説明

水素化分解法用添加物、その製造法及び使用法

【課題】水素化分解法の反応量を改善しかつ高転化率を得る。
【解決手段】水素化分解法の添加物は、粒径約0.1〜約2,000μm、嵩密度約500〜約2,000kg/m3、見かけ密度約1,000〜約2,000kg/m3及び湿気0〜約5重量%を有する固体有機材料を含む。水素化分解工程用添加物の製造法及び使用法も提供する。本発明の添加物を使用して、高い転換レベルで水素化分解法を実施できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化分解用触媒工程に使用する添加物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常の水素転化法の一公知例は、2008年5月1日に出願されて、本願の優先権主張の基礎となる米国特許出願と同時に米国特許庁に係属する同一承継人の下記特許文献1に開示される。前記米国出願に開示される方法では、予め水溶液又は他の溶液で触媒を生成し、単一又は2種以上の油水溶液触媒エマルジョンを準備した後、油水溶液エマルジョンを原料に混合して、得られる混合物の水素化分解が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0023965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記米国出願に開示される方法は、所望の水素化分解(水素転化)に通常有効である。しかしながら、使用する触媒が高価になる点に留意すべきである。再利用できる触媒を回収する方法を見出すことが有利である。
【0005】
また、水素化分解反応器内に発生する発泡等の作用は、多くの有害な作用を招来するので、有害な発泡作用等を解消する解決法を提供することが望ましい。
【0006】
高含有量の金属、硫黄及びアスファルテンを含む重質残留分(重質残油)に通常使用する水素化分解法では、再生可能な高濃度の触媒を使用しない限り、80重量%を超える高分解率を達成できない。
【0007】
反応器内の発泡制御に使用する公知の添加物は、高価であり、反応領域で化学的に分解されて、一層処理の困難な副産物等になることがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、触媒水素化分解工程用添加物が触媒金属と原料金属とを抽出する作用と、工程反応器から発生する流動重質物又は非分解(非転化)残留物質内に触媒金属と原料金属とを凝縮し濃縮する作用とを生じ、これにより流動重質物を処理して、触媒金属と原料金属を回収できる触媒水素化分解工程用添加物を提供するものである。流動重質物を薄片状物質(フレーク)に加工することができる。また、薄片状物質を更に処理して、触媒金属と本来原料中に含まれる他の金属とを薄片状物質から回収できる。前記処理法により、回収した金属を工程中で有利に再使用し又は他の方法で有利に処理できる。
【0009】
水素化分解法は、バナジウム及び/又はニッケルを含む重質原料、8族〜10族の少なくとも1種の金属及び6族の少なくとも1種の金属を含む触媒エマルジョン、水素並びに有機添加物を水素化分解状態にある水素化分解領域に供給する工程と、8族〜10族の前記金属、6族の前記金属及びバナジウムを含む固体炭素系物質と改質された炭化水素生成物とを生成する工程を含む。本明細書では、触媒エマルジョン中の金属を触媒金属といい、重質原料中の金属を原料金属という。
【0010】
また、添加物を使用して、反応器内の全流体動態を制御しかつ向上できる。これにより、反応器内で添加物を使用して発泡抑制作用を発生し、発泡の抑制により、工程中の温度も良好に制御できる。
【0011】
添加物は、コークス、カーボンブラック、活性コークス、煤及びそれらの組み合せから成る群から選択される有機添加物が好ましい。コークスの好適な原料は、列挙するものに限定されないが、硬質炭又は無煙炭から生成されるコークス及び未処理残留分(未処理残油)等を水素化処理し又は炭素を除去したコークスである。
【0012】
通例、初留温度500℃程度の減圧残留分(減圧残油)として重質留分等の原料の液相水素化分解工程に前記添加物を有利に使用できる。
【0013】
