説明

汚染土壌における硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素のリサイクルシステム

【課題】低コストで、且つ、メンテナンスも容易な硝酸性窒素のリサイクルシステムを提供する。
【解決手段】(亜)硝酸性窒素が(亜)硝酸イオンとして地下水に含まれた汚染土壌の前記地下水流域に複数本埋設され、前記地下水が浸透して前記(亜)硝酸イオンが移動可能な透水壁を有する電解液槽と、この電解液槽それぞれに陽極と陰極を交互に浸漬した電極と、この電極に直流電流を通電して前記汚染土壌に電場を形成すると共に、前記(亜)硝酸イオンが前記陽極に引き寄せ可能な電圧を印加する直流電源と、前記陽極を浸漬した電解液槽の電解液が所定の(亜)硝酸イオン濃度となったとき当該電解液を回収すると同時に、回収分だけ新たに電解液を補充する電解液の循環装置と、この循環装置により回収された前記所定(亜)硝酸イオン濃度の電解液を肥料として利用可能とする施肥装置とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、肥料成分としては有用であるが、地下水に硝酸イオンまたは/および亜硝酸イオンとして溶け込むことにより周辺土壌を汚染する硝酸性窒素または亜硝酸性窒素を前記周辺土壌から回収することで汚染の拡大を防止すると共に、これを再度、肥料として利用することで廃棄物の発生を防止するリサイクルシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
硝酸性窒素や亜硝酸性窒素は、農業分野では肥料成分として有用であり、特に茶(茶之木)の生育には必要不可欠な物質とされる一方、過剰施肥等により高濃度の状態で地下水に溶け込んで周辺土壌を汚染することが知られており、深刻な環境問題ともなっている。
【0003】
従来、(1)従属栄養脱窒法、(2)独立栄養脱窒法、(3)イオン交換法、(4)逆浸透法、(5)電気透析法など脱窒技術が存在した。これら脱窒技術を簡単に説明すると、(1)は有機物を電子供与体として脱窒菌により硝酸性窒素を還元除去する方法、(2)は硫黄を電子供与体として硫黄酸化細菌により硝酸性窒素を還元除去する方法、(3)は陰イオン交換樹脂によって硝酸性窒素を吸着する方法、(4)は逆浸透膜によって硝酸イオンを濃縮する方法、(5)は電気透析膜によって硝酸イオンを濃縮する方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、硝酸性窒素等による土壌の汚染要因は、上述した過剰施肥だけでなく、家畜排泄物や生活排水等の流出もあり、上記の従来技術は、このように面的な拡がりのある汚染に対して実用化の目途が立たず、且つ、多量の廃棄物が発生すると同時に、これを処理する必要があって、実効性に乏しい。特に、(1)の場合、処理効率は水温に依存し、冬期は加温を必要とする他、残存有機物の処理をも必要とし、(2)の場合、温度問題は(1)と同様である上、硫酸が生成され、(3)の場合、再生に多量のNaClを必要とする上、高濃度の廃液を処理する必要が生じ、(4)・(5)の場合、他の塩類も同時に除去される上、高濃度の廃液を処理する必要が生ずるなどの個別的課題がある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、低コストで汚染土壌の拡大を防止し、廃棄物の発生もない(亜)硝酸性窒素のリサイクルシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために本発明では、(亜)硝酸性窒素が(亜)硝酸イオンとして地下水に含まれた汚染土壌の前記地下水流域に複数本埋設され、前記地下水が浸透して前記(亜)硝酸イオンが移動可能な透水壁を有する電解液槽と、この電解液槽それぞれに陽極と陰極を交互に浸漬した電極と、この電極に直流電流を通電して前記汚染土壌に電場を形成すると共に、前記(亜)硝酸イオンが前記陽極に引き寄せ可能な電圧を印加する直流電源と、前記陽極を浸漬した電解液槽の電解液が所定の(亜)硝酸イオン濃度となったとき当該電解液を回収すると共に、回収分だけ新たに電解液を補充する電解液の循環装置と、この循環装置により回収された前記所定(亜)硝酸イオン濃度の電解液を肥料として利用可能とする施肥装置とから汚染土壌における(亜)硝酸性窒素のリサイクルシステムを構成するという手段を用いた。
