説明

水溶性アゾ染料及びこれを含有する偏光膜

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 各種の織物や紙などの染色のほか、特にポリビニルアルコール系偏光膜用の二色性色素として有用なアゾ染料及びそれを含有する偏光膜に関する。
従来の技術 ポリビニルアルコール系偏光膜用の二色性色素としては従来ヨードが用いられており高い偏光率を示すという特徴がある反面ヨードの揮発性がたかい為、偏光膜の耐久性が劣るという問題がある。この為合成染料を使用した偏光膜が製造されているがその偏光率、堅牢度等にまだ問題が多い。
発明が解決しようとする課題 ポリビニルアルコール系偏光膜に使用される合成染料は既存の繊維用のものの転用が多い為偏光率がモード系のものに比べてかなり低く用途が限定されている。従ってヨード並の偏光率を示す染料の開発が望まれている。
課題を解決するための手段 本発明者らは前記した課題を解決すべき鋭意検討を行った結果遊離酸として式(1)


〔式(1)においてAはメチル基を持つこともあるベンゼン環又はナフタリン環を、Rはアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基又はフエニルアミノ基をそれぞれ表す。〕
で表される水溶性染料またはこの銅錯塩染料が耐熱性、耐光性等の堅牢度が優れる上に特に偏光率に優れていることを見出し本発明を完成させた。即ち本発明は遊離酸として前記式(1)で表される水溶性染料またはこの銅錯塩染料及びこれを含有する偏光膜を提供する。
本発明を詳細に説明する。
式(1)の使用性染料は通常のアゾ染料の製法に従い公知のジアゾ化、カップリング法で容易に製造出来る。
即ちスルファニル酸、メタニル酸、2−メチルアニリン−4−スルホン酸、アニリン−2,4−ジスルホン酸、アニリン−2,5−ジスルホン酸、ナフチオン酸、2−ナフチルアミン−6−スルホン酸、2−ナフチルアミン−4,8−ジスルホン酸、2−ナフチルアミン−3,6−ジスルホン酸、2−ナフチルアミン−5,7−ジスルホン酸、2−ナフチルアミン−6,8−ジスルホン酸などをジアゾ化し、p−クレシジンと常法によりカップリングさせてモノアゾ化合物を製造し、これを再びジアゾ化してp−クレシジンにカップリングさせてアミノ基を持ったジスアゾ中間体を製造する。これらの中間体の製造法においてジアゾ化法はジアゾ成分の塩酸、硫酸などの鉱酸水溶液またはけん濁液に亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩を混合するという順法によるか、あるいはジアゾ成分の中乃至弱アルカリ性の水溶液に亜硝酸塩を加えておき、これと鉱酸を混合するという逆法によってもよい。ジアゾ化の温度は−10〜40℃が適当である。
カップリングはアミン類の塩酸、酢酸などの酸性水溶液と上記ジアゾ液を混合し中和してpH3〜7にすればよい。カップリングの温度は−10〜40℃が適当である。
生成したアミノアゾ化合物はそのまゝ或は酸析や塩析により析出させ■過して取り出すか、所望なら溶液又はけん濁液のまゝ次のジアゾ化工程へ進むこともできる。
ジアゾニウム塩が難溶性でけん濁液となっている場合は■過してプレスケーキとして次のジアゾ化工程で使うこともできる。
この様にして得た中間体のジスアゾ化合物をジアゾ化し、J−酸、N−メチルJ酸、N−エチルJ酸又はN−フエニルJ酸にアルカリ性でカップリングさせて式(1)の水溶性染料が得られる。
上記においてジアゾ化法は前記の順法によっても良いがアミノアゾ化合物が酸性では溶解性が著しく小さい場合には逆法による方が好ましい。ジアゾ化の温度は0〜40℃が適当である。ジアゾ液はけん濁液となっているが、これをそのまゝ使うことも、■過してジアゾニウム塩のプレスケーキを取り出すこともできる。
カップリングはカップリング成分のアルカリ水溶液に前記ジアゾニウム塩のけん濁液またはジアゾニウム塩を小量づつ添加する。この際液がpH8〜11を保つ様必要に応じアルカリを添加する。アルカリとしてはナトリウム、カリウム、リチウムなどの炭酸塩、アンモニヤ、モノ、ジ、トリエタノールアミンなどのアミンの使用が好ましく、これ以外にナトリウム、カリウムなどの水酸化物や重炭酸塩を併用してもよい。また必要に応じピリジンや尿素などの通常のカップリング促進剤を添加してもよい。
