説明

水質評価装置および水質評価方法

【課題】超純水などの高純度な試料水を基板に接触させる際に、試料水以外に起因する不純物の付着を抑制することで、試料水中に含まれる不純物による基板への影響を正確に評価することができる水質評価装置および水質評価方法を提供する。
【解決手段】基板2を試料水に浸漬させて試料水中の不純物を基板2上に採取することによって試料水の水質を評価する水質評価装置1は、基板2を収容するとともに試料水を貯留する密閉空間3が内部に形成された持ち運び可能な採取容器10を有し、採取容器10が、基板出入口11を備えた容器本体12と、基板出入口11を閉鎖して、容器本体12と共に密閉空間3を形成する蓋部材13と、開放時に密閉空間3と外部とを連通し、閉鎖時に密閉空間3と外部との連通を遮断して、密閉空間3の密閉状態を保持する開閉手段31,41を備え、密閉空間3に試料水と清浄空気とを流通させる流体流通手段20と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水などの試料水の水質評価装置および水質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造や薬品製造等の分野で汎用されている超純水には、さらなる高純度化が要求されている。そのために、超純水の製造において、目的の水質が維持されていることを確認するための水質管理が行われており、超純水中に含まれるイオン、金属類、微粒子、生菌、シリカ、全有機炭素(TOC)等が各種分析装置によって分析されている。
【0003】
特に、半導体製造の分野で洗浄用などに用いられている超純水は、その中に含まれる不純物が製品の品質や歩留まりに影響するため、より正確な分析が必要とされている。
【0004】
このような超純水の水質評価方法として、超純水のユースポイントから容器等に採取した超純水を分析する方法が知られている。しかしながら、この方法は、超純水そのものを分析する方法であるため、その超純水が特定の基板に与える影響を直接評価することは困難である。
【0005】
これに対して、特許文献1〜3に記載されているように、超純水を接触させたシリコン基板の表面を分析する提案がいくつかなされている。例えば、特許文献3には、内部にシリコン基板を収容するとともに、試料水である超純水を通水しながら貯留可能な採取容器を備え、採取容器を密閉状態で搬送可能な水質評価装置と、それを用いた水質評価方法とが開示されている。この水質評価方法によれば、上述の採取容器を用いて超純水中に含まれる不純物をシリコン基板上に採取して、その基板表面を正確に分析することで、超純水中の不純物のシリコン基板への影響を正しく評価することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−147060号公報
【特許文献2】特開平5−251542号公報
【特許文献3】特開2002−296269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載の水質評価方法では、試料水である超純水を採取容器の基板出入口からオーバーフローさせることで、試料水を採取容器に通水し、シリコン基板に接触させている。すなわち、上述の方法では、蓋によって閉鎖され、搬送時には密閉状態となっている採取容器の基板出入口を試料水採取時に開放する作業が必要となる。しがたって、より正確な分析を行うためには、採取容器を清浄度の高い雰囲気中に設置して、上述の作業を行う必要がある。しかしながら、試料水(超純水)のユースポイントにおいては、採取容器が設置された清浄度の高い雰囲気を保持した状態で上述の作業を行うことは困難であり、そのため、試料水以外からの不純物が基板に付着してしまい、正確な分析を行えないことが問題であった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、超純水などの高純度な試料水を基板に接触させる際に、試料水以外に起因する不純物の付着を抑制することで、試料水中に含まれる不純物による基板への影響を正確に評価することができる水質評価装置および水質評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明の水質評価装置は、基板を収容するとともに試料水を貯留する密閉空間が内部に形成された持ち運び可能な採取容器を有し、密閉空間で基板を試料水に浸漬させて試料水中の不純物を基板上に採取することによって試料水の水質を評価する水質評価装置であって、採取容器が、基板出入口を備えた容器本体と、基板出入口を閉鎖して、容器本体と共に密閉空間を形成する蓋部材と、密閉空間に試料水と清浄空気とを流通させる流体流通手段と、を有し、流体流通手段が、開放時に密閉空間と外部とを連通し、閉鎖時に密閉空間と外部との連通を遮断して、密閉空間の密閉状態を保持する開閉手段を有している。
