説明

水素吸蔵合金

【課題】鉄(Fe)を含有する水素吸蔵合金において、サイクル特性に特に優れた新たな水素吸蔵合金を提案せんとする。
【解決手段】CaCu型結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析相のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のMnピーク強度に対する、偏析相のMnピーク強度の比率であるMnピーク強度比[{(偏析相のMnピーク強度)/(母相のMnピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Mnピーク比[Fe/Mn比]が、0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることを特徴とする水素吸蔵合金を提
案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CaCu型の結晶構造を有する水素吸蔵合金に関し、特に鉄(Fe)を含有する水素吸蔵合金に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、水素と反応して金属水素化物となる合金であり、室温付近で多量の水素を可逆的に吸蔵・放出し得るため、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle;電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車)やデジタルスチルカメラに搭載されるニッケル・水素電池や燃料電池の負極材料などとして利用されている。
【0003】
水素吸蔵合金としては、LaNiに代表されるAB型合金、ZrV0.4Ni1.5に代表されるAB型合金、そのほかAB型合金やAB型合金など様々な構成の合金が知られている。その多くは、水素との親和性が高く水素吸蔵量を高める役割を果たす元素グループ(Ca、Mg、希土類元素、Ti、Zr、V、Nb、Pt、Pdなど)と、水素との親和性が比較的低く吸蔵量は少ないが、水素化反応が促進し反応温度を低くする役割を果たす元素グループ(Ni、Mn、Cr、Feなど)との組合せで構成されている。
【0004】
水素吸蔵合金に含まれる鉄(Fe)に関しては、鉄(Fe)を含有することで微粉化特性(すなわち寿命特性)が良好になることが知られていた。そこで従来、このような鉄(Fe)の作用に着目した幾つかの発明が開示されている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開平10−149824号公報)には、FeがCoと共に微粉化特性(すなわち寿命特性)を良好にすることに着目し、Coの代わりにFeを加えて水素吸蔵合金を構成することが開示されている。
【0006】
特許文献2(特開2000−104133号公報)には、希土類系水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際の反応触媒として、Ni、Co、Fe元素が特に優れていることに着目し、Niの一部を特定量のFe及びMnで置換することにより、容量を落とさずにCoの置換量を低減させるか全く用いなくすることができ、従来のコバルト含有量の高い合金と同等な効果を有する水素吸蔵合金を開示すると共に、偏析相の出現を防止し、水素吸蔵量を損なうことなく、電池としての容量及び寿命等の高い電池特性を発現させる発明が開示されている。
【0007】
特許文献3(特開2001−76718号公報)には、構成元素としてCoを含有せず、少なくともFeとNiとを含有し、合金表面のFe濃度が内部のそれよりも低く、厚みが100〜2000Åである表面層とFeを含む母合金層との二層構造を有する水素吸蔵合金が開示されている。
【0008】
特許文献4(特開2001−200324号公報)には、CaCu5型の結晶構造であるLnNi5系(式中、LnはLaリッチミッシュメタルを表す。)を主相に持つ水素吸蔵合金において、Ln中のLa量が70〜100重量%であり、かつ、合金中のNiに対するFe置換比が0.015〜0.40原子比でかつ、Mgまたは/及びCaが合金中に0.1〜1重量%含有する水素吸蔵合金が開示されている。
【0009】
特許文献5(特開2006−173101号公報)には、一般式MmNiaMnbAlcCodFe e(式中、Mmはミッシュメタル)で表すことができるCaCu5型結晶構造を有するAB5型の水素吸蔵合金であって、放電容量が305mAh/g以上であり、且つX線回折から得られる(002)面の半値全幅が0.20°未満であるAB5型水素吸蔵合金が開示されており、Feの添加によって微粉化特性(すなわち寿命特性)を更に良好にすることができ、Feの含有が許容される用途においては、0<e≦0.11の範囲内で含有させることにより、活性度を低下させる影響も少なく、微粉化特性を良好なものとすることができる旨が開示されている(請求項1等、段落[0019])。
【0010】
【特許文献1】特開平10−149824号公報
【特許文献2】特開2000−104133号公報
【特許文献3】特開2001−76718号公報
【特許文献4】特開2001−200324号公報
【特許文献5】特開2006−173101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
水素吸蔵合金の用途として電池の負極材料、特にEV用途やHEV用途への利用を考えると、従来以上にサイクル特性を高める必要がある。
そこで本発明は、鉄(Fe)を含有する水素吸蔵合金について研究を進め、従来のものよりもさらにサイクル特性を高めることができる、新たな水素吸蔵合金を提案せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、CaCu型結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析相のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のMnピーク強度に対する、偏析相のMnピーク強度の比率であるMnピーク強度比[{(偏析相のMnピーク強度)/(母相のMnピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Mnピーク比[Fe/Mn比]が、0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることを特徴とする水素吸蔵合金を提
