説明

水運用システム及び水運用方法

【課題】配水池の配水需要を予測して、浄水池から配水池に送水を行う送水ポンプの駆動計画を策定する水運用システムにおいて、策定された駆動計画から想定される配水池の水位と実際の配水池の水位とのずれを修正する。
【解決手段】水運用システム1は、配水池A,B、送水ポンプ3a,3b、需要予測手段5、計画策定手段6、水位演算手段7を有する。需要予測手段5で予測された配水池A,Bの将来の需要予測に基づいて、計画策定手段6が、送水ポンプ3a,3bの駆動計画を策定する。水位演算手段7が、配水池A,Bの現在の水位と将来の配水量需要と、送水ポンプ3a,3bの駆動計画とに基づいて、所定期間毎に将来の配水池A,Bの水位を算出する。将来の配水池A,Bの水位が策定周期内に所定の水位範囲を逸脱する場合、水位が逸脱する前に、計画策定手段6が再度送水ポンプ3a,3bの駆動計画を策定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上水道や工業用水道等の水を送る工程に適用する水運用システム及び水運用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、上水道の配水等の水運用方法として、需要予測をベースとして水運用を制御する方法がある。需要予測は、逐次最小2乗推定(カルマンフィルタ)やカオス需要予測等の方法を用いて行われる。そして、この需要予測に基づいて、配水池単位の流出流量が推定される(特許文献1,2)。さらに、配水池の現在の水位をモニタするとともに、需要予測に基づいて時間単位の将来の配水池の水位が計算される。これらの情報を基に配水池に水を送水する送水ポンプの運転台数(配水池への送水量)が決定される(例えば、非特許文献1)。この需要予測に基づく送水ポンプの運転台数や送水量といった送水計画の最適化を、整数計画法、遺伝的アルゴリズム等の最適手法を用いて行う技術もある(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−42949号公報
【特許文献2】特開2001−55763号公報
【特許文献3】特開2006−350542号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大島信夫、“笹川浄水場における水運用の自動化”、明電時報、株式会社明電舎、2004年、No.4、p.30−35
【非特許文献2】鮫島正一、外3名、“上水道最適シミュレータによる取水・送水工程の最適化検討”、EICA学会誌、環境システム計測制御学会、2005年、Vol.10、No.3、pp.74−75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、需要予測をベースとした配水池の水運用方法は、何らかの理由により予測された水位と実際の水位との間にずれが生じると、送水計画の修正が必要となるおそれがある。また、予測された需要量が大きく外れてしまった場合には、最適化の前提が崩れてしまうため、最適化の効果を得られないおそれが生じる。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、需要予測をベースにした運転計画手法による水運用システムにおいて、より最適な水運用を行うことに貢献する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の水運用システム及び本発明の水運用方法は、浄水場から送水を受けて、配水区域に配水を行う配水池に設けられる送水ポンプの駆動制御(駆動計画の策定)を、配水池の需要予測に基づいて行う水運用システムにおいて、予め定められた期間毎に、配水池の現在の水位と、送水ポンプの駆動計画に基づいて、将来の配水池の水位を演算し、この演算した値が、予め定められた水位範囲となるように制御することを特徴としている。
【0008】
また、本発明の水運用システム及び本発明の水運用方法は、配水池の需要予測に基づいて策定される送水ポンプの駆動計画を最適化する際に、送水ポンプの駆動コストや送水ポンプを駆動するための電力コストを考慮して、最適な送水ポンプの駆動計画を策定することを特徴としている。