【0010】
また、上記に記載の水質評価装置を用いた本発明の水質評価方法は、清浄度の高い雰囲気中で、採取容器の密閉空間に基板を収容する工程と、基板を収容した採取容器を試料水のユースポイントに搬送し、流体流通手段によって密閉空間に試料水を貯留しながら流出入させて、基板上に試料水中の不純物を採取する工程と、密閉空間への試料水の流出入を停止した後、流体流通手段によって密閉空間に清浄空気を導入しながら、密閉空間に貯留した試料水を排出する工程と、試料水を排出した採取容器を清浄度の高い雰囲気中に搬送し、採取容器から基板を回収し、基板上に採取された不純物を分析する工程と、を含んでいる。
【0011】
このような水質評価装置および水質評価方法では、密閉空間と外部との連通を許容および遮断する開閉手段を備えた流体流通手段によって、密閉空間の密閉状態を実質的に保持したまま、採取容器内に試料水や清浄空気を流通させる操作が可能となる。これにより、分析すべき試料水と清浄空気以外の流体が、基板を収容する密閉空間に流入する虞がなくなる。その結果、試料水以外から密閉空間内に不純物が侵入するのを抑制することができ、試料水中に含まれる不純物による基板への影響を正確に評価することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、超純水などの高純度な試料水を基板に接触させる際に、試料水以外に起因する不純物の付着を抑制することで、試料水中に含まれる不純物による基板への影響を正確に評価することができる水質評価装置および水質評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における水質評価装置を概略的に示す正面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態における水質評価装置の概略図であり、図1(a)が正面図、図1(b)が側面図である。
【0016】
本実施形態の水質評価装置1は、基板2を超純水などの高純度な試料水に浸漬させ、試料水中の不純物を基板2上に付着させて採取するための、持ち運び可能な採取容器10を有している。
【0017】
採取容器10は、基板出入口11を備えた容器本体12と、基板出入口11を閉鎖する容器蓋(蓋部材)13とを有している。採取容器10の内部には、基板2を複数枚(本実施形態では3枚)収容するとともに、基板2を浸漬させるように試料水を貯留する密閉空間3が設けられている。密閉空間3は、容器蓋13が容器本体12の基板出入口11を閉鎖することによって形成されている。
【0018】
密閉空間3には、密閉空間3に収容した基板2を固定するための基板固定部(固定手段)14a,14bが設けられている。基板固定部14a,14bは、容器本体12側に設けられた丸棒状の4本の基板固定棒14aと、容器蓋13側に設けられた丸棒状の基板固定棒14bとを有している。容器本体12側の基板固定棒14aは、容器本体12に基板を保持するために設けられており、容器蓋13側の基板固定棒14bは、容器蓋13が基板出入口11を閉鎖する際、すなわち、採取容器10の搬送時と試料水採取時に基板2を固定するために設けられている。
【0019】
また、採取容器10は、密閉空間3に試料水や清浄空気を流通させるための流体流通手段20を有している。流体流通手段20は、密閉空間3に試料水を流入させる試料水入口(第1の流通口)30と、この試料水入口30から密閉空間3に流入した試料水を流出させる試料水出口(第2の流通口)40とを有している。試料水入口30および試料水出口40にはそれぞれ、開放時に密閉空間3と外部とを連通し、閉鎖時に密閉空間3と外部との連通を遮断して、密閉空間3の密閉状態を保持するバルブ(開閉手段)31,41が設けられている。したがって、本実施形態の採取容器10では、密閉空間3と外部との連通を許容および遮断するバルブ31,41がそれぞれ設けられた試料水入口30および試料水出口40によって、基板2を収容した密閉空間3の密閉状態を実質的に保持したまま、密閉空間3への試料水と清浄空気との流出入が可能となる。そのため、試料水以外からの不純物が基板2に付着するのを抑制することができ、試料水中に含まれる不純物による基板への影響を正確に評価することが可能となる。
