説明

水素脆化センサ

【課題】材料試験やその結果に応じた材料選択によらずとも高圧水素システムにおける水素脆化の課題を解決可能にする。
【解決手段】高圧水素システムにおける使用材料のうち最も水素脆化し易い材料からなるダイアフラム部材2をセンサボデー10に備え、該ダイアフラム部材2の破壊を検知して当該高圧水素システム内における水素脆化を判断する。当該ダイアフラム部材2における破壊現象を通じて水素脆化現象をモニタリングすることにより、当該システムの構成部品が破損するよりも前に水素脆化やその影響を検知する。ダイアフラム部材2に当該ダイアフラム部材2の破壊を促進させる応力集中部3が形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素脆化センサに関する。さらに詳述すると、本発明は、高圧水素システムにおける水素脆化現象に対応するための技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料電池に反応ガス(酸化ガスや、燃料ガスとしての水素ガス)を給排するための配管系、電力を充放電する電力系、システム全体を統括制御する制御系などを備えたシステムとして構成されている。また、例えば高分子電解質形燃料電池等を備えた燃料電池システムは、水素ガスを高圧で貯蔵したタンク(高圧水素タンク)を備えたいわば高圧水素システムの一種でもある。
【0003】
このような高圧水素システムにおける大きな課題の一つは水素脆化である。これは、金属材料中に高圧水素雰囲気から水素が侵入して材料を脱化させ、場合によっては破壊に繋がる現象(水素脆化現象と呼ばれる)のことである。例えば現在の高圧水素システムでは、この水素脆化現象に関する基準を満たす材料が中心に使用されている。また、水素脆化現象の予測や判定に関しては、ダミーボルトを用いて水素脆化割れを予知する等の技術が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2002−365202号公報
【特許文献2】特開2005−147712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現状、高圧水素システムにおいて使用が公認されているのは2種類の材料のみであるため部品設計上の大きな制約となっており、制約が大きいという課題を解決するため種々の試験や研究が行われているところである(例えばNEDOの水素プロジェクトの中で水素脆化に関する材料データを取得している、等)。ところが、高圧水素中で強度試験ができる設備が日本に数台程度しかない、試験には危険が伴う、さらには法律上の制約があるといった背景から、課題解決は当該システムの利用者や設計者といった関係者らが期待するようなスピードでは進んでいない。
【0005】
そこで、本発明は、高圧水素システムにおける水素脆化の課題を解決可能な水素脆化センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。上述した水素脆化現象については研究中の段階であり、尚かつデータが極端に不足しているというのが現状である。一方で、燃料電池システムを搭載した燃料電池車両の低コスト化・軽量化の要請から、より高強度でより安価な材料をできるだけ早急に選択したいという要請もある。このような背景の下、水素脆化現象の予測という観点から検討を重ねた本発明者はかかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0007】
本発明の水素脆化センサはかかる知見に基づくものであり、高圧水素システムにおける使用材料のうち最も水素脆化し易い材料からなるダイアフラム部材をセンサボデーに備え、該ダイアフラム部材の破壊を検知して当該高圧水素システム内における水素脆化を判断するように構成されている。
【0008】