【0007】
本発明は、上述手段からなるが、処理工程で見ると、地下水の浄化工程と、(亜)硝酸性窒素を(亜)硝酸イオンとして回収する工程と、回収した(亜)硝酸性窒素を施肥処理する工程とからなる。前記浄化工程は、汚染土壌の電場形成により当該土壌をイオン移動場とすると共に地下水を電気浸透し、さらにイオン電位勾配によって地下水から(亜)硝酸イオンを陽極へ引き寄せて汚染土壌を浄化するものである。このとき本発明は地下水の流域に設けられるから、これよりも下流に汚染が拡大することを食い止めることができる。また、(亜)硝酸性窒素の回収工程は、例えば陽極側の電解液の硝酸イオン濃度を監視し、当該濃度が実際に予め定めた値となったとき、あるいは運転開始から一定期間が過ぎれば電解液ごと回収するものである。なお、電解液の回収は一回だけでもよいが、循環装置に回収分の電解液を補充する機能を持たせることで、繰り返し汚染土壌を浄化することができる。さらに、施肥工程は、回収した(亜)硝酸イオンを含む電解液を肥料として処理するもので、当該電解液をそのまま農場に散布する他、当該電解液から(亜)硝酸性窒素を抽出した上で農場に散布する手段が該当する。
【0008】
なお、本願において「硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素」は「(亜)硝酸性窒素」と表記することがあり、少なくとも「亜硝酸性窒素」と「硝酸性窒素」の何れか一方を示すために用い、また、「硝酸イオンまたは/および亜硝酸イオン」は「(亜)硝酸イオン」と表記することがあり、少なくとも「亜硝酸イオン」と「硝酸イオン」の何れか一方を示すために用いるものとする。
【0009】
本発明によれば、上述のように汚染土壌に電場が形成され、これが電気フェンスを構成して(亜)硝酸イオンの下流側への流出を食い止めるものであるが(バリア効果)、電解液槽を地下水の流れ方向に対して垂直方向に複数本埋設することで、当該バリア効果が高まる。
【0010】
また、電解液槽の埋設に際しては、その埋設周囲をベントナイトまたはその混合土で覆うことが好ましい。即ち、電解液槽の周囲にベントナイトやその混同土による難透水性坑壁を形成することで、電解液槽に土壌などの異物が浸入することを阻止しつつ、ベントナイトの吸水性および膨潤性によって電解液槽に対する地下水の透水量を適度に調整できるからである。さらに、電解液槽は、透水壁として漕壁に土砂などの粒状物が通過しない透水性スリットを多数周設してなる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、従来の技術のほとんが生物学的脱窒方法を用いているため、浄化効果が気候条件や地質条件に大きく左右され、且つ、廃棄物が発生するのに対して、本発明は、電解液槽と共に汚染土壌に埋設した電極に所定の直流電圧を印加することで、汚染土壌に電場による電気フェンスを構築し、当該電気フェンスによって(亜)硝酸イオンを陽極に引き寄せて(亜)硝酸性窒素による土壌汚染の拡大を食い止めるものであるから、特殊な薬剤を用いず設備でき、しかも、(亜)硝酸イオンを陽極側電解液と共に回収して、これを肥料として再度利用するものであるから、廃棄物が一切発生しないというように、従来技術では全く得られない効果を奏するものである。また、本発明の浄化効果に唯一影響を及ぼすと考えられる地下水の流速に関しても、当該流速に応じて電極の間隔や電圧を適正に設定することで、地下水に含まれるほぼ全ての(亜)硝酸イオンを回収することができる。さらに、システムの設備投資に関しても、何ら特別な装置は要らず低コストであり、運転に必要な消費電力も小さいため、運転維持費も抑制できる。特に、電源に太陽電池を使用すれば、さらに運転維持費を抑えることができる。これに加えて、メンテナンスも電源や電解液の循環装置のみで済むから、保守管理費も大幅に抑えられるなど、費用面でも有利である。
【0012】