案する。
【0013】
本発明の水素吸蔵合金は、CaCu型の結晶構造の母相を有するAB型水素吸蔵合金において、偏析相におけるFeピーク強度と母相におけるFeピーク強度との比率であるFeピーク強度比と、偏析相におけるMnピーク強度と母相におけるMnピーク強度との比率であるMnピーク強度比との比率[Fe/Mn比]を規定することで、鉄(Fe)を含有する従来の水素吸蔵合金に比べても、優れたサイクル特性を得ることができる。よって、本発明の水素吸蔵合金は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電池の負極活物質として有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態について詳細に述べるが、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きく、Yより小さい」の意を包含する。
【0015】
本実施形態の水素吸蔵合金(以下「本水素吸蔵合金」という)は、CaCu型の結晶構造の母相を有するAB型水素吸蔵合金であって、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析相のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のMnピーク強度に対する、偏析相のMnピーク強度の比率であるMnピーク強度比[{(偏析相のMnピーク強度)/(母相のMnピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Mnピーク比[Fe/Mn比]が、0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることを特徴とする水素吸蔵合金である。
【0016】
本水素吸蔵合金において、「母相」とは、CaCu型の結晶構造からなる主相であり、「偏析相」とは、当該母相以外の相である。母相と偏析相の区別は、SEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)の反射電子像で観察すれば明確に区別することができる。
【0017】
本水素吸蔵合金は、上述のように、Fe/Mnピーク比が、0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることが重要であり、好ましくは0.13≦[Fe/Mn比]<0.37、特に好ましくは0.13≦[Fe/Mn比]≦0.33である。
Fe/Mnピーク比が0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることにより、本水素吸蔵合金を電池の負極活物質として用いた場合、優れたサイクル特性を得ることができる。
このような効果は、Fe及びMnを好ましい比率で偏析相に濃縮させることにより、偏析相においてFe及びMnを含む固溶体(化合物)が形成され、母相の水素吸蔵・放出に伴う格子の膨張・収縮による歪みをこの固溶体(化合物)が緩和する役割(クッションの役割)を果たしているのではないかと推察される。
【0018】
本水素吸蔵合金は、さらに、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時のFeピーク強度比と、母相のAlピーク強度に対する、偏析相のAlピーク強度の比率であるAlピーク強度比[{(偏析相のAlピーク強度)/(母相のAlピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Alピーク比[Fe/Al比]が、0.28<[Fe/Al比]<0.80であるのが好ましく、特に0.32≦[Fe/Al比]<0.80であるのが好ましく、中でも特に0.32≦[Fe/Al比]≦0.78であるのがさらに好ましい。
このような効果は、Fe及びAlを好ましい比率で偏析相に濃縮させることにより、上記同様にFe及びAlを含む固溶体(化合物)が偏析相において形成され、母相の水素吸蔵・放出に伴う格子の膨張・収縮による歪みをこの固溶体(化合物)が緩和する役割(クッションの役割)を果たしているのではないかと推察される。
【0019】
さらに本水素吸蔵合金は、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時のFeピーク強度比と、母相のCoピーク強度に対する、偏析相のCoピーク強度の比率であるCoピーク強度比[{(偏析相のCoピーク強度)/(母相のCoピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Coピーク比[Fe/Co比]が、0.84<[Fe/Co比]<2.11であるのが好ましく、特に0.90≦[Fe/Co比]<2.11であるのが好ましく、中でも特に0.90≦[Fe/Co比]≦1.91であるのがさらに好ましい。
このような効果は、Fe及びCoを好ましい比率で偏析相に濃縮させることにより、上記同様にFe及びCoを含む固溶体(化合物)が偏析相において形成され、母相の水素吸蔵・放出に伴う格子の膨張・収縮による歪みをこの固溶体(化合物)が緩和する役割(クッションの役割)を果たしているのではないかと推察される。
【0020】
なお、上記の「偏析相のM元素ピーク強度(M元素はFe、Mn、Al又はCo)」「母相のM元素ピーク強度(M元素はFe、Mn、Al又はCo)」は、正確にはそれぞれの平均値の意味である。仮に10個の偏析相又は母相が存在した場合、10個のM元素ピーク強度の平均値である。また、組成の異なる2種類以上の偏析相が合計で10個存在する場合は、10個のM元素ピーク強度の平均値である。
【0021】
