説明

水酸化マグネシウム系難燃剤及びその製法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、耐白華性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤及びその製法に関する。本発明は更にこの難燃剤を配合した難燃性オレフィン系樹脂組成物に関する。
(従来の技術)
水酸化マグネシウムがオレフィン系樹脂等に対する優れた難燃剤であることは古くから知られており、水酸化マグネシウムを比較的多い量で、必要により金属石鹸と共にオレフィン系樹脂に配合することも広く行われている。
この難燃剤等に使用する水酸化マグネシウムは、海水又は苦汁中に苛性アルカリ又は消石灰乳を加えて反応させ、生成物を洗浄、乾燥する方法や、水酸化マグネシウムに少量の水酸化ナトリウムを添加し、オートクレーブ中等で加圧加熱処理する方法(特公昭50−23680号公報)、塩基性マグネシウム塩を、水性媒体中で加圧加熱処理する方法(特開昭52−115799号公報)、水可溶性マグネシウム塩とアンモニアとを反応させて水酸化マグネシウム塩を製造する方法(例えば特開昭61−168522号及び62−123014号公報)等が知られている。
(発明が解決しようとする問題点)
従来難燃剤に使用されている上記の水酸化マグネシウムは、例えば六角板状等の比較的整った粒子形状と比較的均斉で微細な粒径とを有し、オレフィン系樹脂等に対して比較的多量に充填させ得るという利点を有しているが、これらの配合樹脂組成物は未だ解決すべき幾つかの問題点を有している。
その一つは、水酸化マグネシウム系難燃剤を多量に配合した樹脂成形品を大気中に長期間置くと、成形品表面に白い粉ふきが生ずる、所謂白華現象と呼ばれる現象を生ずることである。この白華現象は、その粉を分析すると炭酸マグネシウムであるることから、成形品中に配合されている水酸化マグネシウムが大気中の炭酸ガスと反応することによるものと認められる。
その二つは、公知の水酸化マグネシウム系難燃剤を配合したオレフィン系樹脂組成物、特に弾性率の比較的大きい樹脂に配合したものでは、破断伸びのような機械的性質がかなり低下することである。
従って、本発明の目的は、従来の水酸化マグネシウム系難燃剤のにおける上記問題点が解消され、耐白華性と伸び等の機械的性質とに優れた水酸化マグネシウム難燃剤及びその製法を提供するにある。
本発明の他の目的は、比較的低コストであり且つ製造も容易な水酸化マグネシウム系難燃剤及びその製法を提供するにある。
(問題点を解決するための手段)
本発明によれば、天然産ブルーサイトを、コールターカウンター法によるメジアン径が2乃至6μmとなるように湿式粉砕し、この粉砕物を脂肪酸のアンモニウム塩又はアミン塩で表面処理し、次いで乾燥することを特徴とする水酸化マグネシウム系難燃剤の製法が提供される。
本発明によればまた、発達したブルーサイト型結晶構造を有し且つ2乃至6μmのメジアン径と1×10-3以下の格子歪係数を有する水酸化マグネシウム粒子と、該粒子の表面を被覆し且つ少なくとも一部がマグネシウム塩を形成している脂肪酸層とから成り且つ式

