説明

汚染土壌の浄化方法

【課題】金属鉄を用いた方法において、金属鉄の汚染物質分解の活性を維持しつつ、金属鉄より発生する水素量を抑制することが可能な汚染土壌の浄化方法を提供する。
【解決手段】少なくとも金属鉄を用いて汚染土壌を浄化するに際し、金属鉄と共に還元性物質を添加して、水素ガスの発生を抑制することを特徴とする汚染土壌の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染土壌の浄化方法に関し、とくに、有機塩素化合物等の化学物質に汚染された土壌、底質、汚泥、地下水等(以下、これらを総称して汚染土壌と言うこともある。)を、金属鉄を用いて浄化する処理方法において、水素ガスの発生量を抑制してより安全に浄化できるようにした、汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロエチレン(以下、TCEと略称することもある。)や、テトラクロロエチレン(以下、PCEと略称することもある。)などの有機塩素化合物は、脱脂などの洗浄剤として、各種工場、およびクリーニング店で広く使用されている。近年、発ガン性物質の疑いがあるこれらの有機塩素化合物による、地下水や土壌の汚染が大きな社会問題となってきている。
【0003】
これまで行われてきた浄化対策としては、主に封じ込め処理、汚染土壌の掘削・封じ込め処理、および揚水ばっ気、真空抽気と活性炭吸着などの組み合わせによるポンプアンドトリート法が挙げられる。近年では、特に有機塩素化合物で汚染された地下水、土壌に金属鉄を注入、接触させて還元処理をすることが検討され実用化され始めている(例えば、特許文献1)。
【0004】
汚染土壌に金属鉄を注入、接触させて汚染物質を還元処理する方法は、安全かつ安価な方法として注目されている。従来、ここで発生する水素ガスは少量とされており、問題視されていなかった。逆に、金属鉄より発生する水素の発生量を増大させようとする取り組みもなされている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−235577号公報
【特許文献2】特開2004−113976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らによるバイアル試験の結果、水分を含んだ土壌と鉄を接触させた時に発生する水素ガスは、想像以上に高濃度になる可能性が高く、実際の現場で安全上の注意が必要であることが明らかになった。
【0006】
このような金属鉄により発生する水素の発生を停止させるためには、一般的にはpH10.5以上にして、金属鉄表面に不動態膜を形成させればよい。しかしながら、このような方法で不動態膜を形成させると、金属鉄の汚染物質に対する分解活性もなくなる問題があった。
【0007】
そこで本発明の課題は、金属鉄を用いた汚染土壌の浄化方法において、金属鉄の汚染物質分解の活性を維持しつつ、金属鉄より発生する水素量を抑制することが可能な汚染土壌浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、金属鉄を用いた汚染土壌の浄化方法に関して、金属鉄の汚染物質分解の活性を維持しつつ、金属鉄より発生する水素量を抑制する浄化方法について鋭意検討を行ってきた。その結果、添加する金属鉄に還元性物質を共存させたところ、金属鉄より発生する水素ガス量を抑えつつ、汚染物質の分解活性を維持できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明に係る汚染土壌の浄化方法は、少なくとも金属鉄を用いて汚染土壌を浄化するに際し、金属鉄と共に還元性物質を添加して、水素ガスの発生を抑制することを特徴とする方法からなる。
【0010】
この汚染土壌の浄化方法においては、上記還元性物質は、アニオンの還元性イオンを放出するものからなることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る汚染土壌の浄化方法においては、上記還元性物質が、水に溶解したときにpH3.5〜10.5を呈するものからなることが好ましい。
【0012】
上記還元性物質としては、例えば、亜硫酸塩、チオ硫酸塩からなる群より選ばれた1種類以上の化合物を用いることができる。
【0013】
また、上記還元性物質の添加量としては、後述の実施例にも示すように、金属鉄の添加量の1/2800以上であればよい。
【0014】