本水素吸蔵合金は、上述のように、偏析相におけるFeピーク強度と母相におけるFeピーク強度との比率であるFeピーク強度比と、他のM元素(Mn、Al又はCo)の偏析相におけるピーク強度と母相におけるピーク強度との比率であるM元素ピーク強度比(例えばMnピーク強度比)との比率を所定範囲に規定することにより効果を享受できるものであるから、少なくともCaCu型の結晶構造の母相を有するAB型水素吸蔵合金であれば、元素組成に関係なく同様の効果を享受できるものと考えられる。
【0022】
AB型水素吸蔵合金のAサイトの金属としては、例えばLa、或いはLaを含むMm(希土類系の混合物であるミッシュメタル)を挙げることができ、Bサイトの金属としては、例えばNi、Al、Mn、Co、Fe、Ti、V、Zn及びZrなどのいずれか、或いはこれらの二種類以上の組合せを挙げることができる。
ただし、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電池の負極活物質への利用を考慮すると、一般式MmNiMnAlCoFeで表すことができる水素吸蔵合金が好ましい。そこで以下に、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電池の負極活物質への利用を考慮して、一般式MmNiMnAlCoFeで表すことができる水素吸蔵合金の好ましい母相の元素組成例について説明する。
【0023】
一般式MmNiMnAlCoFeにおいて、ABx組成におけるAサイトを構成する元素の合計モル数に対するBサイトを構成する元素の合計モル数の比率a+b+c+d+e(この比率は「ABx」「B/A」或いは「a+b+c+d+e」とも称されている)は、5.00≦ABx≦5.50であるのが好ましい。特に5.15≦ABx≦5.45であるのが好ましく、中でも特に5.30≦ABx≦5.40であるのがさらに好ましい。
【0024】
一般式MmNiMnAlCoFeで表すことができる水素吸蔵合金において、「Mm」は、少なくともLa及びCeを含む希土類系の混合物(ミッシュメタル)であればよい。通常のMmは、La及びCeのほかにPr、Nd、Sm等の希土類を含んでいる。例えばCe(40〜50%)、La(20〜40%)、Pr、Ndを主要構成元素とする希土類混合物を挙げることができるが、本水素吸蔵合金においては、Mm中のLa、Ce、Nd及びPrの含有割合(重量%)が、56.7≦La(Mm中)≦88.2、8.3≦Ce(Mm中)≦30.5、0≦Nd(Mm中)≦9.7、0≦Pr(Mm中)≦3.1であるものが好ましい。
中でも、Laは、Mm中で63.0〜88.2重量%を占めるのが好ましく、78.7〜88.2重量%を占めるのがより好ましい。
Ceは、Mm中で8.3〜26.0重量%を占めるのが好ましく、8.3〜20.3重量%を占めるのがより好ましい。
Ndは、Mm中で0〜8.3重量%を占めるのが好ましく、0〜4.8重量%を占めるのがより好ましい。
Prは、Mm中で0〜2.7重量%を占めるのが好ましく、0〜1.5重量%を占めるのがより好ましい。
なお、Nd及びPrを比較的多く含むMmについては、Laは、Mm中で60.0〜80.2重量%を占めるのが好ましく、62.0〜78.5重量%を占めるのがより好ましい。Ceは、Mm中で20.4〜30.5重量%を占めるのが好ましく、25.0〜30.5重量%を占めるのがより好ましい。Ndは、Mm中で5.0〜9.7重量%を占めるのが好ましく、7.5〜9.7重量%を占めるのがより好ましい。Prは、Mm中で1.6〜3.1重量%を占めるのが好ましく、1.7〜3.1重量%を占めるのがより好ましい。
【0025】
Coについては、その量を低減すれば安価に提供できるが、その寿命特性を維持することが難しくなるため、Coの割合(d)は、0<d≦0.35に設定することが好ましく、さらに好ましくは0<d≦0.30、中でも特に0.05≦d≦0.30であることが好ましい。
【0026】
Feの割合(e)は、0<e<0.30であるのが好ましく、中でも0<e<0.25、その中でも0<e≦0.20の範囲内で調整するのが好ましい。
【0027】
Niの割合(a)は、4.0≦a≦4.7、好ましくは4.1≦a≦4.6、特に好ましくは4.3≦a≦4.6、中でも更に好ましくは4.4≦a≦4.6である。4.0≦a≦4.7の範囲内であれば、出力特性を維持し易く、しかも微粉化特性や寿命特性を格別に悪化させることもない。
【0028】
Mnの割合(b)は、0.3≦b≦0.7、好ましくは0.3≦b≦0.6、更に好ましくは0.3≦b≦0.5である。Mnの割合が0.3≦b≦0.7の範囲であれば、微粉化残存率を維持し易くすることができる。
【0029】
Alの割合(c)は、0.20≦c≦0.50、好ましくは0.20≦c≦0.45、更に好ましくは0.25≦c≦0.45である。Alの割合が0.20≦c≦0.50の範囲内であれば、プラトー圧力が必要以上に高くなって充放電のエネルギー効率を悪化させるのを抑えることでき、しかも水素吸蔵量が低下するのを抑えることもできる。
【0030】
なお、本水素吸蔵合金は、Ti,Mo,W,Si,Ca,Pb,Cd,Mgのいずれかの不純物を0.05重量%程度以下であれば含んでいてもよい。
【0031】
(本水素吸蔵合金の製造方法)
本水素吸蔵合金は、水素吸蔵合金原料を秤量し混合し、例えば誘導加熱による高周波加熱溶解炉などを用いて上記水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯とし、流し込み速度を調整しつつ溶湯を例えば水冷型鋳型に流し込み、水冷型鋳型内で急冷することにより得ることができる。
この際、水冷型鋳型に溶湯を流し込む速度を高めると、溶湯の冷却速度が低下して偏析し易くなるから、偏析され易い金属元素(Mn、Al>Fe>Ni、Co)ほど偏析相の元素濃度(含有量)を高めることができ、各元素の添加量および冷却装置への流入速度などを調整して、[Fe/Mn比][Fe/Al比]及び[Fe/Co比]が所定範囲になるように調整することができる。
【0032】
