説明

水素化芳香族ビニル系共重合体組成物及びその成形品

【課題】透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率の小さい水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ビニルモノマー、及び共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる二種以上のブロック共重合体を含有するブロック共重合体組成物を水素添加してなる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物である。ブロック共重合体組成物が、第一の芳香族ビニルモノマー、及び第一の共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる、特定の条件を満たすブロック共重合体(I)と、第二の芳香族ビニルモノマー、及び第二の共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる、特定の条件を満たすブロック共重合体(II)とを、所定の質量比で含有するものであり、第一及び第二の芳香族ビニルモノマーに由来する芳香族環、及び第一及び第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の97%以上が水素添加されてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素化芳香族ビニル系共重合体組成物、及びその成形品に関し、更に詳しくは、透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率の小さい水素化芳香族ビニル系共重合体組成物、及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種分野で用いられる光学用部品を構成するための材料として、種々の樹脂材料が使用されている。また、それぞれの分野に適した物性を得るために、様々な構造の材料や成分を配合した樹脂組成物(樹脂材料)が開発されている。
【0003】
具体的には、光ディスク基板を構成するための材料として、芳香族ビニル系重合体を水素添加してなるビニルシクロヘキサン系重合体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、このビニルシクロヘキサン系重合体は光線透過性が高く、吸水率が小さく、かつ複屈折が小さいものであることが記載されている。一方、芳香族ビニル系重合体を水素添加して得られる、芳香環の水添率が97%以上である特定分子量の水素化重合体が開示されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、この水素化重合体は複屈折が小さく、機械的強度に優れ、かつ耐湿性に優れたものであることが記載されている。
【0004】
また、特定のモノマー組成のスチレン系共重合体を水素添加してなる水素化スチレン系共重合体が開示されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3には、この水素化スチレン系共重合体は耐熱性、及び透明性に優れ、かつ吸水率が小さいものであることが記載されている。更に、特定のブロック構造を有する、又は特定の分子量のスチレン−共役ジエン系共重合体を水素添加してなる水素化スチレン−共役ジエン系共重合体が開示されている(例えば、特許文献4〜6参照)。特許文献4〜6には、これらの水素化スチレン−共役ジエン系共重合体は透明性、耐熱性、及び剛性等に優れたものであることが記載されている。
【0005】
ところで、光学用部品を構成するために用いられるこのような樹脂材料は、透明性が高く、低吸水性であるとともに、加工工程、及び使用時において優れた耐衝撃性を示すものであることが必要とされている。即ち、樹脂材料の脆性が高い場合には、成形時に欠けや破損が生じ易くなり、ぶつけたりすることで容易に破損してしまうことが知られている。従って、光学用部品を構成するための樹脂材料は、優れた透明性を有するとともに低吸水性であり、かつ耐衝撃性にも優れたものであることが要求される。しかしながら、特許文献1〜6で開示された樹脂材料は、耐衝撃性の面では未だ十分であるとはいえず、更なる改良を図る必要性がある。
【特許文献1】特公平7−114030号公報
【特許文献2】特開2000−169521号公報
【特許文献3】特開2002−201213号公報
【特許文献4】特開2002−327010号公報
【特許文献5】特開2003−2938号公報
【特許文献6】特開2003−252941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率の小さい水素化芳香族ビニル系共重合体組成物、並びに透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率の小さい成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、芳香族ビニルモノマーと共役ジエンモノマーとを構成単位としてそれぞれ所定の割合で含んでなり、部分的に水素添加された特定のブロック構造で表される二種以上のブロック共重合体を含有するブロック共重合体組成物を水素添加することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下に示す水素化芳香族ビニル系共重合体組成物、及びそれを用いた成形品が提供される。
【0009】
[1]芳香族ビニルモノマー、及び共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる二種以上のブロック共重合体を含有するブロック共重合体組成物を水素添加してなる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物であって、前記ブロック共重合体組成物が、第一の芳香族ビニルモノマー、及び第一の共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる、下記条件(1)を満たすブロック共重合体(I)と、第二の芳香族ビニルモノマー、及び第二の共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる、下記条件(2)を満たすブロック共重合体(II)とを、(I)/(II)=95/5〜80/20の質量比で含有するものであり、前記第一及び第二の芳香族ビニルモノマーに由来する芳香族環、及び前記第一及び第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の97%以上が水素添加されてなる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物。
