説明

水素ガスの製造方法

グリコーゲンから水素ガスを製造する方法が開示されている。水素ガスの製造方法では、グリコーゲン及び資化可能な窒素源を含む培地中で少なくとも1種の微生物を培養する。微生物は、培地中のグリコーゲンを資化することができ、同時に水素ガスを生産することができるものであるので、水素ガスが生成する。次いで生成された水素ガスを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用してグリコーゲンから水素ガスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガス(Hガス)は、燃焼機関又は燃料電池を用いて処理されると、自動車輸送及び電気又は熱の定常発生に有望な燃料である。現在のガス状Hの世界市場は、市場価格2.7米国ドル/kgでおよそ160,000,000,000米国ドルである。多くの場合において、H製造エネルギーは最終的には太陽エネルギーを源とする。太陽エネルギーをHに変換する潜在的大量製造の方法は、光合成生物の抽出物(以下、バイオマスという)から誘導された単糖類又は多糖類を微生物を用いて燃料に変換するものである。そのような方法は、変換方法から生じるCOを、バイオマス製造を通じて迅速にリサイクルすることを可能にするが故に、大気中のCOを抽出可能な「化石燃料」に取り込むずっとゆるやかなサイクル(何百万年もかかる)と比較するとCO産生の削減になる(非特許文献1)。
【0003】
バイオマス由来燃料合成についての現在提案されているアプローチ(非特許文献2、3)には、いくつかの問題がある。主な問題は、過剰な製造コストである。バイオマス中に貯蔵される異なる形態の糖をその後抽出し、燃料に変換するいくつかの製造方法が考案されている。トウモロコシ由来デンプンのような、潜在的な食用穀物を燃料製造に用いることは、食料と燃料製造の間に競合をもたらし、両者に対して潜在的な負の効果をもたらすであろう。さらに、デンプン系食用穀物の経済的(土地面積又は太陽エネルギー投入に対して効率が悪いことに関し)及び環境的コスト(農業の投入に関して)もまた、将来的なバイオ燃料製造のためにこれらの穀物を用いることについて限界を生じさせる(非特許文献2)。将来のエタノール又はH2製造について、現在議論されているもう一つのバイオマス由来糖類は、木又は草の種に由来するリグノセルロースに分類される。リグノセルロースを用いる場合の主な欠点は、収量、率、コスト及び環境への影響に対し、生産速度が低く、広い土地が必要であり、発酵可能な基質への変換が困難であることである(非特許文献3)。
【0004】
藻類又はラン藻類は、陸上植物に比べて増殖速度が潜在的に大きいことに部分的に起因して、バイオマス種であると考えられている。ラン藻類及び他の藻類をバイオディーゼル製造のために用いることは、数十年前に日本(RITE)及び米国で集中的に研究されたが、製造コストの問題を包含する多くの理由により断念された(非特許文献4)。藻類は、多くの種でH2生産が可能であるので、直接的なH2生産のためにまだ研究されている。もっとも、将来有望な方法はまだ報告されていない(非特許文献5)。ヒドロゲナーゼは、よく知られているように酸素感受性であり、O2は光合成の主たる副産物であるから、このようなエンジニアリング手法は基本的に問題がある(非特許文献6)。
【0005】
全ての微生物(ラン藻類を包含する)は、エネルギー貯蔵体として細胞内にグリコーゲンを蓄積し、分解する。ラン藻類から抽出されたグリコーゲンは、バイオ燃料製造の基質として潜在的に利用可能であろう。
【0006】
しかしながら、細胞外グリコーゲンの分解及び資化はまだ報告されていない。グリコーゲンを唯一の炭素源とする増殖は、広範囲の基質での増殖がスクリーニングされている生物についてのみ報告されている(非特許文献7、8)。グリコーゲン上でわずかに増殖することができ(他の糖類と比較して)、グリコーゲンを包含しないいくつかの糖類でH2生産を行うことができる新種(Clostridium proteoclasticum)の報告がある(非特許文献9)。このように、現在まで、微生物がグリコーゲンをH2のようなバイオ燃料に変換できる方法は、まだ報告されていない。
【0007】
【非特許文献1】Berner R.A.(2003).The long term carbon cycle,fossile and atmospheric composition.Nature 426,323-
【非特許文献2】Hill et al.(2006).Environmental,economic,and energetic costs and benefits of biodiesel and ethanol biofuels.PNAS 103,11206-
【非特許文献3】Ragauskas et al(2006)The path forward for biofuels and biomaterials.Science 311,484-
【非特許文献4】A Look Back at the U.S. Department of Energy's Aquatic Species Program:Biodiesel from Algae.NREL close-out report(1998)
