説明

水洗式便器

【課題】洗浄効率の低下を防止する。
【解決手段】前面壁12と後面壁13との前後間隔が下方に向かって狭まった形態の便鉢11と、便鉢11の底面に開口され、便鉢11内の洗浄水Wを排出するための便器排水路16とを備えており、前面壁12の勾配に比べて、後面壁13の勾配が緩やかである。洗浄水W中の排出物のうち勾配のきつい前面壁12に沿って流れるものは便器排水路16に到達するのが速いのに対し、勾配の緩い後面壁13に沿って流れるものは便器排水路16に到達するのが遅いので、排出物が短時間で便器排水路16に集中して便器排水路16内で塊になることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗式便器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、便鉢の前面壁と後面壁とが、概ね前後対称な形状をなす水洗式便器が開示されている。この水洗式便器では、便鉢の前後両面壁が、便鉢に貯留される洗浄水の水面高さから、便鉢の底面に開口して便器排水路に連通する流出口に至るまで、ほぼ同じ曲率で湾曲した傾斜面となっている。
【特許文献1】特開2007−169963公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように前面壁と後面壁とが概ね対称な形状になっているものでは、便鉢内を洗浄する際に、洗浄水の流れに乗じて流出口から便器排水路へ流出する汚物やトイレットペーパー等の排出物のうち、前面壁に沿って流れるものと後面壁に沿って流れるものとが、同時に便器排水路に到達することになる。この場合、この前後からの排出物が、一気に便器排水路に流入して、便器排水路内で塊となる虞がある。
【0004】
便器排水路内で排出物の塊が生じた場合、便器排水路の流路が狭くなるため、洗浄水の流れが悪くなり、洗浄効率が低下することが懸念される。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、洗浄効率の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、前面壁と後面壁がその前後間隔を下方に向かって狭めるように傾斜した形態となっている便鉢と、前記便鉢の底面に開口され、前記便鉢内の洗浄水を排出するための便器排水路とを備えた水洗式便器であって、前記便鉢の洗浄水が貯水される領域においては、前記便鉢の深さ方向における全貯水領域に亘り、前記前面壁に比べて前記後面壁が緩やかな勾配となっているところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記前面壁の下端部と、前記便器排水路の上流端部における前側の内壁とが、ほぼ同じ勾配で滑らかに連なっているところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記後面壁は、前記便器排水路に向かうほど勾配が緩やかになる形態であるところに特徴を有する。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のものにおいて、前記便鉢の底面には、前記便器排水路に連通する流出口が開口されており、前記便器排水路が、前記流出口から後方へ延出した形態となっているところに特徴を有する。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のものにおいて、前記前面壁は、待機状態において前記便鉢に貯留される洗浄水の水面高さを境として、それよりも下方の領域の勾配が上方の領域の勾配よりも緩い角度とされているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
<請求項1の発明>
洗浄水中の排出物のうち勾配のきつい前面壁に沿って流れるものは便器排水路に到達するのが速いのに対し、勾配の緩い後面壁に沿って流れるものは便器排水路に到達するのが遅いので、排出物が短時間で便器排水路に集中することはない。
また、汚物の落下領域となる後面壁の勾配を緩やかにしたことにより、この後面壁上には汚物が留まり易くなっている。したがって、後面壁上の汚物が便器排水路に到達するまでに要する時間が長くなり、その分、便器排水路への排出物の集中が緩和される。
【0011】
<請求項2の発明>
前面壁に沿って流れる排出物は便器排水路内に流入し易くなるので、その分、前面壁に沿って流れる排出物と、後面壁に沿って流れる排出物との間における便器排水路への到達時間の時間差が、より大きくなり、便器排水路への排出物の集中が、より緩和される。
【0012】
<請求項3の発明>