条件(1):第一の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の含有割合が90〜95質量%、重量平均分子量が7万〜20万、ブロック構造が下記一般式(1)で表され、第一の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の80%以上が水素添加されている。
条件(2):第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の含有割合が40〜60質量%、重量平均分子量が7万〜20万、ブロック構造が下記一般式(1)で表され、第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の80%以上が水素添加されている。
A−B−A …(1)
(前記一般式(1)中、Aは第一又は第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位、Bは第一又は第二の共役ジエンモノマーに由来する構成単位である)
【0010】
[2]ガラス転移点が120℃以上、重量平均分子量が5万以上、及び25mm厚での750nm波長光の光線透過率が88%以上である前記[1]に記載の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物。
【0011】
[3]前記[1]又は[2]に記載の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率が小さいという効果を奏するものである。
【0013】
また、本発明の成形品は、透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率が小さいという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0015】
1.水素化芳香族ビニル系共重合体組成物
本発明の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の一実施形態は、芳香族ビニルモノマー、及び共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる二種以上のブロック共重合体を含有するブロック共重合体組成物を水素添加してなる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物であり、ブロック共重合体組成物(水添前共重合体組成物)が、第一の芳香族ビニルモノマー、及び第一の共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる、下記条件(1)を満たすブロック共重合体(I)と、第二の芳香族ビニルモノマー、及び第二の共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる、下記条件(2)を満たすブロック共重合体(II)とを、(I)/(II)=95/5〜80/20の質量比で含有するものであり、第一及び第二の芳香族ビニルモノマーに由来する芳香族環、及び第一及び第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の97%以上が水素添加されてなるものである。以下、その詳細について説明する。なお、本明細書中、単に「芳香族ビニルモノマー」というときは、第一の芳香族ビニルモノマーと第二の芳香族ビニルモノマーのいずれをも指し示す。同様に、単に「共役ジエンモノマー」というときは、第一の共役ジエンモノマーと第二の共役ジエンモノマーのいずれをも指し示す。
条件(1):第一の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の含有割合が90〜95質量%、重量平均分子量が7万〜20万、ブロック構造が下記一般式(1)で表され、第一の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の80%以上が水素添加されている。
条件(2):第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の含有割合が40〜60質量%、重量平均分子量が7万〜20万、ブロック構造が下記一般式(1)で表され、第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の80%以上が水素添加されている。
A−B−A …(1)
(前記一般式(1)中、Aは第一又は第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位、Bは第一又は第二の共役ジエンモノマーに由来する構成単位である)
【0016】
(1)ブロック共重合体(I)(核水添前共重合体)
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の水添前共重合体組成物であるブロック共重合体組成物は、所定の条件を満たすブロック共重合体(I)(核水添前共重合体)を含有するものである。このブロック共重合体(I)は、第一の芳香族ビニルモノマー、及び第一の共役ジエンモノマーを含むモノマー由来の構成単位からなるものである。また、ブロック共重合体(I)は、第一の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位を90〜95質量%、好ましくは90〜94質量%、更に好ましくは90〜93質量%含んでなるものである。第一の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の割合が90質量%未満であると、このブロック共重合体(I)を用いて得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の全光線透過率が低下し、光学部品用材料としての十分な透明性を確保し難くなる。一方、第一の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の割合が95質量%超であると、得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の耐衝撃性が低くなる。
