説明

汚染土壌の処理方法

【課題】 化学物質により汚染された汚染土壌中の化学物質の性質に応じて適宜薬品を選択する必要がなく、化学物質の溶出を抑制しうる汚染土壌の処理方法を提供すると共に、汚泥焼却灰に更なる処理を施し、付加価値を付与することによって、汚泥焼却灰の更なる用途の拡大を図り、汚泥焼却灰の投棄処分量をさらに減少させることを課題とする。
【解決手段】 汚泥焼却灰と酸とを接触させて得られた処理物を、化学物質により汚染された土壌の周囲に配することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の処理方法に関し、特に、化学物質により汚染された土壌から化学物質が溶出するのを抑制しうる汚染土壌の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質(有害物質)を取り扱う工場等の跡地において行われる土壌の汚染状況調査により、化学物質による土壌汚染が明らかになる事例が増加している。また、産業廃棄物等の不法投棄による土壌汚染の事例も同様に増加している。化学物質によって汚染された土壌(汚染土壌)は、雨水や地下水との接触により、化学物質が溶出し、その汚染範囲が拡大することによって、広範囲の住民の健康被害を引き起こす原因となっている。このため、土壌汚染対策法により、土壌から溶出する化学物質の溶出量の基準値が定められ、規制が行われているとともに、汚染土壌に薬品を散布し、または混合することによって、化学物質の溶出を抑制する土壌の処理方法が試みられている(特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、下水道の普及による下水処理量の増加に伴い、発生する下水汚泥の量も増加している。この下水汚泥は、焼却又は溶融処理されることによって減量化(減容化)されるものの、焼却処理によって発生する汚泥焼却灰の量においては、近年、増加する傾向にある。この汚泥焼却灰の多くは最終処分場に投棄処分されるものであるが、大都市においては、その処分地に限界があり、また、新たに下水処埋を開始する中小都市においては、処分地の設置等に莫大な費用を要することが問題となっている。
【0004】
そのため、最終処分場へ投棄処分される汚泥焼却灰を減らすべく、汚泥焼却灰を再資源化する試みがなされている。具体的には、汚泥焼却灰を加圧成形した後、焼成してレンガにしたり、汚泥焼却灰を加圧造粒して人造骨材にしたり、汚泥焼却灰を溶融し得られたスラグを路盤材に利用したり、下水の汚泥焼却灰からリンを回収する(特許文献3参照)等の技術が提案されている。
【特許文献1】特開平10−57937号公報
【特許文献2】特開2005−131574号公報
【特許文献3】特開平9?77506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような汚染土壌の処理方法では、高価な薬品を用いる必要があり、また、用いる薬品に対応した化学物質にのみ効果を奏するものであるため、土壌の汚染状況(汚染土壌中の化学物質の性質)に応じて適宜薬品を選択して用いなければならない。
また、汚泥焼却灰の投棄処分量をさらに減少させるためにも、上記のような再資源化の方法のみならず、汚泥焼却灰に更なる処理を施し、付加価値を付与することによって、汚泥焼却灰の更なる用途の拡大を図ることが求められている。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、所定の処理を施した汚泥焼却灰を用いることによって、汚染土壌中の化学物質の性質を考慮することなく、化学物質の溶出を抑制しうる汚染土壌の処理方法を提供すると共に、汚泥焼却灰の新たな用途を見出すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した如き課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、汚泥焼却灰を酸によって処理した処理物を、化学物質により汚染された土壌の周囲に配することによって、土壌中の化学物質が溶出するのを抑制しうることを見出し、ここに発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明に係る汚染土壌の処理方法は、汚泥焼却灰と酸とを接触させて得られた処理物を、化学物質により汚染された土壌の周囲に配することを特徴とするものである。