【0020】
試料水入口30および試料水出口40は、基板2が浸漬される試料水が密閉空間3に貯留しながら流出入するように、採取容器10に配置されている。すなわち、採取容器10内に収容された位置での基板2に対して、試料水出口40は、その上端よりも鉛直方向上方で、密閉空間3に開口しており、試料水入口30は、その下端よりも鉛直方向下方で、密閉空間3に開口している。これにより、試料水入口30および試料水出口40によって密閉空間3に試料水が流出入する際に、その液面は採取容器10内での基板2の上端よりも上方に位置することになり、基板2は試料水に浸漬した状態で密閉空間3に収容されることになる。なお、試料水入口30は、密閉空間3内で、複数の噴出口33を備えた試料水噴出管32に接続されており、噴出口33から試料水を密閉空間3に流入させるようになっている。また、試料水出口40には、密閉空間3から試料水出口40を通じて流出する試料水の瞬時流量や積算流量を計測する流量計42が設けられている。
【0021】
さらに採取容器10は、密閉空間3に貯留した試料水を排出する試料水ドレイン(排出口)50を有している。試料水ドレイン50には、試料水入口30および試料水出口40と同様に、密閉空間3と外部との連通を許容および遮断するバルブ51が設けられており、このバルブ51を閉鎖することで、密閉空間3の密閉状態を保持するようになっている。試料水ドレイン50は、密閉空間3の底面に開口していることが好ましく、特に、本実施形態のように、基板2の形状に合わせて半円形に形成された、密閉空間3の底面の最低部に開口していることがより好ましい。これにより、密閉空間3に貯留した試料水を容易に排出することが可能となる。
【0022】
次に、引き続き図1を参照して、本実施形態の水質評価装置を用いた、試料水の水質評価方法について説明する。
【0023】
(ステップ1)まず、採取容器10を清浄度の高い雰囲気中に設置して、容器本体12から容器蓋13を取り外し、容器本体12の基板出入口11から、1枚または複数枚の基板2を容器本体12内に収容する。このとき、基板2は、容器本体12側の基板固定棒14aに固定される。その後、容器本体12の基板出入口11を容器蓋8で閉鎖して、採取容器10内の密閉空間3を密閉状態とする。
【0024】
なお、ここでいう清浄度の高い雰囲気は、空気中の不純物(浮遊微粒子やガス状汚染物)が除去された環境を意味し、本実施形態では、日本工業規格(JIS)B9920に準拠したクラス5よりも清浄な環境を意味する。ここでいうクラスは、クリーンルームおよびこれに関連する制御された環境の空気清浄度の浮遊微粒子濃度を示す指標であり、対象粒径に対する上限濃度(空気1m3当たりの粒子数)を表している。例えば、クラス5は、空気1m3当たりに0.5μmの微粒子が3520個未満存在する状態を表している。したがって、クラスの値が小さいほど、空気の清浄度が高いことを示している。
【0025】
上述のJIS B9920によれば、空気清浄度は浮遊微粒子のみによって規定されるが、本実施形態における清浄度の高い雰囲気として、ケミカルフィルタを用いて空気中のガス状汚染物も除去された環境が好ましいことは言うまでもない。
【0026】
(ステップ2)次に、基板2を収容した採取容器10を試料水(超純水)のユースポイントに搬送し、ユースポイントに連結した試料水導入管(図示せず)と採取容器10の試料水入口30とを接続する。その後、試料水入口30のバルブ31を開放し、試料水導入管を流れる試料水を、試料水入口30に接続された試料水噴出管32の複数の噴出口33から採取容器10内の密閉空間3に流入させる。それと同時に、試料水出口40のバルブ41を開放することで、密閉空間3に流入した試料水を試料水出口40を通じて外部に流出させる。こうして、試料水を密閉空間3に貯留させながら流出入させることで、密閉空間3に収容された基板2に試料水を接触させ、試料水中の不純物を基板2上に採取する。試料水が密閉空間3に流出入している間、試料水出口40から流出する試料水の流量(積算量)を流量計42によって測定する。
【0027】
