説明

水溶性金属加工油剤

【課題】金属加工に広く適用でき、耐腐敗性能を示す、水溶性金属加工油剤を提供する。
【解決手段】下記化学式(1):


で表される化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削研削加工、塑性加工等の金属加工に広く適用できる水溶性金属加工油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
切削、研削加工分野に広く使用されている切削油剤としては、鉱油をベースとした不水溶性切削油剤と、鉱油、界面活性剤、有機アミン等を含有し、水に希釈して使用する水溶性切削油剤とがある。
【0003】
不水溶性切削油剤は、一般に、切削性能、及び耐腐敗性能において水溶性切削油剤よりも高い性能を有する。しかし、その使用形態から引火の懸念が不可避であり、消防法への対応、使用中の不慮の火災への対応という負担が使用者に発生する。また、加工後ワークの洗浄工程の負荷も水溶性切削油剤に比べ高く、地球環境への影響も無視できない。
【0004】
一方、水溶性切削油剤には、切削性能を向上させるために、従来、極圧剤を添加したり、脂肪酸、鉱物油といった天然由来の油性成分等を添加している。しかしながら、極圧剤は塩素や硫黄を含有するものが多く、ダイオキシンや富栄養化の問題に代表されるように、近年の地球環境への意識への高まり、焼却処理・排水処理の観点から、極圧剤は使用しづらくなってきている。また、天然由来の油性成分は、使用環境中において微生物によって分解・資化されやすく、近年の地球資源の節約やコストダウン意識の高まりから、長期間の使用には耐えづらいという問題がある。
【0005】
さらに、水溶性切削油剤には耐腐敗性能を向上させるために、従来、防腐剤が添加される。しかしながら、例えば、トリアジンに代表されるようなホルムアルデヒド放出型化合物、フェノール系化合物といった防腐剤は、一般に人体への影響が大きく、多量には使用しづらい。また、防腐剤の使用を避ける方法として、1,3−ビスアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミンといった抗菌性アミンを添加する方法が知られている。しかしながら、これら1,3−ビスアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミンといった抗菌性アミンは、水溶性切削研削油剤の耐硬水性を悪くし、また、エマルションタイプの水溶性切削研削油剤においては液の不安定化に寄与し、エマルションブレイクをおこしてしまうという問題がある。
【0006】
このような背景から、従来の水溶性切削油剤に比して、より一層の地球環境に優しい油剤、さらに、できるだけ長期間使用に耐えうる水溶性切削油剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2006/129747号パンフレット
【特許文献2】特開2008−81602号公報
【特許文献3】特開2007−204603号公報
【特許文献4】特開2005−220170号公報
【特許文献5】特開平2−228394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、切削研削加工、塑性加工等の金属加工に広く適用でき、さらに耐腐敗性能を示し、硬水中でも広く使用でき、エマルションタイプの金属加工油剤に配合しても安定に使用可能であり、地球環境や人体に対しても悪影響を及ぼしにくい水溶性金属加工油剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、水溶性の金属加工油剤に化合物(1)を配合することにより、切削研削加工だけでなく、塑性加工等の金属加工に広く適用でき、さらに耐腐敗性能を示し、硬水中でも広く使用でき、エマルションタイプの油剤に配合しても安定に使用可能であり、地球環境や人体に対しても悪影響を及ぼしにくい水溶性金属加工油剤が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成された発明である。すなわち、本発明は、下記項1〜5に記載の水溶性金属加工油剤及び該金属加工油剤を希釈して得られるクーラント(冷却剤)に関する。
【0010】
項1. 下記化学式(1):
【化1】