後面壁は、便器排水路に向かうほど勾配が緩やかになるので、後面壁に沿って便器排水路に向かう流れも緩やかになる。したがって、前面壁に沿って流れる排出物と、後面壁に沿って流れる排出物との間における便器排水路への到達時間の時間差が、より大きくなり、便器排水路への排出物の集中が、より緩和される。
【0013】
<請求項4の発明>
流出口の開口縁においては、後面壁の下端部と便器排水路の後側の内壁とがUターン状に連なっているので、流出口の開口縁における後側領域は、前方へ楔状に突出した形態となっている。これにより、勾配がきつい前面壁に沿って勢いよく流出口に到達した排出物は、この流出口の突出形態の開口縁に当たることによって、粉砕されるので、便器排水路内で排出物の塊が生じ難くなる。
【0014】
<請求項5の発明>
洗浄水を便鉢内で旋回させるようにして供給する場合、供給前の待機状態において便鉢内で静止している洗浄水の貯水量が多いと、旋回流が生成され難い。この点に鑑み、待機状態の洗浄水の水面よりも下方領域の前面壁の勾配を緩やかにしたことにより、待機状態における洗浄水の貯水量を少なくしているので、旋回流が生成し易くなっている。これにより、便鉢の内壁に付着している排出物を効果的に除去することができる。
【0015】
また、洗浄水の供給により便鉢内の洗浄水の水面が上昇したときには、前面壁と後面壁の勾配の相違により、水面高さにおける前面壁と後面壁の中心点の位置が待機状態よりも後方へ変位する。これにより、洗浄水を旋回させて供給したときに、旋回流の水面上の渦中心と、便鉢の底面における便器排水路の開口との前後方向のズレが大きくなる。このズレ量が大きいほど、後面壁に沿って流れる汚物の量が増えるので、排出物の便器排水路への集中が緩和される。
【0016】
そこで、本発明では、待機状態の洗浄水の水面よりも上方の領域における前面壁の勾配を急角度とすることにより、洗浄時の水面高さにおける前面壁と後面壁の中心点の後方への変位量を大きくした。これにより、旋回流の渦中心と便鉢の底面における便器排水路の開口との前後方向のズレ量が大きく確保され、便器排水路への排出物の集中を、より一層緩和することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図3を参照して説明する。本実施形態の水洗式便器は、床面(図示せず)に載置された便器本体10と、洗浄水Wを便器本体10に供給するための供給装置20と、便器本体10に接続された排水経路30と、排水経路30内の空気を吸引する吸気装置40とを備えている。尚、以下の説明において、前後方向については図の右側を前側ということにする。
【0018】
便器本体10は、上面が開放された便鉢11と、便鉢11内の洗浄水Wを排出させるための便器排水路16とを有する。便鉢11は、前面壁12と後面壁13とを有し、前面壁12と後面壁13は、その前後方向の間隔が下方に向かって次第に狭まるように傾斜した形態となっている。尚、便鉢11の前面壁12と後面壁13の形態については、後に詳しく説明する。また、便鉢11の底面には、前後方向における中央よりも少し前方の位置において開口する流出口14が形成されている。この流出口14は、便鉢11の最も低い位置における水平面上で開口されている。換言すると、流出口14の開口縁は、同一水平面上(全周に亘って同じ高さ)に位置している。
【0019】
便鉢11の内面上端部には、全周に亘って溝状に切欠した形態のリム15が形成されている。このリム15の後端部における左右いずれかに片寄った位置には、供給装置20に接続された供給路21の下流端が開口しており、供給装置20から供給路21を通して供給された洗浄水Wは、リム15内に勢いよく吐出され、この吐出圧によりリム15内を周方向に流動した後、便鉢11内に流下する。そして、便鉢11内では、洗浄水Wが螺旋状に旋回しながら流れて流出口14から便器排水路16内に流入するようになっている。
【0020】
便器排水路16の上流端は、便鉢11の底面において流出口14として上向きに開口している。便器排水路16は、流出口14から斜め下後方に延びる第1流路17と、第1流路17の下流端から斜め上後方へ延びる第2流路18とから構成されている。待機状態では、図1に示すように、便鉢11内と便器排水路16内には一定量の洗浄水Wが貯留される。このときの洗浄水Wの水面は、第2流路18の下流端の開口の下端縁と同じ高さとなる。
【0021】
次に、便鉢11の前面壁12と後面壁13の形態を詳しく説明する。
便鉢11の洗浄水Wが貯水される領域においては、便鉢11の深さ方向における全貯水領域(洗浄のために供給された洗浄水Wの貯水量が最大量に達したときにおける洗浄水Wの水面高さから、流出口14と同じ高さに亘る領域)に亘り、前面壁12に比べて後面壁13が緩やかな勾配となっている。つまり、前面壁12における接水領域(洗浄水Wが接触する領域)の水平面に対する傾斜角度は、後面壁13における接水領域の水平面に対する傾斜角度よりも大きくなっている。また、前面壁12の下端部は、直接、便器排水路16の流出口14に連なっており、同様に、後面壁13の下端部も、直接、便器排水路16の流出口14に連なっている。
