説明

水質評価方法及び装置

【課題】超純水中に含まれるアミン系の有機物などを短時間で高精度に検出し、超純水の水質を評価できる方法及び装置を提供する。
【解決手段】シリコン粒子を収容したカラムに試料水を通水し、そのカラム流出水中の溶存水素濃度に基づいて試料水の水質を評価する水質評価方法において、新たなシリコン粒子を収容したカラムAに試料水を所定の空間速度で通水し、そのカラム流出水中の溶存水素濃度上昇速度に基づいて試料水の水質を評価する評価工程を実行する水質評価方法であって、該溶存水素濃度上昇速度が基準値以上になったときには、新たなシリコン粒子を収容したカラムA,Bに切替える切替工程と、該切替後のカラムA,Bに対して前回の空間速度よりも小さい空間速度として再び評価工程を行う再評価工程とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水(超純水を含む。)の水質を評価する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやメモリーをはじめとする半導体の製造工場や液晶パネルの製造工場などでは、超純水が大量に使用されている。
【0003】
半導体製造工程においては、半導体デバイスの高精細化が進むに従い、シリコン表面の清浄度の維持、平坦度の維持が重要になってくる。高精細度の半導体を製造する工程においては、超純水がシリコンの表面をわずかでも溶解させると、シリコン表面のエッチングに伴いシリコン表面荒れが生じ、それに伴いシリコンの電気特性を低下させるおそれがある。
【0004】
従って、半導体製造工程においては、シリコン表面荒れを生じさせることがない超純水を使用することが必要であり、超純水がシリコン表面をエッチングする性質を有するか否かを判断することは重要な課題である。
【0005】
超純水中の不純物としては、金属などの無機物以外に、有機物があり、超純水中の全有機性炭素濃度(TOC)での水質管理がなされている。一般的に、超純水中のTOCは1ppb程度以下に保持されている。仮に超純水中のTOCが1ppb以下であっても、超純水中にアミン系の有機物が含まれていると、超純水がシリコン表面をエッチングしてしまい、シリコン表面の粗さを大きくすることが知られている。また、アミン系の有機物のうちでも、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミンあるいはオクタデシルアミンなどのアルキル鎖が長いものほど、エッチング量が多いことが知られている(特許第4056417号)。このアミン系の不純物は、超純水を製造する際に利用されるアニオン交換樹脂などの溶出物である。半導体工場で新設された超純水製造設備や、運転を中断した後の再開時に、このようなアミン系の有機物が多く含まれる超純水が排出されることが知られている。
【0006】
超純水製造設備からの超純水が半導体洗浄に用いても良いものかどうかを判定するために、この超純水を用いてウエハを洗浄し、洗浄後のウエハ表面の凹凸を赤外分光法で分析するか原子間力顕微鏡で観察する方法が行われているが、長時間を要すると共に、現場では行いにくい。
【0007】
特開2007−170863号公報には、試料水をカラム内のシリコン物質と接触させ、カラムからの流出水中の溶存水素濃度を測定し、該シリコン物質との接触によって上昇した溶存水素濃度に基づいて、試料水の水質を評価する水質評価方法及び装置が記載されている。
【0008】
この試料水中に、アミン類などのようにシリコンをエッチングし易い有機物が混入していると、試料水をシリコン物質に接触させた際に有機物がシリコン表面に付着し、これが触媒的に作用することによりシリコン表面にエッチングが生じ、試料水中にシリコンが溶出する。溶出したシリコンはOHイオンもしくは水分子と反応し、イオン状シリカ(ケイ酸イオン)(SiO2−)になると共に、水素を生成させる。この水素は溶存水素となって水中に存在する。従って、溶存水素濃度は試料水中の有機物濃度と相関関係にあるため、溶存水素濃度の上昇をモニタリングすることによって、試料水がシリコンにエッチングを生じさせる水質かどうかを評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4056417
【特許文献2】特開2007−170863
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の水質評価方法によると、カラムからの流出水中の溶存水素濃度が安定してから水質評価を行う必要があるため、短時間で精度よく水質評価を行うことが困難である。
【0011】
