説明

水素充填装置及び水素充填方法

【課題】水素充填時における水素タンク内の温度変化を抑制するのに適した温度の水素を迅速に充填できる水素充填装置及び水素充填方法を提供する。
【解決手段】水素充填装置10は、高圧水素貯蔵タンク12から水素が充填される水素タンク14へ略大気温度の水素を供給する第1水素供給管路18と、高圧水素貯蔵タンク12から水素タンク14へ冷却されている水素を供給する第2水素供給管路20と、水素タンク14内の温度を測定するタンク内温度測定手段42とを備え、水素タンク14内の温度変化に応じて、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とが制御手段38により切換制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を貯蔵する水素タンクに水素を充填するための水素充填装置及び水素充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水素と酸素との電気化学反応により発電する燃料電池においては、燃料としての水素は、例えば高圧で水素タンクに貯蔵されて、前記燃料電池の近傍に配置される。このような水素タンクの水素充填量が低下した場合には、前記水素タンクは、該水素タンクよりも高圧の水素が貯蔵されている高圧水素貯蔵タンクに接続されて水素が充填補充される。
【0003】
ところで、上記のように、高圧の水素を高圧水素貯蔵タンクから水素タンクに充填する場合には、充填される側の水素タンク内で水素が発熱することが知られており、水素充填終了直後の水素タンク内温度は外気温度よりも高く、例えば、+70℃以上となる。このような場合、水素充填終了直後の水素タンク内の水素圧力は、上記のような温度上昇後の高温状態での圧力となっている。その後、水素タンク内の温度が大気温度程度まで低下すると、当該水素タンク内の水素圧力も水素充填終了直後に比べて低下することになる。これにより、上記のような温度上昇が生じる場合には、水素タンクへの水素充填量が不足するという問題があった。
【0004】
上記のような水素充填時における水素タンク内の温度上昇を抑制する方法として、特許文献1には、圧力ステージを複数段に異ならせた複数の高圧水素貯蔵タンクから、車両に搭載された水素タンクに水素を供給するための供給管路に、その内部を流れる水素を冷却するための冷却手段を設けることが記載されており、さらに、水素タンク内の温度をモニターしながら検出温度をフィードバックし、当該検出温度に応じて冷却手段により水素を冷却しながら水素タンクに充填することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−69332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の構成では、水素の供給管路に冷却手段を設け、水素タンク内の温度をモニターしながら検出温度を冷却手段にフィードバックしてから水素の冷却を開始するように構成されており、水素タンク内の冷却が必要とされてから、該水素タンクへ十分に冷却された水素が充填されるまでには相当な時間を要する。また、上記冷却された水素の充填により、水素タンク内の温度が過度に低下した場合には冷却手段を停止させ、その後、大気温度まで復帰した水素を水素タンク内へ充填する必要があり、水素タンク内に大気温度の水素が充填されるまでにも相当な時間を要する。すなわち、上記従来技術では、水素充填時における水素タンク内の温度上昇及び下降に対する充填水素温度の応答性が低く、水素タンク内の温度変化に迅速に対応した水素充填を行うことができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、水素タンクへの水素充填時における水素タンク内の温度変化を抑制するのに適した温度の水素を該水素タンクへ迅速に充填できると共に、水素充填終了直後の水素タンク内を略大気温度とすることが可能で、該水素タンクへの水素充填量を十分に確保できる水素充填装置及び水素充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水素充填装置は、水素タンクへ水素を充填する水素充填装置であって、第1の水素貯蔵源からの第1の温度の水素と、第2の水素貯蔵源からの前記第1の温度より低い第2の温度の水素とを切換えて前記水素タンクへ供給する切換手段と、前記水素タンク内の温度を測定する温度測定手段と、該温度測定手段により測定される前記水素タンク内の温度に応じて、前記切換手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、水素タンクに対して、第1の温度の水素と第2の温度の水素とを切換えて供給し、当該水素タンク内の温度変化を抑制するのに適した温度の水素を迅速に供給することができ、該水素タンクへの水素充填量を十分に確保することができる。