【0022】
前面壁12の接水領域は、待機状態において便鉢11に貯留される洗浄水Wの水面高さSを境として、それよりも下方の領域12Lの勾配(傾斜角度)が、上方の領域12H(つまり、待機状態では洗浄水Wは接しないが、洗浄のために便鉢11内に洗浄水Wが供給されて便鉢11内の洗浄水Wの貯水量が一時的に増加したときにのみ、洗浄水Wが接する領域)の勾配(傾斜角度)よりも緩い角度とされている。この下方の領域12Lの傾斜角度は、約40°であり、上方の領域12Hの傾斜角度は、約65°である。この下方の領域12Lと上方の領域12Hとの境界部12Mは、曲面状をなしている。
【0023】
さらに、前面壁12の下端部と、便器排水路16の上流端部(即ち、第1流路17)における前側の内壁16Fとは、ほぼ同じ勾配で滑らかに連なっている。つまり、第1流路17の前側の内壁16Fの傾斜角度は、約40°である。
【0024】
一方、後面壁13は、その待機状態及び洗浄時において洗浄水Wが接する全領域に亘って、傾斜角度は大きく変化せず、その傾斜角度は、概ね25°である。また、後面壁13は、便器排水路16に向かうほど(つまり、上端から下端に向かって)勾配が次第に緩やかになっている。換言すると、後面壁13は、全体として小さい曲率で湾曲している。そして、この後面壁13の曲率は、上記前面壁12の傾斜角度が大きく変化する境界部12Mの曲率よりも小さい。
【0025】
また、上述のように便器排水路16の第1流路17は、流出口14から後方へ延出した形態となっているので、流出口14の開口縁においては、後面壁13の下端部と便器排水路16の後側の内壁16Rの上端部(上流端部)とがUターン状に連なった形態となっている。便器排水路16の後側の内壁16Rの上端部(流出口14に近い部分)は、前側の内壁16Fとほぼ平行をなして、斜め下後方へほぼ真っ直ぐに延びている。後面壁13の下端部と便器排水路16の後側の内壁16Rとのなす角度は、約65°である。つまり、流出口14の開口縁における後側領域は、前方へ楔状に突出した形態となっている。
【0026】
排水経路30は、便器排水路16の第2流路18の下流端に接続されて下方へ延びる第1管路31と、第1管路31の下流端に接続されて略U字形に屈曲した第2管路32と、第2管路32を包囲する筒状体33とを備えており、筒状体33の下端の開口は、床面に開口する配管(図示せず)に接続されている。待機状態では、第2管路32内に洗浄水Wが貯留されており、この第2管路32の水面と、上記便器排水路16の第2流路18内の水面との間には、空気が気密状に密封された封止空間34が構成されている。
【0027】
吸気装置40は、封止空間34内の空気を吸引して、封止空間34内を負圧にするための装置である。封止空間34が負圧になると、便器排水路16内の洗浄水Wがサイホン作用により排水経路30側へ吸い出され、便鉢11内及び便器排水路16内の洗浄水Wが効果的に排出されるようになっている。
【0028】
次に、本実施形態の作用を説明する。
便鉢11内を洗浄する際には、供給装置20から便鉢11内に洗浄水Wを旋回させながら供給する。すると、図2に示すように、便鉢11内の洗浄水Wの水面が一時的に上昇する。この直後、吸気装置40が作動して、封止空間34内の空気が吸引され、図3に示すように、便鉢11内及び便器排水路16内の洗浄水Wがサイホン作用により排水経路30側へ流出する。すると、便鉢11内の汚物やトイレットペーパー等の排出物(図示せず)が、洗浄水Wの流れに乗じて、便器排水路16と排水経路30を順に通して排出される。所定量の洗浄水Wが供給されると、洗浄水Wの供給が停止するので、図1に示す待機状態に戻る。
【0029】
さて、洗浄の際に排出物が便器排水路16内に一気に流入すると、便器排水路16内で排出物が塊となり、便器排水路16内の流路を狭めるので、排水効率が低下し、ひいては、洗浄効率の低下を来すことが懸念される。そこで、本実施形態では、便鉢11の前面壁12と後面壁13の形態に工夫を凝らすことにより、便器排水路16への排出物の集中を緩和し、洗浄効率の低下を回避している。
【0030】
