説明

水質監視装置および水質監視方法

【課題】水質異常以外の特殊事情が生じても、水質異常の判断ミスが生じることがなく、正確に水質異常を判断できる水質監視装置および水質監視方法を提供することを目的とする。
【解決手段】水槽1内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽1内の水質を監視する監視装置であって、撮影された複数枚の画像から、魚の進行方向を算出する進行方向演算手段と、進行方向演算手段が算出した進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算手段と、方向変化量演算手段によって算出された進行方向の変化量の時間平均値を算出する変化量平均手段と、変化量平均手段によって算出された進行方向の変化量の時間平均値に基づいて、水質を判断する水質判断手段とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質監視装置および水質監視方法に関する。さらに詳しくは、生物として毒性物質に敏感な小魚(例えば、メダカ)を複数尾水槽に入れ、撮影した小魚の画像をコンピュータで画像処理して、個々の小魚の行動を自動追尾し、リアルタイムで水質異常を検知する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テロリズムや不法投棄などによる環境悪化から安全な水を守ることへの関心が高まっている。
河川や池などの水質を検査する場合、工業計器による水質検査装置では、不特定多数の毒性物質の検知が不可能である。しかも、毒性物質の種類によっては、前処理や成分分析に時間を要するため迅速な対応が困難である。
そこで、浄水場などの水関連施設では、工業計器だけでなく、魚などの生物を使って水質の異常を検知している所が多く、近年では、魚の挙動を撮影し、その画像を画像処理することによって認識される魚の異常行動に基づいて水質異常を判定する技術が開発されている。
毒物等が混入したときにおける魚の異常行動としては、鼻あげ行動や、急激な動作・静止の繰り返し、頻繁な方向転換、沈下行動(急上昇とゆっくり沈下を繰り返す行動)、水槽内の特定箇所に集合する等が知られており、種々のパラメータを利用して、上記行動を検出し、水質を判断することが行われている。
【0003】
魚の急激な動作・停止の繰り返しを把握するために、魚の加速度を利用する技術が開発されている(従来例1:特許文献1)。
従来例1の技術は、所定の時間内における魚の加速度頻度分布グラフを形成し、加速度異常の頻度が所定の数より多くなった場合に、魚の急激な動作・停止の繰り返している、つまり、水質の異常が生じていると判断するものである。
【0004】
また、魚の頻繁な方向転換を把握することによって水質異常を判断する技術も開発されている(従来例2:特許文献2)。
従来例2の技術は、魚が細長い形状をしているので、その長手方向を魚の向きと定め、その向きが反転した回数を数え、その回数が正常時よりも多くなると水質異常が生じていると判断するものである。
【0005】
しかるに、従来例1の特許では、単に加速度の頻度分布を形成しているだけであるため、一部の魚が病気等に罹患したことにより異常行動をしても、その異常行動に起因する異常な加速度も頻度分布に含まれてしまう。すると、水質異常以外の特殊事情と本当の水質異常の区別をつけることができないので、水質異常の判断ミスが発生が発生する可能性が高くなる。
【0006】
また、従来例2の場合も同様に、魚の反転回数を数えているだけであるため、水質異常以外の特殊事情と本当の水質異常の区別をつけることができず、水質異常の判断ミスが発生が発生する可能性が高くなる。しかも、従来例2では、魚の反転、つまり、魚が180°向きを変化させた場合だけを考慮しているに過ぎないから、魚がジグザグに泳ぐような場合には、頻繁な方向転換しても反転回数には反映されない可能性がある。すると、水質異常が発生しても、その異常を検出できない可能性がある。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−175766号
【特許文献2】特開昭63−133060号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、水質異常以外の特殊事情が生じても、水質異常の判断ミスが生じることがなく、正確に水質異常を判断できる水質監視装置および水質監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の水質監視装置は、水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視装置であって、撮影された複数枚の画像から算出される所定の時間内における魚の進行方向の変化量に基づいて、水質を判断する水質判断手段を備えていることを特徴とする。