カップリングの温度は−10〜40℃が適当である。カップリング終了後必要に応じ塩化ナトリウムまたは/および塩化カリウムを加えて塩析して取り出す。
又式(1)の水溶性染料の銅錯塩を得るには通常の方法に依ればよい。即ち式(1)の水溶性染料を水溶液中、硫酸銅、塩化銅、酢酸銅などの銅塩と通常70〜110℃に加熱する。この際必要に応じアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ピリジンなどの有機アミンを添加することも出来る。
本発明の偏光膜を調製する為の基材としては繊維素系樹脂(セロファン)、PVA、変性PVA、PVAと他の樹脂の共重合物等が用いられる。これらのうち好ましいものは、PVA、変性PVA、PVAと他の樹脂の共重合物等であり、以下これらをPVA系基材という。PVA系基材としては、通常の純PVAの他、不飽和カルボン酸又はその誘導体、不飽和スルホン酸又はその誘導体、炭素数2〜30のα−オレフィン等で約15モル%未満共重合変性された変性ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール、エチレン含量15〜55モル%のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物等が挙げられる。これらの基材から偏光膜を製造する方法としては、成型されたPVA系フィルムそのものを染色する方法、PVA系樹脂の溶液に染料を添加し、原液染色後製膜する方法等を挙げる事が出来る。まずPVA系フィルムの一般的な染色方法及び延伸法について説明する。
式(1)の水溶性染料又はその銅錯体及び必要に応じて無機塩、界面活性剤等の染色助剤を含有する染浴中に0℃ないし70℃、好ましくは30〜45℃でPVA系フィルムを浸漬して染色し、次いで必要に応じてホウ酸処理し、乾燥する。該染色フィルムに偏光機能を付与させる為に染色前、染色後または染色中に一軸方向に2倍以上特に好ましくは2.5〜4倍延伸する。染色前又は染色後に延伸する場合には湿式延伸の他に乾式条件(通常常温ないし180℃の範囲)で行ってもよく、また染色と同時に延伸する場合には染浴中で0〜70℃好ましくは30〜45℃で延伸する。
次に原液染色後製膜する方法は、まずPVA系基材(樹脂)を水、有機溶媒、水−アルコール混合溶媒等の溶媒に溶解し、式(1)の水溶性染料又はその銅錯塩染料を添加し、原液染色を行う。この染色原液を流延法、溶液塗布法、押出法等によって製膜し、染色フィルムを製造する。このよう経してえられた染色フィルムに偏光機能を付与させる為に該染色フィルムを前記同様の湿式または乾式条件で一軸方向に延伸する。ここで一軸延伸とは完全に一軸方向にのみフィルムを延伸する(自由幅一軸延伸)他、延伸方向に直角の方向にも幅方向の収縮を防止する為若干の延伸を行う事(一定幅一軸延伸)をも意味する。
またフィルムの染色法としては前記したような浸漬による染色又は原液染色による染色法が一般的であるが印捺糊を調製しこれをフィルムに捺染し、加熱して内部拡散により染着させる方法を採用する事も出来る。
式(1)で表される水溶性染料又はその銅錯塩染料は単独で又はそれら同志で混合して使用することが出来る他、更にはこれらの染料と他の染料と配合することにより種々の色相に染色された高偏光率の偏光膜を製造する事ができる。特に多用されるグレーヌはブラック用の配合成分として式(1)で表される水溶性染料又はその銅錯塩染料を使用した場合すぐれた偏光能及び好ましい吸収特性を示す偏光膜がえられる。又その熱に対する安定性がすぐれている。
この様にして製造された偏光膜はそのまま使用される他、特に高い耐久性を要求される分野においてはポリエステル、塩化ビニール、セルローズトリアセテート、アクリル樹脂、ポリエーテルスルホン等の支持フィルムを接着したり特殊アクリル樹脂等でコーティングして高偏光率でしかも高耐久性の偏光板として使用に供することも出来る。
本発明の式(1)の染料の中で次記式(2)及び(4)の染料が好ましい例としてあげられる。