【0010】
また、前記第2の水素貯蔵源の水素を冷却可能に構成される冷却手段を備えると、第2の水素貯蔵源の水素を十分に冷却した状態で、前記水素タンクへ充填することができる。
【0011】
また、本発明の水素充填装置は、高圧水素貯蔵源と、該高圧水素貯蔵源から水素が充填される水素タンクへ、第1の温度の水素を供給する第1の水素供給管路と、前記高圧水素貯蔵源から前記水素タンクへ、前記第1の温度より低い第2の温度の水素を供給する第2の水素供給管路と、前記水素タンク内の温度を測定する温度測定手段と、前記第1の水素供給管路と前記第2の水素供給管路とを選択的に切換え可能な切換手段と、前記温度測定手段により測定される前記水素タンク内の温度に応じて、前記切換手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、水素タンクに対して、第1の水素供給管路と第2の水素供給管路から、当該水素タンク内の温度変化を抑制するのに適した温度の水素を迅速に供給することができ、前記水素タンクへの水素充填量を十分に確保することができる。
【0013】
また、前記第2の水素供給管路には、該第2の水素供給管路内の水素を冷却可能に構成される冷却手段を設け、前記第2の水素供給管路の、前記冷却手段よりも前記水素タンク側は、断熱手段により断熱するとよい。このようにすれば、第2の水素供給管路内の水素が十分に冷却された状態で水素タンクへ供給される。
【0014】
なお、前記切換手段が、前記第1の水素供給管路に設けられる第1のバルブと、前記第2の水素供給管路における前記冷却手段の出口側に設けられる第2のバルブとを含む場合に、前記制御手段は、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブの開閉を制御すると、簡単な構成により、本発明に係る水素充填装置が実現できる。
【0015】
さらにまた、前記第1の水素供給管路と前記第2の水素供給管路とは、前記水素タンクに接続される側の端部で連結され、該端部における前記第1の水素供給管路の出口と、前記第2の水素供給管路の出口とは、同一の出口であるとよい。また、前記第1の水素供給管路と前記第2の水素供給管路とは、被覆材により一体化されていることが好ましい。このような構成によれば、水素充填時の水素供給管路の取り回しが容易になり、作業性が向上する。
【0016】
本発明の水素充填方法は、水素タンクに水素を充填する水素充填方法であって、前記水素タンクへ、第1の温度で水素を供給し、前記水素タンクへ、前記第1の温度より低い第2の温度で水素を供給し、前記水素タンクへの水素充填時、温度測定手段により前記水素タンク内の温度を測定し、該測定された温度に応じて、前記第1の温度の水素と前記第2の温度の水素の供給を切換えて、前記水素タンクへ水素を充填することを特徴とする。
【0017】
このような方法によれば、水素タンクに対して、第1の温度の水素と第2の温度の水素とを切換えて供給し、水素タンク内の温度変化を抑制するのに適した温度の水素を迅速に供給しながら水素充填を行うことができ、水素タンクへの水素充填量を十分に確保することができる。
【0018】
また、前記水素タンク内の温度が所定の温度より低い場合には、前記第1の温度の水素を前記水素タンクへ充填し、前記水素タンク内の温度が所定の温度より高い場合には、前記第2の温度の水素を前記水素タンクへ水素を充填することが好ましい。このようにすれば、水素タンク内を所定の温度付近に維持しながら水素充填を行うことができ、水素タンクへ所望量の水素を充填できる。
【0019】
さらに、大気温度を測定する大気温度測定手段を用い、前記水素タンク内の温度と前記大気温度との差が所定の温度範囲より低い場合には、前記第1の温度の水素を前記水素タンクへ充填し、前記水素タンク内の温度と前記大気温度との差が所定の温度範囲より高い場合には、前記第2の温度の水素を前記水素タンクへ充填してもよい。このようにすれば、水素充填終了後の水素タンク内の温度を略大気温度とすることができ、水素タンクへの水素充填量を十分に確保することができる。
【0020】