【0017】
核水添前共重合体であるブロック共重合体(I)は、第一共役ジエンモノマーに由来する構成単位を5〜10質量%含んでなることが好ましく、7〜10質量%含んでなることが更に好ましい。第一の共役ジエンモノマーに由来する構成単位の割合が5質量%未満であると、耐衝撃性に劣る傾向にある。一方、第一の共役ジエンモノマーに由来する構成単位の割合が10質量%超であると、全光線透過率が低下する傾向にある。
【0018】
また、核水添前共重合体であるブロック共重合体(I)は、そのブロック構造が前記一般式(1)で表されるものである。本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、ブロック構造が所定の一般式で表される二種以上のブロック共重合体を含有するブロック共重合体組成物を、芳香環を含めて水素添加することにより得られるものであるため、耐衝撃性、及び流動性に優れている。なお、前記一般式(1)における二つの「A」は、それぞれの分子量や、それぞれを構成する第一の芳香族ビニルモノマーの種類等が、同一であっても異なっていてもよい。
【0019】
核水添前共重合体であるブロック共重合体(I)の重量平均分子量は7万〜20万、好ましくは7万〜18万、更に好ましくは7万〜15万である。ブロック共重合体(I)の重量平均分子量が7万未満であると、得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の耐衝撃性が低くなる。一方、ブロック共重合体(II)の重量平均分子量が20万超であると、得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の流動性が低下してしまい、取り扱いが困難になる。
【0020】
また、核水添前共重合体であるブロック共重合体(I)は、第一の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の80%以上、好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上が水素添加されてなるものである。即ち、ブロック共重合体(I)の水素添加率は80%以上(但し、核水添を除く)である。ブロック共重合体(I)の水素添加率を80%以上にすることにより、ブロック共重合体(I)を含有するブロック共重合体組成物を水素添加する場合に生ずるゲル化反応等の不具合の発生を回避することができる。
【0021】
なお、ブロック共重合体(I)は、例えば、特開平2−133406号公報、特開平3−128957号公報、及び特開平5−170844号公報等において開示されている従来公知の方法により合成することができる。
【0022】
(2)ブロック共重合体(II)(核水添前共重合体)
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の水添前共重合体組成物であるブロック共重合体組成物は、所定の条件を満たすブロック共重合体(II)(核水添前共重合体)を含有するものである。このブロック共重合体(II)は、第二の芳香族ビニルモノマー、及び第二の共役ジエンモノマーを含むモノマー由来の構成単位からなるものである。また、ブロック共重合体(II)は、第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位を40〜60質量%、好ましくは47〜58質量%、更に好ましくは45〜55質量%含んでなるものである。第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の割合が40質量%未満であると、このブロック共重合体(II)を用いて得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の全光線透過率が低下し、光学部品用材料としての十分な透明性を確保し難くなる。一方、第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の割合が60質量%超であると、得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の耐衝撃性が低くなる。
【0023】
核水添前共重合体であるブロック共重合体(II)は、第二共役ジエンモノマーに由来する構成単位を40〜60質量%含んでなることが好ましく、45〜55質量%含んでなることが更に好ましい。第二の共役ジエンモノマーに由来する構成単位の割合が40質量%未満であると、耐衝撃性に劣る傾向にある。一方、第二の共役ジエンモノマーに由来する構成単位の割合が60質量%超であると、全光線透過率が低下する傾向にある。
【0024】
また、核水添前共重合体であるブロック共重合体(II)は、そのブロック構造が前記一般式(1)で表されるものである。本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、ブロック構造が所定の一般式で表される二種以上のブロック共重合体を含有するブロック共重合体組成物を、芳香環を含めて水素添加することにより得られるものであるため、耐衝撃性、及び流動性に優れている。なお、前記一般式(1)における二つの「A」は、それぞれの分子量や、それぞれを構成する第二の芳香族ビニルモノマーの種類等が、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
核水添前共重合体であるブロック共重合体(II)の重量平均分子量は7万〜20万、好ましくは7万〜18万、更に好ましくは7万〜15万である。ブロック共重合体(II)の重量平均分子量が7万未満であると、得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の耐衝撃性が低くなる。一方、ブロック共重合体(II)の重量平均分子量が20万超であると、得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の流動性が低下してしまい、取り扱いが困難になる。
【0026】
また、核水添前共重合体であるブロック共重合体(II)は、第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の80%以上、好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上が水素添加されてなるものである。即ち、ブロック共重合体(II)の水素添加率は80%以上(但し、核水添を除く)である。ブロック共重合体(II)の水素添加率を80%以上にすることにより、ブロック共重合体(II)を含有するブロック共重合体組成物を水素添加する場合に生ずるゲル化反応等の不具合の発生を回避することができる。