また、鉄原料としては、酸化皮膜を備えた鉄が好ましい。後述する実施例とは別の試験において、酸化皮膜を備えた鉄を原料に用いたところ、酸化皮膜を備えていない鉄に比べて、サイクル特性をさらに高めることができた。また、この際には、酸化皮膜を備えた鉄を、上記の溶湯に添加し、速やかに出湯し、その後、上述のように流し込み速度を調整しつつ溶湯を水冷型鋳型に流し込むようにするのが好ましい。これにより、サイクル特性をさらに高めることができる。
【0033】
なお、必要に応じて、急冷後、不活性ガス雰囲気中、例えばアルゴンガス中で、1040〜1080℃、3〜6時間で熱処理するようにしてもよい。
また、得られた水素吸蔵合金(インゴット)を、必要に応じて、粗粉砕ないし微粉砕により必要な粒度の水素吸蔵合金粉末としてもよい。例えば500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粉砕を行い水素吸蔵合金粉末とすることができる。
さらにまた、必要に応じて、金属材料や高分子樹脂等により合金表面を被覆したり、酸やアルカリで表面を処理したりするなど適宜表面処理を施し、各種の電池の負極活物質として用いることができる。
【0034】
(水素吸蔵合金の利用)
本水素吸蔵合金(インゴット及び粉末を含む)は、公知の方法により、電池用負極を調製することができる。すなわち、公知の方法により結着剤、導電助剤などを混合、成形すれば水素吸蔵合金負極を製造できる。
【0035】
このようにして得られる水素吸蔵合金負極は、二次電池のほか一次電池(燃料電池含む)にも利用することができる。例えば、水酸化ニッケルを活物質とする正極と、アルカリ水溶液よりなる電解液と、セパレータからニッケル―MH(Metal Hydride)二次電池を構成することができ、小型又は携帯型の各種電気機器、電動工具、電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池(リチウム電池など他の電池と組み合わせて使用するハイブリッド型の燃料電池も含む)などの電源用途に好適に利用することができる。「ハイブリッド自動車」とは、電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車の意味であり、この際「内燃エンジン」にはガソリンエンジンばかりでなく、ディ−ゼルエンジン、その他のエンジンも含まれる。
また、ヒートポンプ、太陽・風力などの自然エネルギーの貯蔵、水素貯蔵、アクチュエータなどに使用される水素吸蔵合金への利用も可能である。
【0036】
本水素吸蔵合金は、電動工具やデジタルカメラなどの電池のように充放電深度の限界域間(H/M=0若しくは約0.1〜約0.8)で充放電される電池ではなく、電気自動車やハイブリッド自動車用電池など、充放電深度の中心領域で充放電される電池の負極活物質に用いるのが特に好ましい。
ここで、「充放電深度の中心領域で充放電される電池」とは、充放電深度の限界域(H/M=0若しくは約0.1〜約0.8)には満たない水素吸蔵量領域で充放電される電池を意味し、例えばH/M=約0.2〜約0.7、特に約0.4〜0.6を主な使用領域とする電池が好ましく、具体的には電気自動車及びハイブリッド自動車などの自動車に搭載される電池を挙げることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
(比較例1)
各元素の重量比率で、Mm:31.77%、Ni:59.60%、Mn:4.99%、Al:2.30%、Co:1.34%となるように原料(Ni、Mn、Al及びCoの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1440℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0039】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:78.7%、Ce:15.0%、Nd:4.8%、Pr:1.5%となるように調製したものを用いた。
【0040】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.48Al0.37Mn0.40Co0.10(ABx=5.35)であることを確認した。
また、Feは添加していないが、原料中の不可避不純物として含まれているため、得られた水素吸蔵合金中にFeが0.03wt%存在していることをICP分析により確認した。
【0041】
(比較例2)
各元素の重量比率で、Mm:31.75%、Ni:59.40%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:0.25%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1440℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を2kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0042】
なお、Mm原料としては、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:79.7%、Ce:20.3%となるように調製したものを用いた。
【0043】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.46Al0.37Mn0.40Co0.10Fe0.020(ABx=5.35)であることを確認した。
【0044】
(比較例3)
各元素の重量比率で、Mm:31.77%、Ni:58.13%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:1.50%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1440℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0045】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:56.7%、Ce:30.5%、Nd:9.7%、Pr:3.1%となるように調製したものを用いた。
