説明

水電解装置

【課題】シール部材から漏れるガスを外部に良好に排出させることができ、電解質膜に所望の押圧力を安定して付与することを可能にする。
【解決手段】水電解装置10を構成する単位セル12は、電解質膜・電極構造体32をアノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36により挟持する。アノード側セパレータ34には、水が供給される第1流路54が形成され、カソード側セパレータ36には、前記水が電気分解されて高圧水素を得る第2流路58が形成される。第2流路58の外側を周回して第2シール部材66aが挿入される第2シール溝68aが設けられるとともに、前記第2シール溝68aの外側には、該第2シール溝68aに連通可能で且つ圧抜き通路70を介して外部に開放される圧力開放室72が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を電気分解して水素を得るために電解質膜の両側に第1及び第2給電体が設けられ、前記第1給電体に第1セパレータが積層されて第1流路が形成されるとともに、前記第2給電体に第2セパレータが積層されて第2流路が形成される水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、アノード側電極に燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)が供給される一方、カソード側電極に酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)が供給されることにより、直流の電気エネルギを得ている。
【0003】
一般的に、燃料ガスである水素ガスを製造するために、水電解装置が採用されている。この水電解装置は、水を分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、給電体を配設してユニットが構成されている。すなわち、ユニットは、実質的には、上記の燃料電池と同様に構成されている。
【0004】
そこで、複数のユニットが積層された状態で、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード側給電体に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノード側では、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動し、電子と結合して水素が製造される。一方、アノード側では、水素と共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってユニットから排出される。
【0005】
この種の設備では、数十MPaの高圧水素を生成するため、例えば、特許文献1に開示されている水素供給装置が知られている。この水素供給装置は、図13に示すように、電極接合体膜1の両面に陽極給電体2及び陰極給電体3を備えた接合体を、複極板4により挟持した単セルを備えている。
【0006】
複極板4と陽極給電体2との間には、水を供給するための通路5aが形成される一方、前記複極板4と陰極給電体3との間には、生成された水素を流動させるための通路5bが形成されている。複極板4の周縁部には、第1のOリング6aを収容するための第1のシール溝7a、7bと、第2のOリング6bを収容するための第2のシール溝7c、7dとが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−2914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の特許文献1では、高圧水素を生成するため、通路5bが高圧ガス室を構成しており、前記通路5bに連通する第2のシール溝7dも、高圧水素が充填されて高圧になっている。このため、第2のOリング6bから微少な水素漏れが惹起し、第2のシール溝7dと第1のシール溝7bとの間に高圧水素が滞留するおそれがある。
【0009】
従って、第2のシール溝7dと第1のシール溝7bとの間には、滞留する高圧水素による反力が発生し、水素供給装置全体に外部から積層方向に付与される押し付け圧力のバランスが変動し易い。これにより、電極接合体膜1に対して最適な押圧状態を維持することができず、電解電圧が上昇して電解性能が低下するという問題がある。
