説明

永久磁石式脱磁機

【課題】電源を必要とせず電力を消費しないので省エネの点で優れ、音、振動及び発熱がなく、脱磁対象物の視認性が優れるため取扱いが簡便であり、誤って磁石を配列してしまう虞がない、脱磁むらの少ない脱磁性能に優れた脱磁機を提供する。
【解決手段】高さが等しい複数の直方体形状の永久磁石1を、対面が同極になるように列状に配設してなる永久磁石列2と、裏面側に前記永久磁石列が配置され、表面側を脱磁対象物Dが前記永久磁石列の列方向に移動するテーブル3と、を備え、前記永久磁石列は、脱磁対象物の移動方向の上流側から下流側に向かうに従い、前記複数の永久磁石の前記列方向の厚みT1〜T4が減少するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留磁気を帯びた磁性体を脱磁するためのテーブル型の永久磁石式脱磁機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼管、棒鋼、鋼板等の鋼材は、製造工程中に磁気探傷やリフティングマグネットで吊り上げられたりすることにより帯磁し残留磁気を有する。また、これらの鋼材や機械部品は、流通過程で工作機械、各種動力電源及び電力配線の周辺などの磁場環境を経る、或いはそれらの磁場環境に置かれることによって意図しない間に磁化されることがある。
このような鋼材は静電塗装や溶接に際し、残留磁気による塗装むらができたり、強い磁界が生じて溶接が不可能になったり、付着鉄粉で鋼材表面に擦傷が生じて著しく商品価値を低下させたりすることがある。残留磁気を帯びたねじやバネ等の機械部品も製品に悪影響を及ぼすことがある。
【0003】
このような障害となる残留磁気を消去、即ち脱磁する必要がある。脱磁とは外部に磁場が出ないように内部の磁化の領域の方向をばらばらにし、全体として磁力がキャンセル状態となるようにすることである。
【0004】
脱磁の方法としては主に、交番磁界脱磁法と熱脱磁法が挙げられる。
交番磁界脱磁法とは、脱磁対象物に対して一旦磁力が飽和するような大きさの磁界をかけた後、交番磁界の強さを順次減じていくことにより脱磁する方法である。
熱脱磁法とは、脱磁対象物のキューリ温度以上に加熱することにより脱磁する方法である。
そのうち鋼材の脱磁には、主に交番磁界脱磁法が用いられる。鋼材は形状が様々であり大きさも異なるため、一般的には、コイルを用いてこれに交流電流を流すことにより交番磁界を作成し、コイルの通過時に生ずる減衰型交番磁界を利用することにより脱磁する方法が採用されることが多い。
【0005】
しかしながら、この方法を用いる従来の脱磁装置は、電気配線や電源トランス等を必要とし、また常時電力を消費するため省エネルギーの点で好ましくない。また、この装置は大型となるのでより多くの設置場所を必要とするという問題がある。さらに、電源切れの虞もあり、音、振動及び発熱の問題も有している。
【0006】
上記の問題を解消するため、永久磁石を用いた脱磁機が提案されている。
例えば、筒型磁石の中空部の減衰型交番磁界中に脱磁対象物を通過させて脱磁する脱磁機が提案されている。
特許文献1には、軸方向に磁化された複数個の管状永久磁石を互いに同磁極面を対向して隣接するとともに、この複数個の管状永久磁石内局面にて形成される管状空間において、軸方向に磁界強さが次第に減衰するよう構成してなる脱磁機、が開示されている。
しかしながら、特許文献1のような筒型磁石の中空部の減衰型交番磁界中に脱磁対象物を通過させて脱磁する脱磁機においては、筒型磁石内にラジアル方向に磁束密度が分布するため、筒型磁石内ラジアル方向中心部と筒型磁石内局面周辺では磁場強度が大きく異なる。そのため、ねじやバネ等の小さな個片を複数同時に脱磁する際、個片毎に通過する筒型磁石内ラジアル方向の位置が異なるため、個片毎に残留磁力がばらつき、脱磁むらが生じるという問題があった。比較的大きな鋼材の場合でも、同じ理由で鋼材の部位によって脱磁むらが生じるという問題があった。
【0007】
交番磁界脱磁法による永久磁石を用いた脱磁機において、複数の永久磁石を脱磁対象物の移動方向に配列し、脱磁対象物に作用する磁場強度が脱磁対象物の移動方向に向かうに従い弱くすることにより減衰型交番磁界を形成し、永久磁石に沿って脱磁対象物を移動させることにより脱磁する脱磁機が提案されている(特許文献2〜5参照)。