現状、高圧水素の条件下にて材料試験を行い、試験結果に応じた材料を選択してシステムに利用するという方向で水素脆化への対応が進められているが、材料の選択のみで水素脆化を完全に抑えることは将来的にも困難である。この点、本発明においては、高圧水素システムで使用されている材料の中で最も脆化が心配される材料からなるダイアフラム部材を利用し、当該ダイアフラム部材における破壊現象を通じて水素脆化現象をモニタリングすることにより、当該システムの構成部品が破損するよりも前に水素脆化やその影響を検知することが可能である。このような水素脆化センサは高圧水素システムのいずれかに配置されていればよく、従来のごとく材料試験を行ったり選択をしたりしなくても水素脆化の課題を解決することができる。
【0009】
この水素脆化センサにおいては、ダイアフラム部材に当該ダイアフラム部材の破壊を促進させる応力集中部が形成されていることが好ましい。こうした場合、システムにおける水素脆化現象をさらに感度よく検知することが可能となる。さらに、当該応力集中部が、ダイアフラム部材の圧力を受ける側とは反対側に形成されていることも好ましい。
【0010】
また、本発明にかかる水素脆化センサは、センサボデーとダイアフラム部材とで形成される密閉空間の内部に圧力検知素子を備えている。この場合の圧力検知素子は、ダイアフラム部材が破壊した場合に侵入する高圧水素と反応したり圧力で機能を損なったりすることがないように構成されている。
【0011】
また、密閉空間の内部に不活性ガスまたは低活性のガスが充填されていることが好ましい。このような構造であれば、ダイアフラム部材が破壊した場合に密閉空間中の酸素等と水素との反応を抑えることができる。
【0012】
本発明にかかる水素脆化センサにおいて、ダイアフラム部材は、受圧ダイアフラムと破壊検知用ダイアフラムの2つのダイアフラムからなる。受圧ダイアフラムは高圧水素の圧力を受けて変形等し、この変形等に応じた破壊検知用ダイアフラムの作用により破壊を検知することが可能である。さらに、この場合において受圧ダイアフラムと破壊検知用ダイアフラムとが平行に配置されていることも好ましい。
【0013】
また本発明では、破壊検知用ダイアフラムとセンサボデーとが一体化しており、該破壊検知用ダイアフラムの大気開放側に破壊検知センサが設けられている。破壊検知センサとしては例えばひずみゲージ等を用いることができる。
【0014】
あるいは、水素脆化センサにおいて破壊検知用ダイアフラムとセンサボデーとが別体であり、該破壊検知用ダイアフラムの大気開放側にひずみゲージ等の破壊検知センサが設けられていることも好ましい。破壊検知用ダイアフラムは例えば溶接、ろう付け等でセンサボデーに取り付けられている。このような構造の水素脆化センサにおいては、受圧ダイアフラムを透過し、2つのダイアフラム(受圧ダイアフラムと破壊検知用ダイアフラム)で構成される密閉空間に侵入した水素を、破壊検知用ダイアフラムを透過させて大気へ放出することができる。また、このように水素が侵入しても大気へ放出することが可能であるため、破壊検知用ダイアフラム材料の材質の選択幅を広げることができる。この場合、破壊検知用ダイアフラムが受圧ダイアフラムよりも水素を透過させ易い材料からなることが好ましい。さらに、当該材料は内部が多孔質で耐圧強度を有する焼結材料であり、該焼結材料の外側がフェライト系ステンレスまたは鋼板で覆われた構造であることが好ましい。
【0015】
また、本発明にかかる水素脆化センサにおいては、ダイアフラム部材の厚さ及び形状が、高圧水素中での破壊試験により求めた当該ダイアフラム部材の静的破壊荷重が実作動荷重の少なくとも2倍以上になるよう設計され、尚かつ実部品の設計に用いられた安全率未満の安全率に設定されている。
【0016】
さらに本発明にかかる高圧水素システムは、上述した水素脆化センサのいずれかを備えているというものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高圧水素システムにおける水素脆化の課題を解決することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1〜図6に本発明の実施形態を示す。本発明にかかる水素脆化センサ1は、高圧水素システム100における使用材料のうち最も水素脆化し易い材料からなるダイアフラム部材2をセンサボデー10に備え、該ダイアフラム部材2の破壊を検知して当該高圧水素システム100内における水素脆化を判断するように構成されているものである(図4等参照)。以下においては、高圧水素システム100の一例である燃料電池システム(以下、符号100を付して示す)の全体構成例についてまず説明し、その後、水素脆化センサ1について説明することとする。