式中、I001は試料の面指数[001]のX線回折ピーク強度であり、I101は試料の面指数[101]のX線回折ピーク強度である、で定義される配向度(D0)が2以上であることを特徴とする耐白華性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤が提供される。
本発明によれば更に、上記特定の水酸化マグネシウム系難燃剤をオレフィン系樹脂に配合して成る難燃性樹脂組成物が提供される。
(作用)
本発明では天然産のブルーサイトを水酸化マグネシウムの原料として用いることが一つの特徴である。天然産のブルーサイトでは、ブルーサイト型の結晶構造がよく発達しており、しかも格子歪係数も1×10-3以下、特に8×10-4以下であるという合成水酸化マグネシウムには認められない特徴を有する。
本発明者等は、本発明に至る研究過程において次の如き興味のある事実を見出した。即ち、種々の格子歪係数を有する水酸化マグネシウムの試料を用意し、この水酸化マグネシウムを炭酸水中に浸漬し、格子歪係数と炭酸マグネシウム生成量との関係を調べ、第1図の線図に示す結果を得た。第1図の結果から、水酸化マグネシウム粒子表面での炭酸マグネシウムの生成量は、水酸化マグネシウムの格子歪係数と密接な関係があり、格子歪係数が大きくなればなる程、炭酸マグネシウムの生成量が増大するという事実が明らかである。
本発明ではかかる知見に基づき、結晶が良く発達しておりしかも格子歪の比較的小さいものとして天然産のブルーサイトを原料として用いるものである。ところで、天然産のブルーサイトは粒子が粗大であり、そのままでは樹脂中に配合することができない。本発明では、このブルーサイトを湿式粉砕し、しかもコールターカウンター法によるメジアン径が2乃至6μm、特に2乃至4μmとなるように粒度調整することが第二の特徴である。
ブルーサイトを空気中で摩砕すると、ずり応力によりブルーサイトの層間が容易に分断されて[001]面の剥離と再結晶によりX線的に無定形物質となることが知られている(“粘度ハンドブック”第二版、日本粘度学会編、技報堂出版、(1967年))。かかる公知事実からすると、天然産ブルーサイトは発達した結晶構造を有するとしても、これを粒度調整のため粉砕すると、折角の結晶構造が破壊されることが予測される。しかるに、本発明に従い、天然産ブルーサイトを湿式粉砕すると、このブルーサイトの結晶化度や格子歪係数を事実上変化させることなしに、前述した粒度に粒度調整することが可能なるものである。本発明においては、粒度が上記範囲にあることも重要であり、粒径が上記範囲を越えて大きくなると、樹脂に配合した組成物の機械的強度が低下する傾向が顕著となり、一方粒径が上記範囲よりも小さくなると、配合組成物の溶融流動特性や成形性が低下する傾向があり、何れも好ましくない。
次いで得られた粉砕物を脂肪酸のアンモニウム塩又はアミン塩で表面処理し、乾燥することが第三の特徴である。即ち、ブルーサイト粉砕物には、未だ水酸化マグネシウムの活性な面が存在している。この粉砕物を脂肪酸のアンモニウム塩又はアミン塩で表面処理し、このものを乾燥すると、この塩が分解してアンモニアやアミンが揮散し、表面に活性な脂肪酸が残留する。この脂肪酸の少なくとも一部は活性な水酸化マグネシウム・サイトと反応し、活性面のブロッキングが行われる。かくして、本発明によれば、炭酸ガスとの反応性が顕著に抑制された水酸化マグネシウム系難燃剤が提供されることが了解されよう。しかも、水酸化マグネシウム粒子表面に存在する脂肪酸マグネシウムや脂肪酸は、水酸化マグネシウム粒子を被覆する分散剤として、樹脂中への分散性を助長する作用を示す。
ブルーサイト型水酸化マグネシウム粒子においては、C軸方向[001]に平行な面では活性が少なく、これに対する横断方向の面では活性が大きい。本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤では、粒径が微細化された状態においても、C軸方向への結晶が発達しており、その活性が小さくなっていることも了解されよう。
第2図は、本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤のX線回折像を示す。一方、下記第A表は、ASTMカードによる水酸化マグネシウム(ブルーサイト)のX線回折像を示す。




第2図と第A表との対比から、本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤は[001]面の結晶が発達していることがわかる。この特徴は、前記式(1)の配向度(D0)で規定することができる。従来の合成水酸化マグネシウム系難燃剤は、この配向度(D0)が1.7以下であるのに対して、本発明のものでは配向度(D0)が2以上、特に3以上である。この特徴により、本発明の難燃剤は耐白華性に優れていると共に、樹脂に配合したとき、伸びの保持率が大きいという特徴を有する。
(発明の好適態様)
本発明に用いる天然産ブルーサイト(brucite)は、発達したブルーサイト型結晶構造を有するものであり、一般に80乃至96%、特に85乃至95%の純度と、1×10-3以下、特に8×10-4以下の格子歪係数とを有するものが好ましい。その組成の代表例は次の通りである。