で表される化合物を含有することを特徴とする水溶性金属加工油剤。
項2. 水溶性金属加工油剤全量を100重量%とした場合の前記化学式(1)で表される化合物の含有量が0.5〜30重量%である項1に記載の水溶性金属加工油剤。
項3. 項1又は2のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤を希釈剤で希釈して得られるクーラント。
項4. クーラント全量を100重量%とした場合の前記化学式(1)で表される化合物の含有量が0.01重量%〜10重量%である項3に記載のクーラント。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水溶性の金属加工油剤に前記化学式(1)で表される化合物を配合することにより、切削研削加工だけでなく、塑性加工等の金属加工に広く適用でき、さらに耐腐敗性能を示し、硬水中でも広く使用でき、エマルションタイプの油剤に配合しても安定に使用可能であり、地球環境や人体に対しても悪影響を及ぼしにくい水溶性金属加工油剤が得られる。該水溶性金属加工油剤を水等の希釈液で薄めたクーラントは、切削研削加工だけでなく、塑性加工等の金属加工に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の水溶性金属加工油剤、該油剤を希釈して得られるクーラント、及び金属加工方法について詳述する。
【0013】
(1)水溶性金属加工油剤
本発明の水溶性金属加工油剤は、下記化学式(1):
【化2】

で表されることを特徴とする。
【0014】
本発明の水溶性金属加工油剤において、前記化学式(1)で表される化合物の含有量は、通常0.5〜30重量%程度、好ましくは1〜25重量%程度、より好ましくは1〜20重量%程度、更に好ましくは1〜15重量%程度、特に好ましくは2〜15重量%程度である。前記化学式(1)で表される化合物の含有量が上記範囲内にあると、本発明の水溶性金属加工油剤は、優れた切削性能及び耐腐敗性を奏するので好ましい。
【0015】
本発明の水溶性金属加工油剤は、さらにアニオン系界面活性剤を含んでいてもよい。アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、珪酸、ホウ酸、スルホン酸等のアミン塩または金属塩等が挙げられる。アニオン系界面活性剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。アニオン系界面活性剤を含む場合、その含有量は通常0.5〜40重量%程度、好ましくは1〜50重量%程度、より好ましくは4〜30重量%程度である。
【0016】
本発明の水溶性金属加工油剤には、必要に応じて、さらに植物油脂、酸化防止剤、極圧添加剤、防錆剤、防食剤、潤滑剤、防腐剤、消泡剤、及び乳化安定剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を加えることができる。
【0017】
植物油脂としては、菜種油、大豆油、亜麻仁油、落花生油、トウモロコシ油、綿実油、ゴマ油、米ヌカ油、オリーブ油、サフラワー油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ヒマシ油等が挙げられる。植物油脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。植物油脂を含む場合、その含有量は通常0.1〜15重量%程度、好ましくは0.5〜10重量%程度、より好ましくは1〜8重量%程度である。
【0018】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリルジチオリン酸亜鉛、有機硫化物等が挙げられる。酸化防止剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。酸化防止剤を含む場合、その含有量は通常0.1〜10重量%程度、好ましくは0.5〜8重量%程度、より好ましくは1〜5重量%程度である。
【0019】
極圧添加剤としては、鉛石鹸、硫化脂肪酸等の硫黄化合物、塩素化パラフィン等の塩素化合物、リン化合物等が挙げられる。極圧添加剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。極圧添加剤を含む場合、その含有量は通常1〜50重量%程度、好ましくは2〜40重量%程度、より好ましくは5〜30重量%程度である。
【0020】
防錆剤としては、有機アミン、炭素数6〜36の脂肪族モノカルボン酸及びジカルボン酸とそのアミド、炭素数6〜36のアルケニルコハク酸とそのアミド、芳香族カルボン酸、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。防錆剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防錆剤を含む場合、その含有量は通常0.01〜60重量%程度、好ましくは0.05〜50重量%程度、より好ましくは0.1〜40重量%程度である。
【0021】
防食剤としては、リン酸エステル、アルキルホスホン酸、メタ珪酸ソーダ等が挙げられる。防食剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防食剤を含む場合、その含有量は通常0.01〜20重量%程度、好ましくは0.05〜15重量%程度、より好ましくは0.1〜10重量%程度である。
