説明

水硬性粉体の製造方法

【課題】粉砕助剤の安全性が確保でき、粉砕効率が良く所望の粒径に到達するまでの時間を短縮することができ、さらに、得られる水硬性組成物の強度を向上させる水硬性粉体が得られる、水硬性粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)多価アルコール及び多価アルコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上と(B)硫酸化剤とを反応させて得られる化合物(a)の存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を経て水硬性粉体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性化合物の粉砕工程において、粉砕効率が向上され、さらに強度を向上できる水硬性粉体が得られる水硬性粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性化合物、例えばポルトランドセメントクリンカー、高炉スラグ等を粉砕して種々の水硬性粉体が製造されている。例えば、ポルトランドセメントは、石灰石、粘土、鉄さい等の原料を焼成して得られたクリンカーに適量の石膏を加え、粉砕して製造される。その際、粉砕効率を上げるために、ジエチレングリコールやトリエタノールアミンなどの粉砕助剤が用いられている。粉砕工程においては水硬性化合物をできるだけ能率良く所望の粒径にすることが望ましい。このため、従来、粉砕工程において粉砕助剤を使用することが行われている。
【0003】
粉砕助剤としては、プロピレングリコールやジエチレングリコールなどの低級アルキレングリコールのオリゴマー、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類、ステアリン酸などの脂肪酸またはフェノールなどの芳香族化合物、ヒドロキシアルキルヒドラジンやターシャルブチル酢酸等が知られている。また、粉砕助剤としてグリセリンを用いること(例えば、特許文献1参照)やリグニンスルホン酸塩とグリセリンを併用すること(例えば、特許文献2参照)、多価アルコールを含有する有機質工場廃液を用いること(例えば、特許文献3参照)が知られている。特にジエチレングリコールもしくはトリエタノールアミンは、粉砕効率が良く、比較的早い速度で所望の粒径にすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−60298号公報
【特許文献2】特開昭57−100952号公報
【特許文献3】特開2005−89287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水硬性化合物の粉砕助剤として広く使用されているジエチレングリコールは、安全面や健康面への影響に配慮しながら使用する必要があり、使用上の制約が大きい物質である。また、トリエタノールアミンも、化学兵器禁止法の第二種指定物質該当品目に指定されていることから、今後、使用制限を受ける可能性があり、代替できる物質を見出すことが望まれる。
【0006】
本発明の課題は、粉砕助剤の安全性が確保でき、粉砕効率が良く所望の粒径に到達するまでの時間を短縮することができ、さらに得られる水硬性組成物の強度を向上させるセメント等の水硬性粉体が得られる水硬性粉体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)多価アルコール及び多価アルコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上〔以下、(A)成分という〕と(B)硫酸化剤〔以下、(B)成分という〕とを反応させて得られる化合物(a)の存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する、水硬性粉体の製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られた水硬性粉体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粉砕助剤の安全性が確保でき、粉砕効率が良く所望の粒径に到達するまでの時間を短縮することができ、更に得られる水硬性組成物の強度を向上させるセメント等の水硬性粉体が得られる水硬性粉体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一般に、水硬性化合物、例えばセメントクリンカーを粉砕すると、結晶粒界破壊と結晶粒内破壊が起こる。