説明

水理構造物補修用パネルの接合構造

【課題】水路等の治水構造物や河川等のコンクリート水理構造物等に設置されるプレキャストコンクリートパネルの設置工法において、パネルの施工速度・施工精度及び止水性等の向上を図ることができるパネルの接合構造を提供する。
【解決手段】壁面や底面に貼設されるプレキャストコンクリートパネル10の端面同士が止水材11を介してまたは止水材を介さずに接合されている接合構造において、略L字状の突出部12a等により、パネル端面に形成された凹凸断面の係合部12同士を係合させることにより係合部12同士が重なり合うラップ構造で、かつ、係合部12の凹凸面の断面形状によりパネル厚さ方向の回転を許容するヒンジ構造とし、パネルの設置作業を容易とし、パネル接合方向のずれ・壁面等の凹凸や曲線部などの不陸によるパネル厚さ方向のずれを吸収でき、長い止水材による止水性の向上等を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用水路等の治水構造物(開水路や導水路トンネル等)や河川等のコンクリート構造物等の水理構造物の表面に設置されるプレキャストコンクリートパネルの接合構造に関するものであり、特に構造体の劣化に起因する強度・耐久性の低下、水漏れ、断面減少、表面粗度の増加(流量の減少)等を解決する補修・補強工法に有効に適用される。
【背景技術】
【0002】
従来の既設コンクリート構造物の補修・補強においては、積みブロック等で施工されている場合があるが(例えば特許文献1)、長年の土圧によるブロックのはらみ、崩壊・漏水箇所があり、補強や補修をする必要があった。多くの場合、劣化したコンクリート構造物を部分的に打ち換えしたり、U字型のプレキャストコンクリート形成品を設置したり、側壁にコンクリートブロックを配設して水路を形成することが一般的であった。
【0003】
しかし、近年では、プレキャストコンクリートパネルによって被覆する場合が増えている(例えば特許文献2、3)。また、パネルを配設し、躯体とパネルの間に裏込め材を注入して躯体とパネルを一体化させる工法(パネル設置工法)が採られる場合がある(例えば特許文献4、5)。
【0004】
図10は、従来の既設コンクリート構造物(水路壁等)の補修・補強構造の実施例の概要を示す図である。図10(a)に示すように、水路壁等の既設コンクリート構造物1の表面にプレキャストコンクリートパネル50が配置され、固定用アンカーボルト51で固定される。パネルの接合方法としては、図10(b)に示すような突合せ接合が用いられている。パネル間の隙間には、漏水防止のため、止水材52を設置するのが一般的である。また、突合せ部に設けた凹部内に連結金具を配置し、この連結金具をアンカーボルトで水路壁に固定し、水平方向の固定ボルトでパネルに固定する方法もある(特許文献2参照)。
【0005】
また、パネル同士の接合に関しては、特許文献6の第2図に、接合する一対のパネル端面にそれぞれ設けた凹部と凸部を嵌め合わせて接合することが記載されている。特許文献7の図3には、パネル端部に設けた略横L字状の係合部を上下に重ね合わせて接合し、表面側の隙間にはシール材を介在させることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−170318号公報
【特許文献2】特開2002−21056号公報
【特許文献3】特開2006−83571号公報
【特許文献4】特開平5−44208号公報
【特許文献5】特開2000−230226号公報
【特許文献6】特公昭51−29338号公報
【特許文献7】特開平5−9917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既設水路をパネル設置工法で補修・補強する場合、水路表面は流水や砂礫による磨耗・劣化が激しく、所定の流量確保が困難となっていることに加え、水路表面の不陸(凹凸)がプレキャストコンクリートパネルの施工精度と施工速度を著しく低下させることが懸念される。重要水路構造物にパネル設置工法を採用する場合の主な理由の一つに、断水期間を短縮できるような「急速施工」が挙げられ、パネル工法の場合、パネルの設置枚数も多くなることが想定されることから、急速施工を達成するためには、パネルを精度良く設置することが求められる。特に水路補修の場合、パネル突合せ部の凹凸が水流の抵抗となり、効率的な水の輸送が妨げられる可能性がある。
【0008】
また、従来のパネル設置工法では、隣同士のパネルを突き合わせる形状のものや、突合せ部に連結金具をアンカーボルトや固定ボルトで固定するものがあるが、ずれを許容する幅が小さく、また専用の治具が必要になる。
【0009】
さらに、突合せ接合では、パネル間に止水材を設置するのが一般的であるが、止水材表面は経年劣化しやすく、劣化後の接合部は滑面が失われること、止水性が低下すること(パネル背面に裏込め材が無い場合)、パネルの変形(温度変形等)や外力を吸収できないことが考えられる。