【0046】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.36Al0.37Mn0.40Co0.10Fe0.12(ABx=5.35)であることを確認した。
【0047】
(実施例1)
各元素の重量比率で、Mm:31.75%、Ni:59.55%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:0.10%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0048】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:88.2%、Ce:8.3%、Nd:2.6%、Pr:0.9%となるように調製したものを用いた。
【0049】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.47Al0.37Mn0.40Co0.10Fe0.008(ABx=5.35)であることを確認した。
【0050】
(実施例2)
各元素の重量比率で、Mm:31.75%、Ni:59.40%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:0.25%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0051】
なお、Mm原料としては、La及びCeの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:79.7%、Ce:20.3%となるように調製したものを用いた。
【0052】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.46Al0.37Mn0.40Co0.10Fe0.020(ABx=5.35)であることを確認した。
【0053】
(実施例3)
各元素の重量比率で、Mm:31.75%、Ni:59.35%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:0.30%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0054】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:63.0%、Ce:26.0%、Nd:8.3%、Pr:2.7%となるように調製したものを用いた。
【0055】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.46Al0.37Mn0.40Co0.10 Fe0.024(ABx=5.35)であることを確認した。
【0056】
(実施例4)
各元素の重量比率で、Mm:31.75%、Ni:59.25%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:0.40%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0057】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:56.7%、Ce:30.5%、Nd:9.7%、Pr:3.1%となるように調製したものを用いた。
【0058】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.45Al0.37Mn0.40Co0.10 Fe0.032(ABx=5.35)であることを確認した。
【0059】
(実施例5)
各元素の重量比率で、Mm:31.75%、Ni:59.15%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:0.50%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0060】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:56.7%、Ce:30.5%、Nd:9.7%、Pr:3.1%となるように調製したものを用いた。
【0061】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.44Al0.37Mn0.40Co0.10 Fe0.040(ABx=5.35)であることを確認した。
【0062】
(実施例6)
各元素の重量比率で、Mm:31.75%、Ni:58.65%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:1.00%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0063】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:63.0%、Ce:26.0%、Nd:8.3%、Pr:2.7%となるように調製したものを用いた。
【0064】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.40Al0.37Mn0.40Co0.10Fe0.079(ABx=5.35)であることを確認した。
【0065】
(実施例7)
各元素の重量比率で、Mm:31.75%、Ni:59.55%、Mn:4.99%、Al:2.27%、Co:1.34%、Fe:0.10%となるように原料(Ni、Mn、Al及びCoの原料には純金属を用い、Feの原料には下記原料を用いた。)を秤量し、Feを除く原料を混合し、得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、Feは炉内の別容器にセットした。高周波溶解炉内を10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、その後、Feを溶湯に添加し、即座に総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0066】