すなわち、試料水をカラムに通水すると、カラムからの流出水中の溶存水素濃度は増加し、やがて所定濃度で安定する。このため、溶存水素濃度が安定する前に水質評価を行う場合、精度よく水質評価を行うことができない。また、溶存水素濃度が安定してから水質評価を行う場合、水質評価に長時間を要する。
【0012】
本発明は、超純水中に含まれるアミン系の有機物などを短時間で高精度に検出し、超純水の水質を評価できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)の水質評価方法は、シリコン粒子を収容したカラムに試料水を通水し、そのカラム流出水中の溶存水素濃度に基づいて試料水の水質を評価する水質評価方法において、新たなシリコン粒子を収容したカラムに試料水を所定の空間速度で通水し、そのカラム流出水中の溶存水素濃度上昇速度に基づいて試料水の水質を評価する評価工程を実行する水質評価方法であって、前記溶存水素濃度上昇速度が予め設定した基準値超になったときに、新たなシリコン粒子を収容したカラムに切替える切替工程と、該切替後のカラムに対して切替前の空間速度よりも小さい空間速度として再び前記評価工程を行う再評価工程とを実行することを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の水質評価方法は、シリコン粒子を収容したカラムに試料水を通水し、カラム流出水中の溶存水素濃度を測定し、測定値に基づいて試料水の水質を評価する水質評価方法において、新たなシリコン粒子を収容したカラムに試料水を所定の空間速度で通水し、通水開始から0〜30分の所定の経過時点を原点とし、原点におけるカラム流出水中の溶存水素濃度測定値に対して増加幅が0.1〜1.5ppbの所定の溶存水素濃度になった時点の溶存水素濃度上昇速度を求め、求めた溶存水素濃度上昇速度に基づいて試料水の水質を評価する評価工程を実行するものであって、前記評価工程において、前記溶存水素濃度上昇速度が予め設定した基準値超であるときは、試料水が所望の水質に達していないと判定すると共に、新たなシリコン粒子を収容したカラムに切替える切替工程を行い、該切替後のカラムに対して切替前の空間速度よりも小さい空間速度として再び前記評価工程を行う再評価工程を実行するものであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の水質評価方法は、請求項1又は2において、前記試料水が、純水製造装置の運転開始又は再開直後の純水か、或いは洗浄されたイオン交換樹脂を純水でリンスした後の純水であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4の水質評価方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記新たなシリコン粒子が、前記切替工程前のシリコン粒子を再生した再生シリコン粒子と、前記切替工程前のシリコン粒子とは別に用意しておいた別のシリコン粒子の少なくとも1つであり、前記新たなシリコン粒子の収容量が、前記切替工程前のシリコン粒子の収容量よりも大きいことを特徴とするものである。
【0017】
請求項5の水質評価方法は、請求項4において、前記新たなシリコン粒子を収容した複数本のカラムを、1本の第1カラムと複数本の第2カラムにグループ分けしておき、前記評価工程では、前記第1カラムに試料水を通水し、前記再評価工程では、前記第2カラムに試料水を直列又は並列に通水することを特徴とするものである。
【0018】
請求項6の水質評価方法は、請求項4において、前記新たなシリコン粒子を収容した複数本のカラムを、1本の第1カラムと複数本の第2カラムにグループ分けしておき、前記評価工程では、前記第1カラムに試料水を通水し、前記再評価工程では、第1カラム内のシリコン粒子を前記新たなシリコン粒子に置換してなる再生第1カラムと第2カラムとの両方に試料水を直列又は並列に通水することを特徴とするものである。
【0019】
請求項7の水質評価方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記カラムに試料水を上向流で通水することにより流動層を形成すると共に、空間速度を100〜10,000h−1とすることを特徴とするものである。
【0020】
請求項8の水質評価方法は、請求項1ないし7のいずれか1項において、前記シリコン粒子が純度99.99%以上の高純度半導体シリコンであることを特徴とするものである。
【0021】