【0020】
図1に本実施形態における燃料電池システム100の概略構成を示す。図示するように、燃料電池システム100は、燃料電池101と、酸化ガスとしての空気(酸素)を燃料電池101に供給する酸化ガス給排系(以下、酸化ガス配管系ともいう)300と、燃料ガスとしての水素を燃料電池101に供給する燃料ガス給排系(以下、燃料ガス配管系ともいう)400と、燃料電池101に冷媒を供給して燃料電池101を冷却する冷媒配管系500と、システムの電力を充放電する電力系600と、システム全体を統括制御する制御部700と、を備えている。
【0021】
燃料電池101は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数のセル(単セル)2を積層したスタック構造となっている。各セル2は、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に空気極を有し、他方の面に燃料極を有し、さらに空気極および燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータ20を有している。一方のセパレータ20の燃料ガス流路に燃料ガスが供給され、他方のセパレータ20の酸化ガス流路に酸化ガスが供給され、このガス供給により燃料電池101は電力を発生する。
【0022】
酸化ガス配管系300は、燃料電池101に供給される酸化ガスが流れる供給路111と、燃料電池101から排出された酸化オフガスが流れる排出路112と、を有している。供給路111には、フィルタ113を介して酸化ガスを取り込むコンプレッサ114と、コンプレッサ114により圧送される酸化ガスを加湿する加湿器115と、が設けられている。排出路112を流れる酸化オフガスは、背圧調整弁116を通って加湿器115で水分交換に供された後、最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。コンプレッサ114は、モータ114aの駆動により大気中の酸化ガスを取り込む。
【0023】
燃料ガス配管系400は、水素供給源121と、水素供給源121から燃料電池101に供給される水素ガスが流れる供給路122と、燃料電池101から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を供給路122の合流点Aに戻すための循環路123と、循環路123内の水素オフガスを供給路122に圧送するポンプ124と、循環路123に分岐接続された排出路125と、を有している。
【0024】
水素供給源121は、例えば高圧タンクや水素吸蔵合金などで構成され、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能に構成されている。水素供給源121の元弁126を開くと、供給路122に水素ガスが流出する。水素ガスは、調圧弁127その他の減圧弁により、最終的に例えば200kPa程度まで減圧されて、燃料電池101に供給される。
【0025】
供給路122の合流点Aの上流側には、遮断弁128が設けられている。水素ガスの循環系は、供給路122の合流点Aの下流側流路と、燃料電池101のセパレータに形成される燃料ガス流路と、循環路123とを順番に連通することで構成されている。水素ポンプ124は、モータ124aの駆動により、循環系内の水素ガスを燃料電池101に循環供給する。
【0026】
排出路125には、遮断弁であるパージ弁133が設けられている。パージ弁133が燃料電池システム100の稼動時に適宜開弁することで、水素オフガス中の不純物が水素オフガスと共に図示省略した水素希釈器に排出される。パージ弁133の開弁により、循環路123内の水素オフガス中の不純物の濃度が下がり、循環供給される水素オフガス中の水素濃度が上がる。
【0027】
