説明

水洗大便器

【課題】線状の凸状の段差が便器の外観面に生じることを防止して商品性を向上させた水洗大便器を提供する。
【解決手段】本発明は、リム部8と胴部10を接合して形成される水洗大便器1において、着座面を形成する平坦部22とボウル面14の一部を形成するリム内壁部24を備えたリム部8と、外観面12aを形成する外壁部12と、ボウル面14の大部分を形成する胴部内壁部16と、これらの外壁部と胴部内壁部とを連結する連結部18とを備えた胴部10と、を有し、リム部の平坦部とリム内壁部がそれぞれ胴部の外壁部と胴部内壁部とに接合され、さらに、胴部の連結部18の胴部の外壁部側が、外壁部12の外観面に対して傾斜して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係り、特に、リム部と胴部を接合して形成される水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、水洗大便器は、特許文献1に示すように、先ず、リム部素地と胴部素地を別々に形成し、これらのリム部素地と胴部素地とを接合し、その後、接合されたリム部素地と胴部素地とを乾燥させ、素地焼成させることにより、便器を完成させるようにしている。
【0003】
この特許文献1の水洗大便器の構造を図9により具体的に説明する。図9は、特許文献1に示された従来の水洗大便器のほぼ中央で切断した断面図である。特許文献1に示された水洗大便器100は、リム部102と胴部104を接合して形成されるようになっている。リム部102は、着座面を形成する平坦部102aとボウル面の一部を形成するリム内壁部102bを備えており、一方、胴部104は、外観面を形成する外壁部104aと、ボウル面の大部分を形成する胴部内壁部104bと、これらの外壁部104aと胴部内壁部104bとを連結する水平方向に延びる連結部104cとを備えている。
【0004】
このリム部102の内周側に位置する下端部と胴部104の胴部内壁部104bの上端部とが接合部106にて接合され、されに、リム部102の平坦部102aの外周端部と外壁部104aの上端部と接合部108にて接合され、水洗大便器100が形成されるようになっている。
このような構成の水洗大便器においては、リム部102が、内周側と外周側の2箇所で支持されるため、リム部102と胴部104を接合するときの作業性が向上する等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3952883号公報
【特許文献2】特開2004‐306594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の上述した構造の水洗大便器においては、リム部102の素地と、胴部104の素地を接合し、乾燥した後、焼成することにより、便器として完成するが、完成した便器の表面、具体的には、図9のA部の拡大図である図10に示すように、胴部104の外壁部104aの連結部104cと連結された部分の外観面に、線状の凸状の段差110が現れ、見栄えが悪く、商品性が損なわれていた。
【0007】
本発明の発明者らは、この問題を解決するために、先ず、この便器の外観面に生じた凸状の段差110が、泥の粒子の配向の違いによる焼成時の収縮の差により生じていることを見出し、次に、この原因を効果的に解消する便器の構造を、鋭意研究を行うことにより、見出したのである。
【0008】
なお、便器の素地を乾燥して焼成するとき、粒子の配向の違いにより、焼成時に収縮のばらつきが生じることは、特許文献2に記載されているように知られていたが、この特許文献2においては、粒子の配向の違いによる収縮のばらつきから生じる問題点を、接合される成形体(素地)の一方のカドを切り欠くことにより解消していた。
【0009】
