説明

水溶性光硬化性樹脂組成物及び塗料

【構成】 (イ)1分子中にエポキシ基を2個以上有する分子量が300以上の脂肪族系ポリエポキシエーテル化合物とアクリル酸及び/又はメタクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して得られる水溶性樹脂及び(ロ)光重合開始剤を含有してなる水溶性光硬化性樹脂組成物並びに塗料。
【効果】 短時間で硬化し、硬度、付着性及び耐寒熱繰返し性などの特性に優れた塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、速乾性に優れ、かつ付着性等に優れる水溶性光硬化性樹脂組成物及び塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、光硬化性樹脂組成物はその速乾性及び有機溶剤の含有がないという特長から、各種塗装分野、特に木工塗装に使用されている。しかしながら、実際には、塗装粘度調節及びレベリング性向上を目的に有機溶剤が併用された形で使用されている。昨今特に、作業環境の向上及び大気汚染問題などから水溶性のタイプのものが注目されるようになり、光硬化性樹脂組成物においてもその水溶化が検討されてきているが、水溶化すると塗膜の硬化性及び耐溶剤性が劣り、又木工塗装時では塗膜の付着性及び耐寒熱繰返し性などが劣るという問題を有し、決して満足されるものは得られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記の従来技術の問題点を解消し、紫外線照射により短時間で硬化し、硬度、付着性、耐溶剤性及び耐寒熱繰返し性に優れた塗膜を生じる水溶性光硬化性樹脂組成物及びこれを用いた塗料を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、(イ)1分子中にエポキシ基を2個以上有する分子量が300以上の脂肪族系ポリエポキシエーテル化合物とアクリル酸及び/又はメタクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して得られる水溶性樹脂及び(ロ)光重合開始剤を含有してなる水溶性光硬化性樹脂組成物並びに該樹脂組成物を含有してなる塗料に関する。
【0005】(イ)成分における1分子中にエポキシ基を2個以上有する分子量が300以上の脂肪族系ポリエポキシエーテル化合物としては、例えば、多価アルカンアルコールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリグリシジルエーテル等のポリエポキシエーテル化合物が好ましいものとして挙げられる。分子量は300以上であるが、300〜1500、特に500〜1000のポリエポキシエーテル化合物を使用するのが好ましい。エポキシ化合物の分子量が300未満の場合、水溶性光硬化性樹脂組成物を硬化したときに得られる塗膜の耐寒熱繰返し性が劣る。一方、1500を越えると塗膜の硬化性が低下する傾向にある。
【0006】上記ポリエポキシエーテル化合物はアクリル酸及び/又はメタクリル酸とをエステル付加反応させ、エステル化合物とする。この反応は、カルボキシル基/エポキシ基が当量比で好ましくは0.9/1〜1.1/1、より好ましくは、0.95/1〜1.0/1になるようにポリエポキシエーテル化合物とアクリル酸及び/又はメタクリル酸とを配合して、常法で、例えばアルカリ性触媒下、60〜120℃で酸価が0〜20になるまで行う。
【0007】その後、得られたこのエステル化合物と無水多価カルボン酸とを、OH/無水多価カルボン酸が当量比で、好ましくは1.0/0.3〜1.0/1.0より好ましくは、1.0/0.5〜1.0/0.7になるように配合し、常法で、例えば、80〜120℃で5時間反応させる。ここで無水多価カルボン酸としては、例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水イタコン酸、水素添加された無水フタル酸などの2価以上の多塩基酸の無水物が挙げられる。
【0008】次いで、得られた反応物に、塩基性化合物、例えばトリエチルアミンなどを、配合した無水カルボン酸のモル数に対して好ましくは50〜100モル%添加し、好ましくはpH5〜8に中和する。その後、水を10〜50重量%添加して固形分90〜50重量%の水溶性樹脂とするのが好ましい。ここで得られる水溶性樹脂のpHが5未満であると樹脂の水溶解性が劣る傾向にあり、一方、8を越えると樹脂の貯蔵安定性が劣る傾向にある。
【0009】本発明の水溶性光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて(ハ)成分として、水溶性光重合性単量体、より具体的な例としては1分子中に1個以上のアクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を有する重合性単量体を含むことができる。これらの単量体について例示すると、例えば(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル((メタ)アクリル酸とはアクリル酸及びメタクリル酸を示す。以下同様。)、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート((メタ)アクリレートとはアクリレート及びメタクリレートを示す。以下同様)、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどがある。
【0010】(イ)成分と(ハ)成分は、両者の固形分総和に対して(イ)成分を30〜100重量%、(ハ)成分を0〜70重量%配合するのが好ましく、(イ)成分を60〜100重量%、(ハ)成分を0〜40重量%配合するのがより好ましく、(イ)成分を70〜90重量%、(ハ)成分を10〜30重量%配合するのが特に好ましい。(ハ)成分が70重量%を越えると、得られた塗膜の性能(硬化性、物性等)が全般的に低下する傾向にある。
【0011】本発明の水溶性光硬化性樹脂組成物は、(ロ)成分として光重合開始剤を含有する。この光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾイン・ベンゾエート、ベンゾイン・メチルエーテル類、ベンジル・ジメチルケタール、α−アシロキシムエステル、アセトフェノン類、チオキサントン類などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの光重合開始剤は、(イ)成分及び(ハ)成分の固形分総和100重量%に対して好ましくは1〜10重量%、特に好ましくは2〜5重量%の量で使用される。この量が1重量%未満であると、光硬化の効果が充分でなく、10重量%を越えると、得られる塗膜の物性が全般的に低下する傾向にある。
【0012】本発明の水溶性光硬化性樹脂組成物には、その他必要に応じて、着色剤、各種添加剤などを配合し、塗料とすることができる。得られる本発明の塗料は、常法に応じて塗布、光硬化することができる。
【0013】
【実施例】次に、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。なお、以下において、「部」及び「%」は、特に断りのない限り、すべて重量基準である。
製造例1(水溶性樹脂の製造)
撹拌機、温度計、冷却管及び空気ガス導入管を装着した反応容器に空気ガスを流入させた後、デナコールEX−421(ナガセ化成工業(株)製、ジグリセロール・ポリグリシジル・エーテルの商品名、エポキシ当量155、分子量556)340部、アクリル酸158部、ハイドロキノン0.5部及びトリエチルアミン2.5部を仕込み90〜110℃で約20時間加熱撹拌し、酸価10のエステル化合物を得た。次いで無水マレイン酸を127部投入し、80℃で約3時間加熱撹拌して反応させた後、トリエチルアミン130部と蒸留水200部を投入し約1時間80℃で加熱撹拌して中和し、固形分65%、pH7の水溶性樹脂を得た。
【0014】製造例2(水溶性樹脂の製造)
撹拌機、温度計、冷却管及び空気ガス導入管を装着した反応容器に空気ガスを流入させた後、エポライト40E(共栄社油脂化学工業社製、エチレングリコールジグリシジルエーテルの商品名、エポキシ当量135、分子量174)340部、アクリル酸181部、ハイドロキノン0.5部及びトリエチルアミン2.5部を仕込み、90〜100℃で約20時間加熱撹拌し、酸価10のエステル化合物を得た。次いで無水マレイン酸を98部投入し、80℃で約3時間加熱撹拌して反応させた後、トリエチルアミン101部と蒸留水92部投入し約1時間80℃で加熱撹拌し、固形分65%、pH=6.5の水溶性樹組成物を得た。
【0015】実施例1及び2表1に示す(イ)〜(ハ)成分を配合して均一に混合することにより、2種類の水溶性光硬化性樹脂組成物を調製した(単位は重量部)。
比較例1及び2表1に示す(イ)〜(ハ)成分を配合して均一に混合することにより、2種類の水溶性光硬化性樹脂組成物を調製した(単位は重量部)。
【0016】
【表1】