さらにまた、前記水素タンクへの水素充填開始時には、前記第2の温度の水素を前記水素タンクへ充填すると、水素充填開始直後における水素タンク内の温度上昇の発生を回避することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、水素タンクへの水素充填時における水素タンク内の温度変化を抑制するのに適した温度の水素を該水素タンクへ迅速に充填できる。また、水素タンクへの水素充填時における水素タンク内の温度上昇を低減することが可能となり、該水素タンクへの十分な量の水素を充填できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の水素充填方法について、それを実施する水素充填装置との関係で好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態としての水素充填装置を示す概略構成図である。水素充填装置10は、高圧の水素が貯蔵されている高圧水素貯蔵源としての高圧水素貯蔵タンク12から、該高圧水素貯蔵タンク12よりも低圧の水素タンク14へ水素を充填する装置である。ここで、水素タンク14は、例えば、水素と酸素との電気化学反応により発電する燃料電池に対して燃料ガスとしての水素を貯蔵及び供給するものであり、高圧で水素を貯蔵するもの、水素の貯蔵と放出が可能な水素吸着剤を収容したもの、又は水素の吸着と放出が可能な水素吸着材、例えば錯体、活性炭、カーボンナノチューブ、アモルファスカーボン、グラファイトカーボン、ゼオライト若しくはメソポーラスシリケート等を収容したもの等、水素の貯蔵が可能なものであればよい。
【0024】
水素充填装置10は、水素タンク14へ充填するための高圧の水素が貯蔵されている高圧水素貯蔵タンク12と、該高圧水素貯蔵タンク12からの水素が供給される水素供給管路16と、該水素供給管路16が分岐点Aにて分岐する一方の第1の水素供給管路としての第1水素供給管路18と、前記分岐する他方の第2の水素供給管路としての第2水素供給管路20と、該第2水素供給管路20内の水素を冷却可能に構成される冷却手段22と、該冷却手段22により冷却される水素が流通する前記第2水素供給管路20を断熱するための断熱手段24とを有する。また、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とは、水素タンクに接続される側の端部である合流点Bにて連結され、水素供給管路26が配設される(図2参照)。すなわち、第1水素供給管路18の出口と第2水素供給管路20の出口とは、同一の出口を持つことになる。なお、図1中の参照符号30は、高圧水素貯蔵タンク12からの水素供給管路26と、水素タンク14とが接続される接続部を示している。
【0025】
冷却手段22は、第2水素供給管路20内の水素を十分に冷却できるものであればよく、本実施形態では、容器22a内が常に液体窒素22bで満たされ、該容器22a内にて第2水素供給管路20が蛇行することにより、該第2水素供給管路20内の水素が冷却される。なお、液体窒素22bの替わりに、例えば図示しない冷凍機により冷却手段22を構成することも可能であり、さらに、液体窒素22b中に図示しない冷凍機の冷却部を浸漬させて、当該液体窒素22bの気化、所謂ボイルオフを阻止するような構成にすることもできる。
【0026】
断熱手段24は、冷却手段22で冷却された水素の温度上昇を抑制すると共に、該冷却された水素が流通する第2水素供給管路20の外壁面への着霜や結露を防止するために設けられる。このような断熱手段24としては、第2水素供給管路20の外壁面にグラスウール、ロックウール若しくは発泡樹脂材等の所謂断熱材を巻きつけるもの、第2水素供給管路20を2重管として内側管を水素流通用とすると共に、外側管を真空として断熱するもの、又は前記2重管の外側管内に液体窒素等を流通させるもの等を用いることができる。
【0027】
また、水素充填装置10は、水素供給管路16に配設され高圧水素貯蔵タンク12から供給される水素の圧力を所定値に低減させるレギュレータ32と、第1水素供給管路18に配設され例えば電磁式開閉弁により構成される第1のバルブとしての第1バルブ34と、第2水素供給管路20に配設され前記第1バルブ34と同様に電磁式開閉弁により構成される第2のバルブとしての第2バルブ36とを有する。そして、第1バルブ34と第2バルブ36とは切換手段として、その開閉動作によって、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とを選択的に切換え可能であり、この切換えは、制御手段38により制御される。すなわち、第1バルブ34と第2バルブ36とは制御手段38と電気的に接続され、該制御手段38により開閉制御される。なお、制御手段38は、大気中に配置され、例えば熱電対である大気温度測定手段40と、水素タンク14内に配置され、例えば熱電対である温度測定手段としてのタンク内温度測定手段42とに電気的に接続され、これらの測定温度に応じて、上記のように、第1バルブ34と第2バルブ36とを切換制御するものであるが、詳細は後述する。