水素化分解工程では、反応領域内で水素、単一又は2つ以上の超分散触媒、硫黄剤及び有機添加物に原料を接触させる。有機添加物は、他の用途にも適するが、上向並流三相気泡塔型反応器内で好適な一工程が実施される。上向並流三相気泡塔型反応器では、重質原料に対して約0.5〜約5.0重量%の量で、好ましくは粒径約0.1〜約2,000μmの有機添加物を工程に添加することができる。
【0014】
本発明では、有機添加物を使用して、本明細書中に記載するように水素化分解工程を実施すれば、有機添加物は、例えば、ニッケル及びモリブデン等の触媒金属を水素化分解工程から除去する作用があり、更に、通例バナジウム等の原料金属を重質原料から除去する作用も生ずることができる。このように、液相水素化分解工程の生成物は、非常に改質された炭化水素生成物と、原料金属と触媒金属等の金属を含有する非分解残留分(残油)とを含む。例えば、重質炭化水素、有機添加物、濃縮された触媒金属及び原料金属を含む非分解残油を固体、即ち薄片状物質に処理できる。薄片状物質は、回収可能な貴重な金属原料となる。
【発明の効果】
【0015】
重質原料の非分解残留分を薄片状物質に処理して再利用すると共に、薄片状物質から触媒金属と原料金属とを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1〜図6について本発明の好適な実施の形態を以下詳細に説明する。
【図1】本発明による水素化分解法の概念を示す略示図
【図2】本発明による有機添加物の製造法を示す略示図
【図3】本発明による有機添加物を使用する利点を示す略示図
【図4】本発明の有機添加物を使用する反応器内部の温度変化を示す略示図
【図5】本発明の有機添加物を使用するときの流体動態制御に対する反応器内の圧力差変化を示す略示図
【図6】本発明の有機添加物を使用するときの相分布に対する反応器内の圧力差変化を示す略示図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、重質原料の触媒水素化分解法に使用する添加物に関する。触媒金属と原料金属の捕捉剤として作用する添加物は、後に抽出される触媒金属と原料金属とを残留相内に凝縮し又は濃縮する作用がある。また、発泡制御剤となる添加物を使用して、全工程条件を改質できる。
【0018】
図1に示す水素化分解装置200を使用して、水素化分解法を以下簡単に説明する。水素化分解法では、高水素分圧状態でかつ高温状態にある水素化分解状態でかつ添加物の表面に金属を濃縮させる添加物の存在下で、8族〜10族の少なくとも1種の金属及び6族の少なくとも1種の金属を含む1種、2種又は3種以上のエマルジョン(油中水滴型エマルジョン)からなる触媒にバナジウム及び/又はニッケルを含む原料を接触させて、金属回収工程をより容易に行うことができる。
【0019】
水素化分解装置200内で原料を水素化分解又は水素化転化すると、水素化分解装置200から流出する流体は、改質された炭化水素相と残油とを含み、改質された炭化水素相は、液相と気相とに分離され、分離された液相と気相とを更に処理しかつ/又は所望により気体回収装置に供給する一方、他方では、有機添加物を含む残油(除去される触媒金属と原料金属とを含む)は、凝固され又は固形物の豊富な流体に分離されて、金属回収装置に供給され、非分解減圧残油が再利用される。
【0020】
水素化分解工程の原料は、どのような重質炭化水素でもよいが、特に好適な原料は、下表1に示す特性を有する減圧残留分(減圧残油)である。
【0021】
【表1】

【0022】
限定列挙ではないが、タールサンド(極めて粘質な油分を含む砂岩)及び/又はビチューメン(瀝青、堆積岩中の有機物のうち、有機溶媒に溶出する有機物)から得られる他の原料も重質原料として使用できる。
【0023】
例えば、真空蒸留装置(VDU)又は他の適切な供給源から減圧残油(VR)を重質原料として供給できる。バナジウム及び/又はニッケル等の原料金属を含みかつ水素化分解により特に有効に改質できる種類であれば、他の類似の原料を重質原料として使用できる。
【0024】
前記のように、コークス、カーボンブラック、活性コークス、煤及びそれらの混合物等の有機添加物を添加物として使用することが好ましい。多くの何れの供給源からも得られる前記添加物は、非常に安価で容易に調達できる。粒径約0.1〜約2,000μmの有機添加物が好ましい。