第2発明の水質監視装置は、水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視装置であって、撮影された複数枚の画像から魚の進行方向を算出する進行方向演算手段と、該進行方向演算手段が算出した進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算手段と、該方向変化量演算手段によって算出された進行方向の変化量の時間平均値を算出する変化量平均手段とを備えていることを特徴とする。
第3発明の水質監視装置は、水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視装置であって、撮影された複数枚の画像から魚の進行方向を算出する進行方向演算手段と、該進行方向演算手段が算出した進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算手段と、該方向変化量演算手段によって算出された進行方向の変化量の時間平均値を算出する変化量平均手段と、該変化量平均手段によって算出された進行方向の変化量の時間平均値に基づいて、水質を判断する水質判断手段とからなることを特徴とする。
第4発明の水質監視方法は、水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視方法であって、撮影された複数枚の画像から算出される所定の時間内における魚の進行方向の変化量に基づいて、水質を判断する水質判断することを特徴とする。
第5発明の水質監視装置は、水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視方法であって、撮影された複数枚の画像から魚の進行方向を算出する進行方向算出ステップと、進行方向算出ステップにおいて算出された進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算ステップと、方向変化量演算ステップにおいて算出された進行方向に基づいて、変化量の時間平均値を算出する変化量平均ステップとを順に行うことを特徴とする。
第6発明の水質監視装置は、水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視方法であって、撮影された複数枚の画像から魚の進行方向を算出する進行方向算出ステップと、進行方向算出ステップにおいて算出された進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算ステップと、方向変化量演算ステップにおいて算出された進行方向に基づいて、変化量の時間平均値を算出する変化量平均ステップと、変化量平均ステップにおいて算出された進行方向の変化量の時間平均値に基づいて、水質を判断する水質判断ステップとを順に行うことを特徴とする。
第7発明の水質監視装置は、水槽内に収容されている複数の魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視装置であって、撮影された画像から各魚の加速度をそれぞれ算出する加速度演算手段と、同じ時間に撮影された複数の魚の加速度を平均し、魚平均加速度を算出する魚平均加速度演算手段と、該魚平均加速度演算手段によって算出された各時間の魚平均加速度から所定の時間内における時間平均加速度を算出する時間平均加速度演算手段と、該時間平均加速度演算手段によって算出された時間平均加速度に基づいて、水質を判断する水質判断手段とからなることを特徴とする。
第8発明の水質監視装置は、第7発明において、前記魚平均加速度演算手段が、各魚の平均加速度のうち、他の平均加速度と比較して異常に大きい平均加速度または異常に小さい平均加速度を除外して魚平均加速度を算出するものであることを特徴とする。
第9発明の水質監視装置は、第7発明において、前記時間平均加速度演算手段が、各時間の魚平均加速度のうち、他の時間の魚平均加速度と比較して異常に大きい魚平均加速度および異常に小さい魚平均加速度を除外して時間平均加速度を算出するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、魚が頻繁に向きを変えて泳げば、正常時に比べて進行方向の変化量が大きくなるので、水質に異常が発生したことを検出することができる。しかも、魚が異常行動を示す場合には大きく方向転換することが多くなるので、同じ回数の方向転換をした場合に比べて進行方向の変化量が大きくなる。よって、方向転換の回数を数えるだけの場合に比べて、迅速かつ正確に、水質に異常の検出することができる。