【0010】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、シール部材から漏れるガスを外部に良好に排出させることができ、電解質膜に所望の押圧力を安定して付与することが可能な水電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水を電気分解して水素を得るために電解質膜の両側に第1及び第2給電体が設けられ、前記第1給電体に第1セパレータが積層されて第1流路が形成されるとともに、前記第2給電体に第2セパレータが積層されて第2流路が形成される水電解装置に関するものである。
【0012】
この水電解装置は、少なくとも第1セパレータ又は第2セパレータには、第1給電体又は第2給電体の外方を周回してシール部材を配設するためのシール溝が形成されるとともに、前記シール溝の外側には、該シール溝に連通可能で且つ圧抜き通路を介して外部に開放される圧力開放室が設けられている。
【0013】
また、この水電解装置は、圧力開放室がシール溝の外方を全周にわたって周回することが好ましい。
【0014】
さらに、この水電解装置は、第1セパレータと第2セパレータとの間に電解質膜が挟持されるとともに、圧力開放室は、前記第1セパレータ又は前記第2セパレータに設けられ、前記電解質膜を挟んで前記圧抜き通路に対向する凹部を有することが好ましい。
【0015】
さらにまた、この水電解装置は、第1セパレータと第2セパレータとの間に電解質膜が挟持されるとともに、圧力開放室は、前記電解質膜に形成される凹部を有することが好ましい。
【0016】
また、圧抜き通路は、第1セパレータ、電解質膜及び第2セパレータを積層方向に貫通する連通孔を有するとともに、前記連通孔の一端側に排水用通路が連通し、且つ前記連通孔の他端側に排気用通路が連通することが好ましい。
【0017】
さらに、この水電解装置は、前記水電解装置の外部に配設され、各圧抜き通路に連通する複数の絶縁性コネクタ部と、外部で第1セパレータ、電解質膜及び第2セパレータの積層方向に延在し、複数の前記絶縁性コネクタ部が接続される配管部材とを設けるとともに、前記配管部材は、一端側に排水用通路が連通し、且つ他端側に排気用通路が連通することが好ましい。
【0018】
さらにまた、この水電解装置は、第1流路が、水を供給する水流路を構成する一方、第2流路が、前記水が電気分解されて常圧よりも高圧な水素を得る水素流路を構成するとともに、前記第2流路は、シール溝に連通可能であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る水電解装置は、少なくとも第1流路又は第2流路に連通し、第1及び第2セパレータの積層方向に延在する連通孔を備え、少なくとも前記第1セパレータ又は前記第2セパレータには、前記連通孔の外方を周回してシール部材を配設するためのシール溝が形成されるとともに、前記シール溝の外側には、該シール溝に連通可能で且つ圧抜き通路を介して外部に開放される圧力開放室が設けられている。
【0020】
さらに、この水電解装置は、圧力開放室がシール溝の外方を全周にわたって周回することが好ましい。
【0021】
さらにまた、この水電解装置は、第1セパレータと第2セパレータとの間に電解質膜が挟持されるとともに、圧力開放室は、前記第1セパレータ又は前記第2セパレータに設けられ、前記電解質膜を挟んで圧抜き通路に対向する凹部を有することが好ましい。
【0022】
また、この水電解装置は、第1セパレータと第2セパレータとの間に電解質膜が挟持されるとともに、圧力開放室は、前記電解質膜に形成される凹部を有することが好ましい。
【0023】
さらに、圧抜き通路は、第1セパレータ、電解質膜及び第2セパレータを積層方向に貫通する連通孔を有するとともに、前記連通孔の一端側に排水用通路が連通し、且つ前記連通孔の他端側に排気用通路が連通することが好ましい。
【0024】
さらにまた、この水電解装置は、前記水電解装置の外部に配設され、各圧抜き通路に連通する複数の絶縁性コネクタ部と、外部で第1セパレータ、電解質膜及び第2セパレータの積層方向に延在し、複数の前記絶縁性コネクタ部が接続される配管部材とを設けるとともに、前記配管部材は、一端側に排水用通路が連通し、且つ他端側に排気用通路が連通することが好ましい。
【0025】
また、この水電解装置は、第1流路が水を供給する水流路を構成する一方、第2流路が、前記水が電気分解されて常圧よりも高圧な水素を得る水素流路を構成するとともに、前記第2流路は、連通孔を介してシール溝に連通可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シール溝に導入されたガスが、シール部材から漏れると、このガスは、前記シール溝の外側に連通可能な圧力開放室に流入した後、圧抜き通路を介して外部に排出される。
【0027】