【0022】
潤滑剤としては、鉱油等の天然油脂類及びその誘導体、ポリオキシアルキレンオキサイド、炭素数6以上の脂肪族モノカルボン酸及びジカルボン酸等が挙げられる。潤滑剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。潤滑剤を含む場合、その含有量は通常1〜80重量%程度、好ましくは2〜70重量%程度、より好ましくは4〜60重量%程度である。
【0023】
防腐剤としては、トリアジン系化合物、チアゾリン系化合物、フェノール系化合物等が挙げられる。防腐剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。防腐剤を含む場合、その含有量は通常0.001〜10重量%程度、好ましくは0.01〜7重量%程度、より好ましくは0.1〜5重量%程度である。
【0024】
消泡剤としては、分子量100〜1,000のポリオルガノシロキサン等が挙げられる。消泡剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。消泡剤を含む場合、その含有量は通常0.001〜10重量%程度、好ましくは0.01〜7重量%程度、より好ましくは0.1〜5重量%程度である。
【0025】
乳化安定剤としては、アルキルスルホン酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、炭素数6〜36の脂肪族モノカルボン酸のアミン塩等が挙げられる。乳化安定剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。乳化安定剤を含む場合、その含有量は通常0.5〜20重量%程度、好ましくは1〜15重量%程度、より好ましくは2〜10重量%程度である。
【0026】
また、本発明の水溶性金属加工油剤において、水の含有量は、上記配合の残量である。水は、工業用水、水道水、精製水、純水、イオン交換水等が使用できる。
【0027】
本発明の水溶性金属加工油剤は水溶性状であり、そのまま金属加工に使用できる。また、本発明の水溶性金属加工油剤を原液とし、さらに水等の希釈剤で希釈して得られるクーラント(冷却剤)を金属加工に使用することもできる。
【0028】
本発明の水溶性金属加工油剤を希釈剤で希釈して使用する場合、希釈倍率は、水溶性金属加工油剤の濃度及び金属加工時に求められる性能に応じて適宜調整すればよい。希釈して使用する場合は、通常1.5〜100倍程度に希釈して使用する。希釈倍率は被削材や加工条件等にも影響されるが、通常は1.5〜100倍程度の範囲で加工特性が最も優れるように適宜設定すればよい。
【0029】
(2)クーラント及びその調製方法
前記の通り、本発明の水溶性金属加工油剤を原液とし、さらに水等の希釈剤で希釈して本発明のクーラント(冷却剤)を調製することができる。本発明のクーラントの希釈倍率は、原液とする水溶性金属加工油剤の濃度及び金属加工時に求められる性能等に応じて適宜調整すればよく、通常1.5〜100倍に希釈してクーラントとする。
【0030】
本発明のクーラントは、前記化学式(1)で表される化合物の含有量が、0.01重量%〜10重量%であることを特徴とする。この要件を満たせば、本発明のクーラントの調整方法は、前記の方法に限定されない。本発明のクーラントに含まれる前記化学式(1)で表される化合物の含有量は、通常0.01〜10重量%程度、好ましくは0.01〜7重量%程度、より好ましくは0.01〜5重量%程度、特に好ましくは0.05〜5重量%程度である。前記一般式(1)で表される化合物の含有量が上記範囲であると、耐腐敗性能向上効果が優れるとともに、経済的であることから好ましい。
【0031】
前記希釈剤の種類については特に限定はない。希釈剤としては、通常は水が用いられる。また、本発明の水溶性金属加工油剤を希釈することにより本発明のクーラントを得る場合、その希釈倍率についても特に限定はない。希釈倍率は、通常1.5〜100倍程度、好ましくは2〜70倍程度、更に好ましくは5〜50倍程度、より好ましくは10〜50倍程度である。
【0032】
(3)金属加工方法
本発明の水溶性金属加工油剤、及びこれを希釈した本発明のクーラントは、切削研削加工だけでなく、塑性加工等の金属加工に広く適用できる。
【0033】
加工対象とする金属の種類は、切削研削加工、塑性加工等の金属加工の対象となる金属であれば、特に限定されない。例えば、鉄、炭素鋼、ステンレス鋼等の鋼及び鉄合金や、その他、インコネル、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、超硬合金をはじめとした焼結合金等の非鉄金属及びその合金、又はこれらの複合材も加工対象とすることができる。
【0034】
また、加工温度は、加工方法や金属の種類等によって異なるが、通常0〜40℃程度である。また、本発明の水溶性金属加工油剤、及びこれを希釈した本発明のクーラントの使用量については、加工方法や金属の種類等によって異なり、適宜設定すればよい。さらに、金属加工に使用された前記水溶性金属加工油剤、及び前記クーラントは、回収し、繰り返し長期間に渡って使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されることは意図しない。実施例及び比較例に用いた化合物を表1に示す。
【0036】
【表1】

