説明

水硬性バインダー

本発明は、水が添加されるとき自由に流動する特性か又は硬化特性を有するバインダー成分と、硬化を促進するために使用される促進剤とを含有する水硬性バインダー関する。促進剤は、大きな比表面積と小さい粒径の超微細な水酸化カルシウムを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
いつでも使える本発明は、水の添加に続いて流動して硬化することができるバインダー成分と、硬化プロセスを促進するために作用する促進剤とを含有する水硬性バインダー、並びにそのようなバインダーを使って製造されるコンクリートビル部材、そのようなコンクリートビル部材の製造方法およびモルタル又はコンクリートを製造するためのそのようなバインダーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
長い間、コンクリートを製造するための水硬性バインダーを速やかに硬化することの必要性が叫ばれてきた。いままで、この要求は特別の早強セメントまたは添加剤と混合されたセメントをベースとする早強セメントのいずれかによって満たされてきた。これらの製品の多くは、今日、例えば、プラスター、モルタルもしくはスクリードシステムのような補修の分野、土木工事または室内工事の分野において使用されている。
【0003】
特別の早強セメントは、改良ポルトランドセメントをベースとして製造されたセメントに分類することができる。特別の早強セメントのクリンカーは明らかにポルトランドセメントとは異なっている。
【0004】
早強分野において、改良ポルトランドセメントはこの目的のために特別に焼成されたポルトランドセメントクリンカーから製造することができる。
【0005】
通常のポルトランドセメントクリンカーに比べて、これらのクリンカーは高いライム標準、一般には100を超える数値、および高いケイ酸塩率(silicate moduli) 、一般には3を超える数値によって識別することができる。その結果、セメントの早期の強度発現に本質的に寄与するケイ酸三カルシウム(C3S)の含有量が通常のポルトランドセメントに比べて著しく増加する。これらのクリンカーから製造されるセメントは、通常のポルトランドセメントの強度より20%大きい早期強度を達成することができる。
【0006】
改良ポルトランドセメントのグループは、硬化調整剤として硫酸塩キャリヤー(一般に、硫酸カルシウム)を含まないか、硫酸塩キャリヤーをほんの僅かしか含まないセメントを含有している。もし、必要ならば、C3A含有量はそれぞれのクリンカーとともに増加される。これらのセメントは、コンクリートまたはモルタルの急速硬化を起こさせるので、ガナイト(gunite)の分野において主に使用されている。しばしば、硫酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウムのような非アルカリ性促進剤、もしくは水酸化アルカリをベースとするアルカリ含有促進剤、アルカリ溶液ガラス、または他のアルカリ塩が生強度を増加するために添加される。これらのセメントは、本質的に硬化プロセスのみを促進し、強度の発現には寄与しないので、条件付きで早強セメントのグループに割り当てられるべきである。
【0007】
硬化プロセスを促進するために使用される特別のセメントは、それらのベースを形成するクリンカーが異なる組成であるという理由によって、ポルトランドセメントとは異なっている。それらのセメントのグループの代表的なものは、アルミナセメント、硫酸アルミニウムセメント、および成分調整された硬化セメントである。
【0008】
アルミナセメントまたは高アルミナセメントは、しばしば、アルミン酸カルシウムセメントとも呼ばれる。湿分を左右するクリンカー相は、第一アルミン酸カルシウム(CA)、二アルミン酸カルシウム(CA2)およびマイエナイト(mayenite,C127)である。また、存在するシリカベースのクリンカー相(C2SおよびC2AS)は、強度に僅かに寄与する程度である。アルミナセメントは、低温でさえも、最短時間で極めて高い圧縮強度に達する。24時間後に60N/mm2に達する圧縮強度は、これらのセメントで確実に達成することができる。形成される2つの水和物CAH10とC2AH8は、この早期の高強度達成に寄与をする。時がたつにつれて、これらの水和物は、湿分と23℃超の温度の作用によって熱的に安定なC3AH6に変態する。その変態には、空孔の増加と水の解離が伴われ、強度が大きく低下する原因となる。このような知見が背景となって、アルミナセメントは、EN206−1:2001−07またはDIN1045−2:2001−07に適応するビルディングには使用されない。
【0009】