【0027】
なお、ブロック共重合体(II)は、例えば、特開平2−133406号公報、特開平3−128957号公報、及び特開平5−170844号公報等において開示されている従来公知の方法により合成することができる。
【0028】
(3)ブロック共重合体組成物(水添前共重合体組成物)
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の水添前共重合体組成物であるブロック共重合体組成物は、前述のブロック共重合体(I)とブロック共重合体(II)とを、(I)/(II)=95/5〜80/20の質量比、好ましくは(I)/(II)=95/5〜85/15の質量比、更に好ましくは(I)/(II)=93/7〜88/12の質量比で含有するものである。ブロック共重合体(I)の含有割合が80質量%未満であると、このブロック共重合体を用いて得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の全光線透過率が低下し、光学部品用材料としての十分な透明性を確保し難くなる。一方、ブロック共重合体(I)の含有割合が95質量%超であると、得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の耐衝撃性が低くなる。
【0029】
(4)芳香族ビニルモノマー
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の水添前共重合体であるブロック共重合体組成物に含有されるブロック共重合体(I)及び(II)をそれぞれ構成する、第一及び第二の芳香族ビニルモノマーとしては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−t−ブチルスチレン、及び5−t−ブチル−2−メチルスチレン等を挙げることができる。これらのなかでも、工業的に利用でき、かつ物性に優れた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を得るには、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレンが好ましく、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレンが更に好ましい。なお、芳香族ビニルモノマーは、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0030】
更に、ブロック共重合体(I)及び(II)を構成する芳香族ビニルブロックは、必ずしも芳香族ビニルモノマーのみからなるものである必要はない。従って、芳香族ビニルブロックは、例えば一部に共役ジエンモノマーを含んでなるものであってもよい。
【0031】
(5)共役ジエンモノマー
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の水添前共重合体であるブロック共重合体組成物に含有されるブロック共重合体(I)及び(II)をそれぞれ構成する、第一及び第二の共役ジエンモノマーとしては、例えば1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、及び4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン等を挙げることができる。これらのなかでも、工業的に利用でき、かつ物性に優れた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を得るには、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンが好ましく、1,3−ブタジエン、イソプレンが更に好ましい。なお、共役ジエンモノマーは、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0032】
(6)水素添加率
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、ブロック共重合体組成物の、第一及び第二の芳香族ビニルモノマーに由来する芳香族環、及び第一及び第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の97%以上、好ましくは98%以上、更に好ましくは99%以上が水素添加されてなるものである。即ち、本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の水素添加率は、核水添を含めて97%以上である。水素添加率が97%未満であると、全光線透過率が低下してしまい、光学部品用材料としての十分な透明性を確保し難くなる。
【0033】
水素添加に使用される水素添加触媒としては、例えば固体状又は液体状の触媒を挙げることができる。固体状の触媒の具体例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、ニッケル等貴金属の微粉末、又はこれら貴金属類を活性炭、シリカ、アルミナ等の担体上に担持した触媒等を挙げることができる。液体状の触媒の具体例としては、クロム、又はコバルト等の遷移金属元素を有機溶媒に可溶化した錯体をアルキル金属化合物で還元した触媒等を挙げることができる。
【0034】
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、ブロック共重合体組成物を所定条件下での水素添加工程により水素添加してなるものである。この水素添加工程は、反応温度130〜250℃、水素圧5〜15MPa、及び反応時間1〜24時間の条件下で実施されることが好ましく、反応温度200〜240℃、水素圧10〜14MPa、及び反応時間3〜10時間の条件下で実施されることが更に好ましい。
【0035】
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を製造するに際して使用される溶媒は、得られる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物が溶解され、かつ触媒毒にならないものであればよい。溶媒の具体例としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等のシクロアルカン類、n−ヘキサン等のアルカン類を挙げることができる。なお、水素添加条件を調整するために、アルコール、エーテル、ケトン類等の極性化合物を溶媒に少量添加することができる。