従って、シール部材から漏れたガスが、装置内に滞留することを確実に阻止することができ、電解質膜に所望の押圧力を安定して付与することが可能になる。これにより、電解電圧が上昇することを抑制することができ、長期間にわたって所望の電解性能を良好に確保することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る水電解装置の斜視説明図である。
【図2】前記水電解装置の一部断面側面図である。
【図3】前記水電解装置を構成する単位セルの分解斜視説明図である。
【図4】前記単位セルの断面説明図である。
【図5】前記単位セルを構成する圧力開放室の説明図である。
【図6】第1の実施形態と比較例とにおける水電解処理時間と必要な電解電圧との関係図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る水電解装置を構成する単位セルの断面説明図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る水電解装置の一部断面側面図である。
【図9】前記水電解装置を構成する単位セルの断面説明図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る水電解装置の一部断面側面図である。
【図11】前記水電解装置を構成する単位セルの断面説明図である。
【図12】排水処理及び排気処理の構成説明図である。
【図13】特許文献1に開示されている水電解装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る水電解装置10は、高圧水素製造装置を構成しており、複数の単位セル12が水平方向(矢印A方向)又は鉛直方向(矢印B方向)に積層された積層体14を備える。積層体14の積層方向一端には、ターミナルプレート16a、絶縁プレート18a及びエンドプレート20aが上方に向かって、順次、配設される。積層体14の積層方向他端には、同様にターミナルプレート16b、絶縁プレート18b及びエンドプレート20bが下方に向かって、順次、配設される。
【0030】
水電解装置10は、例えば、矢印A方向に延在する複数のタイロッド22を介して円盤形状のエンドプレート20a、20b間を一体的に締め付け保持する。なお、水電解装置10は、エンドプレート20a、20bを端板として含む箱状ケーシング(図示せず)により一体的に保持される構成を採用してもよい。また、水電解装置10は、全体として略円柱体形状を有しているが、立方体形状等の種々の形状に設定可能である。
【0031】
図1に示すように、ターミナルプレート16a、16bの側部には、端子部24a、24bが外方に突出して設けられる。端子部24a、24bは、配線26a、26bを介して電源28に電気的に接続される。陽極(アノード)側である端子部24aは、電源28のプラス極に接続される一方、陰極(カソード)側である端子部24bは、前記電源28のマイナス極に接続される。
【0032】
図3及び図4に示すように、単位セル12は、円盤状の電解質膜・電極構造体32と、この電解質膜・電極構造体32を挟持するアノード側セパレータ(第1セパレータ)34及びカソード側セパレータ(第2セパレータ)36とを備える。アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36は、円盤状を有するとともに、例えば、カーボン部材等で構成され、又は、鋼板、ステンレス鋼板、チタン板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板をプレス成形して、あるいは切削加工した後に防食用の表面処理を施して構成される。
【0033】
電解質膜・電極構造体32は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜38と、前記固体高分子電解質膜38の両面に設けられるアノード側給電体(第1給電体)40及びカソード側給電体(第2給電体)42とを備える。
【0034】
固体高分子電解質膜38の両面には、アノード電極触媒層40a及びカソード電極触媒層42aが形成される。アノード電極触媒層40aは、例えば、Ru(ルテニウム)系触媒を使用する一方、カソード電極触媒層42aは、例えば、白金触媒を使用する。
【0035】
アノード側給電体40及びカソード側給電体42は、例えば、球状アトマイズチタン粉末の焼結体(多孔質導電体)により構成される。アノード側給電体40及びカソード側給電体42は、研削加工後にエッチング処理される平滑表面部を設けるとともに、空隙率が10%〜50%、より好ましくは、20%〜40%の範囲内に設定される。
【0036】