アルミナセメントの適用分野としては、特に、耐火材料、油井セメントおよび建築化学の分野がある。
【0010】
スルホアルミン酸カルシウムセメントまたは硫酸アルミン酸カルシウムセメントは、主なクリンカー相として、硫酸アルミン酸カルシウムC43S、第二ケイ酸カルシウム(C2S)およびアルミン鉄酸カルシウム(C2(A、F))を含有している。原料の組成に応じて、大量のマグネシウム、フッ化物または鉄がクリンカー相を構成する部分となる。まず、初期の水和において、大量のエトリンガイトおよび硫酸塩が形成される。その結果、早期強度が増加する(ときどき、3時間後に30N/mm2に達する)。水和工程で起こる膨張によって、これらのセメントは、しばしば、例えば、スクリードにおける収縮補償材として使用される。これらのセメントから製造される構造部材は、強度の相当な喪失を伴う急速な炭化を示す傾向がある。ポルトランドセメントの使用に反して、これらのセメントから製造される構造部材における補強鋼線または引張り鋼線には、腐食しないような保護はされない。一般に、これらのセメントは他のセメントと混合することによってのみ使用されている。
【0011】
成分調整硬化セメントもしくは超即硬セメントまたはフッ化アルミン酸カルシウムセメントは、主として、主クリンカー相C3Sに加えて、フルオロアルミン酸含有相C117・CaF2および石膏を含有している。たいていの場合、これらのセメントは、石灰成分を含有している。水和中、フルオロアルミン酸は、大量のエトリンガイトを形成し、1時間後に16N/mm2に達する早期の高強度を達成する。コンクリートまたはモルタルの過度の急速な硬化を防ぐために、しばしば硬化遅延剤が添加される。このセメントは、市場におけるニッチ製品においてのみ、その存在を確認することができた。このセメントから製造された構造部材は、外表面の耐久性が劣っていた。
【0012】
上記の特別のセメントに加えて、エーリナイト(alinite、C117・CaCl2) ベースの早強セメントもある。しかし、これらのセメントは、補強鋼線の腐食促進効果によって、実用的な重要性がほとんどない。
【0013】
たいていの場合、急速硬化水硬性バインダーは、各種添加剤との混合セメントとして製造される。これらのセメントのベースは、いつもポルトランドセメントまたはポルトランドセメントクリンカーである。
【0014】
これらの混合セメントの大部分は、アルミン酸塩および/又はアルミノフェライトクリンカー相を刺激し、エトリンガイト、硫酸塩またはアルミン酸カルシウム水和物の形成さえも促進する添加剤を含有している。溶性アルミニウム化合物(例えば、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム)またはアルミナセメント成分の添加によって、強度形成水和物の比率がさらに増加する。
【0015】
炭酸アルカリ、果実酸またはスルホン酸塩は、硬化を促進するために、しばしば使用される。さらに、処理特性および強度発現機構を制御するために、各種添加剤(例えば、フライアッシュ、マイクロシリカ、メタカオリン)および/又は添加物(液化剤、リン酸塩遅延剤など)が添加される。
【0016】
以下に、ポルトランドセメントをベースとする特許された混合セメントのいくつかの例が示されている。
【0017】
EP0517869B1において、ポルトランドセメントに基づくシステムが記載されている。高強度を得るために、C4AFの比率は9.5%より多くすべきである。炭酸塩ドナーは、クエン酸三カルシウム一水和物とともに(必要ならば、シュウ酸二カルシウム一水和物と混合して)、K2CO3、二炭酸塩または三水和物として、上記システムに添加される。このシステムを使用して、4時間後に20N/mm2までの強度を達成することができる。
【0018】
DE4223494C2は、少量のアルミナセメントと、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、カン(Kann)酒石酸およびカルシウムリグニンスルホン酸からなる添加剤とを含有するポルトランドセメントに基づくシステムを記載している。1時間後に7N/mm2までの強度を達成することができる。
【0019】
DE4313148には、ポルトランドセメント、マイクロシリカもしくはメタカオリン、クエン酸ナトリウムおよびリグニンまたはナフタリンスルホン酸からなる促進システムが記載されている。1時間後に4N/mm2までの強度を達成することができる。
【0020】
DE10141864A1は、ポルトランドセメントクリンカーの極めて微細な粉末 、グルコン酸もしくはグルコン酸塩、アルミナ溶融セメント、および必要ならば、さらに添加剤からなる早強セメントバインダー混合物を記載している。4時間後に、20N/mm2を超える強度を達成することができる。
