説明

水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法

【課題】ヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化コバルト・六水和物と塩化第一鉄・四水和物の水溶液にヘキサメチレンテトラミンを加え、窒素ガス雰囲気中で還流させて、水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶を得、次いでヨウ素及び水のクロロホルム溶液を作用させることにより、この結晶にヨウ素アニオンをインターカレートする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロタルク石状の化合物やアニオン型クレイとして知られている層状水酸化物は、陰イオン交換材料、吸着剤、触媒、ナノリアクターやモレキュラーシーブ、ポリマー複合材、生体材料などとしての応用が期待されている(たとえば、非特許文献1〜5参照。)。この層状水酸化物の各層を剥離することにより、プラス電荷を有する単一層の薄片すなわち、ナノシートが形成される(たとえば、非特許文献6〜8参照。)。該単層ナノシートは多層フィルムやコア/シェル構造を作製する際の理想的なビルディングブロックとなり得る。また、この層状水酸化物は、弱いアルカリ性の条件で二価と三価の金属を含んだ化合物となるが、一般的にゲル状あるいは結晶性が低い(たとえば、非特許文献9参照。)。特性解析やイオン交換材料、触媒、電子・光学材料などへ応用する場合には高結晶性材料の方が特性が優れている。最近、Al3+を含む層状の結晶体が尿素やヘキサメチレンテトラミンを用いた方法で得られている(例えば、非特許文献10,11参照。)。さらに、硝酸コバルト溶液中で鉄(II)イオンを空気酸化することにより、水酸化コバルト(II)・鉄(III)の炭酸塩が合成された。この化合物は0.1〜0.4μmの結晶が球状に凝集している(例えば、非特許文献12参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の現状に鑑み、結晶性の優れたヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一側面によれば、水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶をヨウ素及び水のクロロホルム溶液中で処理するステップを含む、ヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法が与えられる。
ここで、前記処理するステップは、ヨウ素及び水のクロロホルム溶液中に水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶を分散させ、室温で攪拌するステップであってよい。
また、前記水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶はブルーサイト型結晶であってよい。
また、前記水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶は厚さが1×10nm〜5×10nmであってよい。
また、前記水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶は、塩化コバルト・六水和物と塩化第一鉄・四水和物との混合物の水溶液に窒素ガスを流すと共にヘキサメチレンテトラミンを加えた後、還流させることにより製造してよい。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状の層状結晶にヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶を効率的に製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1a、図1bは、実施例で製造した水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶の走査型電子顕微鏡像の写真。
【図2】aは、実施例で製造した水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶のX線回折のパターン。bは、実施例で製造したヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶のX線回折のパターン。cは、参考例で製造した過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶のX線回折のパターン。
【図3】aは、実施例で製造した水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶のエネルギー分散型X線分析の結果。bは、実施例で製造したヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶のエネルギー分散型X線分析の結果。cは、参考例で製造した過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶のエネルギー分散型X線分析の結果。
【図4】aは、実施例で製造した水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶の熱重量分析の測定結果。bは、実施例で製造したヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の熱重量分析の測定結果。cは、参考例で製造した過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の熱重量分析の測定結果。
【図5】図5a、図5bは、実施例で製造したヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の走査型電子顕微鏡像の写真。
【図6】実施例で製造したヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の透過型電子顕微鏡像の写真。
【図7】図7a、図7bは、参考例で製造した過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の走査型電子顕微鏡像の写真。