【0010】
本発明は、水路等の治水構造物や河川等のコンクリート構造物等の水理構造物の表面に設置される水理構造物補修用プレキャストコンクリートパネルの設置工法において、パネルの施工速度・施工精度及び止水性等の向上を図ることができる水理構造物補修用パネルの接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る発明は、水理構造物の表面に貼設されるプレキャストコンクリートパネルの端面同士が止水材を介してまたは止水材を介さずに接合されている水理構造物補修用パネルの接合構造であって、パネル端面に形成された凹凸断面の係合部同士を係合させることにより係合部同士が重なり合うラップ構造、もしくは、前記係合部の凹凸面の断面形状によりパネル厚さ方向の回転を許容するヒンジ構造であること、またはラップ構造とヒンジ構造を併用する構造であることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造である。
【0012】
本発明は、農業用水路等の治水構造物や河川等のコンクリート構造物等の水理構造物の表面に貼設されるプレキャストコンクリートパネルの接合部(継手部)に適用されるものであり、図1〜図3に例示するように、パネル接合部にパネル厚さ方向に重なり合うラップ構造やパネル厚さ方向に回転できるヒンジ構造を設けることにより、施工速度が速く、かつ、施工精度の高いパネル設置工法を可能とし、またパネル接合部の止水性等を向上させ、さらにパネル接合部の段差の解消等を図るものである。
【0013】
即ち、パネル接合部にラップ構造やヒンジ構造を設けることにより、(1)パネルの設置作業(位置決め・不陸調整)が容易となり、急速施工が可能となる。(2) パネル接合方向のずれを吸収でき、また壁面等の凹凸や曲線部などの不陸によるパネル厚さ方向のずれを吸収することができ、施工精度の向上を図ることができる。(3) 従来の突合せ接合に比べ止水材を多く確保することができ、いわゆる「みずみち」の長さが長いことにより止水性の向上を図ることができる。また、従来の突合せ接合ではパネル間に止水ゴム等を設置しても、外力(コンクリートの温度変化による膨張・収縮、土圧・水圧)や経年変化により止水性は低下してしまうが、本発明では内部の止水ゴム等は暴露されずに経年劣化を受けにくく、止水性の低下を防止できる。また、「遊び」があるために外力を吸収することができる。さらに、パネル背面に裏込め材を注入し、パネルとコンクリート構造物を一体化させる場合には、裏込め材注入施工時におけるパネル接合部からの裏込め材の漏れを防ぐことができる。(4) 壁面等の凹凸や曲線部などに対してパネル接合部の段差の発生を無くすことができ、凹凸の無いパネル表面により流れの抵抗を小さくすることができる。
【0014】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の接合構造において、係合部の凹凸面の断面形状がパネル端部の片側の表面に切り欠きを設けることにより略横L字状とされていることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造である。
【0015】
図1に例示する接合構造であり、L字状係合部がパネル設置時のガイドの役目を果たし、施工速度が向上する。また、施工誤差の吸収が可能であると共に、接合方向にずれた場合の許容量が大きい。さらに、L字状係合部にアンカーボルト孔を設けることができ、アンカーボルトにより、ラップした係合部同士を連結しつつ水理構造物の表面に固定することができ、かつ、アンカー数を減らすことができる。
【0016】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1に記載の接合構造において、係合部の凹凸面の断面形状が円弧により略S字状とされていることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造である。
【0017】
図2に例示する接合構造であり、図1の形状に比べ接合方向のずれ許容量が小さいものの、壁面等の不陸によるずれ許容量が大きい。また、曲線部へのパネル設置にも容易に対応できる。
【0018】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1に記載の接合構造において、係合部の凹凸面の断面形状が円弧により略C字状とされていることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造である。
【0019】
図3に例示する接合構造であり、この場合も、図1の形状に比べ接合方向のずれ許容量が小さいものの、壁面等の不陸によるずれ許容量が大きい。曲線部へのパネル設置にも容易に対応できる。