【0009】
すなわち、本発明の水運用システムは、送水ポンプと、当該送水ポンプにより浄水池から送水を受け、配水区域に配水を行う配水池と、この配水池に設置され、当該配水池の水位を計測する水位計と、前記配水池から配水される将来の配水量需要を予測する需要予測手段と、前記需要予測手段で予測された配水量需要と、前記水位計で計測された水位データに基づいて前記配水池に蓄積された配水の水位が予め決められた水位範囲となるように、予め定められた策定期間における前記送水ポンプの駆動計画を策定する計画策定手段と、予め定められた期間毎に、前記水位計により計測された前記配水池の水位と、前記計画策定手段で策定された前記送水ポンプの駆動計画及び、前記需要予測手段で予測された前記配水池の配水量需要と、に基づいて、前記配水池の将来の水位を算出する水位演算手段と、を備えた水運用システムであって、前記計画策定手段は、前記策定期間内において、前記水位演算手段で算出された将来の水位が前記水位範囲を逸脱する場合、前記配水池の水位が前記水位範囲を逸脱する前に、再度前記送水ポンプの駆動条件を策定することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の水運用システムは、上記水運用システムにおいて、前記計画策定手段は、さらに、前記送水ポンプの発停回数が少なくなるように、前記送水ポンプの駆動計画を策定することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の水運用システムは、上記水運用システムにおいて、前記計画策定手段は、さらに、前記送水ポンプ全体の駆動動力が少なくなるように、前記送水ポンプの駆動計画を策定することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の水運用システムは、上記水運用システムにおいて、前記計画策定手段は、前記送水ポンプの駆動エネルギーを電力量に換算し、当該電力量のコストが最少となるように、前記送水ポンプの駆動計画を策定することを特徴としている。
【0013】
また、本発明の水運用方法は、送水ポンプと、当該送水ポンプにより浄水池から送水を受け、配水区域に配水を行う配水池と、この配水池に設置され、当該配水池の水位を計測する水位計と、前記配水池から配水される将来の配水量需要を予測する需要予測手段と、前記需要予測手段で予測された将来の配水量需要と、前記水位計で計測された水位データに基づいて、前記配水池に蓄積された配水の水位が予め決められた水位範囲となるように、予め定められた策定期間における前記送水ポンプの駆動計画を策定する計画策定手段と、予め定められた期間毎に、前記水位計により計測された前記配水池の水位と、前記計画策定手段で策定された前記送水ポンプの駆動計画及び、前記需要予測手段で予測された前記配水池の配水量需要とに基づいて、前記配水池の将来の水位を算出する水位演算手段と、を備えた水運用システムの水運用方法であって、前記水位計が前記配水池の水位を計測し、前記需要予測手段が、前記配水池から前記配水区域に配水される将来の配水量の需要を予測し、前記計画策定手段が、前記配水池の水位が前記水位範囲内となるように、予め定められた策定期間における前記送水ポンプの駆動計画を策定し、前記水位演算手段が、予め定められた期間毎に、前記水位計によって計測された水位と、前記計画策定手段で策定された前記送水ポンプの駆動計画及び、前記需要予測手段で予測された前記配水池の配水量需要と、に基づいて、前記配水池の将来の水位を算出し、前記計画策定手段が、前記策定期間内において、前記水位演算手段で算出された将来の水位が、前記水位範囲を逸脱する場合、前記配水池の水位が前記水位範囲を逸脱する前に、再度前記送水ポンプの駆動計画を策定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