単位セル12の外周縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、水(純水)を供給するための水供給連通孔46と、反応により生成された酸素及び使用済みの水を排出するための排出連通孔48と、反応により生成された水素(高圧水素)を流すための水素連通孔50とが設けられる。
【0037】
図3及び図4に示すように、アノード側セパレータ34の外周縁部には、水供給連通孔46に連通する供給通路52aと、排出連通孔48に連通する排出通路52bとが設けられる。アノード側セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に向かう面34aには、供給通路52a及び排出通路52bに連通する第1流路54が設けられる。この第1流路54は、アノード側給電体40の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される(図2及び図4参照)。
【0038】
カソード側セパレータ36の外周縁部には、水素連通孔50に連通する排出通路56が設けられる。カソード側セパレータ36の電解質膜・電極構造体32に向かう面36aには、排出通路56に連通する第2流路58が形成される。この第2流路58は、カソード側給電体42の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される(図2及び図4参照)。
【0039】
アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36の外周端部を周回して、シール部材60a、60bが一体化される。このシール部材60a、60bには、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0040】
図4に示すように、アノード側セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に向かう面34aには、第1流路54及びアノード側給電体40の外方を周回して第1シール部材62aを配設するための第1シール溝64aが形成される。面34aには、水供給連通孔46、排出連通孔48及び水素連通孔50の外側を周回して、第1シール部材62b、62c及び62dを配置するための第1シール溝64b、64c及び64dが形成される。第1シール部材62a〜62dは、例えば、Oリングである。
【0041】
カソード側セパレータ36の電解質膜・電極構造体32に向かう面36aには、第2流路58及びカソード側給電体42の外方を周回して、第2シール部材66aを配設するための第2シール溝68aが形成される。
【0042】
図3及び図4に示すように、面36aには、水供給連通孔46、排出連通孔48及び水素連通孔50の外側を周回して、第2シール部材66b、66c及び66dを配置するための第2シール溝68b、68c及び68dが形成される。第2シール部材66a〜66dは、例えば、Oリングである。
【0043】
単位セル12内には、第1シール溝64aの外側に設けられ、前記第1シール溝64aに連通可能で、且つ、カソード側セパレータ36に形成された所定数の圧抜き通路70を介して外部に開放される圧力開放室72を備える。
【0044】
圧力開放室72は、第1シール溝64aの外方を全周にわたって周回しており、固体高分子電解質膜38を挟んで圧抜き通路70に対向する凹部74を有する。この凹部74は、アノード側セパレータ34に形成されるとともに、生成される水素の圧力(例えば、35MPa)によって、固体高分子電解質膜38が前記凹部74内に入り込んで、圧抜き通路70側に所定のキャビティが形成されるように寸法設定される。
【0045】
単位セル12内には、水素連通孔50を周回する第1シール溝64dの外側に前記第1シール溝64dに連通可能で、且つ、アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36に形成された所定数の圧抜き通路76を介して外部に開放される圧力開放室78が設けられる。この圧力開放室78は、第1シール溝64d及び第2シール溝68dの外方を全周にわたって周回するとともに、圧抜き通路76に連通する凹部80を有する。
【0046】
図1及び図2に示すように、エンドプレート20aには、水供給連通孔46、排出連通孔48及び水素連通孔50に連通する配管82a、82b及び82cが接続される。配管82cには、図示しないが、背圧弁(又は電磁弁)が設けられており、水素連通孔50に生成される水素の圧力を高圧に維持することができる。
【0047】
このように構成される水電解装置10の動作について、以下に説明する。
【0048】