冷媒配管系500は、燃料電池101内の冷却流路に連通する冷媒循環流路141と、冷媒循環流路141に設けられた冷却ポンプ142と、燃料電池101から排出される冷媒を冷却するラジエータ143と、ラジエータ143をバイパスするバイパス流路144と、ラジエータ143及びバイパス流路144への冷却水の通流を設定する三方弁(切替え弁)145と、を有している。冷却ポンプ142は、モータ142aの駆動により、冷媒循環流路141内の冷媒を燃料電池101に循環供給する。
【0028】
電力系600は、高圧DC/DCコンバータ161、バッテリ162、トラクションインバータ163、トラクションモータ164、及び各種の補機インバータ165,166,167を備えている。高圧DC/DCコンバータ161は、直流の電圧変換器であり、バッテリ162から入力された直流電圧を調整してトラクションインバータ163側に出力する機能と、燃料電池101又はトラクションモータ164から入力された直流電圧を調整してバッテリ162に出力する機能と、を有する。高圧DC/DCコンバータ161のこれらの機能により、バッテリ162の充放電が実現される。また、高圧DC/DCコンバータ161により、燃料電池101の出力電圧が制御される。
【0029】
バッテリ162は、バッテリセルが積層されて一定の高電圧を端子電圧とし、図示しないバッテリコンピュータの制御によって余剰電力を充電したり補助的に電力を供給したりすることが可能になっている。トラクションインバータ163は、直流電流を三相交流に変換し、トラクションモータ164に供給する。トラクションモータ164は、例えば三相交流モータであり、燃料電池システム100が搭載される例えば車両の主動力源を構成する。
【0030】
補機インバータ165,166,167は、それぞれ、対応するモータ114a,124a,142aの駆動を制御する電動機制御装置である。補機インバータ165,166,167は、直流電流を三相交流に変換して、それぞれ、モータ114a,124a,142aに供給する。補機インバータ165,166,167は、例えばパルス幅変調方式のPWMインバータであり、制御部700からの制御指令に従って燃料電池101又はバッテリ162から出力される直流電圧を三相交流電圧に変換して、各モータ114a,124a,142aで発生する回転トルクを制御する。
【0031】
制御部700は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、後述するポンプ124の解凍制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御部700は、ガス系統(300,400)や冷媒配管系500に用いられる各種の圧力センサや温度センサ、外気温センサなどの検出信号を入力し、各構成要素に制御信号を出力する。
【0032】
続いて、本発明にかかる水素脆化センサ1の実施形態を説明する(図2等参照)。
【0033】
<第1の実施形態>
水素脆化センサ1は、燃料電池システム(高圧水素システム)100における使用材料のうち最も水素脆化し易い材料からなるダイアフラム部材2をセンサボデー10に備え、該ダイアフラム部材2の破壊を検知して当該燃料電池システム100内における水素脆化を判断するように構成されている。
【0034】
センサボデー10は水素脆化センサ1の本体を構成しており、その先端側には空洞部4を形成する凹みが設けられている。センサボデー10の外周には取付けねじ部9が形成されており、本実施形態の水素脆化センサ1は当該取付けねじ部9により燃料電池システム100の所定の箇所に取り付けられて水素脆化のモニタリングに利用される。取付けねじ部9の逃げ付近には密封手段としてOリング6が設けられている(図2参照)。
【0035】
ダイアフラム部材2は、破壊することによって水素脆化現象の影響を知らしめるように形成された薄板状の部材である。このようなダイアフラム部材2の材料としては、水素脆化の感受性があるとされるステンレス鋼SUS304やSUS410、SUS430等の他、SCM435などの鋼材料などの採用が考えられる。本実施形態では、こうした材料を円板状に加工し、例えば溶接またはろう付けによってセンサボデー10の先端に取り付けている。このようにセンサボデー10の先端に取り付けられたダイアフラム部材2は、その外側の面で高圧水素の圧力Pを受ける(図2参照)。