【0009】
上記構成からなる汚染土壌の処理方法によれば、汚泥焼却灰と酸とを接触させることで、汚泥焼却灰中の酸可溶性成分が溶出し、汚泥焼却灰が多孔質化され、微細な細孔を有する処理物が形成される。該処理物を化学物質により汚染された土壌の周囲に配することによって、前記土壌が雨水等に接触した際、土壌から溶出する化学物質を前記細孔に吸着し、環境中への溶出を抑制することができる。これにより、汚泥焼却灰を汚染土壌の処理に利用することができ、再資源化を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、汚泥焼却灰を酸によって処理し、化学物質により汚染された土壌の周囲に配することで、土壌中の化学物質の性質を考慮することなく、土壌からの化学物質の溶出を抑制することができると共に、汚泥焼却灰の再資源化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態にかかる汚染土壌の処理方法は、汚泥焼却灰と酸とを接触させる酸処理工程を経て得られる処理物を用い、該処理物を化学物質により汚染された土壌(汚染土壌)の周囲に配することによって行われるものである。
【0013】
前記汚泥焼却灰としては、下水処理場で発生する汚泥を焼却したものの他に、し尿、家庭用雑排水、産業用排水等を処理することによって発生する汚泥を焼却したものを用いることができる。前記汚泥には、高分子凝集剤を含んだ汚泥や石灰系凝集剤を含んだ汚泥等を用いることができる。具体的には、近年、下水処理場等においては汚泥の発生量を減少させる目的から高分子凝集剤が多く使用されるため、高分子凝集剤を含む汚泥を焼却した汚泥焼却灰を用いることが好ましい。また、前記汚泥は、含水率が60〜90重量%程度になるまで脱水されたものを用いることが好ましい。
【0014】
また、前記汚泥焼却灰は、シリカ、燐酸カルシウム、アルミナ、酸化鉄等を含むものであってもよい。さらに前記汚泥焼却灰の形態は、特に限定されるものではなく、酸との接触による反応が効果的に行われるような形態であればよい。具体的には、汚泥を焼却したそのままの形態、または酸との接触を良好なものにするため、汚泥焼却灰を粉砕した形態であることが好ましい。また、ペレット状、板状、錠剤状等に形成されたものであってもよい。
【0015】
前記酸処理工程は、汚泥焼却灰と酸とを接触させ、汚泥焼却灰中の酸可溶性成分を溶解して除去し、汚泥焼却灰の多孔質化を行う工程である。これによって、汚泥焼却灰のBET比表面積を増加させることができる。具体的には、酸処理前の汚泥焼却灰のBET比表面積が5m2/g程度であるのに対し、酸処理後には6.5m2/g以上となるように処理することが好ましく、また、10〜70m2/gとなるように処理することがより好ましい。なお、BET比表面積は、N2ガス吸着式BET測定装置「BELSORP−mini」(日本BEL株式会社製)を用いて測定することができる。
【0016】
前記汚泥焼却灰と接触させる酸は、酸性水溶液、酸性ガス又は酸性粉体等の形態で用いることができる。具体的には、汚泥焼却灰との接触が良好である酸性水溶液または酸性ガスを用いることが好ましい。
【0017】
前記酸性水溶液を用いた場合には、汚泥焼却灰に酸性水溶液を添加して混合し、浸漬することによって、汚泥焼却灰中の酸可溶性成分が溶出し、多孔質化した処理物を得ることができる。前記酸性水溶液の酸濃度としては、0.1〜10規定が好ましい。
また、前記酸性水溶液としては、特に限定されるものではないが、硫酸、塩酸、硝酸等を用いることができる。具体的には、塩酸水溶液を用いることが好ましく、市販の塩酸水溶液や金属精錬工業等から発生する廃塩酸の水溶液を用いることもできる。
【0018】
また、前記酸性水溶液は、汚泥焼却灰100重量部に対して、100%酸換算で0.5重量部以上添加されることが好ましく、また、4〜25重量部添加されることがより好ましい。添加時の酸性水溶液の温度は、反応を促進する面から10〜90℃程度であることが好ましい。
【0019】
また、前記酸として酸性ガスを用いた場合には、前記汚泥焼却灰と酸性ガスとを混合し、混練することによって、汚泥焼却灰に含まれる水分に酸性ガスが溶解し、汚泥焼却灰と酸との接触が良好なものとなり、多孔質化した処理物を効果的に得ることができる。
