と床面2によって形成される空間4内に防臭手段を設けて、以下に述べる臭気を防止しようとするものである。
【0012】
通常、水洗便器3は、トイレの床面2に設置される場合、床面に接して水洗便器3自体を安定して設置できるよう裏面外周には外周端部32(図1、2参照)が取り巻くよう連設されていて、便器裏側凹部31と床面2との間に空間4が形成される。そして、このような水洗便器3のあっては、長期間の使用の過程において、外にこぼれた尿水が、水洗便器3の外周端部32と床面2との間の僅かな隙間から内部に浸透し、その残留物に基づく臭気が外部へ漏出してくる現象は先に述べた通りである。
【0013】
(実施形態1:図1、2、3、4、5参照)
本発明の実施形態1は、前記空間4内の防臭手段として、外周端部32で囲まれる便器裏側凹部31の内面31aに光触媒層(図示せず)を設けるるとともに、便器3の裏側凹部31で覆われる床面21上に、紫外線を照射する光源5を配設して、前記光触媒層に対して紫外線を照射するよう構成されている。
また、光触媒層は、好ましくは、二酸化チタンを主体としたコート層であり、公知の手段によって形成することができる。
【0014】
(実施形態1a:図3参照)
前記便器裏側凹部の内面31aに光触媒コーティング剤(ジャニス工業製、JN−2)の5gをスプレーで塗布し、室温で乾燥して光触媒層を形成した。また、便器3の裏側凹部で覆われる床面21上、6cmの高さにブラックライト(松下電器製、FL6BL−B)を1本、設置し、紫外線光源5とした。次いで、空間4内に臭気成分としてアンモニアを10ppmとなるよう封入し、24時間静置後、光源5を点灯し、検知センサにより、内部の濃度の変化を測定した。その結果を、縦軸が臭気成分の残存割合、横軸が経過時間(Hr)を示す図3の白抜き四角で示す。また、比較のため、光触媒層を設けない場合についても同様に測定した。その結果を図3の黒四角で示す。
【0015】
この結果によると、照射6時間後には臭気成分を約10%に低減できることが判明した。臭気成分アンモニアの認知閾値は約0.2ppmであるが、臭気として感じる濃度は約2ppmであるので、初期の濃度が10ppmの場合でも、十分な防臭効果を期待できることが判明した。
【0016】
また、実機においては、紫外線光源5の点灯は24時間連続でもよいが、定期的間欠点灯または便器の使用タイミングに対応して点灯開始し所定時間後に自動消灯するよう調節器を配置するのがよい。これらの点は、以下の各実施形態の場合も同様である。
【0017】
(実施形態1b:図4参照)
床面21上、4cmの高さに紫外線発光ダイオード(日亜化学製、波長365nm)を30個、配列して、光源5とした点以外は、先の実施形態1aと同様である。その結果を、同じく図4の白抜き四角で示す。また、比較のため、光触媒層を設けない場合についても同様に測定しその結果を図4の黒四角で示す。
【0018】
この図4の結果によると、先の実施形態1aの場合と同様に優れた防臭効果を確認することができた。
なお、紫外線光源としては、ブラックライト、発光ダイオードのいずれも好ましく使用できるが、消費電力が少ないこと、使用電圧が低いこと、発光体寿命が長いことなどから、発光ダイオードの方が実用的で好ましい。
【0019】
(実施形態1c:図5参照)
前記実施形態1bにおける30個の紫外線発光ダイオードのうち、4個のみ点灯した場合の結果を、同じく図5の白抜き四角で示す。また、比較のため、光触媒層を設けない場合についても同様に測定しその結果を図5の黒四角で示す。
【0020】
この場合は、先の実施形態1bに較べて、点灯発光ダイオードの個数が約1/7と少ないにもかかわらず、ほぼ同程度の防臭効果が得られた点が注目される。これは、このような防臭手段では、紫外線光量がある程度以上となると臭気成分の分解作用が飽和状態となることを示しており、より少ない紫外線光量で目的を達することができることが判明した。
【0021】
(実施形態2:図6、8参照)
本発明では、それら防臭手段として、次の構成も好ましく利用できる。すなわち、便器3が設置される床面2に、予め、光触媒コーティング剤(ジャニス工業製、JN−2)の5gをスプレーで塗布し、室温で乾燥して光触媒層を形成したシート6を敷設するにとともに、前記実施形態1と同様に便器3の裏側凹部31で覆われる床面21上に、4個の紫外線発光ダイオードを点灯可能とした紫外線照射光源(図示せず)を設けるものである。この場合の紫外線照射光源は、下方の光触媒層シート6に向けて照射するように配置するのは言うまでもない。
【0022】
この実施形態において、臭気濃度の変化を先の実施形態と同様に測定した。その結果を図4の白抜き四角で示す。また、比較のため、光触媒層を設けない場合の結果を図4の黒四角で示す。この結果によれば、図3の実施形態1cの場合とほぼ同等の防臭効果が期待できることが判明した。
【0023】