【0025】
米国特許出願公開第2009/0023965号公報に開示される金属相を触媒として使用することが好ましい。元素周期表の8族、9族又は10族から選択される一方の金属と、元素周期表の6族から選択される他方の金属とにより、金属相を形成することが有利である。旧周期表では、VIA族金属及びVIIIA族金属又はVIB族金属及びVIIIB族金属とも前記金属を指称する。
【0026】
各類の金属を異なるエマルジョン中に配合し、原料と共に個別に又は一緒に前記エマルジョンを供給材料として高温反応領域中に配置して、高温反応領域の高温によりエマルジョンを分解し、所望通り原料中に分散される触媒相を形成することが有利である。本発明の範囲では、単一のエマルジョン中でも異なる複数のエマルジョン中でもいずれでも前記金属を配合できるが、個別の又は異なるエマルジョン中に前記金属を配合することが特に好ましい。
【0027】
8族〜10族の金属には、ニッケル、コバルト、鉄及びそれらの組み合せが好適であり、6族の金属には、モリブデン、タングステン及びそれらの組み合せが好適である。特に好適な組み合せ金属は、ニッケルとモリブデンである。
【0028】
水素化分解法の好適な実施の形態は、米国特許出願第61/264075号に開示され、その内容を参照することにより、本明細書の一部とする。前記水素化分解法では、2種以上の金属を使用できる。例えば、8族、9族又は10族から2種又はそれ以上の金属をエマルジョンの触媒相に配合することができる。
【0029】
重質原料に対する触媒金属の重量比率が約50〜約1,000重量ppm(wtppm)となるのに十分な量で、単一又は複数の触媒エマルジョン及び重質原料を反応器に供給することが好ましい。
【0030】
如何なる適切な供給源からでも水素化分解工程に水素を供給できる。
【0031】
下記表2に反応条件を示す。
【0032】
【表2】

【0033】
また、本発明では、懸濁液(スラリー又は泥漿)供給工程にある水素化分解装置200は、減圧残油(VR)を収容する。原料に対して濃度0.5〜5重量%の添加物粒子を減圧残油に添加して、混合物は、攪拌される。ゲージ圧力で20MPaG(200barg)を超える高い圧力を発生する高圧スラリーポンプにより、水素化分解装置200内で懸濁液を汲み上げて攪拌することが好ましい。また、400℃を超える高温に水素化分解装置200内の懸濁液を加熱することが好ましい。触媒エマルジョン、硫黄剤及び水素は、上流からスラリー供給部に注入される。必要に応じて、懸濁液を加熱するスラリー炉の後段で更に水素を添加することができる。
【0034】
減圧残油、有機添加物、触媒エマルジョン、硫黄剤及び水素の全混合物を反応器内に導入し、全混合物は、所望の軽量物質に徹底的に水素化分解(水素化転化)される。水素化分解される多くの物質は、高圧高温分離器内で蒸気として分離され、水素化処理及び必要に応じて更に水素化分解を行う次の装置に分離された蒸気を送出することができる。
【0035】
一方、分離器の底部に滞留する重質懸濁液状態の生成物は、真空蒸留装置に送られ、残留する全ての軽量物質は、減圧下で回収され、非分解残油である最終底部残油を他種の工程に送出して、固体物質に転化することができる。
【0036】
特定の原料から得られる通常の収率を下表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
真空蒸留装置の1つは、底部残油を固形物質に転化できる薄片成形器(フレーカ)でもよい。得られる薄片状物質は、有利な下記組成を有する。
【0039】
【表4−1】

【0040】
【表4−2】

【0041】
表4に示す単位「% OFF」は、高温ガスクロマトグラフィー分析法を使用して、誘導蒸留(米国材料試験協会規格ASTM-D7169)により推定される蒸留時の蒸気凝縮液体の百分率、即ち、留出物の百分率(重量%)を示す。薄片状物質は、残留する有機添加物、触媒金属及び原料金属を含み、原料金属は、本発明の工程により触媒を使用して取り出され、薄片状物質は、便利な金属供給源として需要者にそのまま提供でき、燃料として使用でき、又は、更に処理して、工程用触媒等として再利用する金属を薄片状物質から抽出することができる。
【0042】