結晶粒内破壊が起こると、Ca−O間のイオン結合が切断され、陽イオン(Ca2+)が過剰に存在する表面と陰イオン(O2-)が過剰に存在する表面とが生じ、これらが粉砕機の衝撃作用によって静電気引力がおよぶ距離まで圧縮されて、凝集(アグロメレーション)することで、粉砕効率が悪くなるとされている。粉砕助剤は、粒子破壊表面の表面エネルギーを小さくし、アグロメレーションを抑制することで、粉砕効率を上げていると考えられている。
【0011】
本発明では、化合物(a)を、水硬性化合物を粉砕する際に存在させることで、短時間で所望の粒径にまで粉砕することができる。詳しい作用機作は不明なるも、被粉砕物へ化合物(a)の単分子層が比較的少ない添加量で生成できるために、粉砕効率が上がると推定される。
【0012】
また、得られる水硬性粉体表面の親水性が強いために、混練り時、拘束水を形成することなく水中で細かく分散できることで、水和反応を阻害しないために、強度が向上できるものと推定される。
【0013】
(A)成分の多価アルコールが有する水酸基数は、2個以上であり、また、20個以下が好ましい。水酸基数が2個以上であれば化合物(a)の機能が充分に発揮され、20個以下であれば、化合物(a)の分子量が適度であり、少ない添加量で機能が発揮される。また、化合物(A)の水酸基数は、好ましくは10個以下であり、より好ましくは6個以下である。即ち、(A)成分の水酸基数は、2〜20が好ましく2〜10がより好ましく、2〜6が更に好ましい。
【0014】
また、(A)成分のうち、多価アルコールの炭素数は、2個以上であり、好ましくは3個以上であり、より好ましくは4個以上である。また、化合物(A)の炭素数は、好ましくは30個以下であり、より好ましくは14個以下であり、更に好ましくは9個以下である。化合物(A)のより好ましい形態としては、多価アルコールが窒素を含まず、炭素、水素、酸素の3つの元素から構成される化合物から得られるものである。即ち、(A)成分のうち、多価アルコールの炭素数は2〜30が好ましく、3〜14がより好ましく、4〜14がより好ましく、4〜9が更に好ましい。
【0015】
多価アルコールとしては、ポリビニルアルコール(水酸基数3〜20)、ポリグリシドール(水酸基数3〜20)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン(水酸基数5〜20)、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタトリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールが好適である。また、糖類として、グルコース、フルクトース、マンノース、インドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、プシコース、アルトロース等のヘキソース類の糖類;アラビノース、リブロース、リボース、キシロース、キシルロース、リキソース等のペントース類の糖類;トレオース、エリトルロース、エリトロース等のテトロース類の糖類;ラムノース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュウクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース等のその他糖類;これらの糖アルコール、糖酸(糖類;グルコース、糖アルコール;グルシット、糖酸;グルコン酸)も好適である。更に、これら例示化合物のアルキレンオキシド付加物や部分エーテル化物や部分エステル化物等の誘導体も好適である(ただし、水酸基が2個以上残っている化合物である)。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、本発明においては、多価アルコールとして、ジエチレングリコール、ポリグリセリン、ジグリセリン、グリセリン等のジエチレングリコール、グリセリン及びこれらの多量体がより好適であり、更にジエチレングリコール及びグリセリンが好適であり、より更にグリセリンが好適である。
【0016】