請求項9の水質評価方法は、請求項1ないし8のいずれか1項において、前記シリコン粒子が水素終端化されていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明(請求項10)の水質評価装置は、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の水質評価方法により試料水の水質を評価するための水質評価装置であって、それぞれシリコン物質の粒子が充填された複数本のカラムと、いずれか1本のカラムに通水する形態と複数本のカラムに直列又は並列に通水する形態とを切り替えることができる通水手段と、カラムから流出した流出水中の溶存水素濃度を測定する手段とを有するものである。
【発明の効果】
【0023】
シリコン粒子を収容したカラムに微量の有機物を含んだ超純水等よりなる試料水を通水すると、有機物がシリコン表面に付着する。そして、この有機物が触媒的に作用し、反応式
Si+2HO → SiO+2H
に従って水素が発生し、カラム流出水中の溶存水素濃度が上昇する。
【0024】
溶存水素濃度の上昇速度は、試料水中の有機物濃度が高いほど大きくなり、逆に、試料水中の有機物濃度が低いほど溶存水素濃度上昇速度は小さくなる。本発明者は、かかる関係に基づいて発明を完成するに至ったものである。
【0025】
すなわち、本発明(請求項1)では、この溶存水素濃度上昇速度に基づいて試料水の水質を評価することにより、試料水のシリコンに対するエッチング性を良好に評価することができる。
【0026】
このように、本発明では溶存水素濃度の上昇速度に基づいて水質評価を行うが、試料水中の有機物濃度が低い場合には、該溶存水素濃度の上昇速度が小さくなり、試料水の水質を短時間で正確に評価することができない。
【0027】
本発明(請求項1)では、該上昇速度が基準値超になったときには、新たなシリコン粒子に対して試料水をより小さい空間速度で通水する。これにより、試料水中の有機物濃度が低い場合であっても、試料水の水質を短時間で正確に評価することができる。
【0028】
なお、空間速度(試料水の流量/シリコン粒子の収容量)を小さくするためには、試料水の流量を少なくするか又はシリコン粒子の収容量を多くする必要がある。しかし、水質評価のためにはある程度の流量が必要である。そこで、シリコン粒子の収容量を多くする方が好ましい。
【0029】
本発明(請求項1)では、評価工程で使用したシリコン粒子を再評価工程では使用しない。この理由は以下の通りである。つまり、シリコン粒子への有機物の吸脱着については、吸着速度より脱着速度の方がかなり小さいため、徐々に有機物が蓄積されてしまう。このような状態の使用済みシリコン粒子を再評価工程で使用すると、既にシリコン粒子に吸着している有機物に由来する水素が発生するため、試料水中の有機物濃度と溶存水素濃度との相関が悪くなり、水質評価を精度よく行うことができないためである。
【0030】
このようにして、本発明の水質評価方法及び装置によれば、純水中に含まれる微量のシリコン汚染物質(アミン系の有機物など)を短時間で高精度に検出し、純水の水質を評価することができる。
【0031】
請求項4の通り、上記の新たなシリコン粒子は、切替工程前のシリコン粒子を再生した再生シリコン粒子であってもよく、切替工程前のシリコン粒子とは別に用意しておいた別のシリコン粒子であってもよく、これら再生シリコン粒子と別のシリコン粒子の両方を用いてもよい。再生シリコン粒子を用いる場合、使用するシリコン粒子の総量を少なくすることができる。別のシリコン粒子を用いる場合、再生時間が省略される分だけ、水質評価時間を短くすることができる。また、請求項4のように、新たなシリコン粒子の収容量を切替工程前のシリコン粒子の収容量よりも大きくすることにより、試料水のカラムへの供給量を過度に少なくすることなく空間速度を小さくすることができる。なお、第2カラム1本のシリコン粒子収容量は第1カラム1本のシリコン粒子収容量の半分以上である必要がある。
【0032】
請求項5の水質評価方法によると、再評価工程において、評価工程で用いた第1カラムとは別に第2カラムを用いるため、試料水の空間速度を容易に小さくすることができる。また、評価工程で使用する第1カラムを1本とし、再評価工程で使用する第2カラムを複数本とすることにより、再評価工程での空間速度を評価工程での空間速度よりも容易に高くすることができる。なお、第1カラムを複数本とした場合であっても、第2カラムの本数を第1カラムの本数よりも多くすることにより、再評価工程での空間速度を評価工程での空間速度よりも容易に高くすることができる。なお第2カラム1本のシリコン粒子収容量は第1カラム1本のシリコン粒子収容量の半分以上である必要がある。
【0033】
請求項7によると、カラムに試料水を上向流で通水することにより流動層を形成することにより、試料水がシリコン粒子と良好に接触するようになり、上昇速度がより短時間で安定する。また、請求項7のように、評価工程及び再評価工程での空間速度は、100〜10,000h−1とするのが好ましい。
