説明

水洗便器

【課題】従来よりも簡単な機構により便器の封水面の水位を低下させることが出来る水洗便器を提供する。
【解決手段】使用者の排泄物を受けるボウル部12と、ボウル部12に連通するとともに、ボウル部12内の溜水Wを下水管16に排出し、下水管16を水封するトラップ部14と、ボウル部12内に水を供給する給水手段とを備え、給水手段によりボウル部12内に溜水Wを所定の水位となるように供給し、ボウル部12内に溜水Wの封水面Pを形成する水洗便器1において、ボウル部12内からトラップ部14を経て下水管16に通じるパイプ部20をさらに設け、パイプ部20のボウル部12内の開口端部202は、封水面Pよりも下部に設けられ、パイプ部12の下水管16内の開口端部204は、ボウル部12内の開口端部202よりも下部に設けられている水洗便器1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望時に封水面水位の低下可能な水洗便器に関する。
【背景技術】
【0002】
水洗式の大便器は、臭気の発生を抑制し、清潔且つ衛生的であるために、家庭用トイレおよび公共トイレに幅広く普及している。通常の水洗式大便器は配水管の臭気の逆流、使用時の汚物の付着を抑制するために、ボウル部に溜水を形成している。しかし、溜水の封水面の吃水線に沿ってボウル面に水垢などが付着すると、見た目にも不衛生な印象を与える。これを掃除するために、洗剤をかけてブラシなどでこすろうとしても、洗剤が溜水に薄まってしまい、洗浄が容易でない。また、溜水がブラシなどで跳ねて清掃しにくいという問題もある。
【0003】
これに対して、いわゆる「水道直圧式」の水洗便器において洗浄水を供給するタイミングを制御することにより、封水の水位を通常よりも下げた、いわゆる「お掃除モード」を実行可能とした水洗式大便器が開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、ユーザー間に広く普及している、いわゆる「ロータンク式」のトイレ装置において、メインバルブを介さずに補助水管を設け、この補助水管の途中にバルブを設けて、このバルブを操作することで封水面の高さを調整する水洗式大便器が開示されている(特許文献2)。ところが、特許文献2に開示した機構による場合、補助水管に設けたバルブの開閉タイミングを制御する手段が必要とされる点で、改善の余地があった。そこで、既存の各種のロータンクを用いながら、簡単な機構で、封水の水位を低い状態に維持させる「お掃除モード」の動作も可能としたトイレ装置が開示されている(特許文献3)。すなわち、特許文献3に開示した機構において、「お掃除モード」を開始すると、まず、タンク水供給バルブを閉じる。タンク水供給バルブが手動式開閉式の場合には使用者が手動によりバルブを閉じる。また、伝道開閉式の場合には、制御部から駆動信号を出力することにより、タンク水供給バルブを閉じた状態にする。このうえで、排水弁を開放することによりサイホン現象が起こされ、その結果ボウル部の水位は、下限レベル近くまで低下するが、前述したように、タンク水供給バルブが閉じられた状態にあるため、便器への洗浄水の供給は停止され、水位が低い状態が維持される。
しかしながら、特許文献1〜3のいずれの技術においても、その機構は溜水のための洗浄水の供給停止または供給量制限であり、したがって、その後に当該供給停止の解除または供給量制限の解除を行う必要がある。解除を手動で行う場合、解除を失念すると、洗浄後の便器の水位は常に低い状態となるばかりか、特許文献2による場合においては、洗浄水がまったく供給されない事態も招きかねない。自動的に解除される場合にはこのような事態は免れるが、機構が複雑になり故障の原因が増えることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/029374号パンフレット
【特許文献2】特開平11−350578号公報
【特許文献3】特開2006−233583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来よりも簡単な機構により必要に応じ便器の封水面の水位を低下させることが出来る水洗便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は:
使用者の排泄物を受けるボウル部と、
前記ボウル部に連通するとともに、前記ボウル部内の溜水を下水管に排出し、前記下水管を水封するトラップ部と、
前記ボウル部内に水を供給する給水手段とを備え、
前記給水手段により前記ボウル部内に前記溜水を供給し、前記ボウル部内に前記溜水の封水面を形成する水洗便器において、
前記ボウル部内から前記下水管に通じるパイプ部をさらに設け、