(A)成分としては、多価アルコールのアルキレンオキシド(以下、AOと表記する)付加物を使用することができる。AOは、エチレンオキシド(以下、EOと表記する)及びプロピレンオキシド(以下、POと表記する)から選ばれる1種以上が好ましい。多価アルコールのアルキレンオキシド付加物はEOを平均で好ましくは0.5〜6モル、より好ましくは、0.5〜3モル付加した化合物から選ばれる化合物が更に好適である。
【0017】
化合物(a)は、粒子破壊表面の表面エネルギーを小さくし、粉砕効率が向上するという観点から、(A)成分の水酸基1モル当たり、平均0.1〜1.0モル、更に0.1〜0.9モル、更に0.1〜0.7モル、更に0.1〜0.4モルの(B)成分を反応(硫酸化)させた化合物が好ましい。(B)成分は、硫酸化剤として用いられる化合物が使用でき、例えばSO3ガスや液体SO3等の無水硫酸、硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、無水硫酸・ルイス塩基錯体等が挙げられる。なかでも、(B)成分は、SO3ガス及び液体SO3から選ばれる1種以上が好ましい。(A)成分の水酸基1モル当たりの(B)成分の反応量は、反応に用いた(A)成分と(B)成分のそれぞれのモル数と、(A)成分の水酸基数及び得られた化合物(a)中の硫酸ナトリウムの濃度((A)成分と反応しなかったモル数)から計算することができる。
【0018】
本発明では、(A)成分は、ジエチレングリコール、グリセリン、グリセリンのEO付加物及びグリセリンのPO付加物から選ばれる1種以上が好ましく、グリセリン、グリセリンのEO付加物及びグリセリンのPO付加物から選ばれる1種以上が更に好ましい。更に、(A)成分は、グリセリン及びグリセリンにEOを平均で0.5〜6モル付加した化合物から選ばれる化合物が更に好適である。グリセリンのEO付加物は、EOを平均で好ましくは0.5〜3モル、より好ましくは平均で0.5〜1.5モル付加した化合物が更に好適である。
【0019】
本発明では、化合物(a)は、(A)成分として(A1)グリセリン、並びに(A2)グリセリンのEO及び/又はPO付加物から選ばれる1種以上に、該化合物の水酸基1モル当たり、平均で0.1〜1.0モル、更に0.1〜0.9モル、更に0.1〜0.7モル、更に0.1〜0.4モルの(B)成分を反応させて得られる化合物(a1)〔以下、化合物(a1)という〕が好ましい。かかる化合物(a1)を、水硬性化合物用粉砕助剤として使用することができる。
【0020】
また、(A)成分を(B)成分で硫酸化する際に、硫酸化度という指標を用いることもできるが、この硫酸化度とは(A)成分の水酸基が硫酸化された度合いを示し、例えば、グリセリンでは最大で3.0である。グリセリンの水酸基3個のうち平均2個の水酸基が、3個のうち平均1個の水酸基が、3個のうち平均0.5個の水酸基が、硫酸化された場合、硫酸化度はそれぞれ2.0、1.0、0.5という。化合物(a)は、得られる水硬性粉体表面を親水性にするためには、硫酸化度が0.2〜20.0、更に0.2〜14.0、更に0.2〜10.0、更に0.2〜8.0が好ましい。グリセリン又はグリセリンのアルキレンオキシド付加物を(A)成分とする場合、硫酸化度は0.2〜2.5、更に0.2〜2.0が好ましい。また、ジエチレングリコールを(A)成分とする場合、硫酸化度は0.2〜1.5、更に0.2〜1.0が好ましい。(A)成分が(A1)成分及び(A2)成分から選ばれる1種以上の場合は、硫酸化度は、更に0.2〜2.5、更に0.2〜2.0が好ましい。硫酸化度は、反応に用いる(A)成分と(B)成分のそれぞれのモル数と、得られた化合物(a)中の硫酸ナトリウムの濃度((A)成分と反応しなかったモル数)から計算することができる。
【0021】
化合物(a)は(A)成分1.0モル当り平均で0.2〜8.0モル、更に0.3〜3.0モルの(B)成分を反応させて得られる化合物が好ましい。なかでも、(A)成分が(A1)成分及び(A2)成分から選ばれる1種以上が好ましい。(A)成分が(A1)成分及び(A2)成分から選ばれる1種以上の場合は、0.3〜2.0モルの(B)成分を反応させて得られる化合物が更に好ましい。
【0022】