そこで、本発明は、従来構造の水洗便器が持つ問題点を解決したものであり、線状の凸状の段差が便器の外観面に生じることを防止して商品性を向上させた水洗大便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために、本発明は、リム部と胴部を接合して形成される水洗大便器において、着座面を形成する平坦部とボウル面の一部を形成するリム内壁部を備えたリム部と、外観面を形成する外壁部と、ボウル面の大部分を形成する胴部内壁部と、これらの外壁部と胴部内壁部とを連結する連結部とを備えた胴部と、を有し、リム部の平坦部が胴部の外壁部に接合されると共にリム部のリム内壁部が胴部の胴部内壁部に接合され、さらに、胴部の連結部の外壁部側が、外壁部の外観面に対して傾斜して形成されていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、胴部の連結部の胴部の外壁部側が、外壁部の外観面に対して傾斜して形成されているので、リム部と胴部が接合されて焼成された際に、連結部の外壁部の厚み方向の収縮率大きくなり、このとき、外壁部の厚み方向の収縮率も大きいので、胴部の外壁部の外観面に線状の凸状の段差が生じることを防止することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、胴部の連結部は、外壁部の外観面に対して20度〜50度の範囲内の角度で傾斜して形成されている。
このように構成された本発明においては、胴部の外壁部の外観面に線状の凸状の段差が生じることを防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水洗大便器によれば、線状の凸状の段差が便器の外観面に生じることを防止して商品性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態による水洗大便器を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿って見た断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿って見た断面図である。
【図4】図3の要部の拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態による水洗大便器の胴部の製造に使用する各型の型合わせした状態を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態による水洗大便器のリム部の製造に使用する各型の型合わせした状態を示す断面図である。
【図7】従来の水洗大便器の図9に示す部位Aの素地における泥漿の板状の粒子の配列方向を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態による水洗大便器の図4に示す部位Bの素地における泥漿の板状の粒子の配列方向を示す断面図である。
【図9】従来の水洗大便器のほぼ中央で切断した断面図である。
【図10】図9のA部の拡大図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。先ず、本発明の第1実施形態を図1乃至図4により説明する。図1は本発明の実施形態による水洗大便器を示す平面図であり、図2は図1のII−II線に沿って見た断面図であり、図3は図1のIII−III線に沿って見た断面図であり、図4は図3の要部の拡大断面図である。
【0015】
先ず、図1に示すように、本発明の実施形態による水洗大便器1は、ボウル部2と、このボウル部2に洗浄水を供給する洗浄水供給路4と、ボウル部2からサイホン作用により汚物を排出する排水路6とを備えている。なお、ボウル部2の後方には、図示しない貯水タンクが設けられている。なお、本実施形態の水洗大便器は、貯水タンクを具備せず、水道水を給水弁を介して直接供給する直圧式の便器にも適用可能である。
【0016】
次に、図3及び図4に示すように、水洗大便器1のボウル部2は、リム部8と胴部10とが接合されて形成されている。具体的に説明すると、胴部10は、ほぼ上下方向に延びる外観面12aを形成する外壁部12と、ボウル面14の大部分を形成する胴部内壁部16と、胴部内壁部16の上端部16aと外壁部12の上方の所定位置12bを連結する第1連結部18と、胴部内壁部16の下方の所定位置16bと外壁部12の下端部12cとを連結する第2連結部20を備えている。
【0017】
次に、リム部8は、着座面を形成する平坦部22とボウル面14の一部を形成するリム内壁部24を備えている。
【0018】
このように構成されたリム部8と胴部10とが、接合されるようになっている。具体的には、リム部8の平坦部22の外周端部22aと胴部10の外壁部12の上端部12dが接合され、さらに、リム部8のリム内壁部24の下端部24aと胴部内壁部16の上端部16aが接合される。このように、リム部8は、胴部10により2箇所で支持されるようになっている。
【0019】