【0020】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載の接合構造において、L:ラップ長、d:パネル厚、φ:パネルの回転角、x:回転角φにより開く側の係合部間の隙間、とした場合、
x=2×(L+d1/2×sin(φ/2) の関係式を用いてパネル接合部の形状を決定することを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造である(図6参照)。
【0021】
凹凸のあるパネル設置面や曲線部のパネル設置面にパネルを設置する場合、図6に示すようにパネルの設置角度である回転角φが大きいほど、パネル設置後の表面は大きく波打ち、表面全体の粗度係数が大きくなってしまい、流れの抵抗になってしまう。また、パネル背面の隙間xは大きくなり、止水性の低下や裏込め材の漏れ止め性能の低下の懸念がある。そこで、上記関係式を用いることにより、段差を生じさせず、かつ、パネル背面の止水性・裏込め材の漏れ止め性能を保持させることができるようなパネル接合部の形状を決定することができる。
【0022】
本発明の請求項6に係る発明は、水理構造物の表面に貼設されるプレキャストコンクリートパネルの端面同士が止水材を介してまたは止水材を介さずに接合されている水理構造物補修用パネルの接合構造であって、パネル端面に形成された凹凸断面の係合部同士を係合させることにより係合部同士が重なり合うラップ構造であり、かつ、パネル端部の平面視形状が櫛歯状の凹凸により係合部同士が噛合する噛合構造であることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造である。
【0023】
図7に例示するように、パネル端部の断面形状をラップ構造とした上で、平面視形状は対向する櫛歯状の凹凸が互いに噛合する噛合構造とした場合である。ラップ構造と噛合構造により、より高い施工精度と施工速度が得られる。また、図8に示すように、パネルを格子状配置とすれば、縦方向と横方向に固定され、先に設置したパネルを定規代わりとして精度良くかつ速やかにパネル設置を行うことができる。パネルを並列配置とすれば、縦方向と横方向のどちらかの方向を自由とすることにより、設置誤差を吸収することもできる。
【0024】
本発明の請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1つに記載の接合構造において、プレキャストコンクリートパネルは、セメント系マトリクスに鋼繊維が混入された超高強度繊維補強コンクリートで製作され、板厚が10mm〜30mmの薄板であることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造である。
【0025】
水路等の補修ではパネルは断面ロスの低減や軽量化などの点から薄肉の方がよいため、またパネルにラップ構造を設けた場合、接合部のパネル厚が本体部に比べて薄肉になってしまうため、引張強度の高い繊維(鋼繊維や有機繊維など)補強コンクリートを用いるのが望ましく、鋼繊維が混入された超高強度繊維補強コンクリートがより望ましい。超高強度繊維補強コンクリートでパネルを製作することにより、パネルそのものを薄肉にすることができ、補修・補強による断面ロスを減らすことができ、パネル表面の粗度係数も通常のコンクリートよりも小さいため、必要な水の流量を確保することができる。
【0026】
また、型枠により任意の形状のラップ構造、ヒンジ構造、噛合構造を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0028】
(1)パネル接合部にラップ構造やヒンジ構造を用いるため、パネルの設置作業(位置決め・不陸調整)が容易となり、急速施工が可能となる。特に、通水停止期間(施工期間)が限られる重要構造物の補修・補強に関しては大きなメリットとなる。
【0029】
(2) パネル接合方向のずれを吸収でき、また壁面等の凹凸や曲線部などの不陸によるパネル厚さ方向のずれを吸収することができ、施工精度の向上を図ることができる。
【0030】
(3) 従来の突合せ接合に比べ止水材を多く確保することができ、いわゆる「みずみち」の長さが長いことにより止水性の向上を図ることができる。また、内部の止水ゴム等は暴露されずに経年劣化を受けにくく、止水性の低下を防止できる。また、「遊び」があるために外力を吸収することができる。さらに、裏込め材注入施工時におけるパネル接合部からの裏込め材の漏れを防ぐことができる。
【0031】
(4) 壁面等の凹凸や曲線部などに対してパネル接合部の段差の発生を無くすことができ、凹凸の無いパネル表面により流れの抵抗を小さくすることができる。
【0032】