図1に示すように、配管82aから水電解装置10の水供給連通孔46に水が供給されるとともに、ターミナルプレート16a、16bの端子部24a、24bに電気的に接続されている電源28を介して電圧が付与される。このため、図3に示すように、各単位セル12では、水供給連通孔46からアノード側セパレータ34の第1流路54に水が供給され、この水がアノード側給電体40内に沿って移動する。
【0049】
従って、水は、アノード電極触媒層40aで電気により分解され、水素イオン、電子及び酸素が生成される。この陽極反応により生成された水素イオンは、固体高分子電解質膜38を透過してカソード電極触媒層42a側に移動し、電子と結合して水素が得られる。
【0050】
このため、カソード側セパレータ36とカソード側給電体42との間に形成される第2流路58に沿って水素が流動する。この水素は、水供給連通孔46よりも高圧に維持されており、水素連通孔50を流れて水電解装置10の外部に取り出し可能となる。一方、第1流路54には、反応により生成した酸素と、使用済みの水とが流動しており、これらが排出連通孔48に沿って水電解装置10の外部に排出される。
【0051】
上記のように、水電解装置10では、第2流路58には、高圧水素が生成されており、この第2流路58が高圧水素発生室を構成している。第2流路58は、固体高分子電解質膜38の表面を介して第2シール溝68aに連通しており、この第2シール溝68aにも高圧水素が充填されている。従って、図5に示すように、第2シール溝68aに配設されている第2シール部材66aと固体高分子電解質膜38との間隙を通って、高圧水素の漏れが発生し易い。
【0052】
この場合、第1の実施形態では、第2シール溝68aの外側には、前記第2シール溝68aに連通可能で、且つ、圧抜き通路70を介して外部に開放される圧力開放室72が設けられている。このため、第2シール部材66aから漏れる高圧水素は、固体高分子電解質膜38を凹部74側に押圧変形させることにより、圧力開放室72に流入する。次いで、高圧水素は、凹部74に沿って第2シール溝68aの外方を周回した後、圧抜き通路70を通って単位セル12の外部に排出される。
【0053】
これにより、高圧水素発生室である第2流路58から第2シール溝68aに導入された高圧水素が、前記第2シール溝68aの外部に漏れても、前記高圧水素が単位セル12内に滞留することを確実に阻止することができる。
【0054】
従って、水電解装置10全体にタイロッド22等を介して積層方向に付与される押し付け圧力のバランスが変動することがなく、各固体高分子電解質膜38に所望の押圧力を安定して付与することが可能になる。このため、水電解装置10では、電解電圧が上昇することを抑制することができ、長期間にわたって所望の電解性能を良好に確保することが可能になるという効果が得られる。
【0055】
また、第1の実施形態では、圧力開放室72は、第2シール部材66aの外方を全周にわたって周回している。これにより、高圧水素を良好に圧力開放室72に集めることができ、圧抜き通路70の数を有効に削減することが可能になる。
【0056】
しかも、圧力開放室72は、アノード側セパレータ34に形成される凹部74を有している。従って、低圧側のアノード側セパレータ34に凹部74を設けるため、このアノード側セパレータ34の強度を補強する必要がない。高圧側であるカソード側セパレータ36に凹部を設ける場合には、強度が減少するため、この減少した強度を補強するための構造が必要となるからである。
【0057】
また、第1の実施形態では、第2流路58に連通する水素連通孔50も同様に、高圧水素が導入されることにより、高圧室を構成している。そして、水素連通孔50に連通する第1シール溝64d及び第2シール溝68dも高圧水素により、高圧室を構成している。
【0058】
このため、第1シール溝64d及び第2シール溝68dから漏れる高圧水素は、前記第1シール溝64d及び前記第2シール溝68dの外側に設けられている圧力開放室78に導入される。圧力開放室78に導入された高圧水素は、圧抜き通路76を通って外部に開放される。
【0059】
これにより、第1シール部材62d及び第2シール部材66dから漏れる高圧水素は、単位セル12内に滞留することがなく、固体高分子電解質膜38に所望の押圧力を安定して付与することができる等、上記と同様の効果が得られる。
【0060】
図6は、第1の実施形態と、圧力開放室72、78を用いない比較例とを用いて水電解処理を行った際、時間と必要な電解電圧とを検出した結果が示されている。比較例では、単位セル12内に高圧水素が滞留してしまい、積層方向に付与される押し付け圧力のバランスが変動し、電解に必要な電解電圧が時間の経過に伴って上昇している。従って、比較例では、時間の経過に伴って、電解性能が低下するという結果が得られた。