要するに、本発明のシステムは、低コストで導入・運転でき、しかも、その効果は高く実効性に富み、且つ、別の汚染物質を廃棄物として排出しない環境負荷が極めて小さいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1・2は、本発明のシステム全体を示したものであり、茶畑等の農地や集落、牧場などを汚染源SPとして、過剰施肥や生活水の排出、また家畜排泄物の排出により、(亜)硝酸イオンを含んだ地下水が矢印の方向に流出した下流側の汚染土壌への適用例を示したものである。即ち、汚染源SPの下流に位置して、イオン浸透性の電解液槽1を陽極2と陰極3が交互となるように前記地下水の流れ方向に対して垂直方向に複数本埋設し、その電極にピット4に設けた電源(図示せず)から直流電流を通電することで、汚染土壌内に電場を構築し、これを仮想の電気フェンスFとして構築する。
【0014】
また、同図中、5は陽極側の電解液回収配管、6は陰極側の電解液回収配管、7は電解液の供給配管であり、陽極側電解液が所定の(亜)硝酸イオン濃度となったことを濃度測定あるいは運転時間によって判断し、前記ピット4内に設けたポンプ(図示せず)などにより電解液槽1から電解液を所定量回収すると共に、この回収した電解液を水処理するなどして電解液槽1に新たな電解液を補充するものである。なお、8はピット4と接続され、前記回収した電解液のうち、陽極側の電解液を蓄えるタンクである。タンク8に蓄えられた陽極側電解液は、(亜)硝酸性窒素を含む肥料として処理され、タンク8と接続された散布装置などの施肥装置9を介して、汚染源SPである農地や他の周辺農地に再度投入される。
【0015】
図3は、電解液槽1およびその設置構造の詳細を示したものであり、電解液槽1は同図に示すように、漕壁10に土砂などの粒状物が通過しない幅狭の透水性スリット11を多数周設した透水壁を有する円筒状槽本体12に陽極2または陰極3の電極を投入した上、その上口と底口をそれぞれキャップ13・14で閉栓した構造である。そして、この電解液槽1を上述した要領で汚染土壌に埋設する際、透水性スリット11の周設部分を完全に汚染土壌に埋設する一方、上口キャップ13を初期地盤レベルとしてスリット11よりも上層を埋め戻している。電解液の供給配管7は、上口キャップ13に接続されて地表配設され、当該供給配管7を通じて最上段のスリット11よりも上位置に液面がくるように、電解液槽1に電解液を充填する。一方、回収配管5または6は電解液の液面と最上段のスリット11との間に位置して漕壁10に接続され、上記埋め戻しによって地中配設している。
【0016】
このように、本実施形態では、電解液の回収配管5・6を地中に埋設配管したので、万一、配管5・6に亀裂や破損が生じるなどして、高濃度の(亜)硝酸イオンが含まれた電解液が漏洩した場合でも、地上に噴出せず土壌に浸透していき、これを上述した電気フェンスFによって再度回収することができるから、地上噴出による人的な直接の被害を回避することができる。この点、供給配管7によって送出される電解液は無害であるから、地表配管することができる。ただし、何れの配管も、地表または地中に配設することは任意である。
【0017】
さらに、この実施形態では、電解液槽1の埋設に際して、その埋設孔にベントナイトまたはベントナイト混合土により難透水性の坑壁15を形成し、当該難透水性坑壁15によって電解液槽1の埋設部分を覆っている。当該構成によれば、電解液槽1の埋設部分が粘土質の難透水性坑壁15で保護されるから、土砂などの異物が電解液槽1に浸入することを確実に防止できると共に、汚染土壌の地下水を難透水性坑壁15が吸水して膨潤し、適量の地下水を漕壁10の透水性スリット11を介して順次槽内に取り込むことができる。このとき、電解液槽1が陽極2を浸漬したものであれば、地下水に含まれる(亜)硝酸イオンはイオン電位勾配によって陽極2に引き寄せられる。
【0018】