【0021】
アルミン酸カルシウム水和物、エトリンガイトおよび/又は硫酸塩の形成が増加することによるシステムの促進によって、それぞれのコンクリートのある部分領域における耐久性が減少する。さらに、そのようなバインダーによって、炭酸アルカリおよび/又はヒドロキシカルボン酸によって起こされる鉄のキレート化によるコンクリート表面への好ましくない茶色の変色がもたらされる。そして最後に、とりわけ、そのシステムを調整するために使用されるいくつかの物質によってセメントの吸湿性が増加し、保管安定性が減少する。
【0022】
それゆえ、これらの製品は、コンクリート建築工学の分野において認められることがなかった。しかし、それらは、補修および整備の分野、プラスター及びモルタル産業の分野および建築化学の分野において使用されている。
【0023】
強度の発現にとって決め手となるC−S−H相の形成が促進されることは、限られた強度の水和物相を得る上において、アルミン酸塩および/又はアルミン鉄酸反応が促進されることよりはるかに効率的である。
【0024】
C−S−H相の形成が促進されることによって、カルシウムに関する溶解性製品を増加する塩の使用による混合セメントを実現することができる。これは、ハロゲン化物、プソイド(pseudo)ハロゲン化物、硝酸塩、窒化物および蟻酸塩(formiates)を含んでいる。各カルシウム塩および他の多原子価のカチオンを伴う塩は、促進に関して特に適している。アルカリカチオンは、カルシウムに関する溶解性製品を減少し、C−H−S相の形成促進を阻む。
【0025】
上記物質の中で、ハロゲン化物はC−H−S相の形成に大きな影響がある。入手しやすくて低コストであるという理由で、塩化カルシウムはセメント水和を促進するために、過去において使用された。しかし、塩化物および他のハロゲン化物は補強鋼線および引張り鋼線の腐食を相当促進することが分かった。このような理由で、これらの物質は、特に、EN206−1:2007−07に適合する場合のみ、建築用鋼材および補強鉄線入りコンクリート用として使用することができる。さらに、これらの促進材は、それらから製造された部材の最終的な強度を著しく低減し、耐久性を不十分なものとしてしまう。しかし、プソイド(pseudo)ハロゲン化物、硝酸塩、窒化物および蟻酸塩(formiates)については、促進効果はそれほどない。しかし、これらの塩はコンクリートにおける応力付加鋼材または応力除去鋼材の腐食を促進してしまう。それらの鋼線入りコンクリートまたは補強鉄線入りコンクリートへの使用は限定され、CEN各国の領域におけるそれぞれの国内の規則に委ねられる。このように、例えば、ドイツにおいては、蟻酸塩(formiate)のみが、鋼線入りコンクリート建造物における硬化プロセスを促進するために使用されている。それの補強鉄線入りコンクリートへの使用は禁じられている。
【0026】
硬化促進剤としての石膏の使用は、エトリンガイトの形成によって、一般に応力下におけるコンクリートの目標とされる耐久性および強度に関して問題を含んでいる。
【0027】
特に、プラスターおよびスクリード用として、低収縮性である早強のセメントベースの水硬性バインダーがDE19754826A1に開示されている。この刊行物によれば、エトリンガイトの問題は、反応性CaSO4化合物を別々に添加することによって早期に特有のエトリンガイトの形成に影響を与え、もし可能ならば、硬化相に続いて二次的なエトリンガイトが形成されないという事実によって、解決することができる。
【0028】
しかし、この公知のバインダーの硬化特性はまだ満足できるレベルではない。
【0029】
さらに、特に、コンクリート建築部材、特に、プレハブのコンクリート部材の製造において、通常の条件下における一作業シフト内において、コンクリート建築部材における急速なストリッピングとローディングを含む全コンクリート打ちプロセスの完成が可能である早強セメントは知られていない。それゆえ、問題なくコンクリート製造の条件を満足し、および/又は、そのバインダーから製造されたコンクリートが好ましい経済的な特性を有する水硬性バインダーは提案されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は、それから製造された製品について最大の早期強度を達成することが可能な水硬性バインダーを開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明によれば、その課題は主クレーム1および従属クレーム2−17に記載したような水硬性バインダーによる驚くべき簡単な方法によって解決することができる。