第2発明によれば、魚が頻繁に向きを変えて泳げば、正常時に比べて進行方向の変化量の時間平均値が大きくなるので、水質に異常が発生したことを検出することができる。しかも、魚が異常行動を示す場合には大きく方向転換することが多くなるので、同じ回数の方向転換をした場合に比べて時間平均値が大きくなる。よって、方向転換の回数を数えるだけの場合に比べて、迅速かつ正確に水質に異常の検出することができる。
第3発明によれば、魚が頻繁に向きを変えて泳げば、正常時に比べて進行方向の変化量の時間平均値が大きくなるので、水質に異常が発生したことを水質判断手段によって検出することができる。しかも、魚が異常行動を示す場合には大きく方向転換することが多くなるので、同じ回数の方向転換をした場合に比べて時間平均値が大きくなる。よって、方向転換の回数を数えるだけの場合に比べて、迅速かつ正確に水質に異常の検出することができる。
第4発明によれば、魚が頻繁に向きを変えて泳げば、正常時に比べて進行方向の変化量が大きくなるので、水質に異常が発生したことを検出することができる。しかも、魚が異常行動を示す場合には大きく方向転換することが多くなるので、同じ回数の方向転換をした場合に比べて進行方向の変化量が大きくなる。よって、方向転換の回数を数えるだけの場合に比べて、迅速かつ正確に水質に異常の検出することができる。
第5発明によれば、魚が頻繁に向きを変えて泳げば、正常時に比べて進行方向の変化量の時間平均値が大きくなるので、水質に異常が発生したことを検出することができる。しかも、魚が異常行動を示す場合には大きく方向転換することが多くなるので、同じ回数の方向転換をした場合に比べて時間平均値が大きくなる。よって、方向転換の回数を数えるだけの場合に比べて、迅速かつ正確に水質に異常の検出することができる。
第6発明によれば、魚が頻繁に向きを変えて泳げば、正常時に比べて進行方向の変化量の時間平均値が大きくなるので、水質に異常が発生したことを検出することができる。しかも、魚が異常行動を示す場合には大きく方向転換することが多くなるので、同じ回数の方向転換をした場合に比べて時間平均値が大きくなる。よって、方向転換の回数を数えるだけの場合に比べて、迅速かつ正確に水質に異常の検出することができる。
第7発明によれば、魚の動きが速くなれば、正常時に比べて時間平均加速度が大きくなるので、水質に異常が発生したこと水質判断手段によって検出することができる。しかも、複数の魚の加速度から魚平均加速度を求め、かつ、その魚平均加速度を時間平均して時間平均加速度を求めているから、時間平均加速度が異常な値を示す確率を低くすることができ、水質異常の判断ミスが発生が発生する可能性を低くすることができる。
第8発明によれば、水質異常以外の特殊事情を除去することができるから、水質異常の判断ミスが発生が発生する可能性を低くすることができる。
第9発明によれば、水質異常以外の特殊事情を除去することができるから、水質異常の判断ミスが発生が発生する可能性を低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る水質監視装置を示しており、1は水槽、2はカメラ、3はコンピュータである。本実施形態の水質監視装置は、水槽1とカメラ2およびコンピュータ3で構成でき、そのコンピュータ3に水質監視を実行する種々のプログラムを組み込めば完成する、というシンプルな構成に特徴がある。
【0012】
本実施形態において、水槽1とコンピュータ3は、それぞれ別々の場所に設置することができ、遠隔地からの監視が可能である。また、複数の水槽1の一括監視や警報を携帯電話等に転送することも可能である。
図2は遠隔監視の例を示している。カメラ2とコンピュータ3との間は、映像ケーブル、無線LANや有線LAN、無線や有線の専用回線、公衆回線等任意の通信手段を用いることができ、水槽1A〜1Dとコンピュータ3間の距離は、数mから数10kmまでなら現実的であるが、それ以上の距離であっても現有技術で十分に遠隔監視が可能である。
【0013】
前記水槽1は適宜な大きさでよいが、仕切り11等を入れて監視領域12を狭く限定しておくのが好ましい。水槽1に入れる魚としては、扱いやすく有害物質に対して感受性の高い小魚が好ましいが、とくに入手が容易なメダカが適している。メダカには、有害物質が混入すると、鼻あげ行動や、急激な動作・静止の繰り返し、頻繁な方向転換、沈下行動、水槽内の特定箇所に集合する等の行動を行う特性があり、「シアン」「ヒ素」などの約200 ケースもの毒物に対して信頼性の高い判定結果が得られている。
また、水槽1中の監視領域12中には、メダカfを10尾位入れるのが、個々のメダカfを特定したり、監視精度を高めつつ、画像処理が必要以上に複雑にならないので好ましい。なお、監視領域12に相当する大きさの水槽を用いてもよいが、図示のような大き目の非監視領域13を有する水槽1の方が、メダカfを入れ替えたりする実際的作業には便利である。