【0036】
水素添加終了後、反応溶液から水素添加触媒を除去することが好ましい。水素添加触媒が固体状のものである場合には、ろ過法等により除去することができる。一方、水素添加触媒が液体状のものである場合には、キレート剤等を添加した後に水洗する方法により除去することができる。水素添加触媒を除去した反応溶液から、ストリッピング又は再沈等の方法で溶媒を除去するとともに、乾燥することによって、本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を得ることができる。
【0037】
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、ガラス転移点(Tg)が120℃以上であることが好ましく、123℃以上であることが更に好ましく、124℃以上であることが特に好ましい。ガラス転移点(Tg)が120℃未満であると、耐熱性が劣る傾向にある。なお、本明細書にいう「ガラス転移点(Tg)(℃)」とは、DSCにより測定・算出した値をいう。
【0038】
また、本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、重量平均分子量が5万以上であることが好ましく、5.5万以上であることが更に好ましく、6万以上であることが特に好ましい。重量平均分子量が5万未満であると、耐衝撃性が劣る傾向にある。なお、本明細書にいう「重量平均分子量(Mw)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した値をいう。
【0039】
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、25mm厚での750nm波長光の光線透過率が、88%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましく、91%以上であることが特に好ましい。750nmにおける光線透過率が88%未満であると、光学部品を構成するための樹脂材料としての透明性が十分とはいえなくなる傾向にある。なお、本明細書における「光線透過率(%)」とは、測定対象となる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を用いて作製した厚さ25mmの成形シートについて、25℃の温度条件下、750nmの波長光で測定した値をいう。
【0040】
本実施形態の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、その透明性、耐衝撃性、及び低吸水性等の優れた諸特性を損なわない限りにおいて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、老化防止剤、耐候剤、金属不活性剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の安定剤、防菌・防黴剤、分散剤、可塑剤、架橋剤、共架橋剤、加硫剤、加硫助剤、発泡剤、発泡助剤等を挙げることができる。
【0041】
2.成形品
本発明の成形品の一実施形態は、前述してきたいずれかの水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を成形してなるものである。即ち、本実施形態の成形品は、これまで述べてきたような、透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率が小さいという諸特性を備えた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を成形してなるものである。従って、本実施形態の成形品は、透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率が小さいものであるため、光学用部品として好適である。
【0042】
本実施形態の成形品の具体例としては、光学用レンズや透明フィルム等を挙げることができる。より具体的には、カメラ付き携帯電話用レンズ、ピックアップレンズ、レーザープリンタ用ポリコンミラー、光ディスク基板等を挙げることができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び評価方法を以下に示す。
【0044】
[スチレン含量]:赤外吸収スペクトル法により測定・算出した。
【0045】
[ビニル結合(1,2−結合)含量]:赤外吸収スペクトル法を用い、ハンプトン法により算出した。
【0046】
[重量平均分子量(Mw)]:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、カラム:商品名「GMHHR−H」(東ソー社製))を用いて、ポリスチレン換算で算出した。
【0047】
[水添率]:500MHz、1H−NMRスペクトルにより測定・算出した。
【0048】
[ガラス転移点(Tg)]:DSC(商品名「DSC2920」(ティエィ インスツルメント社製))により測定・算出した。
【0049】
[光線透過率]:可視紫外分光光度計(商品名「haze−guard plus」(BYK−ガードナーGmbh社製))を使用し、厚さ25mmの成形シートについて、25℃の温度条件下、750nmの波長光について測定した。
【0050】
[吸水率]:JIS K 7105(測定法A)に準拠し、正方形(10mm×10mm)に切断した厚さ25mmの成形シートを蒸留水に24時間浸漬して測定・算出した。
【0051】
[アイゾット衝撃強度]:ASTM D256に準拠し、ノッチ付きの試験片について測定した。
【0052】
[光弾性係数(×10-12Pa-1)]:100℃で20時間真空乾燥した、厚さ2.5mmの成形シートを、それを構成する材料のガラス転移点(Tg)よりも5℃高い温度で引張試験機にて延伸し、応力(Pa)及び屈折率を測定した。なお、屈折率は、屈折率測定器(商品名「KOBRA−21 ADH」(王子計測機器社製))を使用して、測定波長589.3nmで測定した。縦軸に屈折率差Δn、横軸に応力(Pa)をプロットし、その傾きを光弾性係数(×10-12Pa-1)とした。
【0053】