【0020】
前記酸性ガスとしては、特に限定されるものではないが、汚泥焼却灰に含まれる水分に溶解しやすい酸性ガスであればよい。具体的には、塩化水素、窒素酸化物または硫黄酸化物を含むガスや廃棄物処理工場等において発生する塩素系ガス等を用いることが好ましい。より好ましくは、水分に溶解しやすい塩化水素ガスを用いることがよい。前記塩化水素ガスは、塩化カリウム、塩化ナトリウムまたは塩化カルシウム等の塩素系化合物と硫酸または硫酸化合物とを混合し、加熱して発生させる等したものを用いることができる。
【0021】
また、前記酸性ガスは、汚泥焼却灰100重量部に対して、100%酸換算で1重量部以上添加されることが好ましく、また、4〜25重量部添加されることがより好ましい。これは、4.0重量部未満では、酸性ガスが汚泥焼却灰中の水分に十分に溶解しないためであり、一方、25重量部を超えると、乾燥後の処理物の表面が硬化し、多孔質化が阻害される場合があるためである。また添加時の温度は10〜90℃程度が反応を促進する面から好ましい。
【0022】
前記酸性ガスを用いることによって、酸処理工程後の処理物中に多量の水分を含むことがなく、後に行う乾燥処理等で多大なエネルギーと時間を要する必要をなくすことができる。
【0023】
なお、汚泥焼却灰と上記酸性水溶液及び酸性ガスとの接触時間は、特に限定されるものではなく、汚泥焼却灰の性状に応じて任意に設定することができる。具体的には、0.1時間〜10日とするのが好ましい。より好ましくは、0.1時間〜1日とするのがよい。また、接触時間を変化させることによって処理物の細孔径分布を変化させることができる。具体的には、接触時間を長くすることにより10nm以下、特に6nm以下の径の微細な細孔の容積を増加させることができる。微細な細孔の容積が増加することによって、化学物質を吸着する表面積が増加し、化学物質の吸着性能をより高めることができる。
【0024】
前記酸処理された汚泥焼却灰(処理物)は、前記酸処理工程後、中和処理工程において中和剤と接触させられることが好ましい。中和処理を行うことによって、処理物を乾燥し、貯蔵し、運搬する際の設備等に耐酸性対策を施す必要をなくすことができる。
【0025】
前記中和剤としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、消石灰、アンモニア、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とするライムストーン(石灰岩)、コーラルサンド等のアルカリ性の材料等を用いることができる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムを用いることが好ましい。前記中和剤の形態としては、アルカリ性水溶液、アルカリ性ガス又はアルカリ性粉体等の形態で用いることができる。また、中和剤の添加量は、添加後の処理物がpH5.5〜9.0となるように、pHを調節して添加することが好ましい。
【0026】
また、前記処理物は、乾燥処理工程において乾燥処理されることが好ましい。乾燥処理を行うことによって、細孔容積及び比表面積が増加し、化学物質の吸着性を向上させることができる。乾燥処理としては、特に限定されるものではないが、回転ドラム式乾燥機、パドル式乾燥機、流動層式乾燥機、気流乾燥機、遠心薄膜式乾燥機等を用いて行うことができる。また、下水処理場において行われる汚泥の乾燥処理によっても行うことができる。乾燥温度としては、特に制限されるものではないが、例えば90〜300℃において乾燥処理されることが好ましい。
【0027】
上記各工程によって汚泥焼却灰は、多孔質化され、微細な細孔容積が増大するため、良好なカチオン捕捉性及びアニオン捕捉性を有し、また、物理的な吸着性を有する処理物となり、土壌中から溶出する化学物質を吸着除去することができる。
【0028】
前記処理物が除去しえる化学物質としては、カチオン性物質、アニオン性物質、有機塩素化合物、栄養塩類、揮発性有機化合物(VOC)等の物質が挙げられる。具体的には、前記処理物は、カチオン性物質として、クロム、アルミニウム、カルシウム(石灰)、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属類や水素イオン、アンモニウムイオン等の陽イオン類に有効であり、また、アニオン性物質として、砒素、フッ素、ホウ素、セレン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、リン酸イオン等の陰イオン類にも有効である。特に鉛、フッ素、セレンに関して、顕著な吸着除去効果を有するものである。