なお、水槽1へは水質検査対象の水がフィルタを介して給水され、水槽内を流水後排水するようになっている。
【0014】
前記水槽1の上方には光を照射する照明灯4が設けられている。照明灯4を照射すれば、魚は輝点として発現し、この輝点が、魚画像の認識に用いられる。
【0015】
前記カメラ2は魚画像が撮影できるのであれば、特別な制限はなくどのようなカメラを用いてもよいが、長期間安定して撮影できるカメラが好適である。
カメラ2による撮影は一定時間の間隔をおき、連続的に行うのがよい。画像処理の時間間隔は短いほどメダカfの挙動を細かく追えるので好ましいが、余り短かすぎても画像処理が追いつかないうえに、監視精度の向上もさほど望めない。好ましい範囲は、0.033〜0.5秒間隔程度であるが、本発明では、0.1秒間隔としている。
そこで、カメラ2は、水槽1を0.1秒間隔で連続撮影し、画像データをコンピュータ3へ送り、コンピュータ3は約0.1秒ごとにメダカfの動きを測定し、画像データとして高速演算処理する。このため、リアルタイムに水質を判定することができる。
また、センサとなるメダカfは、既述のごとく10尾程度とし、しかも、約0.1秒ごとに測定するため、細かい動きを検知でき、水質の異常を高精度で判断することができる。
【0016】
前記コンピュータ3には、カメラ2から取込んだ画像に基づき、魚(メダカf)の画像を認識し水質を判断するプログラムがインストールされており、このプログラムによって、魚の画像を認識する魚画像認識手段、認識された魚画像から魚の挙動を解析する魚挙動解析手段、解析された魚の挙動から水質を判断する水質判断手段が構成されている。
【0017】
つぎに、上記水質監視装置で実行される水質判断方法を説明する。
この水質判断方法は、大きく分けると(1)画像認識ステップ、(2)魚挙動解析ステップ、(3)水質判断ステップとからなり、各ステップは、既述のごとくコンピュータ3にインストールされている魚画像認識手段(プログラム)、魚挙動解析手段(プログラム)、水質判断手段(プログラム)によって実行される。
【0018】
まず、画像認識ステップS1は、魚画像認識手段により、カメラ2が撮影した画像を処理し雑音が除去された魚画像を得る工程である。魚画像認識手段は、例えば、複数枚の画像から得られる背景画像と、監視対象となる魚の対象画像(最新の画像)を差分処理して魚画像を得る処理を行うものであるが、画像から魚を認識でき、魚の移動先を追尾できる処理方法であれば、特に限定されない。
【0019】
つぎに、魚挙動解析ステップを説明する。
魚挙動解析ステップは、魚挙動解析手段により、画像認識ステップS1において得られた魚画像に基づいて魚の行動を解析する工程である。そして、本実施形態の魚挙動解析手段は、有害物質が混入したときにおける魚の異常行動の一つである、頻繁な方向転換を検出するものである。
以下に、魚挙動解析手段による、魚の方向転換検出工程を説明する。
まず、図3および図4(A)に示すように、一定時間間隔をおいて連続的に撮影された画像は、上記の画像認識ステップS1において、魚画像F1〜F3に変換されるのであるが、進行方向演算手段によって、変換された魚画像F1〜F3から、魚の進行方向とその移動速度からなる移動ベクトルVが算出される(進行方向算出ステップS2)。
図4(A)において、F4は魚画像F1,F2を重ねた画像、F5は魚画像F2,F3を重ねた画像を示しており、F4,F5に示すように、移動ベクトルV1,V2は、連続する2枚の魚画像の撮影間隔と、各魚画像における魚の重心位置の座標から求めることができる。なお、2枚の魚画像から移動ベクトルを算出する方法は特に限定されず、どのような方法を用いてもよい。
【0020】
図3および図4(A)に示すように、進行方向演算手段によって求められた移動ベクトルV1,V2から、方向変化量演算手段によって、魚の進行方向の変化量が算出される(方向変化量算出ステップS3)。移動ベクトルV1,V2には、魚の進行方向とその移動速度の情報が含まれており、魚の進行方向の変化は、移動ベクトルV1,V2間におけるその傾きの変化であるから、移動ベクトルV1,V2のなす角度が、魚の進行方向の変化量として算出される。
なお、魚が方向転換する場合、時計回りに方向転換する場合もあれば反時計回りに方向転換する場合もあるが、いずれに方向転換するかは水質異常の検出には特別に関係しないので、移動ベクトルV1,V2のなす角度の絶対値を魚の進行方向の変化量とすればよい。
さらになお、魚は3次元的に方向転換するのであるが、監視領域12の奥行きを、魚が奥行き方向には泳ぐことができない程度、具体的には、魚の長さ程度としておけば、魚はほぼ2次元的な方向転換しかできなくなるので、魚の進行方向の変化量の検出精度を高めることができる。