このブルーサイトは、我が国でも京都府大江山江山鉱山、福岡県毘舎門岳等で産出するが、朝鮮民主主義人民共和国、中華人民共和国旧満州領等で多量産出する。
天然産ブルーサイトの湿式粉砕は、ブルーサイトの水性スラリーを調製し、このスラリーを、ボールミル、タワーミル、円形振動ミル、らせん施動振動ミル、遊星形粉砕機、サンドグラインダー、アトマイザー、パルペライザー、スーパーミクロンミル、コロイドミロ、等に供給して粉砕する。スラリーの濃度は一般に5乃至30重量%、特に10乃至25重量%の範囲が適当である。粉砕物の粒度は、前述した範囲にあるのが適当であり、一般に必要でないが、所望により、粉砕スラリーを液体サイクロンに通して分級操作を行ない、所望の粒度のものを取出すこともできる。
この粉砕スラリーに、脂肪酸のアンモニウム塩又はアミン塩を、乳化液の形で添加し、この系を撹拌して表面処理を行う。脂肪酸としては、炭酸数8乃至20の飽和乃至不飽和脂肪酸、例えばラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、ヘプタデシル酸、ノナデカン酸、ベヘン酸、リノレン酸、アラキドン酸、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、大豆油脂肪酸、パーム油脂肪酸、硬化油脂肪酸等の混合脂肪酸等を挙げることができる。これらの内でもオレイン酸が好適である。
これらの脂肪酸をアンモニウム塩の形で用いることが好適であるが、アミン塩を用いることもでき、この場合アミンとしては、モノ−、ジ−、又はトリ−エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン等を用いることができる。これらのアンモニウム塩又はアミン塩は、ブルーサイト当り、脂肪酸として1.5乃至6.0重量%、特に2.0乃至5.0重量%の量で用いるのがよい。両者の混合撹拌は、特に制限されないが、一般に20乃至90℃、特に40乃至80℃の温度で行うのがよく、添加混合後、或る時間ゆるやかな撹拌下に熟成させるのがよい。
得られる表面処理スラリーは、濾過、遠心分離、沈降等の手段で水性媒体から固液分離し、乾燥し、解砕して製品とする。
本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤は、種々の熱可塑性樹脂、特にオレフィン系樹脂の難燃剤として有用である。オレフィン系樹脂としては、低−、中−又は高−密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイアノマー)等を挙げることができ、本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤は樹脂当り90乃至230重量%、特に100乃至200重量%の量で配合することができる。
(発明の効果)
本発明によれば、結晶構造が発達し且つ格子歪係数の小さい天然産ブルーサイトを原料として選び、これを湿式粉砕し且つこれを脂肪酸のアンモニウム塩又はアミン塩で表面処理することにより、粒子構造の点でも、また表面活性の点でも、炭酸ガスとの反応性が抑制され、耐白華性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤が提供された。かくして、この難燃剤を配合した樹脂成形品は、経時による外観特性に優れているという利点を有する。また、この難燃剤は、その粒子構造及び表面構造に関連して樹脂中への分散性に優れており、配合成形品は、破断時伸びが大きく、機械的強度にも優れているという利点がある。
(実施例)
実施例1本実施例で、天然ブルーサイト(Brucite)を原料として、耐白華性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤を製造し、オレフィン系樹脂に配合した組成物について説明する。
天然ブルーサイトとしては、朝鮮半島産、米国テキサス州ランカスターのロウス鉱山産とカナダケベック州のアステストス産の3種類(A−1,B−1,C−1)を選んだ。その組成(分析値)、ブルーサイイト純度、メジアン径を測定し、下記第1表に示した。
なお、比較のために、海水マグネシウムより合成された合成品水酸化マグネシウム(A社製)についても同様に測定し、第1表に併せ表示した。
以下に本発明で物性特定や同定のために使用した測定方法について記載する。
■ 粉末X線回折の測定法:−常法の粉末X線回折法の手順にしたがい、理学電気(株)製X線回折装置(ゴニオメーターPMG−S2,レートメーターECP−D2)を用いて下記に示す測定条件で測定した。
(測定条件)