【0029】
前記処理物によって処理される土壌としては、特に限定されるものではないが、上記の化学物質により汚染された土壌(汚染土壌)が挙げられる。特に、重金属等の有害物質を取り扱っていた工場の跡地や廃棄物処分場の跡地等の土壌に対して前記処理物を用いることは有効である。また、前記処理物によって処理された汚染土壌からの溶出液は、pHが中性付近に維持されるため、汚染土壌のpH雰囲気を考慮することなく様々な汚染土壌に用いることができる
【0030】
次に、前記汚染土壌の周囲に前記処理物を配する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、汚染土譲と前記処理物とを混合する方法や、汚染土壌の下に前記処理物を配する方法等を採用することができる。
具体的には、汚染土譲と前記処理物とを混合する方法としては、上記工場跡地等から掘り出した汚染土壌に前記処理物を添加し、混合することによって行なわれてもよい。この際、前記処理物は、汚染土壌中に均一に分散するように混合されることが好ましく、混合を行なう際には攪拌機等の設備を用いて行なうことが好ましい。この方法によれば、汚染土壌の全体に前記処理物が存在することとなるため、雨水等によって土壌中から溶出する化学物質を迅速に吸着除去することができる。また、前記処理物と混合された汚染土譲は、掘り出したもとの場所(前記跡地)へ埋め戻すことができるため、上記跡地での作業が可能であり、土壌処理プラント等での作業よりも作業時間とコストを削減することができる。
また、汚染土壌の下に処理物を配する方法としては、上記工場跡地等から汚染土壌の層を掘り出し、そこへ前記処理物を敷き詰めた後、掘り出した汚染土壌を埋め戻すことによって行なわれてもよい。この方法によれば、汚染土壌の下に処理物の層が形成されるため、雨水等によって土壌中から溶出する化学物質を前記処理物の層が吸着除去することができる。また、汚染土壌と処理物とを混合する必要がないため、作業時間とコストを削減することができる。
【0031】
なお、本発明に係わる汚染土壌の処理方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態では、酸処理工程後の工程として、中和処理工程と乾燥処理工程とが実施されるが、これに限定されるものではなく、前記処理物を汚染土壌の周囲に配した際に、化学物質の除去作用に影響が出ないのであれば、任意に他の処理工程を加えてもよい。例えば、酸処理工程後に処理物を粉砕する粉砕処理工程を加えてもよい。これにより、後の中和処理及び乾燥処理を迅速に行うことができ、また、処理物を汚染土壌中に均一に分散しやすくすることができる。また、前記酸処理工程後の各工程は、任意にその順番を変更して実施してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0034】
多孔質粉体(処理物)の調製
(汚泥焼却灰)
汚泥焼却灰として、高分子凝集材を添加後脱水した汚泥を流動床型焼却炉にて焼却した粉体を用いた。前記粉体としては、下記表1に示すそれぞれの組成を含み、BET比表面積5.5m2/gのものである。
【0035】
【表1】

【0036】
(酸処理)
前記粉体(汚泥焼却灰)50gを攪拌容器に入れ、これに1規定の塩酸水溶液を50ml添加し、練りさじで約1分間混練した後、20℃の恒温室に2時間、浸漬状態で静置して酸処理を行った。
(中和処理)
前記酸処理した粉体を含む浸漬物が、pH8.0〜8.5程度となるように、中和剤水酸化カルシウム(Ca(OH)2)粉末(特級試薬)を添加し、中和処理を行った。
(乾燥処理)
前記中和処理した汚泥焼却灰を含む浸漬物を110℃の乾燥機に入れて18時間保持し、乾燥させて多孔質粉体を得た。

カチオン性物質(鉛)の溶出試験
【0037】
1.模擬汚染土の調整
(1)砂質土(千葉県成田産)1kgに対して、鉛が2000mgとなるように硝酸鉛(キシダ化学製)を添加し、模擬汚染土1を作成した。