上記特許文献2〜4の脱磁機はいずれも、脱磁対象物の移動方向に向かうに従い磁石と脱磁対象物とを離間させることにより、脱磁対象物に作用する磁場強度を弱くすることにより、減衰型交番磁界を形成している。しかしながら、このような脱磁機は、磁石と脱磁対象物との離間距離を必要とするために脱磁機が大型化してしまうという問題があった。
特許文献4には、減衰型交番磁界を形成するために、大きさ及び形状が同じで磁力の異なる複数の永久磁石を用い、脱磁対象物の移動方向に向かうに従い磁力の大きな磁石から小さな磁石へと順次配列されてなる脱磁機も開示されている。しかしながら、永久磁石の大きさ及び形状が同じであるために見分けがつきにくく、誤って磁石を配列してしまう虞があった。
特許文献5は、減衰型交番磁界を形成するために、脱磁対象物に作用する磁場強度が脱磁対象物の移動方向に向かうに従い弱くする具体的な方法は開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭58−26163号公報
【特許文献2】特開2006−82007号公報
【特許文献3】特許第4684263号公報
【特許文献4】特開昭58−175810号公報
【特許文献5】実開昭59−101408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような問題点を解決すべくなされたものであって、電源を必要とせず電力を消費しないので省エネの点で優れ、音、振動及び発熱がなく、脱磁対象物の視認性が優れるため取扱いが簡便であり、誤って磁石を配列してしまう虞がない、脱磁むらの少ない脱磁性能に優れた脱磁機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、高さが等しい複数の直方体形状の永久磁石を、対面が同極になるように列状に配設してなる永久磁石列と、裏面側に前記永久磁石列が配置され、表面側を脱磁対象物が前記永久磁石列の列方向に移動するテーブルと、を備え、前記永久磁石列は、脱磁対象物の移動方向の上流側から下流側に向かうに従い、前記複数の永久磁石の前記列方向の厚みが減少するように構成されていることを特徴とする脱磁機に関する。
【0011】
請求項2に係る発明は、前記永久磁石列の隣接する永久磁石間の距離が、脱磁対象物の長手方向又は幅方向の長さよりも大きいことを特徴とする請求項1記載の脱磁機に関する。
【0012】
請求項3に係る発明は、前記上流側に、脱磁対象物の磁化方向を一定方向に整列させるためのヨークを備えることを特徴とする請求項1又は2記載の脱磁機に関する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、永久磁石列が複数の永久磁石を対面が同極になるように列状に配設してなることにより、脱磁対象物に作用する磁力線の向きを交互に変化させることができ、永久磁石列が脱磁対象物の移動方向の上流側から下流側に向かうに従い前記複数の永久磁石の前記列方向の厚みが減少するように構成されていることにより、脱磁対象物の移動方向の上流側から下流側に向かうに従い、脱磁対象物に作用する磁場強度を弱くすることができる。これにより、脱磁対象物内の残留磁力を徐々に減少させ最終的に脱磁することができる。
請求項1に係る発明によれば、減衰型交番磁界を形成するために、永久磁石列が脱磁対象物の移動方向の上流側から下流側に向かうに従い、高さが等しい複数の直方体形状の永久磁石の列方向の厚みが減少するように構成されていることにより、テーブルを水平面とすることができるため、脱磁対象物を滑らかに移動させることができる。また、脱磁対象物を一定速度で移動させることができ、各場所の速度の違いによる脱磁性能の悪影響を防止することができる。
請求項1に係る発明によれば、上記したような永久磁石列がテーブル裏面側に備えられていることにより、テーブル表面側の幅方向(脱磁対象物の移動方向に対し垂直方向)の磁束密度の分布を均一とすることができる。これにより、脱磁対象物が通る幅方向における位置による脱磁むらを抑えることができる。