※1:新中村化学社製、NKエステルA−400、ポリエチレングリコールジアクリレ−ト※2:メルク社製、ダロキュア11732−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン
【0017】応用例上記実施例及び比較例で得られた光硬化性樹脂組成物を、150mm×120mm×8mm(厚さ)の柾目ナラ材ツキ板合板上にバーコータ40で塗装し、その後、60℃の乾燥機内で20分間乾燥させ、紫外線照射装置(6kW、80W/cm×2灯、UV照射装置;日本電池株式会社製)で80W/cm高圧水銀灯1灯照射距離15cm、コンベヤ速度10m/分で指触硬化するまで照射した。こうして得られた塗膜について、各種の性能試験を行った。結果を表2に示す。
【0018】各種性能の測定及び判定は、下記の方法で行った。
(a)硬化性:指触硬化するまでの照射回数を測定した。
(b)鉛筆硬度:JIS−K5400に準拠した。
(c)耐薬品性:キシレンラビングを100回行い、塗膜の状態を観察した。○は異常のないことを示す。
(d)密着性:クロスカット後、セロハンテープはく離を行い塗膜の状態を観察した。○は異常のないことを示す。
(e)耐寒熱繰り返し性:+60℃で2時間と−20℃で2時間を1サイクルとするサイクルテストを繰り返し、塗膜にクラックが発生したときのサイクル数で評価した。
【0019】
【表2】


【0020】
【発明の効果】本発明の水溶性光硬化性樹脂組成物は、有機溶剤を含有しない塗料として好適であり、廉価で、硬化性、耐溶剤性、付着性及び耐寒熱繰返し性に優れた塗膜を形成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (イ)1分子中にエポキシ基を2個以上有する分子量が300以上の脂肪族系ポリエポキシエーテル化合物とアクリル酸及び/又はメタクリル酸とを反応させて得られるエステル化合物と、無水多価カルボン酸との反応物を中和して得られる水溶性樹脂及び(ロ)光重合開始剤を含有してなる水溶性光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】 (イ)成分のpHが5〜8である請求項1記載の水溶性光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】 (イ)成分中の脂肪族系ポリエポキシエーテル化合物の分子量が300〜1,500である請求項1又は2記載の水溶性光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】 さらに(ハ)水溶性光重合性単量体を含有してなる請求項1、2又は3記載の水溶性光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】 (イ)成分(固形分)30〜100重量%、(ハ)成分0〜70重量%であり、(イ)成分と(ハ)成分の総和に対して(ロ)成分が1〜10重量%である請求項4記載の水溶性光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載の水溶性光硬化性樹脂組成物を含有してなる塗料。

【公開番号】特開平6−16751
【公開日】平成6年(1994)1月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−174242
【出願日】平成4年(1992)7月1日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)