本発明による水硬性バインダーの促進剤に存在する極めて微細な水酸化カルシウムは、15m2/g以上、特に、25m2/g以上の大表面積、すなわち、大きな比表面積(DIN66132によるBET表面積)を有し、および/又は、20μm以下の粒径の粒子が40質量%以上、好ましくは70質量%以上からなる。この極めて大きな比表面積の水酸化カルシウムによって、その形成がセメントの水和の強度形成要因の決め手となる、C−S−H相(カルシウム−シリケート−ハイドレイト)に対して十分に有用な種結晶が得られる。それゆえ、C−S−H相の形成によって硬化が促進され、それぞれのコンクリートの早期の高強度が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
エルランゲンで2004年に行われたTagung Bauchemie(建築化学の会議)の論文集の第135−139頁に記載されているように、水酸化カルシウムは強度形成C−S−H相の核生成に小さい影響のみを与えるということに、いまだ注目しているとは驚きである。
【0033】
本発明によれば、送気管のガスによる洗浄のために一般に消石灰として使用されている、超微細な水酸化カルシウムは普通に入手可能であるために、そのような水硬性バインダーの製造は非常に簡単である。
【0034】
請求項1による水硬性バインダーから製造されたコンクリートは、処理時間、最終の強度および耐久性の条件に関して、すべての用途に関連する要件を満たしている。特に、EN206−1:2007−07またはDIN1045−2:2001−07に従うすべての要件が満たされる。
【0035】
一般に、水酸化カルシウムの比表面積が大きくなるほど、硬化が促進される効果は増大する。本発明の好ましい実施形態において、焼結傾向を限定するか、又は粒子の表面エネルギーを増加するように、カルシウムは、100m2/gを超えないように、好ましくは、75m2/gを超えないように、特に、50m2/gを超えないように、30m2/g以上の比表面積を有しているので、集塊の形成を促進する。さらに好ましい実施形態において、超微細な水酸化カルシウムは、1ないし10μmの粒径、好ましくは、3ないし5μmの粒径の粒子が40質量%以上であって、および/又は、4ないし16μmの粒径、好ましくは、8ないし12μmの粒径の粒子が70質量%からなる。
【0036】
好ましい実施形態において、促進剤は、水硬性バインダーの一部、すなわち、1ないし15質量%、好ましくは、3ないし10質量%、特に、4ないし6質量%存在していることが示されている。特に、この比率は問題なく制御することができ、特定の要件に依存して、迅速に選択することができる。
【0037】
別の好ましい実施形態において、促進剤は、現実的な理由(保管)のために、乾燥した粉末状で存在している。原則的には、促進剤は、水の添加後、流動して硬化することが可能なバインダー成分と混合することができる。しかし、バインダー成分は、ポルトランドセメントCEM I および/又は複合セメントCEMIIを含有し、および又は、好ましくは、ポルトランドセメントCEM I および/又は複合セメントCEMIIからなる実施形態が特に好ましい。
【0038】
一般にセメントがより多く粉砕されると、より早く強度が発現される。しかし、粉砕回数を増やしてセメントが微細化されることによって必然的に高含水量となることで、早期および最終の強度が減少する。すなわち、セメントの粉砕回数を多くしたことによる利点は限定される。好ましい実施形態において、粉砕によって得られる粉末の比表面積は、3000ないし7000cm2/g(ブレーン値)、好ましくは、4000ないし6000cm2/gである。
【0039】
促進剤にも関わらず、ポルトランドセメントの重要な強度形成相は、エーライトまたはケイ酸三カルシウムC3Sのままである。
【0040】
それゆえ、好ましい実施形態において、バインダー成分は、(いつもセメントクリンカー部分に対して)、50ないし75質量%のC3S部分、好ましくは55ないし65%質量%のC3S部分を示すべきである。
【0041】
別の好ましい実施形態において、ナトリウム当量として表される、1.8質量%以下、好ましくは、1.2質量%以下のアルカリ含有量が、保管性を低下するアルカリ成分の吸湿性に基づいて、バインダーにおいて選択される。バインダー成分の選択は、一般に、それぞれのコンクリートの特有の要件に依存している。好ましい実施形態において、バインダー成分は、圧縮強度が52.5Rクラスのセメントである。水硬性バインダーがバインダー成分を含有する量は、促進剤およびその他の可能な添加剤の濃度の選択に依存している。好ましい実施形態において、バインダー成分の比率は、(水硬性バインダーに対して)85ないし99質量%、好ましくは90ないし97質量%、特に、94なしい96質量%である。