請求項1に係る発明によれば、永久磁石により減衰型交番磁界を形成しているため、電源を必要とせず電力を消費しないので省エネの点で優れ、且つ音、振動及び発熱がない脱磁機とすることができる。
請求項1に係る発明によれば、脱磁対象物がテーブル表面を移動するように構成されているため、脱磁対象物の視認性に優れ、脱磁対象物の取扱いが簡便である脱磁機とすることができる。
請求項1に係る発明によれば、永久磁石列を構成する個々の永久磁石の厚みが違うため、一目で永久磁石の磁力の違いが分かり、磁力の大きい順に永久磁石を配列する際に順序を間違えることを防止することができる。
請求項1に係る発明によれば、永久磁石列が、脱磁対象物の移動方向の上流側から下流側に向かうに従い、前記複数の永久磁石の前記列方向の厚みが減少するように構成されているため、永久磁石と脱磁対象物との離間距離を必要としないので、脱磁機の小型化を達成することができる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、永久磁石列の隣接する永久磁石間の距離が、脱磁対象物の長手方向又は幅方向の長さよりも大きいことにより、脱磁対象物が隣接する永久磁石間に存在する時、脱磁対象物に作用する磁力線は主にその隣接する2つの永久磁石からの磁力線のみとすることができる。この隣接する永久磁石は対面が同極になるように配設されていることより、脱磁対象物に作用する磁力線は同極となるので、脱磁対象物が隣接する2つの永久磁石間にある場合は、脱磁対象物は作用する磁力線の反対の極となる。脱磁対象物が列方向に移動することにより、脱磁対象物の極性は交互に一つの極性に変わり、これにより脱磁性能を高めることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、脱磁対象物の移動方向の上流側に、脱磁対象物の磁化方向を一定方向に整列させるためのヨークを備えることにより、脱磁対象物が着磁された時の磁化方向のばらつきを一定方向に整列させることができ、これにより脱磁むらを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の脱磁機の正面断面図である。
【図2】本発明のガイドを備える脱磁機の平面図である。
【図3】本発明のヨークを備える脱磁機の移動上流側の拡大斜視図である。
【図4】実施例1のテーブル表面上20mmの磁束密度分布を表すグラフである。
【図5】比較例2のテーブル表面上20mmの磁束密度分布を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の脱磁機について図を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本発明の脱磁機の正面断面図である。
本発明の脱磁機(10)は、高さが等しい複数の直方体形状の永久磁石(1)を対面が同極になるように列状に配設してなる永久磁石列(2)と、裏面側に永久磁石列(2)が配置され、表面側を脱磁対象物(D)が永久磁石列(2)の列方向に移動するためのテーブル(3)と、を備えている。
本発明において用いられる永久磁石(1)としては、特に限定されるものではないが、フェライト磁石及び、ネオジム磁石等の希土類磁石等が挙げられる。
脱磁対象物(D)は、テーブル(3)表面側を図1に示す矢印方向に移動することにより、脱磁される。
以下本明細書において、「列方向」とは、複数の永久磁石(1)が並んでいる方向即ち図1の左右方向、「幅方向」とは、図1における紙面手前方向又は奥行方向を表す。
【0019】
図1に示すように、永久磁石(1)は対面が同極になるように、即ちN極同士又はS極同士が対向するように列状に配設されている。これにより、図1の矢印方向に向かうに従いテーブル(3)表面の磁力線の向きは交互に変化することとなる。
永久磁石列(2)は、脱磁対象物(D)の移動方向の上流側から下流側(図1の矢印方向)に向かうに従い、複数の永久磁石(1)の列方向の厚み(T)が減少するように構成されている。即ち、T1>T2>T3>T4となる。これにより、図1の矢印方向に向かうに従い永久磁石(1)の磁力は弱くなり、テーブル(3)表面の磁束密度は減少することとなる。
これら構成により、テーブル(3)表面に減衰型交番磁界が形成される。