【0034】
請求項8のように、シリコン粒子は純度99.99%以上の高純度半導体シリコンであるのが好ましく、これにより、高精度にて水質評価を行うことができる。
【0035】
請求項9のように、シリコン粒子は水素終端化されていることが好ましい。これにより、表面の化学的安定性の向上等のために水素終端化された半導体デバイス等に対する試料水のエッチング性を、より良好に評価することができる。
【0036】
請求項10の水質評価装置によると、上記の水質評価方法を良好に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明装置のフロー図である。
【図2】本発明装置のフロー図である。
【図3】本発明装置のフロー図である。
【図4】本発明装置のフロー図である。
【図5】本発明のカラム流出水中の溶存水素濃度の測定値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0039】
第1図〜第4図は本発明方法及び装置のフロー図であり、第1図はカラムAにのみ通水し、第2図はカラムA→Bの順に直列に通水し、第3図はカラムA→B→Cの順に通水し、第4図はカラムB→Cの順に直列に通水している状態を示す。各カラムA,B,C内にはシリコン粒子5が所定量収容されている。各カラムA,B,Cへの通水はいずれも上向流である。
【0040】
第1図では、試料水は、配管1、3a、カラムA、配管4a、9、10の順に通水され、水素濃度計11、流量計12を経て系外に排出される。配管9からの水の一部は、流量調節バルブ13を有した分岐配管14を介して分流し、流量計15を経て系外に排出される。
【0041】
第2図では、試料水は、配管1、3a、カラムA、配管4a、6a、7a、2a、3b、カラムB、配管4b、9の順に通水され、以下第1図と同様に流れる。
【0042】
第3図では、試料水は、配管1、3a、カラムA,配管4a、6a、7a、2a、3b、カラムB、配管4b、6b、7b、2b、3c、カラムC、配管4c、配管9の順に通水され、以下第1図と同様に流れる。
【0043】
第4図では、試料水は、配管1、2a、3b、カラムB、配管4b、6b、7b、2b、3c、カラムC、配管4c、9の順に通水され、以下第1図と同様に流れる。なお、上記の流路切り替えは、図中に示したように各配管に設けられたバルブの開閉により行われる。
【0044】
前述の通り、シリコン粒子5を収容したカラムA,B又はC内に超純水を通水した場合、超純水中の微量有機物がシリコン粒子5に付着し、この有機物の触媒作用によってシリコンがエッチングされて水素が発生する。超純水中の有機物濃度が高いほど有機物のシリコン粒子への付着量が多くなるため、発生する水素量が多くなり、水素濃度計11で検出される溶存水素濃度が高くなる。
【0045】
また、カラムに通水すると、シリコン粒子5に有機物が徐々に付着して水素発生量が徐々に増加する。このときの溶存水素濃度の上昇速度は、超純水中の有機物濃度が高いほど大きい。この一例を第5図に示す。
【0046】
超純水中の有機物濃度が高い場合は、曲線aの通り、通水開始後、溶存水素濃度の上昇が急速であり、濃度上昇速度dH/dtが大きい。また、溶存水素濃度値も大きい。一方、超純水中の有機物濃度が低い場合には、曲線bの通り、通水開始後の溶存水素濃度の上昇が緩慢であり、濃度上昇速度dH/dtが小さい。また、溶存水素濃度値も小さい。このbの場合のように、dH/dtが小さいと、長時間通水しないと溶存水素濃度が十分に高くならないので、超純水中の有機物濃度を精度よく測定するためには通水時間を長くとる必要がある。なおここでは微分係数dH/dtを用いて説明したが、平均変化率ΔH/Δtでも構わない。
【0047】
<水質評価方法の第1の例>
以下に、水質評価方法の一例について詳細に説明する。
【0048】
(評価工程)
先ず、第1図のように、試料水(超純水)をカラムAに通水し、所定の間隔(例えば1秒間隔、1分間隔等)で連続的に又は定期的に水素濃度計11を用いて水素濃度Hを測定して、溶存水素濃度上昇速度dH/dtを算出する。また、流量計12,15で流量Qを測定し、該流量QとカラムA内のシリコン粒子の収容量Vから空間速度SV(Q/V)を算出すると共に、この空間速度SVが第1の設定速度となるように試料水の流量Qを制御する。
【0049】
通水開始時点から溶存水素濃度が所定量上昇したところで、該溶存水素濃度上昇速度dH/dtを予め設定した基準値と比較する。基準値以下である場合、試料水の水質が良好であると判定する。また基準値超である場合は依然として試料水の水質が良好でないと判定する。
【0050】
(切替工程)