また、金属鉄の汚染土壌に対する添加量は特に限定されないが、本発明は、金属鉄を汚染土壌に対して0.5重量%より多く添加する場合にとくに有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る汚染土壌の浄化方法によれば、金属鉄と共に還元性物質を添加、とくにアニオンの還元性イオンを放出する還元性物質を添加することにより、金属鉄の汚染物質分解活性を良好に維持しつつ、金属鉄より発生する水素量を大幅に抑制することができる。したがって、多量の水素の発生に伴う不都合の発生のおそれを解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに、詳細に説明する。
本発明に係る汚染土壌の浄化方法では、少なくとも金属鉄を用いて汚染土壌を浄化するに際し、金属鉄と共に還元性物質を添加して、水素ガスの発生を抑制するようにしている。本発明における、水素の発生及びその抑制効果のメカニズムは必ずしも明らかにはなっていないが、土壌水分中に含まれる、フミン酸等の酸による金属鉄の腐食に伴う水素発生を、還元性物質が何らかの形で防止することで、金属鉄の汚染物質分解の活性を維持しつつ、金属鉄より発生する水素量を抑制していると考えられる。
【0017】
添加する還元性物質の種類としては、還元性物質が水に溶けたときにpH3.5〜10.5、好ましくはpH6〜10.5となるものが望ましい。pHが10.5を越えると、水素ガスの発生は抑制されるものの、不動態膜が金属鉄表面に形成されるために汚染物質の分解活性が著しく減少する。pH3.5以下になると、還元性物質の添加により水素の発生はある程度抑制されるものの、低pHほど金属鉄からの水素発生が促進されるために、本発明の目的から好適とはいえない。
【0018】
また、還元性物質は水に溶解したときにアニオンの還元性イオンを放出する物質が望ましい。詳しいメカニズムは明らかになっていないが、Fe2+等の還元性カチオンを添加した系においては、水素発生はまったく抑制されなかったことが実験よりわかっている。
【0019】
さらに還元性物質の種類としては、土壌環境保護の観点から窒素、リンを含まないことが望ましい。しかし添加量を抑えて使用する場合はこの限りではない。このような還元性物質として具体的には、亜硫酸、チオ硫酸のナトリウム塩やカリウム塩が挙げられる。
【0020】
還元性物質の添加量としては、後述の実施例に示す如く、添加した金属鉄の物質量に対して1/2800という微量でも、汚染物質分解活性を維持しつつ水素発生抑制効果が現れ、添加量に比例して水素発生抑制効果も上昇する。従って、好適な添加量としては土壌に添加した金属鉄の物質量に対して1/2800以上の還元性物質を添加することが望ましい。さらに望ましくは、汚染土壌に添加した金属鉄の物質量に対して1/2800〜1/10の範囲で添加することが望ましい。金属鉄添加量の1/10以上の還元性物質を添加することは、コスト及び土壌環境上、望ましくない。
【0021】
汚染土壌と金属鉄を混合したときの水素発生量は、金属鉄の種類にもよるが、概ね金属鉄が土壌中に0.5重量%より多く存在すると顕著に水素発生量が増大するので、コスト及び安全性の観点から、本発明の適用は土壌への金属鉄添加量が0.5重量%より多いときに適用することが望ましい。ただし、水素に対する安全性をより高めたい場合はこの限りではない。
【0022】
本発明は、土壌、底質、汚泥、地下水に金属鉄を添加する処理法全てに適用できるが、特に有機塩素化合物等の化学物質に汚染された土壌を、金属鉄を用いて浄化する処理方法において好適に適用される。このときの還元性物質の添加方法としては、土壌中において金属鉄と還元性物質が共存する状態であれば特に限定はないが、例えば金属鉄と同時に粉体で被汚染媒体へ添加する方法、還元性物質を水溶液として添加する方法、イオン交換樹脂などに予め還元性物質を吸着させておき、この金属鉄とイオン交換樹脂を土壌に添加することで、徐々に土壌中に還元性イオンを供給する方法などを採ることができる。金属鉄及び還元性物質を添加する順序については特に限定はない。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示すが、下記実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
試験1(汚染土壌と鉄粉が存在したときの、汚染土壌から発生する水素発生量)
市販粘土と市販川砂で作成した模擬土壌に0.5, 1.0, 2.5, 5.0重量%(wt%) となるように鉄粉を混錬し、この土壌10gと純水10mLを60mLのバイアル瓶に入れ、アルミシールで密閉した。その後、所定の時間毎にバイアル瓶内のヘッドスペース中の気相部を、密閉状態を保ちながらシリンジで採取し、ガスクロマトグラフィー(TCD[Thermal Conductivity Detector]検出器)で水素発生量を測定した。なお、この試験は室温(20-25℃)で実施した。