【0061】
これに対して、第1の実施形態では、単位セル12内に高圧水素の滞留が惹起されず、電解電圧の上昇が良好に抑制された。このため、長時間にわたり、所望の電解性能を得ることができるという結果が得られた。
【0062】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る水電解装置90を構成する単位セル92の断面説明図である。
【0063】
なお、第1の実施形態に係る水電解装置10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態以降においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0064】
単位セル92は、第2シール溝68aの外側に、前記第2シール溝68aに連通可能で、且つ、圧抜き通路70を介して外部に開放される圧力開放室94が設けられる。圧力開放室94は、固体高分子電解質膜38に形成される凹部96を有し、前記凹部96は、第2シール溝68aの外方を全周にわたって周回している。
【0065】
単位セル92は、水素連通孔50の外側を周回する第1シール溝64d及び第2シール溝68dの外側に、それぞれ圧抜き通路76を介して外部に開放される圧力開放室98が設けられる。圧力開放室98は、固体高分子電解質膜38の両面に設けられる凹部100を有する。
【0066】
このように構成される第2の実施形態では、圧力開放室94、98は、固体高分子電解質膜38に設けられる凹部96、100を有しており、アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36に凹部を形成する必要がない。これにより、構成が一層簡素化されるとともに、固体高分子電解質膜38に所望の押圧力を安定して付与することができる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0067】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る水電解装置110の一部断面側面図である。
【0068】
水電解装置110は、複数の単位セル112が鉛直方向(矢印B方向)に積層された積層体114を備える。図9に示すように、単位セル112内には、圧力開放室72に連通する圧抜き通路115が形成される。圧抜き通路115は、アノード側セパレータ34、固体高分子電解質膜38及びカソード側セパレータ36を積層方向に貫通する連通孔を構成する。
【0069】
図8に示すように、積層体114の積層方向下端部(一端部)に配置されるエンドプレート20bには、圧抜き通路115の一端に連通し、積層体114の外部に延在する排水用通路116が設けられる。積層体114の積層方向上端(他端部)側に配置されるエンドプレート20aには、圧抜き通路115の他端側に連通し、前記積層体114の外方に延在する排気用通路118が設けられる。
【0070】
図9に示すように、単位セル112内には、圧力開放室78に連通する圧抜き通路120がアノード側セパレータ34、固体高分子電解質膜38及びカソード側セパレータ36の積層方向に貫通して形成される。
【0071】
圧抜き通路120は、連通孔を構成し、この圧抜き通路120の下端側(一端側)には、エンドプレート20bに設けられる排水用通路122が連通する。圧抜き通路120の上端側(他端側)には、エンドプレート20aに設けられる排気用通路124が連通する。排水用通路122及び排気用通路124は、積層体114の側部から外方に延在する。
【0072】
このように構成される第3の実施形態では、第2シール溝68aの外側には、前記第2シール溝68aに連通可能な圧力開放室72が設けられるとともに、積層方向(矢印A方向)に貫通して、圧抜き通路115が設けられている。
【0073】
ここで、第2流路58には、高圧水素及び透過水が満たされており、水素及び水が圧力開放室72に流入する。このため、水素は、圧抜き通路115に沿って上方に移動し、エンドプレート20aに設けられている排気用通路118から排気される。一方、水は、圧抜き通路115に沿って下方向に移動し、エンドプレート20bに設けられている排水用通路116から排水される。
【0074】
これにより、第3の実施形態では、第2シール溝68aの外部に漏れた高圧水素が、単位セル112内に滞留することを阻止することができる等、第1の実施形態と同様の効果が得られる他、前記第2シール溝68aの外部に漏れた水による液洛の発生を可及的に阻止することが可能になるという利点がある。