化合物(a)は、(A)成分に(B)成分を反応させて得られる。その製造方法は、公知の方法に準じて行うことができる。(B)成分としては、SO3ガスや液体SO3等の無水硫酸、硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、無水硫酸・ルイス塩基錯体等が挙げられる。好ましくは、SO3ガスや液体SO3等の無水硫酸、発煙硫酸である。硫酸化の方法としては、例えば、大過剰の硫酸を用いる方法、クロルスルホン酸を用いる方法、無水硫酸を用いる方法等の液相法、不活性ガスで希釈したガス状の無水硫酸を用いる方法等の気液混合法(好ましくは薄膜式硫酸化反応器を用いる方法)が挙げられる。副生物の生成を抑える観点から気液混合法が好ましく、更に、不純物が少なく、経済性に優れる観点から不活性ガスで希釈したガス状の無水硫酸を用いる方法が好ましい。
【0023】
化合物(a)は、(A)成分の硫酸化物であり、通常、(A)成分の硫酸エステル(部分硫酸エステル及び/又は完全硫酸エステル)を含む化合物である。また、未反応の(A)成分が化合物(a)中に存在する場合もある。本発明では、(A)成分と(B)成分とを反応させて得られる、化合物(a)を含む反応生成混合物を用いることができる。この場合、反応生成混合物の硫酸化度が前記範囲となるように、(A)成分と(B)成分を反応させることが好ましい。化合物(a)は、水溶性を向上する観点から、塩として使用ことができる。塩としては、ナトリウム塩及びカリウム塩等の1価の塩が挙げられる。化合物(a)の水溶性を向上することで、化合物(a)は、取扱い性に優れた水溶液とすることができる。
【0024】
通常、ポルトランドセメントは、石灰石、粘土、鉄さい等の原料を焼成して得られた水硬性化合物であるクリンカー(セメントクリンカーとも言い、石膏が入っている場合もある。)を予備粉砕し、適量の石膏を加え、仕上粉砕して、ブレーン値2500cm2/g以上の比表面積を有する粉体として製造される。本発明の化合物(a)は、前記水硬性化合物、好ましくはクリンカーの粉砕の際の粉砕助剤として、好適には仕上粉砕での粉砕助剤として用いられる。化合物(a)は、粉砕に用いられる原料の水硬性化合物、例えばセメントクリンカー100重量部に対して固形分で0.001〜0.2重量部、更に0.005〜0.1重量部用いることが短時間で所望の粒径に粉砕する観点から好ましい。水硬性化合物、例えばクリンカーを含む原料に化合物(a)を添加して行うことが好ましい。添加する方法としては、化合物(a)の液状物、もしくは化合物(a)と他の成分とを含む液状混合物を、滴下、噴霧等により供給する方法が挙げられる。なお、固形分の濃度は、アルミニウム箔製のカップに(A)成分と(B)成分を反応させて得られた混合物(中和する場合は中和後の水溶液)約3gを入れ、重量を測定し、105℃で2時間乾燥させた後、再度重量を測定し、その重量変化から、計算により求めることができる。
【0025】
化合物(a)は、取扱いを容易にする観点から、水溶液として用いても良い。その場合の化合物(a)の濃度は40〜99重量%が好ましい。
【0026】
水硬性化合物とは、水と反応して硬化する性質をもつ物質および単一物質では硬化性を有しないが、2種以上を組み合わせると水を介して相互作用により水和物を形成し硬化する化合物をいう。一般に、アルカリ土類酸化物とSiO2、Al23、TiO2、P25、ZnOなど多価の酸化物が常温または水熱条件下で水和物を形成する。水硬性化合物として、例えば高炉スラグ及びクリンカーが挙げられる。本発明では、水硬性化合物はセメントクリンカーが好ましい。
【0027】
本発明では、原料、用途等により、適当な粒径の粉体が得られるよう、粉砕の条件を調整すればよい。一般に、比表面積、ブレーン値が2500〜5000cm2/g、更に3000〜4000cm2/gの粉体となるまで、水硬性化合物、例えばクリンカーの粉砕を行うことが好ましい。目的のブレーン値は、例えば粉砕時間を調整することにより得ることができる。粉砕時間を長くするとブレーン値が大きくなり、短くするとブレーン値が小さくなる傾向がある。
【0028】
本発明において、水硬性化合物の粉砕に使用される粉砕装置は、特に限定されないが、例えばセメントなどの粉砕で汎用されているボールミルを挙げることができる。該装置の粉砕媒体(粉砕ボール)の材質は、被粉砕物(例えばセメントクリンカーの場合、カルシウムアルミネート)と同等又はそれ以上の硬度を有するものが望ましく、一般に入用可能な市販品では、例えば鋼、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、チタニア、タングステンカーバイド等を挙げることができる。