【0024】
結果を図1に示す。鉄粉の添加によりバイアル瓶内の水素ガス濃度が、条件によっては空気中の爆発限界である4%以上に容易に達しうることがわかる。また、顕著に水素ガスの発生が認められるのは、鉄粉を土壌に対して0.5wt%より多く添加したときであることがわかる。
【0025】
試験2(各種還元性物質〔還元剤〕による、土壌と鉄粉が存在したときの汚染土壌から発生する水素発生抑制効果)
60mLのバイアル瓶に、市販粘土と市販川砂で作成した模擬土壌10 gに、水20mLと鉄粉1 gと、表1に示した物質を250mg 入れ、アルミシールで密閉した。その後、200h後にバイアル瓶内のヘッドスペース中の気相部を、密閉状態を保ちながらシリンジで採取し、ガスクロマトグラフィー(TCD[Thermal Conductivity Detector]検出器)で水素発生量を測定した。なお試験は、室温(20-25℃)で実施した。
【0026】
実施例1、2、比較例1、2の試験条件および200h後のバイアル瓶内水素ガス濃度の測定結果を表1に示す。実施例1、2と比較例2を比較することにより、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムを添加することにより、水素ガス発生が抑制できることがわかる。また、比較例1より、Fe2+のような還元性カチオンの場合は水素発生が抑制できないことがわかる。
【0027】
【表1】

【0028】
試験3(土壌と鉄粉が存在したときの土壌中の揮発性有機化合物(VOCs)除去能と水素発生抑制効果)
60mLのバイアル瓶に、帯水層土壌10g、鉄粉0.5g、純水20mLを加え、チオ硫酸ナトリウムを表2に示した濃度となるよう添加し、窒素パージをしてアルミシールで密閉した。このとき、チオ硫酸ナトリウムの代わりに、水酸化ナトリウムで初期pH11に調整した系も作成した。その後、所定の時間毎にバイアル瓶内のヘッドスペース中の気相部を、密閉状態を保ちながらシリンジで採取し、ガスクロマトグラフィーTCD検出器で水素発生量を、PID検出器(Photoionized Detecter: 光イオン検出器)を用いたスクロマトグラフィーでPCE濃度を測定した。なお試験は、30℃の恒温槽で実施した。
【0029】
実施例3〜5、比較例3、4における、土壌と鉄粉が存在したときの土壌中VOCs除去能と水素発生抑制効果の測定結果を表2に示す。実施例3〜5と比較例4を比較することにより、チオ硫酸ナトリウムを添加することで、水素の発生を抑制しつつPCEの分解が起きていることがわかる。また、比較例3より、pH11に設定すれば水素ガス発生は抑制されるものの、PCEの分解が阻害されていることがわかる。
【0030】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】試験1の結果を示すバイアル瓶内水素ガス濃度と時間との関係図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属鉄を用いて汚染土壌を浄化するに際し、金属鉄と共に還元性物質を添加して、水素ガスの発生を抑制することを特徴とする、汚染土壌の浄化方法。
【請求項2】
前記還元性物質が、アニオンの還元性イオンを放出するものからなる、請求項1に記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記還元性物質が、水に溶解したときにpH3.5〜10.5を呈するものからなる、請求項1または2に記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
前記還元性物質が、亜硫酸塩、チオ硫酸塩からなる群より選ばれた1種類以上の化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
前記還元性物質の添加量が、金属鉄の添加量の1/2800以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の汚染土壌の浄化方法。
【請求項6】
金属鉄を汚染土壌に対して0.5重量%より多く添加する、請求項1〜5のいずれかに記載の汚染土壌の浄化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−297247(P2006−297247A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120740(P2005−120740)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】