(ステップ3)基板2に試料水を所定時間接触させた後、試料水入口30のバルブ31と試料水出口40のバルブ41とを閉鎖して、試料水の密閉空間3への流出入を停止する。そして、この時点で密閉空間3に貯留している試料水を、密閉空間3に清浄空気を導入しながら、試料水ドレイン50から排出する。具体的には、浮遊微粒子を除去するエアフィルタ、例えば、ULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルタなどの清浄空気の供給源を試料水出口40に接続し、試料水出口40のバルブ41を開放することで、清浄空気を密閉空間3に流入させる。これと同時に、試料水ドレイン50のバルブ51を開放して、密閉空間3に貯留している試料水を試料水ドレイン50から排出する。なお、ここでいう清浄空気は、上述のクラス5よりも清浄な環境における空気を意味する。また、試料水出口40に清浄空気の供給源を接続する代わりに、採取容器10全体をULPAフィルタやケミカルフィルタを用いたブースなどの清浄度の高い雰囲気中に設置して、その清浄度の高い雰囲気を密閉空間3に流入させるようになっていてもよい。
【0028】
試料水の排出が完了したら、試料水出口40のバルブ41を閉鎖して、密閉空間3への清浄空気の導入を停止するとともに、試料水ドレイン50のバルブ51を閉鎖して、密閉空間3を再び密閉状態とする。
【0029】
(ステップ4)次に、採取容器10を清浄度の高い雰囲気中に搬送する。この雰囲気中で、自然乾燥法やクリーンエアーを基板2に接触させる方法などを用いて基板2を乾燥させた後、容器本体12から容器蓋13を取り外し、採取容器10から基板2を回収する。そして、基板2に付着した試料水中の不純物の分析を行い、それにより、試料水の水質評価を行う。
【0030】
このように、本実施形態の水質評価装置および水質評価方法では、それぞれ密閉空間と外部との連通を許容および遮断するように開閉可能な試料水入口および試料水出口によって、密閉空間の密閉状態を実質的に保持したまま、採取容器の密閉空間への試料水の流出入を行うことができる。これにより、密閉空間に試料水を流通させる際に、密閉空間への試料水以外からの不純物の侵入を防ぐことが可能となる。また、密閉空間に貯留した試料水の排水時にも、試料水出口から密閉空間に清浄空気を導入することで、密閉空間の内部が清浄度の低い雰囲気にさらされることを抑制することができる。その結果、分析すべき試料水と清浄空気以外の流体が、基板を収容する密閉空間に流入する虞がなくなり、試料水中に含まれる不純物による基板への影響を正確に評価することが可能となる。
【0031】
なお、採取容器の内面の材質、すなわち試料水を貯留する密閉空間の壁面の材質は、分析対象となる試料水中の不純物に応じて適宜選択することができる。本実施形態において分析対象となる不純物としては、金属類、有機物、イオン類および微粒子などが挙げられる。
【0032】
例えば、Na、K、Ca、Mg、Fe、Al、Cu、Znなど金属類の影響を測定する場合、採取容器は、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどの樹脂製が好ましい。また、塩化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオンなどのイオン類の影響を測定する場合、採取容器は、高純度石英などのガラス製であることが好ましく、アルコール類、芳香族類、シロキサン類などの有機物の影響を測定する場合、採取容器は、不動態化した金属製であることが好ましい。このように、採取容器の、少なくとも密閉空間の壁面の材質としては、測定すべき不純物を溶出しにくく、その測定に影響を与えないような材質を選択することが好ましい。
【0033】
同様に、不純物の具体的な分析方法についても、分析対象となる不純物に応じて適宜選択することができる。
【0034】
金属類の分析には、VPD(Vapor Phase Decomposition)+化学分析法を用いることが好ましい。VPD+化学分析法とは、ウェーハ表面の全面を回収液の液滴でスキャンして、液滴中に回収された不純物(金属類)をフレームレス原子吸光法(AAS)、誘導結合型質量分析装置(ICP−MS)で検出する方法である。その他の方法としては、基板上に付着した金属類を溶解せずに、全反射蛍光X線装置などの表面分析装置で検出する方法もある。
【0035】