【0029】
本発明の化合物(a)は粉砕助剤として、水硬性化合物の粉砕に用いられ、安全性に優れ、粉砕効率が良く、コンクリートの強度を向上させることができる。
【0030】
本発明の化合物(a)、なかでも化合物(a1)は、水硬性化合物用、なかでもクリンカー用の粉砕助剤として好適である。すなわち、水硬性化合物を粉砕する際に、粉砕助剤として、化合物(a)、なかでも化合物(a1)を用いる、水硬性化合物の粉砕方法が提供される。その場合、水硬性化合物、なかでもクリンカー100重量部に対して、固形分で前記化合物(a1)0.001〜0.2重量部、より0.005〜0.1重量部、更に0.02〜0.06重量部を用いることが好ましい。
【0031】
本発明の粉砕助剤は、2種以上を併用してもよい。さらに、その他の粉砕助剤と併用して使用することができる。例えば、その他の粉砕助剤は、粉砕助剤全体の40重量%以下の量を配合して用いることができる。公知の粉砕助剤であるジエチレングリコールやトリエタノールアミン、安全性の観点から天然成分であるグリセリン、グリセリンのEO付加物、グリセリンのPO付加物を配合しても良い。本発明では、ジエチレングリコール、グリセリン、グリセリンのEO付加物及びグリセリンのPO付加物から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。その場合の化合物(a)と公知の粉砕助剤、なかでもジエチレングリコール、グリセリン、グリセリンのEO付加物及びグリセリンのPO付加物から選ばれる1種以上の化合物(X)との重量比は化合物(a)/(X)=99/1〜50/50、更に99/1〜70/30が好ましい。したがって、本発明の化合物(a)は単独で用いる場合を含めると、化合物(a)と化合物(X)との重量比は化合物(a)/(X)=100/0〜50/50、更に100/0〜70/30が好ましい。
【0032】
本発明の製造方法により得られた水硬性粉体は、強度が向上されたものとなる。水硬性粉体としては、ポルトランドセメント、高炉スラグ、アルミナセメント、フライアッシュ、石灰石、石膏等が挙げられ、粉砕に供する水硬性化合物は、これら水硬性粉体の原料である。
【0033】
なお、本発明では、上記した水硬性化合物を基準とする量比については、水硬性化合物がセメントクリンカーを含む場合は、セメントクリンカーを基準とした量に置き換えてもよい。例えば、水硬性化合物100重量部に対する量は、水硬性化合物中のセメントクリンカー100重量部に対する量としてもよい。水硬性化合物がセメントクリンカーの場合は、セメントクリンカーを100重量部とすることが好ましい。水硬性化合物がセメントクリンカーとスラグの混合物である混合セメントの製造の場合は、セメントクリンカーとスラグの合計を100重量部とすることが好ましい。
【実施例】
【0034】
〔実施例1及び比較例1〕
以下の使用材料を以下の配合量で用いて、一括仕込みし、ボールミルにより粉砕したときの粉砕効率(到達粉砕時間)と、得られたセメントの強度試験を以下のように評価した。結果を表1に示す。
【0035】
(1−1)使用材料
・クリンカー:成分が、CaO:約65%、SiO2:約22%、Al23:約5%、Fe23:約3%、MgO他:約3%(重量基準)となるように、石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料等を組み合わせて焼成したものを、クラッシャー及びグラインダーにより一次粉砕して得た、普通ポルトランドセメント用クリンカー(3.5mmふるい通過物)
・二水石膏:SO3量44.13%の二水石膏
・粉砕助剤:表1及び下記製造例参照
【0036】
製造例1[ジエチレングリコール硫酸化物〔実施例1−1の化合物(a)〕(硫酸化度1.0)の製造]
ジエチレングリコールを薄膜式硫酸化反応器(内径14mmφ、長さ4m)を使用してSO3濃度約1容量%(乾燥空気にて希釈)、反応モル比〔SO3/ジエチレングリコール〕=1.0、温度34〜64℃にて硫酸化した。硫酸化剤はSO3ガスを使用した。得られた硫酸化物268.7g(酸価:310.8mgKOH/g)を10.3重量%水酸化ナトリウム水溶液中985.3gに添加し、水溶液のpHを調整し、ジエチレングリコール硫酸化物〔実施例1−1の化合物(a)〕(硫酸化度1.0)の水溶液を得た。該水溶液のpHは12.1、揮発分は70.5重量%、硫酸ナトリウムは0.1重量%以下であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1224cm-1に確認した。