【0042】
本発明は、一つ又はいくつかの成分、特に、超微細な水酸化カルシウムにはある種の被覆が施されているバインダーを独占的に含有している。
【0043】
さらに、本発明は、別の物質と混合されている超微細な水酸化カルシウムを促進剤が含有しているバインダーを明らかに含んでいる。他の物質には、例えば、CaOまたはCaO3が含まれる。
【0044】
請求項18の本発明のバインダーを使用して製造された製品は、好ましくはEN206−1:2001−07またはDIN1045−2:2001−07の要件を満たしている、コンクリート建築部材、特に、プレハブコンクリート部材を含んでいる。
【0045】
さらに、請求項1ないし17の水硬性バインダーが添加される建築材料の製造方法は保護されるべきである。
【0046】
最後に、モルタルやコンクリートの製造のために請求項1ないし17の水硬性バインダーを使用すること、特に、請求項23または18のコンクリート部材は、保護されるべきである。
【実施例】
【0047】
図1は、水硬性バインダーの熱流の熱量測定結果を示す。
【0048】
本発明に従って促進剤として使用された超微細な水酸化カルシウムの利点は、2つの実施例を使って以下に説明される。明瞭化のために、これらの実施例は、バインダー成分のみが使用されるバージョン、すなわち、ポルトランドセメントCEM I、52.5Rクラスのもの、以下、BMKと称するものと比較される。
〔実施例1〕
実施例1において、水酸化カルシウムからなる20m2/gの比表面積(BET)の促進剤が、ポルトランドセメント、すなわちBMKからなるバインダーとともに使用された。水硬性バインダーに対する超微細な水酸化カルシウムの比率は5%である。各コンクリートの製造のために、370kg/m3のこのバインダーと、148kg/m3の水と、1920kg/m3の凝集剤と、約4kg/m3の市販の液化剤が添加された(約50cmのフローコンシステンシーがコンクリートに対して得られる)。このコンクリートは、28日後に74.5N/mm2の圧縮強度を達成しており(表1参照)、通常必要とされる圧縮強度を満たすとともに、促進剤が使用されなかった比較例の圧縮強度を超えている。表1の数値によれば、この実施例においては、6時間後の早期強度は10.7N/mm2であり、8時間後の早期強度は27N/mm2であることが分かる。促進剤を含まないバージョンに比較してこれらの数値が大きいことは、図1の熱流の熱量測定結果に示されているように、5時間から10時間後におけるバインダーの化学反応が盛んなことによるものである。コンクリートの早期強度の適切な目標値は、15N/mm2である。この圧縮強度であれば、 コンクリート建築部材、特に、プレハブのコンクリート部材を剥ぎ取るには十分だからである。この数値は、実施例1においては、約6.5時間後に得られる。
〔実施例2〕
実施例2において、水酸化カルシウムから製造された43m2/gの比表面積の促進剤が、BMKポルトランドセメントのバインダーとともに使用された。バインダーと、水と、凝集剤と、液化剤の量的比率および混合比率は、実施例1と同じである。28日後における最終強度として、73.8N/mm2が得られた。極めて大きなBET表面積(43m2/g)の水酸化カルシウムをベースとするこの促進剤の利点は、図1の熱流の熱量測定結果に示されているように、コンクリートの混合に引き続く、バインダーの比較的わずかな化学反応によって特徴づけられる残りの相の形成が明らかに減少するということである。
【0049】
表1に示されているように、たった6時間後において、25.2N/mm2の非常に大きな強度を示す実施例2に従って製造された超早強コンクリートによれば、6時間後でなくても、コンクリート部材、特に、プレハブのコンクリート部材を速やかに剥ぎ取り、負荷をかけることが可能であることを示している。これによって、1シフト(約8時間)内で、すなわち、通常の条件下で、すなわち、高価で複雑な熱処理を伴うことなく完全なコンクリート打ちプロセスを完成することができる。例えば、このようにして、通常の条件下で3シフト作業でコンクリート打ちを実行することができるので、多くのコンクリート部材が短時間で必要とされるとき、および/又は、比較的高価な枠組みを速やかに繰り返して使用するために多くのコンクリート部材が必要とされるとき、特に有利である。
【0050】
以下の表1は、この実施例で説明されたコンクリートの強度の増加を示す。
【0051】
【表1】