【非特許文献5】Melis A and Happe T(2001)Hydrogen production.Green Algae as a source of energy.Plant Physiol.127,740-748
【非特許文献6】Benemann JR(2000)Hydrogen production by microalgae.J.Appl.Phycol.12,291-300
【非特許文献7】Thompson et al(2003)Int.J.Syst.Evol.Microbiol.53,245-252
【非特許文献8】Brown SH,Costantino HR,Kelly,RM(1990)Characterization of amylolytic enzyme activities associated with the hyperthermophilic archaebacterium Pyrococcus furiosus.Appl.Environ.Microbiol.56(7),1985-1991
【非特許文献9】Attwood GT,Reilly K,Patel BKC(1996)Clostridium proteoclasticum sp.nov.,a novel proteolytic bacterium from the bovine rumen.Int.J.Syst.Bacteriol.46(3),753-758
【非特許文献10】Uqwu CU,Ogbonna JC,Tanaka H(2005)Light/dark cyclic movement of algal culture(Synechocystis aquatilis)in outdoor inclined tubular photobioreactor equipped with static mixers for efficient production of biomass.Biotechnol.Lett.27(2),75-78
【非特許文献11】Nascimento SM,Azevedo SMFDO(1999)Changes in cellular components in a cyanobacterium(Synechocystis aquatilis f. salina)subjected to different N/P ratios-an ecophysiological study.Environ.Toxicol.14(1),37-44
【非特許文献12】Miller,T.L.,and M.J.Wolin.1974.A serum bottle modification of the Hungate technique for cultivating obligate anaerobes.Appl Microbiol 27:985-7.
【非特許文献13】DSMZ.http://www.dsmz.de/microorganisms/html/media/medium000141.html.
【非特許文献14】Hicks,R.E.,R.I.Amann,and D.A.Stahl.1992.Dual staining of natural bacterioplankton with 4',6-diamidino-2-phenylindole and fluorescent oligonucleotide probes targeting kingdom-level 16S rRNA sequences.Appl Environ Microbiol 58:2158-63
【非特許文献15】Kirchman,D.,J.Sigda,R.Kapuscinski,and R.Mitchell.1982.Statistical analysis of the direct count method for enumerating bacteria.Appl Environ Microbiol 44:376-82.
【非特許文献16】Porter,K.G.,and Y.S.Feig.1980.The use of DAPI for identifying and counting aquatic microflora.Limnol.Oceanogr.25:943-948.
【非特許文献17】Rippka,R.,J.Deruelles,J.Waterbury,M.Herdman and R.Stanier(1979).Genetic assignments,strain histories and properties of pure cultures of cyanobacteria.J.Gen.Microbiol.111:1-61.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、グリコーゲンから水素ガスを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、いくつかの微生物が、培養液中に含まれるグリコーゲンを資化し、同時に水素ガスを生産することを見出した。本発明は、この知見に基づく。
【0010】
すなわち、本発明は、グリコーゲン及び資化可能な窒素源を含む培地中で、該培地中の前記グリコーゲンを資化すると同時に水素ガスを生成し得る少なくとも1種の微生物を培養して水素ガスを生成させる工程と、