【0037】
なお、SO3ガスは以下の操作で調製した。加熱溶融した硫黄を水分除去した乾燥空気と混合した後、燃焼し、二酸化硫黄(SO2)を製造した。そして、二酸化硫黄と乾燥空気を混合して、酸化触媒(酸化バナジウム)を充填した管の中を通し、約5容積%の濃度のSO3ガスを製造した。さらに、そのSO3ガスに乾燥空気を混合して、約1容積%の濃度のSO3ガスに調製した。
【0038】
製造例2[グリセリン硫酸化物〔実施例1−2及び1−8の化合物(a)〕(硫酸化度0.9)の製造]
グリセリンを薄膜式硫酸化反応器(内径14mmφ、長さ4m) を使用してSO3濃度約1容量%(乾燥空気にて希釈)、反応モル比〔SO3/グリセリン〕=0.89、温度47〜68℃にて硫酸化した。硫酸化剤は製造例1と同様に調製したSO3ガスを使用した。得られた硫酸化物268.7g(酸価:290.3mgKOH/g)を8.5重量%水酸化ナトリウム水溶液中713.3gに添加し、水溶液のpHを調整し、グリセリン硫酸化物〔実施例1−2の化合物(a)〕(硫酸化度0.9)の水溶液を得た。該水溶液のpHは8.7、揮発分は65.3重量%、硫酸ナトリウムは0.5重量%であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1213cm-1に確認した。プロトン核磁気共鳴スペクトルの積分比から求められた組成比から、本硫酸化物の組成は、グリセリン:18.5%、1−グリセリン硫酸化物:44.6%、2−グリセリン硫酸化物:7.5%、1,2−グリセリン二硫酸化物:8.8%、1,3−グリセリン二硫酸化物:17%、1,2,3−グリセリン三硫酸化物:3.5%、(%は重量基準)であった。
【0039】
製造例3[グリセリン硫酸化物〔実施例1−3の化合物(a)〕(硫酸化度1.2)の製造]
反応モル比〔SO3/グリセリン〕=1.15(硫酸化物の酸価:374.5mgKOH/g)、温度49〜61℃にて製造例1と同様の方法で合成を行い、グリセリン硫酸化物〔実施例1−3の化合物(a)〕(硫酸化度1.2)の水溶液を得た。該水溶液のpHは9.7、揮発分は66.9重量%、硫酸ナトリウムは3.3重量%であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1213cm-1に確認した。プロトン核磁気共鳴スペクトルの積分比から求められた組成比から、本硫酸化物の組成は、グリセリン9.4%、1−グリセリン硫酸化物:32.9%、2−グリセリン硫酸化物:7.4%、1,2−グリセリン二硫酸化物:18.9%、1,3−グリセリン二硫酸化物:20.6%、1,2,3−グリセリン三硫酸化物:10.7%、(%は重量基準)であった。
【0040】
製造例4[グリセリン硫酸化物〔実施例1−4の化合物(a)〕(硫酸化度1.0)の製造]
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)794.5gに液体SO3 87.0g(1.09モル)を0℃で、攪拌しながら1時間で滴下した。更に、グリセリン100.0g(1.09モル)を30分かけて滴下した。滴下終了後、10℃まで昇温して1時間攪拌した。反応混合物にイオン交換水200.0gを注ぎ、32重量%水酸化ナトリウム水溶液142.7g(1.14モル)で中和した。ロータリーエバポレーターでN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を留去して、更にイオン交換水を添加して反応物[グリセリン硫酸化物〔実施例1−4の化合物(a)〕(硫酸化度1.0)]の水溶液881.3gを得た。該水溶液は、pHが11.1であり、揮発分(105℃、2時間)が73.6重量%、硫酸ナトリウムは0.3重量%であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1217cm-1に確認した。プロトン核磁気共鳴スペクトルの積分比から求められた組成比から、本硫酸化物の組成は、グリセリン32.4%、1,2,3−グリセリン三硫酸化物:67.6%、(%は重量基準)であった。