本発明は、図面に示された実施例に限定されるものではない。他の成分とともに本発明のバインダーを使用すること及び様々な用途のために本発明のバインダーを使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、水硬性バインダーの熱流の熱量測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を添加後に流動して硬化することが可能なバインダー成分と、硬化を促進するために作用する促進剤とを含有する水硬性バインダーであって、
促進剤は、15m2/g以上、特に25m2/g以上の比表面積(DIN66132によるBET表面積)を有する超微細水酸化カルシウム、および/又は、
水酸化カルシウムの全重量に対して、粒径が20μm以下の粒子が40質量%以上である超微細水酸化カルシウム、特に、水酸化カルシウムの全重量に対して、粒径が20μm以下の粒子が70質量%以上である超微細水酸化カルシウムを含有することを特徴とする水硬性バインダー。
【請求項2】
超微細水酸化カルシウムは、30m2/g以上の比表面積を有することを特徴とする請求項1記載の水硬性バインダー。
【請求項3】
超微細水酸化カルシウムは、100m2/g以下の比表面積、好ましくは、75m2/g以下の比表面積、特に、50m2/g以下の比表面積を有することを特徴とする請求項1または2記載の水硬性バインダー。
【請求項4】
超微細水酸化カルシウムは、粒径が10μm以下の粒子、好ましくは、粒径が5μm以下の粒子が40質量%以上であり、および/又は、粒径が16μm以下の粒子、好ましくは、粒径が12μm以下の粒子が70質量%であることを特徴とする請求項1、2または3のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項5】
超微細水酸化カルシウムは、粒径が1μm以上の粒子、好ましくは、粒径が3μm以上の粒子が40質量%以上であり、および/又は、粒径が4μm以上の粒子、好ましくは、粒径が8μm以上の粒子が70質量%であることを特徴とする請求項1、2、3または4のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項6】
促進剤は、1質量%以上、好ましくは、3質量%以上、特に、4質量%以上存在することを特徴とする請求項1、2、3、4または5のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項7】
促進剤は、15質量%以下、好ましくは、10質量%以下、特に、6質量%以下存在することを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項8】
促進剤は、乾燥した粉末状で存在することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項9】
バインダー成分は、ポルトランドセメントCEM1(DIN EN197による)および/又は複合セメントCEM II(DIN EN197による)を含有し、又は、好ましくは、それからなることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項10】
バインダー成分の微細度は、3000cm2/g(ブレーン値による)以上、好ましくは4000cm2/g以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項11】
バインダー成分の微細度は、7000cm2/g(ブレーン値による)以下、好ましくは、6000cm2/g以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9または10のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項12】
セメントクリンカー部分(ポルトランドセメントおよび/又は複合セメント)に対するC3Sの比率は、50質量%以上、好ましくは、55質量%以上であることを特徴とする請求項9記載の水硬性バインダー。
【請求項13】
セメントクリンカー部分(ポルトランドセメントおよび/又は複合セメント)に対するC3Sの比率は、(バインダー成分に対して)75質量%以下、好ましくは、65質量%以下であることを特徴とする請求項9または12記載の水硬性バインダー。
【請求項14】
ナトリウム当量として表されるアルカリ含有量が、(バインダー成分に対して)1.8質量%以下、好ましくは、1.2質量%以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項15】
バインダー成分は、強度クラス52.5Rのセメントであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項16】