【図8】参考例で製造した過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の透過型電子顕微鏡像の写真。
【図9】参考例で製造した層状結晶の層がばらばらに剥離された水酸化コバルト(II)・鉄(III)単層ナノシートの原子間力顕微鏡像の写真。
【図10】図10aは、参考例で製造した水酸化コバルト(II)・鉄(III)単層ナノシートの透過型電子顕微鏡像の写真。図10bは、図10aの単層ナノシートに輪郭線を書き加えた図。
【図11】参考例で製造した水酸化コバルト(II)・鉄(III)単層ナノシートの電子回折のパターン。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の製造方法の原料となる水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶の厚さは1×10nm〜5×10nmの範囲に存在し、層間隔は4.6ű0.2Åである。この水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶の製造方法は、塩化コバルト・六水和物および塩化第一鉄・四水和物の混合物の水溶液を容器に入れ、容器の中に窒素ガスを流して、容器中の空気を窒素ガスで置換した後、この水溶液にヘキサメチレンテトラミンを加えて、窒素ガスを流したまま、水溶液を還流させることからなる。この還流の際、加熱装置の温度を高くして、還流状態を早めると、板状結晶の面方向の寸法が小さくなり、逆に、加熱装置の温度を低くして、ゆっくり還流させると、生成する板状結晶の面方向の寸法が大きくなる。このように、加熱装置の温度や還流時間を変化させることによって板状結晶の面方向の寸法は、1μmから10μmの範囲で調節可能である。
【0008】
上記において、還流させる時間は、3〜7.5時間の範囲が好ましく、7.5時間よりも長いとヘキサメチレンテトラミンの加水分解で生じるホルムアルデヒドの不均化からの炭酸イオンが生成物中に混入することが懸念される。還流時間が3時間よりも短いと、反応が完結しない。このような操作を施すことにより、目的のピンク色の水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶が水溶液中に沈殿する。
【0009】
以下に説明する本発明の方法によって製造されるヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶は、前記結晶の形状が維持されるので、一辺の長さは前記結晶と同じである。層間隔はヨウ素アニオンがインターカレートされたので、8.3ű0.2Åに広がる。このヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法は、ヨウ素のクロロホルム溶液の中に、上記で、沈殿生成したピンク色の水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶を分散させて室温で撹拌することからなる。
【0010】
上記において、ヨウ素と水酸化コバルト(II)・鉄(II)とのモル比は、1:6〜1:3の範囲が好ましく、ヨウ素の量がこの範囲の値よりも多いと、生成物中に残存する未反応のヨウ素をろ過により除去することが困難になる。ヨウ素の量がこの範囲の値よりも少ないと、二価の鉄イオンを三価に酸化するのに十分ではない。この操作により、ヨウ素アニオンがインターカレートされた褐色の水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶が生成される。さらに、上記で使用するクロロホルムには、ごく少量(およそ30ppm)の水が含まれていたほうが目的生成物を得るのに都合がよい。このことは、完全に無水のクロロホルムを使用した場合に酸化が不完全であったことや無水のクロロホルムに少量の水を添加するとよい結果が得られたことから、水酸化コバルト(II)・鉄(II)層状結晶から水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶に変換させるには少量の水の存在が不可欠であることが分かった。また、大量の水の存在、すなわち、完全な水溶液(KI/I)ではヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)の層状結晶は生成されなかった。溶媒としては、エタノールやアセトニトリルよりもクロロホルムを使用した場合に最もよく酸化が進行した。これはクロロホルムがヨウ素を最もよく溶解する溶媒であるためと思われる。
【0011】
次に、過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶は、形状はそのまま維持されるが、層間隔は9.2ű0.2Åとなる。該過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法は、塩酸と過塩素酸ナトリウムとの水溶液を入れた容器の中に、ヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶を分散させ、容器中の空気を窒素ガスで置換した後、該容器を密閉し、振盪させることからなる。
【0012】
上記において、過塩素酸ナトリウムとヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)とのモル比は3×10:1〜1×10:1の範囲が好ましく、過塩素酸ナトリウムの量は上記の範囲の最大値でアニオン交換には十分であり、これ以上使用しても試薬が無駄になるだけである。また、過塩素酸ナトリウムの量は上記の最小値以下でもアニオン交換は可能であるが、交換作用を円滑に進行させるには上記の範囲程度に過剰に使用することが通常行われている。
【0013】
また、上記においては、塩酸を用いて溶液を酸性にすることが必要で、塩酸を添加しないと、過塩素酸アニオンへの交換が妨害され、ヨウ素アニオンが一部分しか交換されない結晶や炭酸イオン(CO2−)に由来する層間隔7.6Åを有する結晶との混合物のピークが現れる。また、この際、濃度の高い塩酸を使用すると結晶構造が破壊されるので、塩酸の最適濃度は、1mmol/L程度である。上記の操作を施すことにより、過塩素酸アニオンがインターカレートされた褐色の水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶が生成する。
【0014】