(5)パネル接合部の形状を、ラップ長L、パネル厚d、パネルの回転角φ、隙間xを用いた関係式を満たすように決定することにより、段差を生じさせず、かつ、パネル背面の止水性・裏込め材の漏れ止め性能を保持させることができる。
【0033】
(6)パネル接合部にラップ構造と噛合構造を用いることにより、より高い施工精度と施工速度が得られる。
【0034】
(7) 超高強度繊維補強コンクリートでパネルを製作することにより、パネルそのものを薄肉にすることができ、補修・補強による断面ロスを減らすことができ、パネル表面の粗度係数も通常のコンクリートよりも小さいため、必要な水の流量を確保することができる。
【0035】
(8)水路等の既設構造物を破壊することなく簡易に迅速に補修・補強することができるので、既設構造物を撤去できない場合(例えば背面に水圧・土圧が作用している場合)でも安全に施工することができる。また、コンクリートガラ等の産業廃棄物が発生せず、環境負荷も低減でき、コストも経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明する。この実施形態は、既設コンクリート構造物(水路の壁面や底面など)の補修・補強構造のパネル工法に適用した例である。既設コンクリート構造物の表面は、劣化の有無、ウォータージェットはつりの有無等を問わず、またブロック積み壁等であってもよい。パネル設置面にある程度の凹凸があってもよい。プレキャストコンクリートパネルは、鋼繊維や有機繊維などを用いた繊維補強コンクリート・高強度コンクリート等、適宜素材を選定して使用することとする。プレキャストコンクリートパネルはアンカーボルトにて固定する。固定用孔は、パネル製造時に型枠に細工して形成してもよいし、製作後のパネルに削孔してもよい。また、パネルを一枚ずつ貼設する方法に限らず、既設コンクリート構造物の寸法が大きい場合や急速施工を求められる場合にはパネルを連結したものを貼設するようにしてもよい。
【0037】
従来用いられてきたパネル接合方法として突合せ接合があるが、ずれを許容する幅が小さい等の課題がある。また、突合せ接合ではパネル間に止水材を設置するのが一般的であるが、止水材表面は経年劣化しやすく、劣化後の接合部は滑面が失われること、止水性が低下すること(パネル背面に裏込め材が無い場合)、パネルの変形(温度変形等)や外力を吸収できないことが考えられる。
【0038】
係る課題を解決するため、本発明では図1〜図3に示すような接合構造を用いる。図1〜図3の実施形態は、ラップ構造とヒンジ構造を単独または併せ持つ接合構造の場合であり、水路壁等のコンクリート構造物1の表面に貼設されるプレキャストコンクリートパネル(以下、単にパネルと記載)10の端面同士が止水材11を介して接合されており、本発明では、パネル端面に形成された凹凸断面の係合部12同士を係合させることにより係合部12同士がパネル厚さ方向(図では上下方向)に重なり合うラップ構造とし、かつ、係合部12の凹凸面の断面形状によりパネル厚さ方向(コンクリート構造物の表面から離れ、表面に接近する方向)の回転を許容するヒンジ構造とする。なお、止水材11を介さず直接接合する場合もある。
【0039】
図1の実施形態は、最もスタンダードな構造であり、係合部12の凹凸面の断面形状をパネル端部の片側の表面に断面長方形状の切り欠きを設けることにより略横L字状としている。断面長方形状の突出部12aを上下逆にして重ね合わせることにより、ラップ構造・ヒンジ構造が得られる。突出部12aの先端の内側角部には、円弧または直線による面取り13を施し、基端の隅部には、円弧または直線によるハンチ14を設け、より大きな回転角が得られるようにするのが好ましい。止水材11はパネル表面側の隙間と内部の隙間に介在させる。
【0040】
断面L字状の係合部12がパネル設置時にガイドの役目を果たし、施工速度が向上する。また、施工誤差の吸収が可能であり、特にラップ長が長いため、水平方向(接合方向)にずれた場合の許容量が大きい。さらに、後述する図9に示すように、断面L字状の係合部12にアンカーボルト孔を設けることができ、アンカーボルトにより、ラップした係合部12同士を連結しつつ既設コンクリート構造物1の壁面や底面に固定することができる。また、アンカー数を減らすことができる。
【0041】
図2の実施形態では、係合部12の凹凸面の断面形状を凸状円弧12bと凹状円弧12cにより略S字状としている。図1の形状に比べ、ラップ長を短くし、円弧のみで構成している。図1の形状に比べ、水平方向のずれ許容量は小さいものの、表面の不陸によるパネル厚さ方向のずれ許容量が大きい。水路等の曲線部へのパネル設置にも容易に対応できる。
【0042】
図3の実施形態では、係合部12の凹凸面の断面形状を対向する円弧凸面12dと円弧凹面12eにより略C字状としている。この場合も、図1の形状に比べ、水平方向のずれ許容量は小さいものの、表面の不陸によるパネル厚さ方向のずれ許容量が大きい。水路等の曲線部へのパネル設置にも容易に対応できる。