また、有機物の分析には、基板表面への有機物の吸着機構として化学吸着と物理吸着があり、吸着する有機物の成分にも低分子量成分と高分子成分などがあるため、目的の成分や吸着機構に応じた分析方法が用いられる。例えば、ガスクロマトグラフ法、熱脱離−ガスクロマト質量分析法、液体クロマトグラフ法、飛行時間型質量分析装置などを使用して、基板表面の有機物の測定を行うことができる。
【0036】
また、イオン類の分析には、基板上の不純物(イオン類)を抽出液中に抽出し、その後、その抽出液をイオンクロマトグラフ法で測定するなどの方法を用いることができる。
【0037】
また、微粒子の分析には、鏡面ウェーハ表面検査装置などで基板上の微粒子を測定する方法を用いることができる。
【0038】
なお、試料水に接触させる基板の種類については、清浄で平らな面を有するものであれば特に限定されず、試料水(超純水)が与える影響を評価したい基板を適宜用いることができる。このような基板としては、シリコンウェーハ、化合物半導体基板、ガラス基板、金属板、グラシーカーボン板、セラミック板などが挙げられる。しかしながら、上述の金属類の影響を測定する場合には、清浄度が高く、高感度な分析方法(例えば、VPD+化学分析法)に対して有効な基板を使用することが好ましく、特に、シリコンウェーハを使用することが好ましい。
【0039】
また、本実施形態では、密閉空間10に縦置きで収容された複数枚の基板2に対して、試料水入口30から試料水出口40に向かって、試料水が下方から上方へ流れるようになっている。このことは、試料水の基板への影響に対する評価を、実際の半導体製造での試料水(超純水)による基板洗浄により近い環境で行うことができ、評価精度をより向上させることができる点で利点となる。
【0040】
(実施例)
図1に示す構成の水質評価装置を用いて、本発明の効果を確認した。具体的には、実施例として、上述のステップ1〜4とほぼ同様の手順で、超純水の水質評価を行った。ステップ1では、採取容器への基板の収容を、清浄度の高い雰囲気としてのクリーンベンチ(クラス4)内で行い、基板には、自然酸化膜付シリコンウェーハを用いた。ステップ2では、採取容器への試料水の導入を、試料水のユースポイントとしての、クリーンルーム外にある超純水製造装置で行った。試料水として、鉄の不純物濃度が1ng/L(1pg/cm3)以下の超純水を用い、したがって、分析対象となる不純物は鉄とした。ステップ3では、採取容器10全体をULFAフィルタとケミカルフィルタとを用いたクリーンブース内に収容し、そこで試料水の排出を行うことで、密閉空間3へ清浄空気を導入した。すなわち、試料排出時に導入する清浄空気としてクラス4のクリーンブース内の空気を用いた。ステップ4では、採取容器からの基板の回収、および基板の乾燥と分析を、ステップ1と同様に、クリーンベンチ(クラス4)内で行った。基板の乾燥には、自然乾燥法を用い、基板に付着した鉄の回収には、VPD法を用いた。回収した鉄の測定には、誘導結合プラズマ質量分析装置を用いた。
【0041】
また、比較例として、特許文献3に記載の水質評価装置と同様の構成の水質評価装置を用いて、特許文献3の段落[0028]に記載の手順で、超純水の水質評価を行った。なお、試料水としては、実施例と同様の超純水を用い、鉄の分析については、実施例と同様の条件で行った。
【0042】
実施例および比較例において、上述の超純水を採取容器に1時間通水し、シリコンウェーハの回収濃度を比較した。実際には、複数枚(実施例では3枚、比較例では5枚)のシリコンウェーハの回収濃度の平均値と変動係数とを比較した。その結果を、表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例では、比較例と比べて、回収濃度の平均値および変動係数が共に減少したことが確認された。回収濃度の変動係数の減少は、測定値のばらつきがより小さくなったことを意味しており、したがって、実施例では、回収濃度がより正確に評価されていることが確認された。このことを考慮すると、比較例での回収濃度の平均値は、シリコンウェーハへの試料水以外からの不純物の影響を含んでおり、実施例では、その影響が抑制されたため、回収濃度の平均値が減少したものと考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1 水質評価装置
2 基板
3 密閉空間
10 採取容器
11 基板出入口
12 容器本体
13 蓋部材
14a,14b 基板固定棒