即ち、便鉢11の洗浄水Wが貯水される領域においては、前面壁12に比べて後面壁13の勾配を緩やかにしている。このため、洗浄水W中の排出物のうち勾配のきつい前面壁12に沿って流れるものは便器排水路16(流出口14)に到達するのが速くなるのに対し、勾配の緩い後面壁13に沿って流れるものは便器排水路16(流出口14)に到達するのが遅くなる。したがって、便器排水路16に到達する排出物同士の間で時間差が生じ、排出物が短時間で便器排水路16に集中することが回避される。これにより、排出物が便器排水路16内で塊になって便器排水路16の流路を狭める、という事態が発生することが回避され、洗浄水Wの流れが円滑に保たれ、ひいては、洗浄効率が向上する。
【0031】
また、人体から汚物が落下する領域となる後面壁13の勾配を緩やかにしたことにより、この後面壁13上には汚物が留まり易くなっている。したがって、後面壁13上の汚物が便器排水路16に到達するまでに要する時間は、洗浄水W中に浮遊する他の汚物に比べて長くなり、便器排水路16への到達時間の時間差が拡がって、便器排水路16への排出物の集中が緩和される。
【0032】
また、前面壁12の下端部と、便器排水路16の上流端部における前側の内壁16Fとを、ほぼ同じ勾配で滑らかに連なる形態としているので、前面壁12に沿って流れる排出物は便器排水路16内に流入し易くなる。しかも、便器排水路16の後側の内壁16Rの上流端部が、前壁16Fとほぼ平行に真っ直ぐ延びているので、この点においても、便器排水路16への誘導効果と便器排水路16内における流速確保の効果が期待できる。このように、前面壁12に沿って流れる排出物が便器排水路16内に流入し易くなっていることにより、前面壁12に沿って流れる排出物と、後面壁13に沿って流れる排出物との間における便器排水路16への到達時間の時間差が、より大きくなり、便器排水路16への排出物の集中が、より緩和されている。
【0033】
また、後面壁13は、便器排水路16に向かうほど勾配が緩やかになるので、後面壁13に沿って便器排水路16に向かう流れも緩やかになる。したがって、前面壁12に沿って流れる排出物と、後面壁13に沿って流れる排出物との間における便器排水路16への到達時間の時間差が、より大きくなり、便器排水路16への排出物の集中が、より緩和される。
【0034】
また、流出口14の開口縁においては、後面壁13の下端部と便器排水路16の後側の内壁16RとがUターン状に連なっているので、流出口14の開口縁における後側領域は、前方へ楔状に突出した形態となっている。これにより、勾配がきつい前面壁12に沿って勢いよく流出口14に到達した排出物は、この流出口14の突出形態の開口縁に当たることによって、粉砕されるので、便器排水路16内で排出物の塊が生じ難くなっている。
【0035】
また、洗浄水Wを便鉢11内で旋回させるようにして供給する場合、供給前の待機状態において便鉢11内で静止している洗浄水Wの貯水量が多いと、旋回流が生成され難い。この点に鑑み、待機状態の洗浄水Wの水面Sよりも下方領域12Lの前面壁12の勾配を緩やかにしたことにより、待機状態における洗浄水Wの貯水量を少なくしているので、旋回流が生成し易くなっている。これにより、便鉢11の内壁に付着している排出物を効果的に除去することができる。
【0036】
また、洗浄水Wの供給により便鉢11内の洗浄水Wの水面が上昇したときには、前面壁12と後面壁13の勾配の相違により、図2に示すように、水面高さにおける前面壁12と後面壁13の中心点Xaの位置が、待機状態における中心点Xbよりも後方へ変位する。これにより、洗浄水Wを旋回させて供給したときに、旋回流の水面上の渦中心(即ち、中心点Xa)と、便鉢11の底面における便器排水路16の開口の前後方向の中心点Xcとの前後方向のズレが大きくなる。このズレ量が大きいほど、後面壁13に沿って流れる汚物の量が増えるので、排出物の便器排水路16への集中が緩和される。
【0037】
そこで、本実施形態では、待機状態の洗浄水Wの水面Sよりも上方の領域12Hにおける前面壁12の勾配を急角度とした。これにより、待機状態における水面Sの中心点Xbから、洗浄時の水面高さにおける前面壁12と後面壁13の中心点Xaが後方へ変位する量を大きくした。これにより、旋回流の水面上における渦中心(即ち、中心点Xa)と便鉢11の底面における便器排水路16の開口の中心点Xcとの前後方向のズレ量が大きく確保され、便器排水路16への排出物の集中を、より一層緩和することが実現されている。
【0038】
さらに、前面壁12の傾斜角度を後面壁13よりも大きくしたことにより、洗浄水Wを旋回させながら便鉢11に供給したときに洗浄水Wの水面上で生じる渦の位置(図2における中心点Xa)と、流出口14における渦の位置(図2における中心点Xc)とが前後に大きくずれることになる。このように双方の渦の位置が前後にずれると、そのずれた分だけ、洗浄水Wの水面から流出口14に至る渦の長さが長くなる。すると、洗浄水W中で旋回しながら浮遊する排出物のうち、洗浄水Wの水面に近い高い位置で浮遊している排出物が流出口14に到達するのに要する時間が長くなる。一方、流出口14に近い低いところで浮遊している排出物については、流出口14に到達するまでの時間が比較的短いままであることから、排出物の流出口14への集中が回避される。したがって、前面壁12の傾斜角度を後面壁13よりも大きくした形態は、洗浄水Wを旋回させて供給しながら洗浄する場合において、特に、有効である。