以上の発明によれば、需要予測をベースにした運転計画手法による水運用システムにおいて、より最適な水運用を行うことに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発明の実施形態に係る水運用システムの概略構成図である。
【図2】発明の実施形態に係る水運用方法を説明するフロー図である。
【図3】各配水池に接続された送水ポンプの駆動計画を例示する説明図であり、(a)配水池Aの説明図、(b)配水池Bの説明図である。
【図4】発明の実施形態に係る水運用方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の水運用システム及び水運用方法について、図を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る水運用システム1の構成図である。図1に示すように、実施形態に係る水運用システム1は、配水池A,Bと、送水ポンプ3a,3bと、水位計4a,4bと、需要予測手段5と、計画策定手段6と、水位演算手段7と、を備える。
【0018】
配水池A,Bは、送水ポンプ3a,3bにより浄水池2から送水を受け、配水区域(図示省略)に配水を行う。配水池A,Bと浄水池2とを接続する配管には、それぞれ送水ポンプ3a,3bが設けられる。配水池A,Bには、配水池A,Bが空にならないように一定以上の水量が必要であり、それぞれの配水池A,Bには最低水量(最低水位:LWL)が定められている。また、配水池A,Bは、需要量と供給量のミスマッチを解決する(需要量の変動を吸収する)ことを目的とするものであり、過剰な量の水を配水池A,Bに保持させることは好ましくない。よって、それぞれの配水池A,Bには、最高水量(最高水位:HWL)が定められている。配水池A,Bの数は、特に限定されるものではなく、配水区域に必要な配水が可能となる数が適宜設定される。
【0019】
送水ポンプ3a,3bは、浄水池2から配水池A,Bに配水を送水する。一つの配水池A(または、B)に浄水池2の水を送水する送水ポンプ3a(または、3b)の数は、特に限定されるものではなく、配水池A(または、B)の配水需要や配水池A(または、B)の容量に応じて適宜送水ポンプ3a(または、3b)の数が決定される。
【0020】
水位計4a,4bは、それぞれ配水池A,Bに設けられ、配水池A,Bに貯留された水の水位を計測する。矢印d1,d2に示すように、水位計4a,4bの計測値は、計画策定手段6に入力される。また、矢印d3,d4に示すように、水位計4a,4bの計測値は、水位演算手段7に送信される。水位計4a(または、4b)の計測値に、配水池A(または、B)の底面積を積算することで、配水池A(または、B)に蓄積された水の量を概算することができる。
【0021】
なお、配水池A,Bへの送水量QA,QBは、一般的に使用される流量計(図示省略)により計測される。
【0022】
需要予測手段5は、それぞれの配水池A,Bから配水区域に配水される配水量を予測する。将来配水区域に配水される配水量の予測は、逐次最小2乗推定やカオス需要予測等、既知の手法を用いて行う。需要予測手段5による配水量の予測方法として、逐次最小2乗推定を用いて需要予測を行う例をあげて説明する。まず、曜日別や、休日、平日、休日明け別、季節別等の1時間毎1日分の需要実績データを予め用意しておく。次に、予め前日までの上水需要実績を得ておき、前日までの上水需要実績に基づいて、当該日の需要予測値偏差を算出する。この需要予測値偏差を、実時間で逐次最小2乗推定(カルマンフィルタ)することで、需要予測値偏差の最適値を演算し、当日の上水需要予測値と、その曜日の最適な需要予測値偏差に基づいて、当日の1時間毎24時間分の上水需要予測値を得る。
【0023】