原料のFeには、電解鉄(厚さ3mm〜12mmのフレーク状鉄)を乾燥機に入れて80℃で1週間酸化させ、酸化皮膜を形成したFeを用いた。
Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:88.2%、Ce:8.3%、Nd:2.6%、Pr:0.9%となるように調製したものを用いた。
【0067】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.47Al0.37Mn0.40Co0.10 Fe0.008(ABx=5.35)であることを確認した。
【0068】
(実施例8)
各元素の重量比率で、Mm:31.59%、Ni:60.96%、Mn:4.04%、Al:2.44%、Co:0.67%、Fe:0.30%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0069】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:63.4%、Ce:25.9%、Nd:8.0%、Pr:2.7%となるように調製したものを用いた。
【0070】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.60Al0.40Mn0.33Co0.05Fe0.024(ABx=5.40)であることを確認した。
【0071】
(実施例9)
各元素の重量比率で、Mm:31.51%、Ni:59.15%、Mn:6.19%、Al:1.52%、Co:1.33%、Fe:0.30%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0072】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:63.6%、Ce:25.8%、Nd:8.0%、Pr:2.7%となるように調製したものを用いた。
【0073】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.48Al0.25Mn0.50Co0.10Fe0.024(ABx=5.35)であることを確認した。
【0074】
(実施例10)
各元素の重量比率で、Mm:31.91%、Ni:59.92%、Mn:3.76%、Al:2.77%、Co:1.34%、Fe:0.30%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0075】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:62.8%、Ce:26.4%、Nd:8.2%、Pr:2.7%となるように調製したものを用いた。
【0076】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.48Al0.45Mn0.30Co0.10Fe0.024(ABx=5.35)であることを確認した。
【0077】
(実施例11)
各元素の重量比率で、Mm:31.84%、Ni:58.37%、Mn:4.13%、Al:2.46%、Co:0.67%、Fe:2.53%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に3kgの溶湯を2kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0078】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:63.0%、Ce:26.2%、Nd:8.1%、Pr:2.7%となるように調製したものを用いた。
【0079】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.37Al0.40Mn0.33Co0.05Fe0.200(ABx=5.35)であることを確認した。
【0080】
(実施例12)
各元素の重量比率で、Mm:31.74%、Ni:57.25%、Mn:4.99%、Al:1.71%、Co:4.01%、Fe:0.30%となるように原料(Ni、Mn、Al、Co及びFeの原料には純金属を用いた。)を秤量し、混合した。この混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4〜10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1470℃まで加熱し、次いで総重量200kgの水冷式銅鋳型に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中、1080℃で3時間の熱処理を行った。
【0081】
なお、Mm原料としては、La、Ce、Nd及びPrの希土類混合物であるミッシュメタルであり、Mm中の各成分の含有割合が、Mm全重量に対してLa:63.1%、Ce:26.1%、Nd:8.1%、Pr:2.7%となるように調製したものを用いた。
【0082】
得られた水素吸蔵合金はICP分析により、MmNi4.30Al0.28Mn0.40Co0.30Fe0.024(ABx=5.30)であることを確認した。
【0083】
[特性及び物性評価]
上記実施例及び比較例で得られた水素吸蔵合金粉末について、下記に示す方法によって諸物性値を測定した。
【0084】
<EDX点分析>
1) 合金インゴット又は合金粉を樹脂埋めし、切断、研磨することによりサンプルを作製した。
2) 得られたサンプルをSEM(S-3500N, HITACHI製)により観察した。
3) 反射電子像により、偏析相および母相を確認し、それぞれの部位での点分析をEDX(EDAX,MODEL:S-3500N132-10 AMPLIFIER MODEL:194)(エダックス・ジャパン株式会社)を用いて行った。
4) 点分析には、auto32sアプリケーションソフト(エダックス・ジャパン株式会社)を使用した。
5) 測定条件は、SEMの試料高さを15mmにセットし、EDX測定時の強度(cps)が8000(cps)となるようにSEMの加速電圧を設定した。倍率は8000倍、測定時間30秒とし、点分析を行った。EDXで点分析を行なう際、LaLα,CeLα, NdLα, PrLα, NiKα,MnKα, AlKα, CoKαおよびFeKαのピークを対象とした。なお、バックグラウンドは自動バックグラウンド処理により行った。