20 流体流通手段
30 試料水入口
31 バルブ
40 試料水出口
41 バルブ
50 試料水ドレイン
51 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容するとともに試料水を貯留する密閉空間が内部に形成された持ち運び可能な採取容器を有し、前記密閉空間で前記基板を試料水に浸漬させて試料水中の不純物を前記基板上に採取することによって試料水の水質を評価する水質評価装置であって、
前記採取容器が、基板出入口を備えた容器本体と、前記基板出入口を閉鎖して、前記容器本体と共に前記密閉空間を形成する蓋部材と、前記密閉空間に試料水と清浄空気とを流通させる流体流通手段と、を有し、
前記流体流通手段が、開放時に前記密閉空間と外部とを連通し、閉鎖時に前記密閉空間と外部との連通を遮断して、前記密閉空間の密閉状態を保持する開閉手段を有する、
水質評価装置。
【請求項2】
前記流体流通手段が、前記密閉空間に試料水を流入させる第1の流通口と、前記密閉空間に流入した試料水を流出させ、清浄空気を前記密閉空間に流入させる第2の流通口と、を有し、
前記第1の流通口および前記第2の流通口に、前記開閉手段がそれぞれ設けられている、請求項1に記載の水質評価装置。
【請求項3】
前記第2の流通口が、前記密閉空間に収容された位置での前記基板の上端よりも鉛直方向上方で、前記密閉空間に開口している、請求項2に記載の水質評価装置。
【請求項4】
前記第1の流通口が、前記密閉空間に収容された位置での前記基板の下端よりも鉛直方向下方で、前記密閉空間に開口している、請求項3に記載の水質評価装置。
【請求項5】
前記採取容器が、前記密閉空間に貯留した試料水を排出する排出口を有し、
前記排出口が、開放時に前記密閉空間と外部とを連通し、閉鎖時に前記密閉空間と外部との連通を遮断して、前記密閉空間の密閉状態を保持する開閉手段を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の水質評価装置。
【請求項6】
前記排出口が、前記密閉空間の底面に開口している、請求項5に記載の水質評価装置。
【請求項7】
前記採取容器が、前記密閉空間に前記基板を固定する固定手段を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載の水質評価装置。
【請求項8】
前記密閉空間の壁面が、フッ素樹脂、高純度石英、または不動態化した金属から形成されている、請求項1から7のいずれか1項に記載の水質評価装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の水質評価装置を用いた水質評価方法であって、
清浄度の高い雰囲気中で、前記採取容器の前記密閉空間に前記基板を収容する工程と、
前記基板を収容した前記採取容器を試料水のユースポイントに搬送し、前記流体流通手段によって前記密閉空間に試料水を貯留しながら流出入させて、前記基板上に試料水中の不純物を採取する工程と、
前記密閉空間への試料水の流出入を停止した後、前記流体流通手段によって前記密閉空間に清浄空気を導入しながら、前記密閉空間に貯留した試料水を排出する工程と、
試料水を排出した前記採取容器を清浄度の高い雰囲気中に搬送し、前記採取容器から前記基板を回収し、前記基板上に採取された不純物を分析する工程と、
を含む、水質評価方法。
【請求項10】
前記密閉空間の壁面がフッ素樹脂から形成され、
前記不純物を採取する工程が、前記基板上に試料水中の金属類を採取することを含む、請求項9に記載の水質評価方法。
【請求項11】
前記密閉空間の壁面が高純度石英から形成され、
前記不純物を採取する工程が、前記基板上に試料水中のイオン類を採取することを含む、請求項9に記載の水質評価方法。
【請求項12】
前記密閉空間の壁面が不動態化した金属から形成され、
前記不純物を採取する工程が、前記基板上に試料水中の有機物を採取することを含む、請求項9に記載の水質評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−13430(P2012−13430A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147459(P2010−147459)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)