説明

水質検査口水面の凍結防止構造

【課題】水質検査機器のケーブル内蔵ワイヤーが投下される被水質測定水域水面の凍結を防止することができ、冬季あるいは寒冷地にある貯水域においても支障なく水質観測が可能な水質検査口水面の凍結防止構造を提供する。
【解決手段】ダム湖等の被水質測定貯水域の護岸に設置された昇降装置3により水深方向へ昇降可能にされたケーブル内蔵ワイヤー4に懸吊され、当該貯水域Wの水質を所定項目で測定するセンサーボックス(水質検査機器)2と、を備えた水質検査装置において、ケーブル内蔵ワイヤー4の投入区画水域面WSを二重壁で囲撓可能な複層空隙構造を有する保護フロート5を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム、湖沼、河川、港湾等において、その水中に懸下した水質検査機器の保護方法に関し、とくに、ダム堤体又は護岸から懸吊されたガイドワイヤーやケーブル内臓ワイヤーの周囲水面や水質検査機器を搭載した台船の検査口水面の凍結防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダム湖や湖沼等の貯水域にあっては、富栄養化現象等を原因として赤潮やアオコが発生して、その水域の生態系に悪影響を与える。これら赤潮やアオコは、植物プランクトンが主体であり、発生する環境条件として、光合成に必要な日光、水質項目としては、水温、pH、溶存酸素(DO)、栄養源としての窒素(N)やリン(P)の含有率が大きく関与する。したがって、これらの水質項目について恒常的に検査し、貯水域内の分布状態やその経時的変化を細かく把握することが、富栄養化現象の原因やメカニズムの解明、水質の管理において重要である。
【0003】
水質検査は、護岸から懸吊されたケーブル内蔵ワイヤーに吊下げて水質検査機器を水中に沈めたり、測定水域に船を停止又は固定化した台船からウインチと懸吊ケーブル内蔵ワイヤーを使用して検査機器を水中で昇降させて行う。
【0004】
その中でも、ダム貯水池の水質観測設備には大別して索道式と台船式(例えば、特許文献1参照。)があるが、いずれも定期的に検出装置を昇降装置にて上下させて水面から所定の水深まで予定の間隔(例えば50cm)で、水温や濁度、PH、溶存酸素濃度等を通年に渡って測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−103297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、被測定貯水域の水面が凍結するような冬季あるは寒冷地にある場合、とくに、機器を懸吊したケーブルが動かせなくなり、観測不能となることがあった。そこで、本発明者は内周側に複数の送風孔を穿設した環状の管を水面下に設置してコンプレッサーから空気を圧送して曝気し、ケーブル水没位置周辺の水面を流動させることで凍結防止を図ったが十分な効果が得られなかった。本発明は、以上のような従来技術の課題に鑑み、水質検査機器のケーブル内蔵ワイヤーが投下される被水質測定水域水面の凍結を防止することができ、冬季あるいは寒冷地にある貯水域においても支障なく水質観測が可能な水質検査口水面の凍結防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明の水質検査口水面の凍結防止構造は、ダム湖等の被水質測定貯水域の護岸又は浮上させた台船上に設置された昇降装置により水深方向へ昇降可能にされたケーブル内蔵ワイヤーと、これに吊下げられた当該貯水域の水質を所定項目で測定するセンサーボックス(水質検査機器)とを備えた水質検査装置において、前記ケーブル内蔵ワイヤーの投入区画水域面を少なくとも二重壁で囲撓可能な複層空隙構造を有する保護フロート又は保護ダクトを設けたことを第1の特徴とする。また、保護フロート又は保護ダクトによる区画水面域に暖気を吹き付けることを第2の特徴とする。さらに、保護フロート又は保護ダクトの複層空隙内に暖気又は温水を導入することを第3の特徴とする。加えて、台船が、直方体状のフロートを平面視矩形状に組み合わせ、その中央部分にケーブル投入口が開口するように構成されていることを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下記の優れた効果がある。
(1)被水質観測用区画水面の凍結を防止することができ、寒冷地や冬季においても支障なく測定機器の水中での昇降を行うことができる。
(2)台船上の各種機器設備を積雪から守ることができる。
(3)直方体状フロートを組み合せることで、ケーブル投入口が開口した台船を簡便に製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
次に、本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【図1】本発明に係る水質検査口の凍結防止構造のダム堤体における設置状態を示す側面図である。
【図2】図1の懸吊構造を模式的に示す要部拡大図である。
【図3】本発明に係る保護フロートの(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図4】本発明に係る保護フロートの側面図である。