(合成例1)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン25kg、テトラヒドロフラン1g、スチレン2300g、及びn−ブチルリチウム7.8gを入れ、70℃からの断熱重合を行った。重合反応完結後、1,3−ブタジエン400gを添加して更に断熱重合を行った。30分後、再びスチレン2300gを添加して更に断熱重合を行った。重合反応完結後、0.4MPa−Gの圧力で水素ガスを供給しながら20分間撹拌してリビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液の温度を90℃としてチタノセン化合物を主体とした水添触媒を添加し、水素圧を0.8MPaとして2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で反応系を常温、常圧に戻し、反応容器から反応溶液を抜き出した。抜き出した反応溶液を水中に撹拌投入し、溶媒を水蒸気蒸留で除去することにより、ブロック共重合体Aを得た。得られたブロック共重合体Aのスチレン含量は92%、ビニル結合含量は15%、重量平均分子量(Mw)は9.1万、及び水添率は99%であった。
【0054】
(合成例2)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン25kg、テトラヒドロフラン1.5g、スチレン2500g、及びn−ブチルリチウム7.8gを入れ、70℃からの断熱重合を行った。重合反応完結後、1,3−ブタジエン500gを添加して更に断熱重合を行った。30分後、再びスチレン2000gを添加して更に断熱重合を行った。重合反応完結後、0.4MPa−Gの圧力で水素ガスを供給しながら20分間撹拌してリビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液の温度を90℃としてチタノセン化合物を主体とした水添触媒を添加し、水素圧を0.8MPaとして2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で反応系を常温、常圧に戻し、反応容器から反応溶液を抜き出した。抜き出した反応溶液を水中に撹拌投入し、溶媒を水蒸気蒸留で除去することにより、ブロック共重合体Bを得た。得られたブロック共重合体Bのスチレン含量、ビニル結合含量、重量平均分子量(Mw)、及び水添率を表1に示す。
【0055】
(合成例3)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン25kg、テトラヒドロフラン1g、スチレン1400g、及びn−ブチルリチウム7.8gを入れ、70℃からの断熱重合を行った。重合反応完結後、1,3−ブタジエン2300gを添加して更に断熱重合を行った。30分後、再びスチレン1300gを添加して更に断熱重合を行った。重合反応完結後、0.4MPa−Gの圧力で水素ガスを供給しながら20分間撹拌してリビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液の温度を90℃としてチタノセン化合物を主体とした水添触媒を添加し、水素圧を0.8MPaとして2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で反応系を常温、常圧に戻し、反応容器から反応溶液を抜き出した。抜き出した反応溶液を水中に撹拌投入し、溶媒を水蒸気蒸留で除去することにより、ブロック共重合体Cを得た。得られたブロック共重合体Cのスチレン含量、ビニル結合含量、重量平均分子量(Mw)、及び水添率を表1に示す。
【0056】
(合成例4)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン25kg、テトラヒドロフラン1.8g、スチレン1200g、及びn−ブチルリチウム7.8gを入れ、70℃からの断熱重合を行った。重合反応完結後、1,3−ブタジエン2600gを添加して更に断熱重合を行った。30分後、再びスチレン1200gを添加して更に断熱重合を行った。重合反応完結後、0.4MPa−Gの圧力で水素ガスを供給しながら20分間撹拌してリビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液の温度を90℃としてチタノセン化合物を主体とした水添触媒を添加し、水素圧を0.8MPaとして2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で反応系を常温、常圧に戻し、反応容器から反応溶液を抜き出した。抜き出した反応溶液を水中に撹拌投入し、溶媒を水蒸気蒸留で除去することにより、ブロック共重合体Dを得た。得られたブロック共重合体Dのスチレン含量、ビニル結合含量、重量平均分子量(Mw)、及び水添率を表1に示す。
【0057】
(合成例5)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン25kg、テトラヒドロフラン1g、スチレン1100g、及びn−ブチルリチウム7.2gを入れ、70℃からの断熱重合を行った。重合反応完結後、1,3−ブタジエン2800gを添加して更に断熱重合を行った。30分後、再びスチレン1100gを添加して更に断熱重合を行った。重合反応完結後、0.4MPa−Gの圧力で水素ガスを供給しながら20分間撹拌してリビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液の温度を90℃としてチタノセン化合物を主体とした水添触媒を添加し、水素圧を0.8MPaとして2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で反応系を常温、常圧に戻し、反応容器から反応溶液を抜き出した。抜き出した反応溶液を水中に撹拌投入し、溶媒を水蒸気蒸留で除去することにより、ブロック共重合体Eを得た。得られたブロック共重合体Eのスチレン含量、ビニル結合含量、重量平均分子量(Mw)、及び水添率を表1に示す。
【0058】
(合成例6)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン25kg、テトラヒドロフラン1g、スチレン900g、及びn−ブチルリチウム7.8gを入れ、70℃からの断熱重合を行った。重合反応完結後、1,3−ブタジエン3200gを添加して更に断熱重合を行った。30分後、再びスチレン900gを添加して更に断熱重合を行った。重合反応完結後、0.4MPa−Gの圧力で水素ガスを供給しながら20分間撹拌してリビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液の温度を90℃としてチタノセン化合物を主体とした水添触媒を添加し、水素圧を0.8MPaとして2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で反応系を常温、常圧に戻し、反応容器から反応溶液を抜き出した。抜き出した反応溶液を水中に撹拌投入し、溶媒を水蒸気蒸留で除去することにより、ブロック共重合体Fを得た。得られたブロック共重合体Fのスチレン含量、ビニル結合含量、重量平均分子量(Mw)、及び水添率を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例1)