勿論、水素化分解工程に使用される触媒金属のみならず、原料に固有のバナジウム等の特定の金属も回収すべき金属に含まれる。
【0043】
前述のように、有機添加物は、米国特許出願第61/264075号に開示される水素化分解法の重要点である。例えば、硬質炭又は無煙炭、活性コークス、気体化装置から得られる煤煙、水素化分解又は炭素拒否反応により発生するコークスを含む多数の原料から生成されるコークス、カーボンブラック、未処理残留分(未処理残油)等多数の原料から有機添加物を得ることができる。多数の前記原料により、容易に利用可能かつ入手可能な原料から添加物を生成できよう。前記原料から有機添加物を生成する方法を以下説明するが、本発明の添加物として最終的に使用される好適な有機添加物は、粒径約0.1〜約2,000μm、嵩密度(容積密度)約500〜約2,000kg/m3、見かけ密度約1,000〜約2,000kg/m3、湿気0〜約5重量%を有する。より好適には、粒径約20〜約1,000μmである。
【0044】
本発明の添加物を製造する方法を図2に示す。開始時の出発原料は、通例上記の通りであり、下記特性を有する:嵩密度約500〜2,000kg/m3、湿気約5〜約20重量%、硬度約20HGI〜約100HGI、最大粒径約5〜約10cm。HGIは、一定量の仕事量を砕料に加えて得られる砕成物量で定まる指数により粉砕の容易性を表すハードグローブ粉砕性指数である。最初に第1の精粒所61に出発原料を供給して、出発原料を精粒し、約10桁だけ粒径を低減することが好ましい。予め精粒された粒子は、通例粒径約20mm〜約20μmを有し、乾燥領域62に搬送される。乾燥領域62では、空気流中に粒子を暴露して、約5重量%wt未満に粒子から湿気を除去することが好ましい。得られる乾燥粒子を第1の分類領域63に搬送して、第1の分類領域63で、例えば、約1000μm未満の所望粒度基準に適合する第1群粒径と、粒度基準に適合しない第2群粒径とに乾燥粒子が分粒される。図示のように、第1群粒径に適合する乾燥粒子は、第2の分類領域66に供給され、更に精粒する必要のある第2群粒径の乾燥粒子を第2の精粒所64に運搬して、更に精粒し又は機械的処理により粒度を減少することが好ましい。更に精粒した生成物を別の分類領域65に供給し、追加精粒により粒度基準に適合する粒子を更に搬送して、先に粒度基準に適合する粒子に混合し、必要に応じて粒度基準に未だ満たない粒子を第2の精粒所64に戻して再利用する。
【0045】
所望の粒度基準に満たない粒子が第2の分類領域66で見つかると、この原料を、他の原料から分離して集塊所70に運搬し、化学物質との混合により粒子を粒状化して、より大きな直径を有する粒子を得ることができる。一方、第2の分類領域66で粒度基準に適合する粒子は、熱処理所67に搬送され、熱処理所67では、加熱空気流に粒子を暴露して、約300℃〜約1,000℃以下の温度に粒子を加熱し、多孔化(porogenesis)処理が実施される。多孔化処理により、粒子の加熱時の粒子に多数の孔が形成される。加熱された粒子を冷却所68に搬送して、水冷却空気流で粒子が冷却される。得られる粒子は、約80℃未満の温度を有する。
【0046】
加熱後に冷却される粒子は、更に別の分類領域69に直ちに供給され、所望の粒度基準に満たない全ての粒子も再び分離することができる。粒度基準に適合する粒子を本発明の添加物として使用できるが、粒度基準に満たない粒子は、集塊領域70に送られる。
【0047】
理想的には、原料に対して約0.5〜約5重量%の有機添加物を使用して、この量により触媒金属と原料金属との両方を取出すと共に、反応器内の有害な発泡を制御し、より安定でかつ効率的な状態を反応器内に形成することができる。
【0048】
本発明の添加物を使用するとき、約4cm/s又はこれ以上の気体速度で反応器内に反応が発生することが有効である。
【0049】
有利な前記工程条件により、アスファルテン転化率少なくとも約75重量%及びコンラドソン炭素転化率(コンラドソン法:日本工業規格K2270の原油及び石油製品残留炭素分試験方法)少なくとも約70重量%で、水素化分解を行うことができるが、別方として従来技術を使用して前記転化率を確立することは、困難か又は不可能である。
【0050】