【0036】
このようなダイアフラム部材2の表面は平坦であってもよいが、破壊を促進させる形状となっていることが好ましい。例えば本実施形態におけるダイアフラム部材2は、高圧水素側(高圧水素の圧力Pを受ける側)の面に切欠きからなる応力集中部3が形成されている(図2参照)。この場合、当該応力集中部3における応力が局部的に増大し、ダイアフラム部材2が破壊しやすくなることから、燃料電池システム100における水素脆化現象をさらに感度よく検知することが可能となる。本実施形態ではダイアフラム部材2の表面に段差を設け、当該ダイアフラム部材2の中央部をその他の部分よりも薄くしている。
【0037】
この場合、段差底面の両側の隅肉部分に関し、当該隅肉部分の半径rを適宜変更することも好ましい(図2、図3参照)。隅肉部分の半径rを適宜変更することにより、当該ダイアフラム部材2の応力集中部3における応力集中率を種々変化させることができる。
【0038】
また、センサボデー10とダイアフラム部材2とで形成される密閉空間(空洞部4)の内部には圧力検知素子5が設けられている(図2参照)。この圧力検知素子5は、水素脆化によってダイアフラム部材2が変形したり破壊したりした際における密閉空間(空洞部4)内での圧力変化を検知し、圧力検知素子電極8を通じて検知信号を出力する。本実施形態の圧力検知素子5は、ダイアフラム部材2が破壊した場合に空洞部4へと侵入する高圧水素と反応したり圧力で機能を損なったりすることがないように構成されている。さらに、圧力検知素子電極8が、センサボデー10を通過して水素脆化センサ1の基端側から突出するように設けられている(図2参照)。
【0039】
また、本実施形態では、密閉空間(空洞部4)の内部にあらかじめ不活性ガスまたは低活性のガスを充填しておくこととしている。ダイアフラム部材2が破壊した場合、高圧水素ガスと空洞部4の酸素とが瞬時的に反応を起こすことが生じうるが、本実施形態では不活性ガス等を充填しておくことにより水素と酸素との反応を抑え、好ましくない状態に陥ることを回避している。このようなガスとしては、アルゴン等の希ガスを用いることができるのはもちろん、水素ガスとの反応性が低い例えば窒素ガスのようなガスを用いることもできる。
【0040】
<第2の実施形態>
センサボデー10は水素脆化センサ1の本体を構成しており、その先端側には空洞部4を形成する凹みが設けられている。センサボデー10の外周には取付けねじ部9が形成されており、本実施形態の水素脆化センサ1は当該取付けねじ部9により燃料電池システム100の所定の箇所に取り付けられて水素脆化のモニタリングに利用される。取付けねじ部9の逃げ付近には密封手段としてOリング6が設けられている(図4参照)。
【0041】
ダイアフラム部材2は、破壊することによって水素脆化現象の影響を知らしめるように形成された薄板状の部材である。本実施形態では、水素脆化の感受性がある材料を円板状に加工し、例えば溶接またはろう付けによってセンサボデー10の先端に取り付けている(図6参照。なお、図6中における符号Wはレーザにより溶接した部分を示している)。このようにセンサボデー10の先端に取り付けられたダイアフラム部材2は、その外側の面で高圧水素の圧力Pを受ける(図4参照)。
【0042】
このようなダイアフラム部材2の表面は平坦であってもよいが、破壊を促進させる形状となっていることが好ましい。例えば本実施形態におけるダイアフラム部材2は、大気開放側(大気に通じる側のことで、本実施形態における上述の空洞部4側)の面に切欠きからなる応力集中部3が形成されている(図4、図5参照)。この場合、当該応力集中部3における応力が局部的に増大し、ダイアフラム部材2が破壊しやすくなることから、燃料電池システム100における水素脆化現象をさらに感度よく検知することが可能となる。本実施形態では直線状の切欠きからなる応力集中部3を例示しているが、もちろんこれは一例に過ぎず他の形状や構造としても構わない。また、本実施形態における応力集中部3は、ダイアフラム部材2の水素圧力Pを受ける側とは反対側(空洞部4側)に形成されたものだが、これとは反対に水素圧力Pを受ける側に形成されていてもよいし、あるいはこれら両面に形成されていてもよい。