(2)測定対象の鉛は、土壌のpHによって溶出挙動が変化するため、アルカリ性の模擬汚染土2を作成し、試験を行った。具体的には、砂質土(千葉県成田産)1kgに対して、鉛が500mgとなるように硝酸鉛(キシダ化学製)を添加し、水酸化ナトリウム(メルク製)水溶液でアルカリ性に調整して模擬汚染土2を作成した。
【0038】
2.処理対象土、実施例及び比較例
(1)処理対象土 前記模擬汚染土1及び2のみを用いて試験を行った。
(2)実施例1 前記各模擬汚染土1及び2のそれぞれの100重量部に対し、前記多孔質粉体5重量部と水4重量部とを混合した混合物を前記模擬汚泥土1及び2中に均一に混合した後、20℃恒温室内にて7日間及び28日間密封養生後、4〜6日間風乾したものを用いて試験を行った。
(3)比較例1 上記多孔質粉体に換えて、酸化マグネシウム(キシダ化学製)を用い、また、水4重量部に換えて、水7.5重量部としたことを除き、他は実施例1と同様の条件で試験を行った。
(4)比較例2 上記多孔質粉体に換えて、ゼオライト(日東粉化工業製Z0#150)を用い、また、水4重量部に換えて、水5重量部としたことを除き、他は実施例1と同様の条件で試験を行った。
(5)比較例3 上記多孔質粉体に換えて、高炉セメントB種(住友大阪セメント製)を用い、また、水4重量部に換えて、水5重量部としたことを除き、他は実施例1と同様の条件で試験を行った。
【0039】
3.試験方法
環境庁告示46号に準じて溶出試験を実施し、グラファイトファーネス原子吸光法により溶出液中の鉛濃度の測定を行った。
【0040】
4.判定基準
処理対象土においては、土壌汚染対策法における溶出基準値0.01mg/L以下となる場合には「○」とし、基準値を超える場合には「×」と表記した。
また、実施例1及び比較例1〜3においては、20℃恒温室内室温の密封養生7日間及び28日間の両方において、土壌汚染対策法における溶出基準値0.01mg/L以下となる場合には「○」とし、どちらか一方が基準値を超える場合には「×」と表記した。
【0041】
5.試験結果
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
上記試験結果により、模擬汚染土1及び2において、多孔質粉体を混合した実施例1の試験結果は、処理対象土の試験結果よりも溶出液中の鉛濃度が著しく低い値を示し、また、土壌汚染対策法における溶出基準値よりも低い値を示している。従って、多孔質粉体を混合することによって、模擬汚染土からの鉛(カチオン性物質)の溶出を抑制することができると認められる。また、実施例1の試験結果は、比較例1〜3の試験結果と比較しても、溶出液中の鉛濃度は低い値を示しており、他の鉛の吸着性を有する薬品よりも鉛の溶出を抑制する効果は高いと認められる。
また、実施例1は、密封養生期間7日と28日の両方の試験結果において、土壌汚染対策法における溶出基準値よりも低い値を示しており、密封養生期間の影響を受けることなく鉛(カチオン性物質)の溶出を抑制することができると認められる。
また、実施例1の「溶出液pH」は、模擬汚染土1及び2の両方の模擬汚染土において、処理対象土や各比較例の「溶出液pH」よりも、中性付近の値を示しており、多孔質粉体を混合することによって、溶出液のpHを中性付近に調整することができると認められる。
アニオン性物質(フッ素)の溶出試験
【0044】
1.模擬汚染土3の調整
砂質土(千葉県成田産)1kgに対して、フッ素が150mgとなるようにフッ化ナトリウム(キシダ化学製)を添加し、模擬汚染土3を作成した。
【0045】
2.処理対象土、実施例及び比較例
(1)処理対象土 前記模擬汚染土3のみを用いて試験を行った。
(2)実施例2 前記模擬汚染土3の100重量部に対し、前記多孔質粉体5重量部と水4重量部とを混合した混合物を模擬汚泥土3中に均一に混合した後、20℃恒温室内にて7日間及び28日間密封養生後、4〜6日間風乾したものを用いて試験を行った。
(3)比較例5 上記多孔質粉体に換えて、酸化マグネシウム(キシダ化学製)を用い、また、水4重量部に換えて、水7.5重量部としたことを除き、他は実施例2と同様の条件で試験を行った。
(4)比較例6 上記多孔質粉体に換えて、リン酸カルシウム(キシダ化学製)を用い、また、水4重量部に換えて、水10重量部としたことを除き、他は実施例2と同様の条件で試験を行った。
【0046】