【図5】本発明に係る台船式水質検査装置の正面図である。
【図6】本発明に係る台船式水質検査装置の平面図である。
【図7】本発明に係る台船式水質検査装置の側面図である。
【図8】台船式水質検査装置の保護ダクトを示す(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図9】図8のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
図1及び図2に示すように、例えば、被水質測定貯水域であるダム湖Wの護岸擁壁(以下、単に堤防Tという)の頂部に設けられたステージ1から、ダム湖Wの底面に沈下されたアンカー13との間に張設されたガイドワイヤー4a上に一対のアーム2aで支持され且つウインチ(昇降装置)3に捲巻されたケーブル内蔵ワイヤー(アーマードケーブル)4に吊下げられたセンサーボックス(水質検査機器)2により当該貯水域の水質を所定項目で測定するタイプの装置の場合、ガイドワイヤー4a及びの投入区画水域面WSを保護フロート5で囲撓する。この保護フロート5は、ガイドワイヤー4aに沿って浮沈可能にされており、ダム湖Wの水位に応じて常時昇降移動するようにされている。尚、センサーボックス2は、例えば、水温、ペーハー、溶存酸素量、葉緑素量等を検出する各種センサーを複合させて保護筒内に格納したものである。また、ケーブル内蔵ワイヤー(アーマードケーブル)4とは、コンダクターと呼ばれる導線を内蔵し、ステンレス鋼線で外装して張力を担う特殊なワイヤーケーブルである。
【0011】
保護フロート5は、図3乃至図4に示すように、平面視で直径方向に二分割(割り子様)にされた環型筒状体で、各々の半筒体5aは内部にフロートと断熱層を兼ねた空気層5bを有する複層空隙構造、すなわち二重管構造で、空気層5bから延下してスカート部5iを設け、二重管部だけでは不足するガード及びバランスウエイトの役割を担っている。これら半筒体5aを組み合せた状態において、ケーブル挿通用開口(水質検査口)5cが形成される。尚、図中、5eは取手、5dは擁壁面等の外部に対する緩衝体であり、材質としてはネオプレンスポンジ等が好適に用いられる。
【0012】
この保護フロート5は、水域表層の浮遊ゴミからガイドワイヤー4a、ケーブル内蔵ワイヤー4及びセンサーボックス2を保護することを第1の目的としている。また、筒体の外周板と内周板の間に空気層5bを設けて、検査口水域を二重壁で区画することによって断熱性能を発揮させ、センサーボックス2の投入区画水域面WSにおいて、保護フロート5の外側水域が万一凍結しても、フロート5の内側水域の凍結防止を図るものであり、例えば、この空気層(空隙)5b内に暖気や温水を導入したり、また、保護フロート5をカーボン素材のように太陽光を蓄熱可能な材質とすることで、さらに所期の効果を高めることができる。
【実施例2】
【0013】
次に本発明の構造を台船タイプの装置に適用した場合について説明する。尚、便宜上、実施例1と同様の構成要件には同一の参照符号を付して説明する。
図5乃至図7に示すように、本実施例の水質観測装置は、例えばダム湖の陸地から遠く離間した場所の水質を測定する装置であって、水質測定用のセンサーボックス2は、被水質測定水域に浮上させた台船1上に設置された昇降装置(ウインチ)3により水深方向へ昇降可能にされたケーブル内蔵ワイヤー(アーマードケーブル)4に懸下されている。また、台船1にはその全体を覆うように四角錐状のテント(屋根)6が設けられている。テント6の材質はポリエステル等の合成樹脂製で、屋根の傾斜角度は積雪が自然落下する45°程度が好ましい。テント6部分は、発泡スチロール等を断熱材としてステンレス板等で円形のドーム状等に形成しても良く、要は、台船1上の積雪を防止し且つ自然落下する屋根形状であればよい。尚、図中、9は耐雷トランス、12はボート接触時緩衝用のペンドルである。
【0014】
台船1は無人の作業船であって、基本的に、直方体状のフロートを平面視矩形状に組み合わせて構成されている。換言すれば分割可能な組立式の台船である。本実施例では、縦横の比が2対1となる直方体状の4つの箱型フロート1aを平面視矩形状(本実施例では正方形)に組み合わせることで、その中央部分に自ずと開口部が形成され、後述するケーブル投入口(水質検査口)5cが開設され、台船1の中央部からはセンサーボックス2がケーブル内蔵ワイヤー4に接続されると共に、吊下げられる。また、台船1の中央開口部にはケーブル内蔵ワイヤー4の投入区画水域面WSを囲撓可能な矩形環型の保護ダクト5が取付けられる。尚、直方体状の4つの箱型フロート1aの縦横の比率は任意であるが、これを変えることで、ケーブル投入口5cの開口寸法を所望する寸法に変えることができ、フロート1aを切り欠く等、特段の加工を要しない点で利便性が高い。
【0015】
この保護ダクト5は、実施例1と同様に筒体の外周板と内周板の間に空気層5bを設けることで複層空隙構造とし、検査口水域を二重壁で区画することによって断熱性能を発揮させ、ケーブル内蔵ワイヤー4の投入区画水域面WSにおいて、保護ダクト5の外側水域が万一凍結しても、保護ダクト5の内側水域の凍結防止を図るものであり、図8乃至図9に示すように、台船1上に設置された暖気ブロアー7から暖気導入ダクト7aを介して、暖気噴出孔7cから空気層(空隙)5b、すなわち矩形筒内に暖気が噴入され、区画水域の貯留水Wを温める。