窒素置換された内容積5リットルの高圧反応容器に、シクロヘキサン2000g、ブロック共重合体Aの450g、及びブロック共重合体Eの50gを入れ、室温で8時間撹拌してブロック共重合体A及びEを溶解させた。この高圧反応容器内に、担持Ni触媒(商品名「N103」(日揮化学社製))25gを加え、系内を窒素置換した。水素圧を1MPaに調整後、撹拌しながら230℃まで昇温したところで水素圧を10MPaに昇圧し、水素圧を保ちながら5時間撹拌した。高圧反応容器を室温まで冷却した後、反応溶液を1μmのミリポアフィルターにて加圧ろ過し、メタノール凝固させた後に真空乾燥することにより、水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(実施例1)を得た。得られた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(実施例1)の水添率は98.5%、重量平均分子量(Mw)は6.1万、ガラス転移点(Tg)は123.5℃、光線透過率は91%、吸水率は0.02%、アイゾット衝撃強度は45J/m、及び光弾性係数は−150×10-12Pa-1であった。
【0061】
(実施例2)
窒素置換された内容積5リットルの高圧反応容器に、シクロヘキサン2000g、ブロック共重合体Bの475g、及びブロック共重合体Dの75gを入れ、室温で8時間撹拌してブロック共重合体B及びDを溶解させた。この高圧反応容器内に、担持Ni触媒(商品名「N103」(日揮化学社製))25gを加え、系内を窒素置換した。水素圧を1MPaに調整後、撹拌しながら230℃まで昇温したところで水素圧を10MPaに昇圧し、水素圧を保ちながら5時間撹拌した。高圧反応容器を室温まで冷却した後、反応溶液を1μmのミリポアフィルターにて加圧ろ過し、メタノール凝固させた後に真空乾燥することにより、水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(実施例2)を得た。得られた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(実施例2)の各種物性値を表2に示す。また、水素化芳香族ビニル系共重合体(実施例2)の赤外吸収スペクトル、及び1H−NMRチャートを、図1及び図2にそれぞれ示す。
【0062】
(実施例3)
窒素置換された内容積5リットルの高圧反応容器に、シクロヘキサン2000g、ブロック共重合体Bの475g、及びブロック共重合体Dの25gを入れ、室温で8時間撹拌してブロック共重合体B及びDを溶解させた。この高圧反応容器内に、担持Ni触媒(商品名「N103」(日揮化学社製))25gを加え、系内を窒素置換した。水素圧を1MPaに調整後、撹拌しながら230℃まで昇温したところで水素圧を10MPaに昇圧し、水素圧を保ちながら5時間撹拌した。高圧反応容器を室温まで冷却した後、反応溶液を1μmのミリポアフィルターにて加圧ろ過し、メタノール凝固させた後に真空乾燥することにより、水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(実施例3)を得た。得られた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(実施例3)の各種物性値を表2に示す。
【0063】
(比較例1)
窒素置換された内容積5リットルの高圧反応容器に、シクロヘキサン2000g、及びブロック共重合体Aの500gを入れ、室温で8時間撹拌してブロック共重合体Aを溶解させた。この高圧反応容器内に、担持Ni触媒(商品名「N103」(日揮化学社製))25gを加え、系内を窒素置換した。水素圧を1MPaに調整後、撹拌しながら230℃まで昇温したところで水素圧を10MPaに昇圧し、水素圧を保ちながら5時間撹拌した。高圧反応容器を室温まで冷却した後、反応溶液を1μmのミリポアフィルターにて加圧ろ過し、メタノール凝固させた後に真空乾燥することにより、水素化芳香族ビニル系共重合体(比較例1)を得た。得られた水素化芳香族ビニル系共重合体(比較例1)の各種物性値を表2に示す。
【0064】
(比較例2)
窒素置換された内容積5リットルの高圧反応容器に、シクロヘキサン2000g、ブロック共重合体Aの375g、及びブロック共重合体Eの125gを入れ、室温で8時間撹拌してブロック共重合体A及びEを溶解させた。この高圧反応容器内に、担持Ni触媒(商品名「N103」(日揮化学社製))25gを加え、系内を窒素置換した。水素圧を1MPaに調整後、撹拌しながら230℃まで昇温したところで水素圧を10MPaに昇圧し、水素圧を保ちながら5時間撹拌した。高圧反応容器を室温まで冷却した後、反応溶液を1μmのミリポアフィルターにて加圧ろ過し、メタノール凝固させた後に真空乾燥することにより、水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(比較例2)を得た。得られた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(比較例2)の各種物性値を表2に示す。
【0065】
(比較例3)
窒素置換された内容積5リットルの高圧反応容器に、シクロヘキサン2000g、ブロック共重合体Aの450g、及びブロック共重合体Cの50gを入れ、室温で8時間撹拌してブロック共重合体A及びCを溶解させた。この高圧反応容器内に、担持Ni触媒(商品名「N163」(日揮化学社製))25gを加え、系内を窒素置換した。水素圧を1MPaに調整後、撹拌しながら230℃まで昇温したところで水素圧を10MPaに昇圧し、水素圧を保ちながら5時間撹拌した。高圧反応容器を室温まで冷却した後、反応溶液を1μmのミリポアフィルターにて加圧ろ過し、メタノール凝固させた後に真空乾燥することにより、水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(比較例3)を得た。得られた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(比較例3)の各種物性値を表2に示す。