生成された前記水素ガスを回収する工程を含む、水素ガスの製造方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、グリコーゲンを生産し細胞内に蓄積する少なくとも1種のラン藻類を、資化可能な炭素源及び窒素源を含む培地中で培養して該ラン藻類の細胞内にグリコーゲンを蓄積させ、該細胞を破壊し該グリコーゲンを回収する工程と、
該ラン藻類の細胞内に蓄積された前記グリコーゲンを回収する工程と、
このように回収したグリコーゲンと、培地中でグリコーゲンを資化すると同時に水素を生成し得る微生物により資化可能な窒素源とを含む培地を調製する工程と、
このように調製した培地を、上記培地として用いて本発明の方法を行う工程とを含む、水素ガスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、グリコーゲンからの水素ガスの新規な製造方法が提供された。グリコーゲンは、ラン藻類により大量に生産されるので、グリコーゲンは、ラン藻類の大規模発酵により安価に得ることができる。安価なグリコーゲンを用い、本発明の方法により、これもまた安価である発酵法により水素ガスを製造することができる。従って、本発明により、水素ガスを安価に製造することができ、これはエネルギー産業にとって極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ラン藻類の発酵により生産されたグリコーゲンを用いた水素ガスの製造のためのシステムを模式的に示す。
【図2】図2は、培養開始から第1日、第7日、第18日における、MG1培地中でのMethanococcus maripaludisの細胞数を示す。
【図3】図3は、Methanococcus maripaludisの培養開始から第2日、第8日及び第12日における、培養容器内の上部空間中の水素ガスの濃度を示す。
【図4】図4は、Methanococcus maripaludisの培養に[U-14C]グルコース-1-リン酸を炭素源として用いた実験におけるシンチレーションカウントの相対強度(DPM)を示す。
【図5】図5は、Methanococcus maripaludisを培養した培養液中における、グルコース濃度に換算したグリコーゲン濃度の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書及び請求の範囲において、「a」及び「an」の単数形並びに「the」は、文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、複数形も包含する。従って、例えば、「1つの微生物」(a microorganism)は、このような微生物の複数をも包含する、等である。
【0015】
本発明の方法では、培地中のグリコーゲンを資化することができ、同時に水素ガスを生産することができる少なくとも1種の微生物が用いられる。ここで、「同時に生産する」という語は、グリコーゲンを含む培地中で培養される微生物が、培地中のグリコーゲンを消費し、上記培地中での培養中に水素ガスを生産することを意味する。微生物の例としては、Methanococcus属、Clostridium属、Thermotoga属、Caldicellulosiruptor属及びPyrococcus属に属する微生物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。これらの微生物の好ましい例として、Methanococcus maripaludis、Clostridium acetobutylicum、Thermotoga Elfii、Thermotoga neapolitana、Thermotoga maritima、Caldicellulosiruptor saccharolyticus、Pyrococcus furiosus及びClostridium thermocellumを挙げることができる。これらの微生物のうち、Methanococcus maripaludisが特に好ましい。これらの微生物自体は公知であるが、これらの微生物が培地中に含まれるグリコーゲンを資化し、同時に水素ガスを生産する(すなわち、培養中に水素ガスを生産する)ことは知られていなかった。これらの微生物は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0016】
微生物は、グリコーゲンを炭素源として含む培地中で培養される。培地中のグリコーゲンの濃度は、通常、0.05w/v%〜1.0w/v%、好ましくは0.1w/v%〜0.3w/v%である。
【0017】
培地は、グリコーゲンを含むことを除き、微生物の培養に従来から用いられている成分を含む。従って、培地は、資化可能な窒素源を含む。窒素源としては、酵母エキスが好ましいが、窒素源はこれに限定されるものではなく、微生物により資化可能な他の窒素源も用いることができる。酵母エキスを用いる場合、培地中の酵母エキスの濃度は通常、0.05w/v%〜1.0w/v%、好ましくは0.1w/v%〜0.3w/v%である。培地はさらに、各微生物用の従来の培地に通常含まれる微量元素及びビタミンを、従来から用いられている濃度で含む。Methanococcus maripaludisの培養に用いられる好ましい培地の具体的な組成が下記実施例に記載されている。