【0075】
また、第3の実施形態では、第1及び第2シール溝64d、68dから漏れる高圧水素及び透過水は、圧力開放室78に導入される。そして、水素は、圧抜き通路120に沿って上昇する一方、透過水は、前記圧抜き通路120に沿って下方向に移動する。従って、漏れた水素は、排気用通路124に確実に排気されるとともに、漏れた水は、排水用通路122に良好に排出され、上記と同様の効果が得られる。
【0076】
図10は、本発明の第4の実施形態に係る水電解装置130の一部断面側面図である。
【0077】
水電解装置130は、複数の単位セル12を積層した積層体14を備える。図11に示すように、水電解装置130の外部には、各圧抜き通路70に連通する絶縁性コネクタ部132が配設される。積層体14の外部には、アノード側セパレータ34、固体高分子電解質膜38及びカソード側セパレータ36の積層方向に延在し、複数の絶縁性コネクタ部132に接続される配管部材134が設けられる(図10参照)。配管部材134は、下端側(一端側)に排水用通路136が連通するとともに、上端側(他端側)に排気用通路138が連通する。
【0078】
図11に示すように、単位セル12の外部には、圧抜き通路76に連通するコネクタ部140が設けられるとともに、前記コネクタ部140は、積層方向(矢印B方向)に延在する配管部材142に接続される。図10に示すように、配管部材142の下端側(一端側)には、排水用通路144が接続されるとともに、前記配管部材142の上端側(他端側)には、排気用通路146が接続される。
【0079】
このように構成される第4の実施形態では、上記の第3の実施形態と同様に、積層体14の外部に水素や水が不要に漏れることがなく、長期間にわたって所望の電解性能を良好に確保することができる等の効果が得られる。
【0080】
ところで、上記の第3及び第4の実施形態では、排水及び排気を行うために、例えば、図12に示す構成を採用することができる。なお、第4の実施形態を用いて説明するが、第3の実施形態でも同様である。
【0081】
配管部材134の排水用通路136には、バルブ150が設けられており、このバルブ150は、手動操作又は自動操作により開閉してドレン処理が行われる。配管部材134の排気用通路138には、例えば、希釈器152が設けられ、この希釈器152に空気を導入して漏れ水素の希釈処理が行われる。
【符号の説明】
【0082】
10、90、110、130…水電解装置
12、92、112…単位セル 14、114…積層体
16a、16b…ターミナルプレート 18a、18b…絶縁プレート
20a、20b…エンドプレート 24a、24b…端子部
28…電源 32…電解質膜・電極構造体
34…アノード側セパレータ 36…カソード側セパレータ
38…固体高分子電解質膜 40…アノード側給電体
42…カソード側給電体 46…水供給連通孔
48…排出連通孔 50…水素連通孔
54、58…流路 62a〜62d、66a〜66d…シール部材
64a〜64d、68a〜68d…シール溝
70、76、115、120…圧抜き通路
72、78、94、98…圧力開放室 74、80、96、100…凹部
116、122、136、144…排水用通路
118、124、138、146…排気用通路
132、140…コネクタ部 134、142…配管部材
150…バルブ 152…希釈器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電気分解して水素を得るために電解質膜の両側に第1及び第2給電体が設けられ、前記第1給電体に第1セパレータが積層されて第1流路が形成されるとともに、前記第2給電体に第2セパレータが積層されて第2流路が形成される水電解装置であって、
少なくとも前記第1セパレータ又は前記第2セパレータには、前記第1給電体又は前記第2給電体の外方を周回してシール部材を配設するためのシール溝が形成されるとともに、
前記シール溝の外側には、該シール溝に連通可能で且つ圧抜き通路を介して外部に開放される圧力開放室が設けられることを特徴とする水電解装置。
【請求項2】
請求項1記載の水電解装置において、前記圧力開放室は、前記シール溝の外方を全周にわたって周回することを特徴とする水電解装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水電解装置において、前記第1セパレータと前記第2セパレータとの間に前記電解質膜が挟持されるとともに、
前記圧力開放室は、前記第1セパレータ又は前記第2セパレータに設けられ、前記電解質膜を挟んで前記圧抜き通路に対向する凹部を有することを特徴とする水電解装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の水電解装置において、前記第1セパレータと前記第2セパレータとの間に前記電解質膜が挟持されるとともに、