6) 測定精度を向上させる為、各10視野の測定を実施し、それらのピーク強度の平均値を測定データとして用いた。
7) ピーク強度の平均値を用い、M元素ピーク強度比(%)を以下のように求めた。M元素とは、Fe、Mn、Al及びCoである。
M元素ピーク強度比(%)=(M元素の偏析相におけるピーク強度)/(M元素の母相におけるピーク強度)×100
8) 得られたM元素ピーク強度比から、[Fe/Mn比][Fe/Al比]及び[Fe/Co比]を算出し、表1に示した。例えば[Fe/Mn比]であれば、次の式より算出した。[Fe/Mn比(−)]={Feピーク強度比(%)}/{Mnピーク強度比(%)}
なお、Feピーク特性X線の種類はFeKα線(最強線)であり、Mnピーク特性X線の種類はMnKα線(最強線)であり、Alピーク特性X線の種類はAlKα線(最強線)であり、Coピーク特性X線の種類はCoKα線(最強線)である。
【0085】
<BET比表面積上昇率の測定>
BET比表面積上昇率の測定は、PCTサイクルの前後で比表面積がどの程度増加したかを測定するものである。通常行なわれているような粒度を基準とした割れの程度を評価する方法(例えば微粉化残存率の測定)と異なるのは、サイクル前後の粒度測定の代わりに、窒素吸着法BET式比表面積の測定を行う点である。微粉化残存率では粒子が完全に割れていないと測定結果に反映されないが、窒素吸着法BET式による比表面積上昇率の測定では、粒子のひび割れによる比表面積増加の影響も測定結果に反映させることができるため、より精度の高い寿命評価が可能である。
【0086】
(サンプル調整)
実施例及び比較例で得られた水素吸蔵合金を、ジョークラッシャー(Fuji Paudal社製:model 1021-B)を用いて粗砕し、さらに横型ブラウン粉砕機(吉田製作所製)で500μmの篩目を通過する粒子サイズ(−500μm)まで粉砕を行った。
さらに、得られたこの−500μmの合金粉末20gをサイクロミル((型式1033-200)株式会社吉田製作所)で1分間粉砕した。次に、目開き22μm、53μmの篩を自動分級機(GILSON社製「GILSONIC AUTO SIEVER」)にセットし、得られた合金粉を該自動分級機を用いて5分間分級し、目開き22μmと53μmの篩間で得られた粉をサンプルとした。
【0087】
(PCT装置へのセットおよびサイクル前サンプル)
得られたサンプル4gをPCTホルダーに充填し、PCT特性測定装置((株)鈴木商館)にセットした。また、残りのサンプルをサイクル前のサンプルとした。
【0088】
(サイクル前処理)
サイクルを回す前に次のような操作を実施した。
(1) 合金付着水分処理:マントルヒーター(250℃)中、PCTホルダーを加熱した状態で1.7MPaの水素を導入し、10分間放置後、真空引きを行う一連の操作を2回実施した。
(2) 合金活性化処理:マントルヒーターからPCTホルダーを取り出し、3MPaの水素を導入し、10分間保持をした。その後、マントルヒーター(250℃)中でPCTホルダーを加熱した状態で10分間真空引きを行った。この一連の操作を2回実施した。
【0089】
(PCTサイクル)
マントルヒーターからPCTホルダーを取り出し、45℃の恒温槽にホルダーを移動させた後、真空引きを30分行い、その後、水素吸蔵・放出サイクルを下記条件設定の下で行った。
【0090】
・導入圧力:1.1MPa
・吸蔵時間:300sec
・放出圧力:0.0MPa
・放出時間:420sec
・サイクル数:10サイクル
【0091】
(サイクル後サンプル)
10サイクル終了後、30分の真空引きを行った後、PCTホルダーからサンプルを取り出し、10サイクル後のサンプルを得た。
【0092】
(BET比表面積測定)
サイクル前及びサイクル後のサンプルを用い、以下の条件でBET比表面積の測定を行った。
・使用装置:流動法式ガス吸着法比表面積測定装置(MONOSORB, ユアサアイオニクス社製)
・混合ガス:N230%−He70%
・サンプル使用量:3g
・サンプルセル:標準サンプルセル(QS-100)
・ 脱気条件:混合ガス(N230%−He70%)30cc/min流通下、100℃加熱、15min
・IB電流:230mA
【0093】
(BET比表面積上昇率の算出)
上記測定により得られた比表面積の値を用い、以下の式でBET比表面積上昇率を算出し、実施例1のBET比表面積上昇率を100とした時の相対値を求め、表1に示した。
・BET比表面積上昇率(%)={サイクル後比表面積(m2/g)/サイクル前比表面積(m2/g)}×100
【0094】
【表1】

【0095】
表1及び図1の結果より、比較例1〜3に比べて、実施例1〜12の水素吸蔵合金はBET比表面積上昇率が低く、図1中にプロットされた点は2次曲線に近似され、特に[Fe/Mn比]が0.2〜0.3の時に特に顕著にサイクル特性が優れることがわかった。このような結果より、[Fe/Mn比]は0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることが好ましく、特に0.13≦[Fe/Mn比]<0.37であるのが好ましく、中でも特に0.13≦[Fe/Mn比]≦0.33であるのが好ましいことがわかった。
また、表1及び図2の結果より、[Fe/Al比]に着目すると、比較例1〜3に比べて、実施例1〜12の水素吸蔵合金はBET比表面積上昇率が低く、図2中にプロットされた点は2次曲線に近似され、特に[Fe/Al比]が0.5〜0.7の時に特に顕著にサイクル特性が優れることがわかった。このような結果より、0.28<[Fe/Al比]<0.80に調整することによりさらにサイクル特性が好ましくなり、特に0.32≦[Fe/Al比]<0.80、中でも特に0.32≦[Fe/Al比]≦0.78に調整することにより、さらにサイクル特性が優れることが分った。