上記評価工程において、上記溶存水素濃度上昇速度dH/dtが基準値超であった場合、試料水の通水を停止し、カラムA内のシリコン粒子を新たなシリコン粒子に取り替える。この新たなシリコン粒子とは、カラムA内のシリコン粒子とは別に用意しておいたシリコン粒子でもよく、また、カラムA内に超純水を通水する等して該カラムA内のシリコン粒子を再生してなる再生シリコン粒子でもよい。さらに、カラムA内のシリコン粒子を取り出して再生してなる再生シリコン粒子を、カラムAに戻してもよい。
【0051】
(再評価工程)
次いで、第2図のように、試料水(超純水)をカラムA、カラムBの順に通水し、所定の間隔(例えば1秒間隔、1分間隔等)で連続的に又は定期的に水素濃度計11を用いて水素濃度Hを測定して、溶存水素濃度上昇速度dH/dtを算出する。また、流量計12,15で流量Qを測定し、該流量Qと、カラムA内のシリコン粒子の収容量Vと、カラムB内のシリコン粒子の収容量Vとから空間速度SV(Q/(V+V))を算出すると共に、この空間速度SVが第2の設定速度となるように試料水の流量Qを制御する。なお、この第2の設定速度は、上記第1の設定速度よりも小さい値とする。
【0052】
通水再開時点から溶存水素濃度が所定量上昇したところで、この溶存水素濃度上昇速度dH/dtを予め設定した基準値と比較する。基準値以下である場合は試料水の水質が良好であると判定する。また基準値超である場合は依然として試料水の水質が良好でないと判定する。
【0053】
<水質評価方法の第2の例>
上記の再評価工程において、溶存水素濃度上昇速度dH/dtが基準値超の場合には、さらに上記切替工程及び再評価工程を1回又は複数回繰り返してもよい。
【0054】
(第2の切替工程)。
【0055】
例えば、上記再評価工程における溶存水素濃度上昇速度dH/dtを基準値と比較する。この基準値は、上記評価工程の基準値と同一であってもよく、異なっていてもよい。基準値超である場合、試料水の通水を停止し、カラムA及びカラムB内のシリコン粒子を、上記第1の切替工程と同じ要領で、新たなシリコン粒子に切替える
【0056】
(第2の再評価工程)
次いで、第3図のように、試料水(超純水)をカラムA、カラムB、カラムCの順に通水し、水素濃度計11で水素濃度Hを測定して、溶存水素濃度上昇速度dH/dtを算出する。また、流量計12,15で流量Qを測定し、該流量Qと、カラムA、B,C内のシリコン粒子の収容量V、V、Vとから、空間速度SV(Q/(V+V+V))を算出すると共に、この空間速度SVが第3の設定速度となるように試料水の流量Qを制御する。なお、この第3の設定速度は、上記第2の設定速度よりも小さい値とする。
【0057】
通水再開時点から溶存水素濃度が所定量上昇したところで、この溶存水素濃度上昇速度dH/dtを予め設定した基準値と比較する。基準値以下である場合は試料水の水質が良好であると判定する。また基準値超である場合は依然として試料水の水質が良好でないと判定する。
【0058】
<水質評価方法の第3の例>
上記第1の例では、再評価工程においてカラムA、Bに通水したが(第2図)、カラムB、Cに通水するようにしてもよい(第4図)。
【0059】
この場合には、上記切替工程において、カラムB,Cに通水されるようにバルブを切替える(切替工程)。次いで、第4図の通り、試料水をカラムB,Cの順に通水する。その後は、第1の例と同様にして、この溶存水素濃度上昇速度dH/dtに基づいて、試料水の水質評価を行う(再評価工程)。
【0060】
各カラムへのシリコン粒子の収容量が同じとき、上記第1〜第3の例のように試料水を通水するカラムの本数を多くすると、通水開始後の水素濃度計検出値の立ち上がり即ち溶存水素濃度上昇速度dH/dtは、カラムAにのみ通水した場合の約2倍(2本のカラムに通水する場合)又は約3倍(3本のカラムに通水する場合)となる。よって通水するカラムの本数を多くすると短時間のうちに超純水の有機物濃度を精度よく検出することが可能となる。
【0061】
なお、上記第1〜第3の例では、上記評価工程、再評価工程及び第2の再評価工程において、流量Q(流量計12,15で測定した流量の合計)を一定とする。これにより、水質評価を精度よく行うことができる。但し、これらの工程で流量Qを異ならせてもよい。
【0062】
また、上記の通り、評価工程及び再評価工程で使用したシリコン粒子は、再評価工程及び第2の再評価工程では使用しない。この理由は以下の通りである。つまり、シリコン粒子への有機物の吸脱着については、吸着速度より脱着速度の方がかなり小さいため、徐々に有機物が蓄積されてしまう。このような状態の使用済みシリコン粒子を再評価工程で使用すると、既にシリコン粒子に吸着している有機物に由来する水素が発生するため、試料水中の有機物濃度と溶存水素濃度との相関が悪くなり、水質評価を精度よく行うことができないためである。