【0028】
ここで、本実施形態における接続部30について、図2を参照して説明する。図2は、接続部30周辺の拡大概略斜視図である。接続部30は、高圧水素貯蔵タンク12と水素タンク14とが着脱自在に接続される部分である。
【0029】
水素タンク14側には、水素タンク14内へ水素を充填するための供給口44と、タンク内温度測定手段42での測定温度を制御手段38に送信するための導線46とが設けられる。一方、高圧水素貯蔵タンク12側には、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とが合流点Bにて連結された後の水素供給管路26と、導線46からの信号を中継して制御手段38まで送信するための導線48とが設けられ、これらの周囲が被覆材50により被覆されている。そして、水素タンク14側の供給口44及び導線46に、高圧水素貯蔵タンク12側の水素供給管路26及び導線48が、夫々一体的に挿入され、着脱自在に接続される。特に、供給口44と水素供給管路26とは水素漏れ等が生じないように、カプラー式等の接続構造により確実に接続される。
【0030】
また、本実施形態の水素充填装置10では、図1に示すように、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とは、夫々第1バルブ34及び第2バルブ36よりも下流側(二次側)で被覆材50により一体化されている。図3は、このように一体化されている部分である、図1中の線III−IIIにおける断面図を示している。図3に示すように、第1水素供給管路18と、断熱手段24により断熱されている第2水素供給管路20とは、被覆材50により一体化されている。さらに、被覆材50内側部分での第1水素供給管路18と第2水素供給管路20との間隙部分52には、導線48が配設されている。
【0031】
なお、被覆材50としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル及びポリテトラフルオロエチレン等の樹脂性被覆材や、フレキシブルチューブ等が使用可能である。
【0032】
本実施形態では、上記のように、水素タンク14と高圧水素貯蔵タンク12とが、接続部30にて一箇所で連結されるため、水素タンク14側に、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とに夫々別個に接続される複数の供給口を設ける必要がなく、水素タンク14の構造の簡略化を図ることができる。また、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とが被覆材50により一体化されているため、水素タンク14への水素供給側である高圧水素貯蔵タンク12側の配管を1本の管として取り扱うことができ、水素充填時の取り回しが容易になり作業性が向上する。
【0033】
次に、以上のように構成される水素充填装置10の基本的な動作について説明する。
【0034】
先ず、接続部30により、高圧水素貯蔵タンク12に水素タンク14が接続される前は、第1バルブ34及び第2バルブ36は共に閉じられており、高圧水素貯蔵タンク12から供給される水素が、レギュレータ32により所定値に減圧された状態で、第1水素供給管路18では第1バルブ34の上流側(一次側)までの区間に、第2水素供給管路20では第2バルブ36の上流側(一次側)までの区間に満たされている。このとき、第2水素供給管路20側に満たされる水素は、冷却手段22により十分に冷却されている。
【0035】
次に、接続部30により、高圧水素貯蔵タンク12に水素タンク14が接続されると、第1バルブ34又は第2バルブ36のどちらか一方が開かれて、水素タンク14への水素充填が開始される。以下、先に第2バルブ36を開く場合と、先に第1バルブ34を開く場合とに区別して説明する。
【0036】
先ず、先に第2バルブ36を開く場合について説明する。この場合、水素タンク14への水素充填が開始されると、該水素タンク14内には、冷却手段22で冷却されている第2水素供給管路20からの第2の温度としての低温の水素が、断熱手段24によって、ほとんど温度上昇することなく、冷却されたままの状態で水素タンク14へ充填される。これにより、次第に水素タンク14内の温度が低下する。そして、水素タンク14内の温度が所定の温度以下となるか、又は水素タンク14内の温度と大気温度との差が所定の温度範囲以下となると、第2バルブ36が閉じられ、同時に第1バルブ34が開かれる。そうすると、即座に水素タンク14への水素供給が第2水素供給管路20から第1水素供給管路18に切換えられ、これにより、略大気温度の水素が水素タンク14へ迅速に充填される。
【0037】