【0016】
図5及び図8に矢示するように、保護ダクト5内に噴入された暖気は、先ずダクト5壁内の下部に導入され、その後、保護ダクト5壁内を循環する。そして、保護ダクト5の底部を暖めた後、保護ダクト5壁内を上昇してダクト5上部の4辺内側に下向きに開けられた暖気噴出孔5hから下方に向かって噴出され、一旦、水面WSに接触して湖面を温め結氷を防止した後、保護ダクト5内を上昇して台船1全体を覆うテント(屋根)6の傾斜に倣って対流する。このように、テント6内に暖気を対流させることで、各種装置の凍結を防止し、テント6への着雪を防止することができる。すなわち、暖気は、先ず保護ダクト5自身を暖め、これに接する水温を上昇させる。次いで、水面WSを温めた後、テント6内を循環する暖気は内部機器を適度な温度に保つと共に、テント6表面から放熱される。尚、温度が低下した空気は、再度暖気ブロアー7に取り込まれて再循環するようにされている。
【0017】
さらに、保護ダクト5は、水面下1m程度まで延出して検査水域を区切り、ダクト5内部の貯水を加温することで昇降する対流を発生させて凍結を防止する。そのために、バルブ14を開ければ直接上部管へ分岐供給される。一部は上部角パイプ内、中間ダクト5b内に供給される。ほとんどの暖気は暖気導入ダクト7aから下部管内に送り込まれ、上部通気孔5gを経て中間ダクト5bに供給され、保護ダクト5の四辺中間部の上部通気長孔5fを経て、暖気噴出孔5hから区画水面に向けて噴出される。尚、図中、8は温度制御盤であるが、具体的には、区画水面近傍に温度計を設置し、水面温度が5℃まで下がったら暖気ブロアー7を駆動させ、15℃程度まで上昇したら停止するように制御する。また、暖気温は100℃以下とし、過熱を防ぐことも肝要である。
【0018】
また、導入暖気による過剰な昇圧を制御するための非常用排気口7e及びダクト7dが暖気導入ダクト7aの対角上に、さらに、暖気導入ダクト7aには分岐ダクト7bが設けられており、水温及び気温に応じて暖気導入量を大きく増減することができるようにされている。また、非常用排気口7dには、テント6内部への暖気排気バルブ15が取付けられ、このバルブ15を開放することで、テント6内の温度を迅速に上昇させることができるようにもされている。尚、各実施例では、ダム湖の水質観測装置として説明したが、これに限定されるものではなく、河川や湾内といった多様な水域にも利用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0019】
1 台船(ステージ)
1a 箱型フロート
2 センサーボックス(水質検査機器)
2a センサーボックスのアーム
3 昇降装置(ウインチ)
4 ケーブル内蔵ワイヤー(アーマードケーブル)
4a ガイドワイヤー
5 矩形環型保護ダクト(環型保護フロート)
5a 半筒体(複層体)
5b 空気層
5c ケーブル挿通用開口(水質検査口)
5d 緩衝体
5e 取手
5f 上部通気長孔
5g 下部通気孔
5h 暖気噴出孔
5i スカート部
6 台船の屋根(テント)
7 暖気ブロアー
7a 暖気導入ダクト
7b 暖気導入分岐ダクト
7c 暖気噴出孔
7d 非常用排気ダクト
7e 非常用排気口
8 制御盤
9 耐雷トランス
10 レーダーリフレクター
11 標識灯
12 ペンドル
13 水中ウエイト
14 バルブ
15 バルブ
T 堤防(ダムの擁壁)
W 貯留水
WS 水面(湖面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダム湖等の被水質測定貯水域の護岸又は浮上させた台船上に設置された昇降装置により水深方向へ昇降可能にされたケーブル内蔵ワイヤーと、これに吊下げられた当該貯水域の水質を所定項目で測定するセンサーボックス(水質検査機器)とを備えた水質検査装置において、前記ケーブル内蔵ワイヤーの投入区画水域面を少なくとも二重壁で囲撓可能な複層空隙構造を有する保護フロート又は保護ダクトを設けたことを特徴とする水質検査口水面の凍結防止構造。
【請求項2】
保護フロート又は保護ダクトによる区画水面域に暖気を吹き付けることを特徴とする請求項1記載の水質検査口水面の凍結防止構造。
【請求項3】
保護フロート又は保護ダクトの複層空隙内に暖気又は温水を導入することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水質検査口水面の凍結防止構造。
【請求項4】
台船が、直方体状のフロートを平面視矩形状に組み合わせ、その中央部分にケーブル投入口が開口するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の水質検査口水面の凍結防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−145211(P2011−145211A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7153(P2010−7153)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(510015534)株式会社日向技研 (1)