計画策定手段6は、需要予測手段5の需要予測結果と、配水池A,Bの水位に基づいて、所定の期間(策定周期)における送水ポンプ3a,3bの駆動計画の策定を行う。計画策定手段6には、需要予測手段5の需要予測結果(矢印d5)が入力されるとともに、水位計4a,4bの計測値が入力される(矢印d1,d2)。さらに、計画策定手段6には、配水池A,Bへの送水量QA,QB(矢印d6,d7)や浄水池の水位(矢印d8)等のデータも入力され、送水ポンプ3a,3bの駆動計画の策定が行われる。計画策定手段6は、策定された駆動計画に沿って、それぞれの送水ポンプ3a,3bを駆動(または停止)させる制御信号を送水ポンプ3a,3bに送信する(矢印d9,d10)。策定周期は、特に限定されるものではないが、例えば、24時間程度の期間が設定される。また、計画策定手段6は、後述の水位演算手段7で、算出された配水池A(または、B)の水位が、所定の範囲(例えば、LWL以上、且つHWL以下の範囲)を逸脱する場合、逸脱する時間に到達する前に、再度送水ポンプ3a(または、3b)の駆動計画の策定を行う。
【0024】
水位演算手段7は、一定期間毎に、所定時刻における配水池A,Bの水位と、計画策定手段6で決定された駆動計画及び、需要予測手段5で予測された配水池A,Bの配水量の需要とに基づいて、将来の配水池A,Bの水位を算出する。水位演算手段7には、水位計4a,4bの計測値が入力され(矢印d3,d4)、この水位の計測値から、計画策定手段6により策定された駆動計画に沿って送水ポンプ3a,3bを駆動した時の将来の配水池A,Bの水位を算出する。水位演算手段7における、一定期間は、計画策定手段6で設定された策定周期よりも短いものであれば任意に設定可能であり、計画策定手段6で定められた策定周期を所定の間隔で分割する等により決定される。例えば、計画策定手段6で設定された策定周期が24時間である場合、水位演算手段7は、1時間毎に策定周期終了時までの水位を演算すればよい。
【0025】
次に、実施形態に係る水運用システム1の水運用方法について、図2に示すフロー図を参照して詳細に説明する。なお、水運用方法の説明では、需要予測手段5が、配水池A,Bそれぞれの需要予測をカオス需要予測を用いて行う例を示して説明する。
【0026】
まず、所定の策定周期(24時間)が経過した後、需要予測手段5による配水池A,Bそれぞれの需要予測が開始される(ステップS1)。
【0027】
需要予測手段5は、カオス需要予測に基づいて、配水池A,B毎の需要予測を行う。そして、この需要予測に基づいて、計画策定手段6が、送水ポンプ3a,3bの駆動計画を策定する(ステップS2)。
【0028】
カオス需要予測は、2つの手順からなる。まず、手順1では、時間単位の各配水池A(または、B)の配水量を状態空間に埋め込む。例えば、2つのパラメータ、n(次元),τ(遅れ)を使用して、配水量は状態空間の一点(y(i),y(i−τ),y(i−2τ),…,y(i−(n−1)τ))に埋め込まれる。同様に、すべての配水量を時間に沿って空間に埋め込むことで、ストレンジアトラクタを描く。手順2では、状態空間に埋め込まれた配水量から将来の配水量を予測する。ストレンジアトラクタ上の最新のデータの近くの軌跡が1時間後に移動した動きを入力としてファジィ演算を行い、1時間後の配水量を演算する。同様にして、2時間後、3時間後・・・と連続して予測を行う。
【0029】
需要予測手段5は、それぞれの配水池A,B毎に需要予測を行う。そして、計画策定手段6では、以下のように、それぞれの配水池A,Bに設けられた送水ポンプ3a,3bの駆動及び停止の計画を策定する。
【0030】
図1に示すように、実施形態に係る水運用システム1は、2つの配水池A,Bを有している。この場合、需要予測手段5は、それぞれの配水池A,Bの需要量DA,DBを予測する。また、各配水池A,Bに設けられた水位計4a,4bにより初期水位HA0,HB0が計測される。
【0031】
計画策定手段6は、需要量DA,DB及び初期水位HA0,HB0に基づいて、送水系が継続的に通水可能になるように、送水ポンプ3a,3bの運転計画を策定する。
【0032】
送水系が継続的に通水可能とするためには、式(1),(2)を満たす必要がある。
LWLA≦HA≦HWLA …(1)
LWLB≦HB≦HWLB …(2)
式(1),(2)において、HA,HBは、各配水池A,Bの水位である。ここで、各配水池A,Bの底面積をSA,SB、各配水池A,Bに送水される送水量をQA,QBとすると、各配水池A,Bの水位HA,HBは、式(3),(4)で表される。
HA=HA0+(DA−QA)/SA …(3)