その後、第1水素供給管路18からの略大気温度の水素により水素タンク14内が所定の温度以上となるか、又は水素タンク14内の温度と大気温度との差が所定の温度範囲以上となると、第1バルブ34が閉じられ、同時に第2バルブ36が開かれる。そうすると、即座に水素タンク14への水素供給が第1水素供給管路18から第2水素供給管路20に切換えられ、これにより、冷却手段により冷却されている水素が水素タンク14へ迅速に充填される。以後は、水素タンク14の水素圧力が所定の圧力になるまで、上記の手順が繰り返される。
【0038】
一方、先に第1バルブ34を開く場合には、水素タンク14への水素充填が開始されると、該水素タンク14内には、第1水素供給管路18からの第1の温度としての略大気温度の水素が充填され、次第に水素タンク14内の温度が上昇する。そして、水素タンク14内の温度が所定の温度以上となるか、又は水素タンク14内の温度と大気温度との差が所定の温度範囲以上となると、第1バルブ34が閉じられ、同時に第2バルブ36が開かれる。そうすると、即座に水素タンク14への水素供給が第1水素供給管路18から第2水素供給管路20に切換えられ、これにより、冷却手段22で冷却されている第2水素供給管路20内の水素が、断熱手段24によって、ほとんど温度上昇することなく、冷却されたままの状態で水素タンク14へ迅速に充填される。
【0039】
その後、第2水素供給管路20からの冷却されている水素により、水素タンク14内が所定の温度以下となるか、又は水素タンク14内の温度と大気温度との差が所定の温度範囲以下となると、第2バルブ36が閉じられ、同時に第1バルブ34が開かれる。そうすると、即座に水素タンク14への水素供給が第2水素供給管路20から第1水素供給管路18に切換えられ、これにより、略大気温度の水素が水素タンク14へ迅速に充填される。以後は、水素タンク14の水素圧力が所定の圧力になるまで、上記の手順が繰り返される。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る水素充填装置10によれば、水素タンク14内の温度変化に応じて、第1水素供給管路18からの略大気温度の水素の水素タンク14への充填と、第2水素供給管路20からの冷却手段22により冷却されている水素の水素タンク14への充填とを、迅速に切換えることが可能となる。すなわち、このような迅速な切換えにより、水素タンク14への水素充填時における水素タンク14内の温度上昇及び下降を緩和するのに適した温度の水素を、該水素タンクへ即座に充填できると共に、水素充填終了直後の水素タンク14内を略大気温度とすることが可能となり、水素タンク14への水素充填量を十分に確保することが可能となる。
【0041】
次に、上記実施形態に係る水素充填装置10を用いる水素充填方法について、図4及び図5を参照して説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではないのは当然である。図4及び図5は、本実施形態の水素充填方法による水素充填時における、水素充填時間(分)に対する、水素タンク14内の温度(℃)及び圧力(MPa)の変化と、第1バルブ34及び第2バルブ36の開閉のタイミングとを示す説明図であり、図4は、水素タンク14への水素充填開始時に第1バルブ34よりも第2バルブ36を先に開く場合のもの(以下、第1の水素充填方法とする)であり、図5は、水素タンク14への水素充填開始時に第1バルブ34を第2バルブ36よりも先に開く場合のもの(以下、第2の水素充填方法とする)である。
【0042】
本実施形態に係る水素充填方法では、高圧水素貯蔵タンク12内の水素圧力42MPaの水素をレギュレータ32で減圧し、水素タンク14内の水素圧力が35MPaになるまで充填するものとし、その水素充填時間は約5分である。また、冷却手段22としては、ステンレス製の容器18a内に約−196℃の液体窒素18bを蓄えるものを使用し、断熱手段24としては、第2水素供給管路20の外壁面に断熱材としてのグラスウールを巻きつけるものを使用するものとする。
【0043】
先ず、図4及び図5の横軸に示す水素充填時間(分)における0分より左側、すなわち水素充填開始前には、第1バルブ34及び第2バルブ36は、共に閉じられており、高圧水素貯蔵タンク12から供給される水素が、レギュレータ32により所定値である35MPaに減圧されて、第1水素供給管路18では第1バルブ34の上流側(一次側)までの区間に、第2水素供給管路20では第2バルブ36の上流側(一次側)までの区間に満たされている。このとき、第2水素供給管路20側に満たされている水素は、冷却手段22により約−120℃に冷却されている。
【0044】