【0041】
製造例5[グリセリン硫酸化物〔実施例1−5の化合物(a)〕(硫酸化度2.0)の製造]
液体SO3を96.7g(1.21モル)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)873.9g、グリセリン55.0g(0.60モル)とし、製造例4と同様の方法で合成を行い、グリセリン硫酸化物〔実施例1−5の化合物(a)〕(硫酸化度2.0)の水溶液を得た。該水溶液のpHは11.0、揮発分は78.7重量%、硫酸ナトリウムは0.6重量%であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1217cm-1に確認した。プロトン核磁気共鳴スペクトルの積分比から求められた組成比から、本硫酸化物の組成は、グリセリン8.3%、1−グリセリン硫酸化物:5.7%、2−グリセリン硫酸化物:2.1%、1,2−グリセリン二硫酸化物:3.1%、1,3−グリセリン二硫酸化物:7.3%、1,2,3−グリセリン三硫酸化物:73.4%、(%は重量基準)であった。
【0042】
製造例6[グリセリンEO平均3モル付加物の硫酸化物〔実施例1−7及び1−9の化合物(a)〕(硫酸化度1.0)の製造]
(1)グリセリンEO平均3モル付加物(比較例1−6のその他の成分)
2リットルの攪拌機を備えたオートクレーブにグリセリンとKOHをぞれぞれ230.3g、1.4g仕込み、約600rpmで撹拌し、系内を窒素置換した後、155℃になるまで昇温した。上記反応混合物に圧力0.1〜0.3MPa(ゲージ圧)、温度155℃でエチレンオキシド(以下、EOと表記する)を330.3g(グリセリン1モルに対し、EO3モル相当)導入した。所定量のEOの導入後、圧力低下が見られなくなった後(反応終了後)、温度を80℃まで冷却し、グリセリンEO平均3モル付加物を得た(水酸基価739.3mgKOH/g)。なお本製造例のEO分布は、未反応グリセリン(EO=0モル):2.9%、EO=1モル:11.3%、EO=2モル:22.4%、EO=3モル:26.1%、EO=4モル:19.7%、EO=5モル:10.7%、EO=6モル:4.6%、EO=7モル:1.7%、EO=8モル:0.5%、EO=9モル:0.2%(%は重量基準)であった。
【0043】
(2)グリセリンEO平均3モル付加物の硫酸化物〔実施例1−7及び1−9の化合物(a)〕(硫酸化度1.0)
(1)で得られたグリセリンEO平均3モル付加物を、反応モル比〔SO3/グリセリン〕=1.0(硫酸化物の酸価:188.7mgKOH/g)、温度42〜56℃にて製造例1と同様の方法で合成を行い、グリセリンのEO付加物(EO平均付加モル数3)の硫酸化物〔実施例1−7及び1−9の化合物(a)〕(硫酸化度1.0)の水溶液を得た。該水溶液のpHは11.1、揮発分は70.0重量%、硫酸ナトリウムは0.1重量%であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1215cm-1に確認した。
【0044】
製造例7[グリセリンEO平均1モル付加物の硫酸化物〔実施例1−6の化合物(a)〕(硫酸化度0.9)の製造]
(1)グリセリンEO平均1モル付加物(比較例1−5のその他の成分)
製造例6(1)と同様の方法でグリセリンにEO付加を行いグリセリンEO平均1モル付加物を得た。なお本製造例のEO分布は、未反応グリセリン(EO=0モル):36.1%、EO=1モル:37.0%、EO=2モル:19.1%、EO=3モル:6.1%、EO=4モル:1.3%、EO=5モル:0.2%(%は重量基準)であった。
(2)グリセリンEO平均1モル付加物の硫酸化物〔実施例1−6の化合物(a)〕(硫酸化度0.9)
(1)で得られたグリセリンEO平均1モル付加物を、反応モル比〔SO3/グリセリン〕=0.9(硫酸化物の酸価:231.4mgKOH/g)、温度49〜68℃にて製造例1と同様の方法で合成を行い、グリセリンのEO付加物(EO平均付加モル数1)の硫酸化物〔実施例1−6の化合物(a)〕(硫酸化度0.9)の水溶液を得た。該水溶液のpHは8.2、揮発分は65.9重量%、硫酸ナトリウムは0.6重量%であった。不揮発分の赤外吸収スペクトル分析において硫酸エステルの結合に基づく吸収を1213cm-1に確認した。
【0045】
(1−2)配合量
・クリンカー:1000g