【0043】
<第3の実施形態>
本実施形態の水素脆化センサ1は、ダイアフラム部材2が、受圧ダイアフラム2aと破壊検知用ダイアフラム2bの2つのダイアフラムからなる構造となっている(図7参照)。
【0044】
例えば上述の実施形態(第2の実施形態)における水素脆化センサ1においては、ダイアフラム部材2を透過した場合の水素ガスが空洞部4へと入り込むことによって当該空洞部4の内圧が徐々に高くなることがあり、このようにして内圧が高くなると、ダイアフラム部材2に破壊が生じていなくても破壊が生じたかのように誤って判断される可能性がある。この点、本実施形態では、ダイアフラム部材2を2部材からなる構造とし、一方のダイアフラム(破壊検知用ダイアフラム2b)を、高圧水素の圧力Pを受けて変形等した際の作用により検知信号を出力する構成としているから、上述のような誤った判断をする可能性がきわめて低くなっている。
【0045】
本実施形態における破壊検知用ダイアフラム2bは、センサボデー10と一体化した構造となっている(図7参照)。また、当該破壊検知用ダイアフラム2bの例えば裏面側(大気開放側)には、当該破壊検知用ダイアフラム2bの変形作用を検知可能なセンサの一例として例えばひずみゲージからなるひずみ検知素子11が設けられている。該ひずみ検知素子11は、水素脆化によって受圧ダイアフラム部材2aが破壊した際における破壊検知用ダイアフラム2bのひずみを検知し、ひずみ検知素子電極12を通じて検知信号を出力する(図7参照)。
【0046】
このような水素脆化センサ1において、受圧ダイアフラム2aと破壊検知用ダイアフラム2bとは本実施形態におけるように平行に配置されていることが好ましい(図7参照)。こうした場合、両ダイアフラム2a,2bの間に傾斜面のない密閉空間を形成することができ、受圧ダイアフラム2aが破壊した際における破壊検知用ダイアフラム2bのひずみをより均一に生じさせやすい。
【0047】
また、破壊センサ(ひずみ検知素子11)が破壊検知用ダイアフラム2bの大気開放側に設けられた本実施形態の水素脆化センサ1は、当該破壊センサ(ひずみ検知素子11)の一部が水素に触れにくい構造でもある。したがって、従来は設けられることのあった防爆構造を省略することも可能である。
【0048】
<第4の実施形態>
本実施形態の水素脆化センサ1は、ダイアフラム部材2が受圧ダイアフラム2aと破壊検知用ダイアフラム2bの2つのダイアフラムからなり、尚かつ破壊検知用ダイアフラム2bがセンサボデー10とは別体の構造となっている(図8参照)。該破壊検知用ダイアフラム2bの大気開放側には、ひずみゲージ等の破壊検知センサ(ひずみ検知素子11)が設けられている。破壊検知用ダイアフラム2bは例えば溶接、ろう付け等でセンサボデー10に取り付けられている。
【0049】
このような構造の水素脆化センサ1においては、破壊検知用ダイアフラム2bを構成する材料の選択幅を広げることができるので、受圧ダイアフラム2aを透過し、2つのダイアフラム(受圧ダイアフラム2aと破壊検知用ダイアフラム2b)で構成される密閉空間(空洞部4)に侵入した水素を、破壊検知用ダイアフラム2bをさらに透過させて大気へと放出させることが可能になる。
【0050】
ここで、破壊検知用ダイアフラム2bは受圧ダイアフラム2aよりも水素を透過させ易い材料からなることが好ましい。当該材料は例えば内部が多孔質で耐圧強度を有する焼結材料であり、該焼結材料の外側がフェライト系ステンレスまたは鋼板で覆われた構造であることが好ましい。材料の具体例を挙げて説明すれば以下のとおりである。
【0051】
第1の例として、受圧ダイアフラム2aがオーステナイト系ステンレス(拡散係数が10-14cm2/sec程度であり、水素ガス等の拡散が遅い)の場合、破壊検知用ダイアフラム2bの材料としてはフェライトまたはマルテンサイトステンレス若しくは鋼材料が好適である。これら材料におけるガス拡散は、オーステナイト系ステンレスの場合よりも109倍程度速い(拡散係数が10-5cm2/sec程度)。
【0052】