■ 面指数(101)の格子係数の測定法:−上記の■項にて記載の粉末X線回折法の条件下で測定した回折図を基礎に、ジョンズ(Jorns)等が提案している方法手順(“X線工業分析法”オーム社書店(1965年)参照)に従い、面指数(101)と(202)角度を高純度シリコン(純度99.99%)を用いて補正後、β(真の半価幅)を求め、下記Hollの式(1)を用い、η(格子歪係数)を求めた。


λ:Cu−Kα1線 1.5405Åθ:ブラック角β:真の半価幅(ラジアン)
ε:結晶子径(Å)
η:格子歪係数■ 配向度(D0)の測定法:−上記記載の粉末X線回折法で下記に示す測定条件下で測定した回折図を基礎に、面指数(001)と(101)の回折ピークの強度を下記配合度(D0)式(2)に代入し、配向度(D0)を求めた。
配向度(D0)=I(001)/I(101) …(2)
I(001):ブルーサイド面指数(001)のピーク強度(cps)
I(101):ブルーサイド面指数(101)のピーク強度(cps)
(測定条件)
ターゲット Cu フィルター Ni ディテクター SC 電 圧 30kV 電 流 15mA カウントフルスケール 8000c/s 時定数 1sec スキャンスピード 2゜/minチャートスピード 1cm/min ダイバージェンススリット 1゜ レシービングスリット 0.15mm スキャッタリングスリット 1゜ グランシング角 6゜ ■ ブルーサイト純度(%)の測定法:−試料を上記記載の粉末X線回折法で、下記に示す測定条件下で測定しした回折図を基礎に、面指数(101)の回折ピークを用い、内部標準法により定量測定した。
内部標準法としては常法(“X線工業分析法”オーム社書店(1965年)参照)により試料を予じめシリカゲル粉末(水澤化学工業(株)製、シルトンLP−105)50重量%に、フッ化カルシウム(CaF2、和光純薬(株)製、試薬特級)を外割で10重量%添加し、充分均質に混合後、下記測定条件下で測定した粉末X線回折図の、ブルーサイトの場合は面指数(101)、フッ化カルシウムの場合は面指数(111)の回折ピークの面積比より計算し、ブルーサイドの含有量をパーセントで求めた。
(測定条件)
ターゲット Cu フィルター Ni ディテクター SC 電 圧 40kV 電 流 20mA カウントフルスケール 8000c/s 時定数 2sec スキャンスピード 1/4゜/minチャートスピード 1cm/min ダイバージェンススリット 1゜ レシービングスリット 0.3mm スキャッタリングスリット 1゜ グランシング角 6゜ ■ CO2との反応性テストの測定法:−25℃におけるCO2ガス飽和水溶液600ml中に試料粉末20gを加え均質分散せしめた後、25℃で3日間放置し、次いで、液部を濾別後、固体部を110℃で乾燥し、CO2との反応性測定試料とした。
反応性の測定は、上記方法でCO2と接触せしめた試料を上記■項記載の粉末X線回折法と測定条件により測定した回折図を基礎に、面指数(101)の回折ピークを用い、標準添加法により定量測定した。
標準添加法としては、常法により、試料にまずシリカゲル(上記と同様の水澤化学工業(株)製)を50重量%添加後、外割にて、ブルーサイト標準品を5重量%、10重量%と各々添加し、面指数(101)の回折ピークの面積増加比より計算し、CO2と反応した水酸化マグネシウムの量を求め、この値より、CO2との反応により、生成した炭酸マグネシウムの生成量(%)とした。その数値が小さい程、反応性が低いと評価した。
■ 平均粒子径(メジアン径)の測定法:−200mlビーカーに試料1gをはかり採り、これに脱イオン水150mlを加えて撹拌下、超音波で2分間分散させる。次いでこの分散液をコールターカウンタ社製コールターカウンターTA II型を使用し、アパーチャーチューブ100μmを用いて測定する。この時得られた累積分布図より平均粒子径(メジアン径(μm))を求めた。