図3の2つの図は、水素化分解工程が行われる反応器の内部を示す。図3の左側図は、本発明の添加物を全く加えずに水素化分解工程を実施する反応器を示す。図示のように、図3の左側図では、液体のみを含む下部と、約60〜約70体積(v)%の発泡と気体とを含む上部との二相反応である。本発明の添加物が作用する同様の反応器を示す図3の右側図では、反応器内の約60〜約70体積%は、液相と固体相とで満たされ、反応器内の上部約20〜約30体積%中に気体が含まれて、発泡が良好に制御される。
【0051】
気体と液体とがより良好に接触して、気泡の破壊により泡が減少するので、気体拡散問題を抑制できる。本発明の添加物を使用して確立できる気泡減少状態により、より効果的に水素化分解(水素化転化)を促進し、より良好に温度を制御できると共に、不要な過熱点を減少することができる。
【0052】
水素化分解装置200の水素化分解反応過程間に、原料中の最重質成分は、自身の反応で生成される軽質留分に対し不溶性になる傾向がある。2つの疑似成分(アスファルテン及びマルテン)の溶解度媒介変数間の差異が臨界値に接近するとき、高温により、芳香族群(クラスタ)の重合反応と縮合反応とが推進され、水素化分解装置200は、アスファルテン沈殿物とコークス組成物とを沈殿物として発生する。有機添加物によりコークスとアスファルテンとを捕捉する効果により、非常に高い転換水準が得られると共に、残油損失量を安定して制御できる。この結果、最大転化率を達成できる。抽出効果を例1に示す。
【0053】
例1:コークス/アスファルテン捕捉率
例1は、アスファルテン、コークス及び/又は重縮合環式芳香族化合物の炭素質添加物による捕捉性能を示す。
【0054】
例1では、ペトロスアタ社製石油コークスを使用して炭素質添加物を製造し、遅延コークス化工程によりこのコークスを生成した。空気を含む適度な燃焼工程(多孔化工程)により、このコークスを熱処理して、多孔質表面領域を形成した。約200〜900μmに粒径を調整し、図2に示すシステム装置により、炭素質添加物を生成し、下記実験を行った。
【0055】
表5は、ペトロスアタ社製コークス組成を示す。
【0056】
【表5】

【0057】
メレイ/メサ減圧残油(VR)10gにトルエン100mlを混合し、混合物を撹拌して、減圧残油を溶解させた。溶解後、n−ヘプタン120mlを添加して、10分間撹拌した。その後、1.5重量%の量の炭素質添加物を減圧残油に添加した。その後、24時間混合物を撹拌した。最後に、試料を濾過し、n−ヘプタンで洗浄した後、炭素質添加物を乾燥炉内で4時間乾燥した。乾燥後、冷却して得られた固体を計量した。使用した添加物の初期量により、使用した添加物のグラム当たりの残留アスファルテン量を算出した。
【0058】
表6は、炭素質添加物の孔径、表面積及びアスファルテン捕捉率を示す。
【0059】
【表6】

【0060】
例2:金属捕捉
例2は、炭素質添加物の金属捕捉率を示す。
【0061】
例2では、非分解減圧残油と残留有機添加物とを含む薄片状物質を使用して、水素化分解工程(水素化転化工程)の金属組成と残部金属群を定量化した。
【0062】
この例では、溶媒としてトルエンを使用し、溶媒分解法により残留する有機添加物を分離した。図1に示す装置により、薄片状物質を生成し、下記実験を実施した。
【0063】
薄片状物質50.00gを熱いトルエン350ml中に溶解した後、1500回転数/分(rpm)で20分間混合物を撹拌して、添加物の非分解残油を分離した。固体を別の容器に移し、連続抽出法であるトルエン・ソックスレー抽出法(toluene Soxhlet extraction)により、抽出すべき化合物に新鮮な溶媒を継続的に流して、洗浄した。洗浄後、真空炉内の温度130℃で2時間固体を乾燥した。トルエンを蒸発させて、非分解減圧残油を回収した。例2では、乾燥固体量は、4.9gであった。
【0064】
最後に、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)により、固体内と非分解減圧残油内の金属組成を測定した。
【0065】
薄片状物質、添加物及び非分解減圧残油中に含まれるモリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)及び鉄(Fe)の含有量を表7に示す。