第2の例として、受圧ダイアフラム2aがフェライト系ステンレスや鋼(拡散が速い。両材質における拡散の速さは同じ程度)の場合、ステンレス焼結材をフェライトステンレス板若しくは鋼板などでサンドイッチした構成などとすることができる(図9参照)。
【0053】
図9に例示する破壊検知用ダイアフラム2bの場合、符号2boutで示す外側のフェライトステンレス板材の厚さは耐圧性が確保できる範囲で受圧ダイアフラム2aよりも極力薄くなっている。この場合、基本的な耐圧性は符号2binで示す中心(内側)の焼結材料で持たせると同時に、受圧ダイアフラム2aが破損した場合にはこの多孔質の焼結材料2binを通過して水素が多量に漏れ出でしまうおそれがあるので、これを防ぐ目的で外側をステンレス板材2boutで覆った構成としている。中心の焼結材料2binは水素透過の障害にはならないため全体として水素透過が受圧ダイアフラム2aより速くなる。耐食性を考慮するとフェライトステンレスが好適であるが鋼板を採用してもよい。このような破壊検知用ダイアフラム2bは、センサボデー10に溶接もしくはろう付けで一体化することができる。上述のような構造とした場合、耐圧性を確保しつつも水素ガス透過を速めるという、相反する特性を満足させることが可能である。
【0054】
上述の各実施形態中での説明から明らかなように、本発明にかかる水素脆化センサ1においては、高圧水素システム(例えば燃料電池システム100)で使用されている材料の中で最も脆化が心配される材料からなるダイアフラム部材2を利用し、当該ダイアフラム部材2での破壊現象を通じ、圧力変化またはひずみ変化をパラメータとして水素脆化現象をモニタリングすることができる。このため、高圧水素条件下での材料試験の結果に応じた材料を選択してシステムに利用するという現状の手法によらずとも、別途形成された水素脆化センサ1を当該高圧水素システムの所定の箇所に取り付けるだけで水素脆化現象のモニタリングを実施でき、従来のごとく材料試験を行ったり選択をしたりしなくても水素脆化の課題を解決することが可能である。また、高圧水素システムに配置された場合の水素脆化センサ1は、実際のシステムにおける圧力や温度変動の影響を受けることから、水素脆性に対してより正確な判断をしうる点でも好ましい。
【0055】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では水素脆化センサ1の適用が可能な高圧水素システムの一例として車両に好適な燃料電池システム100を例示したが(図1参照)、他の高圧設備等においても適用が可能であることはいうまでもない。
【0056】
また、上述した各実施形態にて説明したダイアフラム部材2(あるいはこれを構成する受圧ダイアフラム2aや破壊検知用ダイアフラム2b)を、さらに所定の形態(厚さ及び形状)とすることもできる。例えば、ダイアフラム部材2(あるいはこれを構成する受圧ダイアフラム2aや破壊検知用ダイアフラム2b)の厚さ及び形状を、あらかじめ行った高圧水素中での破壊試験により求めた当該ダイアフラム部材2の静的破壊荷重が実作動荷重の少なくとも2倍以上になるよう設計してもよい。つまり、ダイアフラム部2の厚さや切欠き形状などを設計するに際し、あらかじめ水素中試験により静的破壊荷重を測定しておき、この値が実作動荷重に対して少なくとも2倍以上の安全率になるように設計してもよい。ここでいう「2倍」は、水素中の疲労強度が静的強度のおよそ半分に基づくものであり、種々の形態に応じて適宜変更することができるものである。
【0057】
また、ダイアフラム部2(あるいはこれを構成する受圧ダイアフラム2a等)を設計するにあたり、実部品(実際に用いられる部品)の設計に用いた安全率よりも低い安全率に設定することとしてもよい。すなわち、本発明におけるダイアフラム部2(あるいはこれを構成する受圧ダイアフラム2a)は水素脆化の影響下でより早期に破壊すべきものであるため、実際に用いられる部品の安全率(当該部品が他の部品として実際に用いられる場合における通常的な安全率)を下回る安全率に設定しておけばモニタリングに供する部品として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】高圧水素システムの一例である燃料電池システムの構成例を示す図である。