次に、接続部30にて、高圧水素貯蔵タンク12側の水素供給管路26と、水素タンク14の供給口44とが接続されることにより、高圧水素貯蔵タンク12から水素タンク14への水素充填が可能となる。同時に、導線48と導線46も接続され、水素タンク14内に配置されるタンク内温度測定手段42が制御手段38に電気的に接続される。
【0045】
そして、大気温度測定手段40により測定される大気温度(外気温度)T1と、タンク内温度測定手段42により測定される水素タンク14内の温度T2の温度情報が、制御手段38に送信開始され、これらの温度情報は、制御手段38によりモニタリングされる。さらに、制御手段38は、水素タンク14内の温度T2と、大気温度T1との差ΔT(ΔT=T2−T1)を算出し、後述する工程において、該ΔTの変化に基づいて、第1バルブ34及び第2バルブ36を開閉制御することにより、高圧水素貯蔵タンク12から水素タンク14へ供給される水素の流通管路が、第2水素供給管路20から第1水素供給管路18へと迅速に切換制御される。
【0046】
ところで、通常の水素充填時においては、水素タンク14内の温度変化に比べて、大気温度の温度変化は微小であるため、大気温度測定手段40を用いずに、水素タンク14内の温度変化に応じて、例えば、水素タンク14内の温度が所定の温度範囲になるように、後述する第1バルブ34及び第2バルブ36の開閉制御を実行して、上記のような切換制御を行ってもよい。また、大気温度T1の替わりに予め設定される目標温度T3を用い、上記ΔTの替わりにΔT2(ΔT2=T2−T3)を用いて、該ΔT2が所定の温度範囲になるように、後述する第1バルブ34及び第2バルブ36の開閉制御を実行して、上記のような切換制御を行ってもよい。
【0047】
次に、図4を参照して、本実施形態における第1の水素充填方法について説明する。この場合、水素タンク14への水素充填開始時に、第1バルブ34よりも第2バルブ36が先に開かれ、水素タンク14内には第2水素供給管路20からの冷却されている水素が最初に充填される。なお、上記したように、大気温度の水素を水素タンク14内に充填すると、該水素タンク14内の温度が大幅に上昇する。そこで、ここで説明する第1の水素充填方法は、水素充填開始直後での上記のような温度上昇の発生を回避するために、先ず最初に、冷却されている水素を水素タンク14内に充填するものである。
【0048】
すなわち、先ず、第1バルブ34を閉じている状態で第2バルブ36を開き、第2水素供給管路20内の冷却されている水素を水素タンク14内に充填開始する。
【0049】
そして、水素タンク14内の温度が次第に低下し、水素タンク14内の温度T2と大気温度T1との差であるΔTが、−10℃以下となった場合には、制御手段38により、第2バルブ36が閉じられ、同時に第1バルブ34が開かれ、即座に大気温度の水素が第1水素供給管路18から水素タンク14へ充填開始される。すなわち、制御手段38により、高圧水素貯蔵タンク12から水素タンク14へ供給される水素の流通管路が、第2水素供給管路20から第1水素供給管路18へと迅速に切換制御される。その後、水素タンク14内の温度が次第に上昇し、ΔTが、+10℃以上となった場合には、制御手段38により、第1バルブ34が閉じられ、同時に第2バルブ36が開かれ、即座に第2水素供給管路20内の冷却されている水素が水素タンク14へ充填開始される。以後は、水素タンク14の水素圧力が35MPaになるまで、上記の第1バルブ34及び第2バルブ36の開閉制御による、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20の選択的な切換制御が繰り返される。
【0050】
次に、図5を参照して、本実施形態における第2の水素充填方法について説明する。この場合、水素タンク14への充填開始時に、上記第1の水素充填方法とは反対に、第1バルブ34が第2バルブ36よりも先に開かれ、水素タンク14内には第1水素供給管路18からの略大気温度の水素が最初に充填される。本第2の水素充填方法は、上記第1の水素充填方法で説明したような、水素充填開始直後の温度上昇の発生を回避することは困難となるが、大気温度が低い冬場や寒冷地等での水素充填時において、水素タンク14が非常に冷えている場合等では有効である。なお、本第2の水素充填方法では、上記のように、水素タンク14への水素充填開始時のバルブ制御が反対である以外は、上記第1の水素充填方法と同様であるので、以下、詳細な説明は省略する。
【0051】