【0066】
【表7】

【0067】
但し、注a:乾燥固体中の算出金属組成=乾燥固体分析値*乾燥固体測定値(g)/薄片状物質測定値(g)、注b:100%を超える回収率は、実験誤差範囲内。
【0068】
例3:流体動態及び温度制御
図1に示す装置により、下記実験を行った。
【0069】
アサバスカ原油から製造したカナダ産石油の減圧残油(VR)試料を使用して試験を実施した。
【0070】
総容積日量1590リットル(10BPD)の減圧残油を中空のスラリー気泡塔反応器に供給し、予熱器装置と冷却気体の圧入により温度を制御した。スラリー気泡塔反応器は、長さ1.6m、直径12cmである。
【0071】
この試験では、空間速度0.42ton/m3hで反応器を作動した。試験中3個直列接続型垂直スラリー反応器を使用した。前記状態を11日間維持した。
【0072】
例3の結果を表8に示す。
【0073】
【表8】

【0074】
この試験中、第1の反応器の内部温度を12箇所の異なる高さで測定し、図4に示す内部温度変化グラフを得た。
【0075】
図4は、温度変化により添加物の作用を観測できることを示す。試験の初期に、10時間間隔で温度が2〜4℃変化し、同一の温度変化でも、温度変化は、不安定である。反応器内で添加物が安定濃度に到達した後は、最高でも2℃未満で温度が変化し、温度変化は、かなり安定する。
【0076】
3個の反応器で測定した圧力変動グラフを図5に示す。
【0077】
図5は、稼働時間ほぼ100時間の経過時に3個の反応器では、何れも固体濃度が安定し、最初の100時間以後、圧力変動がほぼ直線帯状となる点に注目すべきである。これは、温度変化に伴い、最初の100時間以後圧力変動が安定することを示すものである。
【0078】
これは、添加物により流体動態が制御されると同時に、温度も制御される証拠であろう。
【0079】
例4:発泡制御及び相分布
図1に示す装置により、下記実験を行った。
【0080】
メレイ/メサ原油を含むベネズエラ石油の減圧残油(VR)を使用してこの例を実施した。
【0081】
試験プラントの内部装備のない円柱状スラリー気泡塔反応器に減圧残油総容積日量1590リットル(10BPD)を供給し、予熱器装置と冷却気体の圧入により温度を制御した。
【0082】
この試験では、3個直列接続型垂直スラリー反応器を使用して、空間速度0.4ton/m3hで反応器を作動した。21日間連続運転で試験プラントを作動した。
【0083】
例4の結果を表9に示す。
【0084】
【表9】

【0085】
試験中3個の反応器での圧力差変動を測定し、図6に示す圧力変動グラフを作製した。
【0086】
図6の圧力差変動グラフは、各反応器を充填する時間は、約15時間であり、この時間により、反応器の圧力差は、更に安定し易い測定値を有することを示す。約15時間で第1の反応器が安定した測定値に到達し、第1の反応器が充填された後、第2の反応器が安定した測定値に到達するのに、別途約15時間を要し、第3の反応器は、第2の反応器と同一の動作を示すことがこの圧力差変動グラフから明らかである。
【0087】
各反応器の充填後に、安定測定値までの総時間は、約75時間である。
【0088】
反応器内の固体濃度により、液体量が増加する結果、圧力差の上昇により発泡が減少することが明らかである。
【0089】
圧力差により、第1の反応器の相分布を算出できる。0時間の状態と、安定化時間(75時間)後の平均値として試験中状態の2つの状態でこの圧力差を算出した結果を表10に示す。
【0090】
【表10】

【0091】
表10に示すように、添加物の使用により反応器内の液体滞留量(liquid
holdup)が2倍に増大するので、反応量が改善され、高転化率が得られる。
【0092】
上記例1〜4は、本発明による水素化分解法の添加物を使用して得られる優れた結果を示す。
【0093】
本明細書の開示は、好適な実施の形態の詳細を示す。例示目的で前記特定の実施の形態を示すものと認識すべきであり、如何なる場合も、下記特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定するように、実施の形態を解釈してはならない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、重質残留物質の水素化分解処理の際に発生する発泡を抑制すると共に、水素化分解処理に使用する材料から金属成分を回収する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0095】