HB=HB0+(DB−QB)/SB …(4)
送水量QA,QBは、送水ポンプ3a,3bの性能、配水池A,Bに接続される管路の摩擦損失及び配水池A,Bの水位等の影響を受ける。そこで、送水量QA,QBは、水位HA,HBの関数で表される。
QA=f(HA) …(5)
QB=f(HB) …(6)
式(5),(6)が、HA(または、HB)の1次式である場合、混合整数線形計画法で解くことが可能である。また、式(5),(6)が非線形であっても解析することは可能である。
【0033】
上記の式(1)〜(6)の関係を満たすように、送水ポンプ3a,3bを駆動すれば、配水池A,Bから連続して配水区域に配水を行うことができる。なお、実施形態に係る水運用システム1では、さらに以下の条件のうちいずれかを追加して、エネルギー効率のよい送水条件を決定する。
(a)送水ポンプ3a,3bの駆動と停止の回数が少ないこと
(b)送水ポンプ3a,3bの駆動エネルギー(電力)コストが安価であること
(c)送水ポンプ3a,3bの消費エネルギーが少ないこと
(a)の条件を満たすためには、送水ポンプ3a,3bの運転台数の変更回数を積算して、最も変更回数が少なくなるように、最小化演算を行う。(b)の条件を満たすためには、運転している送水ポンプ3a,3bの動力から送水ポンプ3a,3bを駆動させるために必要な電力量を算出し、さらに、この電力量に季節別(時間帯別)の電力料金を積算することで総電力料金を算出する。この総電力料金が最も小さい値となるように最小化演算を行う。(c)の条件を満たすためには、運転している送水ポンプ3a,3bの動力を積算し、その動力が最も小さい値となるように最小化演算を行う。上記の最小化演算方法は、数理計画法やメタヒューリスティック等の既知の最小化演算方法を用いる。
【0034】
図3に、計画策定手段6によって策定された各配水池A,Bに接続される送水ポンプ3a,3bの駆動計画の一例を示す。図3に示す駆動計画では、LWLの値を変化させているが、LWL(または、HWL)を運転中に変更したとしても、最小化演算を行いつつ、計画策定が可能であることを示している。
【0035】
図3に示す駆動計画は、計画策定手段6が、(a)と(b)を組み合わせた料金式を数理計画法を用いて最小化した場合のものである。(a)の条件と(b)の条件とを併用する場合には、(a)の条件の送水ポンプ3a,3bの駆動と停止の回数を料金に換算し(駆動及び停止1回あたりの料金を予め定めておき送水ポンプ3a,3bの運転台数の変更回数に積算する)、(b)の条件で算出された総電力料金に加算することで、新たな総電力料金を算出して、その総電力料金がより小さい値となるように最小化演算を行う。
【0036】
ステップS2で、送水ポンプ3a,3bの駆動計画が策定されると、水位計4a,4bによって、所定の時間毎(1時間毎)に、配水池A,Bの水位が取得される(ステップS3)。水位演算手段7は、取得された配水池A,Bの水位と、計画策定手段6で、策定された送水ポンプ3a,3bの駆動計画及び、需要予測手段5で予測された配水池A,Bの配水の需要量に基づいて、策定周期期間中の配水池A,Bそれぞれの予測水位を算出する(ステップS4)。
【0037】
ステップS4で算出された配水池の予測水位が、所定の範囲(LWL≦水位≦HWL)を逸脱する場合の送水ポンプの駆動計画の修正方法について、図4を参照して詳細に説明する。なお、説明では、配水池Aについて説明するが、他の配水池Bについてもそれぞれ同様のステップによって送水ポンプ3bの駆動計画の修正が行われる。
【0038】
図4に示すように、計画策定時では、配水池Aの水位が所定の範囲に収まるように送水ポンプ3aの駆動計画が策定される。しかしながら、実際の需要量は、予測値とは異なるものであり、実際の配水池Aの水位は、予測水位とは異なる。そこで、ある一定期間毎に現在の配水池Aの水位と、計画策定手段6で定められた送水ポンプ3aの駆動計画及び、需要予測手段5で予測された配水池Aの配水の需要量に基づいて、水位演算手段7が、将来の配水池Aの予測水位を算出する。
【0039】