また、表1及び図3の結果より、[Fe/Co比]に着目すると、比較例1〜3に比べて、実施例1〜12の水素吸蔵合金はBET比表面積上昇率が低く、図3中にプロットされた点は2次曲線に近似され、特に[Fe/Co比]が1.0〜1.8の時に特に顕著にサイクル特性が優れることがわかった。このような結果より、[Fe/Co比]を、0.84<[Fe/Co比]<2.11に調整することによりさらにサイクル特性が好ましくなり、特に0.90≦[Fe/Co比]<2.11、中でも特に0.90≦[Fe/Co比]≦1.91に調整することにより、さらにサイクル特性が優れることが分った。
実施例11は、Feの添加量が多いが、高速冷却することで、[Fe/Mn比][Fe/Al比]および[Fe/Co比]を好ましい範囲に調整することができた。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】横軸:Fe/Mn比(−)、縦軸:BET比表面積上昇率(%)からなる座標に、実施例及び比較例の水素吸蔵合金の測定結果をプロットした図である。
【図2】横軸:Fe/Al比(−)、縦軸:BET比表面積上昇率(%)からなる座標に、実施例及び比較例の水素吸蔵合金の測定結果をプロットした図である。
【図3】横軸:Fe/Co比(−)、縦軸:BET比表面積上昇率(%)からなる座標に、実施例及び比較例の水素吸蔵合金の測定結果をプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaCu型結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析相のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のMnピーク強度に対する、偏析相のMnピーク強度の比率であるMnピーク強度比[{(偏析相のMnピーク強度)/(母相のMnピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Mnピーク比[Fe/Mn比]が、0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析相のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のAlピーク強度に対する、偏析相のAlピーク強度の比率であるAlピーク強度比[{(偏析相のAlピーク強度)/(母相のAlピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Alピーク比[Fe/Al比]が、0.28<[Fe/Al比]<0.80であることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析相のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のCoピーク強度に対する、偏析相のCoピーク強度の比率であるCoピーク強度比[{(偏析相のCoピーク強度)/(母相のCoピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Coピーク比[Fe/Co比]が、0.84<[Fe/Co比]<2.11であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
一般式MmNiMnAlCoFe(式中、Mmはミッシュメタル、0<e<0.30、5.00≦a+b+c+d+e≦5.50)で表すことができる請求項1〜3の何れかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
一般式MmNiMnAlCoFe(式中、Mmはミッシュメタル、4.0≦a≦4.7、0.3≦b≦0.7、0.20≦c≦0.50、0<d≦0.35、0<e<0.30、5.15≦a+b+c+d+e≦5.45)で表すことができる請求項1〜3の何れかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項6】
一般式MmNiMnAlCoFe(式中、Mmはミッシュメタル、4.1≦a≦4.6、0.3≦b≦0.6、0.20≦c≦0.45、0<d≦0.30、0<e<0.25、5.30≦a+b+c+d+e≦5.40)で表すことができる請求項1〜3の何れかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項7】
4.3≦a≦4.6であることを特徴とする請求項4〜6の何れかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項8】
一般式MmNiMnAlCoFe(式中、Mmはミッシュメタル、4.4≦a≦4.6、0.3≦b≦0.5、0.25≦c≦0.45、0.05≦d≦0.30、0<e≦0.20、5.30≦a+b+c+d+e≦5.40)で表すことができる請求項1〜3の何れかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項9】
Mm中のLa、Ce、Nd及びPrの含有割合(重量%)が、56.7≦La(Mm中)≦88.2、8.3≦Ce(Mm中)≦30.5、0≦Nd(Mm中)≦9.7、0≦Pr(Mm中)≦3.1を満たすことを特徴とする請求項4〜8の何れかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項10】
電気自動車或いはハイブリッド自動車に搭載する電池の負極活物質として用いることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の水素吸蔵合金。
【請求項11】
請求項1〜9の何れかに記載の水素吸蔵合金を負極活物質として備えた電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−30158(P2009−30158A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101998(P2008−101998)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】