すなわち、先ず、第2バルブ36を閉じている状態で第1バルブ34を開き、第1水素供給管路18内の略大気温度の水素を水素タンク14内に充填開始する。その後は、上記第1の水素充填方法と同様に、ΔTが、−10℃以下又は+10℃以上となった場合に、制御手段38により、第1バルブ34及び第2バルブ36が開閉制御され、高圧水素貯蔵タンク12から水素タンク14へ供給される水素の流通管路が、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とで迅速に切換制御される。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る水素充填方法によれば、水素タンク14内の温度T2と、大気温度T1との差ΔTの変化に基づいて、第1バルブ34及び第2バルブ36を開閉制御することにより、高圧水素貯蔵タンク12から水素タンク14へ供給される水素の流通管路が、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20とで迅速に切換制御され、水素タンク14内の温度変化が抑制される。また、水素充填終了直後の水素タンク14内を略大気温度とすることができ、該水素タンク14への水素充填量が十分に確保される。例えば、上記第1及び第2の水素充填方法によれば、水素タンク14内の温度T2と大気温度T1との差ΔTが、所定の温度範囲である、−10℃〜+10℃となるように制御することにより、水素充填終了直後の水素タンク14内の水素圧力は、当該水素充填時での大気温度における水素圧力35MPaに対して97%以上、すなわち34MPa以上を確保することができる。
【0053】
以上、上記実施形態により本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは当然可能である。
【0054】
例えば、上記実施形態における第1及び第2の水素充填方法は、大気温度測定手段40により測定される大気温度(外気温度)に応じて適用することができ、大気温度が所定温度より低い場合には、上記第2の水素充填方法を実行し、それ以外の場合には、上記第1の水素充填方法を実行するように、切換えながら用いることもできる。
【0055】
また、上記のように、大気温度T1の替わりに、予め設定される目標温度T3を用い、上記ΔTの替わりにΔT2(ΔT2=T2−T3)を用いて、該ΔT2が所定の温度範囲になるように、第1バルブ34及び第2バルブ36の開閉制御を実行し、第1水素供給管路18と第2水素供給管路20との切換制御を行う水素充填方法では、例えば、商業的に水素タンク14への水素充填が行われるような図示しない水素充填ステーション等において、上記目標温度T3を一律に規定しておくことにより、夏場や冬場等の大気温度の変化に関係なく、水素タンク14内へ一定量の水素を充填することが可能となる。
【0056】
なお、上記実施形態では、第1水素供給管路18が大気温度の水素を水素タンク14へ供給する第1の水素貯蔵源として、第2水素供給管路20が低温の水素を水素タンク14へ供給する第2の水素貯蔵源として機能するので、例えば、高圧水素貯蔵タンク12を複数用意して、そのうちの1個を第1の水素貯蔵源として、他の1個を第2の水素貯蔵源として機能するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る水素充填装置を示す概略構成図である。
【図2】前記実施形態に係る接続部の周辺部の拡大概略斜視図である。
【図3】図1中の線III−IIIにおける断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る水素充填方法による水素充填時において、第2バルブを最初に開く場合における、水素充填時間に対する、水素タンク内の温度及び圧力の変化と、充填時での第1バルブと第2バルブの開閉タイミングとを示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る水素充填方法による水素充填時において、第1バルブを最初に開く場合における、水素充填時間に対する、水素タンク内の温度及び圧力の変化と、充填時での第1バルブと第2バルブの開閉タイミングとを示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
10…水素充填装置 12…高圧水素貯蔵タンク
14…水素タンク 16、26…水素供給管路
18…第1水素供給管路 20…第2水素供給管路
22…冷却手段 24…断熱手段
30…接続部 32…レギュレータ
34…第1バルブ 36…第2バルブ
38…制御手段 40…大気温度測定手段
42…タンク内温度測定手段 44…供給口
46、48…導線 50…被覆材
52…間隙部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素タンクへ水素を充填する水素充填装置であって、