・二水石膏:38.5g、添加SO3量を1.7%とした(1000g×1.7%/44.13%=38.5g)
・粉砕助剤:表1の化合物を、水硬性化合物(クリンカー)100重量部に対する添加量が表1の通りとなるように、50重量%水溶液で使用した。
【0046】
(1−3)ボールミル
株式会社セイワ技研製AXB−15を用い、ステンレスポット容量は18リットル(外径300mm)とし、ステンレスボールは30mmφ(呼び1・3/16)を70個、20mmφ(呼び3/4)を70個の合計140個のボールを使用し、ボールミルの回転数は、45rpmとした。また粉砕途中で粉砕物を排出する時間を1分間と設定した。
【0047】
(1−4)粉砕到達時間
目標ブレーン値を3300±100cm2/gとし、粉砕開始から60分、75分、90分後のブレーン値を測定し、目標ブレーン値3300cm2/gに達する時間を二次回帰式により求め、最終到達時間(粉砕到達時間)とした。なおブレーン値の測定は、セメントの物理試験方法(JIS R 5201)に定められるブレーン空気透過装置を使用した。この試験での粉砕到達時間の相違は、実機レベルではより大きな差となってあらわれる。なお、評価は比較例1−1の粉砕到達時間を100とした場合の相対値で行い、相対値が90以下を「合格」、90超を「不合格」とした。本評価では、比較例1−1の粉砕到達時間は、124分であった。比較例1−1は表1では基準と表記した。
【0048】
(1−5)強度試験
セメントの物理試験方法(JIS R 5201)附属書2(セメントの試験方法−強さの測定)に準じた。用いたセメントは、前記で得られたブレーン値3300±100cm2/gのものである。なお、評価は比較例1−1の圧縮強度を100とした場合の相対値で行い、3日後強度の場合、相対値が120超を「A」、110超〜120以下を「B」、110以下を「C」とした。7日後強度の場合、相対値が115超を「A」、110超〜115以下を「B」、110以下を「C」とした。本評価では、比較例1−1の圧縮強度は、3日後が29.9N/mm2、7日後が44.2N/mm2であった。比較例1−1は表1では基準と表記した。
【0049】
【表1】

【0050】
表中、EOpはエチレンオキシド平均付加モル数である。また、比較例1−1は、水のみをクリンカー重量に対して0.04重量%添加して行った。
【0051】
実施例1−1と比較例1−2、実施例1−2〜1−5と比較例1−3、実施例1−6と比較例1−5、実施例1−7と比較例1−6は、それぞれ多価アルコールまたは多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物(比較例の化合物)と、それに硫酸化剤を反応させた化合物(実施例の化合物)の関係にある。この関係内で比較すると、硫酸化剤とを反応させることによって圧縮強度が向上することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)多価アルコール及び多価アルコールのアルキレンオキシド付加物から選ばれる1種以上と(B)硫酸化剤とを反応させて得られる化合物(a)の存在下で、水硬性化合物を粉砕する工程を有する、水硬性粉体の製造方法。
【請求項2】
前記化合物(a)が、前記(A)の水酸基1モル当たり平均0.1〜1.0モルの前記(B)を反応させて得られたものである請求項1記載の水硬性粉体の製造方法。
【請求項3】
前記(A)が、ジエチレングリコール、グリセリン、グリセリンのエチレンオキシド付加物及びグリセリンのプロピレンオキシド付加物から選ばれる1種以上である、請求項1又は2記載の水硬性粉体の製造方法。
【請求項4】
前記化合物(a)を、水硬性化合物100重量部に対して0.001〜0.2重量部用いる、請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性粉体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の製造方法で得られた水硬性粉体。

【公開番号】特開2010−42986(P2010−42986A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168694(P2009−168694)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)