3.試験方法
環境庁告示46号に準じて溶出試験を実施し、連続流れ分析法により溶出液中のフッ素濃度の測定を行った。
【0047】
4.判定基準
処理対象土においては、土壌汚染対策法における溶出基準値0.8mg/L以下の場合を「○」とし、基準値を超える場合を「×」と表記した。
また、実施例2及び比較例5,6においては、密封養生7日及び28日の両方において、土壌汚染対策法における溶出基準値0.8mg/L以下の場合を「○」とし、どちらか一方が基準値を超える場合を「×」と表記した。
【0048】
5.試験結果
【表4】

【0049】
上記試験結果により、多孔質粉体を混合した実施例2の試験結果は、処理対象土の試験結果よりも溶出液中のフッ素濃度が著しく低い値を示し、また、密封養生期間7日と28日の両方の試験結果において、土壌汚染対策法における溶出基準値よりも低い値を示している。従って、多孔質粉体を混合することによって、模擬汚染土3からのフッ素(アニオン性物質)の溶出を抑制することができると認められる。
また、実施例2の試験結果は、比較例5の試験結果と比較すると、密封養生期間7日では、比較例5よりも溶出液中のフッ素濃度が高い値を示しているが、密封養生期間28日では、低い値を示している。従って、実施例2は、密封養生期間が長い程、比較例5よりもフッ素の溶出を抑制する効果が高くなると認められる。また、実施例2の試験結果は、比較例6の試験結果と比較すると、密封養生期間に関わらず、溶出液中のフッ素濃度が低い値を示しており、実施例2の方がフッ素(アニオン性物質)の溶出を抑制する効果が高いと認められる。
また、実施例2の「溶出液pH」は、処理対象土の「溶出液pH」と略同等(中性付近)の値を示しているのに対し、比較例5,6の「溶出液pH」は、処理対象土の「溶出液pH」よりも高い値を示しており、多孔質粉体を混合することによって、溶出液のpHを中性付近に保つことができると認められる。
【0050】
以上より、本発明に係る汚染土壌の処理方法によれば、汚泥焼却灰を酸によって処理することにより、汚泥焼却灰が多孔質化され、微細な細孔を有する処理物を得ることができる。また、前記処理物を化学物質により汚染された土壌の周囲に配することによって、雨水等との接触により溶出する化学物質(カチオン性物質やアニオン性物質等)を前記細孔中に吸着することができ、環境中へ化学物質が溶出するのを抑制することができる。これにより、汚染土壌中の化学物質の性質を考慮することなく、土壌処理を行うことができ、また、汚泥焼却灰を土壌処理に利用(再資源化)することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥焼却灰と酸とを接触させて得られた処理物を、化学物質により汚染された土壌の周囲に配することを特徴とする汚染土壌の処理方法。
【請求項2】
前記処理物のBET比表面積が、10〜70m2/gであることを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項3】
前記酸が硫酸、塩酸、硝酸のいずれかを含む酸性水溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項4】
前記処理物が、さらに中和処理されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項5】
前記処理物が、さらに乾燥処理されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項6】
前記処理物が、カチオン捕捉性及びアニオン捕捉性を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の汚染土壌の処理方法。
【請求項7】
前記土壌が、鉛、フッ素およびセレンのうち少なくとも一つを含むものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の汚染土壌の処理方法。

【公開番号】特開2009−233517(P2009−233517A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80306(P2008−80306)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】