第1の水素貯蔵源からの第1の温度の水素と、第2の水素貯蔵源からの前記第1の温度より低い第2の温度の水素とを切換えて前記水素タンクへ供給する切換手段と、
前記水素タンク内の温度を測定する温度測定手段と、
該温度測定手段により測定される前記水素タンク内の温度に応じて、前記切換手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする水素充填装置。
【請求項2】
請求項1記載の水素充填装置において、
前記第2の水素貯蔵源の水素を冷却可能に構成される冷却手段を備えることを特徴とする水素充填装置。
【請求項3】
高圧水素貯蔵源と、
該高圧水素貯蔵源から水素が充填される水素タンクへ、第1の温度の水素を供給する第1の水素供給管路と、
前記高圧水素貯蔵源から前記水素タンクへ、前記第1の温度より低い第2の温度の水素を供給する第2の水素供給管路と、
前記水素タンク内の温度を測定する温度測定手段と、
前記第1の水素供給管路と前記第2の水素供給管路とを選択的に切換え可能な切換手段と、
前記温度測定手段により測定される前記水素タンク内の温度に応じて、前記切換手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする水素充填装置。
【請求項4】
請求項3記載の水素充填装置において、
前記第2の水素供給管路には、該第2の水素供給管路内の水素を冷却可能に構成される冷却手段が設けられ、
前記第2の水素供給管路の、前記冷却手段よりも前記水素タンク側は、断熱手段により断熱されていることを特徴とする水素充填装置。
【請求項5】
請求項4記載の水素充填装置において、
前記切換手段は、前記第1の水素供給管路に設けられる第1のバルブと、前記第2の水素供給管路における前記冷却手段の出口側に設けられる第2のバルブとを含み、
前記制御手段は、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブの開閉を制御することを特徴とする水素充填装置。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれか1項に記載の水素充填装置において、
前記第1の水素供給管路と前記第2の水素供給管路とは、前記水素タンクに接続される側の端部で連結され、該端部における前記第1の水素供給管路の出口と、前記第2の水素供給管路の出口とは、同一の出口であることを特徴とする水素充填装置。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか1項に記載の水素充填装置において、
前記第1の水素供給管路と前記第2の水素供給管路とは、被覆材により一体化されていることを特徴とする水素充填装置。
【請求項8】
水素タンクに水素を充填する水素充填方法であって、
前記水素タンクへ、第1の温度で水素を供給し、
前記水素タンクへ、前記第1の温度より低い第2の温度で水素を供給し、
前記水素タンクへの水素充填時、温度測定手段により前記水素タンク内の温度を測定し、該測定された温度に応じて、前記第1の温度の水素と前記第2の温度の水素の供給を切換えて、前記水素タンクへ水素を充填することを特徴とする水素充填方法。
【請求項9】
請求項8記載の水素充填方法において、
前記水素タンク内の温度が所定の温度より低い場合には、前記第1の温度の水素を前記水素タンクへ充填し、
前記水素タンク内の温度が所定の温度より高い場合には、前記第2の温度の水素を前記水素タンクへ水素を充填することを特徴とする水素充填方法。
【請求項10】
請求項8記載の水素充填方法において、
大気温度を測定する大気温度測定手段を用い、
前記水素タンク内の温度と前記大気温度との差が所定の温度範囲より低い場合には、前記第1の温度の水素を前記水素タンクへ充填し、
前記水素タンク内の温度と前記大気温度との差が所定の温度範囲より高い場合には、前記第2の温度の水素を前記水素タンクへ充填することを特徴とする水素充填方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれか1項に記載の水素充填方法において、
前記水素タンクへの水素充填開始時には、前記第2の温度の水素を前記水素タンクへ充填することを特徴とする水素充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−147005(P2007−147005A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344290(P2005−344290)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】