これにより、脱磁対象物(D)が列方向に移動するに従い、脱磁対象物(D)に作用する磁力線の向きは交互に変化し、かつ脱磁対象物(D)に作用する磁力線の強さが減少することにより、脱磁対象物(D)内部の残留磁力が減少する。
【0020】
複数の永久磁石(1)は、直方体形状であり高さ(T5)が等しいものを用いる。これにより、テーブル(3)を容易に水平面とすることができ、脱磁対象物(D)を滑らかに且つ一定速度で移動させることができ、各場所の速度の違いによる脱磁性能の悪影響を防止することができる。
【0021】
永久磁石列(2)の隣接する永久磁石(1)間の距離(S)は、脱磁対象物(D)の長手方向の長さ(T6)又は幅方向の長さ(図示せず)よりも大きいことが望ましく、脱磁対象物(D)の長手方向の長さ(T6)よりも大きいことがさらに望ましい。
この理由は、隣接する永久磁石(1)間の距離(S)が脱磁対象物(D)の長手方向の長さ(T6)又は幅方向の長さよりも大きい場合、脱磁対象物(D)の全体を隣接する永久磁石(1)間に存在させることができ、このとき脱磁対象物(D)に作用する磁力線は主にその隣接する2つの永久磁石からの磁力線のみとなり、この隣接する永久磁石(1)は対面が同極になるように配設されているため、脱磁対象物(D)に作用する磁力線は同極となる。例えば、対面の極性がN極である永久磁石(1)間に脱磁対象物(D)が存在する場合、脱磁対象物(D)はS極となり、次いで対面の極性がS極である永久磁石(1)間に脱磁対象物(D)が移動すると、脱磁対象物(D)はN極となる。これを繰り返すことで、脱磁対象物(D)の極性を交互に一つの極性に変えることができ、これにより脱磁性能を高めることができるからである。
永久磁石列(2)の隣接する永久磁石(1)間の距離(S)が、脱磁対象物(D)の長手方向の長さ(T6)よりも大きいことがさらに望ましい理由は、脱磁対象物(D)の移動時の姿勢を問わず、脱磁対象物(D)の全体を隣接する永久磁石(1)間に存在させることができるからである。
【0022】
図2は、本発明のガイドを備える脱磁機の平面図である。
脱磁機(10)は、テーブル(3)の表面に脱磁対象物(D)の移動方向に延びるガイド(4)を備えることができる。ガイド(4)の幅方向中央部には凹部(41)が設けられており、凹部(41)は底面(42)を備えている。凹部(41)の幅方向の寸法は、脱磁対象物(D)の寸法に応じて決定することができる。
脱磁対象物(D)を凹部(41)の底面(42)に沿わせて列方向に移動させることにより、脱磁対象物(D)を一定の姿勢で移動させることができる。これにより、脱磁対象物(D)に作用する減衰磁界が一定となり、安定した脱磁能力を達成することができる。
ガイド(4)の形状は、脱磁対象物(D)を一定の姿勢で移動させることができるものであれば、上記の形状でなくてもよく、適宜決定することができる。
【0023】
本発明の脱磁機(10)において、図1のように、脱磁対象物(D)をテーブル(3)表面に当接させながら移動させることができる。また、脱磁対象物(D)は、テーブル(3)表面から一定間隔を維持しながら移動させることもできる。
【0024】
図3は、本発明のヨークを備える脱磁機の移動上流側の拡大斜視図である。
本発明の脱磁機(10)は、脱磁対象物(D)の移動における上流側の移動開始地点のテーブル(3)上に、脱磁対象物(D)の磁化方向を一定方向に整列させるための、トンネル部(51)を有するヨーク(5)を備えることができる。
脱磁対象物(D)は夫々、着磁された時の磁化方向は様々である。そのため減衰型交番磁界に脱磁対象物を晒して脱磁しようとしても、その磁化方向の違いにより残留磁力にばらつきが出る虞がある。
しかし、移動前に脱磁対象物(D)をこのトンネル部(51)内に通すことにより、脱磁対象物(D)の磁化方向を一定方向に整列させることができ、これにより、脱磁対象物夫々による残留磁力のばらつきを抑えることができる。
【0025】
テーブル(3)は単に平板のみの構造とし、手動で脱磁対象物を移動させてもよい。
テーブル(3)は表面にコンベアを備える構造とし、コンベア上に脱磁対象物を載せてコンベアを動かすことにより脱磁対象物を移動させるようにすることもできる。
【0026】