前記圧力開放室は、前記電解質膜に形成される凹部を有することを特徴とする水電解装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水電解装置において、前記圧抜き通路は、前記第1セパレータ、前記電解質膜及び前記第2セパレータを積層方向に貫通する連通孔を有するとともに、
前記連通孔の一端側に排水用通路が連通し、且つ前記連通孔の他端側に排気用通路が連通することを特徴とする水電解装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水電解装置において、前記水電解装置の外部に配設され、各圧抜き通路に連通する複数の絶縁性コネクタ部と、
外部で前記第1セパレータ、前記電解質膜及び前記第2セパレータの積層方向に延在し、複数の前記絶縁性コネクタ部が接続される配管部材と、
を設けるとともに、
前記配管部材は、一端側に排水用通路が連通し、且つ他端側に排気用通路が連通することを特徴とする水電解装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水電解装置において、前記第1流路は、水を供給する水流路を構成する一方、
前記第2流路は、前記水が電気分解されて常圧よりも高圧な水素を得る水素流路を構成するとともに、
前記第2流路は、前記シール溝に連通可能であることを特徴とする水電解装置。
【請求項8】
水を電気分解して水素を得るために電解質膜の両側に第1及び第2給電体が設けられ、前記第1給電体に第1セパレータが積層されて第1流路が形成されるとともに、前記第2給電体に第2セパレータが積層されて第2流路が形成される水電解装置であって、
少なくとも前記第1流路又は前記第2流路に連通し、前記第1及び第2セパレータの積層方向に延在する連通孔を備え、
少なくとも前記第1セパレータ又は前記第2セパレータには、前記連通孔の外方を周回してシール部材を配設するためのシール溝が形成されるとともに、
前記シール溝の外側には、該シール溝に連通可能で且つ圧抜き通路を介して外部に開放される圧力開放室が設けられることを特徴とする水電解装置。
【請求項9】
請求項8記載の水電解装置において、前記圧力開放室は、前記シール溝の外方を全周にわたって周回することを特徴とする水電解装置。
【請求項10】
請求項8又は9記載の水電解装置において、前記第1セパレータと前記第2セパレータとの間に前記電解質膜が挟持されるとともに、
前記圧力開放室は、前記第1セパレータ又は前記第2セパレータに設けられ、前記電解質膜を挟んで前記圧抜き通路に対向する凹部を有することを特徴とする水電解装置。
【請求項11】
請求項8又は9記載の水電解装置において、前記第1セパレータと前記第2セパレータとの間に前記電解質膜が挟持されるとともに、
前記圧力開放室は、前記電解質膜に形成される凹部を有することを特徴とする水電解装置。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の水電解装置において、前記圧抜き通路は、前記第1セパレータ、前記電解質膜及び前記第2セパレータを積層方向に貫通する連通孔を有するとともに、
前記連通孔の一端側に排水用通路が連通し、且つ前記連通孔の他端側に排気用通路が連通することを特徴とする水電解装置。
【請求項13】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の水電解装置において、前記水電解装置の外部に配設され、各圧抜き通路に連通する複数の絶縁性コネクタ部と、
外部で前記第1セパレータ、前記電解質膜及び前記第2セパレータの積層方向に延在し、複数の前記絶縁性コネクタ部が接続される配管部材と、
を設けるとともに、
前記配管部材は、一端側に排水用通路が連通し、且つ他端側に排気用通路が連通することを特徴とする水電解装置。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項に記載の水電解装置において、前記第1流路は、水を供給する水流路を構成する一方、
前記第2流路は、前記水が電気分解されて常圧よりも高圧な水素を得る水素流路を構成するとともに、
前記第2流路は、前記連通孔を介して前記シール溝に連通可能であることを特徴とする水電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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