この原料となる天然ブルーサイト(試料番号A−1およびB−1)150gと水750g(スラリー濃度20%)を容量7■の磁製ポットミルにそれぞれ採り、フリントボールを粉砕媒体として、8時間回転させ、湿式粉砕を行った。粉砕後粉砕スラリー2種類(試料番号A−2,B−2)を容器に採り出し、約80℃の温度に加熱し、このスラリー液に、予め調製されたオレイン酸アンモニウムのエマルジョン水溶液を撹拌下に注加し、ブルーサイト固形分に対して、オレイン酸アンモニウムの量が2.5重量%に相当する量を加え、さらに約80℃に保持しながら2時間撹拌し、各ブルーサイト粒子表面にオレイン酸アンモニウムを一部反応させながら表面処理した。この表面処理後、濾過、水洗し、110℃で乾燥して、オレイン酸アンモニウムで表面処理されたブルーサイト型水酸化マグネシウム系難燃剤粉末2種類(試料番号A−4とB−4)を製造した。
ここに製造した2種類のブルーサイト試料のうち、オレイン酸アンモニウムによるブルーサイト表面処理する前のブルーサイトスラリーより濾過、乾燥して調製した未処理のブルーサイト粒子粉末2種類(試料A−3,B−3)について、下記に示す物性測定を行い、その結果を下記第2表に示した。
なお、前記した合成品を比較例として同様の物性測定を行い、その結果を第2表に併せ表示した。


次いで、該2種類の試料を用いて、オレフィン系樹脂に配合し、樹脂製品としての評価を引張り伸び残率テストと耐炭酸ガス性(耐白華性)テストで行い、さらに難燃効果を限界酸素指数のテストで評価した。
なお、比較例として、前記合成品についても同様にして評価した。
本実施例で選んだ樹脂は工業用に市販されている東ソ社製EVA(Ethylene Vinyl Acetate:ウルトラセン630)と日本ユニカー社製EEA(Ethylene Ethyl Acrylate:DPDJ 6169)の2種類を選んだ。
樹脂に対する配合量は、樹脂100重量部に対し、試料粉末130重量部を加え3.5インチの混練ロールを用い、100℃で10分間ロール混練し、表面がテフロン加工されたステンレス製プレス板に挟み、130℃で7分間プレスし、各試験用シート片(伸び残率テスト用は厚さ1mmでダンベル型(JIS K−7113)、耐炭酸ガス性テスト用は60mm×120mm×1mm、限界酸素指数測定テスト用は6mm×80mm×1mm)を調製した。
以上の試験用シート片を用いて、それぞれの物性テストを行い、その結果を第3表に表示した。
以下に難燃剤の配合された樹脂製品の物性評価を行ったテスト測定法について記載する。
■ 引張り伸び残率テストの測定法:−上記方法で調製した試験用シートを、関係湿度90%でCO2ガスで飽和されたデシケータ中に吊し、30℃の恒温室に2週間静置し、この2週間CO2ガス中に曝された試験用シートをダンベラ型に切断跡、JIS−K−7113記載のプラスチックの引張試験方法に準拠して、測定した。伸び残率が大きい程、シートの引張りに対する耐性が強いことを示している。
■ 耐炭酸ガス性(耐白華性)テストの測定法:上記方法で調製した試験用シートを、関係湿度90%でCO2ガスで飽和されたデシケータ中に吊し、30℃の恒温室に2週間静置し、この2週間での試験用シートの重量増加量を求め、重量増加率(%)で表示し、増加率が小さい程、耐炭酸ガス性(耐白華性)に優れていると評価した。
■ 限界酸素指数(%)テストの測定法:−(株)東洋精機製作所製キャンドル法燃焼試験機を使用し、JIS−K−7201記載のA法に準拠して、試験を行い、限界酸素指数(%)を求め、この指数が大きい程、難燃効果が大きいと評価した。
■ 電気絶縁性(VR,Ω・cm)テストの測定法:−JIS−K−1723に記載の方法に準拠して、所定量の試料が配合された樹脂シート片(厚さ1mm)を、60%関係湿度に保たれたデシケーター中に24時間(20℃)保持した後、該試験シート片にスズ箔を純ワセリンを用いて貼り付け、直偏法により、シートの電気抵抗値を測定し、この測定値から下記式により体積固有抵抗値ρ(Ω・cm)を求めた。