脱磁対象物としては特に限定されるものではなく、鋼管、棒鋼、鋼板等の鋼材や、バネ、ねじ等の機械部品等を脱磁対象物とすることができる。
【実施例】
【0027】
以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明の脱磁機は、これらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
13個の幅及び高さが等しい角型異方性フェライト磁石(W100×H20、東京フェライト社製)を対面が同極になるように列状に配設し、永久磁石列を形成した。磁石の列方向の厚みは列方向順に20、18、16、14、12、10、8、7、6、5、4、3、2mmとした。隣接する永久磁石間の距離は20mmとし、その空間には非磁性のスペーサ(W100×D20×H20、材質:ジュラコン)を入れた。
テーブル(W100×D500、t=1、材質:ステンレス)の裏面にこの永久磁石列を配置し、テーブル型脱磁機を形成した。
【0029】
実施例2
隣接する永久磁石間の距離が25mmであること以外は、実施例1と同じとした。
【0030】
実施例3
上流側に図3に示す形状のヨーク(W70×D20×H50、トンネル部:W30×D20×H30、材質:S45C材)を設けたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0031】
実施例4
脱磁対象物が一定の姿勢で移動できるようにテーブル表面側に図2に示すようなガイドを設けたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0032】
比較例1
12個の筒型異方性フェライト磁石(Φ60×t8mm、穴径Φ32mm、東京フェライト社製)を対面が同極になるように列状に配設し、永久磁石列を形成した。磁石の列方向の厚みは列方向順に小さくなるように12〜1まで各1mm違いとした。隣接する永久磁石間の距離は20mmとし、その空間には非磁性のスペーサ(Φ60×t20mm、穴径Φ32mm、材質:ジュラコン)を入れて筒型脱磁機を形成した。
【0033】
比較例2
13個の幅及び高さが等しい角型異方性フェライト磁石(W100×H20、東京フェライト社製)を対面が同極になるように列状に配設し、永久磁石列を形成した。磁石の列方向の厚みはすべて6mmとした。隣接する永久磁石間の距離は20mmとし、その空間には非磁性のスペーサ(W100×D20×H20、材質:ジュラコン)を入れた。
この永久磁石列上にテーブル(W100×D500、t=1、材質:ステンレス)を配置し、テーブル型脱磁機を形成した。
【0034】
試験例1
まず、実施例1及び比較例2のテーブル表面上20mmの磁束密度分布を測定した。次いで、実施例1〜4と比較例1及び2の脱磁機を用いて、脱磁機のテーブル上で、列方向(実施例においては磁石の厚みが大きい側から小さい側)へ、脱磁対象物を20(mm/s)の速さで移動させた。
脱磁対象物は、M8六角ボルト(M8×22、材質:SC)、M6六角ボルト(M6×22、材質:SC)、及びバネ(Φ22×50、材質:バネ材(リン青銅))とした。実施例1,2及び比較例2においては、六角ボルト及びバネは紙製の箱に15個入れた状態でテーブル上を移動させ、実施例3,4及び比較例1においては、六角ボルト及びバネを一つずつテーブル上を移動させた。
移動が完了した脱磁対象物の各部に、ガウスメーターを近づけて残留磁気の値を測定した。値はピーク値を採用した。
【0035】
試験結果
実施例1のテーブル表面上20mmの磁束密度分布の測定結果を図4に、実施例1〜4の脱磁対象物の残留磁気の試験結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
比較例2のテーブル表面上20mmの磁束密度分布の測定結果を図5に、比較例1及び2の脱磁対象物の残留磁気の試験結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
図4及び図5から、実施例1のテーブル表面上20mmの磁束密度のピークは列方向に向かうに従い小さくなっており、一方、比較例2のテーブル表面上20mmの磁束密度のピークはほぼ一定であることがわかる。