【0018】
培養が行われる雰囲気は限定されないが、酸素濃度が低いか0%(v/v)であることが好ましい。他の培養条件は、従来から用いられている条件と同じでよい。すなわち、培養は、18℃〜47℃、好ましくは約38℃で行われる。バッチ法、すなわち、微生物が新鮮な細胞と交換されない方法では、培養は通常、約12日〜15日継続することができる。微生物細胞の一部又は全部が培養中に連続的に又は間欠的に新鮮な細胞と交換される連続法では、培養時間は限定されず、培養は連続的に行うことができる。培養開始時の培地中の細胞密度は、培地1mL中、100細胞〜10,000,000細胞、好ましくは10,000細胞〜1,000,000細胞である。
【0019】
微生物を培養することにより、水素ガスが生産され、培地の雰囲気に放出される。あるいは、放出は、培地の機械的な動揺及び/又はガス散布を包含するが除外しない、自体公知の方法により補助される。このように、水素ガスは、培養容器の上部空間内に蓄積し、これはポンプにより作り出される、発酵器の内部と外部の間の異なる圧力による陰圧によって補助されてもされなくてもよい。二酸化炭素ガス(CO2ガス)もまた上部空間中に蓄積する。上部空間内の水素ガスは、公知の水素分離膜を用いる方法や、CO2の選択的化学結合を介する、この分野において自体公知の方法により回収することができる。所望ならば、水素ガスは、H2ガスとCO2ガスの混合物の形態のような、他の1種又は2種以上のガスとの混合物の形態で収集してもよい。
【0020】
グリコーゲンの供給源は限定されるものではなく、いずれの供給源からのグリコーゲンをも培地に含めることができる。ラン藻類(cyanobacteria)すなわち藍色植物(blue-green algae)は、光合成によりグリコーゲンを産生し、グリコーゲンを細胞内に蓄積することが知られている。ラン藻類は、CO2を唯一の炭素源として用い、太陽光のような光を用いてグリコーゲンを生産できるので、ラン藻類の発酵によりグリコーゲンを安価に得ることができる。従って、本発明の好ましい形態では、培地に含まれるグリコーゲンは、ラン藻類由来のものである。グリコーゲンの生産に用いることができるラン藻類の好ましい例としては、Nostoc属、Spirulina属、Synechococcus属、Anacystis属、Anabaena属及びOscillatoria属に属する微生物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ラン藻類は、この分野において周知の条件下で培養することができる。すなわち、個々の種の特定の要件に従ったバリエーションを有するBG-11培地を用いて行うことができる(非特許文献17)。培養は、通常、10℃〜37℃で行うことができるが、至適温度は、種及び他の培養条件の選択に依存し、多くの場合20℃〜30℃であろう。
【0021】
グリコーゲンは、この分野において周知の方法によりラン藻類から回収することができる。例えば、細胞を機械的及び/又は酵素的に破壊し、あるいは溶解は溶媒により補助してもよく、あるいは、溶解は他の微生物によって補助してもよく、他のさらなる処理が必要とされない限り、粗抽出物を直接培地に加え、あるいは、粗抽出物を、遠心分離及びろ過を包含するが除外しない、この分野において周知の方法によりさらに精製してもよい。上記した微生物により、水素ガスの生産中にCO2ガスもまた生産されるので、微生物により生産されたCO2ガスはラン藻類による光合成のためにリサイクルすることができる。ラン藻類の増殖を制限する他のいずれの因子をも含まない、あらゆる産業プロセスにより生じるCO2含有ガスのような、他のCO2の供給源をも用いることができる。さらに、ラン藻類は通常、油を生産するので、生産された油もまた回収することができる。多くの光を受けるために、ラン藻類を管内で培養することもできる。
【0022】
ラン藻類によるグリコーゲンの生産を利用した、水素ガスを生産するためのシステムの好ましい具体例を図1に示す。図1中、「P」は、処理/インターフェースを示す。図1に示すように、ラン藻類は、光、好ましくは太陽光が照射される湾曲した管内に収容される。ラン藻類の培養物から、油及びグリコーゲン(植物抽出物)が、別々に回収され、回収されたグリコーゲンは、水素ガスを生産する微生物の培地に供給される。培養容器中の上部空間内にある生産された水素ガスは、これもグリコーゲンの資化によって微生物により生産されたCO2ガスからの分離後、回収される。分離されたCO2ガスは、ラン藻類が培養されている管にリサイクルされる。1又は2以上の他の供給源からの廃CO2ガスもまた、微生物により生産されたCO2ガスに加えることができる。農業又は食品産業等からの排水もまた、ラン藻類の培養管の上流端に加えてもよい。培養管を通過後、排水は浄化され、浄化水はラン藻類の培養管の下流端から回収される。
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。実施例は、例示の目的のためだけに記載するものであり、如何なる意味にも限定的に解釈してはならない。
【実施例1】
【0024】
1.材料と方法
【0025】
(1)培地と培養条件