【0021】
図3および図4(A)に示すように、方向変化量演算手段によって求められた魚の進行方向の変化量から、変化量平均手段によって進行方向の変化量の時間平均値が算出される(変化量平均ステップS4)。変化量平均手段は、所定の時間内、例えば、100秒間に算出された進行方向の変化量を全て積算して平均し、時間平均値を算出するものである。
なお、所定の時間内に算出された進行方向の変化量を算出するのではなく、所定の時間内におけるさらに短い時間内における進行方向の変化量の平均値として予備平均値を求め、所定の時間内に算出された予備平均値を全て積算して平均し、時間平均値を算出してもよい。この場合には、ある時間の予備平均値が、他の時間の予備平均値に比べて異常に高い場合や、他の予備平均値に比べて異常に低い場合には、その予備平均値を除去して時間平均値を算出することができる。すると、ある瞬間だけ水質に無関係に魚が異常な行動をした等の水質異常以外の特殊事情が時間平均値に与える影響を除去することができるから、水質異常の判断ミスが発生が発生する可能性を低くすることができる。
【0022】
図3に示すように、魚挙動解析ステップにおいて時間平均値が算出されると、この時間平均値に基づいて、水質判断手段によって水質が判断される(水質判断ステップS5)。この水質判断は、正常時平均値から算出される許容値と時間平均値との比較により判断される。正常時平均値とは、水質に異常がない場合における所定の時間内における進行方向の変化量の時間平均値であり、一定の幅を有している。
魚が、頻繁な方向転換を行う場合には、方向転換の回数やその角度が大きくなるため、進行方向の変化量の時間平均値も正常時平均値よりも大きくなる。また、方向転換の回数が水質異常がない場合と同じであったとしても、魚が異常行動を示す場合には大きく方向転換することが多くなるので、この場合でも、進行方向の変化量の時間平均値は正常時平均値よりも大きくなる。
したがって、時間平均値が許容値よりも大きくなったときに、水質異常が発生していると判断するようにしておけば、魚の頻繁な方向転換に基づく水質監視を行うことができる。許容値は、正常時平均値における上限値の1.5〜3倍程度に設定されるが、装置に要求される水質が悪化してから異常が検出されるまでの応答時間や、誤警報がどの程度許容されるか等、装置を使用する環境に基づいて適切な値を設定すればよく、許容値を設定する基準は特に制限されない。
【0023】
なお、水質異常が発生すると魚の活動が停止する場合もあるため、時間平均値が許容値よりも小さくなったときに、水質異常が発生していると判断するようにしておけば、魚の活動の停止に基づく水質監視を行うことも可能である。この場合の許容値は、正常時平均値における下限値の0.3〜0.7倍程度に設定されるが、装置を使用する環境に基づいて適切な値を設定すればよい。
さらになお、変化量平均手段に代えて、所定の時間内に方向変化量演算手段によって求められた魚の進行方向の変化量を単純に積算する積算手段を設け、その積算値を用いて水質判断手段が水質を判断するようにしてもよい。この場合には、積算値と、正常時積算値から算出される許容値との比較により水質判断すればよい。正常時積算値とは、水質に異常がない場合における所定の時間内における進行方向の積算値であり、一定の幅を有していることは言うまでもない。
【0024】
さらになお、水質監視装置で実行される水質判断方法は、(3)水質判断ステップを設けずに、(1)画像認識ステップ、(2)魚挙動解析ステップだけから構成されていてもよい。この場合には、(2)魚挙動解析ステップによって得られた時間平均値をそのままモニタ等に表示したり時間変動グラフなどとして表示し、その数値やグラフを人が判断すればよい。
【0025】
上記例では、1尾の魚の場合を説明しているが、複数の魚を同時に撮影し、個々の魚について進行方向の変化量を算出し、最終的に全ての魚の進行方向の変化量から時間平均値を算出し、その平均値によって水質判断を行ってもよい。この場合には、一尾の魚の平均値を使用するよりも水質判断の誤差を少なくすることができる。
とくに、所定の時間内において、まず、各魚ごとの進行方向の変化量の平均値(魚平均変化量)を算出し、全ての魚平均変化量を積算した値を平均して時間平均値を算出すれば、他の魚の魚平均変化量に比べて魚平均変化量が異常に高い魚や、他の魚の魚平均変化量に比べて魚平均変化量が異常に低い魚が存在する場合には、その魚の魚平均変化量を除去して時間平均値を算出できる。すると、一部の魚が病気等に罹患して異常行動をした等の水質異常以外の特殊事情が時間平均値に与える影響を除去することができるから、水質異常の判断ミスが発生する可能性を低くすることができる。