前記パイプ部の前記ボウル部内の開口端部は、前記封水面よりも下部に設けられ、
前記パイプ部の前記下水管内の開口端部は、前記ボウル部内の開口端部よりも下部に設けられていることを特徴とする水洗便器を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも簡単な機構により必要に応じ便器の封水面の水位を低下させることが出来る水洗便器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の水洗便器の一実施形態を説明するための断面図である。
【図2】本発明の水洗便器の別の実施形態を説明するための断面図である。
【図3】図1における水洗便器の実施形態の動作について説明するための図である。
【図4】図2における水洗便器の実施形態の動作について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1
以下、本発明を図面を参照しながらさらに説明する。
図1は、本発明の水洗便器の一実施形態を説明するための断面図である。図1において、本発明の水洗便器1は、使用者の排泄物を受けるボウル部12と、ボウル部12に連通するとともに、ボウル部12内の溜水を下水管16に排出し、下水管16を水封するトラップ部14と、ボウル部12内に水を供給する、図示しない給水手段とを備える。ボウル部12は、仕切板18により2つに区画され、区画18Aは使用者の排泄物を主に受け入れる空間であり、区画18Bは排泄物をトラップ部14を経て下水管16に排出するための通路を形成している。給水手段は、ボウル部12内に溜水Wを所定の水位Hとなるように供給し、ボウル部12内に溜水Wの封水面Pを形成している。本発明では、ボウル部12内からトラップ部14を経て下水管16に通じるパイプ部20をさらに設けていることを特徴としている。パイプ部20は、ボウル部12内の開口端部202と、下水管16内の開口端部204とを有する。一方の開口端部202は、封水面Pよりも下部に設けられ、他方の開口端部204は、ボウル部12内の開口端部202よりも下部に設けられている。図1に示す形態では、一方の開口端部202が仕切板18の端部に、封水面Pに向かって開口するように設けられているとともに、その上部に突起部181が設けられている。パイプ部20は、開口端部202の付近で屈曲部b1によって屈曲し、区画18Bからトラップ部14に向かって伸びている。さらにパイプ部20は、トラップ部14の最上部でもう1つの屈曲部b2により屈曲し、トラップ部14から下水管16の下方に向かって伸びている。そして下水管16内の他方の開口端部204は、ボウル部12内の開口端部202よりも下部に位置している。
【0011】
次に動作について説明する。
掃除等を目的として水洗便器1の封水面Pの水位を低下させる場合には、使用者はパイプ部20のボウル部12内の開口端部202から水を圧入し、下水管16内の他方の開口端部204から水を排出させる。この作業により、溜水Wはサイホン効果により、図3(c)に示すようにボウル部12内の開口端部202の位置まで水位が低下し、新たな封水面Pを形成する。なお、サイホン効果で流れ切らなかった一部の残留水が屈曲部b1に溜まりパイプ部20の空気の流通を塞ぐため、排水管の臭気の逆流を防ぐ。
前記水を圧入する方法にとくに制限はないが、例えば図3(a)に示すように、スポイトSに溜水Wを吸引させ、その吸引した溜水を図3(b)に示すようにボウル部12内の開口端部202から圧入する方法が挙げられる。
掃除が終了した後は、図3(d)に示すように、常法により図示しない給水手段から洗浄水をボウル部12内に供給する(いわゆる「流す」作業)。このとき、水位の低下した溜水Wはサイホン効果によりトラップ部14から下水管16に排出されるが、通常、洗浄水はトラップ部14の最上部には到達しないので、トラップ部14の最上部で屈曲部b2を有するパイプ部にサイホン効果は生じず、図3(e)に示すように溜水Wは最初の封水面Pの水位に戻ることになる。なお、洗浄水がトラップ部14の最上部付近に到達する場合、一時的にパイプ部20にサイホン効果が生ずる場合があるが、封水面Pの水位低下により開口端部202より空気が流入することでサイホン効果が消失するため、溜水Wは最初の封水面Pの水位に戻ることになる。開口端部202の上部の突起部181は封水面Pの水位低下時に仕切版18の表面を流れる洗浄水が開口端部202へ流入するのを妨ぎ、空気の流入を促進させるために設置されている。これによりサイホン効果の消失がより確実なものになる。サイホン効果の消失を更に確実にするために、図示していないが、例えばトラップ部14の上部空間をより高くしたうえでパイプ部20をトラップ部14の最上部を経由させる構造とするか、若しくはパイプ部20をトラップ部14の最上部よりも更に高い位置を経由させるさせる構造とするすることが考えられる。これによりいわゆる「流す」作業においてトラップ部14の水位が通常より高くなったり(前者の場合)、最上部に到達した場合(後者の場合)においてもサイホン効果は生じない。