即ちこれらの染料は深い青色の好ましい色相でPVAに対する良好な染着性と高いカラーバリューを持ち、特に偏光率の高い偏光フィルムが得られる特長がある。しかも水溶性も良好で取り扱いが容易である。
実施例 以下に本発明を具体例によって説明する。
実施例中、構造式はすべて遊離酸の形で示し部は重量部を示す。
実施例1. 2−メチル−5−メトキシ−4−アミノアゾベンゼン−4′−スルホン酸ナトリウム34.3部(1/10モル)を水300部にとかし濃塩酸25部と亜硝酸ナトリウム6.9部を加えてジアゾ化し、この中へp−クレシジン13.7部を塩酸水溶液にとかして加えたのち、酢酸ナトリウムを加えてpH4まで中和してカップリングさせた。反応終了後ろ過して次式で表されるジスアゾ化合物47.5部を含むプレスケーキを得た。


このプレスケーキを温水2000部中に水酸化ナトリウムで中和して溶解し、その中に亜硝酸ナトリウム8部を加えた溶液を、5%塩酸溶液400部中に約20℃で滴下してジアゾ化した。ジアゾ化終了後過剰の亜硝酸をスルファミン酸を加えて分解したのちこのジアゾニウム塩の懸濁液をN−フエニルJ酸31.5部を10%炭酸ナトリウム水溶液600部に溶解した液中に約20℃で滴下してカップリングさせた。2時間かきまぜたのち塩化ナトリウム90部を加えて塩析し一夜かきまぜてからろ過し、3%塩化ナトリウム水溶液で洗い、乾燥して次式(2)で表されるトリスアゾ染料72部を得た。


このトリスアゾ染料の0.3g/■の染浴を調製し40℃に保持し、厚さ75μのポリビニルアルコールフィルムを浸漬し2分間染色した。濡れたまゝの染色フィルムを5%ホウ酸水溶液中で40℃で4倍に延伸しこの状態のまゝ水洗、乾燥して青紫色の偏光フィルムを製造した。その偏光フィルムの吸収極大λmaxでの偏光率ρ(max)を測定した結果単板透過率43%、λmaxは600nmでρ(max)は97.5%であった。
こゝで吸収極大波長λmaxでの偏光率ρ(max)はその波長での平行位透過率T

直交位透過率(max)を用いて次式によって表される。


比較のため偏光膜用の青紫色染料として知られているC.T.Direct Violet9(下記構造式)を使用して

前記同様に偏光膜を調製した所λmaxは575nmで単板透過率43%の時のρ(max)は92.5%で本発明の染料の方がすぐれていた。
実施例2. 実施例1に於いてN−フエニルJ酸の代わりにN−メチルJ酸25.3部を使用して式(3)で、表されるトリスアゾ染料を得た。


このトリスアゾ染料の水溶液で実施例1と同様にポリビニルアルコールフィルムを処理し赤味青の偏光フィルムを製造した。その偏光フィルムの吸収極大λmaxでの偏光率ρ(max)を測定した結果単板透過率43%、λmaxは585nmでρ(max)は95.5%であった。
実施例3. 2−アミノ−4,8−ナフタレンジスルホン酸30.3部(1/10モル)を水600部に溶かし濃塩酸26部と亜硝酸ナトリウム7部を加えてジアゾ化した。終了後過剰の亜硝酸をスルファミン酸を加えて分解したのちこの中へp−クレシジン13.7部を塩酸水溶液に溶かして加え15〜20℃にて酢酸ナトリウムを加え、pH4まで中和しカップリングさせた。反応終了後、析出した結晶を■過して次式のモノアゾ化合物43.7部を得た。