(62)・・乾燥領域、 (67)・・熱処理所、 (68)・・冷却所、 (70)・・集塊領域、 (200)・・水素化分解装置、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径約0.1〜約2,000μm、嵩密度約500〜約2,000kg/m3、見かけ密度約1,000〜約2,000kg/m3、及び湿気0〜約5重量%を有する固体有機物質を含むことを特徴とする水素化分解工程用添加物。
【請求項2】
粒径は、約20〜約1,000μmである請求項1に記載の水素化分解工程用添加物。
【請求項3】
第1の精粒領域に未処理炭素質材料を供給して、未処理炭素質材料の粒径より小さい粒径の精粒材料を生成する工程と、
精粒材料を乾燥させて、約5重量%未満の湿気を有する乾燥精粒材料を生成する工程と、
分類領域に乾燥精粒材料を供給して、所望の粒度基準に適合しない乾燥精粒材料の粒子と所望の粒度基準に適合する粒子とを分離する工程と、
所望の粒度基準に適合する粒子を温度約300〜約1,000℃に加熱する工程と、
加熱された粒子を加熱工程から取り出して、約80℃未満の温度に冷却して、添加物を生成する工程とを含むことを特徴とする水素化分解工程用添加物の製造法。
【請求項4】
所望の粒度基準に適合しない粒子を精粒工程に再び搬送して、再精粒材料を生成する工程と、
再精粒材料を再び分類領域に搬送して、所望の粒度基準に適合しない再精粒粒子と所望の粒度基準に適合する再精粒粒子とを分離する工程と、
分類領域でも未だ所望の粒度基準に適合しない再精粒粒子を再生する工程とを更に含む請求項3に記載の水素化分解工程用添加物の製造法。
【請求項5】
加熱工程前に、所望の粒度基準に適合する初期の粒子に、所望の粒度基準に適合する再精粒粒子を加える工程を含む請求項4に記載の水素化分解工程用添加物の製造法。
【請求項6】
所望の温度を有する空気流中に粒子を曝して、粒子を加熱しかつ冷却する工程とを含む請求項3に記載の水素化分解工程用添加物の製造法。
【請求項7】
加熱工程前に、所望の粒度基準に適合する粒子を第2の分類領域に搬送する工程と、
第2の分類領域で所望の粒度基準に適合するものと再度分類した粒子を加熱工程に搬送する工程と、
第2の分類領域で所望の粒度基準に適合しないものと再度分類した粒子を集塊所に搬送する工程とを含む請求項3に記載の水素化分解工程用添加物の製造法。
【請求項8】
冷却工程後の添加物を最終分類領域に搬送する工程と、
最終分類領域で所望の粒度基準に適合しない添加物粒子と所望の粒度基準に適合する添加物粒子とを分離する工程と、
所望の粒度基準に適合しない添加物粒子を集塊所に搬送する工程とを更に含む請求項3に記載の水素化分解工程用添加物の製造法。
【請求項9】
粒径約0.1〜約2,000μm、嵩密度約500〜約2,000kg/m3、見かけ密度約1,000〜約2,000kg/m3及び湿気0〜約5重量%を有する固体有機材料を含む添加物を生成する工程を含む請求項3に記載の水素化分解工程用添加物の製造法。
【請求項10】
粒径は、約20〜約1,000μmである請求項9に記載の水素化分解工程用添加物の製造法。
【請求項11】
バナジウム及びニッケルから成る群から選択される少なくとも1種の原料金属を含む重質原料、8族〜10族の少なくとも1種の金属及び6族の少なくとも1種の金属を含む触媒エマルジョン、水素並びに有機添加物を水素化分解状態の下で水素化分解領域に供給する工程と、
8族〜10族の前記金属、6族の前記金属及び少なくとも1種の原料金属を含む固体炭素系物質と、改質された炭化水素生成物とを生成する工程とを含み、
有機添加物は、粒径約0.1〜約2,000μm、嵩密度約500〜約2,000kg/m3、見かけ密度約1,000〜約2,000kg/m3及び湿気0〜約5重量%を有する固体有機物質を含むことを特徴とする水素化分解法。
【請求項12】
原料に対して約0.5〜約5重量%の量で有機添加物を供給する工程を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項13】