【0012】
実施の形態2
図2は、本発明の水洗便器の別の実施形態を説明するための断面図である。図2において、本発明の水洗便器2は、実施の形態1とほぼ同様の構成を有するが、パイプ部20のトラップ部14中の屈曲部b2が、トラップ部14の下方に位置していること;ボウル部12内の開口端部202付近に仕切板18と一体的に形成された溜め部30が形成されていること;開口端部202が栓Qによって閉塞していること;が異なっている。
【0013】
次に動作について説明する。
掃除等を目的として水洗便器2の封水面Pの水位を低下させる場合には、使用者は、まず、図4(a)に示すように栓Qを開口端部202から取り外す。続いて図4(b)に示すように、常法により図示しない給水手段から洗浄水をボウル部12内に供給する(いわゆる「流す」)作業を行なう。
洗浄水をボウル部12内に供給すると、溜水Wはサイホン効果により、下水管16に向かって排出されるがこのとき、パイプ部20の屈曲部b2が、トラップ部14の下方に位置しているため、パイプ部20にもサイホン効果が生じる。ところで、溜水Wは、上記「流す」作業により、急激に水位が低下し、一時的に開口端部202よりも水位が低くなり、パイプ部20の開口端部202に空気が流れ込むことになる。これを防止するため、パイプ部20の開口端部202が引き続き水で満たされるように、上記のように溜め部30を設けている。これにより、上記「流す」作業により、急激に水位が低下しても、パイプ部の開口端部202の周囲は溜め部30内の水で満たされているため、空気が流入しない。その後、図4(c)に示すように封水面Pは上昇し、通常の状態に近づくが、パイプ部20のサイホン効果が引き続き有効なため、図4(d)に示すように封水面Pは低下に転ずる。なお、サイホン効果で流れ切らなかった一部の残留水が屈曲部b1に溜まりパイプ部20の空気の流通を塞ぐため、排水管の臭気の逆流を防ぐ。
掃除が終了した後は、図4(e)に示すように、栓Qにより再び開口端部202を閉塞し、「流す」作業を行なう。このとき、水位の低下した溜水Wはサイホン効果によりトラップ部14から下水管16に排出されるが、開口端部202は栓Qにより閉塞しているため、パイプ部20にサイホン効果は生じず、図4(f)に示すように溜水Wは最初の封水面Pの水位に戻ることになる。
なお、掃除の際は、便器2の適当箇所にフックFを設け、これと栓QとをチェーンCにより連結し、チェーンCの中央部付近に設けられたリングRをフックFに係合すれば、掃除の際に邪魔になることはない(図4(a)−(d)参照)。
【0014】
実施の形態1及び2の何れの場合においても、誤ってパイプ部20に流入した異物がパイプ内部に留まりパイプ部20を塞ぐことの無いよう、開口端部202から開口端部204にかけて、パイプ径が徐々に大きくなるようにすることにより、誤って流入した異物は内部に留まることなくスムーズに開口端部204へ移動し、下水管16へ流出することになる。
【符号の説明】
【0015】
1,2 便器、12 ボウル部、14 トラップ部、16 下水管、18 仕切板、20 パイプ部、202,204 開口端部、30 溜め部、P 封水面、Q 栓、S スポイト、W 溜水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の排泄物を受けるボウル部と、
前記ボウル部に連通するとともに、前記ボウル部内の溜水を下水管に排出し、前記下水管を水封するトラップ部と、
前記ボウル部内に水を供給する給水手段とを備え、
前記給水手段により前記ボウル部内に前記溜水を供給し、前記ボウル部内に前記溜水の封水面を形成する水洗便器において、
前記ボウル部内から前記下水管に通じるパイプ部をさらに設け、
前記パイプ部の前記ボウル部内の開口端部は、前記封水面よりも下部に設けられ、
前記パイプ部の前記下水管内の開口端部は、前記ボウル部内の開口端部よりも下部に設けられていることを特徴とする水洗便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−111716(P2011−111716A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265948(P2009−265948)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(508072132)有限会社松▲崎▼ (9)
【Fターム(参考)】