【0063】
<水質評価方法のその他の例>
なお、評価工程及び再評価工程で通水するカラムは、上記第1〜第3の例に限定されるものではない。即ち、
評価工程 Aのみ
再評価工程 B→C
第2の再評価工程 A→B→C
の通水方式としてもよい。
【0064】
第1図〜第4図では3本のカラムを用いているが、2本のカラムを用いてもよい。この場合、例えば、
評価工程 Aのみ
再評価工程 A→B
のように第2回目に2カラム直列通水する。
【0065】
4本以上のカラムを用いる場合にも、第1回目はカラム1個のみとし、第2回目はカラム2〜4本とすればよい。あるいは、第1回目はカラム1個のみ、第2回目はカラム2本直列通水、第3回目はカラム3本直列通水、第4回目はカラム4本直列通水のようにしてもよい。複数本のカラムに直列に通水するときのカラムの組み合わせは任意である。
【0066】
また、上記評価工程では、基準値が1つであったが、基準値を複数設け、該基準値ごとに再評価工程で用いるカラム数を異ならせてもよい。例えば、評価工程でのdH/dtが第1の基準値以下かつ第2の基準値超(第1の基準値>第2の基準値)である場合には、再評価工程で用いるカラム数を2本とし、評価工程でのdH/dtが第2の基準値以下である場合には、再評価工程で用いるカラム数を3本としてもよい。
【0067】
上記の例では、評価工程で1本のカラムに通水したが、2本以上のカラムに直列に通水してもよい。なお上記説明ではカラムに直列に通水する実施態様を説明したが、カラムに並列に通水しても原理上は可能である。ただしこの場合線速度が下がるためシリコン粒子の展開が悪くなり、有機物との接触効率が下がる。よって直列の方がより好ましい。
【0068】
上記第1〜第3の例では、評価工程、再評価工程及び第2の再評価工程において、流量Q(流量計12,15で測定した流量の合計)を一定としつつ、通水するカラムの本数を異ならせることにより、空間速度SVを異ならせているが、これに限定されない。例えば、各工程において、通水するカラム数を同一とし、流量Qを異ならせることにより、空間速度SVを異ならせてもよく、カラム数と流量Qの両方を異ならせることにより空間速度SVを異ならせてもよい。また、カラム内に収容するシリコン粒子の収容量を異ならせることにより、空間速度SVを異ならせてもよい。例えば、評価工程及び再評価工程においてカラムAのみに通水し、再評価工程時におけるカラムA内のシリコン粒子の収容量を評価工程時の収容量よりも増量してもよい。
【0069】
[本発明の好ましい条件]
本発明では、各カラムに試料水を上向流で通水すると共に、シリコンの充填量と通水量との関係が、空間速度SV=100〜10,000h−1好ましくは100〜5000h−1となるように調節し、カラム内に流動層を形成することが好ましい。SVが10000h−1よりも大きくなると、超純水がシリコンの充填材に接触する時間が短くなり、超純水中のアミン系有機物の検出感度が低くなる。一方、SVが100h−1を下回ると、水素濃度が飽和状態となるのに極めて長い時間(24時間以上)を要し、検出時間が長くなる。
【0070】
たとえば、SV=500h−1とした場合に0.5ppb程度の樹脂の溶出物が超純水中に含まれていると0.1ppb/h程度の水素放出速度が確認される。超純水中における有機物濃度が極めて低い場合、SVを200h−1程度かそれよりも小さくすれば良いが、単一のカラムでそれを実施すると、シリコン粒子の収容量が多いので、大きなカラムが必要となり装置が大きくなる。コンパクトな装置で、SVを200h−1程度かそれ以下にしたい場合、高さの低いカラムを複数用意して、それらに直列に通水することで小型化が可能となる。
【0071】
水質判定の基準値の設定の仕方としては、ある空間速度における上昇速度の基準値を実験等により決めたら、他の空間速度においては、空間速度×上昇速度が一定となるように基準値を設定することができる。水質判定の基準値は、例えばカラム1本使用してSV=500h−1で通水した場合、溶存水素濃度上昇速度0.1ppb/h以下であることが要求される。また、カラム2本使用してSV=250h−1で通水した場合、溶存水素濃度上昇速度0.2ppb/h以下であることが要求される。さらに、カラム3本使用してSV=125h−1で通水した場合、溶存水素濃度上昇速度0.4ppb/h以下であることが要求される。カラムの本数を増やしてシリコンとの接触時間をさらに増やして、感度を上げる。
【0072】
充填材料のシリコンとしては金属シリコンが用いられる。この金属シリコンとしては、純度が99%の金属シリコン(純度は2N、不純物を1%含む)を用いるよりは、純度6N以上のもの、例えば高純度の半導体ウエハ(99.999999999%,11N)の破砕物あるいは、太陽電池用(99.99%,4N以上)に球状に形成されたシリコン(例えば特許第4074931号に記載のもの)を利用するのが望ましい。