水位演算手段7で算出された予測水位が予め定められた範囲内(LWL≦算出された配水池Aの水位≦HWL)に収まっている場合(ステップS5においてYESであった場合)には、運転計画に従って、送水ポンプ3aの運転が行われる(ステップS6)。
【0040】
一方、算出された予測水位が予め定められた範囲外であった場合(ステップS5においてNOであった場合)、以下のようにして、送水ポンプ3aの駆動計画の修正が行われる。
【0041】
まず、水位演算手段7で算出された配水池Aの予測水位が、予め定められた範囲外となる時間がt時間後であるとすると、配水池Aの予測水位が予め定められた範囲外となることを予測した時間からt−1時間までは、計画策定手段6で策定された駆動計画に基づいて、送水ポンプ3a(及び3b)の運転が行われる(ステップS7)。そして、配水池Aの予測水位が予め定められた範囲外となることを予測した時間からt−1時間後に、再度、需要予測手段5が配水池A,Bそれぞれの需要予測を行い、この需要予測に基づいて、計画策定手段6が送水ポンプ3a,3bそれぞれの駆動計画の策定を行う(ステップS8)。
【0042】
以上のように、本発明の実施形態に係る水運用システム1及び水運用方法によれば、配水池A,Bから配水される水の需要予測をベースとした運転計画手法により、最適な水運用が可能となる。需要予測に基づいて算出された駆動計画は、送水ポンプ3a,3bの運転台数の変更回数や送水ポンプ3a,3bを駆動させる電力料金及び、送水ポンプ3a,3bの駆動動力を最小化する演算を行っているので、予測を行った時点での最適な水運用が可能となる。
【0043】
本発明に係る水運用システム及び水運用方法によれば、計画策定手段6で定められた策定周期を分割し、分割されたそれぞれの期間毎に配水池A,Bの水位を予測することで、配水池A(またはB)の予測水位が、需要予測に基づいて算出された値よりもずれた場合でも、配水池A,Bの水位が所定の水位範囲を逸脱する前に、再度送水ポンプの駆動計画を策定するので、最適且つ安定的な水運用を行うことができる。
【0044】
特に、分割されたそれぞれの期間のうち、配水池A,Bの水位が所定の水位範囲を逸脱する直前まで策定された駆動計画を固定して、この駆動計画に基づいて最適な水運用を行うことで、頻繁な駆動計画の修正を防止し、最適な水運用を行うことができる。
【0045】
また、本発明に係る水運用システム及び水運用方法によれば、需要予測に基づいて、送水ポンプ3a,3bの駆動計画を策定する際に、送水ポンプ3a,3bの駆動コスト(電力料金)や駆動エネルギー(送水ポンプ3a,3bの運転・停止の変更回数を含む)が最少となるように送水ポンプ3a,3bの駆動計画を策定できる。よって、安定的に配水区域に配水を供給できるだけでなく、エネルギーコストまたは電力コストをより抑えた送水を配水池に行うことができる。このように、配水池A,Bが安定して送水を行うことができる条件に加えて、送水ポンプ3a,3bの駆動コストを考慮して送水ポンプ3a,3bの駆動計画を策定する場合、配水池A,Bの水位が所定の水位範囲を逸脱する直前まで駆動計画を変更しないことにより、駆動コスト(駆動エネルギーや電力料金等)の条件に関して、最適な駆動計画を継続して実施することができる。
【0046】
また、需要予測において、カオス需要予測の計算を用いると、過去の配水量のみを使用し、カルマンフィルタ等の需要予測で必要であった天候、気温、曜日、特異日等の情報を一切必要としない。また、最新の配水量が判明する1時間毎に最新の予測を行うリアルタイムの予測方法であるので、配水量に影響する状況の変化に素早く対応することが可能となる。
【0047】
本発明の水運用システム及び水運用方法は、例えば、上水道監視制御システム、上水道管網解析システム、上水道需要予測システム、エネルギー最適化システム等のさまざまな水を送る工程(取水、導水、送水、配水)に適用して用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1…水運用システム
2…浄水池
3a,3b…送水ポンプ
4a,4b…水位計
5…需要予測手段
6…計画策定手段
7…水位演算手段