次に、過塩素酸アニオンがインターカレートされた褐色の水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の各層をばらばらに剥離すると水酸化コバルト(II)・鉄(III)単層ナノシートになる。この単層ナノシートの面方向の寸法は、剥離する前の過塩素酸アニオンがインターカレートされた褐色の水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の寸法が最大となり、剥離処理の際に結晶の破壊が生じれば、これよりも寸法が小さくなる。この単層ナノシートの製造方法は、ホルムアミドを入れた容器の中に、過塩素酸アニオンがインターカレートされた褐色の水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶を分散させ、容器中の空気を窒素ガスで置換した後、容器を密栓し室温で超音波処理することにより、半透明のコロイド状懸濁液が得られる。さらに、各層がばらばらに剥離された該懸濁液中の粒子成分を除去するために、遠心分離操作を行う。
次に、実施例を示して、さらに具体的に説明する。
【実施例】
【0015】
[実施例]
マグネティックスタラーおよび窒素導入管を取り付けた1000cmの三口フラスコに、和光純薬工業(株)製の塩化コバルト・六水和物(純度99.5%)1.19g(5ミリモル)、和光純薬工業(株)製の塩化第一鉄・四水和物(純度99.9%)0.509g(2.5ミリモル)および脱イオン水1000cmを入れた。フラスコの中に窒素ガスを一晩流し続けることにより、フラスコ中の空気を窒素ガスで置換した。該フラスコの中に、和光純薬工業(株)製のヘキサメチレンテトラミン(純度99.0%)21.0gを入れ、引き続き、窒素ガスを流すと共に、内容物を撹拌しながら、5時間還流した。沈殿したピンク色の固体を窒素ガスで満たした装置の中でろ過し、脱イオン水で3回、無水エタノールで2回洗浄した。収量はおよそ0.5gであった。
【0016】
得られたピンク色の固体の走査型電子顕微鏡像の写真を図1aと図1bに示した。この図から、一辺の長さがおよそ2μmで、厚さが約100nmの均一な六角形の板状結晶からなることが分かった。
【0017】
図2−aに、上記ピンク色の固体のX線回折のパターンを示した。このパターンから、格子定数a=3.198Å、c=4.628Åを有し、層間隔が約4.6Åであるブルーサイト型結晶であることが分かった。
【0018】
さらに、上記固体のエネルギー分散型X線分析の結果を図3−aに示した。この結果から、ブルーサイト型結晶のコバルトと鉄の原子比は、2.05:1であり、上記固体の化学組成はCo0.67Fe0.33(OH)で、出発物質の仕込み組成と一致している。
【0019】
上記の反応により、二価のコバルトカチオンと二価の鉄カチオンを含む二成分金属含有の水酸化物[CoFe1−x(OH)]がヘキサメチレンテトラミンを用いる加水分解法により得られた。
【0020】
和光純薬工業(株)製のヨウ素(純度99.8%)0.25gと和光純薬工業(株)製のクロロホルム(純度99.0%)500cmを三角フラスコに入れて溶解させた溶液に、上で得られた水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶0.45gを加え、空気中、室温で撹拌するとこの分散液は直ちに褐色に変化した。そのまま12時間撹拌を続けた後、生成物をろ過し、ろ液が無色になるまでエタノールで洗浄した。褐色の生成物が0.54g得られた。
【0021】
得られた褐色の生成物のX線回折のパターンを図2−bに示した。ヨウ素で酸化された結果、層間隔が8.3Åに広がった。この値は、ヨウ素アニオン型層状複水酸化物に関する非特許文献13の値と一致し、ヨウ素アニオンがインターカレートされたことを示している。格子定数a=3.128Å、c=24.923Åを有する菱面体晶であった。また、褐色に変化したことは二価の鉄が三価の鉄に酸化されたことを示している。また、上記の条件では、水酸化コバルトは酸化を受けないので、この実施例で得られる化合物の化学組成は、理論的には、Co2+0.67Fe3+0.33(OH)0.33である。
【0022】
元素分析、フーリェ変換赤外分光分析、図3−bに示したエネルギー分散型X線分析および図4に示した熱重量分析の結果を勘案するとヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)層状結晶の化学組成は、Co0.67Fe0.33(OH)0.22(CO0.055・0.3HOと見積もられた。ここで生成したCOアニオンは空気中からのCOの表面吸着などによると思われる。
【0023】
図5a、図5bにヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)層状結晶の走査型電子顕微鏡像の写真、図6に透過型電子顕微鏡像の写真を示した。この写真から、その寸法、形状は上で得られた水酸化コバルト(II)・鉄(II)層状結晶とほとんど同じである。また、この写真から、六角板状構造であることも分かる。
【0024】
[参考例]
和光純薬工業(株)製の過塩素酸ナトリウム・一水和物(純度98.0%)175gと和光純薬工業(株)製の濃度0.1モル/Lの塩酸水溶液5cmに脱イオン水495cmを加えた溶液を三角フラスコに入れ、さらに、実施例で製造されたCo0.67Fe0.33(OH)0.22(CO0.055・0.3HO 0.5gを入れて分散させ、三角フラスコ内を窒素ガスで置換し、室温で1日間振盪させた。褐色の粉末をろ過し、水で洗浄した後、空気中で乾燥した。収量は0.44gであった。
【0025】
図2−cに、得られた褐色粉末のX線回折のパターンを示した。この結果から、層間隔は9.2Åであり、この値は、ClOを含む層状のMg−Al複水酸化物において、9.24Åとすでに報告されている値とよく一致している(非特許文献14)。
【0026】
実施例と同様に、元素分析、フーリェ変換赤外分光分析、エネルギー分散型X線分析(図3−c)、熱重量分析(図4−c)の結果から、ヨウ素アニオンが過塩素酸アニオンで置換された水酸化コバルト(II)・鉄(III)層状結晶の化学組成は、Co0.65Fe0.35(OH)(ClO0.23(CO0.06・0.45HOと見積もられた。
【0027】
図7a、図7bに、過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)層状結晶の走査型電子顕微鏡像の写真、図8に透過型電子顕微鏡像の写真を示した。その寸法、形状は図5a、図5b、図6のそれとほとんど同じで、六角板状の形態が維持されていることが分かった。