ここで、図4に示されているように、胴部10の胴部内壁部16の上端部16aと外壁部12の上方の所定位置12bを連結する第1連結部18は、その外壁部側18aが、外壁部12の外観面12aに対して、角度θだけ傾斜して形成されている。
【0020】
ここで、この角度θは、好ましくは、20度〜70度の範囲内の角度であり、さらに、より好ましくは、20度〜50度の範囲内の角度である。
この角度θの下限値である20度よりも小さな角度の場合には、便器の焼成収縮時に割れが発生し、また、上限値である70度(より好ましくは50度)以上の角度の場合には、詳細は後述するように、胴部10の外観面12aに線状の凸状の段差(図4参照)が生じるからである。
【0021】
次に、図5及び図6により、上述した本発明の実施形態による水洗大便器の製造方法を説明する。図5は本発明の実施形態による水洗大便器の胴部の製造に使用する各型の型合わせした状態を示す断面図であり、図6は本発明の実施形態による水洗大便器のリム部の製造に使用する各型の型合わせした状態を示す断面図である。
【0022】
先ず、図5に示す、水洗大便器1の胴部10の製造に必要な型である、胴部中型26と、この胴部中型26の左右の側方に位置する側型28と、胴部中型26の下方に位置する底型30とを準備し、同様に、図6に示す、リム部8の製造に必要な型である、リム上型32と、リム下型34とを準備する。
これらの各型は、全て、型側からの吸引により、泥漿を型面に効率良く堆積させる多孔質の型である。
【0023】
図5に示すように、胴部中型26は、胴部10の胴部内壁部16の内壁形状、第1連結部18、外壁部12の内側面にそれぞれ適合した形状を備えた型面を持つ凸部26aと、上方で外周側に延びる型端部26bとを有する。
左右の側方に位置する側型28は、胴部10の外壁部10の外壁面12の外観面12aの形状に適合した型面28aを備え、胴部中型26を左右方向から取り囲むようにして配置されている。
底型30は、胴部中型26の凸部26aに対応した凹部型面と第2連結部20の内側面に適合した型面を備えた凸部30aと、下方で外周側に延びる型端部30bとを有する。
【0024】
これらの各型を型合わせするとき、胴部中型26の型端部26bと、底型30の型端部30bとが、それぞれ、側型28の上方位置決め部材及び下方位置決め部材として機能するので、各型は、便器の胴部10の各素地、即ち、外壁部12、胴部内壁部16、第1連結部18、第2連結部20の各素地を製造する際、安定したキャビティ36を形成することができる。
【0025】
このようにして、胴部中型26、側型28、及び、底型30により、胴部10の各素地用のキャビティ36が形成された後、このキャビティ36内に泥漿を流し込み、各型の型面からエアを吸引し、所定時間放置し、各型の型面に泥漿を堆積させる。その後、キャビティ36から泥漿の泥を排出し、堆積泥漿の土締めを行い、最後に、型抜きを行う。このようにして、胴部内壁部16の素地と外壁部12の素地が、それぞれ、第1連結部18の素地及び第2連結部20の素地により連結された胴部10の素地を得る。
【0026】
次に、図6に示すように、リム上型32は、リム部8の平坦部22に適合した形状を備えた型面を備え、リム下型34は、リム部8のリム内壁部24の内側面及び外側面に適合した型面を備えている。
【0027】
これらのリム上型32とリム下型34を型合わせするとき、図示しないピン等により位置決めされるので、各型は、便器のリム部8の各素地、即ち、平坦部22、リム内壁部24等の各素地を製造する際、安定したキャビティ38を形成することができる。
【0028】
このようにして、リム上型32とリム下型34により、リム部8の各素地用のキャビティ38が形成された後、このキャビティ38内に泥漿を流し込み、各型の型面からエアを吸引し、所定時間放置し、各型の型面に泥漿を堆積させる。その後、キャビティ38から泥漿の泥を排出し、堆積泥漿の土締めを行い、最後に、型抜きを行う。このようにして、リム部8の素地を得る。
【0029】
このようにして、リム部8の素地と胴部10の素地を得た後、リム部8の平坦部22の外周端部22aの下面と、胴部10の外壁部12の上端部12dの上面と、リム部8のリム内壁部24の下端部24aの下面と、胴部内壁部16の上端部16aの上面とに、素地接合用の泥漿を塗布する。この後、リム部8の平坦部22の外周端部22aの下面を胴部10の外壁部12の上端部12dの上面に接合すると共に、リム部8のリム内壁部24の下端部24aの下面を胴部内壁部16の上端部16aの上面に接合する(図3及び図4参照)。