【0066】
(比較例4)
窒素置換された内容積5リットルの高圧反応容器に、シクロヘキサン2000g、ブロック共重合体Bの450g、及びブロック共重合体Fの50gを入れ、室温で8時間撹拌してブロック共重合体B及びFを溶解させた。この高圧反応容器内に、担持Ni触媒(商品名「N103」(日揮化学社製))25gを加え、系内を窒素置換した。水素圧を1MPaに調整後、撹拌しながら230℃まで昇温したところで水素圧を10MPaに昇圧し、水素圧を保ちながら5時間撹拌した。高圧反応容器を室温まで冷却した後、反応溶液を1μmのミリポアフィルターにて加圧ろ過し、メタノール凝固させた後に真空乾燥することにより、水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(比較例4)を得た。得られた水素化芳香族ビニル系共重合体組成物(比較例4)の各種物性値を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示すように実施例1〜3の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物からなる成形シートは、いずれも25℃、750nmでの光線透過率が90%以上であり、透明性に優れたものであることが明らかである。また、実施例1〜3の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物からなる成形シートは、いずれの吸水率も0.05%以下の値であり、十分に低吸水率であることが分かる。更に、実施例1〜3の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物からなる成形シートは、比較例1の水素化芳香族ビニル系共重合体からなる成形シートに比べてアイゾット衝撃強度が高く、優れた耐衝撃性を有するものであることが分かる。なお、比較例2〜4の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物からなる成形シートは、アイゾット衝撃強度は高い反面、光線透過率及びガラス転移点(Tg)が低いものである。
【0069】
また、実施例1〜3の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物からなる成形シートは、光弾性係数(×10-12Pa-1)の絶対値が300の範囲にあり、複屈折率が小さく、光学異方性の少ないものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物は、透明性及び耐衝撃性に優れるとともに低吸水性であり、かつ複屈折率の小さい樹脂材料である。従って、光学用レンズや透明フィルム等の構成材料として好適である。より具体的には、カメラ付き携帯電話用レンズ、ピックアップレンズ、レーザープリンタ用ポリコンミラー、光ディスク基板等の構成材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例2の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例2の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物の1H−NMRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニルモノマー、及び共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる二種以上のブロック共重合体を含有するブロック共重合体組成物を水素添加してなる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物であって、
前記ブロック共重合体組成物が、第一の芳香族ビニルモノマー、及び第一の共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる、下記条件(1)を満たすブロック共重合体(I)と、
第二の芳香族ビニルモノマー、及び第二の共役ジエンモノマーを含むモノマー構成単位からなる、下記条件(2)を満たすブロック共重合体(II)とを、(I)/(II)=95/5〜80/20の質量比で含有するものであり、
前記第一及び第二の芳香族ビニルモノマーに由来する芳香族環、及び前記第一及び第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の97%以上が水素添加されてなる水素化芳香族ビニル系共重合体組成物。
条件(1):第一の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の含有割合が90〜95質量%、重量平均分子量が7万〜20万、ブロック構造が下記一般式(1)で表され、第一の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の80%以上が水素添加されている。
条件(2):第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位の含有割合が40〜60質量%、重量平均分子量が7万〜20万、ブロック構造が下記一般式(1)で表され、第二の共役ジエンモノマーに由来する二重結合の80%以上が水素添加されている。
A−B−A …(1)
(前記一般式(1)中、Aは第一又は第二の芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位、Bは第一又は第二の共役ジエンモノマーに由来する構成単位である)
【請求項2】
ガラス転移点が120℃以上、重量平均分子量が5万以上、及び25mm厚での750nm波長光の光線透過率が88%以上である請求項1に記載の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水素化芳香族ビニル系共重合体組成物を成形してなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−257301(P2006−257301A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77850(P2005−77850)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】