【0026】
また、上記のごとく移動ベクトルV1,V2のなす角度をそのまま魚の進行方向の変化量としてもよいが、この場合、魚が変化量の大きい方向転換とともに、変化量の小さい方向転換を繰り返したときには、相対的に進行方向の変化量の時間平均値が小さくなり、水質判断に誤差が生じる可能性がある。
時間平均値を算出するときに、閾値以下の変化量を除外することでも上記問題は解決できるが、進行方向の変化量として移動ベクトルV1,V2のなす角度を用いずに、以下のように進行方向の変化量を定めれば、変化量の小さい方向転換に起因する水質判断に誤差が生じることを防ぐことができ、しかも、水質判断を容易にすることができるので好適である。
【0027】
図4(B)に示すように、各移動ベクトルV1,V2の基点を原点に合わせてx−y座標上に記載した場合において、移動ベクトルV2は、移動ベクトルV1が存在する象限(図4(B)では第1象限)に存在する場合と、移動ベクトルV1と異なる象限(図4(B)では第2、第3または第4象限)に存在する場合がある。また、移動ベクトルV1と異なる象限に存在する場合であっても、移動ベクトルV1が存在する象限と隣接する象限(図4(B)では第2または第4象限)存在する場合と、移動ベクトルV1が存在する象限に隣接しない象限(図4(B)では第3象限)存在する場合がある。
ここで、移動ベクトルV2が移動ベクトルV1と同一象限に存在する場合には、魚の進行方向の変化量は小さく、移動ベクトルV2の各成分は、移動ベクトルV1の各成分と同じ符号を有している。つまり、x軸方向、y軸方向のいずれの方向においても、魚の移動方向は変化していないとみなすことができる。
一方、移動ベクトルV2が移動ベクトルV1と異なる象限に存在する場合には、移動ベクトルV2の各成分は、x成分、y成分のいずれかまたは両方が移動ベクトルV1の各成分と異なる符号を有している。つまり、x軸方向、y軸方向のうち、少なくともいずれか一方の方向は魚の移動方向が変化しているとみなすことができる。
【0028】
したがって、移動ベクトルV2が移動ベクトルV1と同一象限に存在する場合には進行方向の変化量を0とし、移動ベクトルV2が移動ベクトルV1と異なる象限に存在する場合に進行方向の変化量を1とすれば、x軸方向、y軸方向のうち、少なくともいずれか一方の方向における魚の移動方向が変化した回数が、所定の時間内における進行方向の変化量の積算値となる。そして、積算値を平均して求められる時間平均値が、正常時平均値から算出される許容値よりも大きくなったときに、水質異常が発生していると判断するようにしておけば、魚の頻繁な方向転換に基づく水質監視を行うことができる。この場合の許容値は、正常時平均値における上限値の1.5〜3倍程度に設定されるが、装置に要求される水質が悪化してから異常が検出までの応答時間や、誤警報がどの程度許容されるか等、装置を使用する環境に基づいて適切な値を設定すればよく、許容値を設定する基準は特に制限されない。
【0029】
なお、水質異常が発生すると魚の活動が停止する場合もあるため、時間平均値が許容値よりも小さくなったときに、水質異常が発生していると判断するようにしておけば、魚の活動の停止に基づく水質監視を行うことも可能である。この場合の許容値は、正常時平均値における下限値の0.3〜0.7倍程度に設定されるが、装置を使用する環境に基づいて適切な値を設定すればよい。
さらになお、進行方向の変化量の積算値を平均して時間平均値を求めずに、積算値を用いて水質判断手段が水質を判断するようにしてもよい。この場合には、積算値と、正常時積算値から算出される許容値との比較により水質判断すればよい。正常時積算値とは、水質に異常がない場合における所定の時間内における進行方向の変化量の積算値であり、一定の幅を有していることは言うまでもない。
【0030】
ここで、移動ベクトルV2が移動ベクトルV1と異なる象限に存在し、かつ、その象限が移動ベクトルV1の存在する象限と隣接していない場合には、魚の移動方向は、x軸方向、y軸方向の両方向とも変化していることになる。つまり、かかる場合には、移動ベクトルV2が移動ベクトルV1と隣接する象限に存在する場合に比べて、魚の移動方向は大きく変化している。この場合に、進行方向の変化量を2とすれば、同じ一回の方向転換であったとしても、大きい方向転換が生じた場合には、進行方向の変化量の積算値が大きくなり、その時間平均値も大きくなる。つまり、移動方向による重み付けをして方向転換を評価することができ、その評価を水質判断に反映させることができるから、方向転換の回数だけで水質判断を行う場合に比べて、水質判断に誤差が生じる可能性を少なくすることができる。
【0031】