A,B…配水池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送水ポンプと、
当該送水ポンプにより浄水池から送水を受け、配水区域に配水を行う配水池と、
この配水池に設置され、当該配水池の水位を計測する水位計と、
前記配水池から配水される将来の配水量需要を予測する需要予測手段と、
前記需要予測手段で予測された配水量需要と、前記水位計で計測された水位データに基づいて前記配水池に蓄積された配水の水位が予め決められた水位範囲となるように、予め定められた策定期間における前記送水ポンプの駆動計画を策定する計画策定手段と、
予め定められた期間毎に、前記水位計により計測された前記配水池の水位と、前記計画策定手段で策定された前記送水ポンプの駆動計画及び、前記需要予測手段で予測された前記配水池の配水量需要と、に基づいて、前記配水池の将来の水位を算出する水位演算手段と、
を備えた水運用システムであって、
前記計画策定手段は、前記策定期間内において、前記水位演算手段で算出された将来の水位が前記水位範囲を逸脱する場合、前記配水池の水位が前記水位範囲を逸脱する前に、再度前記送水ポンプの駆動条件を策定する
ことを特徴とする水運用システム。
【請求項2】
前記計画策定手段は、さらに、前記送水ポンプの発停回数が少なくなるように、前記送水ポンプの駆動計画を策定する
ことを特徴とする請求項1に記載の水運用システム。
【請求項3】
前記計画策定手段は、さらに、前記送水ポンプ全体の駆動動力が少なくなるように、前記送水ポンプの駆動計画を策定する
ことを特徴とする請求項1に記載の水運用システム。
【請求項4】
前記計画策定手段は、前記送水ポンプの駆動エネルギーを電力量に換算し、当該電力量のコストが最少となるように、前記送水ポンプの駆動計画を策定する
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の水運用システム。
【請求項5】
送水ポンプと、
当該送水ポンプにより浄水池から送水を受け、配水区域に配水を行う配水池と、
この配水池に設置され、当該配水池の水位を計測する水位計と、
前記配水池から配水される将来の配水量需要を予測する需要予測手段と、
前記需要予測手段で予測された将来の配水量需要と、前記水位計で計測された水位データに基づいて、前記配水池に蓄積された配水の水位が予め決められた水位範囲となるように、予め定められた策定期間における前記送水ポンプの駆動計画を策定する計画策定手段と、
予め定められた期間毎に、前記水位計により計測された前記配水池の水位と、前記計画策定手段で策定された前記送水ポンプの駆動計画及び、前記需要予測手段で予測された前記配水池の配水量需要と、に基づいて、前記配水池の将来の水位を算出する水位演算手段と、
を備えた水運用システムの水運用方法であって、
前記水位計が前記配水池の水位を計測し、
前記需要予測手段が、前記配水池から前記配水区域に配水される将来の配水量の需要を予測し、
前記計画策定手段が、前記配水池の水位が前記水位範囲内となるように、予め定められた策定期間における前記送水ポンプの駆動計画を策定し、
前記水位演算手段が、予め定められた期間毎に、前記水位計によって計測された水位と、前記計画策定手段で策定された前記送水ポンプの駆動計画及び、前記需要予測手段で予測された前記配水池の配水量需要と、に基づいて、前記配水池の将来の水位を算出し、
前記計画策定手段が、前記策定期間内において、前記水位演算手段で算出された将来の水位が、前記水位範囲を逸脱する場合、前記配水池の水位が前記水位範囲を逸脱する前に、再度前記送水ポンプの駆動計画を策定する
ことを特徴とする水運用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246684(P2012−246684A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119621(P2011−119621)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)