【化3】

【化4】

【化5】

【0037】
化合物Cの合成
100mlナスフラスコに1,4−ジブロモブタン(5.18g,24mmol)、イソホロンジアミン(1.70g,10mmol)、炭酸カリウム(3.31g,24mmol)、テトラヒドロフラン(50g)を入れた。オイルバスを用いて反応温度を50℃にし、24時間攪拌した。反応終了後、反応溶液のろ過を行った。ろ液に水を入れ、酢酸エチルを用いて3回抽出を行った。有機層を減圧下蒸留することにより、化合物Cが2.22g(収率80%)得られた。
【0038】
実施例及び比較例における本性能試験の試験項目及び評価方法は以下の通りである。抗菌力評価に用いた供試験株を表2に、抗菌力評価結果を表3に、切削性能評価に用いた試料原液の組成と評価結果を表4に、耐硬水性評価に用いた試料原液の組成と評価結果を表5に示す。
【0039】
1.抗菌力評価
[評価方法]
液体培地に表1に示す化合物を添加したものを数倍希釈し、ここに表2に示す供試菌株を摂取した。これらを下記の条件で培養したものについての菌の生育を観察し、最小発育阻止濃度を求めた。
培養条件
細菌:ハートインヒュージョン液体培地 30℃ 3日間培養
かび・酵母:麦芽エキス液体培地 25℃ 5日間培養
【0040】
2.切削性能評価
[評価方法]
縦型マシニングセンタを用いて、アルミ鋳物(AC4C)に対し3.60mmの下穴をあけ、M4の転造タップ(OSG製ニューロールタップ「B−NRT」)による切削試験を行った。切削条件は、切削速度5m/分、送り速度0.7mm/回転、穴深さ7.0mm(非貫通穴)、穴数最大15穴/1試料とした。また、金属加工油剤として、表4に示す配合比率で各成分を配合した油剤(原液)を、水道水を用いて20倍に希釈したものを用いた。評価項目として、工具折損の有無、及び切削トルクにより判定した。評価基準として、15穴以内に工具折損、または切削トルクの異常上昇がなければ合格、発生すれば不合格とした。

【0041】
3.耐硬水性評価
[評価方法]
表5に示す配合比率で各成分を配合した油剤(原液)をそれぞれイオン交換水、硫酸マグネシウム水溶液(マグネシウムとして100ppm)、塩化カルシウム水溶液(カルシウムとして50ppm)で20倍に希釈し、室温で一日静置後の液の状態を目視で観察した。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
以上の結果から、化合物Cを含む実施例の水溶性金属加工油剤は、切削性能、耐腐敗性能及び耐硬水性ともに優れているのに対して、耐腐敗を目的として使用される1、3−ビスアミノシクロヘキサンやイソホロンジアミン及びその誘導体である化合物D、化合物Eを使用した比較例は、これらのいずれかの点において劣ることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1) :
【化1】

で表される化合物を含有することを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項2】
水溶性金属加工油剤全量を100重量%とした場合の前記化学式(1)で表される化合物の含有量が0.5〜30重量%である請求項1に記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の水溶性金属加工油剤を希釈して得られるクーラント。
【請求項4】
クーラント全量を100重量%とした場合の前記化学式(1)で表される化合物の含有量が0.01重量%〜10重量%である請求項3に記載のクーラント。

【公開番号】特開2012−172126(P2012−172126A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38131(P2011−38131)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】