また、複数の魚を同時に撮影する場合には、魚挙動解析ステップにおいて、有害物質が混入したときにおける魚の急激な動作・静止の繰り返しを検出してもよい。
この場合には、一定時間間隔をおいて連続的に撮影された画像から、移動ベクトルVを算出するまでは、上記のごとく、頻繁な方向転換を検出する場合と同等の処理が行われる(図4(A)参照)。
図5に示すように、進行方向演算手段によって求められた移動ベクトルV1,V2から、加速度演算手段によって魚の加速度が算出される(加速度算出ステップS2)。加速度演算手段は、同時に撮影された複数の魚の加速度をそれぞれ算出する。
【0032】
図5に示すように、加速度演算手段によって求められた複数の魚の加速度から、魚平均加速度演算手段によって複数の魚の平均加速度(魚平均加速度)が算出される(魚平均加速度演算ステップS4)。このとき、全ての魚の加速度を使用して魚平均加速度を算出してもよいが、加速度が、他の魚の加速度に比べて異常に大きい魚や他の魚の加速度に比べて異常に小さい魚が存在する場合には、その魚の加速度を除去して魚平均加速度を算出できる。すると、一部の魚が病気等に罹患して異常行動をした等の水質異常以外の特殊事情が魚平均加速度に与える影響を除去することができるから、水質異常の判断ミスが発生する可能性を低くすることができる。
【0033】
図5に示すように、魚平均加速度演算手段によって求められた魚平均加速度から、時間平均加速度演算手段によって時間平均加速度が算出される(時間平均加速度演算ステップS4)。このとき、全ての魚平均加速度を使用して時間平均加速度を算出してもよいが、魚平均加速度が、他の時間の魚平均加速度に比べて異常に大きいものや他の時間の魚平均加速度に比べて異常に小さいものが存在する場合には、その魚平均加速度を除去して時間平均加速度を算出できる。すると、ある瞬間だけ水質に無関係に魚が異常な行動をした等の水質異常以外の特殊事情が時間平均加速度に与える影響を除去することができるから、水質異常の判断ミスが発生が発生する可能性を低くすることができる。
【0034】
図5に示すように、時間平均加速度演算ステップにおいて時間平均加速度が算出されると、この時間平均値に基づいて、水質判断手段によって水質が判断される(水質判断ステップS5)。この水質判断は、測定された時間平均加速度と、正常時平均加速度から算出される許容値との比較により判断される。正常時平均加速度とは、水質に異常がない場合における時間平均加速度であり、一定の幅を有していることは言うまでもない。
【0035】
魚が、急激な動作・静止の繰り返しを行う場合には加速度が大きくなるため、測定された時間平均加速度も正常時平均加速度よりも大きくなる。
したがって、測定された時間平均加速度が許容値より大きくなったときに、水質異常が発生していると判断するようにしておけば、魚の急激な動作・静止の繰り返しに基づく水質監視を行うことができる。許容値は、正常時平均加速度における上限値の1.5〜3倍程度に設定されるが、装置に要求される水質が悪化してから異常が検出までの応答時間や、誤警報がどの程度許容されるか等、装置を使用する環境に基づいて適切な値を設定すればよく、許容値を設定する基準は特に制限されない。
【0036】
なお、水質異常が発生すると魚の活動が停止する場合もあるため、測定された時間平均加速度が許容値より小さくなったときに、水質異常が発生していると判断するようにしておけば、魚の活動の停止に基づく水質監視を行うことも可能である。この場合の許容値は、正常時平均加速度における下限値の0.3〜0.7倍程度に設定されるが、装置を使用する環境に基づいて適切な値を設定すればよい。
さらになお、時間平均加速度を求めずに、加速度の積算値を用いて水質判断手段が水質を判断するようにしてもよい。この場合には、積算値と、正常時積算値から算出される許容値との比較により水質判断すればよい。正常時積算値とは、水質に異常がない場合における所定の時間内における加速度の積算値であり、一定の幅を有していることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、浄水場、下水処理施設、飲料水メーカ、食品メーカなど厳しい水質管理を必要とする施設に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係る水質監視装置の説明図である。
【図2】画像伝送方法の説明図である。
【図3】魚挙動解析手段による魚挙動解析工程のフローチャートである。
【図4】魚挙動解析手段による魚挙動解析工程の説明図である。
【図5】他の魚挙動解析手段による魚挙動解析工程のフローチャートである。
【符号の説明】
【0039】
1 水槽
2 カメラ
3 コンピュータ
4 照明灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視装置であって、