このモノアゾ化合物を水500部中で水酸化ナトリウムで中和して溶解し、亜硝酸ナトリウム8部を加えた溶液を10%塩酸水溶液300部中に15〜20℃にて滴下しジアゾ化した。
終了後、過剰の亜硝酸をスルファミン酸にて分解したのちこの中へp−クレシジン13.7部を塩酸水溶液に溶かして加え15〜20℃にて酢酸ナトリウムを加え、pH4まで中和しカップリングさせた。反応終了後、析出した結晶を■過して次式のジスアゾ化合物52.2部を得た。


次にこのジシアゾ化合物を水1000部に水酸化ナトリウムで中和して溶解し、亜硝酸ナトリウム7部を加えた溶液を10%塩酸水溶液250部中に15〜20℃にて滴下しジアゾ化した。
ジアゾ化終了後、過剰の亜硝酸をスルファミン酸にて分解後このジアゾニウム塩液をN−フエニルJ酸30.5部を10%炭酸ナトリウム水溶液500部に溶解した液中に15〜20℃にて滴下しカップリングさせた。
反応終了後、塩化ナトリウム100部を加えて塩析後、■過し乾燥して次式のトリスアゾ染料79部を得た。


このトリスアゾ染料の0.3g/■染浴を調製し、実施例1と同様にポリビニルアルコールフィルムを処理し、青色の偏光フィルムを製造した。その偏光フィルムの吸収極大λmaxでの偏光率ρ(max)を測定した結果、単板透過率43%、λmaxは600nmでρ(max)は97.5%であった。
実施例4. 実施例1〜3と同様な方法により次表に示される一般式(1)の染料を製造した。
表中色相、λmaxは共にPVAフィルムを染色した時のものを示す。






実施例5. 前記実施例1記載の式(2)の染料7部を水100部にとかし、モノエタノールアミン7.0部を加えたのち結晶硫酸銅2.4部の水溶液を加えて90℃で3時間加熱した。塩化ナトリウム6.0部を加え冷却塩析し一夜かきまぜてからろ過し、5%塩化ナトリウム水溶液で洗い、乾燥して次式(16)で表されるトリスアゾ染料6.1部を得た。


このトリスアゾ染料の水溶液で実施例1と同様にポリビニルアルコールフィルムを処理し青色の偏光フィルムを製造した。その偏光フィルムの吸収極大λmaxでの偏光率ρ(max)を測定した結果、単板透過率43%、λmaxは635nmでρ(max)は96.0%であった。
実施例6. 実施例3記載の式(4)のトリスアゾ染料46.3部(1/20モル)を水1000部に溶かしこの中にモノエタノールアミン18.3部、次に硫酸銅(Cu SO4・5H2O)13部に加え加熱し90〜95℃にて銅化反応させた。反応終了後、塩化ナトリウム80部を加えて塩析後、■過し乾燥して次式のトリスアゾ銅錯塩染料46.8部を得た。


このトリスアゾ銅錯塩染料0.3g/■染浴を調製し、実施例1と同様にポリビニルアルコールフィルムを処理し帯緑青色の偏光フィルムを製造した。その偏光フィルムの吸収極大λmaxでの偏光率ρ(max)を測定した結果、単板透過率43%、λmaxは630nmでρ(max)は95.9%であった。
実施例7. 実施例5,6と同様な方法により前記の各式の染料を原料として次表に示す銅錯塩染料を製造した。
色相、λmaxは共にPVAフィルムに染色したものについてである。




発明の効果 殊にポバール系フィルムの染色に供して高い偏光率並びに高い熱安定性を有する偏光膜を与える水溶性トリスアゾ染料が得られた。そしてこの偏光膜は青色系偏光膜としてすぐれた光学特性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】遊離酸として式(1)


〔式(1)においてAはメチル基を持つこともあるベンゼン環又はナフタリン環を、Rはアミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基又はフエニルアミノ基をそれぞれ表す。〕
で表される水溶性染料またはこの銅錯塩染料
【請求項2】特許請求の範囲第1項記載の式(1)の水溶性染料またはこの銅錯塩染料を含有する偏光膜

【特許番号】第2622748号
【登録日】平成9年(1997)4月11日
【発行日】平成9年(1997)6月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−146634
【出願日】平成1年(1989)6月12日
【公開番号】特開平3−12606
【公開日】平成3年(1991)1月21日
【出願人】(999999999)日本化薬株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭63−189803(JP,A)