【0028】
三角フラスコに和光純薬工業(株)製のホルムアミド(純度98.5%)100cmを入れ,さらに、実施例3で得られた過塩素酸アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶0.1gを添加した。フラスコ内の空気を窒素ガスで置換した後、密栓し、室温で30分間超音波処理を施すと半透明のコロイド状懸濁液が生成した。この操作で層が剥離されなかった粒子を2000rpmの条件で遠心分離して取り除いた。この懸濁液の中に、シリコンウエハーを5分間浸漬した後、水で洗浄し、該ウエハーを窒素気流中で乾燥した。
【0029】
上記の処理を施したシリコンウエハーを原子間力顕微鏡を用いて観察した結果を図9に示した。この結果から、面方向の寸法は数百nmで、厚さは約0.8nmのナノシートであることが分かった。また、図10aに透過型電子顕微鏡像の写真を示したが、この図に写っているナノシートは厚さが非常に薄いので極めて見にくい。そこで、ナノシートの部分を見やすくするために、この図に輪郭を書き加えた図を図10bに示した。この図10bから面内方向の寸法は数百nmの不規則な形状をしているが、原子間力顕微鏡での結果とよく一致している。上記のような寸法、形態を示すことから、層状結晶の層がばらばらに剥離されて単層の結晶になったことが確認された。
【0030】
図11に、この単層ナノシートの電子回折の測定結果を示したが、この結果から格子定数はa=3.1Åであり、この値は、実施例1のブルーサイト型水酸化コバルト(II)・鉄(II)の単位格子の値と一致する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、水酸化コバルト・鉄系の層状結晶ならびにその層が剥離された単層の水酸化コバルト(II)・鉄(III)ナノシートが得られたので、すぐれた磁気特性を有する微細なデバイスへの応用が期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】D. L. Bish, Bull. Mineral, 103巻、170頁、1980年
【非特許文献2】P. C. Pavanほか、Microporous Mesoporous Mater. 21巻、659頁、1998年
【非特許文献3】F. Cavaniほか、Catal. Today 11巻、173頁、1991年
【非特許文献4】I. Dekanyほか、Colloids & Surf.A:Physicochem. & Eng. Aspects 141巻、205頁、1998年
【非特許文献5】J.-H. Choyほか、J. Am. Chem. Soc.121巻、1399頁、1999年
【非特許文献6】M. Adachi-Paganoほか、Chem. Commun. 2000年、91頁
【非特許文献7】T. Hibinoほか、J. Mater. Chem. 11巻、1321頁、2001年
【非特許文献8】L. Liほか、Chem. Mater. 17巻、4386頁、2005年
【非特許文献9】W. T. Reichle,ほか、Solid State Ionics 22巻、135頁、1986年
【非特許文献10】H. Caiほか、Science 266巻、1551頁、1994年
【非特許文献11】N. Iyiほか、Chem. Lett. 33巻、1122頁、2004年
【非特許文献12】H. C. B. Hansenほか、J. Solid State Chem.113巻、46頁、1994年
【非特許文献13】M. Lalほか、J. Solid State Chem. 39巻、368頁、1981年
【非特許文献14】K. Okamotoほか、J. Mater. Chem. 16巻、1608頁、2006年

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶をヨウ素及び水のクロロホルム溶液中で処理するステップを含む、ヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法。
【請求項2】
前記処理するステップは、ヨウ素及び水のクロロホルム溶液中に水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶を分散させ、室温で攪拌するステップである、請求項1に記載のヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法。
【請求項3】
前記水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶はブルーサイト型結晶である、請求項1または2に記載のヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法。
【請求項4】
前記水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶は厚さが1×10nm〜5×10nmである、請求項1から3の何れかに記載のヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法。
【請求項5】
前記水酸化コバルト(II)・鉄(II)六角板状層状結晶は、塩化コバルト・六水和物と塩化第一鉄・四水和物との混合物の水溶液に窒素ガスを流すと共にヘキサメチレンテトラミンを加えた後、還流させることにより製造される、請求項1〜4の何れかに記載のヨウ素アニオンがインターカレートされた水酸化コバルト(II)・鉄(III)六角板状層状結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−76996(P2012−76996A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5050(P2012−5050)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2007−138187(P2007−138187)の分割
【原出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月30日発行の「JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY 論文予稿集」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】