【0043】
本発明の図1〜図3の形状は、その係合部の断面形状によりいずれも従来の突合せ接合に比べ止水材11を接合部に多く(長く)配置することができ、「みずみち」の長さが長くなることにより止水性が高い。内部の止水材11は暴露されずに経年劣化を受けにくく、止水性の低下を防止できる。また、「遊び」があるために外力を吸収することができる。また、図4に示すように、パネル10の背面に裏込め材20を注入し、パネル10とコンクリート構造物1を一体化させる場合は、裏込め材注入施工時におけるパネル接合部からの裏込め材の漏れを防ぐ点でも効果的である。
【0044】
既設のコンクリート構造物1の表面にパネル10を貼設する場合、大部分の補修対象面(パネル設置面)には劣化や変形によって凹凸が生じていると考えられる。また、コンクリート構造物は、直線部だけではなく、曲線である場合も考えられる。そこで、これらの凹凸・曲線部にパネルを設置する際に、段差を生じさせず、かつ、パネル背面の止水性・裏込め材の漏れ止め性能を保持させるようなパネル接合部の形状を図6に示す概念で決定することとした。
【0045】
既設コンクリート構造物表面の不陸を吸収させる場合、図6に示すようにパネル10をある角度φで回転させて設置することになる。その際、回転角φが大きいほど、パネル設置後の表面は大きく波打ち、コンクリート構造物全体の粗度係数が大きくなってしまい、流れの抵抗になってしまう。また、パネル背面の隙間xは大きくなり、止水性の低下や裏込め材の漏れ止め性能の低下の懸念がある。そこで、施工性・コンクリート構造物の要求性能を満足させるようなパネル接合部の形状を下記の式で決定することとした。
【0046】
図6(c)に示す幾何学関係から、ラップ長L、パネル厚d、パネルの回転角φ、回転角φにより開く側(パネル背面側)の係合部間の隙間xは以下の関係式で示すことができる。
x=2×(L+d1/2×sin(φ/2)
【0047】
例えば、止水性・裏込め材の漏れ止め性能から隙間xを6mm、流量確保の観点(パネル設置後の表面粗度が影響する)から回転角φを10°、構造性能・耐久性からパネル厚dを30mmと設定する。このとき、算出されるラップ長Lは上記の式により17mmとなる。つまりL/d=0.56となる。
【0048】
次に、図5はスタンダードなラップ構造の概要図(L字状)を示しているが、より高い設置精度・施工速度が求められる場合には、図7、図8に示すような平面視形状において噛合構造にすることが効果的である。図7に示すように、パネル端部の平面視形状を櫛歯状の凹凸15とし、一対の櫛歯状の凹凸15同士を噛合させる。また、櫛歯状の凹凸15の端面には、図1〜図3の係合部12によるラップ構造が設けられる。
【0049】
また、パネル10の配置には、図8に示すように、格子状配置と並列配置が考えられる。格子状配置にすることにより縦方向と横方向に固定され、先に設置したパネル10を定規代わりとして精度良くかつ速やかにパネル設置を行うことができる。また、並列配置にすることにより縦方向または横方向のどちらかの方向を自由にすることができ、設置誤差を吸収することも可能である。櫛歯状の凹凸15の凸部15a・凹部15bの平面形状は図示例の台形に限らず、矩形や円形などにすることもできる。また、その数も任意に設定することができる。
【0050】
パネル10は、特殊なセメント系マトリクスに特殊な鋼繊維が混入された、例えば圧縮強度の特性値が150N/mm以上、ひび割れ発生強度の特性値が4N/mm2以上、引張強度の特性値が5N/mm2以上の超高強度繊維補強コンクリート、その他の超高強度繊維補強コンクリートで製作するのが望ましい。これにより、板厚が10mm〜30mmの薄板パネルを製作することができ、水路等の補修・補強による断面ロスを低減することができ、必要な水の流量を確保することができる。
【0051】
また、超高強度繊維補強コンクリートの粗度係数は、一般のコンクリートが0.010〜0.020に対して、0.0008〜0.013の実験データが得られており、鋼の表面と同等以上に表面摩擦が少ない材料であるため、流水抵抗を低減でき、さらにラップ構造等により段差が解消されるため、必要な水の流量を確保することができる。
【0052】
次に、パネル10の固定には、図9に示すように、定着用のアンカーボルト孔16または連結・定着用のアンカーボルト孔17を用い、アンカーボルトにより既設コンクリート構造物1に固定する。アンカーボルト孔16はパネル本体の周縁部に設け、アンカーボルト17を係合部12に設け、ラップした係合部12同士を連結しつつ既設コンクリート構造物1に固定する。
【0053】