なお、この光触媒層シート6としては、便器の設置位置決め用の型紙、すなわち、排出管62を基準として固定用ボルト孔61と前方固定用具63の位置決めに用いられる型紙を転用することもできる。その材質は、普通紙シートでもよいが、合成紙または不織布シートが耐久性の点で好ましい。
【0024】
(実施形態3:図示せず)
この実施形態は、便器裏側凹部31の内面31aに光触媒層を設ける実施形態1と、便器3が設置される床面21に予め光触媒層を設けたシート6を配設する実施2を併用するものである。この場合、それら光触媒層に紫外線を照射するため上向き、および下向きの双方向の光源を設けることになる。この場合の防臭効果はより優れたものとなるのは言うまでもないことである。
【0025】
(実施形態4:図9参照)
この実施形態は4、前記空間4内に設けられる防臭手段として、箱体の内面に光触媒層を設け、その箱内には光触媒層に紫外線を照射する光源を配置し、その間を通風可能に構成したものが採用される。図9を参照して説明すると、アルミ合金または合成樹脂で形成される箱体7は、その上内面71a、下内面71bに光触媒層(図示せず)を設けるとともに、この上内面71a、下内面71bの中間部分に、紫外線発光ダイオードなどを配列した光源72が配置され上下を区切っており、上向き光源面72aから上内面71aに対して、下向き光源面72bから下内面71b対して、それぞれの光触媒層に紫外線を照射するよう配置されている。さらに、側面には通風ファン73が設けられ内部が通風可能とされている。
【0026】
この実施形態の消臭装置は、ひとつの箱体7内に光触媒層および紫外線照射光源を収容しているので、製作が容易であるうえ、予め、便器裏側凹部31の取り付けておけば便器の設置と同時に設置できる、あるいは、この消臭装置は一体として構成されているので、便器の設置とは別個に行なうことも可能であり、この点からも取り扱いが極めて容易になるなどの利点が得られるのである。
なお、ここでは、側面には通風ファン73を設けた例を示したが、自然通風でもよいのは言うまでもない。
【0027】
また、以上に説明した各実施形態において、その光触媒層は、塗布量が10g/m以上であればよく、また塗布面積は、対象部分の20%以上あるいは通常の水洗便器の場合、200cm以上であれば、防臭効果にほとんど差が生じないことも判明した。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を説明するための前後方向に切断した断面図A、横方向に切断した断面図B。
【図2】水洗便器を斜め下方から見た斜視図。
【図3】(実施形態1a)ブラックライトによる脱臭効果を示すグラフ。
【図4】(実施形態1b)発光ダイオードによる脱臭効果を示すグラフ。
【図5】(実施形態1c)発光ダイオードによる脱臭効果を示すグラフ。
【図6】(実施形態2)発光ダイオードによる脱臭効果を示すグラフ。
【図7】水洗便器の設置状態を示す前後方向に切断した断面図A、横方向に切断した断面図B。
【図8】本発明の実施形態2を説明するため、水洗便器と床面を離した状態を示す斜視図。
【図9】本発明の実施形態4を説明するための箱体の一部切り欠き斜視図。
【符号の説明】
【0029】
2:床面、21:床面(便器の裏側凹部で覆われる)
3:便器、31:便器裏側凹部、31a:内面、32:外周端部
4:空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に設置される水洗便器において、便器裏側凹部と床面によって形成される空間内に防臭手段を設けたことを特徴とする水洗便器の防臭構造。
【請求項2】
前記防臭手段として、便器裏側凹部の内面に光触媒層を設けるるとともに、便器裏側凹部と床面によって形成される空間内に、前記光触媒層に対して紫外線を照射する光源を設けるようにした請求項1に記載の水洗便器の防臭構造。
【請求項3】
前記防臭手段として、便器が設置される床面に予め配設するシートに光触媒層を設けるとともに、便器裏側凹部と床面によって形成される空間内に、前記光触媒層に対して紫外線を照射する光源を設けるようにした請求項1に記載の水洗便器の防臭構造。
【請求項4】
前記請求項2および3に記載の防臭手段を併設するようにしたことを特徴とする水洗便器の防臭構造。
【請求項5】
前記光触媒層が二酸化チタンを主体としたコート層であり、前記光源が紫外線発光ダイオードである請求項2または3または4に記載の水洗便器の防臭構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−315117(P2007−315117A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147710(P2006−147710)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000107332)ジャニス工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】