ρ:体積固有抵抗値(Ω・cm)
A:スズ箔(小さい方)の面積(cm2
D:シートの厚さ(cm)


以上の結果、本発明の方法で製造された2種類のブルーサイトはいずれも好適な粒子径に調製されており、しかも格子歪係数は小さく、結晶が良く発達しており、また配向度が高く、樹脂への配合時における配向性分散に効果的である。さらに本実施例におけるオレイン酸塩で表面処理されたブルーサイトは、CO2飽和水中での反応性が低く押えられ、炭酸化しにくい水酸化マグネシウムであり、しかも樹脂に配合されたシートは炭酸ガスとの反応性が抑制されていることもあって白華性がなく、しかも難燃性に優れていることが合成品の場合と比較するとき良く理解される。
実施例2本実施例では、脂肪酸のアンモニウム塩またはアミン塩で表面処理された水酸化マグネシウム系難燃剤について説明する。
天然ブルーサイトの湿式粉砕スラリーとしては実施例1にて記載の方法で調製した試料番号A−2のスラリーを用いて、実施例1に記載と同様の方法により、市販1級試薬より2種類の脂肪酸塩を選び、下記第4表に示す量割合で表面処理し、濾過、水洗、乾燥し、それぞれ表面処理されたブルーサイト型水酸化マグネシウム系難燃剤2種類(試薬番号2−1及び2−2)を製造した。
なお、表面処理剤として、オレイン酸ソーダを用いて、同様に表面処理し、濾過後、イオン交換水で充分洗浄して調製した。比較例試料も調製した。
ここに調製したオレイン酸塩で表面処理されたブルーサイト系の白華性が防止された難燃剤試料について、実施例1の場合と同様にしてオレフィン系樹脂2種類(EVA,EEA)にそれぞれ樹脂100部に試料130部を配合し、その各々の物性測定を行い、その結果を第4表に併せ表示する。




以上の結果、脂肪酸のアンモニウム塩およびアミン塩を表面処理する時は、オレイン酸ソーダで表面処理した時に較べて、CO2の反応性が低く、耐白華性に優れており、しかも電気絶縁性にも優れているオレフィン系樹脂への配合難燃剤であることが理解される。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の水酸化マグネシウム系難燃剤が持つ格子歪係数と、炭酸マグネシウムの生成量(%)との関係図を示す。
第2図は本発明の水酸化マグネシウムと合成の水酸化マグネシウム(比較例)のX線回折図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】天然産ブルーサイトを、コールターカウンター法によるメジアン径が2乃至6μmとなるように湿式粉砕し、この粉砕物を脂肪酸のアンモニウム塩又はアミン塩で表面処理し、次いで乾燥することを特徴とする水酸化マグネシウム系難燃剤の製法。
【請求項2】天然産ブルーサイトが80乃至96%の純度と1×10-3以下の格子歪係数とを有するものである請求項1記載の製法。
【請求項3】脂肪酸のアンモニウム塩又はアミン塩を、ブルーサイト当り脂肪酸としては1.5乃至6.0重量%の量で用いる請求項1記載の製法。
【請求項4】発達したブルーサイト型結晶構造を有し且つ2乃至6μmのメジアン径と1×10-3以下の格子歪係数を有する水酸化マグネシウム粒子と、該粒子の表面を被覆し且つ少なくとも一部がマグネシウム塩を形成している脂肪酸層とから成り且つ式

式中、I001は試料の面指数[001]のX線回折ピーク強度であり、I101は試料の面指数[101]のX線回折ピーク強度である、で定義される配向度(D0)が2以上であることを特徴とする耐白華性に優れた水酸化マグネシウム系難燃剤。
【請求項5】オレフィン系樹脂に請求項4記載の水酸化マグネシウム系難燃剤を配合して成る難燃性樹脂組成物。

【第1図】
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【第2図】
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