撮影された複数枚の画像から算出される、所定の時間内における魚の進行方向の変化量に基づいて、水質を判断する水質判断手段を備えている
ことを特徴とする水質監視装置。
【請求項2】
水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視装置であって、
撮影された複数枚の画像から魚の進行方向を算出する進行方向演算手段と、
該進行方向演算手段が算出した進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算手段と、
該方向変化量演算手段によって算出された進行方向の変化量の時間平均値を算出する変化量平均手段とを備えている
ことを特徴とする水質監視装置。
【請求項3】
水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視装置であって、
撮影された複数枚の画像から魚の進行方向を算出する進行方向演算手段と、
該進行方向演算手段が算出した進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算手段と、
該方向変化量演算手段によって算出された進行方向の変化量の時間平均値を算出する変化量平均手段と、
該変化量平均手段によって算出された進行方向の変化量の時間平均値に基づいて、水質を判断する水質判断手段とからなる
ことを特徴とする水質監視装置。
【請求項4】
水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視方法であって、
撮影された複数枚の画像から算出される所定の時間内における魚の進行方向の変化量に基づいて、水質を判断する水質判断する
ことを特徴とする水質監視方法。
【請求項5】
水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視方法であって、
撮影された複数枚の画像から、魚の進行方向を算出する進行方向算出ステップと、
進行方向算出ステップにおいて算出された進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算ステップと、
方向変化量演算ステップにおいて算出された進行方向に基づいて、変化量の時間平均値を算出する変化量平均ステップとを順に行う
ことを特徴とする水質監視方法。
【請求項6】
水槽内に収容されている魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視方法であって、
撮影された複数枚の画像から魚の進行方向を算出する進行方向算出ステップと、
進行方向算出ステップにおいて算出された進行方向に基づいて、魚の進行方向の変化量を算出する方向変化量演算ステップと、
方向変化量演算ステップにおいて算出された進行方向に基づいて、変化量の時間平均値を算出する変化量平均ステップと、
変化量平均ステップにおいて算出された進行方向の変化量の時間平均値に基づいて、水質を判断する水質判断ステップとを順に行う
ことを特徴とする水質監視方法。
【請求項7】
水槽内に収容されている複数の魚の画像を撮影解析して水槽内の水質を監視する監視装置であって、
撮影された画像から各魚の加速度をそれぞれ算出する加速度演算手段と、
同じ時間に撮影された複数の魚の加速度を平均し、魚平均加速度を算出する魚平均加速度演算手段と、
該魚平均加速度演算手段によって算出された各時間の魚平均加速度から所定の時間内における時間平均加速度を算出する時間平均加速度演算手段と、
該時間平均加速度演算手段によって算出された時間平均加速度に基づいて、水質を判断する水質判断手段とからなる
ことを特徴とする水質監視装置。
【請求項8】
前記魚平均加速度演算手段が、
各魚の平均加速度のうち、他の平均加速度と比較して異常に大きい平均加速度または異常に小さい平均加速度を除外して魚平均加速度を算出するものである
ことを特徴とする請求項7記載の水質監視装置。
【請求項9】
前記時間平均加速度演算手段が、
各時間の魚平均加速度のうち、他の時間の魚平均加速度と比較して異常に大きい魚平均加速度および異常に小さい魚平均加速度を除外して時間平均加速度を算出するものである
ことを特徴とする請求項7記載の水質監視装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−187575(P2007−187575A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6420(P2006−6420)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)