【0040】
表1及び表2の結果から、実施例1のテーブル型の脱磁機は、比較例1の筒型脱磁機よりも脱磁後の残留磁気の平均値及び最大値ともに小さいことがわかる。例えば、バネにおいては、平均値は実施例1が6(G)であるのに対し、比較例1は10(G)であり、実施例1の方がかなり小さい。このことから実施例1のテーブル型の脱磁機は、比較例1の筒型脱磁機よりも、脱磁性能を高めることができることがわかる。
【0041】
実施例1の脱磁機は、比較例2の脱磁機よりも脱磁後の残留磁気の平均値及び最大値ともに小さいことがわかる。例えば、バネにおいては、平均値は実施例1が6(G)であるのに対し、比較例2は30(G)であり、実施例1の方がかなり小さい。このことから、永久磁石列が脱磁対象物の移動方向の上流側から下流側に向かうに従い複数の永久磁石の列方向の厚みが減少するように構成することにより、脱磁性能を高めることができることがわかる。
【0042】
実施例2の脱磁機は、実施例1の脱磁機よりも、六角ボルトにおいては脱磁後の残留磁気の最大値が、バネにおいては脱磁後の残留磁気の平均値及び最大値ともに小さいことがわかる。このことから、永久磁石列の隣接する永久磁石間の距離を脱磁対象物の長手方向又は幅方向の長さよりも大きくすることにより、脱磁性能を高め、残留磁気のばらつきを抑えることができることがわかる。
【0043】
実施例3の脱磁機は、実施例1の脱磁機よりも脱磁後の残留磁気の最大値が小さいことがわかる。バネにおいて、最大値は実施例1が12(G)であるのに対し、実施例3は6(G)であって、実施例3の最大値の方が小さい。このことから、脱磁対象物の移動方向の上流側に脱磁対象物の磁化方向を一定方向に整列するためのヨークを備えることにより、脱磁対象物が着磁された時の磁化方向のばらつきを一定方向に整列することができ、これにより残留磁気のばらつきを抑えることができることがわかる。また、平均値も実施例3の方が小さく、脱磁性能も高める効果があることがわかる。
【0044】
実施例4の脱磁機は、実施例1の脱磁機よりも残留磁気の平均値及び最大値ともに小さいことがわかる。このことから、脱磁対象物が一定の姿勢で移動できるようにテーブル表面側にガイドを備えることにより、脱磁性能を高め、残留脱磁のばらつきを抑える効果があることがわかる。
【0045】
以上の結果から、本発明の脱磁機により、残留磁気のばらつきを抑え、かつ高い脱磁性能を達成することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、鋼材や機械製品などの脱磁に好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0047】
1 永久磁石
2 永久磁石列
3 テーブル
4 ガイド
5 ヨーク
10 脱磁機
41 凹部
42 底部
51 トンネル部
D 脱磁対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さが等しい複数の直方体形状の永久磁石を、対面が同極になるように列状に配設してなる永久磁石列と、
裏面側に前記永久磁石列が配置され、表面側を脱磁対象物が前記永久磁石列の列方向に移動するテーブルと、を備え、
前記永久磁石列は、脱磁対象物の移動方向の上流側から下流側に向かうに従い、前記複数の永久磁石の前記列方向の厚みが減少するように構成されていることを特徴とする脱磁機。
【請求項2】
前記永久磁石列の隣接する永久磁石間の距離が、脱磁対象物の長手方向又は幅方向の長さよりも大きいことを特徴とする請求項1記載の脱磁機。
【請求項3】
前記上流側に、脱磁対象物の磁化方向を一定方向に整列させるためのヨークを備えることを特徴とする請求項1又は2記載の脱磁機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−89734(P2013−89734A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228281(P2011−228281)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000140591)株式会社下西製作所 (21)