【0039】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では前面壁の下端部が、直接、便器排水路の流出口に連なる形態としたが、前面壁の下端部と流出口との間に水平な底面が介在する形態としてもよい。
(2)上記実施形態では後面壁の下端部が、直接、便器排水路の流出口に連なる形態としたが、後面壁の下端部と流出口との間に水平な底面が介在する形態としてもよい。
(3)上記実施形態では前面壁の下端部と、便器排水路の上流端部における前側の内壁とを、ほぼ同じ勾配で滑らかに連なる形態としたが、前面壁の下端部と、便器排水路の上流端部における前側の内壁とが、互いに異なる勾配で連なる形態としてもよい。
(4)上記実施形態では流出口の開口縁において後面壁の下端部と便器排水路の後側の内壁とがUターン状に連なる形態としたが、後面壁の下端部と便器排水路の後側の内壁とが略直角又は鈍角状に連なる形態としてもよい。
(5)上記実施形態では、前面壁は、待機状態において便鉢に貯留される洗浄水の水面高さを境として、それよりも下方の領域の勾配が上方の領域の勾配よりも緩い角度となる形態としたが、待機状態における洗浄水の水面高さを境として、それよりも下方の領域の勾配が上方の領域の勾配よりも急な角度となる形態としてもよく、下方の領域と上方の領域とで勾配がほぼ一定となる形態としてもよい。
(6)上記実施形態では洗浄水を旋回させながら便鉢に供給するようにしたが、洗浄水は旋回させずに供給してもよい。
(7)上記実施形態では、後面壁が、便器排水路に向かうほど勾配が緩やかになる形態となっているが、便器排水路に向かうほど勾配が急になる形態や、勾配が一定である形態であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態1において待機状態をあらわす断面図
【図2】洗浄水を供給した直後の状態をあらわす断面図
【図3】洗浄水を供給した後、サイホン作用により便鉢内の洗浄水を便器排水路内に吸引した状態をあらわす断面図
【符号の説明】
【0041】
11…便鉢
12…前面壁
12L…前面壁における下方の領域
12H…前面壁における上方の領域
13…後面壁
14…流出口
16…便器排水路
16F…便器排水路の上流端部における前側の内壁
S…待機状態における洗浄水の水面高さ
W…洗浄水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面壁と後面壁がその前後間隔を下方に向かって狭めるように傾斜した形態となっている便鉢と、
前記便鉢の底面に開口され、前記便鉢内の洗浄水を排出するための便器排水路とを備えた水洗式便器であって、
前記便鉢の洗浄水が貯水される領域においては、前記便鉢の深さ方向における全貯水領域に亘り、前記前面壁に比べて前記後面壁が緩やかな勾配となっていることを特徴とする水洗式便器。
【請求項2】
前記前面壁の下端部と、前記便器排水路の上流端部における前側の内壁とが、ほぼ同じ勾配で滑らかに連なっていることを特徴とする請求項1記載の水洗式便器。
【請求項3】
前記後面壁は、前記便器排水路に向かうほど勾配が緩やかになる形態であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水洗式便器。
【請求項4】
前記便鉢の底面には、前記便器排水路に連通する流出口が開口されており、
前記便器排水路が、前記流出口から後方へ延出した形態となっていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の水洗式便器。
【請求項5】
前記前面壁は、待機状態において前記便鉢に貯留される洗浄水の水面高さを境として、それよりも下方の領域の勾配が上方の領域の勾配よりも緩い角度とされていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の水洗式便器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−191501(P2009−191501A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32444(P2008−32444)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】