【0073】
シリコン粒子の大きさ(粒径)は、特に制限はないが、0.2mm〜2.0mmが良く、望ましくは0.2mm〜1.0mm程度とする。シリコン物質の形状は、特に制限はない。再溶解して、球形にしたものでも良い。
【0074】
シリコンは水素終端化されていることが好ましく、その方法としてまずオゾン水でシリコン表面の有機物を酸化処理し、次いでフッ酸で水素終端化するのが望ましい。オゾン水のオゾン濃度は1ppm以上が良く処理時間は30分程度が良い。フッ酸の濃度は0.5〜1%程度で良く、処理時間は5分程度が良い。
【0075】
シリコン物質を充填するためのカラムとしては、超純水と接触して溶出物を排出しなければ良く、アクリル製でも良く、ポリテトラフルオルエチレン、PFA等のフッ素樹脂製でも良い。
【0076】
水中の溶存水素濃度測定には、各種の溶存水素濃度計を用いることができ、例えば、隔膜電極式溶存水素濃度計が挙げられる。
【0077】
なお、本発明において、超純水は次の水質を満たすものであることが好ましい。
【0078】
電気比抵抗 :18MΩ・cm以上
金属イオン濃度:5ng/L以下
残留イオン濃度:10ng/L以下
微粒子数 :1mL中に0.1μm以上の微粒子5個以下
TOC :0.1〜10μg/L
【0079】
本発明で検知対象となる、シリコン表面荒れを生じさせる不純物としては、アミン類が挙げられる。アミン類のうち特にドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキル鎖が長いものは、エッチング量が多いため、本発明方法により精度よく検知することができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例、比較例及び参考例について説明する。
【0081】
[実施例1]
内径25mm、高さ500mmのアクリル製カラムを第1図のように3本設置した。各カラム内に平均粒径1mmの球状のシリコン粒子(純度4N)を120mL充填した。なお、シリコン粒子は、充填前にオゾン水で30分洗浄した後に、1%HF溶液中に5分浸漬して水素終端化を行っている。
【0082】
(評価工程)
まず、カラムAに超純水製造設備からの超純水を1L/minとなるように上向流で通水した。シリコン粒子は展開して流動層となった。このときのSVは500h−1であった。カラムAからの流出水中の溶存水素濃度は、隔膜電極式溶存水素計(アプリクス製)を利用して1分ごとに測定した。
【0083】
(切替工程)
通水開始から1時間後に溶存水素濃度の増加が1ppbに達した。このときのdH/dtの値が基準値である0.1ppb/h超であったので、水質が良好ではないと判定し、バルブを操作してカラムAへの試料水の通水を停止し、未使用のシリコン粒子がカラムAと同量収容されているカラムB,Cに直列に通水されるようにバルブを操作した。
【0084】
(再評価工程)
次いで、2本のカラムB,Cに順次通水を行った。そのときのSVは250h−1であった。2.5時間後には、0.6ppbの溶存水素濃度の増加を確認した。このときのdH/dtの値が基準値である0.2ppb/h以下となり、水質が良好であると判定した。そこで、ウエハの表面荒れが少ないと判断して、超純水を使用することにした。この実施例では水質判定に3.5時間を要した。
【0085】
[比較例1]
シリコン粒子を充填したカラムを1本のみ用いたこと以外は、実施例1と同様にしてSV500h−1で通水を行った。10時間通水を継続して、0.5ppbの溶存水素濃度の増加を確認した。このときdH/dtが基準値である0.1ppb/h以下であったので水質が良好であると判定した。そこで、ウエハの表面荒れが少ないと判断した。この比較例では、水質判定に10時間を要した。
【0086】
このように、1本のカラムだけに連続して通水し、そこからの流出水中の溶存水素濃度の測定値だけをモニタリングして水質評価を行う場合には、超純水を半導体洗浄に用いても良いと判定できるまでに多大な時間を要するので、工場における生産性が低いものとなる。
【0087】
これに対し、本発明例(実施例1)によると、水質判定を短時間で行うことができることが認められた。これにより、工場における生産性を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0088】
A,B,C カラム
5 シリコン粒子
11 水素濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン粒子を収容したカラムに試料水を通水し、そのカラム流出水中の溶存水素濃度に基づいて試料水の水質を評価する水質評価方法において、