【図2】本発明にかかる水素脆化センサの第1の実施形態を示す部分断面図である。
【図3】ダイアフラム部材に形成された応力集中部の部分拡大図である。
【図4】本発明にかかる水素脆化センサの第2の実施形態を示す部分断面図である。
【図5】ダイアフラム部材の大気開放側の形状例を示す図である。
【図6】ダイアフラム部材をレーザによりセンサボデーに溶接した部分を拡大して示す図である。
【図7】水素脆化センサの第3の実施形態を示す部分断面図である。
【図8】水素脆化センサの第4の実施形態を示す部分断面図である。
【図9】破壊検知用ダイアフラムの構造例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1…水素脆化センサ、2…ダイアフラム部材、2a…受圧ダイアフラム。2b…破壊検知用ダイアフラム、3…応力集中部、4…空洞部(センサボデーとダイアフラム部材とで形成される密閉空間)、5…圧力検知素子、10…センサボデー、11…ひずみ検知素子(破壊検知センサ)、100…燃料電池システム(高圧水素システム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水素システムにおける使用材料のうち最も水素脆化し易い材料からなるダイアフラム部材をセンサボデーに備え、該ダイアフラム部材の破壊を検知して当該高圧水素システム内における水素脆化を判断するように構成されている水素脆化センサ。
【請求項2】
前記ダイアフラム部材に当該ダイアフラム部材の破壊を促進させる応力集中部が形成されている請求項1に記載の水素脆化センサ。
【請求項3】
前記応力集中部が、前記ダイアフラム部材の圧力を受ける側とは反対側に形成されている請求項2に記載の水素脆化センサ。
【請求項4】
前記センサボデーと前記ダイアフラム部材とで形成される密閉空間の内部に圧力検知素子を備えている請求項1から3のいずれか一項に記載の水素脆化センサ。
【請求項5】
前記密閉空間の内部に不活性ガスまたは低活性のガスが充填されている請求項4に記載の水素脆化センサ。
【請求項6】
前記ダイアフラム部材は、受圧ダイアフラムと破壊検知用ダイアフラムの2つのダイアフラムからなる請求項1から5のいずれか一項に記載の水素脆化センサ。
【請求項7】
前記受圧ダイアフラムと破壊検知用ダイアフラムとが平行に配置されている請求項6に記載の水素脆化センサ。
【請求項8】
前記破壊検知用ダイアフラムと前記センサボデーとが一体化しており、該破壊検知用ダイアフラムの大気開放側に破壊検知センサが設けられている請求項6または7に記載の水素脆化センサ。
【請求項9】
前記破壊検知用ダイアフラムと前記センサボデーとが別体であり、該破壊検知用ダイアフラムの大気開放側に破壊検知センサが設けられている請求項6または7に記載の水素脆化センサ。
【請求項10】
前記破壊検知用ダイアフラムが前記受圧ダイアフラムよりも水素を透過させ易い材料からなる請求項9に記載の水素脆化センサ。
【請求項11】
前記材料は、内部が多孔質で耐圧強度を有する焼結材料であり、該焼結材料の外側がフェライト系ステンレスまたは鋼板で覆われた構造である請求項10に記載の水素脆化センサ。
【請求項12】
前記ダイアフラム部材の厚さ及び形状が、高圧水素中での破壊試験により求めた当該ダイアフラム部材の静的破壊荷重が実作動荷重の少なくとも2倍以上になるよう設計され、尚かつ実部品の設計に用いられた安全率未満の安全率に設定されている請求項1から11のいずれか一項に記載の水素脆化センサ。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の水素脆化センサを備えた高圧水素システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−145046(P2009−145046A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319288(P2007−319288)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】