約4cm/s以上の気体速度で水素化分解反応させる工程を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項14】
少なくともアスファルテン転化率約75重量%と、少なくともコンラドソン炭素転化率約70重量%を有する水素化分解を発生する工程を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項15】
減圧残油、重質原油、超重質原油及びそれらの組み合せから成る群から重質原料を選択する工程を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項16】
重質原料は、減圧残油である請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項17】
重質原料の比重は、約1.07〜約1.02(API度1〜7)である請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項18】
重質原料の金属組成は、約200〜約2,000重量ppmである請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項19】
重質原料の金属組成は、バナジウム及びニッケルを含有する請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項20】
触媒エマルジョンは、8族〜10族の金属を含む第1の触媒エマルジョンと、6族の金属を含む第2の触媒エマルジョンとを含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項21】
ニッケル、コバルト、鉄及びそれらの組み合せから成る群から8族〜10族の金属を選択する工程を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項22】
モリブデン、タングステン及びそれらの組み合せから成る群から6族の金属を選択する工程を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項23】
6族の金属は、6族の硫化金属塩の形態である請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項24】
有機添加物は、コークス粒子を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項25】
前記工程を連続して実施する工程を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項26】
循環しない貫流方式で原料を使用して前記工程を実施する工程を含む請求項25に記載の水素化分解法。
【請求項27】
水素化分解状態の反応器圧力は、約13〜約21MPaG(約130〜約210barg)、反応器温度は、約430〜約470℃である請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項28】
約50〜約1,000重量ppmの触媒金属と重質原料との重量比率となる量で、触媒エマルジョンと重質原料とを反応器に供給する工程を含む請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項29】
固体炭素系物質を除く重量基準による生産収量は、重質原料の重量を超える請求項11に記載の水素化分解法。
【請求項30】
水素化分解領域は、上向並流三相気泡塔型反応器を備える請求項11に記載の水素化分解法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−148969(P2011−148969A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152416(P2010−152416)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(591223574)インテベプ エス エー (5)
【Fターム(参考)】