新たなシリコン粒子を収容したカラムに試料水を所定の空間速度で通水し、そのカラム流出水中の溶存水素濃度上昇速度に基づいて試料水の水質を評価する評価工程を実行する水質評価方法であって、
前記溶存水素濃度上昇速度が予め設定した基準値超になったときに、新たなシリコン粒子を収容したカラムに切替える切替工程と、該切替後のカラムに対して切替前の空間速度よりも小さい空間速度として再び前記評価工程を行う再評価工程とを実行することを特徴とする水質評価方法。
【請求項2】
シリコン粒子を収容したカラムに試料水を通水し、カラム流出水中の溶存水素濃度を測定し、測定値に基づいて試料水の水質を評価する水質評価方法において、
新たなシリコン粒子を収容したカラムに試料水を所定の空間速度で通水し、通水開始から0〜30分の所定の経過時点を原点とし、原点におけるカラム流出水中の溶存水素濃度測定値に対して増加幅が0.1〜1.5ppbの所定の溶存水素濃度になった時点の溶存水素濃度上昇速度を求め、求めた溶存水素濃度上昇速度に基づいて試料水の水質を評価する評価工程を実行するものであって、
前記評価工程において、前記溶存水素濃度上昇速度が予め設定した基準値超であるときは、試料水が所望の水質に達していないと判定すると共に、
新たなシリコン粒子を収容したカラムに切替える切替工程を行い、
該切替後のカラムに対して切替前の空間速度よりも小さい空間速度として再び前記評価工程を行う再評価工程を実行するものであることを特徴とする水質評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記試料水が、純水製造装置の運転開始又は再開直後の純水か、或いは洗浄されたイオン交換樹脂を純水でリンスした後の純水であることを特徴とする水質評価方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記新たなシリコン粒子が、前記切替工程前のシリコン粒子を再生した再生シリコン粒子と、前記切替工程前のシリコン粒子とは別に用意しておいた別のシリコン粒子の少なくとも1つであり、
前記新たなシリコン粒子の収容量が、前記切替工程前のシリコン粒子の収容量よりも大きいことを特徴とする水質評価方法。
【請求項5】
請求項4において、前記新たなシリコン粒子を収容した複数本のカラムを、1本の第1カラムと複数本の第2カラムにグループ分けしておき、
前記評価工程では、前記第1カラムに試料水を通水し、
前記再評価工程では、前記第2カラムに試料水を直列又は並列に通水することを特徴とする水質評価方法。
【請求項6】
請求項4において、前記新たなシリコン粒子を収容した複数本のカラムを、1本の第1カラムと複数本の第2カラムにグループ分けしておき、
前記評価工程では、前記第1カラムに試料水を通水し、
前記再評価工程では、第1カラム内のシリコン粒子を前記新たなシリコン粒子に置換してなる再生第1カラムと第2カラムとの両方に試料水を直列又は並列に通水することを特徴とする水質評価方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記カラムに試料水を上向流で通水することにより流動層を形成すると共に、空間速度を100〜10,000h−1とすることを特徴とする水質評価方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記シリコン粒子が純度99.99%以上の高純度半導体シリコンであることを特徴とする水質評価方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記シリコン粒子が水素終端化されていることを特徴とする水質評価方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の水質評価方法により試料水の水質を評価するための水質評価装置であって、
それぞれシリコン物質の粒子が充填された複数本のカラムと、
いずれか1本のカラムに通水する形態と複数本のカラムに直列又は並列に通水する形態とを切り替えることができる通水手段と、
カラムから流出した流出水中の溶存水素濃度を測定する手段と
を有する水質評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−214879(P2011−214879A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80888(P2010−80888)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)