メタン細菌生育技術はMillerらによった(非特許文献12)。Methanococcus maripaludis(DSMZ 14266)は、MP1又はMG1培地で37℃で増殖させた。MP1培地はDSM141培地(非特許文献13)からNaHCO3、酢酸塩、酵母エキス及びトリプチカーゼを抜いたもので、一方、MG1は0.18%(w/v)グリコーゲン、及びNaHCO3、酢酸塩、トリプチカーゼの代わりに0.2%の酵母エキスを含んでいる。すなわち、本発明の実施例に用いたMG1培地は下記組成を有していた。
【0026】
KCl 0.335g
MgCl2・6H2O 4.000g
MgSO4・7H2O 3.450g
NH4Cl 0.250g
CaCl2・2H2O 0.140g
K2HPO4 0.140g
NaCl 18.000g
微量元素(下記参照) 10.000ml
ビタミン溶液 (下記参照) 10.000ml
Fe(NH4)2(SO4)2・7H2O 2.000mg
NaHCO3 5.000g
グリコーゲン 1.800g
酵母エキス(Difco) 2.000g

レザズリン 1.000mg
システイン塩酸塩・H2O 0.500g
Na2S・9H2O 0.500g
蒸留水 1000.000ml
【0027】
微量元素溶液は下記組成を有していた。
ニトリロ三酢酸 1.500g
MgSO4・7H2O 3.000g
MnSO4・2H2O 0.500g
NaCl 1.000g
FeSO4・7H2O 0.100g
CoSO4・7H2O 0.180g
CaCl2・2H2O 0.100g
ZnSO4・7H2O 0.180g
CuSO4・5H2O 0.010g
KAl(SO4)2・12H2O 0.020g
H3BO3 0.010g
Na2MoO4・2H2O 0.010g
NiCl2・6H2O 0.025g
Na2SeO3・5H2O 0.300mg
蒸留水 1000.000ml
【0028】
ビタミン溶液は下記の組成を有していた。
ビオチン 2.000mg
葉酸 2.000mg
塩酸ピリドキシン 10.000mg
塩酸チアミン・2H2O 5.000mg
リボフラビン 5.000mg
ニコチン酸 5.000mg
Dパントテン酸カルシウム 5.000mg
ビタミンB12 0.100mg
p−アミノ安息香酸 5.000mg
リポ酸 5.000mg
蒸留水 1000.000ml
【0029】
MGI培地からグリコーゲン又は酵母エキスを省いた場合には、細胞増殖は観察されなかった。オートクレーブにかける前に、MP1培地は、H2-CO2 (80/20比)で散布し、MG1培地は、N2 (>99.99995%)で散布した。培地が熱いうちに、培地のレドックスインジケーターの色がなくなるまで、孔径0.2μmのフィルターを介して17%システイン・H2O-HCl(w/v)を添加した。接種物は、10%(v/v)の中期対数期の細胞であった。細胞を接種後、孔径0.2μmのフィルターを介した同じガスで上部空間に超過圧力を加えてブチルゴム内部キャップを膨らませた。増殖は、4',6'-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)で染色した細胞を、他で記述しているようにエピ蛍光顕微鏡(非特許文献13、14、15)下で直接計数することにより監視した。
【0030】
(2) 放射性同位体を用いたトレーサー実験
14C-標識グリコーゲンは、市販されていなかったので、標識されたグルコース-1-リン酸を基質として用いた。上記の通り、グリコーゲンを省略した滅菌MG1を調製し、孔径0.2μmのフィルターを介して74 kBq の[U-14C]グルコース-1-リン酸 (0.6μmol, GEヘルスケア)/50 ml培地を添加した。陰性対照は、接種物を省略した。培養物を37℃で2週間インキュベートした。培養期間の終わりに、上部空間のガスをN2で散布し、その出口は、選択的CO2捕捉シンチレーション液であるOxosol(商標) C14 (National Diagnostics)を含む第2の容器を通過するようにした。細胞は、孔径0.2μmのメンブレンフィルター上で回収し、次いで、12.5mlの0.5M NaClで2回洗った。フィルターを、LSCにより測定するエマルションシンチレーター(Aquasol(商標) -2 (Perkin Elmer))中で洗浄した。陰性対照、単なるメンブレンフィルターも同様に処理した。
【0031】
(3) ガス分析
ガス状サンプルは、Carboxen(商標)1010 PLOTキャピラリーカラム (30 m×0.32 mm) (Supelco)が取り付けられたAgilent 6890Nガスクロマトグラフを用いて分析した。200μLの上部空間ガスを、サンプルロックシリンジ(Hamilton)を用いて収集し、調節可能なバルブボックス入口に接続されたガスループ(250μL)に注入した。ガスループ(周囲圧力及び温度)中に含まれたサンプルを、スプリット入口(周囲温度、10:1スプリット比)を介してカラムに注入した。サンプルを熱的プログラム(35℃で6分、24℃/分の昇温速度で200℃まで)に付した。キャリアガスは、N2 (17.6 ml/分)であり、熱的導電性検出器(230℃、2.0ml/分)を用いてサンプルを検出した。100%(v/v)標準ガスを用いて作成した検量線と比較することにより、H2(約3.3分)及びCH4 (約9.5分)を定量した。