図4は、本発明システムによる汚染土壌の浄化原理を概説したイメージ図であって、上述のように汚染土壌に埋設した電極2・3に直流電流を流すことによって、硝酸イオン(NO)は陽極2に移動する。このとき、汚染土壌に含まれる他の重金属類もそれぞれイオン電位勾配によって陽極2または陰極3に移動する。そして、陽極2に移動、濃縮された(亜)硝酸性窒素を陽極2側電解液槽1の電解液ごとを回収して、当該電解液から(亜)硝酸性窒素を分離除去するなどして汚染土壌を定期的に浄化し、且つ、前記分離除去された(亜)硝酸性窒素は農地等に散布すると同時に、分離除去後の電解液を再度電解液槽1に供給する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のシステム全体を示した設置レイアウト斜視図
【図2】同、平面図
【図3】同、電解液槽とその設置構造を示した詳細図
【図4】同、浄化原理を説明したイメージ図
【符号の説明】
【0020】
SP 汚染源
F 電気フェンス
1 電解液槽
2 陽極
3 陰極
4 ピット
5 陽極側電解液の回収配管
6 陰極側電解液の回収配管
7 電解液の供給配管
8 タンク
9 施肥装置
10 漕壁
11 透水性スリット
12 槽本体
13・14 キャップ
15 難透水性坑壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素が硝酸イオンまたは/および亜硝酸イオンとして地下水に含まれた汚染土壌の前記地下水流域に複数本埋設され、前記地下水が浸透して前記硝酸イオンまたは/および亜硝酸イオンが移動可能な透水壁を有する電解液槽と、この電解液槽それぞれに陽極と陰極を交互に浸漬した電極と、この電極に直流電流を通電して前記汚染土壌に電場を形成すると共に、前記硝酸イオンまたは/および亜硝酸イオンが前記陽極に引き寄せ可能な電圧を印加する直流電源と、前記陽極を浸漬した電解液槽の電解液を回収する電解液の循環装置と、この循環装置により回収された前記硝酸イオンまたは/および亜硝酸イオンの電解液を肥料として利用可能とする施肥装置とからなることを特徴とした汚染土壌における硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素のリサイクルシステム。
【請求項2】
陽極を浸漬した電解液槽の電解液は所定の硝酸イオンまたは/および亜硝酸イオン濃度となったとき回収する請求項1記載の汚染土壌における硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素のリサイクルシステム。
【請求項3】
循環装置は、回収分だけ新たに電解液を電解液槽に補充する請求項1または2記載の汚染土壌における硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素のリサイクルシステム。
【請求項4】
電解液槽を地下水の流れ方向に対して垂直方向に複数本埋設した請求項1、2または3記載の汚染土壌における硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素のリサイクルシステム。
【請求項5】
電解液槽の埋設周囲をベントナイトまたはその混合土で覆った請求項1から4のうち何れか一項記載の汚染土壌における硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素のリサイクルシステム。
【請求項6】
電解液槽は、透水壁として漕壁に土砂などの粒状物が通過しない透水性スリットを多数周設してなる請求項1から5のうち何れか一項記載の汚染土壌における硝酸性窒素または/および亜硝酸性窒素のリサイクルシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−125614(P2009−125614A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300122(P2007−300122)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000156204)株式会社淺沼組 (26)
【出願人】(591182433)富士海事工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】