アンカーボルト孔16、17の形状は、図9(a)に示すように円形でもよいが、パネルの位置決め時の調整を容易にするために、図9(b)、(c)に示すように、長円形や楕円形にすることが望ましい。なお、図9の(b)と(c)を組み合わせれば、任意の方向に調整することが可能である。また、アンカーボルト孔はパネル製造時に型枠に細工をして予め形成しておくこともできるし、現地で仮位置合わせし、仮固定した後に直接削孔して設置することも可能である。パネルは薄肉であるため、削孔が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のパネルの接合構造の第1実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明のパネルの接合構造の第2実施形態の一例を示す断面図である。
【図3】本発明のパネルの接合構造の第3実施形態の一例を示す断面図である。
【図4】本発明のパネルの接合構造の裏込め材がある場合の一例を示す断面図である。
【図5】本発明のパネルの接合構造の第1実施形態の一例を示す平面図と断面図である。
【図6】本発明のパネルの接合構造の形状と寸法を示す図である。
【図7】本発明のパネルの接合構造の第4実施形態の一例を示す平面図と断面図である。
【図8】本発明のパネルの接合構造の第4実施形態のパネル配置の例を示す平面図である。
【図9】本発明のパネルの固定用孔を示す斜視図である。
【図10】従来のパネル設置工法と突合わせ接合を示す斜視図と断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1…コンクリート構造物
10…プレキャストコンクリートパネル
11…止水材
12…係合部
12a…突出部
12b…凸状円弧
12c…凹状円弧
12d…円弧凸面
12e…円弧凹面
13…面取り
14…ハンチ
15…櫛歯状の凹凸
15a…凸部
15b…凹部
16…アンカーボルト孔
17…アンカーボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水理構造物の表面に貼設されるプレキャストコンクリートパネルの端面同士が止水材を介してまたは止水材を介さずに接合されている水理構造物補修用パネルの接合構造であって、パネル端面に形成された凹凸断面の係合部同士を係合させることにより係合部同士が重なり合うラップ構造、もしくは、前記係合部の凹凸面の断面形状によりパネル厚さ方向の回転を許容するヒンジ構造であること、またはラップ構造とヒンジ構造を併用する構造であることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の接合構造において、係合部の凹凸面の断面形状がパネル端部の片側の表面に切り欠きを設けることにより略横L字状とされていることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造。
【請求項3】
請求項1に記載の接合構造において、係合部の凹凸面の断面形状が円弧により略S字状とされていることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造。
【請求項4】
請求項1に記載の接合構造において、係合部の凹凸面の断面形状が円弧により略C字状とされていることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載の接合構造において、
x=2×(L+d1/2×sin(φ/2)
L:ラップ長
d:パネル厚
φ:パネルの回転角
x:回転角φにより開く側の係合部間の隙間
の関係式を用いてパネル接合部の形状を決定することを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造。
【請求項6】
水理構造物の表面に貼設されるプレキャストコンクリートパネルの端面同士が止水材を介してまたは止水材を介さずに接合されている水理構造物補修用パネルの接合構造であって、パネル端面に形成された凹凸断面の係合部同士を係合させることにより係合部同士が重なり合うラップ構造であり、かつ、パネル端部の平面視形状が櫛歯状の凹凸により係合部同士が噛合する噛合構造であることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1つに記載の接合構造において、プレキャストコンクリートパネルは、セメント系マトリックスに鋼繊維が混入された超高強度繊維補強コンクリートで製作され、板厚が10mm〜30mmの薄板であることを特徴とする水理構造物補修用パネルの接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−221737(P2009−221737A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67094(P2008−67094)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)