【0032】
2. 結果
(1) 培養開始後、第1日、第7日及び第18日のMG1培地中の細胞数を図2に示す。図2に示されるように、M. maripaludisは、グリコーゲンを含むMG1培地中で増殖した。
(2) 第2日、第8日及び第12日における上部空間中の水素ガス濃度を図3に示す。図3に示すように、M. maripaludisは、グリコーゲンを含むMG1培地中での培養の間に水素ガスを生産した。
(3) [U-14C]グルコース-1-リン酸を用いた実験中のシンチレーションカウントの相対強度(DPM)を図4に示す。図4に示されるように、M. maripaludisは、おそらくグリコーゲン分解産物である [U-14C]グルコース-1-リン酸を資化した。
【実施例2】
【0033】
Methanococcus maripaludis のH2合成バッチ培養によるグリコーゲン消費を示す(3回の同じ実験(すなわち、3つの独立した培養物)を図5に示す)。興味深いことに、培養の終わりに、見かけの多糖類含量は増加した。これは、おそらく細胞溶解を示唆している。非常に大まかなH2の最少収率は、グルコース換算1モル当たり0.14モルであった。もっとも、存在するデータから収率を算出することは難しく、最大能力はおそらくもっと高い。
【0034】
遠心分離により細胞を除去した後の上清中に残るグリコーゲンは、先ず、市販のグリコアミラーゼ(SIGMA)を用いて加水分解し、次いで、市販のキット (GE Healthcare)を用いたD-グルコース分析により算出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコーゲン及び資化可能な窒素源を含む培地中で、該培地中の前記グリコーゲンを資化すると同時に水素ガスを生成し得る少なくとも1種の微生物を培養して水素ガスを生成させる工程と、
生成された前記水素ガスを回収する工程を含む、水素ガスの製造方法。
【請求項2】
前記微生物は、Methanococcus、Clostridium、Thermotoga、Caldicellulosiruptor及びPyrococcusから成る群より選択される属に属する少なくとも1種である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記微生物は、Methanococcus maripaludis、Clostridium acetobutylicum、Thermotoga Elfii、Thermotoga neapolitana、Thermotoga maritima、Caldicellulosiruptor saccharolyticus、Pyrococcus furiosus及びClostridium thermocellumから成る群よりから選択される少なくとも1種である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記微生物は、Methanococcus属に属する少なくとも1種である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記微生物がMethanococcus maripaludisである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
資化可能な前記窒素源が酵母エキスである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
生成された前記水素ガスが、細胞培養物の上部空間から回収される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記培地に含まれる前記グリコーゲンは、少なくとも1種のラン藻類に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
グリコーゲンを生産し細胞内に蓄積する少なくとも1種のラン藻類を、資化可能な炭素源及び窒素源を含む培地中で培養して該ラン藻類の細胞内にグリコーゲンを蓄積させ、該細胞を破壊し該グリコーゲンを回収する工程と、
該ラン藻類の細胞内に蓄積された前記グリコーゲンを回収する工程と、
このように回収したグリコーゲンと、培地中でグリコーゲンを資化すると同時に水素を生成し得る微生物により資化可能な窒素源とを含む培地を調製する工程と、
このように調製した培地を、請求項1から8のいずれか1項に記載の培地として用いて請求項1から8のいずれか1項に記載の方法を行う工程とを含む、水素ガスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−514410(P2010−514410A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526962(P2009−526962)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/JP2007/074776
【国際公開番号】WO2008/081765
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】