【0030】
この後、接合されたリム部8の素地と胴部10の素地を乾燥し、さらに、素地焼成を行う。このようにして、図1乃至図4に示された本実施形態による水洗大便器1が完成する。
【0031】
次に、図7及び図8により、本発明の実施形態による水洗大便器において、外壁部の外観面に線状の凸状の段差が生じない理由を説明する。図7は、従来の水洗大便器の図9及び図10に示す部位Aの素地における泥漿の板状の粒子の配列方向を示す断面図であり、図8は本発明の実施形態による水洗大便器の図4に示す部位Bの素地における泥漿の板状の粒子の配列方向を示す断面図である。
【0032】
先ず、図7に示すように、従来の水洗大便器100においては、連結部104cの素地の泥漿の粒子の配列方向は、型面と平行であるX方向(外壁部104aの厚み方向)であり、一方、外壁部104aの泥漿の粒子の配列方向は、型面と平行であるY方向であり、両者の粒子の配列方向は直交している。
ここで、泥漿の粒子の乾燥及び焼成の際の収縮率は、粒子の配列方向によって異なっており、配列方向の収縮率は小さく、配列方向に直交する方向の収縮率は大きい。
【0033】
この結果、従来の水洗大便器100において、リム部102の素地と胴部104の素地を接合して、乾燥し、焼成すると、連結部104cのX方向における収縮率は小さいが外壁部104aのX方向における収縮率は大きいので、連結部104cが外壁部104aを外方向へ押し出す量が大きくなり、それにより、図10に示すように、胴部104の外壁部104aの外観面に線状の凸状の段差110が生じる。
【0034】
これに対し、本実施形態による水洗大便器1においては、第1連結部18の素地の泥漿の粒子の配列方向は、型面と平行であるY方向に対して角度θだけ傾斜しており、一方、外壁部12の泥漿の粒子の配列方向は、型面と平行であるY方向である。
【0035】
この結果、本実施形態による水洗大便器1において、リム部8の素地と胴部10の素地を接合して、乾燥し、焼成しても、第1連結部18が外壁部12に対して角度θだけ傾斜しているので、第1連結部18のX方向(外壁部12の厚み方向)における収縮率は比較的大きく、このとき、外壁部104aのX方向における収縮率も大きいので、第1連結部18が外壁部12を外方向へ押し出す量も小さくなり、それにより、胴部10の外壁部12の外観面12aに線状の凸状の段差が生じることを防止することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 水洗大便器
2 ボウル部
6 ボウル部
8 リム部
10 胴部
12 外壁部
12a 外観面
12b 所定位置
12c 下端部
12d 上端部
14 ボウル面
16 胴部内壁部
16a 上端部
16b 所定位置
18 第1連結部
20 第2連結部
22 平坦部
22a 外周端部
24 リム内壁部
24a 下端部
26 胴部中型
26a 凸部
26b 型端部
28 側型
30 底型
30a 凹部
30b 型端部
32 リム上型
34 リム下型
36,38 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リム部と胴部を接合して形成される水洗大便器において、
着座面を形成する平坦部とボウル面の一部を形成するリム内壁部を備えたリム部と、
外観面を形成する外壁部と、ボウル面の大部分を形成する胴部内壁部と、これらの外壁部と胴部内壁部とを連結する連結部とを備えた胴部と、を有し、
上記リム部の平坦部が上記胴部の外壁部に接合されると共に上記リム部のリム内壁部が上記胴部の胴部内壁部に接合され、さらに、上記胴部の連結部の外壁部側が、外壁部の外観面に対して傾斜して形成されていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
上記胴部の連結部は、外壁部の外観面に対して20度〜50度の範囲内の角度で傾斜して形成されている請求項1記載の水洗大便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−174450(P2010−174450A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15681(P2009−15681)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】