バインダー成分は、バインダーの全量に対して85質量%以上、好ましくは、90質量%以上、特に、94質量%以上であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項17】
バインダー成分は、バインダーの全量に対して99質量%以下、好ましくは、97質量%以下、特に、96質量%以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項18】
成分の一つ又はいくつかのもの、特に、超微細水酸化カルシウムが被膜で覆われていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16または17のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項19】
促進剤は、異なる物質と混合された超微細水酸化カルシウムを含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18のいずれかに記載の水硬性バインダー。
【請求項20】
好ましくは、上記請求項1ないし19のいずれかに記載の水硬性バインダーを使うことによって製造される、EN206−1:2007ー07またはDIN1045−2:2001−07の要件を満たす、道路表面、コンクリート棒またはコンクリート基礎、特に、プレハブのコンクリート部材のような成分調合済みのコンクリートまたはコンクリート部材。
【請求項21】
第一工程において、例えば、ベース材料、少なくとも一つの添加剤、ベース液および/又は少なくとも一つの添加剤のような材料が、混合装置に、特に、任意の混合比で添加され、
第二工程において、これらの混合成分は、上記混合装置によって、および/又は、上記混合装置において集中的かつ均質に混合されて流動して硬化することができる建築材料を形成し、
第三工程において、流動して硬化することができるこの建築材料は、容器に供給され、および/又は、任意の形態の物もしくは任意の領域に投入、注入、又は滴下される、流動して硬化することができる建築材料を製造または提供するための方法において、
第一工程において、請求項1ないし17のいずれかに記載の水硬性バインダーを含有するベース物質が添加されることを特徴とする流動して硬化することができる建築材料を製造または提供するための方法。
【請求項22】
第一工程において、微細な砂および/又は砂および/又は砂利が添加剤として添加され、水がベース液として添加され、
第二工程において、混合成分が(新鮮な)モルタルまたは(新鮮な)コンクリートを形成するために添加されることを特徴とする請求項21記載の流動して硬化することができる建築材料を製造または提供するための方法。
【請求項23】
第一工程において、液化剤が添加剤として添加され、
第二工程において、混合成分が(液状の)モルタルまたは(液状の)コンクリートを形成するために混合されることを特徴とする請求項21または22記載の流動して硬化することができる建築材料を製造または提供するための方法。
【請求項24】
第三工程において、流動して硬化することができる建築材料が、コンクリート建築部材、特に、プレハブのコンクリート部材のような形態の物、または、道路表面、前もって準備された土壌領域、ビルの壁、天井、もしくはビルの床のようなものに投入、注入、又は滴下されることを特徴とする請求項21、22または23のいずれかに記載の流動して硬化することができる建築材料を製造または提供するための方法。
【請求項25】
モルタル、特に、捕集モルタル、もしくはコンクリート、特に、成分調合済みのコンクリート、または請求項20記載のコンクリート構造部材の製造のための請求項1ないし19のいずれかに記載の水硬性バインダーの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2008−536788(P2008−536788A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506942(P2008−506942)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002277
【国際公開番号】WO2006/111225
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(503343336)コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー (139)
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.−Albert−Frank−Strasse 32, D−83308 Trostberg, Germany
【Fターム(参考)】